高性能コンクリート

高性能コンクリート
コンクリート工学研究室
岩城 一郎
高性能コンクリート(High-performance
Concrete ハイパフォーマンスコンクリート)
 1990年代初頭:我が国では自己充てん性を有する
コンクリートを意味する用語として用いられていた.
By Okamura
 同時期に欧米では一般に水セメント比W/Cまたは水
結合材比W/Bを25-30%程度にまで小さくした高強
度コンクリートあるいは高耐久コンクリートを意味す
る.
高性能コンクリートの種類
高強度コンクリート(High-strength Concrete)
 一般のコンクリートに比べ,強度の高いコンクリート.土木では設
計基準強度f’ck=60MPa以上,建築ではf’ck=42MPa以上,超高強
度コンクリート:f’ck=100MPa以上
高耐久コンクリート(High-durability Concrete)
 一般のコンクリートに比べ,耐久性の高いコンクリート(定義があ
いまい:おかれる環境ごとに劣化要因が異なる)例 非常に厳しい
環境においても所要の耐用年数(50年)を満足するコンクリート,
一般あるいは厳しい環境において,耐用年数100年を満足するよ
うなコンクリート
高流動コンクリート(High-fluidity Concrete)
 材料分離抵抗性を損なうことなく,流動性を著しく高めたコンクリー
ト.このうち,締固めが不要なコンクリートについては自己充てん
性を有するコンクリート(Self-compacting Concrete)と呼ぶ.
高強度コンクリート
 低水結合材比→細孔組織の緻密化(f’c-C/W関係は直




線)
反応性微粉末混和材の使用(シリカフューム:比表面積
200,000cm2/g,粉末度の高い高炉スラグ微粉末:8000cm2/g
>普通ポルトランドセメント:3000cm2/g)→細孔組織の緻密
化と遷移帯の改質(水酸化カルシウムの消費)
遷移帯(Transition Zone):セメントペーストと骨材界面に存
在する厚さ20μm程度の脆弱な層,水酸化カルシウムの結
晶が多く存在,コンクリートの力学的性質や物質移動性に大
きな影響を及ぼす.(ブリーディングの影響を大きく受ける場
合,界面での性質はさらに悪化)(プリント参照)
高性能(AE)減水剤の使用→フレッシュコンクリートの品質の
向上
良質な骨材の使用→骨材強度>セメントペースト強度
普通強度コンクリートと高強度コンク
リートとの配合の違い
普通強度コンクリートの一例(寒冷地仕様)
 W/C=50%,AE剤使用,スランプ8cm,空気量4.5%,
f’ck=40N/mm2
高強度コンクリートの一例
 W/B=25%,B=C+SF,SF/(C+SF)=10%,高性能AE減水剤使用,
スランプ8cm or スランプフロー60cm,空気量4.5%,
f’ck=80N/mm2
用途
 部材の軽量化と部材寸法の縮小,高強度化≒高耐久化→
信頼性の向上,LCCの低減
 具体的には圧縮力が卓越する部材(柱,PC部材)
高強度コンクリートの問題点
 引張強度(および弾性係数)は圧縮強度の増加割合ほど期




