レーザー核融合用大型KDP単結晶の育成

(162)
レーザー核融合用大型KDP単結晶の育成
昭和58年2月
レーザーオリジナル
レーザー核融合用大型KDP単結晶の育成
横谷篤至*・小出 博*・山室幸三*・・佐々木孝友*・山中龍彦*・山中千代衛*
(1983年1月7日 受理)
Growth of Large KDP Single Crystals fo:r Lase:r Fusion
Atsushi YOKOTANIずHiro曲i KOIDEず Kozo YAMAMUROさ
Takatomo SASAKIすTatsuhiko YAMANAκA誉and Chiyoe YAMANAKA*
(Received January, 7,1983)
Large single crystals of potassium dihydrogen phosphate (KDP〉 have
been grown by temperature decrease method for the purpose of a frequency converter
in laser fusion. The article describes how large and transparent KDP crystals
(about5cm×5cm×9cm)have been obtained and discusses how to grow muc難 more
large crystalS,
ある。結晶の大型化には工学的に種々の問題が
1.はじめに
生じ,それに伴うノウハウも必要である。筆者
最近,大出力レーザーを用いた核融合実験が
等は,高調波発生用大型KDP単結晶の製作技
精力的に行われ,ターゲットヘの吸収効率の良
術を確立し,レーザー核融合用ドライバーに供
い短波長レーザーが強く要求されるようになっ
することを目的としている。
た。しかし現段階では,大出力,短波長の新レ
2.レーザー核融合用大型KDP単結晶
ーザーが完成していないため,非線形光学効果
を用いて波長1.06μmの強力なガラスレーザ
大阪大学レーザー核融合研究センターにおい
ーの2倍高調波(0.53μm),3倍高調波(0.35
て昭和58年度完成予定の「激光懸号」ガラスレ
μm)を得これによって高い効率でプラズマ爆
ーザー12ビームシステムでは最終ビームロ径が
縮を起こし,ブレークイーブンを実現しょうと
35cmである。従って有効断面として最底36cmの
いう方向に指向している1)。 KDP単結晶は非
結晶が必要となる。このような大口径を有する
線形光学結晶として高い変換効率を持ち,かつ
結晶を育成するには極めて長期間を要し,育成
耐レーザー損傷も高いので,これまでにも数多
装置も巨大になる。高調波の発生方法には,入
く研究が行われてきたが,その用途がレーザー
小型の結晶が中心であった。大出力レーザー核
射光線に常光線のみを使用するタイプ1と常光
線,異常光線の両方を入射するタイプ且の2種
類がある。一般的にタイプHの方が位相整合角
融合装置では,ビームロ径が20cm∼40cm程度に
の幅が広く変換効率も高い。また同じ大きさの
なるので,非常に大型のKDP単結晶が必要で
結晶からは,整合角の関係からタイプHの方が
核融合のように大規模なものではなかったため
* 大阪大学レーザー核融合研究センター(〒565吹田市山田丘)
* Institute of Laser Engineering,Osaka University(YamadLa−oka, SuitaラOsaka565)
一44一
第11巻 第2号
ザー研究
レ
(163)
360
大きな結晶板を切り出せる。3倍高調波(0.35μm)
を発生させるにはまず2倍高調波(0.53μm)を作
り,これと基本波を混合させる方法が用いられ
る。タイプHを用いた時には,2倍高調波発生
用と3倍高波発生用結晶の整合角が共にほぼ60。
であり殆んど同じ形のものが採用できる2)。この
ことからタイプHの結晶の育成をここでは考え
ωOO
る。育成した結晶から2倍高調波発生用タイプ
胸 μ
Hをカットする方法をFig.1に示す。
%」1
30
ら60
Fig.2. 2×2 KDP plates array. Each plate
has a 18〉<18cm2 0f cross sect五〇n.
o
o噂
高調波の場合は96枚必要である。結晶の成長率
を1mm/dayと仮定すれば,必要な育成日数が
見積れる。これをTable Iにまとめた。 1ブ
B8r Growhg
C趣Pμ㎎
ールのKDP結晶から取れる結晶板が2枚と4
So⑧d Cry6ta響
枚の場合について示している。36cm角の結晶板
Fig。1. Cutting angle of KDP crystal for the
を得る場合を考える。1ブールから2枚取る時
type H convers ion p la te。 40cm×40cm of
には,360日で72cm軸方向へ育成させなければ
ならない。12ビーム用には12枚必要だから全部
で6ブール育成する必要がある。18cm角の結晶
cross section is required to obtain a
36cm×36cm of co nvors ion p late becaus e
of using good portion of quality in KDP
crysta1S.
