時 効 硬 化 問 題(I)*

第2號
時
時
効
効
硬
硬
化
化
問
題(I)
81
問
題(I)*
大
日
歴 史が 古 い だ げに その 時効 現に
I.緒
言
方
一
司**
關 しては研 究 結 果が 最
も多 く且 詳 細 を極 めて ゐ るか ら此處 で は先 づ この 合金 の
時効硬 化の現 象-即 ち或 る合金 を高 温 に加 熱後燒 入 し
これ を常温 或 は比 較 的 低 温 に 保 持 す る 時 徐 々に硬 化 し
時 効 硬 化問 題 に 關 す ろ研 究 史を調 べ 現 在 どの程度 の 事 が
明 か に され て ゐ るか を總 括 す る事 とした い.最 後 に主 と
て來 る現 象 一が見 出 さ れ た の は 今 世 紀 の 始 めA.Wilm
して 状 態 圖上 か ら時 効 性 諸 合金 を 分類 し代 表 的2,3の 合
に依 る ヂュラル ミン發 見以 來 の 事 で あ る.そ の 後 この現
金 系 に就い て その 時効 現 象 の差異,特 質 を檢 討 して みた
象 に關 す る金 相學 的 の研 究 は大いに進今日
い と思 ふ.
で は温 度 に
依 つ て溶解 度 を異 に す る樣 な種 類 の合 金 系 に は 多 少の 差
II.ヂ
ュラ ル ミン の 時 効 硬化 問題
こそあれ必 ず時 効 硬 化 の現 象 が 起 る と老 へ る 事が常 識 の
樣 になつ てゐ る.然 し乍 ら何 と言つ て もヂュ ラル ミンは
**旅
*本
究 の 歴 史
ヂュラル ミンの 時 効 硬 化問題 に關 す る現 在 迄 の 主 要 研
順 工科 大學 教 授 .
講 義 は 昭 和13年10月28日
日本 金屬 學 會 第1回
1.研
名古 量 に於 て開 催 され た
專門 部 會 で發表 した もので あ る.
究 事 項 を一括 表 示 す れ ば 第1表 の樣 に な る.
表 示 の樣 に本 問 題 研究 の 初 期 に於 て は主と して英 米 の
82
講
第1表
ヂ ュ ラル ミンの時 効 硬 化 問 題研 究 史
義
第3卷
諸 學 者 に 依り ヂュ ラル ミン時 効 硬 化 の現 象 は溶 質 原子が
微 粒 子 とな つ て析出 す るた めで あ る とす る所謂 析 出硬化
論 が提 唱 せ られ た.そ の後 吾 國 の諸學 者 は この説 に反對
して ヂュ ラル ミン時 効 硬 化 の現 象 は微 粒 子 析 出前 の固溶
體 内部 の變 化 に 基 因 す る もの と考 へ た.1930年
に至 り本
多,小 久保兩 搏 士(9)は本 問題 に 關 して 廣範 な 研 究 を施行
せ られ ヂュ ラル ミンの時 効 硬 化 は過 飽和固 溶體 内に於け
る溶 質 原子 の 移 動 の た めに結 晶 格 子 に歪 を生 ず るのが原
因 で あ る と し本問 題研 究 史上 に1つ の エ ポ ックを割 され
た.丁度
この頃 か ら主 と して獨 乙の 諸學 者 に依 の本問 題
に關 す るX線 的研 究 が 開 始 せ られ 上述 の歪 硬 化説 は次第
に結 品學 的 の根據 を得 る樣 に な つ て來 た.特 にWasser
mann氏
等(14)(18)は
溶 質 原 子 析 出 に 先 だ ち特 殊 の 中間相
の 出現 す る事 實 を發 見,又篠田 氏(20)は時 効 中結 晶格子面
に彎 由乃 至 は廻轉 を生 ず る事 實 を指 摘 す る等 本合金 の時
効硬 化 の 機 構 は次 第 に鮮 明 の 域 に達 しつ ゝあ る.一 方 西
村 博士(15)はAL-Cu-Mg3元
系 の 状 態圖 を 研究 しヂ ュラ
ル ミンの時 効硬 化 に參 與 す る主 要 化 合 物 の種 類 を決定 し
て居 られ る.
