[R4.1.2] 機器及び配管設備の腐食検査技術の開発 (埋設保温配管検査技術グループ) 平塚 隆明、渡辺 徳明、○菅 利之 1.研究開発の目的 製油所設備の腐食減肉による漏洩事故を未然に防止する為に、様々な検査を行って いる。しかし、保温や耐火材の施工された機器や埋設部または高所の配管といった直 接アクセスできない設備は、保温・耐火材の解体、掘削等付帯工事が必要であり、費 用増及び工期延長を伴う。この問題点を解決するために、非破壊検査手法の適用も試 みているが、未だ検査精度と検査能率の両方を満足する技術は無い。当研究は、付帯 工事を最小限に、かつ精度がよい広範囲の減肉評価が可能な非破壊検査手法の技術開 発を行うものである。 2.研究開発の内容 既存の技術を組み合わせ、新しい技術としてガイド波を利用した超音波透過法とい う技術を考案した。今年度は、探傷装置の実機適用に向けた装置の小型化、受信感度 の向上、解析能力の向上、及び局部減肉の解析と評価方法の検討を行った。また、防 油堤貫通部配管の実機での検証テストを実施した。 2.1 ガイド波の伝搬挙動調査 当研究の目的は、比較的長距離(広範囲)の腐食検査を高精度かつ高能率で実施する 手法を開発する事である。この目的を達成する為に、ガイド波を用いた透過法という 全く新しい検査手法を用いる。しかし、ガイド波には未だ活用されていない種々の特 徴があり、その伝搬挙動についても不明な点が多い。当検査手法は、ガイド波が周波 数や板厚に応じて音速が変化するという特徴を利用して、音速変化から板厚を推定す るものであるが、伝搬挙動が明確でなければ、音速と板厚の関連付けは困難である。 こういった理由より、詳細実験やコンピューターシミュレーションによってガイド波 の伝搬挙動調査を行い、当検査手法に必要な伝播挙動を明確にする事を目標とする。 2.2 探傷システムの開発 探傷システムの最終目標とする性能及び仕様は以下の通りである。 (1) 減肉評価が定量的(直接的)で、寿命評価に使用可能であること (2) 測定誤差が板厚の±10%以内 (3) 板厚の 10%以上の減肉は全て検出すること (4) 探傷距離は配管 20m、機器 10m (5) 検査機器重量は 50kg 以内、対象露出部は 0.5m 以内等 その設定理由は以下の通りである。 (1) 既存の技術では減肉評価方法が断面積の欠損率といった腐食深さや残肉量を直 接的に示す事ができない為 (2)および(3) 既存技術で比較的精度が高い表面波透過法と同程度 (4) 配管については既存技術で比較的探傷距離が長いガイド波反射法と同程度であ るが、機器については適用された既存技術は無い為、配管の半分と仮定した (5) 現実的にフィールドで使用可能(2 人で持ち運び可能)な重量と、付帯工事の規模 を最小限とした場合の露出部長さ 昨年度は、基本的探傷システムの構築を行った。今年度は、実機への適用化を目的 に、装置の小型化、受信感度の向上、解析能力の向上を検討した。 2.3 腐食検出と評価 局部減肉の解析と評価方法の検討を行った。また、防油堤貫通部配管の実機での検 証テストを実施した 3.研究開発の結果 3.1 伝搬特性調査 (1)解析装置(PC)出力型可変角探触子の製作 ガイド波には超音波の周波数及び入射角によって伝搬するモードが変わる性質が ある。テストピースによる実験及びシミュレーションによる検討結果、傷部で複雑 にモード変換を起こしたモードを特定することができなかった。 前年度製作した楔角 70°ではA0、S0 モードを選択的に受信されやすいため、高 次モードを受信するにはロスが大きい。また、傷で発生した微弱なモードを検出す るには、探触子楔内における損失を小さくする必要性がある。そこで減衰の小さな ポリスチレン製可変角楔の製作を行った。同時に送受信角度を解析装置への出力化 を図り視覚的な再検討を行った。