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NAOSITE: Nagasaki University's Academic Output SITE
Title
ノリ糸状体の生長に及ぼす環境条件と培養液のpH変化について
Author(s)
右田, 清治
Citation
長崎大学水産学部研究報告, v.8, pp.207-215; 1959
Issue Date
1959-11-30
URL
http://hdl.handle.net/10069/31862
Right
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ノ リ糸 状 体 の 生 長 に 及 ぼ す 環 境
条 件 と培 養 液 のpH変
右
On
the
and
Influence
the
田
The
ecological
authors.
factors
early
studies
The
such
as
light
development
of
present
the
intensity,
on
of Conchocelis
MIGITA
Conchocelis-phase
was
chlorinity,
The
Growth
Sea Water
investigation
of carpospores.
治
Factors
in pH of Culture
Seiji
many
清
of Environmental
Change
化 につ い て
of
carried
culture
Porphyra
on
solution
pH changes
have
concerning
and
of culture
been
the
pH
reported
which
solution
by
environmental
were
affected
also
the
observed
experimentally.
The
results
obtained
The
fittest
light
water
temperature
On
by
the
other
the
normal
than
When
above
9.
"samehada"
and
influece
many
the
By
may
be summarized
intensity
2000 lux
of
grown
water
as
with
follows
the
:
temperature
and
it
is 4000 lux
at 10~15°C
at 20°C.
chlorinity,
investigators.
sea
varies
the
The
results
Conchocelis
were
essentially
grows
similar
better
at
lower
to the
facts
pH value
shown
about
7.3
pH 8.2.
Conchocelis
is
this
increase
in
, seems
to be
produced
cultured
alkalinity
as a sort
the
in the
lime
light,
the
deposit
on
of CaCO3.
pH of culture
the
shell
solution
which
is
rises
called
208
を入れ・約1硬の殻を光源側にスライドグラス鞭って立面光の影響を隙}だ・培養液は5晦礁発
量を水道水で補給したが換水は行わなかった。
Table 1 Growth of the Conchocelis under different light intehsities.
Starting date’
Mean
of experiment
temp.OC
5旧り
zooo
1500
2000
4000
6000
Feb. 20n
8.4
202一
. 250
286
335
・387
340
Mar. 19
12.2
339
394
432
440
464
392
Mar. 2]
12.3
210
275
354
377
423
362
Mar. 31
15.工
314
428
622
655
720
680
Apr. 14
18.3
63Z
792
887
895
865
820
May 1
20.工
599
756
868
925
800
724
Light intensity (lux)
water
Figures show the length (p) of the Conchocelis after ten days
culture under fluorescent light.
結果:12時間螢光灯を照射した場合の糸状体の長さはTable Iのようになり,1水温で至適条件が異なる。
水温の低い3,月頃までは40001ux,5月になる.と2DOOIdxで生長が最も良好であった。これらの結果は肉眼ま
たは検鏡により観察した繁茂の俸劣の序列と一致していた。 照度の明るy・所で糸状体は赤味を帯びていて,
分枝も多いが伸長は抑制されている。一方低照度では分枝,伸長ともに不良であった。
照射時間による影響 方法:螢光灯の各照度下でユ日に6,孕,18,24時間になるように照射時間を変え前
,{含ミ
1000
ノノ へ
. ,!’ニヨヨ//こ、\、、
二!ri多三//壬,クー廷・、、瞭Nミ.
︵藁︶葦b。口①
5 00
o
ド
soo looo 20bo ’ 40bQ”r’一”m一””一丁’一’”’一r”一”’”m”’一一”3io;sEoas
Light intensity (lux)
F!g.1 Growth. of the Conchocelis under different intensity and radiating time of
fluorescent light.