図は1ブール(1成長面)について示したも
板を用いる場合には育成は195日ですむ。その
代りに24ブール育成しなければならない。高品
質の大型結晶をどれだけ速く成長させるかが育
のである。種結晶はZカット板を用い,まずキ
成のポイントとなる。
ャッピングを行い自然成長面であるピラミッド
3、KDP育成実験概要
部を作る。この部分は通常白い“ス”が多く含
まれており,高調波発生用には用いることがで
Table IIに筆者等が現在使用している育成槽
きない。キャッピング終了後バーグローイング
で透明部を成長させてゆく。36cm角の結晶板を
を示す。Small Double Vessel I,Hは溶液
内の不純物の効果,温度降下率と成長速度の関
切り出すには少なくとも40cm角の結晶が必要で
係,溶液pHと成長速度の関係等の基礎データ
ある・3倍高調波を得るためには1ビームあた
り波長変換用結晶板が2枚必要である。断面40
cm級の結晶育成には1年以上の長期間が必要と
を得るためのものである。Single Vessel I,
なるため,Fig.2に示すような4枚の結晶を組
合わせて使用する方法も考えられる。18cm角の
結晶板を用いた場合「激光翅号」での2倍高調
波発生のためにはタイプH結晶板が48枚,3倍
H,Large Double Vesse1は内容量が801で
同一の大きさを持つ。育成可能な結晶は10cm×
10cm×15cm,2ブールである。これらの装置
を用い,20cm級結晶育成技術確立のための予備
実験を行っている。この論文では育成時におけ
る母液pHの効果,不純物の影響等の基礎実験
一45一
レーザー核融合用大型KDP単結晶の育成
(164)
Table I.
昭和58年2月
Requlred time for KDP crystal growth assuming lmm/day of growth rate
of c−axis.
Number of KDP,plates from one Boule KDP crysta l.
4
Boule
Length
2
Length
time
Boule
time
36×36cm
80cm
4
400days
72Cm
6
360days
18×18cm
43cm
12
215dαys
39cm
24
195days
Table H. Propertiers of crystalhzer。
Dimension ofgrowth vessel
SDlutioncapacity
Maximum dimension ofgrowlng crystals.
Large Double Vessel
D.50cm H.60cm
801
10cm×10cm
Single Vessel I
D.50Cm H.60cm
801
10cm×10cm
S壷ngle Vessel H
D.50cm H.60cm
801
10cm×10cm
Small Double Vessel I
18×18×20cm3
6.61
3cm×3cm
Small Double Vessel H
D.23Cm H.35cm
9.61
5cm×5cm
の結果と断面5cm級の結晶育成に関して中心に
3.2育成槽
報告する。
今回主に使用したSingle Vesselの構成を
Fig.3に示す。KDP溶液は弱酸性のため金属
3.1 育成方法
は溶液中1ごとけ出すので長期間にわたる使用は
KDP結晶は水溶液から育成される。定温蒸
が主な育成方法である。大型のKDP単結晶育
不可能である。このため育成容器は内容量801
のステンレス製タンクの内部に樹脂コーティン
グしたものを用いた。外側には断熱材を巻いて
成の場合,定法蒸発法では育成槽が非常に大き
あり底部にはヒーターを接触させてある・結晶
発法,溶液循環法(温度一定法),温度降下法
くなり蒸発量のコントロールもむっかしい。ま
の支持,回転軸はアクリル材を用いている。溶
た溶液循環法では原理的には濃度を一定に保っ
液中に直接挿入されたサーミスターで温度をモ
ので理想的だが構造が複雑で雑晶が生じやすく
ニター,制御している。断面5cm級の結晶育成
には,純水301を用いて飽和溶液を作り,Zカ
なる欠点を持っている・温度降下法は溶液の溶