図3−1に可変角探触子の構造と出力画像例を示 す。 探傷器へ入射角と時間×振幅情報を出力する。 角度 時間 S1 楔 A0 振動子 S0 解析装置(PC)出力 角度信号 UT信号 探触子ホルダー エンコーダー 図3−1 可変角探触子の構造 (2)楔材アクリル、ポリエーテルイミド(H材)及びポリスチレンの減衰調査 一般的に探触子の楔材で使用されるアクリル(40mm)、ポリエーテルイミド (40mm)とポリスチレン(60mm)とで比較した。 測定は図3−2に示す超音波反射法により、各材料の B1、B2、B3、・・底面多重 エコー高さを測定し減衰率を測定した。同時に各材料を伝搬する時間から音速測定 を行った。 また周波数によって減衰率の変化が予想されるため、励振をサインバースト 5 波 で、試験周波数 0.5MHz、1MHz、2MHz、5MHz で測定した。図3−3に周波数変化 と各楔材の減衰率をグラフにまとめた結果を示す。 測定結果から各材質の減衰率は、アクリル>ポリエーテルイミド>ポリスチレン の順に小さく、アクリル材は最も大きな減衰を示し、試験周波数 5MHz では大きな 減衰が生じ底面エコーがノイズに隠れ測定ができなかった。 前回製作した可変角探触子の楔材アクリルとポリスチレンの減衰率を比較すると、 試験周波数の違いにより差はあるものの、周波数 1MHz でのポリスチレン材の減衰 は 0.096dB/mm、アクリル材 0.1875dB/mm とポリスチレン材はアクリル材の約 1/2 程 度小さく、また 0.5MHz では 0.083dB/mm に対して 0.220dB/mm と約 1/4 程度の減衰 率値を示した。 B1 B2 減衰率(α)= Bn+1 − Bn 2×T (dB/mm) T 図3−2 減衰率の求め方 楔材の周波数と減衰率 ポリスチレン H材 アクリル 0.30 アクリル 0.25 減衰率(mm/dB) 減衰が大きくB3エコー確認できず H材 0.20 0.15 0.10 0.05 ポリスチレン 0.00 0 1 2 3 4 5 6 周波数(MHz) 図3−3 周波数変化と各楔材の減衰率 (3)送受信効率のよい高パワー探触子の製作 長距離探傷で使用する探触子には、高パワー高感度探触子が要求される。また傷 で変化したモードの受信には広帯域探触子が適すると考えられる。 近年、棒状に加工されたセラミックス材を樹脂に埋め込んだ、横振動が小さく周 波数帯域幅の広いコンポジットタイプの振動子が注目され実用化されている。そこ で今まで実験で使用してきたセラミックスタイプからコンポジットタイプへ材質変 更を行い、かつ振動子サイズを大きくした探触子を製作し出力及び周波数帯域の実 験による確認を行った。 実験は超音波透過法によりポリエーテルイミド 40mm を遅延材として表3−1の 条件で行った。同一感度におけるAスコープ結果画像を図3−4に示す。 両者の振幅比較で、0.5MHz と 1MHz では振幅比率が異なるが、コンポジットタイ プはセラミックタイプより約 14∼20dB(5∼10 倍)高い感度値を示した。また振動 子材の比較のため、面積比(振動子サイズが異なる)で相殺するとコンポジットタ イプの方が、セラミックタイプより 7∼14dB 感度が高く、当初予想していた結果と ほぼ同じだった。 サインバースト波による励振波形ではセラミックタイプの受信波形は励振波形と ほぼ同形で歪みが少なく観察されたが、コンポジットタイプは波形の立ち上がりに やや歪みが認められた(図3−4) 。ただしサイン3乗振幅変調バースト波による励 振ではサインバースト波でみられるような波形に歪みは認められなかった。図3− 5に 1MHz 時の受信波形を示す。 