長期材齢コンクリートの調査研究 . 福井県庁舎本館 ) - 福井大学

2
6
9
福井大学
工学部研究報告
第2
8巻 第 2号
昭和田年 9月
長期材齢コンクリートの調査研究
(6 . 福 井 県 庁 舎 本 館 )
川上英男*
Investigation of 01d Building Concrete
( 6. Fukui Prefectural Office)
Hideo KAWAKA
M
.I
1 1
980)
(Received July 3,
An investigation was carried out on the 54 years old reinforced concrete bui1ding,Fukui Prefectura1 Office.
The main
resu1ts obtained are as fo11ows
1
) The depth of alkali-lost in structural concrete was found to
be 5.2 cm in the first f1oor,which is about the twice of the
estimated one from the everpresented formu1a.
In the second
and the third f1oor,the value showed 3.6 cm and 1.9 cm respec
“
tive1y.
The rust was observed on reinforcing stee1 surfaces
in the co1umns at a ha1f number of cases investigated.
2
) The mean va1ue of compressive strength of concrete cores was
240 kg/cm~ and the standard deviation was 54 kg/cm2
•
3
) The mixing rpoportion of cement,fine and coarse aggregate
was eva1uated as 1
1.82-2.07
2.88-5.02 in weight from the
resu1t of 7000C heating fol1owed by hydroch1oric acid treatment
of the concrete.
1 まえがき
福井域跡では現在福井県庁舎新館の建設工事が進められている O この敷地に建っていた庁舎旧館
の取壊わしに先立ち,福井県の依頼にもとづき庁舎の老朽度を調査したO
調査期間は昭和5
1年 1
1月 1日より昭和 5
2年 1月末までである O
調査対象建物はいずれも使用中であったので,調査は,建物の構造耐力に影響を及ばさないこと,
庁内執務に支障を及ばさないことの条件のもとで行なったものである O
*建設工学科
27
0
本 出 告 は そ の 調f
t結 果 の 要 約 で ある O
材令 5
4年 の 鉄 筋 コ ン ク リ ー ト 造 建 物 の 孟 桁 度 の 指 標 と し て コンクリ ー 卜の中性化傑さ , 鉄 筋 の 腐
食 程 度 を 調 奇 す る と 共 に , シ ュミ ッ トハ ンマ ー試 験 , 超 音 波 伝 播 速 度 測 定 及 び コ ア の 諸 式 験 に よっ
也出に遭
て,コンクリ ー トの品質 , 施 工 技 術 レ ベ ル の 実 態 を 明 ら か に し た O ま た こ の 建 物 は 戦 災 と j
っており , ひ び わ れ の 観 察 か ら 地 震 被 害 の 特 徴 を 見 出 す と 共 に , 火害 の 状 況 の 一 端 を も 示 す こ と が
で、きた O
2 建物概要
庁 舎 所 在 地 は 制 井 市 大 手 3 丁目 1
7
需 1号 (旧
o
¥0
20 0
_
C"
市 井 市 城 内 丸 の 内 )であ るO
r"
庁 舎 本 館 は 鉄 筋 コ ン ク リ ー 卜 造 3階 建 ,東 西
7
2m. 南 北 3
4m. 山 の 字 型 の 平 而 を 成 し て い る