A: 24 hours’ radiation, B: 18 hours’, C: 12 hours’, D: 6 hburs’,f,f’,g,g : showing
the same quantity of total light energy.
e一一一e 20 days. A一一A 15 days, ×一× LO days, 一Ll 5 days
209
実験と同様に3月3ユ日より20日問培養した。
結果:各照度にお8る生長を5日毎の体長でFig.1に示した。40001ux以下では長時聞照射したものが生長
が良好であったが,無換水のため10日以後の生長は高照度になるほど不良であった。一般に照射時間の同じも
のについて,照度が違って総受光量が同一の場合も日数の経過により総受光量が同一の場合でも,生長と総
受光量の聞には相関関係は見出せなかった。ただ1000’》20001uxの間ではやや体長は一致している。すなわち
高照度,低照度での培養や短時間の照射は総光量が同じ場合でも生長が不良であた。
光源による影響 方法:光源には自然光,昼光色螢光灯30w,普通電球60wを用い20001uxで培養した。室
内自然光は時刻により照度が変化するので,照射時間は9時よりZ6時までの7時間とし,照度は9,12, lno
時の平均で示した。他の光源も暗幕で区切つた場所で同一時間照射した。
結果:Table2のように,同一照度の場合自然光と螢光灯の間には大きな生長の違いは認められなかった。
電球では分枝は多いが枝が伸びず生長は抑制されている。
Table 2 Growth of the Conchocelis under different light.
Light
Fluorescent
Sロnlight
Intensity
(lux)
light
Electric
light
1300 1060 980
IOOO
zooo
664 532 490
525
288
Length
(pt)
Exp. from May 1 to Z6, water temp. 20.60C
海における生長 方法:海における水深の違いによる生長について一般的な傾向を知るため次のような実験
を行った。約3Cm平方のカキ殼に果胞子付けして上向き,下向き,横向きになるように水面下各水深に垂下
した。
結果:海での糸状体の生長の様子はFig.2の如く,室内培養iと同様に照度と深い関係がある。上向きに吊し
たものでは水面下2〃mtstまでは抑制され,下向きに吊したものでは1〃鷹栖で生長が良好であった。しかし水
深8〃zの範囲では深いところのものも比較約に良好な生長を示す。 検鏡観察では浅い所の抑制された糸状体
では分枝が多く深いものでは枝分れが少なく,室内培養の照度の関係とよく一致する。
BOO
!o
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ヴ の
600
、へ㌧ 隔『一
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×
N
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e’“一 ”“ ..n. .. .一. tb. .一
N−e.一.一.一 一一一.一 .;et
ノ
200
O 1 2 」 4 s 6 7 8
Depth (m)
Fig.2 Growth of the Conchocelis at various depths in the sea,
Oyster shells on which Carpospores of PorPhyra attached, were set
upward, downward and sideways.
一一一一 from Apr. ] till Apr.11, watter temp. M.50C, transparency 7.
一一from May 1 till May ll, water temp. IB.30C, transparency 6.,7
e upward A sideways N dawnward
2ユ0
2塩分と 生長
方法:海水を高塩分には蒸発させ,低塩分には水道水を加えて濃度の違った海永を調製し,これに硝酸カ
ヒ
リ0.lg/1・第二燐酸ソーダ0.029/1を添卸して培養した。
結果:Tqble3のように, Clユ5.2∼18.9%oで生長は良好で南り,それよ.り高塩秀でも低塩分でも生長は不
良となる。しかしCl ll.5%。程度の低塩分でも栄養塩添加のため生長の随害は顕著ではなかった。
Table 5 lnfluence of chlorinity on development of the Conchoqelis
(cultured from Mar. ll to Mar. 21 under fluorescent.・light 2000 lux).
Chlorinity
(%o)
Length(pt)
4.2
7.4
ユユ.5
ユ5.2
18.9
23.5
138
4・25
560
682
644
420
3 培 養 液
培養液の種類と生長 方法:壇養液には一般の海藻に用いられているMiquel液, Allen・Miquel液, Sch・
reiber液, Erdschreiber液及び海水ilに硝酸カリ0.ユ9,第二燐酸ソーダ0.049を加えたものを使った。
角型ガラス容器に21の培養液を入れ果胞子付けしたカキ殻4枚を培養した。換永は行わず蒸発量を水道水
で補給した。
結果:Table4のように短期聞の培養では培養液の種類による生長の差は明らかには認められなかった。
Table 4 Growth of the Conchocelis in various culture solutions (length pt).