解度曲線がわかっていれば温度を変化させるこ
とによって容易に成長をコントロールできると
いう長所を持っているうえ構造も単純である。
ットした種結晶2個をc軸が水平に成長するよ
うに配置し,両面4ブールの育成を行った。
このため温度降下法を用いることにした。育成
Fig.4にLarge Double Vesselの構造を示
す・温度特性を向上させるため外槽部に水の層
槽内での温度分布をできるだけ一定に保っため
を設けている。
結晶を回転させながら温度を下げていく温度降
3.3温度制御装置
下法(ホールデン法)3)を採用した。
一46一
第11巻 第2号
レ ザ 研究
(165)
ホールデン法では,成長速度の調整は温度降
下率によって制御する。溶液温度は長期にわた
る育成期間,育成温度範囲で,任意に設定され
た降下率に従って忠実に作動するものでなけれ
ばならない。比例制御方式を採用し,温度設定
は,ブリッジのポテンショメータで行い,これ
をパルスモータで回転させて設定温度を変化さ
せる。温度降下率はパルス周波数によって設定
6
できる。Fig.5にその構成を示す。実際育成
を行ったシステムでは設定温度範囲は25∼100
℃,温度降下率は0.05∼1.5℃/dayの間で任
意に指定できる。またヒーターは底部に配置し
てあるため雑晶が発生した場合,その急激な成
7
8
長をさけることができる。Single Vesselの
中央部における温度降下特性をFig.6(a)に
示す。リップルの範囲は0.01℃以下である・
1.Electric drlve 2.Crysヒa書ho書der shaft 3.7hermister
4.Growing Crysta置 5.KDP So警uセ著o“ 6.Heat rnsulaヒor
7Heater 8.Supportor
Double Vesselは,Single Vesselと同様
Fig.3 Schematic drawing of Single Vessel I。
’『hermi5t6r
1
1 2
900
TriaC Load
燃
Propor罰onalContrdMothod
4
4
Tempera趣re Accuracy 士0。002。C
Temperature Contrd Range 25∼1000C
’_
一
#_二_一=一
二』丁一:r 一
=『二_二一=一_
==一二ご
} 一 一 一
『
}
=一τ
一
一
一 輔
一 一
一 一
一
『
『
『 一 _
=フーこ=.
『
1
『
一
一 } 』 _
一 『 曹 『
一 ロ
Temperature Fal瞳ng Rate O属)5∼1.5℃/day
二一,.
曽
一
『 『 胃
6
暑
↑晦唐e鵬Ma㎞Am臥願・r
Pulse Moto『
3
5
◇ 耐
π
響 『
一
o
o
o
Fig.5。 Block diagram of temperature controller.
Temperature・falling rate is determinded
bypulsefrequency.
『 o
一辱 卜
qo
『
曹 一
一 『 胃 一
一 一 _
Crystal師zer 1
(a)
一 ¶ 『
『 冒
『 一 一 _
口 『 一 一
一 糟 『
一 一 一
一 曹 r
鱒 一 響
一 一 一 一 _
} 一 _
卿
500
0.120C/day
謄 一 一
一
『 一 『 一 一 胃 辱
一
8
O、01.C
『
.1●C
7 9
2hours
『
1・日ectric drive 2.Crystal hoIder shaft 3.Heater
C『ysta昭ize『2
4汀hermister5・Gr・wingcrystal6.Pump7.Water
1。OOC/day
8・KDP solution 9.Heat insu璽ator
O.002’C
O,15◎C
0
(b》
Llmervessel(Crysta”izer》ILOutervessel
1h
1hour
Fig。6.Temperature characteristics of(a)Single
Fig.4. Sche matic drawing of Large Double Vessel.
