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介護予防推進リーダー育成研修 e-ラーニング
転倒予防
ver.03
介護予防対策ワーキンググループ
コース説明
本コースは転倒予防について、
次の1~4章の構成で説明します。
第1章:転倒予防の重要性
第2章:易転倒者の評価
第3章:転倒予防の運動療法
第4章:転倒予防の実際
第1章 転倒予防の重要性
第1章では、転倒に関する
基本事項を学習します。
第1章の概要
1)転倒の定義
2)転倒予防の重要性
3)転倒の要因
4)転倒と要介護状態との関連性
5)転倒予防の考えかた
転倒とは
• 転倒は,単純には「転ぶこと」だが、「本人の意思に反して、
足以外の身体の部分が床に接すること」
などと定義されている。
• 欧米では65歳以上の高齢者の1/3が1年に1回以上の転
倒を経験し、日本では地域在住の高齢者の10~20%、施
設入所者の10~50%が、1年に1回以上の転倒を
経験している。
• 全体では、半数以上が屋外で転倒するが、75歳以上の大
腿骨近位部骨折では3/4が室内で転倒している。
• 転倒の結果、54~70%に外傷、6~12%に骨折が起こる。
• 高齢者では、大腿骨近位部、脊椎圧迫骨折、上腕骨近位
端骨折、橈骨遠位端骨折、頭部外傷、が起こり易い。
転倒・転落による死亡者数(2004年)
0~14
歳
15~29
歳
30~44
歳
45~64
歳
65~79
歳
80歳以上
9
9
42
317
888
2,265
階段及びステップ
での転倒・転落
1
13
24
211
239
183
合 計
10
22
66
528
1,127
2,448
(0.3人)
(0.9人)
(3.1人)
(28.4人)
スリップ・つまずき
及びよろめきによ
る同一平面での
転倒
(0.06人) (0.06人)
単位:人 ( )は10万人に対する人数
80歳以上の転倒・転落による死亡頻度は30~44歳の100倍
要支援・要介護状態に陥った原因の比率
脳卒中
要支援
要介護
全 体
15.1
24.1
21.5
認知症 高齢によ 関節疾患 骨折・転倒
る衰弱
3.7
20.5
15.3
15.2
13.1
13.7
19.4
7.4
10.9
12.7
9.3
10.2
平成22年 単位: %
*要支援・要介護状態になる原因の第5位が骨折・転倒
*約60万人が骨折・転倒によって要支援・要介護になっている
転倒の要因
内的因子
身体的なもの
・平衡機能
(バランス能力)
・協調性
・筋力
・持久力
・柔軟性
・姿勢
・感覚系
・ ・・・・
認知・心理・行動的
なもの
・注意
・意識状態
・高次脳機能障害
・身体イメージ
・精神状態(興奮、
抑うつ)
・転倒恐怖感
・運動習慣
・性格
・ ・・・・
外的因子
環境的なもの
・床や道路の状態
・障害物
・段差や階段
・照明
・履物(靴)
・衣類
・歩行自助具
・服薬内容
・服薬数
・ ・・・・
課題や動作による
もの
・バランス能力の
必要な課題
・大きな筋力を使う
課題
・スピードを伴う課
題
・二重課題
・不慣れな動作
・不意な外乱
・感覚遮断
・ ・・・・
高齢者の転倒発生の構造
転倒の
発生
課題の特性
環境の影響
バランス能力の低下
(易転倒性)
疾患による機
能障害
廃用による機
能低下
加齢による全般的機能低下
認知・情動面
の変化
転倒による要介護状態への移行
内的要因
易転倒性
骨粗
鬆症
転倒
骨折
再転倒
外的要因
転倒
恐怖
要介護
状態
閉じこ
もり症
候群
転倒予防によって転倒発生を防ぎ、
要介護への移行を防ぐことが大切
内的要因
易転倒性
転倒
予防
骨粗
鬆症
転倒
骨折
再転倒
外的要因
リハマインド
転倒・骨折後
の
理学療法
転倒
恐怖
要介護
状態
閉じこ
もり症
候群
転倒とバランス能力
転倒 ⇒ 「転んでしまった」という結果
内的要因としてのバランス能
力が低下してるから転倒しや
すい
バランス能力低下(易転倒性) ⇒ 転倒しやすい原因