Culture
solution
AB
Exp.
. .Mique1
Allen−
Miq丘eI
Erd−
Schreiber
shreiber
Drew
Sea water ll
KNO.g O.lg
Na2丁目O40.04g
1376
1405
1390
i398
]4ユ4
Zco8
1410
Z440
1464
1480
1445
1465
The Conchocelis was cultured under 2000 lux sunlight.
A : Apr. Z6 .vMay 6 , B : May i ,.li.May 21.
培養液の濃度と生長 方法:Schreiber培養液を規準として硝酸力づ,第二燐酸ソーダの添加量を0.1’》20
倍の範囲で変えた培養液を調製した。容器はビーカーをegv・IOOccの培養液で果胞子付けした殻IOcm2を培養
し生長を比較した。
結果:培養10日後ではTable5のように濃度の薄い0.1,0.5倍液で生長が良好であるが,25日後は規定処方
で生長が優っている。しかし必要量以上の濃度では生長が撫制される。 この傾向は他の2,3の培養液でも
同様であった。
Table 5 Relation between concentration of culture solution and growth of the
Concleocelis(cultured from Apr. Z9 till May 14).
Concentration of
Schreiber solution
Length (pt)
10 days culture
25 days culture
O.1
O.5
1
2.6
5
ら36
515
475
437
855
904
ユ040
930
IO
20
406
]80
67
678
245
94
窒素源の種類と生長 方法:第一燐酸カリ(Pとして4mg/1),塩化第二鉄(Feとして0.2mg/1)を添加
した海水に窒素源として硝酸カリブ硝酸ソーダ,塩化アンliン,尿素をNとして夫々.5mg/1加えた培養液を
用いて,螢光灯15001uxで毎日ユ2時間照射して培養し生長を比較した。
2il
結果:Nとして同一量与えた場合Table 6のように窒素化合物の種類によって生長に大きな棺違はなく,硝
酸カリでやや生長がよく塩化アンモンで少し劣っていた。
Table 6 Growth of the Conchocelis in culture sol”tion enriched with
different nitrogen sourees (length pt).
Nitrogen
source
Date
NaNOg.一
KNO3
NHdCl
(NHd)2CO
(N 5mg/1)
(11)
(lt) .
(tt)
Mar.19.vApr・3
754
790
710
752
Apr.15NApr.30
862
926
808
890
May 1 .vMay15
874
9Z2
860
895
Culture solution was a1so enriched with KH2POd (P 4mg/1) and Fec13(Fe O.2mg/1)
4 pH 1の 影響
方法:海水に1/IO規定の塩酸と苛性ソーダを加えてpH 5.8,6.8,8.2,9.O,9.8の海水を作り15⊃O luxの
室内自然光でIQ日問培養した。・pHは1日で変化するのでその値を測定して毎日新らしく調製した。
Table 7 Effect of pH on growth of tbe Conchocelis.
Mean
Date
water
5.8.v7.0
6.8,一v7.6
8.2
8.7.v9.0
9.4N9.8
(6.6)
(7.3)
(8.2)
(8.8)
(9.on)
8.4
288
330
3ユ2
150
20.1
537
646
598
40ns
temp.OC
Feb.26
.vMar.8
Mayl
’》May 1ユ
pH (average)
1
78
コ.15
Figures show length(pt) of the Co’nchocelis, cultured under IOOO lux sunlight.
Table 8 Development of the carpospore, when it was cultured with
grown Conchocelis under different light intensities (length pt).
4000
3000
2000
iooo
(Mark of Fig. 3, 1)
(A)
(B)
(C)
(D)
With 2−month−old
510
6L2
706
684
505
Control
758
825
865
760
534
Light intensity(lux)
Conchocelis
(non)
500
(E)
Exp. from May l till Mayユ1, the same with exp. fig.3,1.