(図 l参 照 )0 佐 築 面 積 は 16 1 0 m 2 • 延而積は
4660m 2 • 軒高は 1 9.6 mである O 基 礎 は 松 杭 打 ,
外 装はモルタル塗りである O 新築当時,屋根は
銅 板 葺 き ,床はリ ノ リ ウ ム , 腰 ・壁 ・天 井 は シ
ック イ 塗 り で あ った O 調 査 当 時 は 後 述 の よ う に
~fi
屋根は鉄板葺き ,廊下はとぎだし ,事務宰内は
縁甲板張りを主とする仕上となっていたO
以 下 , 説 明 の 都 合 上 ,本 館 を 主 棟 ,東 翼 , 西
翼 , 北翼 お よ び 使 所 棟 に 区 分 し て お く (図 1参
図 1. 配 置 図
照 )0
3 建物経歴
本館は大正 1
0
年1
0月 に 着 工 し ,大 正 1
2
年 4月 に 竣 工 し て い る O 設 計 者 と し て は 内 務 省 内 務 技 師 の
6万 1450U
l
lで
天 橋 賢 吉 , 桑 田 正 一 両 氏 の 名 が 記 録 さ れ て い る O 施 工 は 大 林 組 に よ り ,請 負 金 額 は 5
あ ったol
)
附和 2
0年 7月 1
9日 , ア メ リ カ 軍 に よ る
空 襲 で ,焼 夷 弾 に よ り ,東 巽 l階 を 除 き
3
全館火災に遭ったO 清水清七氏(昭和 1
年 -4
5年 , 県 庁 在 職 )i
談によれば主棟の
両 側 各 1ケ 所 ず つ 焼 夷 弾 の 中 央 殻 が 屋 根
と 3階 床 を 打 ち 抜 い て 2階 へ 落 ち ,火 災
のため床スラブ
F由ーの鉄筋が高出した部
分 も あ ったという
J
)
こ の 時 の 火 害 につ
い て は 本 調 貨 で 明 ら か に な った 点 は 後 述
する O 焼 失 し た 木 造 ト ラ ス は 間 も な く 加
け 替 え ら れた O も と 寄 棟 と な って い た 屋
写 真 1 福 井 県 庁 舎 本 館 南 面 (竣 工 当 時 )1
)
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冗均
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一
2
71
写真 3
写真 2 福 井 県 庁 舎 本 館
福井県庁舎知事室(竣工当時
)D
南 面 ( 竣 工 当 時 )。
根の形は切妻にかわり ,屋 根上 の塔は復旧されな いま
まとな ったO 屋 根 は 黒 鉄 板 平 葺 き で あ ったO 議 事 堂 も
0
0万 円余 ,
含め , 卜ラス,鉄板 ,板 戸 な ど 修 復 費 は 計 1
であ ったと D という
O
昭和 2
3年 6月 2
8日
福井地 震 で可成りの損傷をうけ
福井地 震 震 害 調 査 報 告
たo
l
)よ り,その被害の 主
なものを拾うと次のようである O
'
写真 4 福井県庁舎内務部長室 (竣工当時 )D
1) 各 階 廊 下 の 隅 角 部にある柱はその上部又 は 下 部
の鉄筋被覆コンクリ ー卜 が破壊し ,鉄筋が露 出した O 戦 災 時 の 火 害 を う け た コ ン ク リ ー 卜 が 曲 げ 圧
縮破壊したものである O
2)
主棟廊下の南 北 方 向 の 梁 は ハ ン チ 部 分 に お いて 破 壊 も し く は 亀裂を 生じた O
3) 東 ,西 階 段 室 の 桁 受 梁 2本 は 各 階 と も 被 害 を う け た O
4) 壁 体 は 南 北 方 向 に 所 々 亀 裂 が 入 ったO 亀裂は何れも明断による斜状のものである 0
5) 便 所 部 分 , 手 洗 部 分 と 本 館 と の 取 合 部 分 に 亀 裂 が 入 っ た O
昭和 2
3年 1
2月 ,補強工事とし て柱脚 の根巻 き , 基 礎 梁 の 新 設 が 行 なわれ る と共に廊下部梁下に鉄
))
0 階 段 は l階から 3階 ま で 崩 壊 し た の
筋コンクリ ー トア ーチが設置された (図 2及 び 写 真 7参照 4