表3−1 調査条件 方 式 励振波形 周波数 遅延材 2探触子透過法 バースト5波 0.5MHz、1MHz ポリエーテルイミド40mm セラミックス:20×20 振動子寸法 コンポジット:30×30 40 0.5MHz セラミック 約20dB高い振動子の面積7比dBを 相殺すると14dB高い コンポジット 1MHz セラミック 約14dB高い振動子の面積7比dBを 相殺すると7dB高い コンポジット 図3−4 セラミックとコンポジットタイプの周波数特性 コンポジットタイプ 1MHz受信波形 セラミックタイプ 1MHz受信波 図3−5 サイン3乗変調バースト波の波形 3.2 新しい探傷システムの開発 (1)既存装置と開発装置(任意波形発生装置) 長距離を伝搬するガイド波の音速は、バルク波(横波、縦波等)のように材質で 決まらず、周波数と試験体肉厚によって支配される。この波を適用した探傷には、 試験周波数及び周波数帯域幅等、周波数条件が重要と考えられる。 一般的にバルク波を扱う探傷器の励振波形は、スパイク及びスクエアパルスで広 帯域な励振を図っている。またガイド波探傷装置の励振には、高出力化及び周波数 帯域幅を狭くする目的からサインバースト波が適用されている。 このガイド波探傷装置の励振波形サインバースト波の周波数特性には、中心周波 数帯域幅の前後に周波数サイドローブが発生する。ガイド波の特性から目的以外の モードが複数発生すると考えられる。 今期はサインバーストを振幅変調(サイン3乗変調バースト)する等の処理によ り、周波数サイドローブの発生を押さえた探傷装置開発に着手した。既存の探傷装 置と今期開発に着手した探傷装置フローを図3−6に示す。 実験装置本体(PC) トリガー 表示器 パルサー デジタルオシロスコー (バースト波発生部 プ ) CH1 CH2 任意波形発生装 置 (sin3波形変調波) プローブ (受信) 受信 プローブ スキャナー (送信) 試験体(テストピース) 試験体(テストピース) 移動可(軸方向・周方向) 装置本体(PC) CH2 新規製作 (機能追加) レシーバー (受信部) パワーアン プ <実験装置概略図> 送信 ープ CH1 レシーバー (受信部) プローブ スキャナー (送信) 試験体(テストピース) 表示器 トリガー デジタルオシロスコ プローブ (受信) <探傷システム概略図> 受信 送信 スキャナー スキャナー 図3−6 土盛り 既存の探傷器と新しい探傷システム概要 (2)新しい探傷装置の励振波形 今回システムに組み込んだ任意波形発生装置(ボード)は波形編集機能を持ち、 Windows 上ソフトで任意な波形を作ることができる。作成したサインバースト波とサ イン3乗振幅変調した波数 10 波の励振波形例を図3−7に示す。またサインバースト 波とサイン3乗振幅変調バースト波の基本式を式3−1、2に示す。 この励振波形により励振周波数を 0.5MHz に設定し、ポリエーテルイミド 120mm を 超音波透過法で試験した A スコープ波形と FFT 処理画像を図3−8に示す。 前述したようにサインバースト波では中心周波数帯域幅の周波数の前後に複数の周 波数サイドローブが発生しているが、サイン3乗振幅変調した受信周波数帯域には殆 ど周波数サイドローブが発生していないことが確認ができた。但し、サイン3乗振幅 変調波は、同一波数条件では周波数サイドローブを押さえた分、サインバースト波よ りやや広帯域であった。 今回製作した探傷装置により、周波数帯域のサイドローブを押さえた狭帯域幅の励 振が可能となった。一般的な探傷器は励振方法が固定されており、探触子の特性が探 傷条件に大きく影響する等の制約を受けた。本装置では励振波形を自由に変えられる ことから、探傷に最も適した条件を見いだせる可能性が高まった。 