結果:pHと生長の関係はTable7のように, PH 8.2の正常海水より平均pH 7.3で生長が良好で, pH 8.8
以上では不良で,pH 9.6では果胞子の発芽も少ない。
5 培養海水のpH変化 、
方法:培養液中に諸栄養塩が充分量供給されても糸状体の生育につれて炭酸ガスが不足し勝ちになりpHが
上昇する。その過程を知るため次のような二つの実験を行った。
照度によるpHの変化を見るため,果胞子付け後15りOluxで2カ月培養したカキ殻を30cm2になるよう調製
した。これを表面積47cm2のガラス容器内でSchreiber液3りりccを用い5⊃り,1りDD,2りり⊃,3りり0,40りりlux
の自然光下でIQ日間培養した。
一方糸状体の繁茂状態の違ったものでpHの変化を見るため,果胞子付け直後の殻とi,,2,3カ月培養し
2Z2
たもの,及び3カ月培養した殻に珪藻が多量付着したもので20001uxの自然光下で岡様に実験した。また対
照として表面積1200〃z2の容器で培養液は同量の300ccにして2カ.月の殻を培養した。
pHの測定は9時と17時に行い17
g.4, 1
礁
A
B
9.2
c
9.0
時よ.り翌朝9時迄は暗くした。ま
た各容器にはユcm2の果胞子附着
殻を入れて生長を測定した。
結果:培養2カ月の中程度に糸
状体の繁茂した殻では,培養液の
pHの上昇はFig.3,1のようにな
る。 高照度で培養したものほど
: 8.8
pH値は早く高くなるが,3000
a
1uxと4000 luxではほとんど差が
B.6
なく10日以内でpHの上昇の限度
に達し9.4以上にはならなかっ
B.4
た。一般に昼間の受光でpHは高
8.2
入により幾分低くなる。pHが
くなり夜間空気中の炭酸ガスの溶
Z 2 ] 4
5 6 7 8 9 IO
ユ,2度吹き込むと海水の正常1直
8.2以下に下る。
A\B
9.2
実験容器内に一緒に入れた二二
で果胞子の穿孔生長を測定した結
/
,
、、
A眉 盈
V ,v
へ、
D!﹀
《ノい
,・
畠
A
:果はTable 8のようになり,糸状
﹀冒﹀
9,0
V▽
C
8.8
頴
9.4位になった培養液でも呼息を
II
9.4
B.6
F
/へ1(
8.4
体の生長は繁茂殻を入れない対照
と比較して劣っている。これは繁
茂した糸状体が栄養を消費するだ
けでなく培養液のpHを上昇させ
ることにも原因があると思われ
る。
生育日数の違った糸状体を使い
、、》ノ
20001uxで培養した際のpHの変
化は:Fig.3, ll:に示した。繁茂し
8.2
1’2’
刀f
S ’
刀@’
U’ 7’ s’ g’ io
た培養日数の長い糸状体ほどpH
Days
が上昇したが,空気との接触面積
Fig・ 5 Change in pH of culture water due to growth
の多いシャーーレではplは徐々に
of the Conchocelis.
1 Change of pH,when 2・months’ Conchocelis was
cultured under different light intensities.
A: 40001ux, B:30001ux, c:20001ux,D:IOOOIux,E:5001uk.
g Change of pH, when Conchocelis of different
growth rates were cultured under sunlight 20001ux.
高くなっている。Table 9はこの
実験における果胞子からの糸状体
の生長を示したものである。
6「サメ肌」形成の実験及び観察
糸状体培養において時々殻上に
A:3 months’ Conchocelis and Diatom,
Fig.4, Aのような石灰質の小粒
B:3months’Conchocelis, C.E:2 months’, D:ユmonths’「
E:surface area of culfure vessel i20cm2.