で改め てっ くり 直 した O 南 側 と 西 側 の 外 壁 を 塗 り 替 え ,屋 根 は 瓦 棒葺に葺き 替えた O 翼 部 頂 部 の 飾
金 物 も こ の と き 改 め て っ く り直したものをつけ た O 2)
以 上 の よ う に 本 館 は 戦 火 と 地 震 に遭い ,相当の損傷をうけており ,原形修復も 完全にはな されな
いま
L 今日に
至っ ている O 火 害 程 度 の 調 査 記 録 も見当らない 。 叉 当時 ,震害 の 調 査 を 担 当 さ れ た 久
田 俊 彦 氏 ( 当 時 建 設 省 建 築 研 究 所 勤 務 ,現 在 鹿 島 建 設 在 職 )の 手 許 に も 先 記 の 「 福 井 地 震 震 害 調 査
報 告」以 外 の 資 料 は 保 存 さ れ て い な い と い う こ と で あ る O
4 建物の損傷
本 調 査 の 目 的 は 建物 の 老 朽度 を明らかにし,建物の安全性を判定す る資料を得ることに あるので ,
コンク リート及び鉄 筋の材質上の 実態把握が 主である O しかしながら損 傷 状況に つ い て 詳 細 な 調 査
2
7
2
をす
Lめてゆく過程で,建物の傾斜,不
同沈下など構造体の変形やひびわれなど ,
今までに報告されていない地震被害の特
徴や実状 ,そしてまた戦災による火害に
つい ても その一面を 明らかにす ることが
できた O
写真 5 本 館
南面(昭和 51
年 調査当時 )
写真 7 福井地震後に設けられた補強アーチ
写真 6 本 館 正 面 ( 昭 和 51
年調査当時 )
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図 2 本館 1階 平面図
1
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13 本館 2階平面[文│
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図4
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J
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J
K
本 館 3階平而図
1
0
4
.1 建 物 の 傾 斜
外壁面及び柱面の傾斜を下げ振りで測定したO
外 壁 で は l階 2
5ケ所. 3階 7ヶ所,内部柱面では l階 2
7ケ所. 2階 2
1ケ所. 3階 3
0ケ所の測定結
果を整理すると,本館の変形はおおよそ次のようである O
東翼部は西方に,西翼部は東方に傾斜しており,その度合はそれぞれ 7
/
1
0
0
0及 び 1
2
/
1
0
0
0 とみ
なし得る O 建物の高さ 16mに 対 し て 換 算 す る と 建 物 軒 部 は 地 表 部 に 対 し て 東 翼 部 で は 1
1
c
m
. 西翼部
0
c
m変位していることになる。
では 2
274
同様に西便所棟は東へ 1
8.5/1000.東便所棟は西へ 11
.7/1000 傾斜しており,高さ 14mに対して
6
c
mと 1
6
.
cmの移動を生じている O
換算すると軒は地表部に対して,それぞれ 2
これらに比べれば北翼と主棟の傾斜は徴小である O
これらの傾斜は地震時に生じたものと思われる O
4.2 建 物 の 不 同 沈 下
2階 廊 下 床 面 1
7ケ所の高低を測定したところによれば,建物全体としては主棟中央部が相対的に
沈みこんでいることが明らかとなうた O 主棟廊下中央を基準にとれば,床面は西に行く程高くなり
西端で 1
0
.
7c
m高く,西翼北端では約 1
2
c
m高い。一方中央より東に向かう程,床は高くなり廊下東部
では 5c
m高く,ここより北に向ってさらに高くなり,東翼北端では 6.8c
m高くなっている O
これらの不同沈下は地震時に一挙に生じたものか,長年月の間に徐々に進行したものかは,過去
の測定記録が無いので断定し難い o しかし,東翼と西翼の北側出入口の踏石の下端には 2.5c
mの間