バランス能力は、姿勢保持や動作において、支持基底面と
身体重心線の関係を適切に保ち、目的とする課題を安定に
効率良く実行させる機能であり、安定に効率よく、また安全
に日常生活を営むための基盤
第2章 転倒予防のためのスクリーニング方法
第2章では易転倒者の
スクリーニング方法について学習します。
第2章の概要
1)転倒しやすい対象者(易転倒者)の選別方法
2)筋力低下、バランス能力低下の重要性
3)転倒が起きやすくなる身体機能の閾値
4)転倒リスク基本チェックリストの活用方法
5)簡便な転倒リスクのチェック方法
転倒予防の流れ
1.易転倒者のスクリーニング(対象者の選別)
2.初期評価(転倒状況・身体機能・認知機能などの初期状態の把握)
3.目標・プログラムの作成(初期評価に基づいて目標・プログラムを作成)
4.プログラムの実施(ホームExも含む)
5.再評価(介入終了時の変化や介入効果の把握)
6.フォローアップ(プログラムの継続、長期効果の検討)
高齢者の転倒危険因子
危険因子
相対リスク(オッズ比)
オッズ比の範囲
筋力低下
4.4
1.5~10.3
転倒歴
3.0
1.7~7.0
歩行障害
2.9
1.3~5.6
バランス障害
2.9
1.6~5.4
補助具の使用
2.6
1.2~4.6
視覚障害
2.5
1.6~3.5
関節炎
2.4
1.9~2.9
ADL障害
2.3
1.5~3.1
うつ状態
2.2
1.7~2.5
認知障害
1.8
1.0~2.3
80歳以上の高齢
1.7
1.1~2.5
Guidelines for the prevention of falls in older persons. J Am Geriatr Soc 49: 664-671, 2001
歩行自立度と下肢筋力・Functional Reach Testとの関連性
歩行自立
FRT:26 cm以上
下肢筋力:0.40 kgf/kg以上
森尾裕志・他:高齢心大血管疾患患者における下肢筋力、前方リーチ距離と歩行自立度との関連について.心臓リハ 12:113-117、2007
動作の自立と基本的身体能力
動作はできるが、
不安定な段階
動作ができない段階
筋力
MMT3
ROM
動作に最低限のROM
安定した動作が
できる段階(自立)
MMT4
最低限+αのROM
<動作の部分的要因>
座位での
体幹機能
下肢機能
支持機能
座位保持
片脚を浮かせて座位保持
両足で立位保持
片脚で立位保持
両脚を浮かせて座位保持
片脚で屈伸する
*数値はおおよその目安
動作によって、立ち上がりや歩行に必要な
体幹・下肢筋群の筋力を評価する方法
各動作を連続5回、または5~10秒程度余裕をもって保持できれば、
歩行に必要な主な下肢筋力は保たれている
片足位での膝屈曲30°
程度のスクワット動作
膝関節伸筋
椅子からの立ち上がり動作 片脚でのつま先立ち
(ゆっくり行う、両脚、片脚)
下肢伸展筋
足関節底屈筋
一側の大腿部を水平
に上げた片足立ち位
股関節屈筋
股関節外転筋
17
簡便にバランス能力を評価する方法
立位保持能力(20秒間)
と歩行能力の関連性
片脚位で20秒程度立位を保てると
屋外歩行はほぼ自立
継足位で20秒程度立位を保てると
屋内歩行はほぼ自立
転倒予防対象者(易転倒者)のスクリーニング方法
転倒リスク基本チェックリスト
氏名:
生年月日:
年
月
評価実施日:
日生(
年
月
日(
様
歳)
転倒スコア
回目評価)
評価者名:
はい・いいえに〇をつける
1.階段を手すりや壁をつたわらずに昇っていますか.
0:はい ・ 1:いいえ
2.椅子に座った状態から、何かにつかまらずに立ち上っ
ていますか.
0:はい ・ 1:いいえ
3.15分位続けて歩いていますか.
0:はい ・ 1:いいえ
4.この1年間に転んだことがありますか.
1:はい ・ 0:いいえ
5.転倒に対する不安は大きいですか.
1:はい ・ 0:いいえ
*転倒リスク基本チェックリストの5項目の点数の合計が3点
以上の場合は転倒予防ブログラムの該当者とする.