子が固着したり大きな結晶が附着
Exp.from May l till Mayユ0.wate壕temp.:19.7。C,
surface area of vessel: 47cm2, shell area occupied
by Conchocelis : 30cm2, culture solution: Schreiber
300cc.
したりすることがある。これを当
業者は「サメ肌」と呼んでいる6
「サメ肌」は明るい場所で培養し
たり長期間換水しない場合に多く
2i3
Table 9
Development of the carpospore, when it was cultured with the
Conchocelis of various growth rates under 2CX)O lux sunlight.
Added Conchocelis
3months’
(Mark of Fig. 3 ll)
(A)
十Diatom
3months’ 2months’ 2months’ 1months’
492
Length pt
(B)
545
f(c)
690
(E)
768
(D)
Non
(F)
sls 1 sss
’
Exp. from May l till May ll, the same with exp. fig.3,皿.
形成される。また栄養塩を多量加えた培養液で大きな粒子の附着が見られる。 この成分は酸で溶解しその際
炭酸ガスが出ることなどから炭酸カルシウムと考えられているが,成分の分析やその形成にpHが関係が深い
ことなど2,3の実験観察を行った。
難
難
轟謎
隠構搬
Fig・ 4 Lime deposits on the shell occupied by Conchocelis, which are called
‘‘Samehada”. At× 2/3, B:× loo
「サメ肌」を形成した殼上より粒子の大きい強く固着していない物質を集め, ポーラログラフイにより定
性分析した結果,カルシウム,マグネシウ
ムの存在が認められた。更にキレー・一 “滴定
により分析したところ,カルシウムが大部
分でマグネyウムも少量認あられた。
海水中のカルシウムの増加による「サメ
肌」形成を見るため,カルシウムを正常海
水の3倍量になるように海水ll当り塩化
カルシウム2.29を添加した海水を調製し
た。この液300ccで糸状体の繁茂したカキ
殻1枚を5㏄),IOOO,30∞1ux下で対照の
海水とともに培養した。その結果カルシウ
ム添加海水では30001uxでIO日後に石灰質
の沈着を認めたが,対照の海水では極めて
少量附着したに過ぎなかった。またIOOOIux
以下ではカルシウム添加海水でも 「サメ
214
肌」形成は観察されなかった。
糸状体を培養していると窓側の明るい場所の培養液のpHが9前後になっているもので 「サメ肌」が多ぐ
形成される。また「ナメ肌」は糸状体の生育している部分によく形成されるが,糸状体の穿孔していない殻
にも容器のガラス上にも形成される。検鏡した結果では石灰質が沈着するとき糸状体の枝や小粒子が核にな
るように観察された。
培養容器内に発生した単細胞の緑色の藻類を分離して,この緑藻?だけを培養してpHを上昇させ石灰物質
の沈着を観察した。培養液のpHは2・v 3日で9.4の上昇限度に達し1週間後よリガラス上に「サメ肌」状の
石灰物質が付着した。これは検鏡観察の結果糸状体殻に形戎される 「ナメ肌」と差違は認められなかった
(Fig・ 5).