隙が認められ,周囲の地韓沈下を示しているこ左,前述の地震被害状況及び至近距離にある市役所
周辺の地盤沈下の例などから判断して,これらの不同沈下は地震時に生じた公算が大きい。
4.3 損 傷 外 観
コンクリートのひびわれ,剥落など,肉眼及び双眼鏡で観察される損傷を図 5-12に示す O これ
らの損傷はその原因別に震害,火害及び老朽化によるものに整理することができる O
4.3.1 震害によるひびわれ
南北方向の壁面には構造体の勢断破壊を示す斜めひぴわれと曲げによるひぴわれが,ほぽ壁面全
, 9~ 1
2及 び 写 真 8
, 9参照 )0 これらの斜めひびわれは一定のパタ
面にわたうて認められる(図 7
ーンすなわち北上方より南下方に向かうひびわれであって,地震時に建物上部が南方へ引張られる
ような外力のもとで発生したものである O また窓脇上下端に見られる水平方向の曲げ応力性のひび
われも上述の外力の作用のもとで生ずるひびわれのパターンを示している(図 9-12参 照 )0 しか
もこれと反対方向のひびわれが極めて少ないという事実は地震時の破壊的なショックは一方向に卓
越し,とれらひびわれは一挙に生じたもの左推定される O このひびわれ特徴は既報めの福井市庁舎
の調査結果と一致しており,直下型と称される福井地震に対する建物の応答の特徴を示す一例とし
て注目すべき傾向と言えよう O
ひびわれの巾は 5mm程度に及ぶものも認められ,仕上げモルタルがはらみ出して剥落寸前の部分
も認められる O これらの損傷は次に述べる老朽化現象が加わって一層著るしくなったものである O
東西方向には上述のようなひびわれは見当らず,図 6に示すように建物北面では左右対称形のハ
の字形のひびわれが認められる O これは前述の建物の不同沈下が原因とみなされるものである O
4.3.2 老朽化によるひびわれ
建物南正面と西翼西面は地震後塗りかえられているので構造体の損傷はほとんど見られない。た
だ南正面西部の軒下水平方向のひびわれ. 3階窓上の微細なひびわれ及び中央出隅の一部の洗出し
仕上げの苧みだしなど軽微な損傷が局部的に見られるにすぎない。
その他の壁面では全面的に窓回りに縦方向のひびわれが窓に沿って生じているのが多数認められ
る(図 9-12参 照 )0 これは内部鉄筋が腐食して膨張し,周囲コンクリートを押し出したために生
じたもので,老朽化の典型的症状である O 一例を写真 1
0
,1
1に示すO
前述の地震時のひびわれ部も,その後'
r
百水と空気の侵入によって鉄筋の腐食が一層促進させられ
ひびわれ
a
A
一門川U
一
門U
・門けは
・門lu
・門
- 門川︺
u
一丙川ハ︺・門川U
一-門川︺・門川 U
門 け じ ・ 門 川U
Eパ開
mMhuH
﹂E
町田口口町
田口日日日日日
U
t門川
一
門
ハU
ロ
口
口
ロ
ロロ
ロ
ロ
仕上げの
微細ひびわれ
ひびわれ
個
ア
山
指肘
館
本
図
N4m
2
7
6
火害
ひびわれ
以I
7 本館東側
図8 本館西側
ひびわれ
ひびわれ
図9 本館北翼東面
2
7
7
ひぴわれ
図1
0 本館
北翼 西 面
写真 8 本 館 東 翼 東 面 の 勇
断ひびわれ
ハ便所棟への連絡﹀
ひびわれ
図1
1 本館
東翼西面
ハ便 所 棟 へ の 連 絡 )
図1
2 本館
西翼東面
ひびわれ
写 真 9 本 館 東翼 西 面 窓 脇
の曲げひびわれ
m
)
(上部ひびわれ巾 5m
2
7
8
たものである O
これと同種のひ び わ れ は 建 物
内部にも認められる O た と え ば
西 側 使 所 棟 の 柱 主筋 に 沿 う ひ び
ってみ る と主
わ れ が そ れ で ,日I
筋は著るしく錆びている O 内部
仕上が何回か施工されており ,
この種のひびわれもその都度上
塗 りによ って か く れ て し ま う の
で,庁舎内部にこの種のひびわ
れが外見上少なくとも ,実 際に
はひびわれが可成り多いものと
写真 1
0 本館北翼東面窓脇
推 定 さ れ るO これに つ い て は 後
写真 1
1 東翼便所棟の外部
の老朽ひびわれ
老 朽 ひびわれ
述のコンクリートの中性化の項
で詳述する O
4.
3.