待できない.例 示方書式 ftk=0.23f’ck2/3,
f’ck=30MPa→ftk=2.22MPa,f’ck=60MPa(2倍)→3.53MPa
(1.6倍),圧縮強度に対する引張強度に比1/13.5→1/17
破壊が脆性的であり,変形性能に乏しい(ポストピーク).
温度ひび割れおよび収縮ひび割れの危険性 大
耐火性:火災を受けたときに爆裂し易い.コンクリート中の水
蒸気圧の上昇
高濃度の硫酸環境:普通コンクリートよりも侵食速度 大(例
下水溝構造物のうち特に腐食性環境の厳しいところ,強酸性
の温泉地域)
高耐久コンクリート
 基本的には高強度コンクリート=高耐久コンクリート=高性
能コンクリートと考えられていた.→水和熱および自己収縮・
乾燥収縮に起因したひび割れ等の要因により,必ずしも成り
立たない.
高耐久コンクリートのポイント
 低水セメント比とすることによる組織の緻密化と混和材
(GGBS,SF,FA)の使用による,物質移動性の制御および遷
移帯の改質(水酸化カルシウムの消費)
 施工段階におけるひび割れの制御
各劣化要因に対する高耐久化(1)
塩害に対して
 W/Cの低下→細孔組織の緻密化
 施工段階におけるひび割れの制御(使用材料の吟味:セメン
ト,膨張材等+施工方法:養生等)
 高炉スラグ微粉末の使用による塩分の固定化(フリーデル氏
塩:Cl-とC3Aの反応により3CaO・Al2O3・CaCl2・10H2Oが生成)
の促進→耐久性の向上に寄与
中性化に対して
 W/Cの低下→細孔組織の緻密化
 施工段階におけるひび割れの制御
 高炉スラグ微粉末を混和した場合,(少なくとも促進試験結果
では)中性化の進行が速くなるため注意(鉄筋腐食との相関
は明らかではない.)
各劣化要因に対する高耐久化(2)
凍害に対して
 W/C45%以下,空気量4-6%(塩分環境下では5%以上)とすればほぼ満足
 低W/C,低空気量の場合,しばらくは良好な耐凍害性を示すものの,突
然,急激に低下する.(標準的な300サイクルの試験方法では判定でき
ない.)特に乾燥の影響を受けた場合,その傾向が強い→高強度であっ
ても,AEコンクリートとすることが不可欠.
ASRに対して
 混和材(スラグ,FA,SF)の添加が有効
 水,アルカリ,反応性骨材のどれかを制御
 単に水セメント比を下げただけではASR対策とはならない.
化学的侵食に対して
 高濃度の硫酸が作用する場合,低水セメント比のコンクリートほど侵食
作用が激しい.
 スラグの混和による効果は確認(著しい耐久性の向上は認められな
い):コンクリートによる対策は現在のところ困難
高流動コンクリート
 要求性能:高流動性,材料分離抵抗性(高粘性),
間げき通過性→自己充てん性:フレッシュコンクリー
トの自重により型枠内に充てんする性能
 試験方法:流動性→スランプフロー試験(スランプフ
ロー500-750mm),粘性→V漏斗試験(漏斗流下時
間7-13s),間げき通過性→自己充てん性のレベル
に応じて鉄筋による障害のレベルを変えたボックス
試験(充てん高さ300mm以上)
自己充てん性のレベル
 ランク1:最小鋼材あきが35-60mm程度で,複雑な断
面形状,断面寸法の小さい部材又は箇所で自己充
てん性を有する性能
 ランク2:・・・60-200mm程度の鉄筋コンクリート構造
または部材において,・・・
 ランク3:・・・200mm程度以上,断面寸法が大きく配
筋量の少ない部材または箇所,無筋の構造物にお
いて,・・・
(通常は一般の鉄筋コンクリート構造物や部材を対象
としたランク2を適用)
高流動コンクリートの種類(粘性を付
与するための材料による分類)
 粉体系高流動コンクリート:増粘剤を用いず,主に水
粉体比の減少により,適正な材料分離抵抗性(高粘
性)を付与した高流動コンクリート.
 増粘剤系-:増粘剤により,適正な材料分離抵抗性
を付与した高流動コンクリート.
 併用系-:主に水粉体比の減少により,適正な材料
分離抵抗性を付与し,増粘剤によってフレッシュコン
クリートの品質変動を少なくした高流動コンクリート
配合設計の手順(粉体系を例に)
 間げき通過性の改善:骨材同士の相対距離を大きくとること




により,粒子相互の衝突や接触の頻度を低下させる.単位粗
骨材容積の制限,ランク2の場合0.30-0.33m3/m3→単位粗骨
材量900kg/m3程度
硬化コンクリートの品質の確保:(出来るだけ低い方が望まし
い)単位水量150-175kg/m3
粘性の確保:水粉体容積比(w/p)の低下,一般に85-115%程
度→W/C(W/P)28-33%程度.ただし,セメント量が多くなるこ
とによる欠点(温度ひび割れ,収縮ひび割れ,スランプロス)
を補うため,FA,GGBS,LSを混和する.(あるいはこれらの
影響の少ないセメントを使用する.低熱PC,中庸熱PC)
流動性の向上:高性能(AE)減水剤の使用:種類によって添
加量の推奨範囲が異なる.例えばセメント質量の0.5-2.0%
以上の条件を満足する初期配合を設計→試練りを行う→全
ての条件を満足すればO.K. そうでなければ配合の補正を行
う.
高流動コンクリートの特徴
従来のコンクリートと比較して
 単位粗骨材量が少なく,高性能(AE)減水剤(SP剤)の使用量が多い
 粉体系:水粉体比 小,増粘剤系:増粘剤の使用が不可欠
 ブリーディングおよびレイタンスの発生が少ない.(高粘性)
 凝結硬化が遅延する傾向(流動性確保のため,SP剤により初期の水和反応を抑
制)
 使用材料の品質変動,計量誤差による影響を受け易い→厳しい品質管理,製造
管理,施工管理が必要
 コンクリートポンプによる圧送時の抵抗 大
用途
 振動締固めが困難な箇所(振動機が入らないところ.例 サンドイッチ構造,コン
クリート充填鋼管柱)
 工場製品(騒音防止)
 汎用コンクリートとしての適用(打込み作業の省力化,合理化,コンクリートの品質
に対する信頼性の向上)
問題点
 コスト,品質変動,型枠の補強