転倒リスク評価表
回答項目
はい・いいえ
に〇をつける
回答項目
はい・いいえ
に〇をつける
1.つまづくことがある
はい・いいえ
12.目が見えにくい
はい・いいえ
2.手すりにつかまらず、階段症ができな
い
はい・いいえ
13.耳が聞こえにくい
はい・いいえ
3.歩く速度が遅くなってきた
はい・いいえ
14.物忘れが気になる
はい・いいえ
4.横断歩道を青のうちに渡りきれない
はい・いいえ
15.転ばないかと不安になる
はい・いいえ
5.1キロメートル位続けて歩けない
はい・いいえ
16. 毎日、薬を5種類以上飲んでいる
はい・いいえ
6.片足で5秒位立つことができない
はい・いいえ
17. 家の中で歩くとき暗く感じる
はい・いいえ
7.杖を使っている
はい・いいえ
18.廊下、居間、玄関に避けて通るもの
が置いてある
はい・いいえ
8.タオルを固く絞れない
はい・いいえ
19.家の中に段差がある
はい・いいえ
9.めまい、ふらつきがある
はい・いいえ
20.階段を使わなくてはならない
はい・いいえ
10. 背中が丸くなってきた
はい・いいえ
21.生活上、家の近くの急な坂道を歩く
はい・いいえ
11. 膝が痛む
はい・いいえ
点 数
*点数は、回答の「はい」1つにつき1点とする.
*10点以上であれば、転倒予防プログラムに該当するかを検討する.
(
)点
易転倒性の判断に参考となる評価値
検査名
基準値
説 明
Berg Balance Scale
合計点45点
45点未満は、室内での転倒危
険性あり
Functional Reach Test
Timed Up and Go Test
25 cm
健常高齢者は25 cm以上
10秒
健常高齢者は10秒未満
片脚立ち(開眼)
10秒
健常高齢者は10秒以上
日本整形外科学会による「ロコモ度テスト」
検査名
参考値
方 法
立ち上がりテスト
40~60歳では40cmの高さから片脚で
(下肢筋力判定方法) 立ち上がり可能
10cm、20cm、30cm、40cm
の台から反動をつけず、両
脚、片脚で立ち上がる
2ステップテスト
できるだけ大きく2歩進んだ
歩幅を身長で割る
(歩幅判定方法)
60歳代:男1.56~1.58、女1.45~1.52
70歳代:男1.42~1.52、女1.36~1.48
(平均値の95%信頼区間)
*身体状態をチェックする25項目のチェック表(ロコモ25)も併用する
Stops walking when talking
• Lingin-Olsson (1997)
• 歩行中に話しかけられると立ち止まってしまう
高齢者は、6か月以内に転倒する可能性がある
二重課題によるバランスの低下
バランス能力を評価するには、
認知面も含む複数の評価指標を用いるとよい
開眼片脚立ち
閉眼片脚立ち
静的バランス能力
最大1歩幅
2ステップテスト
動的バランス能力
筋力
Stops walking
when talking
二重課題
認知・注意
23
転倒経験がある場合は
転倒時の状況を把握することが転倒防止策につながる
何時(when)
転倒したのかを対象者に
記入していただく
(転倒に関するアンケート)
どこで(where)
何をしているとき
(what)
どのように(how)
・転倒に対する意識づけ
・評価項目の選定
・対象者の問題点の特定
・予防策の検討
第3章 転倒予防の運動療法
第3章では転倒予防の運動療法について学習し
ます。
第3章の概要
1)運動による転倒予防やバランス能力改善のエビデンスある
2)転倒予防として実施される運動の内容
3)柔軟性運動の方法
4)筋力増強運動の方法
5)バランス能力改善の方法
6)転倒予防の運動療法の進め方と注意点
転倒予防に関するエビデンス(1)
Best Practice Guide for the Prevention of Falls among Seniors Living in
the Comuninity, Canada (2001)
カナダ健康省による実践ガイドで、運動処方による転倒予防効果のエビデ
ンスをまとめている
<主な内容>
・転倒の減少を示した多くのプログラムでバランストレーニングを実施し
ている
・太極拳は単独でバランス能力を改善する
・効果的プログラムや運動強度については今後の研究が必要
・長期的に運動を実施しないと、運動による転倒予防効果は短期的な
ことが多い