以上 の研 究 結 果 を總 合 す るに ヂュ ラル ミンの時 効 硬化
現 象 は 凡 そ下 記 の樣 に考 へ て よい樣 で あ る.
(4) W. Rosenhain, S. L. Archbutt, D. Hanson, M. L.
V. Gayler, Eleventh Report of the Alloys Research
Committee, Inst. Mech. Eng. London, (1921).
D. Hanson, M. L. V. Gayler, J. Inst. Metals, 29 (1923),
491.
(5)今
野,東
北 帝 大 理 科 報 告,11(1922)、269;金屬
の 班 究2
(1925),13.
(6)杉
浦,「デュ
ラ ル ミ ン の研
及 低温度
(7)後
究 並 に單
一 固 溶體
合 金 の 健 淬
軟 化 に よ る 硬 化 効 果 に 就 て 」,(1925),59.
藤,航空
研 究 所 彙報,39,(1927),271;合
金 學(1929),
267.
(8)
M.L.V.
Gayler,
G.D.Preston,
J.Inst.
Metals,
41,
(1929),191.
(9)本
多,小
久 保,金屬
の研
究,7(1930),343;東
北 帝 大 理 科
報 告,24(1930),365.
(10) E. Schmid, G. Wassermann, Naturwiss., 14 (1926),
980; Metallwirtsch., 7 (1928), 1329; 9 (1930), 421.
(11) F. v. Goler, G.Sachs, Metall wirtsch., 8 (1929), 671.
(12) J. Hengstenberg, G. Wassermann, Z. Metallk., 23
(1931), 114.
(13) W. Stenzel, J. Weerts, Metallwirtsch., 12(1933) ,353;
369.
(14) G. Wassermann, J. Weerts, Metallwirtsch., 14 (1935),
605.
(15)西
(16)
(1) A. Wilm, Metallurgie, 8 (1911) , 225.
(2) P. D. Merica, R. O. Waltenberg, H. Scott, Sci. Pap.
Bur. Stand., No. 347 (1919).
P. D. Merica, R. O.Waltenberg, I. R. Freemann,Sci.
Pap. Bur. Stand., No. 337, (1919).
(3) Z. Jeffries, R. S. Archer, Chem.Met.Eng., 24 (1921),
1057.
村,日
M.T..
本 鑛 業 會 誌,52(1936),381;本
V. Gayler,
J. Inst.
誌,1(1937),8;59.
Metals,
Adv. Copy,
80 (1937),
762.
(17)
W.
L.
Fink,
P.No.706;
D.
W.
Smith,
3 (1936),T.
Metals
P.
Techn.,3(1936),T.
No.760;
4 (1937),T.
P.
No.865.
(18)
G.
Wassermann,
(19)
D.
A.
(20)篠
Petrov,
田,本
Z.
J. Inst.
誌2(1938).475.
Metallk.,30
Metals,
(1938),62.
Adv.
Copy,
62 (1938),
796.
第2號
2.時
時
効
硬
化
効 硬化 に 必要 な 成 分
問
題(I)
83
示 し た樣 な 状 態 圖 を提 出 した.
ヂュラ ル ミン は 通 常,Cu:3∼4.5%,Mg:0.3∼0.8%,
圖に 於 てBCDEK及
びGHIJMは
Mn:O.3∼1.%,Si:0.2∼0.6%,Fe:0.2∼0.6%,殘
2500に
餘Alから成 る 複雜 な 合 金 で あ る が こ れ 等 の 成 分 中 何 れ が
Al側
時効硬 化 を 起 させ る 原 動 力 と な る か?ヂ
樣 に狭 め られ る,又Al側固
ュ ラ ル ミ ンの
於 け る 状 態 を 示 す.即
夫 々5000及
ちBCDは50°
固 溶體 の 溶 解 度 線 で ある が,250° に 於 て はGHIの
溶體CuA12及
時効 硬 化 現 象 を論 ず る に 當 つ て は 先 づ こ の 問 題 を 解 決 し
共 存區 域 は500° に 於 て はCEK内,250°
て置 く必 要 が あ る.