Vessel and(b)Large Double Vesse1.
一47一
レーザー核融合大型型KDP単結晶の育成
(166)
に制御された水槽中に育成槽を配置させてあり,
昭和58年2月
溶液を直接加熱しないためリップルは少ない。
望ましい。JIS規格では鉄の許容混入量は20
ppm以下になっているが,実際筆者等が原子吸
Fig.6(b)にその温度降下特性を示す。o。oo2
光法で調べた結果では製作ロットごとにばらつ
℃以下の変動にとどまっており極めて良好な温
きはあるが,1ppm以下であった。クロム,ア
ルミは鉄より若干少なかった。この程度の不純
物混入レベルでは殆んど性癖に影響がないこと
度特性である。しかしこの程度の大きさの槽で
は,Single Vesselの温度特性で十分良好な
が育成の結果判明した。
結晶育成が可能であった。
溶媒には,イオン交換装置を通した水をさら
に石英蒸留装置により蒸留したものを用いた・
3.4 結晶回転機構
育成槽内で溶液の濃度,温度の均一化をはか
最近市販されている超濾過装置のついた電気伝
り,透明成長させるために槽内で結晶を回転さ
導度18MΩの達成できる超純水装置を用いた場
せる。回転数は3∼20r.p.m.の間で任意に設
合も良好な結果が得られた。
定できる。回転方向は一方回転と反転の指定が
でき,反転の際は,2∼180秒の回転時間と5
KDPを溶かした溶液は一担飽和点より約10。
C上に保ち十分溶解させた後5μmのミリポア
秒,あるいは10秒の回転停止時間とを組み合わ
フィルターを用い濾過を行った。
せるようになっている。ホールデン法ではこの
反転動作を入れる事が“ズ’の発生を防ぐため重
飽和点の決定には1mm角程度のKDP小結晶
要なポイントである%また,回転の開始時と停止
観察し,成長しているか溶解しているかを決め
時には,急激な運動をさけ,スムーズな加速,減速
た。約0.2℃の範囲内で飽和点の決定ができた。
を用いた。10分程度溶液に入れたあと顕微鏡で
を行う制御機構を持っている。回転機構の構成
4.育成結果
をFig.7に示す。筆者等の実験では結晶成長面
付近の流速が15cm/sec程度を超えると“ズ’の
4.1 基礎実験
発生は問題にならないことがわかった。5cm
4.1.1 pHとa,c軸の成長率の関係
級結晶育成では18r.p.m.で1分問回転させ,
通常pH調整の行っていないKDPの飽和水溶
10秒の回転停止時間をはさんで反転させた。
液は,約4.1のpHを示す。この状態では準安
定領域の幅がせまいため雑晶が発生しやすい。
3.5 母液の準備
pHを5.5∼6.Oくらいに調整すれば準安定領,
用いたKDP原料は市販のリン酸第1カリウ
域が広くなることが知られている5)。しかし育
ム試薬特級である。後述のように原料中の不純
成の晶癖が変わりc軸の成長と共にa,b軸の成
物,特に鉄,クロム,アルミの混入は結晶性癖
長が速くなり,結晶としてずんぐりした形にな
に著しく影響するので,できるだけ少ない方が
る傾向がある。育成した結晶から,結晶のa,b,
c軸の成長率とpHの関係を観察した。結果を
Fig.8に示す。Fig.8では結晶のa軸とc
2 喋P 41 2 3
5
3
ヨ
7
1臼丁lmer(丁,=2ヤ180s)
μヨ
2.De恒y G』=103》 3・Ratchet Re槍y
4.Speed C◎n廿ol Resis尭or
5.Speed Contro腿er
6.Motor (60w》 7。GearBox
Fig.7.Block(玉iagram of electric drive.