3 火 害
東 翼 東 面 と 北 翼 の 窓 上 部 に は 不 規 則 な 無 数 の ひ び わ れ が 生 じ て お り ,火害 によ るものと 思 わ れ るO
老 朽 化 が こ れ に 加 わ って, ひびわれが拡大し ,窓 楯 が 剥 落 寸 前 の 状 態 に 至っ て い る 部 分 も 見 られ る
(図 7参 照 )0
主 棟中 央 部 2ケ所 ,
2 主練 3階総務部次長宅南側桁の火害
写真 1
隅角部コ ン
ク リー卜は剥落 ,鉄筋届出
東翼北部および西翼
北 部の 3階 天 井 裏 に
入って ,仕 上 げ の 施
されていない構造部
分を内側より調査し
たO 主 棟 総 務 部 次 長
室上部では火害のた
め梁下端の被りコン
クリートは剥落して ,
主 筋 ・肋筋が露出し
写真 1
3 東翼北部 3階天井裏の柱の火害
かぶりコンクリート剥落,主筋 ,
帯筋共露出
2にその例を
て い る 箇 所 が 随 所 に 見 ら れ ,甚 だ し い 場 合 は 露 出 鉄 筋 が 熱 の た め 巧 曲 し て い る ( 写 真 1
示す )0 また 柱隅角部の被リコンクリ ー 卜も剥落叉は 肌 離 れ して剥落寸前であり ,主 筋 が 露 出 し て
いる O 小 壁 も 下 端 コ ン ク リ ー ト が 焼 け 落 ち ,下 端 筋 は 長 さ 約 2m にわた って 垂 れ 下 が ってい るO こ
のような状況は東翼北部と西翼北部においてもほぼ同様である(写真 1
3参照 )0 柱 主 筋 3本 共 露 出
している部分も見られる O こ れ ら の 損 傷 は 鉄 筋 コ ン ク リ ー ト の 火 害 と し て は 著 る し い 方 に 属 し ,構
造部材にはかなりの耐力減少が想定される O
4.
3.
4 床スラプのひびわ れ
事 務 室 内は縁甲板張りとなってい るので損傷 調査は廊下部分だけである O
2
7
9
廊 下 床 上 面 の ひ び わ れ の ス ケ ッ チ を 図 2- 4に示す O ひ び わ れ は い ず れ も ス ラ ブ の 曲 げ 応 力 の 大
きい部分に生じている O こ れ ら が 単 に 仕 上 材 ( と ぎ だ し ) の 収 縮 に よ っ て 生 じ た も の か , 前 述 の 建
物 の 変 形 と 関 係 が あ る も の か は 明 ら か で な い o しかしながら空襲火災時にスラプ下端コンクリート
が剥落し鉄筋が露出した部分があったこと?地震後の補修工事にスラプコンクリート打設が一部含
ま れ て い る こ と ? お よ び 今 回 の 調 査 で 採 取 し た コ ア の 中 に 厚 さ 4cmといった異常に薄い部分があり,
下屈が黒コゲになっていることなどから床スラプの曲げ剛性が必ずしも充分でないことが推察され
るO こ の こ と か ら 歩 行 に と も な う ス ラ プ の 擦 み や 振 動 と い っ た 構 造 的 原 因 が ひ び わ れ 原 因 と な っ て
いる可能性が大きい。
5 コンクリートの材質及び鉄筋の腐食
コンクリートについては中性化深さ測定,シュミットハンマー試験,超音波伝播速度測定及び採
取 コ ア の 圧 縮 試 験 な ら び に 化 学 分 析 を 行 な う たO 鉄 筋 に つ い て は そ の 腐 朽 状 況 を 調 査 し た O
5.1
コンクリートの中性化深さ
コンクリートのアルカリ性が年月の経過と共に表面より徐々に失なわれてゆく現象を中性化と言
い,この中性化が鉄筋位置に及ぶと発錆の危険が生ずることになる。
中性化深さ (X cm)と経過年数 (
t
)との関係としては在来(1)式が示されている )
3
七二
7
.
2X2
・・・ー…………(1)
これによれば庁舎の経過年数 5
4年 に 対 し て 中 性 化 探 さ は 2
.