の樣に
上 記 域 分 中Feは
不 純 物 と し て 混 入 して 來 る もの で 時
が る.從つ
効硬 化 には 直 接 與 ら な い許り で な くむ し ろ 常 温 時 効 を 妨
げ る.Mnは
ち 本 擬3元
効果 は あ る が や は り時 効 硬 化 の 直 接 の 原 因 と は な ら な い
事が 知 られ て ゐ る.ヂュ
ラ ル ミ ンに時 効 硬 化 現 象 を 與 へ
る成分 は 從 つ てCu,Mg及
びSiの3者
近迄 これ 等 の成 分 は 夫 々CuAl2並
で あり比較
にMg2Siな
的最
る 化合 物
の形 に於 て の み 硬 化 に 與 る も の と考 へ られ て ゐ た.
第1圖(21)及 び 第2圖(22)に
はAl-CuAl2及
状 態 圖
(Dix,Richardson)(21)
に 於 て はHJM
溶體 と な る が 徐 々 に
びMg2Siが
析 出 す る 筈 で ある.即
系 に 於 け る溶 解 度 面 の變 化 が ヂュ ラル ミ ン時
効 硬 化 の 原因 を 爲 す も の と考 へ る の で あ る
然 る に 最 近 西 村 博 士(15)はAl-Cu-Mg3元
系合 金 の 状
態 圖 を決 定 し ヂュ ラ ル ミン は む し ろ こ の3元
系合 金 と し
て 取 扱 ふ 方 が 適 當 で あ る 旨 を 指 摘 せ ら れ た.第4圖
は西
村 博 士 の 状 態圖 で あ る.
びAl-Mg2Si
合金 の2元 系 状 態圖 を 示 した.い つ れ の 場 合 に もAlに
第1圖Al-Cu系
びMg2Si3相
て ヂュ ラ ル ミン組成 の 合 金 を500° か
ら燒 入 す れ ば 大體 に 於 て 均-Al固
冷 却 す れ ばCuA12及
結 晶粒 子 を微 細 化 し機械 的性 質 を 改著 す る
び
に於け る
第2圖Al-Mg2Si系状
對
態圖
(Dis,Keller,Graham)(22)
す るこれ等 化合 物 の溶解 度 限 は 高温 に於 て大 き く常温 で
は零 に近 い.斯樣 な溶 解度 の變 化 が 結 局合 金 に時 効硬 化
現 象 を超 させ る
根 本 原 因 とな る
事 は上 記2元
系
第4圖Al-Cu-Mg系
圖 に 於 てS並
な る3元
にTは
状 態 圖(西
化 合 物 で あ りAlとS化合
物 に 近 い 組 成 の合 金
合金 に就 い て充
は第5圖
分 に 研 究 し盡 さ
樣 な斷面 を 持 つ.
れ て ゐ る.從
つ
亦 温 度 に依 つ てA1
及 びGayler氏(4)
に對 す る 溶 解 度 を
等 は ヂュ ラ ル ミ
變 ず る もの で あ の
ン をAl-CuAl2Mg2Siな
系状 態 圖
實驗Al-CuAl2
-Sの 組成 範圍 内
る擬3
元系 合 金 と して
取 扱 ひ第3圖
(21) E. H. Dix, H. H. Richardson, Trans. Amer. Inst. Min.
Met. Eng., 73 (1926), 560.
(22) E. H. Dix, F. Keller, R. W. Graham, Trans. Amer.
Inst. Min. Met. Eng., Inst. Met. Div., (1931), 404.
に 示 した
即 ちS化 合 物 も
て 古 くHanson
第3圖Al-CuA12Mg2Si擬3元
(Hanson,Gayler)(4)
村博 士)(15)
夫 々Al13Cu7Mg8及A15CuMg4
に
第5圖Al-Cu-Mg系
状 態圖 の1斷
(西 村 博 士)(15)(Cu:Mgが約4:1附
近)
面
に あ る合 金 が 最 も
著 しい時 効 性 を 持
つ の で あ る.尤 もSiの 存在 を 考 へ る と 第6圖
に示 し
た樣 な4元 系 合 金 と して取 扱 は ね ば な らな い事 は 當 然
で 西村 博 士 はこ の 間 の 問題 を次 の樣 に考 へ て 居 られ る.