軸の成長率がプロットされており,pH4では
c軸を1mm/day程度で成長させても結晶断面
の変化はわずかである。一方pH5ではc軸の
成長とともに断面方向にも大きく成長する。用
いる種結晶の良否,種結晶に対するホールド時
の歪みの入り方,母液中のFe3+,Cr3+,Al3+イ
オンの不純物量等により同一pHにおいてもa
軸の成長率は大きく変わるのでこの曲線はpH
一48一
第11巻第2号
レ ザ 研究
(167)
の変化に対して大体のa軸の成長の目安を与え
4.1.2温度降下率と結晶成長速度
るものである。たとえばpH4の溶液で極めて
良好な種結晶を用い,ホールドをうまくしてや
ホールデン法では結晶成長速度は温度降下に
よって制御される。溶解度は温度の関数である。
ればc軸の成長率1.Omm/day位にしてもa軸
いま,温度降下によって,溶解度を時間ととも
はほとんどのびないという結果が得られた。
に直線的に降下させたとする。そのときの溶解
(a軸のび0.001mm/day以下)逆に種結晶中に
度の変化をC*
クラックや転位の多い場合,またホールド時に
C*=一α置十6
不均一な力学的歪が入っている場合には,a軸
(1)
ののびは曲線よりも大きな値となった。
とする。ここでα,δは定数,むは時間である。
またa軸の成長につれ側面(プリズム面)に
時刻孟における溶液中の濃度(100gH、0あたり)
“ス”が生じたり,クラックが入る可能性が極
をCとすると,過飽和度ムCは,
めて高くなることが常時観察された。従ってバ
△C=C−C*
ーグローイングにおいて良好な結晶育成を行う
(2〉
にはa軸の成長を極力おさえc軸のみを成長さ
せる事が重要であることが今った。これ故に育
で表わされる。pH4の場合,成長面の総面積
は一定と仮定する。これは今,a,b軸の成長を
成条件として母液のpHは4(pH無調整)を
採用した。なお成長率1mm/day位では雑晶の
無視できるので問題はない。H20100g単位に
換算した面積をA,成長率をRとすれば,単位
発生の問題は生じなかった。
時間あたりに析出するKDPの量は,pARで示
される。ρはKDPの密度である。また成長率
と過飽和度との間にはR=h(△C)Pという関係
1.00
があるので
↑a−axis
dC
一一=一ρAR一・一ρ崩(ムC)P
dむ
0.75
ヰ
C−axis
(3)
となる。これに(1),(2)式を代入して変形する
ハ
》
.邸
と,
℃
ε
ε
d(△c〉
PH5
》
+ρ崩(△c)ρ一α
0.50
又は
ユ pH4
⑪
一
邸
(4)
d孟
11R下亜+ρAR一α
し
曇
(5〉
Pん戸 d孟
参
ロ
』
g◎ 0。25
となる。従来の報告では.P−1∼2と考えられ
凝
⑩
1
ている6)。P=2のときの成長率は
6
R一々短圭2:1≡liア
0
1 2 3 4 5 6
c−axi8growセh rate {mm/day》
となる。ただしγニ2爾,C,は初期定数
である。孟とRの関係をFig.9に示す。温度
Fig.8. Effect o{ pH on the growth rate along the
降下率を,孟一〇である値から他の値へ変化さ
a and c−ax1s of KDP crystals.
せた場合,一定であった成長率は過渡状態の後
一49一
昭和58年2月
レrザー核融合用大型KDP単結晶の育成
(168)
また一定の成長率α/ρAになる。これは定常状
4.1.3 不純物の効果
態では,温度降下のみによって制御できること
大型KDP結晶育成には数ケ月以上の長期間
を必要とする。育成期間を短くするには成長速
を意味する。Fig.10に育成中に温度降下率を
変えた時の成長率を示した。自丸は実測値,実
線は上述の定常時における理論値である。結晶
の成長率は,1日程度で定常状態になっている
ことが観察された。これにより温度降上法で成
度を速くしなければならないが,あまり速い成
長率(1.Omm/day以上〉では前述のようにa,
b軸の成長のため“ス”やクラックが生じる。母液
に鉄,クロム等の3価の不純物イオンを入れた
時,イオンは結晶のプリズム面に吸着し,a,b
長率の制御が十分できることがわかった。
方向の成長率がおさえられ結晶にテーパーがつ
く名8)。そこで鉄,クロムなどの不純物を加える
R
ことにより,結晶に“ズ’,クラックを発生させ
−
ρA
ずに速く成長させることを試みた。
P=2
Fig.11はテーパー角と不純物量の関係を筆
γ呂2緬
者が測定したものである。Cr3+イオンの方が少
量でテーパーを引き起こす。テーパー角は結晶
の成長速度(過飽和度)によっても影響をうけ,
0
辱
成長率が大きい時ほどテーパーの効果は小さく
t
なる。図はほぼ1∼3mm/dayのc軸成長率に
対してプロットしたものである・
F孟g.9.Growth rate(R)vs。time.At 孟=0,
temperature falling rate was changed.