サインバースト y=Sin(n×Ω×x)・・・・・・・・・・・・ 式3−1 サイン3乗振幅変調 y=sin(n×Ω×x)×sin(0.5×Ω×x)^3 ・・ n : 波数 f : 周波数 sin10波バースト 式3−2 Ω : 2×π×f x : 時間 sin3乗10波変調 図3−7 任意波形発生装置(ボード)の励振波形例 120 透過法 励振0.5MHz ポリエーテルイミド(H材) H材 バースト10波 バースト15波 -6dB帯域幅 0.06MHz sin3乗10波 -6dB帯域幅 0.1MHz 図3−8 -6dB帯域幅 0.04MHz sin3乗15波 -6dB帯域幅 0.07MHz 受信波形のAスコープ波形と周波数特性 (3)現場適用型スキャナーの製作 前年度実験用に周、軸方向走査可能な2軸実験用スキャナーを製作したが、装置 が大きくなり(軸方向の長さ)狭隘な現場環境に向かない等の問題が生じた。スキ ャナーを小型化にするため、軸方向の走査はワイヤーエンコーダを使用してデータ を採取する方式に分離し、周方向1軸のみで駆動する方式に改良することで小型化 を図った。 また実験用スキャナーは試験体への吸着力が弱く、脱落し易い問題があった。そ こで実機適用型は配管に抱き抱えるように巻き付いた形でセットする方式に変更す ることで脱落し難い構造に改良し、配管だけでなく機器にも対応可能な、送受信探 触子が周方向に平行に同期して作動する自走式スキャナーの製作に着手した。また 実験用と実機適用型スキャナーの外観を図3−9、10に示す。 図3−9 実験用スキャナー 図3−10 実機適用型スキャナー (4)解析ソフト (イ)解析ゲートの複数化 傷で複雑に変化したモードの時間の変化量を一枚のAスコープから、つかみ取る ことは難しいと考え、軸方向の移動位置と各位置のAスコープ情報の伝搬時間とそ の振幅情報から B スコープ化を図り、この画像から探触子の移動距離と伝搬時間の 推移(遠くなるに従って時間が掛かる)から音速を算出する方式をソフト化した。 しかし健全部ではそれほど問題なく算出することができたが、傷で発生した複雑な モード変換波は幾重にも波が重なり解析に困難であった。 時間変化だけでなく健全部と腐食部での周波数変化にも着目し、音速(伝搬時間) の異なる種々のモードの周波数変化を一度に比較解析できるようなFFT−Bスコ ープ(探触子位置×周波数分布)ゲートの複数化に着手した。 図3−11に今までのゲートと今回解析ソフトに組み込んだ方式を示す。 今回の方式 今までの方式 追従ゲート 固定ゲート ゲート1本 ゲート最大5本 間隔ずれ 時 間変 動 ゲ ー ト か ら 信 号が 外 れ る 図3−11 ゲートが信号に同期 ゲート方式の違い 今までのゲートは固定式のため、スキャナー作動時に発生する送受探触子間隔の 変動をそのまま受け、信号がゲートからはずれデータにぬけが生じた。特に実験室 より環境の悪い現場では送受間隔のずれが大きくなり、機械的に作動するスキャナ ーだけでこの問題の解決は難しい。 そこで今回組み込んだゲートは、探触子間隔の変動で生じる波形の時間変動に解 析ソフト上で追従する波形同期方式とした。図3−12に複数ゲートFFT−Bス コープ画像例を示す。 図3−12 FFT−Bスコープ解析ソフト画像例 (ロ)ノイズ対策 ノイズが大きい環境では、小さな傷指示は、ノイズに埋もれ検出性が悪くなる。 また最悪検出できない状況を招くことが知られている。 このため超音波探傷においてノイズ対策は不可欠であり、デジタル技術の進歩か ら、リアルタイムに A スコープの繰返し時間に同期させ、同期回数で加算平均を行 う処理機能を付加したものが市販されている(本探傷器にも組み込んでいる)。 これまでのノイズ対策の他に、本手法の基本走査は傷に対して探触子が平行走査 を行う観点から探触子走査方向に A スコープ画像の加算平均処理が可能と考え検討 した。 