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no.638
2015年 5 月 1 日発行(年間10回発行)
発行 東京都文京区小石川 4 − 6 −10
vol.62 no.638
発行人 松前謙司 印刷 ひでじま
認知症
62巻 4・5 合併号(通巻638号)
認知症の新たな潮流
認知症医療の新しい潮流
国立研究開発法人国立長寿医療研究センター 総長 鳥羽研二
(2)
認知症と共に生きる
認知症とともに、よりよく生きる∼日本認知症ワーキンググループ設立の背景を りながら∼
のぞみメモリークリニック 看護師、日本認知症ワーキンググループ 事務局 水谷佳子
(6)
レビー小体型認知症の方の思いと適切な支援に向けて
レビー小体型認知症サポートネットワーク東京 代表 長澤かほる
(11)
人を見つめる認知症医療
いずみの杜診療所 医師 山崎英樹
(15)
認知症の合図
シヌクレインイメージング
東北大学大学院医学系研究科 機能薬理学分野准教授 岡村信行
(20)
認知症のエピソードをどう聞き取るか?
筑波大学附属病院 認知症疾患医療センター精神保健福祉士 江湖山さおり
(25)
レビー小体型認知症を早期に診断するために
睡眠障害とDLB
ながみつクリニック 院長 長光 勉
(29)
名古屋大学大学院医学系研究科 睡眠医学寄附講座講師 藤城弘樹
(35)
疾患概念Up Date
PDDとDLB
順天堂大学医学部 脳神経内科、老人性疾患病態・治療研究センター教授 服部信孝
(42)
脳血管と認知症の新しい関係
岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 脳神経内科学教授 阿部康二
(50)
老年期うつと認知症
筑波大学大学院人間総合科学研究科 ヒューマン・ケア科学専攻 健康社会学・ストレスマネジメント分野教授 水上勝義
(65)
薬物治療
まだできることを少しでも長く行うための薬物治療
アリセプトⓇ服薬継続のための剤形選択
東北大学CYRIC 高齢者高次脳医学教授 目黒謙一
(70)
日本医科大学武蔵小杉病院 神経内科部長 石渡明子
(76)
DLBに対するアリセプトⓇの至適用量とは
社会医療法人愛生会 総合上飯田第一病院 老年精神科部長 鵜飼克行
(81)
これからの展望
認知症国家戦略とは
東京都健康長寿医療センター研究所 自立促進と介護予防研究チーム 研究部長 粟田主一
(87)
認知症研究:これからの展望
日本認知症学会 理事長、公益財団法人東京都医学総合研究所 秋山治彦
(92)
認知症疾患診療ガイドラインの改訂に向けて
鳥取大学医学部 脳神経医科学講座 脳神経内科学分野教授 中島健二
(98)
私の座右銘(第423回)
国立研究開発法人国立長寿医療研究センター 総長 鳥羽研二
(表 2 )
連載 GPのためのセミナー 先端医学トレンド140
連載 1 f
大阪大学大学院医学系研究科 老年・腎臓内科学 竹屋 泰
(57)
聖路加国際病院 顧問 細谷亮太
(106)
表紙 国立研究開発法人国立長寿医療研究センター 総長 鳥羽研二先生
CODE CN
(1)638
表紙の人
﹁滅多に人を褒めない鳥羽先生から評価された﹂
など、いつも人を評価こそすれ、辛口はカレーの
みにしている自覚症状とは違っている。
留学中には﹁出たデータは真実で、それに忠実
であれ﹂と学び、仮説が否定されたときにむしろ
喜ぶ悪い癖︵?︶が身に付いた。しかし内部の研
究評価では常に、この重要性は口を酸っぱくして
くように名付けられたが、未だしである。東京に
の門病院病院長︶からいただき、いまでも成る程
東京大学では﹁組織で本当に働いているのは少
数である﹂という励ましを、大内尉義教授︵現虎
言い渡してきた。
出るときには﹁朝はしっかり起きるように﹂と母
ても過言ではないだろう。学問と人格の二つを研
もった珠玉に満ちている。日本語の芸術性といっ
幼少から初老に至る現在まで、近しい人の言葉
や、書物の中は、人生の季節にふさわしい彩りを
ことにし た 。
て、あれこれ考えるいい機会であり、引き受ける
そんな事情から、﹁座右の銘﹂を頼むのに最も
不適切な人選とは思ったが、心に残る言葉につい
の憂き目に遭うだろうなどと日頃から思っていた。
から言われた。若いときは苦痛であったが、最近
巻頭言で﹁座右の銘﹂を依頼された。
はなぜか苦もなく早く起きられるようになった。
いろいろな世界で、これらを依頼される人は、刻
結婚式では﹁人の心の痛みを悉る﹂ことを父か
苦勉励であると同時に、融通無碍であり、場合に
ら 遺 さ れ た が、 忸 怩 た る も の も あ る。 周 囲 か ら
よっては一刀両断であり、一つの銘では停滞や倒産
私の座右銘 第423回
と合点し て い る 。
杏林大学では、臨床への傾注から得がたい宝を
もらうこ と を 学 ん だ 。
国立長寿医療研究センターでは、周囲の反対も
押し切って、最初から大規模なもの忘れセンター
を開設した。経営面の不安はすでに解決済みであ
り、スタッフの成長がセンターの理念とシンクロ
ナイズするのに2年はかからなかった。
認知症医療の理念と実行に対して成熟した組織
となった。ここから得られた血液、髄液、心理検
査、画像は国立長寿医療研究センターバイオバン
クに毎年1、000 例近く蓄積され、1 万症例の
認知症のビッグデータになる日も遠くない。還暦
を越え、小林秀雄の﹃考えるヒント﹄
﹁還暦﹂の
中で、忍耐は時間への尊敬であり、円熟は時間へ
の信頼であるという言葉は、最近胸におちる一文
まみれると、経験年数とは無関係である。
からの後悔であり、技術の円熟はスコアへの欲に
である。一方、趣味のゴルフでは、忍耐は﹁あの
もの忘れ外来を始め、外来患者が順調に増加し、
とき我慢すればよかった﹂と過去に学ばないあと
データベースを縦断的にきちんととれるように、
ど﹁経営指標﹂との整合性に3年以上かかり、外
﹁もの忘れセンター﹂を提案した。場所、人員な
総長︶
かくように、座右の銘は脆いものである。
来開始から6年目にようやくオープンした。かん
︵国立研究開発法人国立長寿医療研究センター
しゃく玉はよく破裂していたが、辛抱の意味が後
からわか っ た 。
表紙の人 鳥羽 研二 トバ ケンジ
認知症医療の新しい潮流
鳥 羽 研 二
認知症施策と認知症サミット
平成 年の認知症有病者は軽度を含め462
万人と推測され、生活自立度Ⅱ以上の、生活に
なんらかの助けを要する認知症者数は、介護保
険データから305万人︵平成 年推計373
万人︶であることも公表された。
平成 年度に策定された認知症対策5か年計
画︵オレンジプラン︶は重点項目として
29
1.
標準的な認知症ケアパスの作成・普及
2.
早期診断・早期対応
3.
地域での生活を支える医療サービスの構築
4.
地域での生活を支える介護サービスの構築
5.
地域での日常生活・家族の支援の強化
6.
若年性認知症施策の強化
7.
医療・介護サービスを担う人材の育成
をあげ、平成 年度以降市町村に順次事業を移
これらの認知症のケアが評価され、平成 年
計画である。
26
管し、平成 年からは地域支援事業に移行する
27
30
2
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(378)
24
24
月5、6、7日に、認知症サミット日本後継
イベント︵ Global Dementia Legacy Event Japan
︶
が本邦で開催された。
︶も必要
Robot
本邦における認知症医療の新しい潮流
各国で合意された内容は、次のとおりである。 以上の背景をふまえ、先進国と比較して本邦
の取り組みの課題を勘案すると、新しい認知症
認知症施策、町づくりへの本人の参加
予防は1次、2次それぞれに適切な時期に適
療、ケア、リハビリが必要
が必要︵当事者参加、 Dementia in place
︶
認知症の対応にはステージに応じた適切な医
各国の認知症対策の基本的理念で、当事者
小説より奇なり﹂で、想像を超えた医療介護が
想像するのと、現実の困難の相違は、
﹁事実は
重みも、内容も同一ではない。おかれた状態を
てきた。しかし、当事者目線と当事者の発言は
認知症患者本人が参加する町づくり
認知症の人ができるだけ地域で暮らすことは、 医療の潮流は以下の点になっていくだろう。
切な場での対応が必要
求められる。
が参加した、認知症に理解が深い町づくり
000人以上診察してきた。当
認知症を2、
事者目線を意識し、家族教室で本人参加も行っ
メモリークリニック、初期集中支援チーム、
ケアは評価されているが、インクルージョン
介護予防サロンなど早期診断・早期対応は
︵参画︶が不足しているというのが本邦の課題。
ケアについて、ケア従事者への支援が不可欠
交通など町づくりに発言していく機会を設ける
本人が行政や医療、福祉機関だけでなく、商店、
重要
である︵介護負担︶
行政レベルだけではなく、民間の力︵ICT、 ことが、認知症で穏やかに暮らせる町づくり、
(379)
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ケアの実情を行政と医師会が把握する
と処方﹂だけに終わっている場合も未だ少なく
診断だけでは、病状の変化や生活の不安解消
に不十分である。場合によっては﹁病名の告知
重要である。
認 知 症 に 理 解 が 深 い 都 市︵
Dementia
Friendly
早期診断機関の生活相談機能
︶の合意に合致する。
City
住民参加で、地域の認知症医療と
仕組みづくり
ない。
地域ケアパスを市区町村で策定し、住民の理
進行に応じたケア方法、ケアを補助する介護
解、安心を得なければならない。医療福祉機関
保険の仕組み、医療機関の役割分担を説明して、
機関へ移ったらどうなるか、本人に最適な場所
夫ですよ﹂という説明と情報提供を行うべきで
﹁どのような時期で、どのような症状でも大丈
はそれぞれの﹁持ち場﹂であるが、他の施設や
はどこかという﹁持ち場を超えた発想﹂が当事
ーカー︶
、MSW︵医療ソーシャルワーカー︶
者や家族には切実な問題であるにもかかわらず、 ある。医療機関のPSW︵精神科ソーシャルワ
連携の二文字の中には十分なシステムやノウハ
は必要に応じて、経過中の横断機能を、ケアパ
ならない。地域包括ケア会議の中で、身体介護
初期支援チームによる介護保険アクセス増加
サービス機関の協力体制による早期対応
初期集中支援チームと多様な既存の
算定を新しく策定する必要がある。
るものとし、情報提供についての介護保険での
スに載った連携医療介護機関の相談者と連携す
ウが持ち込まれてこなかった。
ケアパスの作成の指針としては、地域での認
知症諸段階における、医療ケアサービスの資源
マップを平成 年度に完成させ、平成 年度ま
と認知症介護の二本柱として位置づけることが
でに不足の資源を補強する計画を立てなければ
30
4
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27
見守りのスマートハウス、家事援助機器、移動
計され、認知症に関する会話、傾聴ロボット、
カフェ、物忘れ家族教室など多様なサービス形
介助機器、注意力低下を補う交通機器など、テ
は %増にとどまり、介護予防サロン、認知症
態の中で、初期支援の啓発、情報提供を行うべ
クノロジーの開発協力は喫緊の課題である。
認知症治療研究
ネットワーク、コホートを生かした
が求められる。
徘徊など、介護のみでは解決しない問題には、
ICTや交通テクノロジーも参画した町づくり
きである。特に、初期支援チームへの﹁認知症
患者の扱いで困っている﹂という情報提供の半
数は家族からであり、多様な窓口の必要性を示
唆している。
ケア従事者の介護負担感を評価
認知症ケア従事者の介護負担感は、BPSD
︵
︶にもっとも影響を受けるが、介護が
Dementia
長引くにつれ同じ状態でも、介護負担感は漸増
医療機関のネットワークや住民コホート研究は
受け皿としても、新薬の治験の受け皿としても、
Behavioral and Psychological Symptoms of ハイリスクアプローチだけでなく、ポピュレ
ーションアプローチを行うために、国際研究の
し、負担感増大にともなう、うつ、虐待などが
これまで以上に重要となっていくだろう。
総長︶
︵国立研究開発法人国立長寿医療研究センター
課題となっている。
ICT、ロボット、
家族教室で介護負担軽減の報告があり、早期
に介護負担をスクリーニングする仕組みが必要。
交通テクノロジーを結集した認知症対策
平成 年の介護者の不足は100万人とも推
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16
●認知症と共に生きる
認知症とともに、よりよく生きる
意見発信の支援
∼日本認知症ワーキンググループ
設立の背景を辿りながら∼
はじめに
水 谷 佳 子
1996年、島根県出雲市のデイケア﹁小山
﹁今後、認知症の人の数が増え続けることが
予想される中、私たちが望むのは、認知症にな
のおうち﹂に通う 歳の認知症の女性が手記を
月、認知症当事者によるグループ﹁日本認知
て暮らせるようになることです﹂
。2014年
った本人も、その周囲の人たちも、希望をもっ
が、認知症があることを公表し講演した。以降、
アルツハイマー病協会国際会議で越智俊二さん
発表。2004年には、京都で開催された国際
84
た。当初のメンバーは、 代から 代の認知症
症ワーキンググループ︵J DWG︶
﹂が発足し
診断された人の数から考えるとごく少数だった。
認知症がある人の発信はあるものの、認知症と
1)
80
WGメンバーと設立以前からのつきあいがあっ
2011年﹁認知症当事者の意見発信の支
援﹂を活動の軸に、有志が集まり動き出した。
この頃からのつきあいだ。主な活動は、発信の
J DWG共同代表の一人、佐藤雅彦さんとは、
と診断された男女 人。縁あって筆者は、J D
40
た。その中で筆者自身が体験してきたことの一
部を紹介したい。
11
6
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10
の記録などだった。
場づくり、環境調整、移動時のサポートや発信
月。初回案内の趣旨をふり返ると、以下の記述
け、第1回勉強会を開催したのが2012年9
い﹂
。そんな佐藤さんのひと言から、
﹁3つの会
なく話し合ったり、情報交換できる場が欲し
自分なりにどう生きていこうとするのか?
世界はどう見えるのか?
----自分が認知症になった時、
がある。
﹂が生まれた。掲示板には、認知症があ
web
る人の意見や情報交換、眠れぬ夜のつぶやき、
何が助けになり、
サイトをつくる
ほぼ同時に始めたのが web
こと。
﹁認知症の人同士が、時間や場所に関係
診断後のショックが投稿されることもある。サ
医療やケア、社会に求めることは何か?
@
認知症そのものや人の暮らしと社会、医療、
﹁当事者﹂の視点から
どんな不自由を感じ、
イトの管理運営も発信支援のひとつである。
当事者視点
ケアを見つめ
性を追究し、未来への手がかりを得る。
﹁認知症と生きるということ﹂の現実と可能
いい話聞いた﹄で終わっちゃう。その後がない
そんな営みを、
﹁認知症当事者研究﹂として
発信支援の中で、こんな声を耳にした。
﹁あ
ちこちに呼ばれて講演するのはいいけど﹃ああ、
んだよね﹂
。意見発信の先にあるものとは│。
始めてみたいと思います。
そして﹁何かやってみよう﹂と始まったのが、
﹁認知症当事者研究﹂勉強会だ。佐藤さんをは
---- 当事者の視点から。つまり、認知症がない人
じめとした認知症がある人を含む9人が呼びか
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2)
ものだ。認知症がある人の発信の間近にいた筆
症と生きるということ﹂を考えてみる、という
くった時点で、別の﹁視点﹂が生まれてしまう。
も読める。今考えてみると、ある﹁視点﹂をつ
らず﹁認知症とどう生きるか﹂を考えよう、と
症とどう生きるか﹂を考える。視点にはかかわ
者はその苦悩を知るにつけ、自分自身が認知症
もちろん、別々の視点からものごとを多角的に
も﹁もし自分だったら﹂という視点から﹁認知
と生きる希望を見いだせず、無力感に打ちのめ
捉えることは、全貌を明らかにする際などには
人の体験︶
、医学的視点、社会学的視点などか
有効だ。例えば﹁認知症﹂を、当事者視点︵本
された。
視線の先
視点が違えば見えるものが違うのだ。
ら記述するような場合だ。視点が多ければそれ
不定期ながら回を重ねていくうち、勉強会の
趣旨は微妙に変化していった。2014年1月、 だけ﹁認知症﹂が見えてくる。言いかえれば、
第4回の案内には、以下の記述がある。
﹁認知症になってからどう生きるか?