7cmとみこまれる O
中性化深さの測定は,コンクリートの一部に孔をあけ,フェノールフタレンのアルコール
1% 溶
液を散布し,表面から赤変部までの深さを測定するものである O
調査は構造耐力の減少を招かない部位で行ない,鉄筋探知機で鉄筋の位置を確かめ,所り時に鉄
筋の腐食状況も併せて観察したO
建物内部では廊下部分の柱と壁などに対し,
1階 1
3ケ所,
2階 1
5ケ所,
3階 1
2ケ所を調査した結
果によれば,シックイとモルタル仕上部を除きコンクリート躯体の中性化深さの範囲は
o-10cm以
上にわたっている O
中性化深さの平均値は 1階 5.2c
r
n, 2階 3.6c
,
血
3階 1.9c
mで、ある O た だ し こ れ ら の 平 均 値 算 定
に用いた値の中には,調査の範囲内にはアルカリ赤変反応が認められず,実際の中性化深さはさら
に大きいものも,そのまま耐り深さで表わしたものを含んでいるので,これらの中性化深さ平均は
確認した深さまでを示し,実際にはこれ以上ということになる O
(1)式の値に比べて 1階 で は 約 2倍
,
2階では1.3倍
,
3階では O
. 7倍である O
こ れ ら の 調 査 箇 所 の う ち 鉄 筋 に 鋪 が 生 じ て い る 場 合 が 約 5割に達した。
一方,これとは別途に l階 柱 1
6ケ所,
2階 1
1ケ所,
3階 4ケ所の柱に対して鉄筋探知器により,
柱 表 面 か ら 柱 主 筋 ま で の 距 離 を 判 定 し た と こ ろ , そ の 平 均 は 6.8-6.1c
mで、ある O 上 記 の 中 性 化 深
さ 測 定 結 果 の う ち , モ ル タ ル と シ ッ ク イ 仕 上 げ を 含 め た 値 が こ れ ら よ り 大 き い も の は 約 4割 を 占 め
るO
す な わ ち , 構 造 体 の 主 要 部 材 で あ る 柱 の 主 筋 の 4-5割 が す で に 発 錆 危 険 域 に あ る も の と 考 え ら
れる O
地震後に施工された補強アーチ部は材令 2
8
年 で , 中 性 化 深 さ は 1cm-6.6cmである O
2
1
:
!O
ス ラ ブ は ト ギ 出 し 仕 上 げ と な っ て い て , コ ン ク リ ー ト の 中 性 化 深 さ は Oであった O
建物外部の腰は洗出し仕上げであり,中性化はほとんど見られず,勿論躯体コンクリートも健全
である O 叉 外 部 モ ル タ ル 仕 上 げ の 部 分 は , 抜 き 取 っ た コ ア で 測 定 し た 中 性 化 深 さ は 2.5cm程度で、あ
り,内部の中性化深さより少ない。
事務室部分は通常廊下よりも炭酸ガス濃度が高く,中性化に対しては廊下部分よりも危険側とな
るものと考えられる O ま た 火 災 時 の 燃 焼 物 が 多 い こ と か ら 火 害 も 廊 下 よ り 著 る し か っ た も の と 推 定
される O し た が っ て 建 物 全 体 の 状 況 判 断 と し て は , 上 述 の 調 査 結 果 よ り も 危 険 側 を 想 定 す る 必 要 が
ある O
いずれにしてもコンクリートの中性化と鉄筋の発錆状況から判断すれば,本館の老朽化現象は,
その耐用限度に達したものと言えよう
O
5.2 超 音 波 伝 播 速 度 測 定
8部位と補強アーチ 3ケ所 1
4部 位 に 対 し , 仕 上 げ 材 を 前 り と り , 超 音 波 伝 播 速 度 を 測 定 し
柱 10本 1
たO
超音波伝播速度は柱では 4
.
0
3- 2
.
7
1k
m
f
町,平均値は 3
.
4
0k
m
/
s
e
c
. アーチ部分では 3
.
6
1- 2
.
2
5k
l
D/
s
e
c
.
平均値は 3
.
1
8k
l
D/
s
e
cで、ある O
こ の 値 が 大 き い 程 コ ン ク リ ー ト の 品 質 は 良 好 と 見 な さ れ て お り : 1k
l
DA
e
cが普通とされるな
l
D/
s
e
c以 上 で あ る が
値 は こ の 3k
平均
この値以下を示したのは柱では 4ケ所(約 2割 ) あ り , ア ー チ で
は 4ケ 所 ( 約 1/3 ) あ る 。 ま た ア ー チ 部 で は 充 て ん 不 良 の た め 測 定 不 能 の 部 位 が 2ケ所あり,こ
の種補修工事の施工が容易で、ないことを示している O
5.3
シュミットハンマー試験
2本 の 計 35部 位 に つ い て 仕 上 げ を 前 り と し , シ ュ ミ ッ ト ハ ン マ ー ( N 型 ) を 用 い て 反 発 係 数 を
柱1
測定した O
反発係数は,旧本体部では平均 3
8
.