Growth rate settles down to another
growth rate・after some transitonal
次に2×10−3g/1のFe3+を不純物として断
面3cm角の結晶を育成した。Fig。12に育成完
3時の結晶を示す。キャッピング及び初期のバ
stage.
ーグローイングは成長率1mm/dayであるが,
110 0.32。C!day
0。54C/day
む
ハ
E
♂
ε
その後成長率を1.5mm/dayに引き上げ,最終
1晶、
的には3mm/dayで成長させたものである。
曾
:/
Fig.13に結晶引き上げ前の約12日間における
c軸の成長の様子(Fig.12における左半分の
ブールに対する測定)を示した。このような速
90
1/o
ロ
/? s・lidline=the・ry
』2105
×
⑩
ヨ
3
100
5
3 95
_
卜
。/1・pencircle=experiment
90
/ 1
0
Φ
m
の
ε 20
85 0 R=0.88mm/day
コ
1
2 4
!KDP
①
ロ
ワ
Cr』
l C縣axis →
迷
10
6 8 10
グ恥
Tlme(day》
Fig.10.Length along the c−axis of a growing
o
crystal versus growth tine, At4th day
temperature falling was changed from
O.32toO.54℃/day. Growth rate is
well fitted to theoretical line after 5th
・命 一3 −2
10 10 10
Concentration of impurity (9/1)
Fig.11. Effect of impurity added into the mother
h自u・r・nthetaperangle・fKDPcrystals.
day。
一50一
第且巻第2号
レ ザ 研究
(169)
瀞.
F三g.12. 3cm×3cm KDP crystal grown王n the
mother Hquor with 玉mpurity(Fe3+ 2×
10−39/1).
Fig.14.(right) 5cm×5cm KDP忌ingle crysta玉s.
Total length are 206mm 、and 215mm,
respectively.
(left) 3cm×3cm KDP crystal for com−
parison.
42
0
し41
2
’『empe『atu『e
ノロ
Length。/∋ノノ
β40
田
明部に進展してくる。結晶の歪みを持つ程度は一
。〆・/ニノ
…i
37
の
60マ
甲
ノ’ 3mm/day ひ
50》
5
o/,’
a39
}一38
70ε
ε
o1o
o−o! o/ 0− ,’,”
,’
一’ t5mm/day
36
キャッピング速度のみならず用いた種結晶の良
曾
否にも大きく影響される。種結晶が致命的なク
402
ラックを持っている時は極めてゆっくりバーグ
30
ローイングをさせてもクラックを生じてしまう
35
20
024681012
事が多い。逆に良好な種結晶では速いキャッピ
ioned in Fig. 12. Growth rate was
良好にするには何度かバーグローイングを繰り
重ncreasedfrom1.5mm/dayto3mm/day.