ってから希望をもち、人生を生ききる姿のあり
う│そんな変化を感じた。筆者は、認知症にな
認知症と生きる希望という﹁同じ未来を見
る﹂ためには、視線の先に何を見るかを考えよ
どう生きられるか?﹂ということを
ようを考え始めた。
----﹁認知症当事者研究﹂勉強会は
認知症の本人を含む参加された皆さまが
一緒に考える場です。
﹁認知症と生きる人﹂
----そんな頃、
﹁3 つ の 会
認知症がある人も、ない人も、ともに﹁認知 @
﹂掲 示 板 に 次 の
web
8
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(384)
ち﹂になった。視野が開けた。
﹁私たち﹂が何
がえのないものにするのは﹁私たち﹂自身だ。
投稿があった。ハンドルネーム紫野さんだ。
----認知症と生きる人。
それが、未来の姿になっていく。
をするか。どう生きるか。今、この時間をかけ
その解釈はそれぞれかもしれません。
私は初め、認知症と診断された人と
﹁認知症アクション連
後に知ったことだが、
合﹂というアイディアがある。英国アルツハイ
最近は、認知症ということに関わる人も
消防や図書館、サッカーチームや鉄道会社も参
マー病協会が主催し、医療、ケアだけではなく、
解釈していました。
認知症と生きる人ではないかと
加する。彼らを繋げているのは、
﹁認知症の影
冒頭で紹介したJ DWGの文言﹁私たちが望
むのは、認知症になった本人も、その周囲の人
﹁私たち﹂が、つくる
という考え方だ。
響を受ける人々︵ People Affected by Dementia
︶
﹂
考えるようになってきました。
医師、看護師、介護現場にいる人、
認知症の人と暮らす人・友達が認知症の人、
職場に認知症の仲間がいる人⋮
認知症と診断された人の周りにいる人も
認知症と生きる人⋮
実際に築いていくためには、認知症を現に体験
たちも、希望をもって暮らせるようになること
---- 認知症ということに関わる人も、認知症と生
きる人。│支える側と支えられる側という境界
している本人だからこそ気づけたこと、試行錯
です﹂
。これには続きがある。
﹁そういう社会を
が 消 え、
﹁認知症をきっかけに繋がった私た
(385)
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3)
誤したことをもとに、よりよく生きていくため
の医療やケア、社会のあり方を、認知症の本人
自身が提案していくことが必要不可欠です﹂
認知症がある人、ない人、それぞれが提案し
あい、ともにつくる。
﹁私たち﹂がつくる今こ
の時間がかけがえのないものであれば、視線の
先に﹁希望をもって暮らす﹂未来の姿が見える。
この営みが重ねられることで、
﹁認知症と、よ
りよく生きる﹂ことを誰もが実感できる日が、
必ずやってくるだろう。
︵のぞみメモリークリニック
看護師、
日本認知症ワーキンググループ
事務局︶
10
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文献
﹁日本認知症ワーキンググループ﹂設立趣意書
@
3つの会
web http : //www.3tsu.jp/
︶
認知症アクション連合︵ Dementia Action Alliance
http://www.dementiaaction.org.uk/joint_work/
dementia_friendly_communities
3) 2) 1)
●認知症と共に生きる
レビー小体型認知症の方の
思いと適切な支援に向けて
長
澤
かほる
されるほど﹁認知症にだけはなりたくない﹂
症だという点が強調された思い込みから、DL
せん。一方、専門職側は非常にやっかいな認知
見ればまだ十分知られていない病気かもしれま
が功を奏しているとはいえ、広く世間一般から
ここ数年、レビー小体型認知症︵以下DL
B︶を正しく理解してもらうための様々な活動
人﹂という一般の人が持つ認知症のイメージを、
できなくなった人、危険なこと汚いことをする
もわからなくなってしまった人、自分では何も
施設の建設に反対することさえあります。
﹁何
症の人がここの土地に来てほしくない﹂とケア
知症になった人たちを苦しめています。
﹁認知
認知症に対する理解の実際
Bの利用者を受け入れることに躊躇する場合も
なかなか払拭できないのが現状です。
﹁ガンに罹った方がまし﹂という声が増え、認
あります。
DLBのみならず認知症に対する偏見や誤解
を取り除くための取組みは、公民各方面で実施
されていますが、実際はどうでしょうか。知ら
(387)
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﹁認知症﹂という言葉とのギャップ
﹃認知症﹄に絡んだ病名がつくのはとても不自
ら、本当に普通に生活できている。今の自分に
た。
然に思えるし、つらい﹂とおっしゃっていまし
︱
﹁認知症﹂
の定義が当てはまらない場合もある
DLBと診断されたご本人や介護するご家族
との交流会で、比較的多く出る意見の中に﹁D
実際、ご自分で作成したパワーポイントを使
LBと診断されたが、当人にどのように伝えた
って講演されたのですが、そのことを自ら紹介
したときには会場に驚きの声があがりました。
らよいかわからない。
﹃認知症﹄という言葉に
非常にショックを受けると思うので、説明に困
その声の意味が﹁DLBなのにこんなスライド
あるべきだと強く思いました。
わかりやすく素敵にできている﹂という評価で
が作れてすごい﹂ではなく、
﹁このスライドは
っている﹂というものがあります。
﹁認知症﹂の狭義の意味としては﹁いったん
獲得した知能が後天的に低下した状態﹂のこと
を指すわけですが、早期診断を得たときは、ど
︱心理面を理解して寄り添う
DLBの症状とその対応の例
ょう。
に﹁レビー小体病﹂と説明することも適切でし
認知症という言葉を当人や家族がどう受け止
のような原因疾患であっても﹁認知症﹂の定義
めるかによって、小阪憲司先生が提唱するよう
が当てはまらない場合もあります。DLBの場
合はましてそう言えるかもしれません。
先日、DLBと診断された若年の女性の話を
聞く機会がありました。
﹁幻の虫がいっぱい見
疲れやすくなったこと以外は何も変わっていな
DLBの症状は多岐にわたりますが、すべて
えたこと、ぼーっとする状態が突然来ること、
い。きちんと診察を受けて出された薬を飲んだ
12
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(388)
部品︶を一緒に取り外し、中を確認してもらっ
いましたが、光線が出るという箱︵サッシ窓の
父は﹁ここから光線が出て、外から子どもが
が同時に出現するわけではありませんし、すべ
ゾロゾロ家に入ってくる﹂という幻視に悩んで
ての人にすべての症状が出るわけでもありませ
ん。
■幻視
たところ﹁こんなところから光線が出るはずは
ない﹂と理解でき、その後その幻視は出なくな
りました。
否定︵感情的に拒絶︶も肯定︵自分にも見え
る︶もしないことが前提ですが、もしトイレの
ドアを開けたとき﹁人がたくさんいる﹂のが見
■妄想
(389)
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えたら、怖い、気持ち悪いなどの感情が湧くで
妄想
原因が幻視にあることが観察されます。妄想
しょう。そのような心理面を理解して寄り添う
のベースに独特の理解があるのです。
幻視と錯視
ことが大切です。
DLB の様々な症状
認知機能の変動
気を配るべきことは、自分自身の高熱が出たと
いるとき﹂にはどのように対応したらよいか、
父は家の中の至る所に男の人が見えていまし
たから、洗面台に置いたカミソリの刃を﹁いつ
きの体験に照らして考えればよいことです。
おわりに
の間にか誰かが持って行ってしまう﹂と思い込
んでいました。カミソリの刃を買い直すとか、
ストックを使う、という提案は意味をなしませ
ん。刃がなぜか無くなる﹃事実﹄に対して生じ DLBは全身病と言われるだけに、他にも自
律神経症状、レム睡眠行動障害、抑うつ症状、
パーキンソン症状などがあります。個々の人に
る不安な気持ちを﹁不安だ﹂と言葉に表せたと
き、そしてその気持ちを理解してもらえたと自
よってどのように支援をすることが適切なのか、
ケアの基本はある程度確立していますが、個性
覚したときに落ち着きを見せました。
■認知の変動
切です。
に合わせて応用させていくこと、
﹁もし、自分
﹁ぼーっとしているときとはっきりしている
ときがある﹂と言う表現で説明されてきました。 だったら﹂を常に意識して応じていくことが大
しかしこの状態は、今まで外からの観察でしか
︵レビー小体型認知症
サポートネットワーク東京
代表︶
とらえられませんでしたが、前述の女性が﹁ぼ
ーっとしているとき﹂とは、
﹁例えるならどう
しようもない高熱が出ているときに似ている。
体を動かしたくない、何も考えたくない、ただ
寝ていたい、という感覚﹂とわかりやすく説明
してくれました。それであれば﹁ぼーっとして
14
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(390)
●認知症と共に生きる
人を見つめる認知症医療
はじめに
山 崎 英 樹
90年頃だ。
﹁日本では血管性痴呆が主で、ア
子曰く、其れ恕か。己の欲せざる所、人に施す
一言にして以て終身これを行うべき者ありや。
000億円の市場/1998年承認取消︶か、
ら思えばほとんど効果のない薬︵当時年間1、
いわゆる脳代謝循環改善薬という、これも今か
子貢問曰、有一言而可以終身行之者乎。子曰、 ルツハイマー病は稀である﹂という、今から思
其恕乎。己所不欲、勿施於人︵子貢問いて曰く、 えば誤った見解がまかり通っていた。治療も、
こと勿かれ︶
。
ったく否定するものではないが、鍵をかけられ
の紹介状を書いたこともある。精神科病院をま
にまるで免罪符を与えるように、精神科病院へ
副作用の強い薬が主流であった。
医師として 年余りを過ごしてみて、どれだ
BPSD︵行動・心理症状︶は問題行動と呼
け恕を実践できたのか、実に心細い気がする。
ばれ、介護保険制度はまだなく、疲弊した家族
認知症医療の歴史
大学の﹁もの忘れ外来﹂
︵当時は痴呆外来と
いう看板だった︶を私が手伝い始めたのは19
(391)
CLINICIAN Ê15 NO. 638
15
30
なものであった。
縛られたりするその療養環境は、やはり気の毒
的扶助、社会福祉、社会保険を充てた︵社会保
層、一般所得階層の三つに分け、それぞれに公
認知症や老人の医療では、まるで老いを治療
しようとするかのごとき滑稽な喧騒に、本人や
容︶として方向づけられ、そのために施設の整
福祉は低所得層にたいする行政処分︵措置収
障制度審議会・昭和 年勧告︶
。それで、社会
家族を巻き込んでいくことがしばしばある。こ
科等の専門科による、医療の専門性を活かした
する。新オレンジプランには、
﹁精神科や老年
なくとも医療はもはや主役ではないような気が
う福祉︶がこれほど広まってきたのだから、少
医療が無用というつもりはないが、介護︵とい
効率性からも︶是正するものとして介護保険が
改めていうまでもなく、この不整合を︵経済的
の必要な高齢者をカバーしていくことになった。
いながら、いわゆる社会的入院という形で介護
険︵主に医療保険︶は福祉の利用しにくさを補
もなう利用しにくいものとなり、一方、社会保
の領域は、どうも医療より福祉ではあるまいか。 備が遅れ、所得審査や家族関係などの調査をと
介護サービス事業者等への後方支援と司令塔機
登場したわけだ。
う流れだ。
神病という流れ、もう一つは寝たきり老人とい
かつて医療保険が老いを支えた時代、その医
療の疾病観には二つの流れがあった。一つは精
制度に影響される疾病観
能が重要﹂とあるが、司令塔はさすがにおこが
ましくて、むしろ恕に薄かった﹁歴史﹂を静か
にふり返り、これからは縁の下のサポートに徹
するべきではないか。
もっとも、その﹁歴史﹂は医療者だけの責任
ではない。高度経済成長を支える社会保障政策
として、日本は国民階層を貧困階層、低所得階
16
CLINICIAN Ê15 NO. 638
(392)
37
会的入院を、今度は精神病と寝たきり老人に色
社会保障政策であったわけだ。老いに対する疾
分けして制度的にも担保してきたのが、日本の
﹁精神障害等手のかかる老人は措置せずともよ
病モデルは、政策的に誘導されたものでもある
昭和 年制定の老人福祉法によって創設され
た特別養護老人ホームにおいて、翌 年には
し﹂という厚生省︵現厚生労働省︶福祉課長通
わけで、誠に根深いと言わなければならない。
﹁認知症=終わり﹂という誤解や偏見を深く醸
そして、この強固に練り上げられた疾病観が、
性痴呆疾患専門治療病棟の創設につながり、日
63
が、社会的・文化的な問題を緩和するために行
62
ルスケア資源の乱用、文化的に不適切なケアに
対する患者の治療拒否や不満を生む﹂と指摘し
ている。
本人からの発信
老いを医療保険が支え、そうして生まれた社 最近、若年発症の方々を中心として、ご本人
老人保健施設が創設された。
保健法で老人病院が制度化され、昭和 年には
57
には有害な専門的ケアを生むばかりでなく、ヘ
らも﹁これからの精神科病院は、認知症高齢者
一方、昭和 年の厚生白書に﹁寝たきり老人
対策﹂という言葉が登場し、老人を専門とする
がなされるようになる。
われる場合があり、結果的には効果のない、時
1)
の入院治療に目を向けていくべき﹂という発言
の理事長研修会では、厚生省の精神保健課長か
本精神病院協会︵現日本精神科病院協会︶主催
は、人々の疾病観が社会システム
Kleinman
に及ぼす影響を人類学的に調査し、
﹁治療行為
成してきたようにも思うのだ。
開かれた。こうした疾病観が、昭和 年の老人
達が出され、昭和
年の日本老年医学会では
39
﹁老人呆けは精神障害﹂というシンポジウムが
44
病院の急増を受けて昭和 年に制定された老人
44
(393)
CLINICIAN Ê15 NO. 638
17
38
ダイアナ・マクゴーウィン︵1993年︶やク
の言葉に接することが多くなった。きっかけは
い﹂
通に暮らしていけるように手助けをしてくださ
この、ごく当たり前の言葉が、しかし本人自
リスティーン・ボーデン︵1998年︶の著作
身からありのままに発せられたことは、やはり
開治さん、松本照道さん、太田正博さんらが続
二さんが初めて実名で講演した。その後、一関
た国際アルツハイマー病協会国際会議で越智俊
かしく思うようになった。人を見るまなざしが、
恕の薄い医療のなかで過ごしてきた自分を恥ず
聴くにつれて、かつて気の毒とは思いながらも
画期的なことであった。彼らの本を読み、話を
であり、日本では2004年に京都で開催され
き、2014年には日本認知症ワーキンググル
スムーズに受け入れられていった背景には、
藤田和子さん︶が設立された。こうした動きが
すことに努力はしたけれども、本人の想いには
のだ。自分の恕は、せいぜい紐を解き、鍵を外
他ならぬ自分であったと否応なく気づかされた
ープ︵共同代表 佐藤雅彦さん、中村成信さん、 練り上げられた疾病観でよほど濁っていたのは、
﹁疾病を見つめる医療﹂から﹁人を見つめる介
とても及んでいなかった。疾病を見つめながら
う。
時代の認知症医療には求められているのだと思
ように自らを本当に変えることが、実は介護の
も、やはり人を見つめ、人と関わること。その
護﹂への変革が、介護保険制度の定着によって
急速に進んだこともあろう。
越智俊二さんは、講演でこう訴えた。
﹁家族やまわりの皆さん、この病気はもの忘
れだけです。
︵略︶もの忘れがあっても、いろ
いろなことができます。考えることもできます。
あきらめずに生きていけるように、安心して普
18
CLINICIAN Ê15 NO. 638
(394)
2)
診療に当たる医師として
そのように反省しながらも、医者である自分
にできることは限りがある。ご本人の生活の不
自由を、認知症という言葉を頼らないで症候学
文献
Kleinman 著
A 、大橋英寿ら訳 臨床人類学│文化
のなかの病者と治療者、弘文堂、東京︵1992︶
著、中村洋子訳 私が壊れる瞬間│
McGowin DF
アルツハイマー病患者の手記、ディーエイチシー、
東京︵1993︶
1)
著、山田邦男・松田美佳訳 それでも人
Frankl VE
生にイエスと言う、春秋社、東京︵1993︶
2)
3)
的に代弁し続けること。BPSDと呼ばれるも
のさえ、ケアの物語に変えていく介護スタッフ
の力を信じて応援し続けること。ご本人やご家
族の集まりにできるだけ顔を出すこと。告知や
胃ろうについて謙虚に向きあい続けること。で
きれば看取りまで関わらせていただくこと。
﹁私の体の分子の一つ一つが、私が存在して
いることを、誰かにそれを認めてもらいたいこ
とを、大声で叫んでいる﹂
︵ダイアナ・マクゴ
ーウィン︶
心ならずも脳を患って認知症と呼ばれる人が、
その深い孤独を超えて人生の意味と再び出会え
︵いずみの杜診療所
医師︶
ありたいと願う。
るように、少なくともその邪魔をしない医者で
3)
(395)
CLINICIAN Ê15 NO. 638
19
2)
●認知症の合図
岡 村 信 行
PETイメージングは可能か?
α シヌクレインの
本目的に適う理想的なバイオマーカーとなる。
ジトロン断層法︵PET︶で画像化できれば、
ーカーが必要である。α シヌクレイン蛋白をポ
シヌクレインイメージング
はじめに
レビー小体の主成分であるα シヌクレイン蛋
白は、その凝集の過程で毒性を獲得して神経変
性の誘因となる。したがって同蛋白の細胞内蓄
積を抑止することが、パーキンソン病やレビー
小体型認知症の根本的治療薬開発の目標となる。
将来、このようなα シヌクレインを標的とした
α シヌクレイン蛋白を画像化する上で実現可
能性が高いと考えられるのは、ミスフォールデ
積したα シヌクレイン蛋白を高感度に検出し、
ることが重要である。そのためには生体内に蓄
経変性がなるべく軽微な段階から治療を開始す
用化されているアミロイドやタウのPETイメ
Tプローブにする方法である。これはすでに実
低分子化合物をポジトロン核種で標識し、PE
ィングによって形成されたβ シートを認識する
新規治療薬を医療に導入するにあたっては、神
その蓄積をモニタリングできるようなバイオマ
20
CLINICIAN Ê15 NO. 638
(396)
①パーキンソン病(左)
、レビー小体型認知症(中央)
、多系統萎縮症
(右)患者の脳切片における、BF-227染色像(上段)とαシヌクレ
イン免疫染色像(下段)
ージングと同じ原理である。既存のアミロ
イドPETプローブの中にも、α シヌクレ
イン蛋白に結合するものが存在する。それ
示すことが、合成ペプチドを用いた結合ア
は筆者らが開発した [11C]BF-227
である。
本プローブはβ アミロイド線維だけでな
く、α シヌクレイン線維へも高い親和性を
1)
すように、蛍光化合物であるBF 227
ッセイによって確認されている。図①に示
2)
は、パーキンソン病患者の中脳に沈着した
レビー小体を明瞭に染色する。またレビー
小体型認知症の帯状回に沈着したレビー小
体も明瞭に染色するが、同時に老人斑も染
色されてしまう。したがってアミロイドβ
蛋白とα シヌクレイン蛋白の病変が混在す
る場合、画像所見の解釈が難しくなる。
実際にレビー小体型認知症の患者では、
アルツハイマー病患者と同様のプローブ集
積が大脳皮質で広汎に観察される。またパ
(397)
CLINICIAN Ê15 NO. 638
21
−
1)
(筆者提供画像)
矢印はレビー小体、矢頭は老人斑を示す。
の患者は PiB-PET
でも陽性所見を示すことか
ら、主としてβ アミロイド病理像をBF 22
大脳皮質への集積が観察されているが、これら
ーキンソン病患者の一部でも、BF 227の
することから、病変進行のモニタリングに本イ
おけるプローブ集積量は時間経過とともに増加
のグリア細胞質封入体の好発部位で高いプロー
者とは異なり、皮質下白質、運動野、被殻など
ブ集積が観察された︵図②︶
。これらの領域に
7が認識しているものと考えられる。中脳にお
生体脳におけるレビー小体の検出感度は不十分
と思われるが、扁桃体で高集積を示す例もあり、
レビー小体へのプローブの結合を完全に否定す
ることはできない。
実現へ向けて
BF 227はグリア細胞質封入体を検出す
る能力はあるものの、レビー小体病変への感度
は不足しており、またβ アミロイド病理像との
院神経内科の菊池昭夫助教らによってPET臨
BF 227は結合することから、東北大学病
グリア細胞質封入体のα シヌクレイン蛋白にも
補化合物を探索している。
化合物ライブラリーの中から新たなプローブ候
ブの選択性確保と高感度化へ向けて、保有する
細胞質封入体︶がみられる。図①に示すように、 選択性をもたない。そこでわれわれは、プロー
多系統萎縮症ではオリゴデンドログリアの胞
体内に、α シヌクレイン蛋白の沈着物︵グリア
−
α シヌクレイン選択的イメージングの
けるプローブ集積はそれほど顕著ではないため、 メージング法を活用できる可能性がある。
−
−
合親和性︵ 値もしくは 値が少なくとも
Ki
30
nM
理想的なプローブの条件として、αシヌクレイ
床研究が実施された。その結果、多系統萎縮症
ン蛋白に対する結合選択性に加えて、十分な結
患者における [11C]BF-227
の集積分布は、健康
人やアルツハイマー病患者、パーキンソン病患
Kd
22
CLINICIAN Ê15 NO. 638
(398)
3)
−
②多系統萎縮症の患者で [11C]BF-227 の集積上昇がみられた脳領域
(SPM 解析)
(筆者提供画像)
以下︶と脳血液関門透過性を確保することが必
要である。
米国ではマイケル・J ・フォックス パーキ
ンソン病リサーチ財団の支援もあり、プローブ
開発が積極的に進められている。ワシントン大
学の研究グループはフェノチアジン誘導体の
を合成し、同誘導体のα シヌクレイ
[125I]SIL23
ン画像化用トレーサーとしての可能性を探って
いる。報告されているデータを見るかぎりでは、
結合親和性、選択性ともにPETトレーサーと
しては十分とは言えず、今後の研究の進展が待
たれる。α シヌクレイン蛋白に対する特異的抗
体をプローブに転用する試みもある。この場合、
結合親和性や選択性は十分に確保できるものの、
プローブの脳血液関門透過性の確保が課題とな
る。ICBインターナショナルの研究グループ
は、SMARTと呼ばれる独自の技術を用いて
抗体︵またはその断片︶の脳血液関門透過性を
高めることによって、α シヌクレイン蛋白の画
(399)
CLINICIAN Ê15 NO. 638
23
4)
像化を試みている。マウスを用いた投与実験で
文献
Okamura N, et al : Noninvasive detection of misfolded
proteins in the brain using [11C]BF-227 PET. Jinglong
Wu ( e d ) , E a r l y d e t e c t i o n a n d r e h a b i l i t a t i o n
technologies for dementia : Neuroscience and
biomedical application. IGI Global, Hershey, 212-219
(2011)
Fodero-Tavoletti MT, Okamura N, et al : In vitro
characterisation of BF227 binding to alpha-synuclein/
Lewy bodies. Eur J Pharmacol, 617, 54-58 (2009)
Kikuchi A, Okamura N, et al : In vivo visualization of
alpha-synuclein deposition by carbon-11-labelled
2-[2-(2-dimethylaminothiazol-5-yl)ethenyl]-6-[2(fluoro)ethoxy]benzoxazole positron emission
tomography in multiple system atrophy. Brain, 133,
1772-1778 (2010)
Bagchi DP, et al : Binding of the radioligand SIL23
to -synuclein fibrils in Parkinson disease brain tissue
establishes feasibility and screening approaches for
developing a Parkinson disease imaging agent. PLoS
One, 8, e55031 (2013)
Shah M, et al : Molecular imaging insights into
neurodegeneration : focus on -synuclein radiotracers.
J Nucl Med, 55, 1397-1400 (2014)
は、投与 時間後からトランスジェニックマウ
ス脳内へのトレーサー集積上昇が観察され、S
PECT︵ single photon emission CT
︶用トレー
サーとしての応用が計画されている。
おわりに
α シヌクレイン蛋白を選択的に検出するPE
Tプローブを実用化できれば、同蛋白の蓄積と
神経変性、臨床症候との関係を個々の症例で詳
細に検討することができ、パーキンソン病やレ
ビー小体型認知症の病態理解に大いに役立つで
あろう。また同蛋白を標的とした治療と連動す
ることで、神経変性の軽微な発症前段階で病変
を見出し、予防的治療に導くこともできる。診
断薬と治療薬の開発が車の両輪となって今後の
研究が進展することに期待したい。
︵東北大学大学院医学系研究科
機能薬理学分野
准教授︶
24
CLINICIAN Ê15 NO. 638
(400)
5)
1)
2)
3)
4)
5)
48
α
α
●認知症の合図
認知症のエピソードを
どう聞き取るか?
はじめに
江湖山さおり
精神科ソーシャルワーカーによる、
私たち精神科ソーシャルワーカーは、診察前
診察前の情報収集
の予診で﹁専門職ではない﹂患者さんご自身や
予診において期待される役割の一つに、医師
が診察する際に役に立ちそうな情報を収集する
人と接しているご家族などからとなることが多
うことも少なくないが、やはり一番近くでご本
ンターや行政などのスタッフからお話をうかが
とするケアスタッフ、あるいは地域包括支援セ
わってくださっているケアマネジャーをはじめ
表現を用いても、あまりうまくいった経験がな
人的にはテキストにある少し噛み砕いたような
専門用語をそのまま使うのは論外だ。しかし個
う聞き出すか?﹂ということがポイントになる。
﹁専門職ではない﹂方々の中にある情報を﹁ど
ことがある。そこでは、お話をしてくださる
ご家族からお話をうかがう。高齢者の場合は関
い。
い。自分のすぐそばにいる身内あるいは利用者
と、その﹁症状﹂は、なかなかリンクしにくい
(401)
CLINICIAN Ê15 NO. 638
25
いろな表現を試みながら聞いていくという感じ
イメージしやすい言葉を会話の中で探し、いろ
のかもしれない。実際にはお話しくださる方が
行う必要もあると私は考えている。
して行う以上は時間的な制約もあり、効率的に
させないようにしたい。また、こちらも業務と
齢であることが多く、本診前にできるだけ疲れ
情報収集の実際
であろうか。
ご存じのとおり認知症も種類によって、出現
する症状には違いがあり、聞き取る特徴的な症
では実際にはどのように行っているかという
状も違ってくる。
﹁○○型認知症っぽい﹂エピ
と、例えばアルツハイマー型認知症の﹁取り繕
高い頻度で見られる﹁特徴的な﹂症状から聞き
くのであるが、私の場合は各タイプの認知症に
です﹂と言われてしまうことが多い。専門用語
繕いはありますか?﹂と聞くと、意外と﹁ない
い﹂を聞き取るとする。これもそのまま﹁取り
ソードを聞き取っていくという作業になってい
取っていくようにしている。
けている。予診で当たりをつけて聞き取るのは
けそのまま聞き取り、医師に伝えるように心が
師なので、私は特徴的なエピソードをできるだ
うケースもあるが、それをどう判断するかは医
もちろん、中には様々な認知症を支持するよ
うなエピソードが聞き取りの中で出てきてしま
る。
﹁それならある!