転倒予防に関するエビデンス(2)
高齢者の転倒予防に対する介入についてのCochrane Review (2003)
高齢者の転倒予防に対するRCTによる62論文(総被検者数21,668名)の
レビュー
<主な内容>
・個別性を考慮しないグループトレーニング群では、転倒の相対リスクに運動の
効果は認められなかった(95%信頼区間:0.78~1.01)
・個別のプログラム(筋力増強、バランス運動、歩行運動など)では、転倒の相対
リスクに有意な効果を認めた(95%信頼区間:0.66~0.98)
・太極拳の介入では、転倒率に有意な改善を認めた
転倒予防に関するエビデンス(3)
高齢者のバランス能力改善に関する運動療法についてのCochrane Review (2007)
・地域在住の健常高齢者および虚弱高齢者を対象としたRCTおよび非無作為化比較対
象研究34論文のレビュー
・運動療法の内容を、①バランス運動群、②筋力増強運動群、③立体的運動群(太極
拳、ダンスなど)、④全身運動群、⑤歩行運動群、⑥自転車運動群、⑦複合運動群(①
~⑥を含む運動)に分け、分析している
<主な内容>
・運動実施期間は4週間~12ヶ月、運動実施頻度は週1回週~毎日であったが、1日
60分、週3回、3ヶ月間の実施が最も多かった
・どの運動群においても運動療法による帰結評価指標の改善が認められたが、バラ
ンス運動(他の運動も含む)と複合運動群において顕著な効果が認められた
エビデンスからみた転倒予防の運動療法の内容
• バランス運動、筋力増強運動、柔軟性運動、
立ち上がり・歩行などの機能的運動を複合的
に行った方が効果が期待できる
• 1日60分、週2~3回、2~3ヶ月の運動療法が
多い
• 個別の種目や運動強度については不明な点
も多い
転倒予防の運動プログラム例(1)
島田(2001):1回45~50分、週3回、8週間
<静的バランス練習>
・ファンクショナルリーチ(30回)
・バランスボードを用いた前後左右方向への
重心移動練習(10分)
・片脚立ち保持(5分)
・マン肢位(継足立ち)保持(5分)
<動的バランス練習>
・連続歩行(10分)
・階段昇降練習(5段を10往復)
・タンデム歩行(5分)
・横歩き(5分)
*その他に集団体操などを実施
転倒予防の運動プログラム例(2)
Bruin(2007):1回45~50分、週3回、8週間
・座位および立位での、股関節、膝関節、足関節運動
・立位での、前後左右への体重移動練習(2~4回)
・その場での足踏み(30秒間)
・前後左右への体重移動に伴う足の踏み出し(前後左右各2回)
・マン肢位(継足立ち)での立位保持(10~30秒を2~3回)
・片脚立ち( 10~30秒を2~3回)
・つま先立ちと踵立ち(5~10秒を5~10回)
*その他に歩行練習(継足歩行、後ろ歩きなどを2分)、座位から
の立ち上がり運動、立位での前後・左右へのリーチ(各方向3~
5回)、ストレッチ体操、筋力増強運動などを実施
転倒予防の運動プログラムの考え方
1.バランス運動と筋力増強運動を中心に、柔軟性運動、
持久性運動、機能的動作練習などを行う
2.柔軟性運動、筋力増強運動、持久性運動などの内容
は、健常高齢者の運動処方などを参考にする
3.バランス運動は、静的バランスと動的バランス、二重
課題などの要素を含める
4.定期的に再評価を行い、プログラムを調整する
柔軟性運動(ストレッチ)の運動処方
[種目]
・持続的伸張または固有受容性神経筋促通法(PNF)を
用いたストレッチ
[強度]
・つらくなく、軽度の緊張感がある程度
[時間]
・10~30秒の持続的伸張
PNFでは6秒間の筋収縮に続く10~30秒の他動的伸張
[回数]
・各筋群をそれぞれ3~4回
[頻度]
・2~3回/週以上
運動処方の指針(第6版)
柔軟性運動の例(準備体操も含む)
*足部や足指の小さな動きも大切
主なストレッチ部位
1.頸部の屈伸・回旋
2.体幹の屈伸・回旋
3.股関節の屈伸・内外転
4.膝関節の屈伸
5.足関節の底背屈
タオルギャザー
足部の運動
・ストレッチされて気持ちがよい程度の伸張を感じながら、
10~30秒程度持続的にストレッチする
・1つの部位を3~4回
高齢者の筋力増強運動の運動処方
[種目]
・殿部筋、大腿四頭筋、ハムストリングス、胸部筋、広背
筋、三角筋、腹筋などの主要な筋群を対象に8~10種
目以上行う。