返し,徐々に良くしていぐよりほかに方法はな
Time(day)
Fig.13.Growth record of the KDP crystal ment−
い成長率でも結晶に“ス”やクラックなしで透
ング速度でもクラックは生じない。種子結晶を
いo
明な結晶が育成できた。不純物が結晶内部にど
Fig。14は得られた結晶の写真を示す。キャ
の程度取り込まれ,変換効率,レーザー損傷闘
ッピング完了後約一週間ごとに成長経過を追跡
値に影響を与えるか問題があるが,2∼3mm/
した様子をFig.15に,またクラックの入った
結晶の写真をFig.16に示す。断面方向に殆ん
dayの成長速度は大型KDP育成のための時間
短縮ということに対し極めて魅力的なものであ
ど成長が見られない。それぞれのブールについ
てc軸の長さと温度降下の関係をプロットした
ものがFig.17である。曲線中のパラメータは
る。
4・2 5cm級KDP単結晶の育成
一番長いブールについての成長率を示している。
Single Vessel Hを用いた5cm級結晶育成
また温度曲線については温度降下率をパラメー
の結果について述べる。前述のように断面方向
タとして示してある。育成当初は1mm/dayの
成長率をねらって0.12℃/dayの温度降下率を
の成長は好ましくないので母液はpH調整を行
,なわず(pH4.1)c軸成長率は1mm/dayまで
として育成した。種結晶として断面がほぼ5cm
用意した。キャッピング完了には約20日間かけ
保っていた。結晶は予定通り4ブール共1mm/
day前後の成長速度で成長した。キャッピング
完了後から43日目に1つのブールのピラミッド
部の一角に小さなクラックが発生し,そのブー
た。キャッヒ。ングのみを完了させるにはもっと
ルのみ成長速度が極端に速くなった。これはク
速く,たとえば10日以内でも完成できるが,早
ラックを治すべく母液からの栄養がどんどんク
×5cm,厚みL2cmのZカットKDP板を2枚
く完了した結晶は歪みを多く有しており,バー
ラック部に行くためで,このようになるとその
グローイング時にこの歪みがクラックを生じ透
ブールのみ成長が速くしかもクラックはますま
一51一
(170)
レーザー核蟻合用大型KDP単結晶の育成
75 47
{days)
14 4◎ 68
21
60
34
0
ハ
GrOwthrate‘mm/day)
で o・10(。C/day) 0.63
48
ol
o
0−89 。〃・・ρ’一1”
1.18 一一一瞬 ∂ρ一φ一響ヴ
68
14
7
28
54
85
の100
×
crack
す
昭和58年2月
Eε
) 50
=
o
ロロマ ロしマり ロじ ら
0
T 。.25390・2亀.、〃〆と〆/ 0
46 )
1・13 、㌘,
L 写y
ρ、 0.051
こ
Φ
一
1mr糠/day
0、11
0.089
50
3
42歪
a
40基
38←
010203・4・5060708090、O。
Growth Period(days)
0
(mm}
44 ①
(a)
Flg,17.Growth record of 5cm×5cm KDP
crysta1S.
(days)
75 47
明部が6cmを超えた98日目に育成を止め,結晶
をとり出した。得られた結晶の全長は206mmと
215mm(クラックの生じた方),1つのブール当
りの平均成長速度は0。85mm/dayであった。ク
50
ラックの発生がなければ1mm/dayの成長率を
◎
実現できたものと思われる。
(mml
(b)
Fig.15. Schematic drawing of growth fronts of
KDP crystals (a) without crack (b)
with one crack, Growth rate suddenly
inCreaSed after CraCking.
4.3 20cm級種結晶の育成
大型結晶を得るためには,大きな種結晶を必
要とする。C軸のみならず断面方向も同時に成
長させれば必ずクラックやスが側面部に生じる。
このため筆者等はまずクラックやスが入ってい
ても問題にせず,横方向のみを速く成長させ所
定の断面の種結晶に仕上げ,これを今度は横方
向を成長させず,バーグローイングのみで透明
成長させるという2段階法を取ることにした。
横方向のみを成長させる方法として板状結晶育
成法が以前に提案されている9)。これはZカッ
トしたKDPを2枚の板ではさみこみ,c軸を
Fig,16.Picture of KDP crystal with crack.
の獄さず,a,b軸のみ自由に成長させる方法で
Arrow shows crack.