ああ言えばこう言うって感
じよ!﹂とエピソードがどんどん出てきたりす
んか?﹂などと少し言い方を変えて聞くと、
しかし、そこでやめずに﹁言い訳したりしませ
のだが、どうもピンと来ない表現のようなのだ。
でもないし、決して難しい言葉でもないと思う
どうか?という意見もある。しかし、高齢者の
場合はご本人もだが、同行しているご家族も高 レビー小体型認知症の幻視も﹁ない物や人が
26
CLINICIAN Ê15 NO. 638
(402)
また、どのタイプの認知症であっても意外と
見えたりしますか?﹂と聞いても、もともと無
把握が難しいのが、性的逸脱系のBPSDであ
まもうとしていたりしたことはありません
﹁何もないのに手で何かを払ったり、何かを摘
問は﹁ありません﹂という答えになる。これも
も話していなかったりする。すると先ほどの質
家族しか同席していないと、把握が難しい場合
特に配偶者にはお話ししづらいため、診察にご
いる場合は、よほど極端でない限り、ご家族、
かく、ケアスタッフなどに対してだけ出現して
る。ご家族に対しても出現している場合はとも
口な男性だったりすると、そもそも見えていて
か?﹂と具体的に聞いてみると、
﹁そういえば
がある。私も外来で経験し、ケアマネジャーに
てるんです﹂というエピソードが出てきたこと
確認したところ﹁実は⋮デイサービスでも困っ
⋮﹂と思い当たることが出てきたりする。
前頭側頭葉変性症の特徴的な症状の一つであ
る時刻表的生活も、キッチリ﹁○時から食事、
○時半からテレビを見る﹂というイメージだが、 がある。
る﹂などのある程度決まったパターンがあった
らいは必ず何か書きものをしてから朝食を食べ
も﹁○○型認知症っぽい﹂エピソードが出てく
情報をいただける。事前情報と同じく、いかに
診前相談があったうえでの予診の場合は事前に
前に予診を行う場合はともかく、専門職から受
﹁典型的﹂なケースは、実際にはそれほど多
そうでもないパターンも見受けられる。普段の
くはない。初診時に紹介状とご本人やご家族を
りするので、朝からの生活パターンを確認して
生活の様子を聞いていくと﹁起床後、1時間く
みるとご家族も気づいていない緩やかな時刻表
ると、こちらも﹁やっぱりそうか﹂とそこで終
わりにしたくなる。しかし、そういった場合で
や儀式らしきものが見えてきたりすることもあ
る。
(403)
CLINICIAN Ê15 NO. 638
27
このケースは両タイプの認知症の合併型との診
変わってきたケースもあった。結果としては、
から﹁アルツハイマー型認知症っぽい﹂印象に
聞き取りの中でご家族からうかがうエピソード
際にご来院いただいて受けるご本人の印象や、
知症のような印象であったにもかかわらず、実
少なからずある。事前情報ではレビー小体型認
知症っぽいエピソードが出てきたりすることも
ないかは一通りうかがっていく。すると他の認
も、他の認知症を支持するようなエピソードが
︵筑波大学附属病院 認知症疾患医療センター
私は思っている。
精神保健福祉士︶
たちの腕や経験が試されるところではないかと
のは、最も重要で、かつ難しいことであり、私
かねない。面談の中でこれを一緒に考えていく
ッキリさせておかないと治療が迷走してしまい
ともあるが、当面の目標でもいいのでここをハ
もちろん、治療の過程でそれが変化していくこ
いるご家族にとっては、本当にそうなのだろう。
断であった。
﹁治療目標﹂を一緒に考える
しかし患者さんやご家族にとって、予診で聞
かれる最も難しい質問は﹁治療目標﹂かもしれ
ない。特に、著しいBPSDがある場合、ご家
族も疲弊しきっている。
﹁何に一番困っている
か?﹂を問うと、
﹁何もかも⋮何もかもよ﹂と
言われることも少なくない。嵐の真っただ中に
28
CLINICIAN Ê15 NO. 638
(404)
●認知症の合図
レビー小体型認知症を
早期に診断するために
はじめに
早期診断の困難さ
長 光
勉
異常症、さらには薬の副作用に苦しんだ上での
随伴症状であるうつ状態・幻視・レム睡眠行動
症︵以下DLB︶に罹患しておられ、DLBの
いたが、剖検の結果、実は、レビー小体型認知
依存あるいはうつ病のための自死と報道されて
す患者は依然として多い。
が下されず、彼のように長く苦悶の日々を過ご
ることから︵図①︶
、初期の段階で正しく診断
しながら、当疾患が非常に多彩な臨床像を呈す
点での診断の見逃しは少なくなっている。しか
症状の日内変動などの典型症状が出そろった時
疾患の啓発が広く行われてきたおかげで、認
米オスカー俳優のロビン・ウィリアムズさん
知機能低下に加えて、幻視、パーキンソン徴候、
が昨年亡くなられた︵享年 歳︶
。当初は薬物
自死と判明したことは記憶に新しい。
さらなる幻視に苦しみ、集中力低下・うつ症状
錐体外路徴候で発症すればパーキンソン病の
彼のような恵まれた医療環境にある人でも正 診断のもと治療目的のドーパミンアゴニストで
しくDLBの診断が下されなかったことが、こ
の疾患の早期診断の難しさを物語っている。
(405)
CLINICIAN Ê15 NO. 638
29
63
①レビー小体型認知症(DLB)の臨床症状
(必須症状)
で受診すればうつ病と診断され抗うつ薬の処方
で症状がさらに増悪、体感幻覚を訴えれば身体
化障害とされて、幻視を訴えれば統合失調症や
老人性精神病の診断が下ってしまい、適切な治
療を受けるまで無為な時間がかかってしまう。
早期にDLBを疑うことのメリット
早期にDLBを疑って対処することのメリッ
トとして、⑴ドネペジルなどの抗認知症薬の処
方により、認知機能障害の改善や進展抑制が期
待できる、⑵薬物過敏を持つ患者に対しても、
至適薬剤量での細やかな薬物治療ができる、⑶
早期から合併する錐体外路徴候や自律神経症状
︵失神、便秘による腸閉塞、尿失禁︶に対して
生活指導や薬物治療による対策が可能となる、
などがあげられる。
DLBの前駆症状
初 期 の 病 像 を 理 解 す る た め に は、 本 邦 で
30
CLINICIAN Ê15 NO. 638
(406)
起立性低血圧
幻視
尿失禁
② 中核的特徴
うつ症状
パーキンソ
ニズム
認知機能
変動
妄想
抗精神病薬に
対する過敏性
幻視以外の幻覚
遂行機能障害
意識障害
視覚認知
機能障害
注意障害
レム期睡眠行動
異常症
転倒・失神
認知機能障害(進行性)
③ 示唆的特徴
④ 支持的特徴
① 中心的特徴
(エーザイ株式会社 HP より)
②レビー小体型認知症(DLB)の臨床症状の頻度と出現時期
3.4±3.3年
尿失禁(30%)
1.5±2.4年
幻視(88%)
1.5±2.1年
失神(17%)
症状の頻度と症状の出現時期について調査した
らが施行した研究が有用である。DL
Fujishiro
B患者で記憶障害が出現した時期における、各
1)
の合併率は高い︵各々 %、 %︶
。
﹁抑うつ﹂
憶障害に先立つこと約9年前に出現し、かつそ
ものである︵図②︶
。
﹁便秘﹂
・
﹁嗅覚障害﹂は記
1)
2)
44
泌過多などが前駆症状として認められる。
他の自律神経症状としては、発汗過多、唾液分
も平均4・8年前からと比較的早期に出現する。
76
在を疑うことは困難である。どのような症状が
︵RBD︶
⑴睡眠障害│特にレム睡眠行動異常症
DLBを疑う症状
診療に当たればよいであろうか?
あったときに、DLBの可能性を念頭に置いて
認知症発症に先立つ前駆症状の中で、RBD
(407)
CLINICIAN Ê15 NO. 638
しかし便秘・嗅覚障害・うつ症状といった徴
候は非特異的で、この症状だけからDLBの存
(文献1、2より)
31
1.4±4.5年
立ちくらみ/起立性低血圧(33%)
−4.5±10.5年
−1.2±6.5年
レム睡眠行動障害(66%)
Probable DLB
前駆期
臨床診断
−8.7±11.9年
嗅覚障害(44%)
−4.8±11.4年
抑うつ症状(24%)
臨床症状
−9.3±13.8年
便秘(76%)
80
70
60
年齢
74.9±9.7歳
記憶障害
パーキンソニズム(86%)
おいて重要な症状である。
と幻視は症状が特徴的で、DLBの早期診断に
少ないことやたばこを吸わないことがRBDか
られる。逆説的であるが、カフェイン摂取量が
従来RBDはパーキンソン病︵PD︶の際に
先行して出現する非運動性症状として知られて
⑵幻視
もある。
らPDへの移行リスクとの大規模臨床研究報告
いるが、おなじシヌクレオパチーであるDLB
1)
DLB発症の大きな危険因子となる。RBDの
変性疾患を発症するとの報告もあり、RBDは
がゆがんで見える︶
、カプグラ症候群︵家人が
視︵花が人の顔に見える︶
、変形視︵ドアや床
ることがせん妄による幻視と異なる。他にも錯
害はなく、後から詳細に幻視のことを説明でき
患者を診察したときにはDLBに特徴的な他の
また、一度RBDを発症した場合にDLBへ
移行する危険因子としては、嗅覚障害や色覚異
もあり、前記の特徴的な視知覚障害が出た場合
キャンの陽性所見と幻覚が関連するという報告
ないことがDLBに特徴的とされる。DATス
常の合併、DATスキャンでの異常所見があげ
置いて対処していく必要がある。
診察し、将来DLBを発症する可能性を念頭に PD患者の治療薬による副作用でも幻視が出
現するが、原因薬剤を中断しても幻覚が消失し
瓜二つの替え玉に入れ替わっている︶
、人物誤
33
徴候︵便秘、嗅覚障害、唾液分泌過多、起立性
90
認などもDLBを疑う視知覚障害である。
14
調節障害、失神等︶がないかどうか詳細に問診
75
5年で出現し、その合併率も %と高い。
66
逆にRBDを発症すると、5年で ・1%、
年で ・7%、 年で ・9%の症例が神経
し現れることが特徴である。幻視の間も意識障
においても、記憶障害に先行すること平均4・ 幻視はDLBを疑う重要な徴候の一つである。
人や小動物などの具体的で鮮明な幻視が繰り返
4)
5)
32
CLINICIAN Ê15 NO. 638
(408)
3)
10
にDATスキャンは追加すべき検査の一つと思
われる。
⑶治療抵抗性のうつ病
最後に
DLBの病態解明・正確な臨床統計のために
は、診断基準による厳密なDLBの診断が重要
であることはいうまでもないが、DLBの患者
は、診断基準を満たさない病初期から随伴症状
されず、SNRI︵選択的セロトニン・ノルア
小体型認知症かも?﹂という視点を持って診断
しては確定診断に至っていなくても、
﹁レビー
による生活支障に苦しんでおられる。臨床医と
ドレナリン再取り込み阻害薬︶やSSRI︵選
Fujishiro H, et al : Dementia with Lewy bodies : early
diagnostic challenges. Psychogeriatrics, 13, 128-138
(2013)
井関栄三 レビー小体型認知症│臨床と病態│、中
︵ながみつクリニック
院長︶
・治療に当たることが大切と思われる。
るが、DLBの半数近くの患者で薬剤過敏症状
を有することが報告されている。通常治療量の
処方を行うことでかえって体調が悪くなり、さ
らに増量や他剤を追加することでますます体調
不調となる症例も多く、治療抵抗性のうつ状態
を見た場合には、DLBの他の徴候について確
文献
択的セロトニン再取り込み阻害薬︶が推奨され
%︶
。治療としてベンゾジアゼピン系は推奨
抑うつ状態は診断基準の支持項目の一つであ
り、DLBの初期に合併することが多い︵ ∼
20
認し、疑わしければ、少量の薬剤で短期間治療
していくなどの工夫が必要である。
1)
Iranzo A, et al : Neurodegenerative disorder risk in
idiopathic REM sleep behavior disorder : study in 174
patients. PloS one, 9, e89741 (2014)
外医学社、東京︵2014︶
2)
Postuma R, et al : REM Sleep Behavior Disorder and
3)
4)
(409)
CLINICIAN Ê15 NO. 638
33
65
Prodromal Neurodegeneration Where Are We
Headed? Tremor and Other Hyperkinetic Movements,
3 (2013)
Roselli F, et al : Severity of neuropsychiatric symptoms
and dopamine transporter levels in dementia with
Lewy bodies : a 123I-FP-CIT SPECT study. Movement
disorders. official journal of the Movement Disorder
Society, 24, 2097-2103 (2009)
5)
−
34
CLINICIAN Ê15 NO. 638
(410)
●認知症の合図
睡眠障害とDLB
はじめに
藤 城 弘 樹
よる変化は睡眠・覚醒に影響を与え、高齢者に
らず、睡眠障害を高頻度に伴う。とくに示唆症
heimer s diseaseAD︶に次いで、頻度の高い
変性性認知症疾患であり、認知機能障害のみな
レ ビ ー 小 体 型 認 知 症︵ dementia with Lewy
bodiesDLB︶は、アルツハイマー病︵ Alz-
は睡眠障害が多く認められる。加齢により睡眠
状の一つであるレム睡眠行動障害︵ REM sleep
夜間の睡眠・覚醒は、脳活動によってもたら
されるものである。そのため、脳機能の加齢に
構造の変化や睡眠リズムの変化を生じやすく、
さらに、高齢者特有の睡眠を妨害する随伴現象
behavior disorderRBD ︶は、全臨床経過を
通じて、約 %の症例に認めることが報告され
知症高齢者と比較した場合、睡眠構造や睡眠覚
な脳機能低下を認めることから、同年代の非認
じる病態は複雑である。認知症患者では、病的
重要な臨床症状である。
とが明らかとなっており、早期診断の観点から
時あるいは認知症発症前にRBDが先行するこ
ている。さらに、約半数のDLB症例では、同
が併存することも多く、高齢者の睡眠障害を生
醒リズムの変化が一層顕著となる。
75
(411)
CLINICIAN Ê15 NO. 638
35
1)
①レビー小体型認知症患者における睡眠ポリグラフ検査
Terzaghi,et al(2013)2)
Pao,et al(2013)3)
29(21/8)
78(71/7)
平均年齢
75±5
71±8
閉塞性睡眠時無呼吸/低呼吸
34.8%
55%
中枢性睡眠時無呼吸/低呼吸
−
18%
60.9%
−
Probable RBD
34.8%
96%(75/78)
REM sleep without atonia(RWA)
46.1%
100%(65/65)
患者数(男/女)
周期性四肢運動障害
(Periodic limb movement index>15)
本稿では、DLBに施行された睡眠検査結果
の報告を概観し、次にDLBの臨床診断におけ
るRBDの重要性について述べた。
DLBにおける睡眠検査結果
最近、DLBを対象とした睡眠ポリグラフ検
査︵
PSG ︶を利用した研
Polysomnography
究がいくつか報告されている︵表①︶
。その結
期性四肢運動障害をしばしば認めていた。
果では、RBDのみならず、睡眠呼吸障害や周
2)
3)
らは、AD︵ N=12
︶と比較し、DLB
Hibi
︵
︶において有意に周期性四肢運動指数が
N=9
高いことを報告した一方で、 Ferman
らによる
群で有意に高頻度に出現していることが確認さ
意差は認められなかったが、RBDは、DLB
障害に関する項目や睡眠効率では、両疾患に有
なかった。いずれの研究においても、睡眠呼吸
と、DLB︵ N=61
︶とAD︵ N=26
︶を比較し
て、脚動に関連した覚醒指数では有意差を認め
5)
36
CLINICIAN Ê15 NO. 638
(412)
4)
れている。
ple sleep latency testMSLT︶も実施してい
る。 分以内に入眠した割合は、DLB群で
た割合は、DLB群で %、AD群で %であ
%、AD群で %であった。5分以内に入眠し
睡眠効率、覚醒指数、中核症状やRBDと相関
していなかった。つまり、DLBにおける日中
ドパートナーに怪我を生じさせる。
﹃睡眠障害
PSGを施行できる施設は限られるため、簡便
な質問紙票などを用いた臨床診断の妥当性が検
討されている。
合、健康成人との鑑別において感度 %、特異
88
Dの診断が認知症の鑑別診断において感度 %、
回す、叫ぶ︶
?﹂という質問項目により、RB
動をすることがありましたか︵殴る、腕を振り
度 %と報告した︵表②︶
。また、 Boeve
らは、
﹁今までに3回以上、睡眠中に夢内容と同じ行
7)
98
の眠気は、夜間の睡眠の断片化に伴うものでは
なく、特有の症状と考えられた。
13
特異度 %であったと報告している。
74
動が行動化を示し、時に患者本人あるいはベッ
れるが、非暴力的な内容も少なくない。 Oudi-
RBDは、レム睡眠期に出現するべき抗重力
典型的なRBDは、夢内容に伴う精神活動が
筋の筋活動抑制が欠如し、夢内容に伴う精神活
行動化し、怪我を生じる危険性がある病態とさ
RBDの診断について
97
均睡眠潜時は、認知機能障害の重症度、前夜の
った。AD群では、認知機能障害の重症度と日
らは、 項目から構成された自己
Miyamoto
記入式質問紙を用いて5項目以上﹁はい﹂の場
81
国際分類﹄第2版では、RBDの確定診断には、
らは、DLB︵ N=32
︶とAD
また、 Ferman
PSGが必要であり、 REM sleep without atonia
︵
︶を対象として、
反復睡眠潜時検査
︵
N=18
multi︵RWA︶所見の存在が必須となる。しかし、
5)
中の眠気が相関していた。一方、DLB群の平
17
(413)
CLINICIAN Ê15 NO. 638
37
6)
56
39
10
② RBD スクリーニング質問紙票(日本語版)
1
とてもはっきりした夢をときどき見る。
はい/いいえ
2
攻撃的だったり、動きが盛りだくさんだったりする夢をよく見る。
はい/いいえ
3
夢を見ているときに、夢の中と同じ動作をすることが多い。
はい/いいえ
4
寝ている時に腕や足を動かしていることがある。
はい/いいえ
5
寝ている時に腕や足を動かすので、隣で寝ている人にケガを負わせたり、自分
はい/いいえ
がケガをすることもある。
6
夢を見ているときに以下の出来事が以前にあったり、今もある。
6.1
誰かとしゃべる、大声で怒鳴る、大声で罵る、大声で笑う。
はい/いいえ
6.2
腕と足を突如動かす/ケンカをしているように。
はい/いいえ
6.3
寝ている間に、身振りや複雑な動作をする(例:手を振る、挨拶をする、何
はい/いいえ
かを手で追い払う、ベッドから落ちる)。
6.4
ベッドの周りの物を落とす(例:電気スタンド、本、メガネ)。
はい/いいえ
7
寝ていると、時に自分の動作で目が覚めることがある。
はい/いいえ
8
目が覚めた後、夢の内容をだいたい覚えている。
はい/いいえ
9
眠りがよく妨げられる。
はい/いいえ
10
以下のいずれかの神経系の病気を以前患っていた、または現在患っています
か?(例:脳卒中、頭部外傷、パーキンソン病、むずむず脚症候群、ナルコレ はい/いいえ
プシー、うつ病、てんかん、脳の炎症性疾患)
18
らは、ビデオ付きPSGを施行し、 症例
ette
のRBDの異常行動の内容を報告している。性
60
行為、摂食行為、排泄行為、笑う・歌うなどの
11
楽しい内容など様々であった。また、パーキン
ソン病︵ Parkinson diseasePD︶ 症例を対
象とした面接による検討では、 症例︵ %︶
において、非暴力的な異常行動が確認された。
DLBの臨床診断におけるRBDの重要性
DLBの臨床診断において、RBD症状を把
握することは、2つの点から重要である。
1点目は、RBDの疾患特異性の高さである。
認知症を呈した234例の連続剖検例を用いた
縦断的臨床病理学的検討では、RBDを主要症
状とすることでDLBの臨床診断率が向上する
(414)
ことが明らかとなった。つまり、RBDは、D
74
LBの3主要症状と同等の診断的意義を有して
いた。病理学的にDLBと診断された 例中
例で、RBDの病歴を認めたのに対して、病理
98
1)
(文献6より作成)
CLINICIAN Ê15 NO. 638
8)
24
38
1.4 ± 4.5 年
3.4 ± 3.3 年
尿失禁(30%)
1.5 ± 2.4 年
幻視(88%)
1.5 ± 2.1 年
パーキンソン症状(86%)
失神(17%)
(文献10 より作成)
学的にDLBのない136例では5例のみにR
BDの病歴を認めた。しかし、この5例のうち
PSGで確定診断された症例はなく、RBDの
病態そのものがDLB病理と深く関係していた。
らは、RBD を呈した高齢者
さらに Boeve
を対象として、多施設における臨床病理学的検
討結果を報告している。RBDの病歴が確認さ
れた170症例中158症例︵ %︶において、
93
またPSGを施行されRBDと確定診断された
98
-1.2 ± 6.5 年
立ちくらみ(33%)
9)
症例中 症例︵ %︶において、レビー小体
78
ことである。DLBの発症に数年あるいは数十
2点目は、約半数の症例において、RBD症
状の出現が認知症発症と同時あるいは先行する
断的意義が高い臨床所見といえる。
において、RBDは病理学的背景を意識した診
ることは一般的でないため、認知症の鑑別診断
ていた。多系統萎縮症において認知症を発症す
病︵ Lewy body diseaseLBD︶と多系統萎縮
症を含むシヌクレイオパチーの病理所見を有し
80
-4.5 ± 10.5 年
レム睡眠行動障害(66%)
Probable DLB
Prodromal DLB
臨床診断
-8.7 ± 11.9 年
嗅覚障害(44%)
(415)
CLINICIAN Ê15 NO. 638
39
-9.3 ± 13.8 年
便秘(76%)
80
70
60
年齢
-4.8 ± 11.4 年
抑うつ(24%)
臨床症状
③ Probable DLB 90症例の臨床経過
74.9 ± 9.7 歳
記憶障害の発現
パーキンソン症状や認知症症状を認めない特
発性RBD患者を対象とした追跡調査が報告さ
れつつあるが、ADと比較して、DLBの早期
診断の知見は乏しいのが現状である。必ずしも
RBDがDLB発症に先行しないことや、RB
Dの出現時期によりDLBの臨床亜型が存在す
ることから、特発性RBD患者のみを対象とし
た場合、DLBの前駆状態の全貌は明らかにで
きないと考えられる。RBDを手掛かりとして、
睡眠センターと認知症センターが連携すること
で、DLBの病態解明とともに、早期診断・治
療の実現が期待される。
︵名古屋大学大学院医学系研究科
睡眠医学寄附講座
講師︶
文献
Ferman TJ, Fujishiro H, et al : Validation of the
Revised DLB Clinical Consensus Criteria : RBD
Improves Classification of Autopsy-Confirmed DLB.