図3−13に示す、6インチ管の角溝深さ1mm×30×30 テストピースでの反射法 による実験結果を使い、全波形データの振幅数値データを読みとり、マトリックス 数学ソフト(MATLAB)を用いて、探触子走査方向に振動子寸法 20mm 及び倍の長 さ 40mm の加算平均化処理を試みた。結果を図3−14に示す。 振動子寸法 20mm の探触子走査方向の加算平均では、加算平均を行っていない生 波形より機器ノイズが半分以下 6dB 以上の改善が認められた。振動子寸法2倍の 40mm 加算平均では 20mm 加算平均ほどの効果は得られず、加算長さを増しても考え ていた程の効果が得られなかった 次にノイズ信号振幅レベルを1、検出可能な傷の信号はノイズ信号レベルより必 ず大きい(傷信号レベル>ノイズ信号レベル1)という仮定より、Aスコープ上の 振幅のべき乗処理を行うことでノイズ振幅と傷振幅に差が生じ、見かけ上SN比が 向上すると考えた(1は何乗しても1)。 図3−15に振動子寸法 20mm の振幅3乗移動加算平均処理をしたAスコープ画 像を示す。3乗処理をすることで増幅直線性が失われたが、SN比は格段に改善さ れ傷検出能が向上した。現在、新しい探傷システムへ解析ソフトとしての、探触子 走査方向加算平均化処理の組込みの検討を行っている。 2500 600 管端エコー 1000 a部 Aスコープ 6B 傷 :30×30×1d b部 a部 管端エコー(探触子後) 機械ノイズ(ホワイトノイズ) b部 Aスコープ 探触子移動方向加算平均範囲 傷 指 図3−13 反射法による深さ 1mm 加工傷の探傷図形 a部 5-25mm平均 a部 5-45mm平均 20mm 平均 40mm 平均 管端指示 b部 210-250mm平均 b部 220-240mm平均 20mm 平均 傷指示 図3−14 管端指示 40mm 平均 管端指示 管端指示 傷指示 健全部と 1mm 傷部の探触子移動加算平均処理したAスコープ画像 5-25^3 ^3平均 a部 5-40mm b部 220-240mm^3平均 管端指示 管端指示 傷指示 図3−15 3乗移動加算平均処理したAスコープ画像 200 3.3 腐食検出と評価 (1)板長手方向走査による音速測定(深さの異なる板 9mm テストピースによる実験) 前年度行ったサインバーストによる励振では、周波数帯域のサイドローブの影響か ら予期せぬ波が発生したと考えられることから、サイドローブの小さなサイン3乗振 幅変調バースト波との比較実験を行った。 図3−16に示す板厚 9mm の傷深さが異なるテストピースを用いて、励振周波数を 0.5MHz、波数を 10 波に設定し探触子を傷から遠ざかるように板長手方向に走査した時 のBスコープ画像を採取し検討した。尚送受信角は前年度と同じアクリル 70°相当の 探触子を使用した。 SS400 900 d : 傷深 さ 傷 な し、1mm、2mm 900 4mm、6mm 1800 30 9 d 図3−16 傷深さの異なる板テストピース概要 深さ 2mm、4mm 及び傷なしテストピースの結果の比較例を図3−17に示す。 サイン3乗振幅変調バースト波は、サインバースト波よりサイドローブの影響が小 さいためか、A0、S0 モードのBスコープ上でコントラストが上がり識別分解能に大 きな改善が認められた。しかし傷の有るテストピースではサインバースト波より、モ ードが絞られ音速の変化を判読し易くなったが、前年度と同様にモードの特定はでき なかった。 送信 受信 500 100 走査 励振周波数:0.5MHz TP0d バースト10波 TP2d バースト10波 TP4d バースト10波 TP0d sin3乗10波 TP2d sin3乗10波 TP4d sin3乗10波 図3−17 サイン3乗バースト変調波による板長手方向走査時のBスコープ画像 (2)ポリスチレン可変角探触子による深さの異なる板テストピースによる実験 傷で発生するモードの特定で、今回製作したポリスチレン可変角探触子を使用した 実験を行った。