1, 標 準 偏 差 4
.
3
5
, 補強アーチ部では平均 3
6
.
8
, 標準偏差4
.
9
0
である O ジ ャ ン カ 部 の た め 測 定 不 可 能 の 部 位 が そ れ ぞ れ 1ケ所づ、つあった O
反 発 係 数 ( R ) と コ ン ク リ ー ト の 圧 縮 強 度 ( F )との関係としては. (
2
)式が挙げられている
F ニ αR+s
3
……・…ぃ……… (
2
)
α
, s:常 数
2
F :k
g
!
cm
。はコンクリートの材令,乾湿などによって異なる数値となるが,
α はほぼ 1
3とされている O
こ
.
3
5に対応するコンクリート圧縮強度の標準偏差は, 57kg/cm2
れによれば上記旧本体部の標準偏差 4
となる O こ の 値 は 後 述 の コ ン ク リ ー ト コ ア 圧 縮 試 験 結 果 か ら 得 ら れ る 標 準 偏 差 54kg/cm2とほぼ一致
する O
すなわちコンクリート圧縮強度にみられる品質のノ Jラ ツ キ は , 現 在 普 通 程 度 の 施 工 に 見 ら れ る 標
準 偏 差 値 35kg/cm2よ り 可 成 り 大 き く , 当 時 の 施 工 技 術 レ ベ ル の 一 面 が 示 さ れ て い る O
なおコンクリートコアの圧縮強度試験結果にもとづいて •
F ニ 13R-255
5.4
(
2
)式を表わすと (
3
)式のようである O
………………… (
3
)
コンクリートコアの圧縮強度
壁1
6ヶ所と床 4ケ所から直径 10cmの円柱形コアを採取した O 採取場所は全館から均等に採取する
よう配慮、した(図 2 - 4参 照 )0
2
8
1
コアの上下端に早強セメントを用いたコンクリートを打込み,高さ 2
0cmとし,
3 -7日間水中養
生 後 , 気 乾 状 態 に す る た め 室 内 に 5-10日間保った後に圧縮試験を行なった O
コンクリートの充てんが不良で,
コア採取にあたっ・てバラバラにこわれたり短かく折れるものが 3本
2
の範囲にあり,その平均値は
7本 の コ ア の 圧 縮 強 度 は 153- 319k
g
/
c
m
あったが,試験に供した 1
2
2
240k
g
/
c
m
, 母 標 準 偏 差 は 54k
g
/
g
/
c
m
を
c
m2である O 構 造 計 算 用 の コ ン ク リ ー ト 強 度 と し て は 186k
期待できょう
5.5
O
コンクリートの比重と調合分析
6本の湿潤比重は 2
.
1
4- 2
.
5
4
, 平均は 2
.
:
)1であった O 一方スラプコンクリー
壁コンクリートコア 1
トコア 4本の場合の湿潤比重は,
採取したコアのうち,
2
.
0
1- 2
.
2
7 で平均は 2
.
1
2であうた O
2階壁より 4試料,
3階壁より 1試料をとり,
700Cに 強 熱 後 , 塩 酸 処 理
0
を行なう分析法によってコンクリー卜の調合を推定したO
その結果,コンクリートの重量調合比は,次の範囲にあるものとみなされる O
セ メ ン 卜 : 砂 : 砂 利 ニ ( 1 .8
2- 2
.
0
7
) :(
2
.
8
8- 5
.