Neurology, 77, 875-882 (2011)
Terzaghi M, et al : Analysis of video-polysomnographic
sleep findings in dementia with Lewy bodies. Mov
Disord, 28, 1416-1423 (2013)
Pao WC, et al : Polysomnographic findings in dementia
with Lewy bodies. Neurologist, 19, 1-6 (2013)
1)
年先行することがあり、早期診断の観点から重
要である。 Probable DLB 症例を対象とした
後方視的検討では、RBDは記憶障害の出現に
90
平均約4・5年先行していた︵図③︶
。
10)
Hibi S, et al : The high frequency of periodic limb
movements in patients with Lewy body dementia. J
Psychiatr Res, 46, 1590-1594 (2012)
Ferman TJ, et al : Abnormal daytime sleepiness in
dementia with Lewy bodies compared to Alzheimer s
disease using the Multiple Sleep Latency Test.
Alzheimers Res Ther, 6, 76 (2014)
Miyamoto T, et al : The REM sleep behavior disorder
screening questionnaire : validation study of a Japanese
version. Sleep Med, 10, 1151-1154 (2009)
Boeve BF, et al : Validation of the Mayo Sleep
Questionnaire to screen for REM sleep behavior
disorder in an aging and dementia cohort. Sleep Med,
40
CLINICIAN Ê15 NO. 638
(416)
11)
2)
3)
4)
5)
6)
7)
12)
12, 445-453 (2011)
Oudiette D, et al : Nonviolent elaborate behaviors may
also occur in REM sleep behavior disorder. Neurology,
72, 551-557 (2009)
Boeve BF, et al : Clinicopathologic correlations in 172
cases of rapid eye movement sleep behavior disorder
with or without a coexisting neurologic disorder. Sleep
Med, 14, 754-762 (2013)
Fujishiro H, et al : Dementia with Lewy bodies : early
diagnostic challenges. Psychogeriatrics, 13, 128-138
(2013)
Fujishiro H, et al : Prodromal dementia with Lewy
bodies. Geriatr Gerontol Int (2015) (in press)
Dugger BN, Fujishiro H, et al : Rapid eye movement
sleep behavior disorder and subtypes in autopsyconfirmed dementia with Lewy bodies. Mov Disord,
27, 72-78 (2012)
(417)
CLINICIAN Ê15 NO. 638
41
8)
9)
10)
11)
12)
●疾患概念
Up date
PDDとDLB
はじめに
服 部 信 孝
年の経過で %の有病率の報告がある。PDに
おける認知症合併のポイント有病率は、 %と
すことが分かっており、パーキンソン病︵P
皮質にレビー小体が存在することで認知症を示
認知症︵DLB︶がある。DLBに関しては、
も早期診断、早期治療介入が大事であるとされ
の概念が唱えられるようになったのは、いずれ
されている。 Prodromal PD
や軽度認知機能障
害を伴うパーキンソン病︵PD MCI︶など
も含めて、レビー小体病としての概念が現在は
ているからである。
30
D︶
、パーキンソン病に伴う認知症︵PDD︶
近年、認知症を来す疾患の中でアルツハイマ
ー病に次いで頻度の高い疾患に、レビー小体型
48
概念とその病態
1)
−
おり、現在ではアルツハイマー病に次いで頻度
42
CLINICIAN Ê15 NO. 638
(418)
主体となっている。
15
PDにおける認知症併発が問題となっており、 DLBに関しては1996年よりアルツハイ
その頻度に関しては詳細に検討した2論文があ
マー病とは異なる疾患として注目を浴びてきて
り、8年の経過で %の有病率という報告と
78
その中でも臨床的に鑑別上重要な症状として
の高い疾患として位置づけられている。病理学
は、DLB患者のほうが、⑴概念エラーや注意
まん性レビー小体病の概念が、今日のレビー小
頻度的により多く認められる、⑶抗精神病薬に
エラーが多い、⑵幻覚や精神症状は、質的より
的には1980年に小阪らにより提唱されたび
体病の考え方に繋がっていると言える。その背
対する副作用が出現しやすく、PDDでは抗パ
性は早期においてよりPDDで多く、DLBで
服用していることが多い、⑷運動症状の非対称
ーキンソン剤による精神症状を呈する薬物量を
景には、レビー小体病のレビー小体の構成成分
α
である
の発見があると言える。
-synuclein
小阪によればレビー小体病の考え方が適切で
がPD、そして認知症を
あり、 Brainstem type
の臨床型や
Postural Instability Gait Disorder
Rapid
来すタイプとして
、
、 は振戦の頻度は少なく運動症状が軽いことが多
Transitional
type
Diffuse
type
い等である。図①に示すように、PDDとDL
ほとんどパーキンソニズムがない
cerebral
type
Bを明確に分けることは難しいが、PDDには
に分類可能としている。少なくともPD、PD
D、DLBはレビー小体病として、シヌクレイ
ノパチーという概念の下、同じスペクトラムと
が頻度的に
eye movement sleep behavior disorder
高いことがあげられる。
4)
5)
6)
Oligomeric
に 関 し て は 検 証 で き て い な い。
-synuclein
β
のみでは難しいと考える。
one year rule
α
別は単に
はPDDもDLBも共通点があるため、その鑑
最も重要なポイントは、認知症症状の出現時 鑑別上、最も有効なツールとしてバイオマ
期であり、今なお one year rule
ーカーがあげられるが、
が、PDDとDL
やタウは
-amyloid
Bの鑑別上大事とされている。さらに臨床的に
髄液の測定マーカーとして利用できるが、凝集
して捉えるのが妥当とされている。
3)
α
が、将 来 的 な マ ー カ ー
-synuclein
(419)
CLINICIAN Ê15 NO. 638
43
2)
① PDD と DLB の臨床症状の違いと共有している部分
(文献4、5、6より)
PIGD:Postural Instability Gait Disorder, REM:Rapid Eye Movement
として可能性が示されている。またイメージン
グでは、 DAT scan
でDLBはより広範に低下
するのに対し、PDDでは DAT scan
の取り込
みがドット状となるのが特徴とされている。
は、 細 胞 外 の amyloid
を決定
amyloid imaging
す る の に 対 し、
は細胞内のため
-synuclein
したがって、認知症出現時期に関する情報は、
期のみで決める選択肢しかないのかもしれない。
に症状のみでは鑑別が難しく、認知症の出現時
病理学的にはPD、PDD、DLBは同じス
ペクトラムに属すると考えられており、結果的
り、 DAT scan
との組み合わせによる複合的診
断の必要性がある。
の場合は、取り込み低下が目立たない場合もあ
ツールとして発展したものであるが、早期PD
︵MIBG︶心筋シン
metaiodobenzylguanidine
チグラフィーは、わが国で鑑別のために有用な
自体が難しいと言える。それをターゲ
imaging
ットとした実用化には、時間を要すると考える。
α
More frequent:
• PIGD phenotype
• REM sleep behavior
disorder
44
CLINICIAN Ê15 NO. 638
(420)
Multiple patterns of
symptom presentation
Clinical and
neuropathological
symptoms,
including visual
and auditory
hallucinations
(PDD 45-65%;
DLB 60-80%)
Movement disorders appear
first;
cognitive symptoms
begin >1 year after
DLB
PDD
ため、日常の診療の中で注意しながらフォロー
PD、DLBを診断する上で欠かせない情報の
Dも全例で
が、最近の
ではDLBもPD
amyloid imaging
の沈着があるわけではな
-amyloid
することが大事と考える。
いことから、
だけでは認知症の発現
-amyloid
を説明できないことになる。実際に病理学的に
β
︵生活の質︶
また、認知症が Quality of Life
に影響を与える因子である以上、PDDやDL
β
α
になっており、さらなる分子生物学的アプロー
純粋に
のみの沈着で、臨床的にD
-synuclein
LBないしPDDの表現型を来すことが明らか
おいて、
遺伝子のコピー数が多い
-synuclein
の遺伝性PDのケース
triplication
を使った治験戦略が開発
siRNA
の発現レベルを制御することが近
-synuclein
未来的治療のターゲットとなり得ることを示し
では、コピー数が多い triplication
ケースで認知
症の併発が多いことから、PDDあるいはDL
や
duplication
α
β
B の病態に
の発現レベルが高いこ
-synuclein
とが症状発現に不可欠な条件と言える︵図④︶
。
α
ることにより、高次脳機能障害に至っていると
β
考えられている。しかしながら、
病
-amyloid
理の関与は、DLBでより大きいとされている
チが必要と考える︵図③︶
。病態を考える点に
くすることや発症を遅らせることは重要な課題
MCIの概念は予測因子を同定するという意
味 で prodromal PDD
と し て の 位 置 づ け で あ り、
どのPD MCIがPDDに移行するのかを検
証することはさらに認知症の前段階を決め、早
表②に診断基準を示す。
期治療介入を実現させる意味で重要と言える。
−
さらに病理学的検討では、PDDもDLBも
LB病理に脳血管障害や
病理が加わ
-amyloid
7)
(421)
CLINICIAN Ê15 NO. 638
と考えられており、そのような背景の下、PD
Bの認知症発現パターンから認知症の進展を遅
8)
45
遺伝子の発現レベルの dose dependent
に臨床型
の重症度が決まっていると言える。このことは
9)
10)
11)
−
α
ており、実際
② PD-MCI の診断基準
(文献7より)
(422)
CLINICIAN Ê15 NO. 638
46
③アミロイドイメージで PDD/DLB と臨床診断してもその蓄積の有無
がある
されようとしている。
治療
唯一、コリンエステラーゼ阻害剤がPDD、
DLBの治療に用いられている。わが国では
昨年アリセプト︵ドネペジル︶が、DLBに
得ることを考慮して使用することが大事と
運動症状に加えて高次脳機能の悪化もあり
ると思われるが、使用の際に副作用の出現や
を避けられないことを臨床医は認識してい
ては、ある程度のケースにはやむを得ず使用
少ないと考えられている。抗精神病薬に関し
ムの悪化も懸念材料であるが、症状の悪化は
増悪するケースが存在する。パーキンソニズ
ドネペジルでも正確な頻度は不明であるが、
副作用として嘔気や食欲不振などの消化
器症状が頻度的に高い。また振戦に関しては、
ネペジルで有効性が確認されている。
12)
対して承認された。海馬の容積減少効果もド
®
(423)
CLINICIAN Ê15 NO. 638
47
(文献8より)
Pittsburgh compound B
PIB:
〔11C〕
z=20 y=−12 x=−8
④ PDD と DLB のイメージの共通点と相違点
PDD
Aȕ ligand binding may be
increased in PDD, not PD
Brain amyloid deposition
contributes to cognitive
impairment
Cortical Aȕ ligand binding
generally normal or increased
Aȕ may interact
synergistically with other
pathological processes
DLB
Brain amyloid
deposition more marked
versus PDD
Aȕ ligand binding greater
than PDD
(文献9、10、11より)
α
β
CLINICIAN Ê15 NO. 638
言える。
の発現を抑える戦略
-synuclein
先に触れた
は新規治療薬としてのターゲットとなり得る。
またPDD、DLBともに、
やタウ
-amyloid
も新規治療のターゲットとして考慮すべきであ
る。
まとめ
PDとPDD、そしてDLBはシヌクレイノ
パチーの概念の下、同じスペクトラムに属する
と考えられている。しかしながら、レビー小体
病と捉えた場合、実に多様性の高い疾患群とも
言え、治療戦略を考える際には、病理学的相違
点から詳細な鑑別が不可欠である。今後の発展
が待たれる。
︵順天堂大学医学部
脳神経内科、
老人性疾患病態・治療研究センター
教授︶
(424)
48
文献
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Neurology, 68, 812-819 (2007)
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β
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Wang HF, et al : Efficacy and safety of cholinesterase
inhibitors and memantine in cognitive impairment in
Parkinson’s disease, Parkinson’s disease dementia, and
dementia with Lewy bodies : systematic review with
meta-analysis and trial sequential analysis. J Neurol
Neurosurg Psychiatry, 86 (2), 135-143 (2015)
Goldman JG, et al : The spectrum of cognitive
impairment in Lewy body diseases. Mov Disord, 29,
Donaghy P, et al : Amyloid PET Imaging in Lewy body
disorders. Am J Geriatr Psychiatry, 23 (1), 23-37
(2015)
Warr L, Walker Z : Identification of biomarkers in
Lewy-body disorders. Q J Nucl Med Mol Imag, 56, 39
(2012)
Dubois B, et al : Donepezil in Parkinson’s disease
dementia : a randomized, double-blind efficacy and
safety study. Mov Disord, 27, 1230-1238 (2012)
(425)
CLINICIAN Ê15 NO. 638
49
8)
9)
10)
11)
12)
1)
2)
3)
4)
5)
6)
7)
●疾患概念
Up Date
阿 部 康 二
って、代わりに脳卒中が減少し、他疾患は不変
脳血管と認知症の新しい関係
介護認定疾患における認知症の急増
であった。
厚生労働省資料によれば、2001年に介護
2014年7月にまとめた岡山大学認知症専
認定が必要になった疾患は脳卒中︵ ・7%︶
、
門外来での病型頻度では、認知症患者1、
55
27
高齢衰弱︵ ・1%︶
、骨折転倒︵ ・8%︶
CI︶ %、血管性認知症︵VD︶9%、パー
トツ1位であり、次いで軽度認知機能障害︵M
62
急増している。
実際この1、
554例中の後期高
に伴って認知症全体に占めるAD患者の割合も
︵FTD︶3%となっており︵図①︶
、超高齢化
知症︵DLB ︶が各3%、前頭側頭型認知症
キンソン病認知症︵PDD︶とレビー小体型認
12
関節疾患︵ ・4%︶
、パーキンソン病︵6・
6%︶と続いている。しかし平均高齢化率が
%となった2010年には認知症が脳卒中︵
10
ており、続く高齢衰弱や関節疾患、骨折転倒は
・5%︶を食う形で ・3%と第2位に躍進し
21 23
がトップ3であり、続いて認知症︵ ・7%︶
、 4例中アルツハイマー病︵AD︶が %とダン
11
10
ほぼ不変である。すなわちこの 年間における
50
変化は、唯一認知症だけが %増加したのであ
1)
15
50
CLINICIAN Ê15 NO. 638
(426)
16
10
①岡山大学認知症専門外来における認知症患者の内訳
(2014年 全1,554患者)
௚
齢者︵ 歳以上︶は全体の ・5%を占め、こ
の中ではADは %、次いでMCIが %と、
72
11
認知症における血管性因子の重要性
ているという状況である。
ADおよびその予備軍で全体の実に %を占め
69
80
に至り、明らかな認知症と診断されていくこと
が多い。いったん診断されれば治療を継続しつ
つも次第に身体機能の低下から最終的には寝た
きりから死亡と推移していく。当科において腹
囲を測定できたAD患者570人︵ ・3±8
者は ・7%おり、このうち高血圧合併は ・
メタボリック症候群基準を満たしているAD患
RF︶を検討してみると、腹囲が日本における
・1歳︶について、その血管障害危険因子︵V
79
59
8%、高脂血症合併は ・3%、糖尿病合併は
36
37
・8%であった。このVRFを2つ以上持つ
26
(427)
CLINICIAN Ê15 NO. 638
51
75
認知症の症状は、通常知的低下に始まり、情
動変容を経て、日常生活上の具体的なトラブル
AD:アルツハイマー病、MCI:軽度認知機能障害、VD:血管性認知症、PDD:パーキンソ
ン病認知症、DLB:レビー小体型認知症、FTD:前頭側頭型認知症、PSP:進行性核上性麻
痺、Alcoholic:アルコール性認知症、iNPH:特発性正常圧水頭症、CJD:クロイツフェルト
(文献1より)
・ヤコブ病、CADASIL:遺伝性脳小血管病
②岡山大学認知症専門外来における腹囲測定 AD 患者(570人)の
生活習慣病合併頻度
とメタボリック症候群そのものに該当すること
になり、メタボ腹囲のAD患者中の ・2%は
明らかなメタボリック症候群であることが判明
した︵図②︶
。これらのメタボ合併AD患者と
腹囲正常かつVRF合併もないAD患者を比較
すると、メタボ合併AD患者についてはより認
知機能が悪く、情動変容も悪化していることが
判明した。したがってメタボリック症候群を合
併したAD患者については、メタボリック症候
群への治療的配慮がより重要であることが明ら
かとなった。
同様に2014年に当科でのAD患者︵36
0人︶とパーキンソン病︵PD︶患者︵143
人︶について、脳MRI上の脳室周囲病変
︵ peri-
たところ、驚くべきことにAD患者の %以上
ventricular hyperintensityPVH︶を国際的に
有名な Fazekas
らの分類に基づいて検討してみ
に、またPDにおいても %以上にPVHが認
52
CLINICIAN Ê15 NO. 638
(428)
(文献2より)
HT:高血圧、HL:高脂血症、DM:糖尿病、Met S:メタボリック症候群
39
90
ྜే
ྜే
ྜే
ྜే
2)
められたのである︵図③上︶
。これらの患者の
80
ྜే
ྜే
ྜ↓
ྜే⑕䛒䜚
ྜే⑕䛒䜚
ྜే⑕↓
䝯䝍䝪⭡ᅖ㻌㻟㻢㻚㻣㻑
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③岡山大学認知症専門外来における AD と PD の白質病変
(Fazekas 分類0∼Ⅲ度)および MMSE 評価との関連
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㻞㻜
㻹
㻿
㻝㻜
㻱
䠌 䊠 䊡㻌 䊢㻌㻌㻌㻌㻌㻌 䠌 䊠 䊡㻌 䊢
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㻖㻖
㻖 㻖
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㻝㻤㻚㻥㻑
㻞㻝㻚㻣㻑
㻟㻜㻚㻤㻑
㻞㻥㻚㻣㻑
䊠
㻟㻡㻚㻜㻑
認知機能を mini-mental state examination
︵MM
SE︶で評価すると、PDと異なりADにおい
ては白質病変の程度が進行するに従って直線的
に認知機能が低下することも明らかとなった
︵図③下︶
。一方、PDにおいてはさほど顕著で
はなく、ADの認知機能低下における白質病変
VDとADの新しい関係
の重要性が示唆された。
3)
分類のような単なるVDという観点を超えた、
重要な﹁血管と認知症の関係﹂について、従来
化社会を迎えた現代日本にあって、この極めて
からの研究が始まりつつある︵図④︶
。超高齢
的でさえあることが明らかにされ、新たな視点
脳血管病変とADの病理が共存することが普遍
とが解明されてきた。特に超高齢者においては
Dに加えて、ADの重要な危険因子でもあるこ
近年の疫学研究によって、高血圧や高脂血症
︵脂質異常症︶
、糖尿病などの生活習慣病は、V
(文献3より)
䢬䠖㻼䠘㻜㻚㻜㻡
䢬䢬䠖㻼䠘㻜㻚㻜㻝
(429)
CLINICIAN Ê15 NO. 638
53
䊢
䊡
㻠㻞㻚㻞㻑
䊡
䊠
㻼㻰ᝈ⪅䠄㻝㻠㻟ே䠅
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䊢 䠌
㻝㻡㻚㻠㻑
㻢㻚㻠㻑
㻼㼂㻴
䠌
㻼㼂㻴
㻭㻰ᝈ⪅䠄㻟㻢㻜ே䠅
ᖹᆒ㻣㻥㻚㻢ṓ
④脳血管障害とADの関係変遷
新しく幅広い視点から臨床的・基礎的研究を進
めることが求められてきている。このような新
しい学術的社会的要請に応えて、血管の機能的
・器質的障害と認知症発症との深い関連につい
て研究解明し、新しい診断法や新しい治療法の
開発に発展させていくことを目的として、20
14年 月に日本脳血管・認知症学会が設立さ
10
AD:アルツハイマー病、MID:多発梗塞性認知症、CVD:脳血管障害、VD:血管性認知症、
(筆者作成)
VCI:血管性認知障害
知的機能の簡易なチェックはMMSEやHD
S R︵ Hasegawa s dementia scale revised
︶が
頻用されている。しかし介護家族として最も困
阿部式BPSDスコアの開発
れた。
4)
日常診療では知的機能と同時にBPSDも簡易
療薬が4種類と選択肢が増えた状況において、
一方では認知症患者数が急増しており、また治
簡易スケールが少なかったのが実状であった。
−
れまでMMSEやHDS Rに相当するような
っている情動変容︵BPSD︶については、こ
−
㉸㧗㱋໬♫఍
䠇
ᖺ
㧗㱋໬♫఍
䠄䠏䜹᭶䝹䞊䝹䠅
䠇
ᖺ
54
CLINICIAN Ê15 NO. 638
(430)
䝞䝤䝹⤒῭
㛤ጞᮇ
ᖺ
⑤阿部式 BPSD スコア表
たまにある
時々ある
しょっちゅ
うある
1)家内外を徘徊して困る
0
3
6
9
2)食事やトイレの異常行動
0
3
6
9
3)幻覚や妄想がある
0
2
4
6
4)攻撃的で暴言を吐く
0
2
4
6
5)昼夜逆転して困る
0
2
4
6
6)興奮して大声でわめく
0
1
2
3
7)やる気が無く何もしない
0
0
1
2
8)落ち込んで雰囲気が暗い
0
0
0
1
9)暴力を振るう
0
0
0
1
10)いつもイライラしている
0
0
0
に測定でき、治療開始前の状況把握や治療効果
の判定にも有用なスコアが求められてきていた。
そこで筆者らは2011年に﹁岡山県認知症
の人と家族の会﹂と共同で行った調査結果に基
づいて、認知症介護者向けの自己記入式簡易B
めた︵図⑤︶
。このスコアは認知症患者に見ら
PSDスコアを開発して、実地診療に使用し始
れるBPSD 項目について、頻度と重症度に
D度を判定する。 点が最高度のBPSDであ
よって0∼9点を配点し、その合計点でBPS
10
する平均時間︵132・7± ・0秒︶に対し
されているNPI︵ neuropsychiatric inventory
︶
ともよく相関しており、NPIスコア記入に要
は、世界的にスタンダードなBPSDスコアと
る。この阿部式BPSDスコア︵略称ABS︶
44
て、暗算でできるため極めて短時間︵ ・8±
94
・8秒︶で記入でき、多忙を極める日常診療
56
において簡易BPSDスコアとして有用である
ことが判明した。多忙な認知症診療の現場でご
5)
(431)
CLINICIAN Ê15 NO. 638
55
38
1
殆どない
質問項目
44点満点
(文献5より)
活用いただければ幸いである。
︵岡山大学大学院医歯薬学総合研究科
脳神経内科学
教授︶
文献
Hishikawa N, Abe K, et al : Characteristic Features of
Cognitive, Affective, and Daily Living Functions of
Late-Elderly Dementia. Geriatr Gerontol Int (2015) (in
submission)
Hishikawa N, Abe K, et al : Cognitive and affective
functions in Alzheimer’s disease patients with
metabolic syndrome. Eur J Neurol (2015) (in
submission)
Tokuchi R, et al : Geriatr Gerontol Int (2015) (in
submission)
︶
阿部康二 日本脳血管・認知症学会︵ Vas-Cog Japan
発足のご挨拶、日本脳血管・認知症学会 News and
、1、2︵2014︶
Letter
Abe K, et al : A new simple score (ABS) for assessing
behavioral and psychological symptoms of dementia. J
Neurol Sci, 2015 Jan 29 [Epub ahead of print]
56
CLINICIAN Ê15 NO. 638
(432)
1)
2)
3)
4)
5)
先端医学トレンド
竹
屋
泰
、100歳の一般住民を対象に、大規模な前向
は十分に確立されているとは言えない。認知症と
本邦における2012年時点での認知症高齢者
数は462万人と推計されているが、その治療法
丹市と朝来市の住民基本台帳から無作為に抽出さ
間科学部および同歯学部と協力して、兵庫県の伊
C︶研究を行っている。本研究では、大阪大学人
き コ ホ ー ト 研 究 で あ る 関 西 健 康 長 寿︵ S O N I
関連する因子を明らかにすることは、認知症のメ
①︶。
機能検査、認知機能検査などを実施している︵図
部血管エコー、簡易スパイロメトリーによる呼吸
れた高齢一般住民に、問診、採血、理学所見、頸
地域高齢者における認知機能と
る可能性 が あ る 。
カニズムの解明や予防対策、新規治療法につなが
はじめ に
アルツハイマー病の関連因子
140
90
SONIC研究に参加した 歳群488人、お
アルブミン/グロブリン比︵A/G比︶
よび 歳群512人を対象に、認知機能検査とし
、
80
との関連︵SONIC研究︶
70
て全員に
80
を 施 行 し た︵ 表 ② ︶。 Montreal
MoCA-J
70
(433)
CLINICIAN Ê15 NO. 638
57
1)
筆者らの教室では百寿者約 人を含む 、
50
①関西健康長寿(SONIC)研究
ഠফ৔ఐ
ୢ৾৓ડએ
‫؞‬఩஫ಞ౤
‫؞‬ႈ೩੘௜ഄ
‫્ق‬प࿯୭ஓႈ೩‫ك‬
‫؞‬ഷಓ‫৻ؚ‬ප‫৿ؚ‬ဿໂ৲২
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ੱ৶৾ॳ‫ش‬঒
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yশํ঻भੇఔ‫ق‬৕ཚधजभଦ၉঻‫ك‬
ੱ৶৾৓‫؞‬েણ୭୆৓ડએ
‫ੇ؞‬ఔଡਛ
‫ஂ؞‬૧भ૾ய
‫؞‬ෆฐ৓ৈೡ঻ਃચ௬੼
‫؞‬ੳੴਃચ‫ؚ‬अण५॥॔
‫؞‬ઇ୘ഄ‫ؚ‬ਙત
ୃ‫ق‬য‫ك‬
ຓ৾৖
ᙋᚧଓለॳ‫ش‬঒
ຓఐ‫؞‬ઠᒷୋে৓ડએ
‫؞‬ຓभ૾ଙ‫ق‬ຓਯ‫≱ؚ‬⍡‫ؚ‬ఊ୮૾ய‫ؚ‬
‫ؙ‬ᙔ়૾ଙಉ‫ك‬
‫؞‬ຓఢ୰‫ق‬ຓఢএॣॵॺ೾৒‫ؚ‬ຓఢ୰༳‫ك‬
‫؞‬ઠᒷਃચ‫ؚ‬ᏹัীᆌચ
‫؞‬౭ുၭ਄૾ଙभ৹ਪ
ୃ‫ق‬য‫ك‬
ୃ‫ق‬য‫ك‬
② SONIC 研究集団の背景
70歳(488)
(人)
80歳(512)
p
2
BMI(kg/m )
22.8±0.2
22.6±0.2
0.18
腹囲(cm)
84.4±0.4
84.3±0.4
0.52
SBP(mmHg)
138.3±0.9
148.4±0.8
<0.01
DBP(mmHg)
79.7±0.5
80.7±0.4
0.14
喫煙(%:c/p/n)
7.6/30.0/62.4
5.4/33.2/61.4
0.30
飲酒(%:c/p/n)
35.6/8.1/56.3
37.3/6.2/56.5
0.54
Mean IMT(mm)
0.80±0.01
0.89±0.01
<0.01
MoCA 総得点
23.9±0.2
21.8±0.2
<0.01
25点以下(%)
68.4
82.4
<0.01
18点以下(%)
5.1
20.5
<0.01
Analyzed by Chi-square analysis or ANOVA. Data are shown as mean ± S.E.