図3−16で示した、板厚 9mm の傷深さが異なるテストピースを用い て、励振はサイン3乗振幅変調バースト波(10 波)を適用し、送受信中央に傷を挟ん だ透過過距離 1000mm(500×傷×500)で、送信側の入射角を 54°(アクリル≒70°) に固定、受信角を 0°∼54°まで可変した時のBスコープ画像を採取した。 図3−18に 0.6MHz 時の各傷の深さが異なる受信角と時間、振幅変化を現したBス コープ画像例を示す。 傷の深さが変わっても受信角 54°付近で受信されるA0、S0 モードは、時間、振幅 ともに、ほとんど変化は認められなかった。ただし傷の無い健全なテストピースでは 殆ど指示が認められない、受信角 23°、35°で受信される指示は、傷の深さの変化と ともに振幅、時間共に微小だが変化が認められた。 入射角度と周波数×板厚には、図3−19に示す関係がある。周波数 0.6MHz、板厚 9mm(周波数×板厚=5.4)入射角 23°(アクリル換算 27°) 、35°(アクリル 42°) の条件を図に当てはめてみると、23°付近で受信されたのはS1 モード、35°付近で受 信されるモードはA1 と判断される。 広がった郡速度波形から正確な波形の立ち上がり及びピークで伝搬時間を読むこと が難しく、正確な測定をすることができないが、Bスコープの縞模様の波頭から時間 を読みとり、図3−20に示す速度(郡)−周波数図に当てはめると、受信角 23°付 近のモードはS1 モード、35°付近はA1 モードにほぼ対応した。 これから健全部を伝搬してきたA0、S0 モードが、傷部でモード変換を起こしA1、 S1 の高次モードに変換されたと推測される。またこれらのモードは傷の深さの違いで 若干ではあるが振幅及び時間の変化が観察できる。 この実験により前年度検討してきた送受信角 54°(アクリル 70°)では、この変化 の読みとりが難しく解析を困難にしていた原因の糸口を掴むことができた。 0.6MHz 受信角 度数 時 間 傷なし 度数 1d 度数 2d 度数 4d 23° 度数 6d 35° A0 S0 図4.3−4 送信 54°受信 0°∼54°可変したときのBスコープ画像 図3−18 図3−19 可変角探触子によるBスコープ画像 ポリスチレン アクリル 23° 35° 27° 42° 入射角(アクリル)−周波数 図3−20 速度(郡)−周波数 (3)可変角探触子による板テストピースの長手方向走査 可変角探触子の実験結果送信 54°、受信角 23°で、図3−16で示した板テストピ ースの長手方向走査でモードの抽出をサイン3乗振幅変調バースト 10 波 0.5MHz の励 振波形により抽出を試みた。 可変角探触子が大きく安定した走査ができなかったため(ワイヤーエンコーダによ る手動走査) 、位置により振幅変動が大きかったが、図3−21に長手向走査時のBス コープ画像を示す。 モードを特定するため前年度製作したBスコープ画像の縞模様の傾きから音速測定 を行う解析を試みたが、音速の遅い部分で波形が重なり波頭の読みとりが難しく正確 な各モードの音速を測定することができなかった、そこで波頭の読みとりが最も楽な、 音速の早いモードに着目した測定を行った。結果を図3−22に示す。 結果、傷がない TP0dの音速は 5321m/s でS1 モードと推定される。最も音速の速か ったのは、TP1d、f×t換算4であった。これは理論特性の、S1 モードのピークと ほぼ一致した。 TP4d の 4370m/s、TP6dの音速は 4930m/s は、f×t換算 2.5、1.5 で、S1 モードが 存在しない領域にあった。