ある。この方法を採用し,a,b軸をできるだけ
す進展する結果になる。他方健全な残り3ブー
はやく成長させることを試みた。用いた種結晶
ルには栄養が行かず成長速度は落ちる。これを
の断面は約13cm×13cmである。この結晶より凸c
さけるため温度降下率を0・051℃/dayに下げ
た。その後しばらくはクラックの入った結晶は
gle Vessel Iを用いて育成をさせた。槽の内
速い成長速度で成長していたが,72日目位にそ
径が50cmしかなく,種結晶が大きいためFig3
の影響はなくなり4ブール共ほぼ同じ成長率
になったと思われたので,再び温度降下率を
のように中央回転軸に対し,枝状にとりっけら
れないため,同軸にとりつけた。Fig.18はa,b
0・11℃/dayと速めた。 以上の経過を経て透
軸方向の成長をプロットしたものである。a,b
軸長9cmのZカットKDP柱を切り出し,Sin−
一52一
(171)
レ ザ 研究
第11巻 第2号
度降下させた。温度降下率がどこまで速くでき
であった。最終的に約19cm×19cm×9cmの角柱
にまで成長している。これをFig.19に示す。
るかは雑晶が生じるかどうかで決定される。っ
種子結晶育成には,いかに溶液の過飽和度を高
まり母液の過飽和度がどこまで大きく取れるか
く保つかがポイントであり,現在最適条件を検
によって決まる。この実験ではpHを5.2に調
討している。
軸成長率が片側で0.5mm/dayを持つ程度で温
整しているが,これはa,b軸を成長させやすく
していると同時に,過飽和度の範囲を広くして
いることにもなっている5)。雑晶が一担生じ始
5.あとがき
めると過飽和度が高いためたちまち成長してし
良質のKDP結晶を成長させるには,横方向
の成長は好ましくない。このためKDP単結晶
まい,種結晶のa,b軸の成長率は急激に落ちる。
の大型化には,種結晶の育成と,バーグローイ
実験結果ではFig.18のように2度の雑晶抜き
を行った。 a,b軸は平均片面で0.35mm/day
ングによる透明成長とを併行して行う必要があ
られているので,これをさらに20∼25cm角にま
‘cm⊃
20
婁
墨
蚕
る。種結晶としては現在19cm角程度のものが得
OC}
マα19C/幽ソ↓
↓
ゆ
蓄
0。24
L
a
b
で育成し,これを種結晶とし,バーグローイン
50
! 1mm/day
唾
ト
グによる透明成長を行う予定である。ホールデ
ン法では,槽が極めて大型になる,大型結晶を
回転させなければならないため種子結晶ホール
ド法が難しくなる等,いくつかの問題点がある
10
0.42
ので,新しい育成法として,電気透析法,溶液
30
撹判法等の基礎実験も行なっており,これらの
データも考慮して20∼25cm級育成槽の設計をす
0 10 20 30 40 50 60 70 80
Grow薯h porlod (doy3》
すめている。また,得られた結品についての,罪
Fig,18. Growth record of 19cm×19cm seed crystal
価,切断,研磨法等についても研究中である。
At starting point, cross section 13cm×
13cm。 Arrows show removing of spurious
参 考 文 献
nucleationsinm・therliqu・r.
1)AnnualRepts・・nLaserFし1si・nPr。gram,
ILE, Osaka Univ.(1982)ILE−APR−81.
2)W,Seka et a1;Opt.Commun.34(1980)469.
郵
3)A・N・H・lden:D1sc.FaradayS。c.5(1949)319.
4)R・」R・smalenetel;KristallundTechnik,
13(1978〉17.
5)結晶エ学ハンドブッグ,(共立出版, 結,晃工学ハン
ドブック編集委員会編,1972)819.
6)J・ Gars ide : 1976 Crystal Growth and
Materials, Chapter H, edited by E. Kaldis
and H, 」. Scheel, (North−holland Pub. Com.,
1977)
7)H. Jaffe and B.R.E. Kjellgren : Dlsc.
F量g。19. Pic ture of 19cm×19cm seed c ry s ta l.
Faraday Soc. 5(1949)319.
8)C。 Belout: 」。Crystal Growth44(1978)315.
9)筒井,伏見,小川:応用物理,27(1958)663.
一53一