SBP:収縮期血圧、DBP:拡張期血圧、IMT:頸動脈内膜中膜肥厚
(日本老年学会総会2014 より)
c/p/n:current/past/never
(434)
CLINICIAN Ê15 NO. 638
58
③ MCI との関連
70歳
25点以下(334)
26点以上(154)
P値
総蛋白(mg/dL)
7.50±0.03
7.39±0.04
0.03
アルブミン(mg/dL)
4.44±0.02
4.44±0.02
0.76
0.02
(人)
グロブリン(mg/dL)
3.05±0.02
2.95±0.04
A/G 比
1.48±0.01
1.53±0.02
0.03
教育歴(年)
11.8±0.10
12.7±0.20
<0.001
P値
80歳
25点以下(421)
26点以上(90)
総蛋白
7.36±0.02
7.36±0.05
0.95
アルブミン(mg/dL)
4.26±0.01
4.34±0.03
0.01
グロブリン(mg/dL)
3.10±0.02
3.02±0.04
0.09
A/G 比
1.40±0.01
1.46±0.02
0.01
教育歴(年)
11.1±0.10
12.0±0.30
0.02
(人)
Analyzed by Chi-square analysis or ANOVA. Data are shown as mean ± S.E.
(日本老年学会総会2014 より)
30
︵ MoCA
︶は早期の認知機
Cognitive Assessment
能低下を検出するのに優れ、軽度認知機能障害
2)
︵MCI︶のスクリーニングとしての有用性が
25
報告されている。 Mini-Mental State Examination
︵MMSE︶と同様に 点満点で評価し、MC
26
Iをスクリーニングする際のカットオフ値を
23
80
/ 点とした場合に高い感度と特異度を示す。
18
24
点に相当する
CLINICIAN Ê15 NO. 638
/
20
/
歳で
80
25
えられているMMSE
70
19
歳群の連続187人に MoCA-J
に加えMMS
Eを施行し、一般に認知症のカットオフ値と考
82
18
でのカットオフ値を求めたところ
MoCA-J
点が得られた。
80 25
点 以 下 を M C I 群、
以 上 よ り、 MoCA-J
MoCA-J 点以下を認知症群として、認知機能
検査と臨床データとの関連を検討した。
MoCA
・
68
点以下の割合は 歳で5・1%、
5 % で あ っ た。 MoCA 点 以 下 の M C I の 割
歳で ・4%、 歳で ・4%であった。
59
合は
歳ともにMCI群︵表③︶
80
年齢毎に臨床データと認知機能との関連を検討
した結果、 歳、
70
70
18
(435)
④認知症との関連
70歳
18点以下(25)
(人)
19点以上(463)
P値
総蛋白(mg/dL)
7.60±0.10
7.46±0.02
0.15
アルブミン(mg/dL)
4.36±0.06
4.45±0.01
0.13
グロブリン(mg/dL)
3.24±0.08
3.01±0.02
<0.01
A/G 比
1.35±0.05
1.51±0.01
<0.01
教育歴(年)
11.4±0.50
12.1±0.10
0.12
80歳
18点以下(105)
19点以上(406)
P値
総蛋白(mg/dL)
7.35±0.04
7.36±0.02
0.84
アルブミン(mg/dL)
4.21±0.03
4.29±0.01
0.02
グロブリン(mg/dL)
3.14±0.04
3.07±0.02
0.14
A/G 比
1.37±0.02
1.42±0.01
0.02
教育歴(年)
10.4±0.30
11.5±0.10
<0.001
(人)
Analyzed by Chi-square analysis or ANOVA. Data are shown as mean ± S.E.
80
と認知症群
︵表④︶では教育歴が低く、血清蛋
70
白組成比であるA/G比が有意に低値であった
︵ P<0.05
︶
。
意 な 相 関 が 認 め ら れ、 A / G 比 が 大 き い ほ ど
総得点が高かった︵ P<0.001
︶。また、
MoCA
歳および 歳において、単変量解析の結果から
認知機能低下と有意な関連を認めた因子で補正
した多変量解析においても、A/G比は認知機
能検査︵ MoCA-J
︶
の得点と有意に関連していた
︵表⑤︶。A /G 比は栄養状態や免疫の指標で
あると考えられるが、アルブミン単独、あるい
はグロブリン単独では関連が弱くなり、一部の
群では有意差が消失することは興味深い結果で
あった。今回の結果は横断研究であり、今後は
縦断的な認知機能とA/G比との関連について
検討が必要である。
80
得 点 とA /G 比 と の 関 連 を 検 討 し た
MoCA
ところ、単変量解析では、 歳および 歳で有
(日本老年学会総会2014 より)
70
(436)
CLINICIAN Ê15 NO. 638
60
⑤ MoCA 点数と A/G 比の関連(多変量)
70歳
項目
A/G 比
教育歴
高血圧
全体(R2)
モデル1
<.0001
0.0003
−
<.0001(0.08)
モデル2
0.0002
0.0002
0.0358
<.0001(0.08)
Model 1 included A/G ratio and period of education. Model 2 included A/G ratio, period of
education, and hypertension.
80歳
項目
A/G 比
教育歴
HDL
SBP
DBP
全体(R2)
モデル1
0.0001
<.0001
−
−
−
<.0001(0.06)
モデル2
0.0006
<.0001
0.196
−
−
<.0001(0.06)
モデル3
0.0004
<.0001
0.225
0.787
0.257
<.0001(0.07)
もの忘れ検査入院における認知機能と
A/G比との関連
SONIC研究では、一般住民を対象に認知機
能低下と血清A/G比との関連が示唆されたが、
認知症は認知機能低下を主訴とする多くの原因疾
患からなる症状の総称であり、SONIC研究に
おいて認知症の病型については調査されていない。
一方、筆者らの病棟では、2010年より、認知
機能検査入院︵通称1泊2日もの忘れパス入院︶
を開設し、神経心理学検査による認知機能評価、
CLINICIAN Ê15 NO. 638
頭部MRIによる海馬傍回の萎縮と脳血管障害の
評価、さらに動脈硬化の危険因子、内分泌・代謝
異常、栄養障害、日常活動度、頸部血管エコー、
サルコペニア検査など、詳細な臨床パラメータを
蓄積している。
院の患者を対象に調査することとした。2012
年7月∼2014年6月の期間中、大阪大学医学
部附属病院老年・高血圧内科においてもの忘れパ
61
そこで、認知症の病型によって認知機能とA/
G比の関連が異なるかについて、もの忘れパス入
Model 1 included A/G ratio and period of education. Model 2 included A/G ratio, period of
education, HDL-C, Model 3 included A/G ratio, period of education, HDL-C, and SBP.
(日本老年学会総会2014 より)
SBP:収縮期血圧、DBP:拡張期血圧
(437)
⑥もの忘れパス入院患者の背景
N=91
77.1±6.2
31±25
13.0±3.0
135±19
100±27
59±16
2.45±1.26
22.4±3.5
4.3±3.2
14.8±3.0
年齢(歳)
性別(男/女)
教育歴(年)
SBP(mmHg)
空腹時血糖(mg/dL)
HDL コレステロール(mg/dL)
VSRAD
MMSE
GDS
FAB
AD(36)
76.3±7.2
12.8±3.0
24.0±3.9
130.2±19.7
97.5±17.8
61.1±15.8
病型(人)
年齢(歳)
教育歴(年)
MMSE(点)
SBP(mmHg)
空腹時血糖(mg/dL)
HDL-C(mg/dL)
AD with CVD(20)
78.2±3.7
13.3±3.1
24.6±2.2
139.2±21.2
116.6±9.1
55.6±15.3
CVD(9)
73.0±7.8
12.9±3.0
22.7±4.5
130.6±17.9
112.0±32.7
49.0±11.1
P値
0.143
0.279
0.225
0.201
0.058
0.056
ス入院を行い、認知症と診断された連続 人を対
CLINICIAN Ê15 NO. 638
象に、AD︵アルツハイマー病︶群、CVD︵脳
血 管 障 害 ︶ 群、 お よ び AD with CVD
の3 群 に つ
いて調査した︵表⑥︶。CV D の有無に関しては
囲病変のグレードⅡ以上、または深部皮質下白質
77
﹁ 脳 ド ッ ク の ガ イ ド ラ イ ン20 0 8﹂ の 側 脳 室 周
22
病変のグレード2以上のいずれか一つ以上を認め
20
91
るものと定義した。
、CVD患者はそれぞれ 、 、9
AD with CVD
人であった。3群間で年齢や教育歴、血糖値など
に 差 を 認 め ず、 A D 群 + AD with CVD
群のみで
認 知 機 能 低 下 とA /G 比 の 低 下 が 関 連 し て い た
より、A/G比は血管障害による認知機能低下と
︵ P=0.048
︶。 ま た、 A D 群 で は 弱 い 関 連 を 認 め、
CV D 群では関連を認めなかった︵表⑦︶。以上
は関連がなく、アルツハイマー病とは関連する可
能性があるが、ただし、既報のごとくアルブミン
単独でも有意差を認め、さらに年齢を交絡因子と
(438)
36
対象患者 人の平均年齢は ・1±6・2歳、
平均MMSEは ・4±3・5点であり、AD、
Analyzed by Chi-square analysis or ANOVA. Data are shown as mean ± S.E.
SBP:収縮期血圧、VSRAD:早期アルツハイマー病診断システム、GDS:老年期うつ尺度、FAB:前頭葉機能検査
91
62
⑦認知症の病型と A/G 比の関連
AD
AD with CVD
CVD
P値
(36)
(20)
(9)
総蛋白(mg/dL)
6.75±0.43
6.60±0.56
6.85±0.55
0.391
アルブミン(mg/dL)
3.71±0.37
3.55±0.40
3.93±0.40
0.017
グロブリン(mg/dL)
3.04±0.44
3.00±0.49
2.88±0.29
0.550
A/G 比
1.24±0.21
1.22±0.25
1.37±0.13
0.134
AD+AD with CVD
CVD
P値
(56)
(9)
総蛋白(mg/dL)
6.71±0.55
6.85±0.55
0.408
アルブミン(mg/dL)
3.64±0.37
3.93±0.40
0.025
グロブリン(mg/dL)
3.03±0.42
2.88±0.29
0.550
A/G 比
1.24±0.21
1.37±0.13
0.048
Analyzed by Chi-square analysis or ANOVA. Data are shown as mean ± S.E.