なお「サメ肌」内には糸状体が貝殻同様に穿孔生長し胞子嚢の形成も観察された。
考
察
糸状体の生育の至適照度は水温で異なり,低水温では明るいことは富士川7)をはじめ多くの試験研究で確か
められている。本実験でも同様の傾向が見られるが,従来考えられている至適照度よりやや明るく, 水温10
’》15。Cの3月頃までは40001ux,水温20。C前後の4,5月は20001uxで生長が良好であった。海においても
この照度と生長の関係は同様であると考えられる。実験結果より推察して,透明度の大きい海ではiOm以深
でも糸状体は一応生長繁茂すると考えられる。 実際に有明海島原沖では天然の果胞子による糸状体が10〃z以
深で12月,1月頃でも生育している。また照度の明るい所の糸状体で分枝が多いことは室内培養でも海でも
同様で,今後胞子嚢の形成過程などと関連して観察すると興味深いと思われる。
塩分の影響については黒木4),竹内5),斉藤6)をはじめ従来の多くの研究結果とほとんど同様で変った点は
認められなかった。高塩分で生長が阻害されるので一・般の培養でも蒸発により高鍼になるのを注意しなけれ
ばならない。
培養液の処方による生長の優劣は,短期間ではほとんど差は認められなかった。しかし栄養塩を添加しな
い海水だけの培養では,糸状体は環境条件に対する抵抗性が弱くなり培養は不安定である。成熟に対して培
養液の処方は重要な関係があると思われるが,生長だけを考えた場合,シュライバー液か海水に硝酸カリ0.勾
g/1,燐酸ソーダ0.02g/1を添加したものでも充分であると考えられる。濃度は規定処方では長期聖水しない
と栄養が欠乏してくるが,初めより3∼4倍液などを用うるより一定期日毎に補給する方が生長にはよいと
思われる。
pHの影響については富士川等7)の研究結果と同様で,正常海水より中性の方で生長が良好であった。 pHが
高いと糸状体の生長は阻害されるが,一方生長のよい培養では炭酸ガスの消費のためpHは上昇する。このこ
とは長期間の無二水培養において,照度が最適の条件でもいくらか低照度でも終局の生長に大きな差が現わ
れない原因とも考えられる。培養液のpHの上昇を防ぐには至適照度より低照度にして表面積の広い水槽で培
養するか,二水回数を多くしなければならない。 糸状体の生育を阻害せず海水のpHを下げる薬品があれば
培養に利用出来ると思われる。
最近,黄斑病や赤変病を未然に防ぐ目的で,殺菌海水を用い三水を極度に少なくして淡水と栄養塩を補給
する糸状体の培養が行われるようになった。これはある意味では一歩前進した培養法と考えるが,pHの上昇
による障害や「ナメ肌」の沈着などが起り易い。しかし,生長期,成熟期について照度操作,培養液処方な
どを研究すれば無換水培養も可能と考えられる。
海水ではpHが9以上になると水に溶けていた重:炭酸塩が溶けにくい炭酸塩になり炭酸カルシウムの結晶を
生じ,また水酸化マグネシウムが沈澱することが知られている。即下の結果より考えても「サメ肌」物質は
主成分は炭酸カルシウムで水酸化マグネシウムも少量含まれると思われる。pHの高い培養液で「ナメ肌」形
成が多く糸状体以外の藻類でもpHが上昇すれば容器に「ナメ肌」状の沈着が見られる。 これらのことから
「サメ肌」の形成は糸状体の繁茂により殼から溶出するカルシウムの増加にも原因があると思われるが,そ
れ以上にpHの上昇と深い関係があると考える。
糸 状体 の 生 長 に対 す る光,塩 分,培
養液,pHな
ど の影 響 に つ い て,果
胞 子 付 け後 短 期 間 培 養 した 糸 状 体
の 体 長 で比 較 し た 。 また 培 養 液のpHの 変 化 や 「サメ 肌」 形成 につ い て 実 験 し た 。
1)生
長 の至 適 照 度 は水 温 に よ り異 なり,水 温15℃ で は4000lux,水
2)塩
分濃 度 を 変 えて 培 養 した 場 合Cl15∼18 .6‰ で 生長 が良 好 で,Cl24.5‰
温20℃ で は2000luxで 生 長 が よい 。
やCl11.5‰ 以 下 で 生 長 が 抑 制
され た 。
3)pHは
4)糸
正 常 海 水 よ り中性 の7 .3で 生長 が よ く,pH9以
状 体 が 繁 茂す る につ れ て培 養 液 のpHは 上 昇 し ,特
上 で 阻 害 され た 。
に至 適 照 度 以 上 で培 養 し た と きpHの 上昇 は顕 著
で あつ た 。
5)pHが9以
い。
上 に なつ た培 養 液 で は介 殼 や 容 器 に炭 酸 カル シ ウ ム と 水 酸 化 マ グ ネ シ ウ ム の 沈着 が 生 じ易