[強度・反復回数]
・10~15RMで、主観的運動強度12~13(ややきつい)く
らいになる強度
[頻度]
・少なくとも2回/週の頻度でトレーンニングすし、同じ筋
群のトレーニングは2日以上間隔を空けて行う。
運動処方の指針(第6版)
筋力維持・増強運動例
腿を上げる
ボールをつぶす
各5~10回、2~3セット(ややきつく感じる程度まで)を目安
足を後ろに上げる
ボールを挟んで膝を伸ばす
足を横に上げる
ボールを挟んで上げる
つま先立ち
膝の屈伸
持久性運動の運動処方
[種目]
・歩行、ハイキング、ジョギング、水泳、サイクリングなど大きな
筋群をリズミカルに使用して、長い時間できる運動
[強度]
・最大心拍数(HRmax)の65~90%、低体力者:55~64%
・最大心拍予備量の50~85%、低体力者:40~49%
(最大心拍予備量=最大心拍数-安静時心拍数)
[時間]
・少なくとも10分以上で、1日の合計で20~60分の間欠的または
持続的な有酸素運動
[頻度]
・3~5回/週
運動処方の指針(第6版)
持久性運動の例
・Borg指数(主観的運動強度)による運動強度:
Borg指数11(楽である)~13(ややきつい)
・運動時間・頻度:
10分~20分を1セット、週に2~3回
・運動の種類:
・歩行
・自転車エルゴメータ
・軽いスポーツやレクレーション
・筋力増強運動や機能練習を、回数を多くしたり
休みをとらずに行う
バランスの捉え方
運動前機能
動作をする前に、周囲
の環境、自己の状態を
把握し、適切な動作を
開始する機能
予測的姿勢調節
反応的姿勢調節
目的とする動作をする前
に、その動作によるバラ
ンスの乱れを予測して姿
勢を調節する機能
目的とする動作に伴う、
または動作の結果とし
て起こったバランスの乱
れを調節する機能
バランス
環 境
課 題
知覚・認
知機能
呼吸・循
環機能
姿勢調節に関
わる神経機構
バランス能力
筋機能
骨・関節
機能
バランス能力改善のため運動の基本的な考え方
• やや不安定な動作課題(少し難しい課題)を実行する中で、運動学
習(神経系の可塑性)を促す
• 運動学習には課題特異性があるので、静的バランスと動
的バランスの要素など、包括的な練習課題を選ぶ
• バランス能力を構成する要素(柔軟性、筋力など)で、低下している
ものがあれば、その改善を図る
• 重心を移動できる範囲(安定性限界)、1歩でステップできる範囲を
拡大し、身体動揺は減少させる
• 課題や環境を変えて適応性の向上させる(二重課題、スピード、屋
内と屋外など)
バランスの難易度に影響を及ぼす課題と環境の要因
環境の定常性
重心の高さ
環境要因
路面の状態
動的環境
固定環境
凸凹
平坦
力学的要因
立位
支持基底面
の大きさ
片脚
座位
開脚
閉脚
静的
単一課題
準静的
同時に遂行
する課題数
二重課題
開眼
閉眼
感覚・認知・
注意の要因
遅い
重心移動
動的
速い
動作の要因
動作の速さ
視覚条件
運動する課題の条件や実施環境を変えることで、その条件や環境でのバランス能力の改善を促す
バランス運動の例
静的バランス練習
・片脚立ちなど狭い支持面での姿勢保持
・閉眼、バランスマット上での姿勢保持
重心移動運動
・座位や立位での前後・左右へのリーチ
・ボール渡し、ボール投げ、輪入れ
ステップ運動
・前後左右斜め方向へのステップ
・ステップを伴うボール投げ
・バドミントン、フリスビー
二重課題
・ボールを蹴りながら歩く
・計算をしながら歩く
・トレイに物を載せて歩く
1種目5分~10分、休みも入れながら行う
ボディイメージを高める運動
・狭い所や低い所を通る
・床の上の印に合わせて足を踏み出す
姿勢や運動の変換運動
・起き上がり、立ち上がり
・方向転換、急な停止と開始
歩行練習
・継足歩行、後ろ歩き、横歩き
・障害物を置いた歩行(跨ぐ、避ける)
・速い歩行、遅い歩行
感覚調整
・閉眼での運動
・頸部を回旋
安全な環境があれば転倒練習
バランス運動例.片脚立位練習
体が前後左右に曲がったりせず、まっすぐの状態を保ちま
す。前方の一点を見て集中します。なるべく両手は横に下
ろしリラックスさせるようにしましょう。
PTは運動が正しく行われるように指導する⇒アライメント、タイミングなど
第4章 転倒予防の実際と工夫
第4章では転倒予防教室の進め方、転倒予防
についての工夫について学習します。