して多変量解析を行うとこれらの有意差は消失す
ることから、結果は限定的であり、さらなる研究
が必要である。
3)
4)
AD と関連因子
ADの危険因子に関する研究報告は数多く蓄積
されており、複数の高レベルの総説がある。低ア
ルブミン血症が認知機能低下に関連しているとい
う報告も多いが、血清A/G比が認知機能低下に
関連することについての報告はなく、現段階でこ
CLINICIAN Ê15 NO. 638
れが何を意味しているのかは不明である。認知症
患者のみならずMCIを対象とした調査において
も関連が示唆されたことは非常に興味深く、また、
もの忘れ入院の結果からは血清A/G比と関連が
あるのはADであることが示唆される。今後さら
の み な ら ず、 MCI due to
AD dementia
に症例を積み重ねる必要があるが、以上のことは、
A /G 比 は
、あるいは preclinical AD
を含むアルツハイマ
AD
ー病の関連因子である可能性がある。
63
5)
6)
(439)
おわり に
日常診療で認知症患者やその家族に日々接して
いると、この病気が個人と社会に与える影響の大
きさに心が痛む。今後さらに増えるであろう認知
症のメカニズムに疫学調査から迫り、それが基礎
(2005)
Pope SK, et al : Will a healthy lifestyle help prevent
Alzheimer’s disease? Annu Rev Public Health, 24, 111132 (2003)
Patterson C, et al : Diagnosis and treatment of
dementia : 1.Risk assessment and primary prevention of
Alzheimer disease. CAMJ, 178 (5), 548-556 (2008)
Sandman P-O, et al : Nutritional status and dietary
intake in institutionalized patients with Alzheimer’s
disease and multi-infarct dementia. J Am Geriatr Soc,
35, 31-38 (1987)
Llewellyn DJ, et al : Serum Albumin Concentration and
Cognitive Impairment. Curr Alzheimer Res, 7 (1), 9196 (2010)
4)
5)
6)
研究のシーズとなり、認知症のメカニズムの解明
や予防対策、新規治療法となって再び臨床の現場
で花を咲かせることを期待する。
︵大阪大学大学院医学系研究科
老年・腎臓内科学︶
文献
朝田
隆ら ﹁都市部における認知症有病率と認
知症の生活機能障害への対応﹂平成 年度∼平成
年度総合研究報告書︵2013︶
Narseddine ZS, et al : The Montreal Cognitive
Assessment, Moca : a brief screening tool for mild
cognitive impairment. J Am Geriatr Soc, 53, 695-699
23
64
CLINICIAN Ê15 NO. 638
(440)
1)
24
2)
3)
●疾患概念
Up Date
老年期うつと認知症
はじめに
水 上 勝 義
老年期うつ病の臨床的特徴
老年期のうつ病は若年者のうつ病と比較して、
老年期には、脳や身体の老化という生物学的
心気的傾向、焦燥、妄想や錯乱状態を伴いやす
な変化に加えて、配偶者、友人、地位、健康、
い等の特徴が挙げられる。またアパシーが同時
金 銭 面 の 喪 失 体 験 に も さ ら さ れ る な ど、
bioにみられることも少なくない。アパシーとは、
な要因からうつに陥りやすい。一
psycho-social
方高齢になるにつれ、認知症の発症率も高まる。 モチベーションの喪失と定義され、感情が鈍麻
本稿では、老年期うつと認知症の関連について
関連することが知られるようになった。そこで
である。しかしこの両者は多くの点で、密接に
このように老年期は、うつと認知症の好発年齢
られない。
分、悲哀感、希死念慮などの抑うつ的思考はみ
自発性や意欲が低下した状態であり、抑うつ気
し、周囲の状況に興味や関心を示さず、極端に
の話題を中心に述べる。
また認知機能低下がしばしばみられ、認知機
能障害が強い場合、仮性認知症と呼ばれる。仮
(441)
CLINICIAN Ê15 NO. 638
65
1)
性認知症の認知障害は、通常うつ病の治療によ
認知症とうつ
認知症はうつの率が高い。ADのおよそ3割
り改善するが、残存することも少なくない。ま
にうつがみられ、大うつ病エピソードも2割前
た仮性認知症の既往は、認知症の発症リスクを
高めることが知られている。 Kral
と Emery
の
報告では、8年間の調査で、仮性認知症から回
という。なお血管性認知症は従来うつが多いと
にうつが多く、初期からおよそ6割にみられる
後にみられたと報告されている。DLBはさら
4)
復した 例中 例が認知症に進行したという。
39
認知症の前駆症状としてのうつ
されてきたが、血管性認知症のうつの頻度はA
5)
DやDLBに比較して低くむしろアパシーが多
6)
44
75
体型認知症︵DLB︶の所見とアルツハイマー
知症を発症し、神経病理学的に4例はレビー小
病理診断した結果が報告されている。7例は認
性障害1例︶を平均6年追跡し、最終的に神経
認知症に移行しやすいことが報告されている。
合が多かった。またMCIにうつが併発すると、
%、正常認知群 ・0%とMCI群にうつの割
根プロジェクト︶においても、MCI群 ・3
利根町で2001年から実施した疫学調査︵利
ADのうつ
26
らは、ADの大うつ病エピソー
Chemerinski
8)
7)
18
9)
、3例はADであり、認知症を発
common form
症しなかった1例にもレビー小体がマイネルト
基底核中心に認められた。
型 認 知 症︵ A D ︶ 病 変 が み ら れ る D L B の
症年齢 歳︶のうつ状態︵大うつ病9例、双極
いとの指摘がある。
老年期うつ病の経過中に次第に認知症が明ら
また軽度認知障害︵MCI︶もうつが多いこ
かになる場合がある。 例の高齢発症︵平均発
とが報告されている。筑波大学精神科が茨城県
10
3)
66
CLINICIAN Ê15 NO. 638
(442)
2)
MDにより多く、身体的不安、食欲低下、体重
も目立つとした。ただし精神運動抑制はAD
り、ともに抑うつ気分、興味の喪失、不安が最
し、両者にみられる症状は基本的に共通してお
ド︵AD MD︶と大うつ病︵MDD︶を比較
は比較的保たれ、注意障害や遂行障害が目立つ
どがしばしばみられる。DLBも初期には記銘
ものの、想起障害、注意障害、遂行機能障害な
では、ADにみられる記銘の障害はみられない
つ病の特徴と一致する点が多い。老年期うつ病
みられる。これらの特徴は先に述べた老年期う
ーキンソン症状に類似した外観を示すことが指
にうつ病患者は動作が緩慢になるなど、一見パ
ことが多く認知障害面でも類似している。さら
減少はMDDにより多かった。われわれもほぼ
同様の結果を報告している。
DLBのうつ
詳細な検討でDLBと診断が変更されたことを
摘されており、この点もDLBとの共通点であ
る。
したがって老年期うつ病の診療の際には、D
断で入院した高齢患者のおよそ %がその後の
LBの可能性を念頭に置き、認知機能の変動、
おそらく老年期うつ病と鑑別が最も困難な疾
患はDLBであろう。われわれは、うつ病の診
−
報告した。また、DLBの初期診断名を後方視
自律神経症状、嗅覚障害などDLBの可能性を
レム睡眠行動障害、起立性低血圧や失神などの
心筋MIBG、 DAT scan
が可能な施設では、
これらの検査所見が鑑別診断に有用である。
示唆する症状について確認する。SPECT、
的に調査すると、大うつ病の診断がおよそ5割
を占めた。
DLBのうつには心気、不安、焦燥、妄想、
幻覚、アパシー等、多彩な症状がしばしば同時
にみられる。また時にせん妄などの意識障害も
(443)
CLINICIAN Ê15 NO. 638
67
14
13)
10)
−
11)
12)
認知症のうつの治療
認知症のうつに対する薬物療法のエビデンス
は乏しい。したがって本人に対する支持的心理
療法、対応の工夫、環境調整など非薬物的対応
がまず行われるべきである。AD治療薬である
コリンエステラーゼ阻害剤︵ ChEI
︶は、うつ
症状に有効な場合がある。昨年DLBに対して
アリセプトが承認されたが、DLBのうつに対
しても改善がみられることがある。 ChEI
で効
果がみられない場合、抗うつ薬の治療を行う場
合があるが、安全性に配慮し慎重に行う。三環
系抗うつ薬は抗コリン作用が強く、認知症患者
には原則使用しない。また選択的セロトニン再
取り込み阻害剤︵SSRI︶によってアパシー
が誘発されたり、セロトニンノルアドレナリン
再取り込み阻害剤︵SNRI︶によって男性患
者の尿閉が誘発されることがあるので注意する。
副作用が強く現れ治療に難渋するうつ症状に対
して、修正型通電療法︵ mECT
︶が有効な場合
文献
Marin RS : Apathy : a neuropsychiatric syndrome. J
Neuropsychiatry Clin Neurosci, 3, 243-254 (1991)
︵筑波大学大学院人間総合科学研究科
ヒューマン・ケア科学専攻
健康社会学・
ストレスマネジメント分野
教授︶
がある。
11)
Kral VA, Emery OB : Long-term follow-up of
depressive pseudodementia of the aged. Can J
Psychiatry, 34, 445-446 (1989)
Sweet RA, et al : Neuropathologic correlates of lateonset major depression. Neuropsychopharmacology,
29, 2242-2250 (2004)
Migliorelli R, et al : Prevalence and correlates of
dysthymia and major depression in Alzheimer s
disease. Am J Psychiatry, 152, 37-44 (1994)
Borroni B, et al : Behavioral and psychological
symptoms in dementia with Lewy-bodies
(DLB) : Frequency and relationship with disease
severity and motor impairment. Arch Gerontol Geriatr,
46, 101-106 (2008)
池田
学 老年期うつ病と認知症の関連について、
68
CLINICIAN Ê15 NO. 638
(444)
1)
2)
3)
4)
5)
6)
®
B︶の前駆症状、初期症状、老年精神医学雑誌、
︵増刊Ⅰ︶
、 ∼ ︵2011︶
13)
60
64
朝田
隆 う つ か ら 認 知 症 へ の 進 展、 Depression
、4、8∼ ︵2006︶
Frontier
11
分子精神医学、9、374∼378︵2009︶
Hidaka S, et al : Prevalence of depression and
depressive symptoms among older Japanese
people : comorbidity of mild cognitive impairment and
depression. Int J Geriatr Psychiatry, 27, 271-279
(2012)
Modrego PJ, Ferrández J : Depression in patients with
mild cognitive impairment increases the risk of
developing dementia of Alzheimer type : a prospective
cohort study. Arch Neurol, 61, 1290-1293 (2004)
Chemerinski E, et al : The specificity of depressive
symptoms in patients with Alzheimer s disease. Am J
Psychiatry, 158, 68-72 (2001)
Mizukami K, et al : Therapeutic effects of the selective
serotonin noradrenaline reuptake inhibitor milnacipran
on depressive symptoms in patients with Alzheimer s
disease. Prog Neuro-Psychopharmacol Biol Psychiatry,
33, 349-352 (2009)
Takahashi S, Mizukami K, et al : Depression associated
with dementia with Lewy bodies (DLB) and the effect
of somatotherapy. Psychogeriatrics, 9, 56-61 (2009)
高橋
晶、水上勝義ら レビー小体型認知症︵DL
22
(445)
CLINICIAN Ê15 NO. 638
69
7)
8)
9)
10)
11)
12)
●薬物治療
目 黒 謙 一
ーチを含めて生活空間においてある程度の経過
疾患や随伴する症状の診断自体、治療的アプロ
まだできることを少しでも
長く行うための薬物治療
はじめに
│
﹁生活機能﹂と﹁脳機能﹂の統合的視点
経所見や画像診断、神経心理検査により病名診
である。後者に偏った場合、認知症の診療は神
機能﹂の統合的視点は、診断にも治療にも必要
セプト開発前から介護医療連携を行ってきたか
見についての反応を見れば、その医療者がアリ
れすら行われていない場合も多いが︶
。この意
ル﹂であるが、それだけでは不十分である︵そ
認知症とは、生活に支障を来している状態で、 観察を必要とするからである。筆者言うところ
の﹁ 脳障害↓機能障害↓治療 ﹂の﹁ 直列モデ
脳の病気が関連している。
﹁生活機能﹂と﹁脳
断︵AD[アルツハイマー病]かDLB[レビ
その中で症状として認識されると捉えるもので
どうかがよく分かる。
ー小体型認知症]か VaD
[血管性認知症]か︶
もう一つは﹁複合モデル﹂である。まず、地
を行い、あとは薬をいかに処方するか、となる。
域共同体としての生活空間があって、認知症が
この種の鑑別診断フローチャートは散見される
が、あまり役に立たない。それは認知症の原因
70
CLINICIAN Ê15 NO. 638
(446)
®
における臨床類型の重要性はすでに報告されて
自体を失わないように注意が必要である。入院
限界により、認知症医療における脳の視点それ
るのであるが︵ social brain
︶
、この場合、集団
としての脳を対象にできない脳科学の致命的な
ある。実は脳の発達自体、社会の中で形成され
制 で き た 内 容 は﹁ 見 当 識 訓 練︵ Reality
コラージュ、書道、回想法その他を行った。統
受診者を対象に、郷土料理、運動、カラオケ、
定された高齢者や1997年開設の物忘れ外来
病率調査でCDR0・5︵認知症の疑い︶と判
会的介入を行う以外に手はなかった。社会福祉
協議会と協力して引きこもり対策を施行し、有
いるが、生活空間においては①元気だが変なこ
OrientationRO ︶+作業療法﹂と言えるが、
その後1999年にアリセプトが使用可能にな
とをするため目が離せない﹁陽性型﹂か、②体
の具合が悪く引きこもるため支援が必要な﹁陰
たのである。
﹁心理社会的介入
った。やっと﹁武器を手に入れた﹂感覚があっ
Dであれ
アリセプト﹂の
®
+
−
/
®
らではの所見である。
同程度の心理社会的介入を尽力してきた地域な
ヒストリカルコントロールは、薬剤配備前後に
3)
セプト等の認知症治療薬は開発途上で、心理社
尻プロジェクト︶を立ち上げたが、当時はアリ
卒中・認知症・寝たきり予防プロジェクト︵田
いる。
﹁陽性型﹂の場合地域における﹁迷惑行
︵=家庭生活+地域生活︶の限界点を調査して
型﹂
﹁陰性型﹂の生活類型に基づき、在宅生活
筆者の講座では、
﹁
︵新︶オレンジプラン﹂の
筆者が臨床・研究の拠点にしている宮城県北 妥当性の検討を行っているが、前述の﹁ 陽性
部地域において、1988年に地域における脳
その上で心理社会的介入を検討する
まず﹁社会生活﹂の支援、
であれ、両者の類型は存在する。
VaD
性型﹂の2分類が出発点と思われる。実際、A
2)
(447)
CLINICIAN Ê15 NO. 638
71
1)
®
事していて頭が下がる思いである。介護従事者
会が多いが、常に﹁命に付き添って﹂介護に従
域包括支援センターのケアマネジャーと話す機
ぎ立てることは避けるべきである。仕事柄、地
なるが、
﹁行動障害﹂をすぐBPSD云々と騒
為﹂が、
﹁陰性型﹂の場合ADL低下が問題に
うようにケアマネジャーに推奨している。
護連携として、デイサービスの現場を中心に行
的介入のみの効果である。日常診療における介
所見は、認知症治療薬を用いていない心理社会
査により前方帯状回の代謝亢進を認めた。この
を示し社会性の向上を認め、FDG PET検
へ行った結果、有意に遂行機能検査結果の改善
相性の良い薬剤=アリセプトを用いる
そして心理社会的介入に
がよく﹁医療に繋げる﹂と言うが、筆者に言わ
せればナイチンゲール﹁精神﹂は介護従事者に
こそ現れている。換言すれば、介護従事者の行
っている支援活動は医療そのもの︵=非薬物療
5)
た場合︵ Patient-Reported OutcomesPRO︶
、
遂行機能の改善を示し社会性の向上が得られや
困難であるものの、
﹁本人の満足度﹂を統制し
定の困難さによりRCT︵無作為比較試験︶が
その上で、心理社会的介入を検討する。心理
社会的介入は非特異的介入︵プラセボ︶群の設
の明らかではないものに時間を費やしている場
的介入を行いやすいが、事業所によっては効果
化させる心理社会的介入が軌道に乗ったかどう
を行えるかどうか、もう一つは薬剤効果を最大
て妄想その他に巻き込まれることなく服薬管理
薬剤投与前に必ず確認すべきことが二つある。
一つは家族・介護者が治療のパートナーになっ
すい。筆者は前述したRO+作業療法、なかで
合があるので、ケアマネジャーを通じて指導が
かである。デイサービスにおいて最も心理社会
も回想法を推奨しているが、それを施設入所者
法︶である。
−
®
72
CLINICIAN Ê15 NO. 638
(448)
4)
種認知機能検査︶
、表情、精神症状、行動異常
アリセプト投与前後での患者様の認知機能︵各
﹁臨床上の効果判定は大変難しいものですが、
アリセプトの効果について、エーザイHPには
紹介される場合があるが、困ったものである。
でアリセプトを処方しておきました﹂と患者を
必要である。稀ならず﹁物忘れがあるようなの
︵東北大学CYRIC 高齢者高次脳医学
教授︶
上のことを図示すると図①②のようになる。
方することにより、相乗効果が期待される。以
その上で相性の良い薬剤であるアリセプトを処
能力を最大限に引き出し、社会性を向上させる。
に即した心理社会的介入によって、本人の保持
の部位が賦活されるのである。本人の生活機能
などにより総合的に効果を判定してください﹂
とある。すなわち、単純な指標で効果は判定で
きない。
﹁生活機能﹂と﹁脳機能﹂の統合的視
点の必要性は、治療にも当てはまる。
過去の脳画像研究によれば、アリセプト投与
により前頭葉 頭頂葉ネットワークの血流が増
加する報告が多い。筆者らの研究でも、アリセ
プト反応群ではドネペジルPETにおいてアセ
チルコリン濃度の変化と連動して遂行機能検査
結果が改善し、SPECTで見た場合、前頭葉、
特に前方帯状回の血流が増加する。まさに、心
理社会的介入の効果が見られる部位とほぼ同一
文献
山崎英樹ら 老年期における重度痴呆の類型分類│
画像所見との対応、老年精神医学雑誌、5、199
∼214︵1994︶
®
Ishizaki J, et al : Therapeutic psychosocial intervention
for elderly subjects with very mild Alzheimer’s disease
in a community : The Tajiri Project. Alzheimer Disease
and Associated Disorders, 16, 261-269 (2002)
Meguro M, et al : Comprehensive approach of
donepezil and psychosocial interventions on cognitive
f u n c t i o n a n d q u a l i t y o f l i f e f o r A l z h e i m e r’ s
disease : The Osaki-Tajiri Project. Age & Ageing, 37,
469-473 (2008)
(449)
CLINICIAN Ê15 NO. 638
73
6)
®
1)
2)
®
®
−
7)
3)
®
①認知症者への介護医療連携
生活の観察 陽性型・陰性型
環境調整と必要時薬物の検討
生活支援体制の整備
介護者啓発:治療のパートナー化
介護保険サービスの調整
心理社会的介入の開始
鑑別診断と薬物療法の開始
薬効の最大化としての心理社会的介入
(筆者作成)
②心理社会的介入とアリセプトⓇの併用
本人の生活機能に即した心理社会的介入とアリセプト®の併用によって、
本人の保持能力を最大限に引き出し、社会性を向上させる
認知機能
生活機能
脳の病変
社会生活の支障
認知機能障害・BPSD
認知症の人
包括的な対応が重要
医療(薬物治療含む)
ケア(心理社会的介入)
アリセプト®投与により
見当識訓練+作業療法、回想法
・前頭葉−頭頂葉ネットワークの血流が増加
・反応群ではSPECTにて前方帯状回の血流増加
・遂行機能検査の改善・社会性の向上
・前方帯状回の代謝亢進(FDG-PET検査)
心理社会的介入の効果が見られる部位と同一の部位がアリセプト®投与により賦活
(筆者作成)
(450)
CLINICIAN Ê15 NO. 638
74
Meguro K, et al : Patient-reported outcome is important
in psychosocial intervention for dementia : A secondary
analysis of a Randomized Controlled Trial of group
reminiscence approach data. Dementia and Geriatric
Cognitive Disorders Extra, 3 (1), 37-38 (2013)
Akanuma K, et al : Improved social interaction and
increased anterior cingulate metabolism after group
reminiscence with reality orientation approach for
vascular dementia. Psychiatry Research :
Neuroimaging, 192 (3), 183-187 (2011)
アリセプトについて、エーザイHP
http://www.aricept.jp/about/allof/ari04_03.html
Kasuya M, et al : Greater responsiveness to donepezil
in Alzheimer patients with higher levels of
acetylcholinesterase based on attention task scores and
a donepezil PET study. Alzheimer Disease and
Associated Disorders, 26 (2), 113-118 (2012)
(451)
CLINICIAN Ê15 NO. 638
75
4)
5)
6)
7)
●薬物治療
アリセプト服薬継続のための
剤形選択
石 渡 明 子
継続の調査によると、内服開始6カ月後の服薬
てしまう患者がいることも事実である。本稿で
能となった。しかしその一方で、服薬を中断し
開発されたことで、認知症症状の進行抑制が可
認知症は患者や介護者の日常生活・社会生活
に大きな支障を来す疾患だが、認知症治療薬が
でこうした理解に重点をおくことで服薬継続率
や介護者の理解としており、薬剤師の服薬指導
要因は認知症の臨床症状や治療薬に対する患者
あった。この報告で、服薬継続に影響を与える
り、本邦でも1年間の服薬継続率は ・9%で
はじめに
は継続服薬がなされない理由を考察し、継続服
が有意に上昇している。
継続率は ・0%、 カ月後では ・4%であ
薬の意義やそれに影響を与える因子、また継続
服薬への工夫を考える。
認知症患者における服薬継続の現状
809人の認知症患者における服薬
1万5、
65
12
アルツハイマー病︵AD︶に対してアリセプ
トの治療を行った後、6週間の休薬期間を設け
42
66
認知症治療薬の継続服用の意義
2)
1)
®
76
CLINICIAN Ê15 NO. 638
(452)
®
①アリセプトⓇ投与中止による影響
─ ADAS-cog の経時変化
(海外データ:米国での臨床第Ⅲ相試験)
䠄Ⅼ䠅
㻙㻞㻚㻡
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৲ɨ᧏‫ࢽ⎡⎛଺ڼ‬ໜ⎡ࠀ
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ોծ