0
2)
この調合は,現在普通の構造用コンクリートに用いられる程度に近い。モルタルの品質のバラツ
キは比較的少ないが,砂利の含有量は試験体によりかなりの差が認められる O
6 構造部材の実測と構造特性
鉄筋探知器による探査結果と研り試験から明らかになった配筋状況をまとめると,柱主筋は直径
2
2田皿の鉄筋を柱の辺に 2- 3本,帯筋は 9
m
m筋で約 30cm間隔に配置されている O 壁厚は 1階 20cm,
2階
,
3
階 11-15cmで,鉄筋は 9mm筋 十 文 字 一 重 で , 縦 横 の 鉄 筋 間 隔 は 3
0
c
m内外である O これらの
配筋は現在の設計法による配筋に比べて少ないものとなっている O
主 棟 南 北 方 向 の 代 表 的 構 面 (1
5構 面 ) に つ い て 現 在 の 設 計 法 に も と づ い て 応 力 解 析 を 行 な い , 耐
力を算定した O 地 震 時 に 被 害 を 生 じ た 梁 は 補 強 ア ー チ が 付 け ら れ て い る の で , 梁 の 耐 力 は 充 分 余 裕
が あ る と み な し , 柱 の 耐 力 の み を 検 討 し た も の で あ る O そ の 結 果 に よ る と 水 平 震 度 が 0.1前後で 1
階柱脚の応力はその許容曲げモーメントに達する計算となる O 構造体全体としては地震による水平
力は剛性のより大きい壁体などラーメン以外の構造部に伝えられる性質があるが,健全な設計とし
て は 水 平 力 の 少 く と も 1 /3は ラ ー メ ン 架 構 に よ っ て 負 担 す べ き と い う 観 点 に 立 て ば , 建 物 全 体 の
南 北 方 向 の 許 容 水 平 震 度 は ほ ぼ 0.3とみなすことができる O
ま た , 別 途 提 案 さ れ て い る 耐 震 性 判 定 規 準 9j によれば,
2次 判 定 で 1階 部 分 の 耐 震 性 の 目 安 は 震
.
3- 0
,
3
5 であるとみなされる結果を得た O
度 0
7 むすび
材令5
4年 の 福 井 県 庁 舎 本 館 ( 鉄 筋 コ ン ク リ ー ト 造 ) の 調 査 結 果 の 概 略 は 次 の 通 り で あ る O
1
) 躯 体 コ ン ク リ ー ト の 中 性 化 深 さ 平 均 は 1階で 5.2c
m, 2階では 3.6c
m, 3階では 1.9c
m程 度
であった O 柱 主 筋 に ま で 中 性 化 が 達 し て い る と 判 定 さ れ る も の は 約 4割に及び,日Tり調査箇所の約
半数では鉄筋に錆が生じていたO
2
2
) コンクリートコア 1
7本 の 圧 縮 強 度 平 均 は 240k
g
/
c
m
,母標準偏差は 54kg/c~ であった O
3
) コンクリートの化学分析の結果,コンクリートの重量調合比は,
282
セ メ ン ト : 砂 : 砂 利 二 (1
.82- 2
.
07)
(2.88- 5
.02 )
と算定された O モルタルの調合はほぼ一定であるが,粗骨材量のバラツキが大きい O
4
) 調査結果にもとづいて構造耐力を算定すると,本館の残存水平耐力は震度 0.3程度とみなさ
れる O
謝 辞
調査にあたっては,本学文部技官脇敬一,大学院生山本伊知郎,学生木村茂の諸君に御協
力いただいた O ここに記して謝意を表します O
参考文献及び資料
1
) 大林組保管資料
2
) 清水清七氏談(昭和 1
3年
3
) 北陸震災調査特別委員会
4
) 福井県保管
5
) 福井県
6
) 岸谷孝一
昭和 45年 , 県 庁 在 職 )
「昭和 2
3年 福 井 地 震 震 害 調 査 報 告
E建築部門
1951
「庁舎補修工事設計図」
「福井震災誌J 昭 和 2
4年 6月 2
8日
「鉄筋コンクリー卜の耐久性」
鹿島建設技術研究所出版部
昭和3
8年 2月
7
> E.A.Whitehurst ISoniscope tests concrete by an ultrasonic pulse techniqueJ
J. of A.C.I
. No.47,Feb. 1951,pp. 433-444.
8
) 川上英男
「長期材令コンクリートの調査研究( 5福 井 市 庁 舎 旧 館 )J 福井大工報
24
, & 2, pp.373-383
.
9
) 広沢雅也
「既存鉄筋コンクリート造建物の耐震性判定規準(建設省建築研究所案)J
建築学会大会学術講演梗概集
昭4
8
年〈構造系
pp.2400-2401
.
日本