4930m/s はS0 モードのf×t換算 1.5 の理論音速とほぼ同 じで、4370m/s はA1 モードのf×t換算 2.5 とほぼ同じ結果であった、傷部でA1、S 0 モードの音速が傷部の肉厚に応じた変化を起こしたと推定される。 これらのことから波頭の読みとり誤差で理論値と音速に若干の差が生じたが、傷で 音速が変化する兆候をつかむことができたと考えられる。 TP0d TP1d TP2d 5231m/s 5375m/s 4845m/s TP4d TP6d 4370m/s 4930m/s 1 2 3 4 5 各傷板テストピースの長手方向走査時のBスコープ画像 S1音速変化 6000 S0 S1 5000 音速 (m/s) 図3−21 傷深さ 残肉f×t 音速 0(TP0d) 4.5 5231 1(TP1d) 4 5375 2(TP2d) 3.5 4845 4(TP4d) 2.5 4370 6(TP6d) 1.5 4930 A1 4000 実測 理論 3000 2000 1000 0 0 1 2 3 4 5 f×t (MHz×t) 図3−22 各傷板テストピースの A1音速 (4)実機適用例 タンクヤードで図3−23に示す防油堤貫通配管を対象に、送受探触子走査部の塗 装を剥離して実機試験を行った。 試験体仕様 ・管 径 :18インチ ・肉 厚 :SGP(7.9t) ・近傍実測肉厚:7.3mm ・配管内部 :満液、静止状態 サイン3乗変調バースト波15波、励振周波数を0.5MHz に設定した試験を行っ たが透過信号を得ることができなかった。次に励振周波数を0.1∼1.0MHz まで 変えた試験を試みたが、何れの周波数透過波でも透過波を得ることができなかった。 そこで防油堤外の同じ配管で、透過距離4500mm 離した試験を行ったところ信号を キャッチすることができた。図3−24に防油堤外部で採取したAスコープ画像を示 す。 これから防油堤に大きな減衰要因が有ると考えられる。 要因としては、 ・透過距離が長すぎる ・周溶接継手による減衰(長手溶接継手が防油堤の左右に食い違いが有ることから、 透過範囲に周溶接継手が有る。) ・ 防食テープによる減衰が大きい ・ 超音波が透過できないほどの大きな腐食が有る。 等が考えられるが、防食テープによる減衰の影響が最も大きいと考えられる。 防食テープの影響とこれに対する対策が、今後大きな課題になると考えられる。 5600 2000 防食テープ SUS板 金 アスファルト舗装 4500 長 手溶 接 図3−23 防油堤試験時の探触子配置と実機試験状況 サイン3乗変調バースト15波 サインバースト15波 0.25MHz 0.25MHz 0.5MHz 0.5MHz 1MHz 1MHz 図3−24 防油堤外透過距離4500mm の透過Aスコープ 4.まとめ 任意波形発生装置を組み込んだ新しい探傷装置の調整は、ほぼ調整がおわり完成し たが、スキャナーは配管試験体下部で脱落し易い等の問題を残した。 ガイド波の伝搬挙動は、考えていたより複雑で理解できない部分が多く、今まで行 ってきた調査だけで完全に解明できなかった。 サインバースト波での問題を解決するため、サイン3乗変調波に変更した実験を行 ってきたが改善は認められるものの、手法開発の決めてにならなかった。 当初探傷モードとして考えていたA0 モードは長距離探傷に向くが、傷の深さとの相 関関係があまり認められなかった。A1、S1・・・等高次モードには、信号が小さく 検出し難い問題が有るが、傷深さとの相関が認められた。 今期現場で、一個所防油堤貫通配管を対象に試験を行ったが、透過信号を得られな いという大きな問題を残した。来期は防油堤貫通配管以外の機器にも適用していくこ とで、現場での問題点の抽出と改善を行う必要性が有ると考えられる。
© Copyright 2024 ExpyDoc