㻙㻜㻚㻡
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㻝㻚㻡
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㻖䠖㼜䠘㻜㻚㻜㻝
㻖㻖䠖㼜䠘㻜㻚㻜㻜㻝
㻖㻖㻖䠖㼜䠘㻜㻚㻜㻜㻜㻝
㻲㼕㼟㼔㼑㼞䛾୧ഃ᭱ᑠ᭷ពᕪἲ
ỴἼἍἩἚ㔈ᵏᵎᶋᶅ፭ίᶌᵛᵏᵓᵕὸ
㻞㻚㻡
ỴἼἍἩἚ㔈ᴾᵓᶋᶅ፭ίᶌᵛᵏᵓᵒὸ
ἩἻἍἮ፭ίᶌᵛᵏᵔᵐὸ
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ίᵔᡵ᧓ὸ
䠄㼢㼟䝥䝷䝉䝪⩌䠅
㻟㻚㻡
㻜
㻢
㻝㻞
ỴἼἍἩἚ㔈፭
ᵏᵎᶋᶅίᵏᵓᵕὸ ᵏᵓᵏ
ᵓᶋᶅίᵏᵓᵒὸ ᵏᵓᵑ
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ᵏᵐᵓ
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ἩἻἍἮ፭ίᵏᵔᵐὸ ᵏᵓᵒ
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ᵏᵏᵐ
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ᵏᵎᵓ
ᵏᵑᵎ
ᵏᵎᵎ
ᵏᵐᵕ
ᵏᵑᵑ
ᵏᵑᵐ
ᵏᵐᵖ
(文献3より)
たところ、アリセプトを投与することで認知機
能の悪化が抑制されたが、6週間の休薬後その
3)
効果は消失し、認知機能はプラセボ群と同じレ
ベルまで低下した︵図①︶
。3週間以上の休薬
の日常生活動作︵ADL︶に与える影響をみた
報告では、中止後2カ月からADLは有意に低
4)
下しており、抗認知症薬の服薬を中止すると認
知機能のみならずADLの低下を来し︵図②︶
、
できる限り長く服薬を継続することが重要と考
CLINICIAN Ê15 NO. 638
えられる。
服薬継続に影響を与える認知症高齢者の病態
薬剤の影響で生じるものもあり、睡眠薬・向精
神薬による集中力の欠如、嚥下機能不全、ある
いは抗コリン薬による唾液分泌低下に伴う食塊
形成不全、 拮抗薬による嚥下機能不全などが
知られている。
77
Ca
認知症の経過中にみられる嚥下障害は、服薬
継続を困難とし、誤嚥性肺炎の原因にもなる。
ADAS-cog:Alzheimer s Disease Assessment Scale-cognitive subscale
ίᶌૠὸ
®
(453)
②アリセプトⓇの ADL に対する効果および中止例の予後
─ DAD 総得点の投与開始前からの変化
(アリセプトⓇ特定使用成績調査)
ίໜὸ ᵏᵎᵌᵎ
ό
ὼᵏᵓᵌᵎ
फ҄
ὼᵓᵌᵎ
嚥下障害の簡便かつ安全な評価方法として反
復唾液嚥下テスト︵RSST︶が知られている。
と考えられている。
ブスタンスPの分泌が減少することが主な原因
が低下し、そのために嚥下反射を司っているサ
血管性認知症で認める嚥下障害は、大脳基底
核領域の病巣によりドパミン作動性神経の機能
息、誤嚥性肺炎の原因となる。
また咳嗽反射も加齢とともに減弱するので、窒
するために起こる。残存食塊は誤嚥されやすく、
食塊の形成が不十分のまま早期に嚥下しようと
ADでは嚥下障害は後期にみられ、その原因
の一つは咀嚼中の集中力の低下によるもので、
(文献4より)
アリセプト® の投与を中止すると、DAD 総得点は有意に悪化した。
DAD:Disability Assessment for Dementia
口腔内を湿らせた後、空嚥下を 秒間繰り返し
5)
判定する。
てもらうが、 秒で2回以下は嚥下障害ありと
30
常を比較したデータでは、DLBでは有意に嚥
認知症でも嚥下障害の出現に違いがある。レ
ビー小体型認知症︵DLB︶とADで食行動異
30
ό
ό
ὼᵏᵎᵌᵎ
ɶഥࢸ
இኳ
ίᵐᵕὸ
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ᵑỽஉࢸ
ίᵏᵎὸ
ɶഥ
ᵐỽஉࢸ
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இኳ
ίᵐᵏὸ
ၐ̊ૠ
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᧏‫ڼ‬Э
ίᵐᵕὸ
ὼᵑᵎᵌᵎ
78
CLINICIAN Ê15 NO. 638
(454)
ᵎᵌᵎ
৲ɨ᧏‫ڼ‬Э⍾⎼⎡‫҄٭‬᣽
ὼᵐᵓᵌᵎ
࠯‫͌ר‬ᶠᵗᵓήᵡᵧ
όᾉᶎᾋᵎᵌᵎᵓ
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ίᶔᶑ৲ɨ᧏‫ڼ‬Эὸ
ὼᵐᵎᵌᵎ
ોծ
ᵓᵌᵎ
下障害、食欲の低下や便秘がみられ、嚥下障害
アリセプトの剤形
®
アリセプトは口腔内崩壊錠がよく知られてい
は錐体外路症状と、食欲の低下は精神症状と相
るが、嚥下障害患者には内服ゼリーやドライシ
関があることが示された。
認知症高齢者では嚥下障害を念頭においた薬
物療法、すなわち剤形選択が重要となる。
嚥下障害に関するアンケート調査
30
6)
変えることができる。ドライシロップは少量の
薬拒否の患者に対して〝おやつ〟として目先を
ゼリーははちみつレモン味で内服しやすく、服
ロップという剤形も考慮したほうがよい。内服
®
水で溶かして内服することもできる。どちらも
当院で 人の外来通院中のAD患者を対象に
嚥下障害の調査を行ったところ︵男女比 / 、 アリセプトの苦みをマスキングするため、甘味
17 20
料が加えられている。
®
︵日本医科大学武蔵小杉病院 神経内科 部長︶
とを念頭におくべきである。
待でき、また介護者の与薬負担を軽減できるこ
よって、嚥下障害患者においても服薬継続が期
整えなければならない。剤形選択という工夫に
認知症診療医は、薬を処方するだけでなく、
︶
、
常に薬剤の持つ効果が最大限発揮できる環境を
年齢 ・5±7・ 歳、MMSEスコア ・7
±5・ 点、ADASスコア ・3±5・
必要がある。
障害の有無を評価し、適切な剤形の選択を行う
られ、初めて薬物治療を開始する段階から嚥下
かわらず嚥下障害を呈する可能性があると考え
障害の程度には相関はなく、認知症の程度にか
は ・0%だった。MMSEやADASと嚥下
嚥下および服薬に何らかの困難を感じている方
81
(455)
CLINICIAN Ê15 NO. 638
79
19
28
50
14
79
42
文献
Haider B, et al : Medication adherence in patients with
dementia : an Austrian cohort study. Alzheimer Dis
Assoc Disord, 28, 128-133 (2012)
Watanabe N, et al : Pharmacist-based Donepezil
Outpatient Consultation Service to improve medication
persistence. Patient Prefer Adherence, 6, 605-611
(2014)
Rogers SL, et al : A 24-week, double-blind, placebo-
controlled trial of donepezil in patients with Alzheimer s
disease. Donepezil Study Group. Neurology, 50 (1),
136-145 (1998)
本間
昭 アルツハイマー型認知症患者のADLに
対するドネペジル塩酸塩の効果及び中止例の予後
、 ︵8︶
、1
︵ アリセプト特別調査 ︶
、 Geriat Med
047∼1059︵2009︶
47
Smithard DG, et al : Complications and outcome after
acute stroke. Does dysphagia matter? Stroke, 29 (7),
1480-1481 (1998)
羽生春夫ら ドネペジル塩酸塩内服ゼリーに関する
®
医師、コ・メディカル、患者家族のニーズおよび評
価、新薬と臨牀、 ︵3︶
、349∼355︵20
10︶
59
80
CLINICIAN Ê15 NO. 638
(456)
1)
2)
3)
4)
5)
6)
●薬物治療
︵ Alzheimer s
ADAS-Jcog
鵜 飼 克 行
︶や
State Examination
Disease Assessment Scale-cognitive component-
える効果は多いとは言えない﹂というのが正直
︶で比較してみると点数上は多
Japanese version
少改善するが、臨床上・日常生活上では目に見
bodiesDLB︶に対する薬物の保険適用が認
められた。わが国の製薬企業であるエーザイ株
なところであった。
︵商品名アリセプト︶である。アリセプトは、
日
®
︵ Alzheimer diseaseAD ︶に 対 し て 保 険 適 用
ところが、DLBに対しては、アリセプトの
を取得している。しかし、そのADへの効果は、 効果はしばしば劇的である。もちろん、睡眠薬
®
®
本では 年以上前に、アルツハイマー型認知症
DLBに対するアリセプトの効果
筆者の個人的な印象では、
﹁確かに、客観的認
CLINICIAN Ê15 NO. 638
(457)
知機能評価尺度であるMMSE︵ Mini-Mental いが、数日から数週間で、認知機能のみならず、
式 会 社 が 19 9 0 年 代 に 開 発 し た ド ネ ペ ジ ル
2014年9月、わが国において、世界で初
めてレビー小体型認知症︵ dementia with Lewy
はじめに
DLBに対するアリセプトの
至適用量とは
®
81
15
や鎮痛薬のように数時間で著効するわけではな
®
DLBの最も頻度が高い症状である幻視に対し
ても効果を示すことが多いように思う。幻視に
議に思える。
DLBに対するアリセプトの至適用量
プトがDLBに有効であることは、少なくとも
的なことである。もっとも臨床的には、アリセ
文書の﹁用法・用量﹂では、国内第Ⅲ相試験の
だ確立されていないと言うべきであろう。添付
∼
対してであり、
﹁精神症状・行動障害に対する
ただ、今回のアリセプトのDLBに対する保
険適用の承認は、
﹁認知症症状の進行抑制﹂に
4週間以上経過後、 ㎎ に増量する。なお、症
週間後に5㎎ に増量し、経口投与する。5㎎ で
塩酸塩として1日1回3㎎ から開始し、1∼2
結果に基づいて、
﹁通常、成人にはドネペジル
回の適応拡大は認知症の治療史においても画期
本稿のテーマである﹁DLBに対するアリセ
精神病薬の効果に匹敵すると思う。よって、今
プトの至適用量﹂についてであるが、これは未
対する有効性は、統合失調症の幻聴に対する抗
®
専門家の間では以前から知られていた。
®
状により5㎎ まで減量できる﹂と記されている。
7)
有効性は確認されていない﹂という﹁効能・効
1)
dementiaBPSD︶に対しても有効であると
いう印象がある。むしろ、国内第Ⅲ相試験で、
述であると思うが、臨床的には精神症状・行動
これは国内第Ⅲ相試験での結果を踏まえての記
手な裁量処方は認められないが、画一的処方も
﹁用法・用量﹂を無視するかのごとくの好き勝
な結果に基づいて画一的に処方することは論理
による個人差があるのが当然であって、統計的
障害︵ behavioral and psychological symptoms of 的とは言えない。だからこそ﹁ 通常 ﹂や﹁ 以
上﹂という文言も付されているのであろう。
なぜ有意差が付かなかったのか、筆者には不思
果に関連する使用上の注意﹂が付記されている。 しかし、患者には体重や体質、病期・病態など
10
82
CLINICIAN Ê15 NO. 638
(458)
®
®
同様に好ましくない。
DLBの幻視は必ず再発する
maintained for more than 6 months. However,
relapses of visual hallucinations also occurred in
all cases. Against these relapses, an increased dose
このよう
again in almost all cases in this study....
に、アリセプトは、DLBの幻視に対し著効す
of donepezil was very effective in resolving them
る︵多くの場合、3∼5㎎ /日で︶
。しかし、
では、
﹁精神症状・行動障害に対する有効性
は確認されていない﹂ことを再度確認しつつ、
至適用量について考察してみたい。昨年 月の
﹁精神症状・行動障害に対する﹂アリセプトの
®
おそらく病理・病態の進展・悪化によると思わ
®
したが、その論文の要旨は以下である。 ...To れるが、幻視の再発は必至である。その場合、
the best of our knowledge, an appropriate dose of アリセプトを増量︵ ㎎ /日︶すれば、再発し
筆者らの論文では、この至適用量について言及
12
®
d o n e p e z i l o n t h e s e v i s u a l h a l l u c i n a t i o n s 早い段階から ㎎ を投与しておくほうがより良
chronologically in all cases and discuss its い予後を得られるのか、これも不明である。
from DLB with visual hallucinations were treated た場合、どう対応したらよいのであろうか。こ
with donepezil. We summarize the effects of れは今後の重要な検討課題であると思う。また、
donepezil for the treatment of DLB at each stage た幻視にも著効を示す。ただし、その後の再々
has not been discussed....Eight patients suffering 発も、これまた必至であった。この段階に至っ
10
10
efficacy and characteristics. Donepezil contributed ところで、筆者はほとんど経験したことがな
t o t h e c o m p l e t e d i s a p p e a r a n c e o f v i s u a l いのだが、聞くところによると﹁DLBの幻覚
hallucinations in all cases, and its effects were 妄想状態にアリセプトを試したが、期待したほ
®
(459)
CLINICIAN Ê15 NO. 638
83
8)
どには効果がない﹂という場合もあるらしい。 では、このような場合、アリセプトはどうす
っているためではないかと推測される。最近、
い︵のかもしれない︶
﹂というバイアスがかか
たBPSDを呈したDLB患者が受診していな
精神科病床がないため、そもそも﹁切羽詰まっ
必然的に薬剤性パーキンソニズムを惹起するの
いる。すべての抗精神病薬は、多かれ少なかれ、
得られた︵のではないか︶という印象を持って
で、より少ない量の抗精神病薬で抗幻覚効果が
べきであろうか?
筆者は、抗精神病薬を使用
する際にもアリセプトを継続して併用すること
これはおそらく、筆者の勤務している病院には
筆者も、アリセプト ㎎ を処方していても幻視
®
の再発に至っていた患者が、ついに幻視との距
で、パーキンソニズムを中核的特徴とするDL
®
Bにとって、抗精神病薬の量は、たとえ投与せ
8)
離を取ることができなくなり、幻覚妄想状態・
®
性﹂に対してクエチアピン・ハロペリドール・
的疾患に伴うせん妄・精神運動興奮状態・易怒
はやむなく抗精神病薬の使用を選択した
︵
﹁器質
今後の重要な検討課題の一つであろうが、筆者
このような緊急性のあるBPSDへの対応法も
うのだが、さて、どうであろうか。
床経験でのコンセンサスが得られるといいと思
現は難しいかもしれないが、せめて専門家の臨
臨床試験が必要になると思われるので、その実
効果を客観的に証明するためは、極めて大変な
するべきであることは当然である。この併用の
ン病に伴う幻覚﹂に対してはリスペリドンの保
まとめ
ペロスピロン・リスペリドンが、
﹁パーキンソ
5)
興奮状態に陥った症例を、立て続けに経験した。 ざるを得ない状態にあっても、なるべく少なく
4)
DLBに対するアリセプトの効果と治療経過、
険適用外使用が認められている︶
。その結果は、
当然であるが、極めて有効であった。
®
9)
84
CLINICIAN Ê15 NO. 638
(460)
10
DLB治療の今後の課題を述べて、本稿を終わ
りとしたい。
DLBに対するアリセプトの効果はしば
1.
しば劇的である。数日から数週間で、認
知機能のみならず、DLBの最も重要な
精神症状である幻視に対しても著効を示
︵社会医療法人愛生会
総合上飯田第一病院
老年精神科
部長︶
文献
Fergusson E, Howard R : Donepezil for the treatment
of psychosis in dementia with Lewy bodies. Int J
Geriatr Psychiatry, 15, 280-281 (2000)
Lanctot KL, Herrmann N : Donepezil for behavioral
disorders associated with Lewy bodies : a case series.
Int J Geriatr Psychiatry, 15, 338-345 (2000)
1)
Rajas-fernandez CH : Successful use of donepezil for
the treatment of dementia with Lewy bodies. Ann
Pharmacother, 35, 202-205 (2001)
McKeith IG, et al : Diagnosis and management of
dementia with Lewy bodies. Third report of the DLB
consortium. Neurology, 65, 1863-1872 (2005)
2)
3)
す。
DLBに対するアリセプトの至適用量は、
2.
未だ確立されていない。
著効を示す。
4.アリセプトの増量は、再発した幻視にも
DLB病理・病態の進展・悪化により、
3.
幻視の再発は必至である。
6.
幻視に対してアリセプト ㎎ では抑制で
である。
アリセプト ㎎ を投与していても、幻視
5.
のさらなる再発・悪化は、やはり必然的
後の重要な検討課題である。
きなくなった場合の対応法の確立は、今
®
Mori S, et al : Efficacy and safety of donepezil in
patients with dementia with Lewy bodies : Preliminary
findings from an open-label study. Psychiatry Clin
Neurosci, 60, 190-195 (2006)
Kosaka K : Behavioral and psychological symptoms of
dementia (BPSD) in dementia with Lewy bodies.
Psychogeriatrics, 8, 134-136 (2008)
(461)
CLINICIAN Ê15 NO. 638
85
®
®
4)
®
®
10
5)
6)
10
Ikeda M, et al : Long-term safety and efficacy of
donepezil in patients with dementia with Lewy
bodies :Results from a 52-week, open-label,
multicenter extension study. Dement Geriatr Cogn
Disord, 36, 229-241 (2013)
Ukai K, et al : Long-term efficacy of donepezil for
relapse of visual hallucinations in patients with
dementia with Lewy bodies. Psychogeriatrics, 2014,
DOI : 10.1111/psyg.12089
平成 年9月 日付厚生労働省保険局医療課長通知、
保医発0928第1号
86
CLINICIAN Ê15 NO. 638
(462)
7)
8)
9)
23
28
●これからの展望
認知症国家戦略とは
はじめに
粟 田 主 一
における認知症対応の改善、③介護施設におけ
で包括的な政策プランを策定し、これに沿った
策の最重要課題の一つと位置づけ、国家レベル
世紀に入って、認知症高齢者の急増に直面
している先進諸国は、認知症施策を社会保障施
を設定して、その目標達成度を評価している。
知症の人の視点に立った9つのアウトカム指標
症ケア改善計画を2014年までに実施し、認
⑤抗精神病薬使用の低減を重点課題とする認知
る認知症対応の改善、④ケアラー支援の強化、
サービス提供体制の変革を進めている。
先進諸国の認知症国家戦略
18
1)
べく、2013年にキャメロン首相の呼びかけ
また、世界の認知症施策のリーダシップをとる
2)
目標を掲げた。このうち、①適切なタイミング
でG8認知症サミットを開催している。
英国は、2009年2月に認知症国家戦略を
スコットランドでは、2002年に認知症当
発表し、3つの基本理念と ︵後に ︶の政策
事者がスコットランド認知症ワーキンググルー
17
での診断・支援のための体制整備、②総合病院
プを設立し、2009年に認知症国家戦略の策
3)
(463)
CLINICIAN Ê15 NO. 638
87
21
早期診断、②質の高い診断後支援、③人材育成
定に参画している。ワーキンググループは、①
する目標が掲げられている。また、 のすべて
サービスへのアクセスと統合ケアの調整を推進
ォーカスがあてられ、2013年から2016
012年の認知症国家戦略では診断率向上にフ
の3点を自治政府に提言し、2010年から2
る。
ムテーブル、予算、評価法が明らかにされてい
の施策について、実施責任者、実施主体、タイ
44
カーが診断後支援を提供することがアウトカム
全国認知症プログラム︵2004∼2008︶
、
みを進め、2004年以降に国家プランとして、
を命じ、2008 年2月に、3 つの行動指針
治療に関する研究体制の構築とケアの質の向上
フランス政府は、2007年にサルコジ大統
領がパリ大学のメナール教授に認知症の診断・
いる。これらは、1990年代より推進されて
認知症デルタプラン︵2013∼︶を策定して
1︶
、認知症ケア基準︵2011∼2012︶
、
︶の実現に向けた保健医療
based integrated care
サービス提供体制全般の変革の中で実施されて
きた﹁地域に根ざした統合ケア﹂
︵ community-
認知症統合ケアプログラム︵2008∼201
の指標に掲げられている。
されるすべての人に、訓練を受けたリンクワー
年の認知症国家戦略では、新たに認知症と診断 オランダは、2000年より﹁コーディネー
トされた認知症ケア﹂を実現するための取り組
5)
︵研究・健康・連帯︶
、3つの目的︵根治・ケア
・尊厳︶
、3つのターゲット︵疾患・認知症の
人・ケアラー︶
、 の具体的政策からなる﹁プ
ラン・アルツハイマー2008∼2012﹂を
策定している。このプランでは、MAIAと呼
ばれるワンストップ相談窓口を全国に設置し、
きたものである。
6)
88
CLINICIAN Ê15 NO. 638
(464)
4)
44
慣れた地域のよい環境で暮らし続けることがで
策推進5か年計画︵オレンジプラン︶
﹂を策定
認知症国家戦略とは何か
先進国の認知症施策に共通する特徴は、⑴認
知症有病者数の将来推計値を示し、それが社会
した。このプランでは、認知症の人の暮らしを
きる社会の実現﹂を基本目標とする﹁認知症施
に及ぼす影響を明確にした上で、認知症施策を
設定し、効果を評定していること、⑸倫理的・
目標達成度を評価するためのアウトカム指標を
練られていること、⑷定められた計画期間内の
からのヒアリングを基礎にして、包括的戦略が
エビデンスとともに、多様なステークホルダー
⑵基本目標を明確にしていること、⑶科学的な
症国家戦略と共通するところである。
調されている。この点は、他の先進諸国の認知
クセスと統合ケアの調整︶の仕組みづくりが強
れ︶の作成と早期診断・早期対応︵診断へのア
た適切な医療や介護サービスなどの提供の流
として、標準的な認知症ケアパス︵状態に応じ
た統合ケア︶の構築を推進するための第一段階
社会保障施策の優先課題に位置づけていること、 支える地域包括ケアシステム︵=地域に根ざし
人権的側面を重視し、アルツハイマー病協会な
プ﹂を設立し、同年 月に開催された認知症サ
症の当事者らが﹁日本認知症ワーキンググルー
しかし、当事者視点の反映やアウトカム指標
どの当事者支援組織との密接な協力関係の下で、
の設定は不十分である。2014年 月、認知
当事者
︵本人・家族︶の視点を政策に反映させ
ていることにある。
わが国の認知症国家戦略
﹁認知症にな
厚生労働省は、2012年に、
っても本人の意思が尊重され、できる限り住み
が国の認知症施策を加速するための新たな戦略
発言した。また、同会議では、安倍首相が、わ
ミット日本後継イベントにおいて共同代表らが
11
(465)
CLINICIAN Ê15 NO. 638
89
7)
10
8)
のヒアリングを開始し、2015年1月 日に
の策定を宣言した。その後、政府は、関係者へ
目標達成を評価するためのアウトカム指標を設
知症国家戦略の策定に着手するのでは遅すぎる。
ない。
認知症国家戦略を進化させていかなければなら
定し、プランの効果を評定しながら、わが国の
認知症施策推進総合戦略︵新オレンジプラン︶
を発表した。
おわりに
文献
︵東京都健康長寿医療センター研究所