第4章の概要
1)転倒予防教室の流れと注意点
2)継続的に転倒予防が行われるための工夫
3)環境面のアプローチ
4)骨折の予防対策
5)転倒予防に対する理学療法士の役割(まとめ)
運動を主体とした転倒予防教室の
プログラムの構成
区分
期間
内容
第1期(導入期) 1ヵ月
ディコンディショニングの改善を中心に、運動に慣れ
ることを目的とする時期
第2期(定着期) 1ヵ月
運動の習慣化を図り、運動プログラムの流れや運
動方法を学習する時期
第3期(個別化・
主体化期)
個々の能力や目的に適したプログラムを検討し、主
体的に運動を継続する時期
フォローアップ期
1ヵ月
運動の継続を促し、継時的な評価を実施し、身体機
能に変化があれば再度のプログラムへの参加を行
う時期
1回の転倒教室のスケジュール例
開始準備
(10分)
体調チェック
学習時間
ウォーミングアップ
(15分)
準備体操
ストレッチング
主運動
(45分)
バランス運動
筋力増強運動
機能練習
持久性運動
クールダウン
(10分)
終了整理
(10分)
ストレッチング
整理体操
体調チェック
学習時間
体調チェック:血圧・脈拍・食事・睡眠・転倒確認など
学習時間:転倒や介護予防に関すること
当日のプログラムの注意点
個別指導
運動の習慣化の促しなど
運動を習慣化するための工夫
• 学習時間に運動は継続しないと効果がないことを伝
える
• ホームプログラムを作成し、実施方法などを指導す
る(資料を渡す)
• 生活の中でできる運動を指導する
• 個別に目標を設定する(対象者自身の行動目標)
• 運動日誌などを作成し、対象者自身のモニタリング
を促す
• 運動を継続できたら、何らかの報酬を考える
(欲しいものを買うなど→自己強化)
生活の中で実施できる筋力・筋持久力改善運動例
運動例
強化される筋群、特徴
1. やや歩幅を広くして歩く、やや速く歩く
下肢筋全体
2. 横歩きや後歩きをする
4. 足で蹴って進むことを意識して歩く
下肢筋全体(特に股関節外転・
伸展筋)
股関節伸筋・膝関節伸筋・足関
節背屈筋
足関節底屈筋、股関節伸筋
5. 階段を使用する(手すりを使用してもよい)
下肢全体
6. 階段を1段おきに上がる(手すりを使用してもよい)
下肢全体、5.より負荷の高い運
動
下肢伸筋
3. つま先を上げ、しっかり踵からつくことを意識して歩く
7. ゆっくりと立ち上がる
(低い椅子を使うと負荷が高くなる)
8. ゆっくりと椅子に腰かける
下肢全体、大腿四頭筋の遠心性
収縮
9. 椅子に座って、前を向いて前後左右にゆっくり体幹を傾 体幹筋、股関節筋
ける
10. 椅子に座って、前を向いてゆっくり足踏みをする
体幹筋、下肢屈筋
11. 椅子に座って、前を向いて交互にゆっくり膝を伸ばす
体幹筋、膝伸筋
*これらの運動を継続して主観的に「きつく」感じ始めたら楽な歩行に戻したり、休憩をとったりする。
転倒予防の包括的アプローチ
転倒予防のエビデンス
①運動介入
②視機能への
介入
③環境調整
3つを実施す
ることで効果
が上がる
運動介入だけでなく3種類の介入をすべて行っ
た群で最も転倒予防効果が高かったことから
包括的介入が有用である。(2002年Dayら)
環境調整
【照明の工夫】
玄関や階段、廊下の足元に照明を置くことで
転倒を未然に防ぐ
【道具の工夫】
スリッパやサンダルのような脱げ易いもの、
滑りやすいものは避け、かかとのあるものを
選ぶようにする。
【道具の工夫】
段差があれば手すりや擦り付け板を設置し、
浴室や脱衣所など滑りやすいところは
すべり止めマットの使用を検討する。
【道具の工夫】
床の障害物…日常生活の動線上に
電気コード類や物が床にある場合は
整理しておく。
【骨折予防・頭部外傷予防】
転倒による傷害を予防するために、
ヒッププロテクターや頭部保護帽の使用も検討する
ヒッププロテクター
頭部保護帽
転倒予防におけるPTの役割
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易転倒者(バランス能力低下者)を選別する
バランス能力低下の特徴や要因を特定する
生活環境の中の転倒要因を検討する
転倒予防の運動プログラムを立案する
運動方法を指導する
運動中のリスク管理を行う
運動の習慣化を促す
介護予防に関わる他職種に情報を伝え、連携し
て転倒の予防を図る
リハマインド