自立促進と介護予防研究チーム
研究部長︶
新オレンジプランは、疫学調査の結果に基づ
く認知症高齢者数の将来推計値を踏まえ、認知
−
https://www.gov.uk/government/publications/living well-with-dementia-a-national-dementia-strategy
西田淳志、新川祐利 英国の認知症国家戦略、老年
精神医学雑誌、 、977∼983︵2013︶
(2009)
Department of Health, Government of UK : Living
well with dementia a national dementia strategy
症施策を国家の優先課題に位置づけ、
﹁認知症
の人の意思が尊重され、できる限り住み慣れた
地域のよい環境で自分らしく暮らし続けること
ができる社会の実現﹂に向けて、関係府省庁が
連携して取り組むこと、施策全体を通して認知
症の人と家族の視点を重視することを明言して
いる。これらは、先のオレンジプランよりも進
化している点と言えるであろう。しかし、どの
ようなプランが目標達成に有効であるか、目下
のところわれわれの手元には十分なエビデンス
がない。しかし、エビデンスの蓄積を待って認
The Scottish Government of UK : Scotland’s National
Dementia Strategy (2010)
24
27
1)
2)
http://www.gov.scot/Resource/0042/00423472.pdf
Plan Alzheimer 2008-2012
3)
http://www.plan-alzheimer.gouv.fr/
近藤伸介 フランスの認知症国家戦略、老年精神医
4)
5)
90
CLINICIAN Ê15 NO. 638
(466)
9)
学雑誌、 、984∼989︵2013︶
堀田聰子 オランダの認知症国家戦略│地域に根ざ
した利用者本位のケアに向けて、老年精神医学雑誌、
、990∼999︵2013︶
厚生労働省 認知症施策推進5か年計画︵オレンジ
プラン︶
、平成 年9月5日
粟田主一 認知症施策推進5か年計画と地域包括ケ
アシステム、日本医師会雑誌、143、753∼7
58︵2014︶
厚生労働省 認知症施策推進総合戦略︵新オレンジ
プラン︶
、平成 年1月 日
(467)
CLINICIAN Ê15 NO. 638
91
24
27
6)
24
7)
8)
9)
24
27
●これからの展望
認知症研究
はじめに
16
催された。
これからの展望
秋 山 治 彦
2015年の初めに発表された新オレンジプ
ランは、認知症サミットに対応した日本政府の
具体的行動のひとつと位置づけられる。
﹁認知症に対する世界的アクションに関する
カ国の代表が、それぞれの国の現状、先進諸
るWHOや、OECD、G7諸国に加えて、約
る。
国々に拡げることを意図して行われたものであ
ント︵表︶と、それに関連したG7各国の取り
70
組みを総括し、さらに、その成果をG7以外の
015年に実施された認知症サミット後継イベ
この会合は、2013年 月のロンドンにお
第1回WHO大臣級会合﹂
けるG8認知症サミットを受けて2014∼2
WHOの会合には世界の様々な地域から カ
国以上の医療行政責任者が参加し、主催者であ
12
ションに関する第1回WHO大臣級会合﹂が開
2015年3月 ∼ 日の2日間、ジュネー
ヴのWHOにて、
﹁認知症に対する世界的アク
17
2)
た家族会をはじめとして認知症の問題に取り組
国への要望や意見等について発表を行った。ま
30
92
CLINICIAN Ê15 NO. 638
(468)
1)
認知症サミット後継イベントの開催
2014年
6月
テーマ
イギリス(ロンドン)
社会的影響への投資(Finance and social impact investment)
9月
テーマ
カナダ&フランス(オタワ)
学術界と産業のパートナーシップ(Harnessing the power of discovery:
maximizing academia-industry synergies)
11月
テーマ
日本(東京・六本木アカデミーヒルズ)
新しいケアと予防のモデル(New care and prevention models)
2015年
んでいる様々な組織・団体、それに学術界から
の参加や発言もあった。
主要な議題として、認知症介護や社会的支援
における諸問題とそれらへの対応、国や社会の
認知症への取り組みのあり方等が取りあげられ
た。
会合では、一般市民の認知症への理解不足や
それに伴う偏見を解消し、認知症への関わりを
促進することが重要な課題であるとの指摘が、
いくつもの国・団体からなされた。
その流れにおいて、日本の原勝則厚生労働審
議官がプレゼンテーションの中で、審議官自身
の右手首につけたオレンジリングを示し、
﹁私
も受講しました﹂と説明した認知症サポーター
研修は、具体的かつ実行可能な取り組みのひと
つとして注目を集めた。
(469)
CLINICIAN Ê15 NO. 638
93
3)
W H O の 会 合 は 閉 会 に 際 し て “CALL FOR
を採択したが、そこでは、現在、世
ACTION”
界で4、
700万人を超す認知症患者がおり、
4)
米国(ベセスダ・NIH/NIA)
研究(Research)
2月
テーマ
尊重すること、介護者への支援を強化すること、
それに伴う社会的損失は6、
000億ドル以上、 な参加を得ること、同時に認知症の人の権利を
世界全体のGDPの約1%に達していること、
等が強調されている。
認知症研究における﹁データの共有﹂
2030年には患者数は7、
500万人を超す
見込みであること、その %以上が低/中所得
国に住んでいること、これらの結果として、認
れた点が挙げられる。
認知症研究における﹁データの共有﹂が強調さ
ベント︵表︶でも、また前記WHO会合でも、
マに取りあげた米国NIHでのサミット後継イ
注目すべきこととして、
﹁研究﹂をメインテー
などが破綻しかねないという危機感が存在する。
知症の増加により世界中で社会システム、経済
知症が世界全体にとっての脅威となりつつある 2013年の認知症サミット以降のこのよう
な国際的な活動の背景には、このままでは、認
ことが述べられている︵ちなみに本邦では20
13年の時点で認知症による社会的損失は約
兆円と推定されている︶
。
そして、この深刻な問題の克服に向け、各国
政府、関連組織・団体が密接な連携のもとに活
動すること、予防、介護、研究の加速・充実の
ための協力を進め、各国がそれらを政策に組み
込むこと、有効な治療法開発に注力するととも
らの活動において認知症の人や介護者の積極的
経験を世界規模で共有すること、そして、これ
に変わりはない。
合も研究グループ間で成果を競い合うという点
くアプローチを基本とし、かつ、データや成果、 るために様々な共同研究は行われるが、その場
をバランス良く割くこと、エビデンスにもとづ
に、予防、リスク低減、介護などにもリソース 研究というのは、研究者間の競争が基本であ
る。もちろん、各研究者の得手不得手を補完す
10
94
CLINICIAN Ê15 NO. 638
(470)
60
れないくらいに切羽詰まった課題として人類に
が﹁日常的な﹂研究スキームを維持してはいら
研究成果の基盤となるデータを世界規模で共
有する、という考え方は、ひとつには、認知症
ウ、α シヌクレインなどが分子構造の異常を来
病変の本態は、アミロイドβ 蛋白︵Aβ ︶
、タ
もかなりの数にのぼるが、両疾患に共通する脳
が占めている。またレビー小体型認知症の患者
も認知症原因疾患の過半数をアルツハイマー病
突きつけられている、という認識にもとづいて
いる。もうひとつには、米国ADNI
︵ Alzhei- して凝集し、脳に蓄積することであると考えら
れている。
︶研究が
mer’s Disease Neuroimaging Initiative
アルツハイマー病について言えば、このAβ
大きな成果を挙げつつあることも関係している
やタウの異常蓄積は認知症の発症より ∼ 年
かもしれない。
ADNIは多数の施設が参加した前向き研究
であるが、その結果得られた、画像、バイオマ
ーカー、認知機能検査などのデータは世界中の
前から起こり始め、蓄積の程度、拡がりともに
徐々に進行してゆくことが、ADNI研究とそ
︶研究などを通じて得られたバイ
mer Network
オマーカー︵脳画像検査を含む︶の進歩により
れに続くDIAN︵ Dominantly Inherited Alzhei-
の解析にもとづく論文発表は300件を超えて
また、脳萎縮や代謝低下といった神経細胞の
ことが分かってきた。
はすでに重度と呼んでいいほどに進行している
症を発症した段階では、Aβ やタウの異常蓄積
明らかになった。そして、臨床的に軽度の認知
高血圧や高脂血症のコントロールが進歩して
血管性認知症が減少し、今日では本邦において
バイオマーカーの進歩
いる。
研究者に公開され、今日、米国ADNIデータ
30
(471)
CLINICIAN Ê15 NO. 638
95
20
有効なアルツハイマー病根本治療薬の開発成
変性を反映するバイオマーカーの異常は、Aβ
功がいつになるか、目途が立ったとはまだ言い
明らかになった︵それでも認知症の発症よりは
25年までの開発を目標として掲げている︶
、
かねる状況ではあるが︵G8サミットでは20
やタウの異常蓄積より遅れて検出されることも
早い段階で異常を来し、認知症の前段階である
るシステムと技術の整備が、認知症の臨床医学
標準の治験を、本邦においていつでも実施でき
それを遅滞なく日本のアルツハイマー病患者に
軽度認知機能障害[
Mild
Cognitive
Impairment
届けるために、バイオマーカーにもとづく世界
MCI]の時点ではすでに陽性を示す︶
。
認知症治療に求められる〝投資〟
への投資として求められている。
これまでのアルツハイマー病根本治療薬︵病
さらに、2015年1月に発表された新オレ
態修飾薬︶の治験はいずれも﹁軽度認知症﹂の
ンジプランでは、本邦発の認知症根本治療薬の
変の進行度という観点からは、実は﹁すでにか
的な目標が設定されている。そのためには︵特
治験を2020年までに開始する、という野心
段階にある症例を対象に行われてきたが、脳病
なり進行してしまったアルツハイマー病﹂を対
に新規化合物の場合、前臨床試験の期間を考慮
化合物の同定に至っていなくてはならない。
する必要があるため︶
、今後数年以内には候補
象としていたのである。
今日では、アルツハイマー病の治験は、認知
症を発症する前の段階で、脳病変バイオマーカ
あるとされる。アルツハイマー病の根本治療薬
15
96
CLINICIAN Ê15 NO. 638
(472)
一般的には、ひとつの新薬を得るために、そ
ー陽性者を対象とし、したがって効果判定もま
の ∼ 倍の数の候補化合物を用意する必要が
た、バイオマーカーの変化を指標として実施す
る必要があると考えられている。
10
開発、Aβ /タウ/α シヌクレイン等の異常蛋
白蓄積の解消にきちんと的を絞った基礎研究へ
の大胆な研究費投入もまた必要である。
おわりに
認知症サミット以降、ひとつのキーワードに
なった感もある﹁共有﹂は、根本治療を目指し
た研究の領域に限らない。認知症対策、社会制
度の整備、介護における経験やノウハウなどの
世界的共有もまた、促進すべき大きな課題であ
ることが、WHOのノートに明記されている。
研究開発、介護の両面における大幅な社会資
源の投下拡大と、知識共有とを世界規模で進め
ること、日本がその大きな流れの中で先頭集団
を構成するひとりとして重要な役割を果たすこ
とが求められている。
︵日本認知症学会
理事長、
公益財団法人東京都医学総合研究所︶
文献
認知症に対する世界的アクションに関する第1回W
HO大臣級会合開催案内︿ Concept Note
﹀
︵英語︶
First WHO Ministerial Conference on Global Action
Against Dementia
http://www.who.int/nmh/concept-note-conference-on dementia-march2015.pdf
G8 認知症サミット概要、宣言、共同声明︵日・
英︶※厚生労働省報道・広報ページ
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000033640.html
認知症に対する世界的アクションに関する第1回W
﹀
︵英語︶
HO大臣級会合プログラム︿ Agenda
http://www.who.int/entity/mediacentre/events/
meetings/2015/agenda-dementia.pdf?ua=1
認知症に対する世界的アクションに関する第1回W
H O 大 臣 級 会 合 終 了 時 に 採 択 さ れ た “CALL FOR
︵英語︶
ACTION”
http://dementia.umin.jp/WHO_call-for-action2015.pdf
(473)
CLINICIAN Ê15 NO. 638
97
1)
2)
3)
4)
4)
●これからの展望
中 島 健 二
認知症疾患治療ガイドライン2010、
認知症疾患診療ガイドラインの
改訂に向けて
はじめに
認知症医療においては有効な治療法が少なく、
コンパクト版、追補版
医療としての意義が軽視された傾向が以前はあ
日本神経学会により発行された﹃痴呆疾患治
療ガイドライン2002﹄の改訂に向けて、評
型認知症︵AD︶の治療薬も増え、
Alzheimer
治療選択肢も増えてきている。このような状況
た。 画 像 を 含 め た 診 断 も 大 き く 進 歩 し、
にも認知症医療の充実が要請されるようになっ
日本神経学会、日本精神神経学会、日本認知症
含めて記載するように求められた。それを受け、
会として対策を提示し、治療のみならず診断も
を残すと共により実地臨床に即した内容とし、
価委員会から提言が示され、総説としての内容
った。一方、認知症者が急速に増加し、社会的
から、認知症疾患の診療に関するガイドライン
エビデンスの揃っていない事項についても委員
が注目されてきている。
学会、日本神経治療学会、日本老年医学会、日
本老年精神医学会が協力して改訂作業を進め、
98
CLINICIAN Ê15 NO. 638
(474)
所とアルツハイマー病協会︶は、﹃ Alzheimer
病﹄
を、
根底にある病態生理学的過程を包含する用語と
して示した。一方、
米国精神医学会よりDSM
5 が 示 さ れ、 “neurocognitive disorders”
の中で
方も今後の課題である。
版が発行されたこともあり、使用の利便性を期
と major
の neurocognitive disorder
delirium, mild
待して﹁コンパクト版﹂を発刊することになり、 が記載された。認知症の領域では、用語の用い
総説的な記載を行ったこともあり、若干大部
になった。また、2002年版において小冊子
した。
﹃認知症疾患治療ガイドライン2010﹄
を発刊
1)
報告され、
﹁追補版﹂をホームページに掲載し
た︵
http://www.neurology-jp.org/guidelinem/ されている。一方、欧米においては認知症の発
症率がすでに減少に転じているとの報告もみら
︶
。
nintisyo_tuiho.html
さらに、新知見を含めたガイドラインとして
れる。
3)
2010年以後の報告、求められる記載
小体型認知症の治療にも進歩がみられる。
Lewy
20 11年に National Institute on Aging and さ らに、認 知 症の行 動・心 理 症 状︵ behavioral
︵ 米国国立老化研究
the Alzheimer s Association
and psychological symptoms of dementiaBPS
やすいフローチャートの作成も求められる。また、
いくため、日本神経学会では5年毎のガイドラ 複数のAD治療薬が使用可能となり、使い分
イン改訂を目指し、再改訂を行うことになった。 け、切り替え、併用などに関して、より使用し
的にも認知症者数の急速な増加の可能性が指摘
﹃認知症疾患治療ガイドライン2010
コ 人口高齢化も相まってわが国における認知症
ンパクト版2012﹄の発行後も新たな知見が
者の急速な増加が予想されている。また、国際
新たな知見も含めて記載した。
2)
(475)
CLINICIAN Ê15 NO. 638
99
−
2)
1)
2)
2)
イドライン﹂が2013年に示された。
医のためのBPSDに対応する向精神薬使用ガ
症施策推進5か年計画が示され、
﹁かかりつけ
D︶への対応も重要である。2012年に認知
知症関連学会のホームページで読むことができ
て、届出に関するガイドラインが作成され、認
の停止の3点が新たに設けられた。それを受け
までの間、暫定的に3か月の範囲で運転免許証
、日本神経学会ガイドライン
Minds
統括委員会、利益相反︵COI︶
る。
胃瘻の適応や評価については、意見が分かれ
るところでもある。日本老年医学会は﹁
﹃立場 以上の事項についての記載も含めた、ガイド
ラインの改訂が求められる。
表明﹄2012﹂において﹁胃瘻造設を含む経
管栄養や、気管切開、人工呼吸器装着などの適
応は、患者本人の尊厳を損なったり苦痛を増大
させたりする可能性があるときには、治療の差
則、②認知症等を診断した医師による任意の届
員会の質問に対し虚偽に回答した者に対する罰
けようとする者等に対し、病状に関する公安委
密な対応が求められるものと考えられる。
10﹄の作成の際にも対応してきたが、一層厳
に対する配慮が求められ、
﹃ガイドライン20
ながら進めることになっている。一方、COI
し控えや治療からの撤退も選択肢として考慮す
システマティックレビューの進め方が変わる
る﹂
︵抜粋︶と述べた︵
など、わが国におけるガイドラインの作成を指
http://www.jpn-geriat-soc.
導している Minds
︶
。
の方針にも変化がみられる。
or.jp/proposal/pdf/jgs-tachiba2012.pdf
一方、道路交通法の一部が改正されて、20 他のガイドラインとの整合性を保つために、
13年に公布され、認知症に関して①免許を受
日本神経学会ガイドライン統括委員会で議論し
出制度、③認知症の疑いのある者を医師の診断
100
CLINICIAN Ê15 NO. 638
(476)
4)
改訂作業
おわりに
討による解決と、その成果とガイドライン活用
ガイドラインを取り巻く状況も変化し、残さ
改訂委員会の委員は半数程度の交代が求めら れた解決するべき課題も少なくない。今後の検
れ、認知症診療に取り組んでいる新進気鋭の若
い医師に参加してもらって、改訂作業が進めら
による認知症医療の一層の発展を期待したい。
文献
﹁認知症疾患治療ガイドライン﹂作成合同委員会
認知症疾患治療ガイドライン2010、医学書院、
東京︵2010︶
﹁認知症疾患治療ガイドライン﹂作成合同委員会
認知症疾患治療ガイドライン2010 コンパクト
版2012、医学書院、東京︵2012︶
︵鳥取大学医学部 脳神経医科学講座
脳神経内科学分野
教授︶
れている。
一方﹃ガイドライン2010﹄では、進行性
核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症/症候群、
病では認知機能について記載したが、
Huntington
運動症状も含めた全体的な記載の要望も寄せら
れた。しかし、前述のとおり若干大部であった
ところから、これらの疾患の運動症状なども含
めた全体的なガイドラインは別途作成する方針
で作業が進められている。
さらに、最近の国際化の動きを受け、ガイド
ラインの英文化も重要とされ、認知症診療ガイ
ドラインについても英文版を作成する予定にな
っている。
Qiu C, et al : Twenty-year changes in dementia
occurrence suggest decreasing incidence in central
Stockholm, Sweden. Neurology, 80, 1888-1894 (2013)
平成 年度厚生労働科学研究費補助金︵厚生労働科
学特別研究事業 ︶ 認知症、特にBPSDへの適切
な薬物使用に関するガイドライン作成に関する研究
班︵班長 本間
昭︶ かかりつけ医のためのBP
24
(477)
CLINICIAN Ê15 NO. 638
101
1)
2)
3)
4)
(敬称略)
特集:不眠症のマネジメント
総説
不眠症の最新アプローチ
日本大学 内山 真
医療従事者の睡眠を考える
滋賀医科大学 角谷 寛
診断
DSM-5、ICSD-3 の変更点
秋田大学 神林 崇
診断に困った時の対処法
むさしクリニック 梶村尚史
治療
作用機序からみた睡眠薬の位置づけ
大阪回生病院 谷口充孝
SDに対応する向精神薬使用ガイドライン
次号予告 639号(2015年 6 月号)
認知行動療法的なアプローチ
東京慈恵会医科大学
飾医療センター 山寺 亘
久留米大学 小鳥居 望
睡眠薬の服用と認知症発症リスクとの関連
獨協医科大学 宮本雅之
睡眠薬の離脱時にみられる症状
東京女子医科大学 稲田 健
概日リズム睡眠・覚醒障害への治療
藤田保健衛生大学 北島剛司
不眠症診療に関する常識・非常識
国立精神・神経医療研究センター 三島和夫
トピックス
自動車運転と睡眠問題
東京医科大学、睡眠総合ケアクリニック代々木 井上雄一
情動記憶と睡眠
滋賀医科大学 栗山健一
エスゾピクロンのエビデンス(精神疾患に併存する不眠)
http://www.mhlw.go.jp/file.jsp?id=130724
東京医科大学 高江洲義和
加齢を考慮した睡眠薬の適正使用
睡眠薬の多剤併用の効果と安全性
日本大学 鈴木正泰
てんかんトピックス
高齢者の初発てんかん
(478)
むさしの国分寺クリニック 大沼悌一
CLINICIAN Ê15 NO. 638
102
チマキのタンゴ
母の膝娘の膝や粽結ふ
細谷亮太
高野素十
そんな風景があったのです。
糯米を牛乳のテトラパックのような形に笹で
包むのが山形の笹巻です。これを水から煮るの
ですが、庄内地方の一部では灰汁を使って長時
間煮ます。するとお米が飴色に変わり、わらび
餅風の食感の笹巻ができます。黒蜜にきなこや、
納豆などで食します。
季語は端午の節句に食べる粽です。楚の憂国
作者は一八九三年茨城県生れ。東京大学医学
の詩人屈原が汨羅の淵に投身して果てたのが五
部を卒業し、新潟大学と奈良県立医大で法医学
月五日で、その霊をしずめるための供物として
古代中国から作られてきたものとされています。 教授として仕事をしました。虚子の弟子で客観
と考えれば当然の帰結と言えるでしょう。
述べていますが、これは法医学者としての日常
写生を信条として多くの名句を作っています。
近世では、糯米や粳、あるいはその粉︵しん
文芸評論家の山本健吉は素十の句の特徴を
こ︶を練ったものを笹などの葉に包み藺草で縛
﹁生活と芸術がはっきり分断していること﹂と
って蒸したり煮たりして作ります。
私の育った山形の家でも掲句のような粽作り
が毎年、行われてきました。板の間の台所に母
︵聖路加国際病院
顧問︶
しかし、写生句の中に作者素十の温和な眼差
やお手伝いの人達の膝が並び沢山の粽が作られ、
を感じることができるのが不思議です。
土間の竈にかけられた大鍋には湯が滾っていま
す。まるで時代劇の中の一場面のようですが、
106
CLINICIAN Ê15 NO. 638
(482)
編集後記
青空を泳ぐ鯉のぼりの季節になった。
見ていると子供の成長を願う親の声が聞
こえてきそうだ。
潮流﹂
。国立研究開発法人国立長寿医療
研究センター総長
鳥羽研二先生のご監
修により、ご専門の先生方に分かりやす
とを望む。
先日、認知症の妻と介護する夫の 年
間の経過を描いたドキュメンタリー映画
鳥羽先生は認知症医療の新しい潮流と
して、
﹁認知症患者本人が参加する町づ
った。家族の大切さを改めて感じた。
る姿、手をつないで歩く姿は印象的であ
夫婦間の絆は深まり、認知症と共に生き
賞した。病気は徐々に進行していくが、
﹁妻の病│レビー小体型認知症│﹂を鑑
くり﹂や﹁住民参加で、地域の認知症医
く解説していただいた。
療とケアの実情を行政と医師会が把握す
認知症の薬物療法では、本人の生活機
能に即した心理社会的介入との相性を考
慮した薬剤選択や、服薬継続に影響を及
る仕組みづくり﹂など7項目を挙げて解
説されている。
ぼす嚥下障害を念頭においた剤形選択が
負担軽減、結婚支援策、男性の育児休業
だ。日本政府も子供3人以上の世帯への
税制の導入で出生率が上昇に転じたそう
子供が多いほど課税が低くなるN分N乗
続けることができる社会の実現﹂を目指
れた地域のよい環境で自分らしく暮らし
人の意思が尊重され、できる限り住み慣
族の視点が重視されている。
﹁認知症の
レンジプラン︶
﹂では、認知症の人と家
にやさしい地域づくりに向けて∼
︵新オ
認知症医療に貢献できれば幸いである。
心理社会的介入との相性が良いとされ、
種々の剤形を有するアリセプトが今後も
重要と言われている。
取得率の向上、子育て世代包括支援セン
声が社会に広く届き渡り、認知症の本人
や家族を取り巻く環境がより良くなるこ
電話五二二八
七〇三〇
第六二巻
六三八号
二〇一五年五月一日
松
前
謙
司
エーザイ株式会社
東京都文京区小石川
印
刷
所
株 式 会 社 ひ で じ ま
クリニシアン
発
行
日
発
行
人
発
行
所
していると聞く。
昨年 月に発足した﹁日本認知症ワー
キンググループ﹂などの認知症当事者の
ターの全国展開などの対策を講じている
本年1月に厚生労働省が策定した﹁認
少子化対策は先進国共通の喫緊の課題 だが、フランスでは手厚い子育て支援策、 知症施策推進総合戦略∼認知症高齢者等
また、産院で新生児の泣き声を聞いて
いると将来への期待が膨らむ。
10
と聞く。これらの対策が功を奏し、出生
率増加、さらには増加する高齢者医療費
を支える担い手となり、超高齢化社会対
策にもつながることを願う。
さて、今月の特集は﹁認知症の新たな
®
−
10