84
講
例 へ ば ヂュ ラ ル ミ ン 中 に0.3%のSiが
れ ば こ のSiは0.52%のMgと
る.こ
義
存 在 す る とす
結 合 し てMg2Siを
の 場 合 若 し0.52%以
上 のMgが
ン(例 へ ば24S型
析 出が 起 る も の と すれ ば過飽 和固
溶體 の濃 度 は減 少す るか らそ の格 子 常數 は 次 第 に 純A1
の そ れ に近 つ く筈 で あ る.從 つ て時 効 中果 して析出が起
(A1)-CuA12-S-Mg2Si區
るか ど うか と云 ふ問 題 は斯樣 な格 子 常數 の 測定 に依 つて
域 の 合 金 と なりMgが
上 記 量 よ りも 少 な け れ
容 易 且 確 實 に これ を決 定 し得 るわ け で あ る.
Stenzel及 びWeerts(13)氏
はCu4.3%を
ば(A1)-CuAl2-Mg2Si-
Cu合 金 の常 温 並 に 人工 時 効 中 に 於 け る 諸 性 質 の變化 と
Si區域
格 子 常數 の變 化 との關 係 を研 究 して第8圖 の樣 な結果 を
の 合 金 と な る.
超 ヂュ ラ ル ミ ン)の 場 合に
圖 か ら明か
はCuAl2,
に20° 並に
70°に 於 け
有 量 の 少 い ヂュ ラ ル ミ ンの 場
びMg2Siの兩
ろ時 効の場
者 が 時効 硬 化 に 關 與 す る
合 には諸 性
の で あ る.
以 上 を總 括 す る に ヂ ュ ラ ル ミン の 硬 化 素 と し て は 従 來
るに拘は ら
し乍 ら い つ れ に し
ず格 子常數
す る これ 等 化 合 物 の 溶 解 度 の變 化 が 時 効 硬
の上 に は何
びMg2Siの
他 にSな
合 物 の 存 在 を 追 加 す る 必 要 が あ る.然
化 の 根 本 原 因 で あ る 事 は動 か な い.從
の 機 構 を論 ず る に 當 つ て は 便 宜上最
Al-Cu2元
質 は變化す
化
考 へ られ て ゐ たCuAl2及
て もA1に對
含 むAl-
得 てゐ る.
比 しMg含
有 量 の 多 い ヂ ュラル ミ
S及 びMg2Siの3者,Mg含
合 に はCuAl2及
合 物を
造 る か ら 結 局 第6圖,
從 つ てSiに
系
飽 和 の儘 これ を常
温 に過 冷 し得 る事 が 知 られ る.今 これ 等 の合 金 を長時間
場 合 に若 しCuA12の
びA1の1部
と 結 合 し てS化
は濃 度 の如何に 拘 は らず燒 入に依り
常 温 に放 置 し或 は低 温 に保 持 して 所 謂 人 工時効 を行 つた
あ れ ば 過剩 のMg
はCu及
第6圖Ai-Cu-Mg-Si4元
(西 村 博 士)(15)
形造
第3卷
る3元
等 の變化 を
つ て 以下 時 効 硬 化
も 研 究 結 果 の 多い
系 合 金 を 採 つ て 老 へ る 事 と し だ い .蓋
も認 め得 な
い .尚兩 氏
し本2
元 系 に對 す る 結 果 は 僅 の 修 正 を 加 へ る 事 に依 つ て 直 に ヂ
は この場 合
ュ ラ ル ミ ン の 場 合 に も適 用 し 得 る と 考 へ られ る か らで あ
ケ 年後 と
る.
3.Al-Cu合
金 の 時 効 硬化 現 象
濃 度 を異 に す ろ 各 種A1-Cu合
金 を 共 晶温 度 の 直 下 か
(Stenzel,Weerts)(13)
數 に は何等
の變 化 をも
生 じ ない と報告 して ゐる.こ れ を要 す るに70° 以下 の低
末 法 に依 つ て その格
温 時 効 の 場 合 に はCuA12の
子 常數 を精 密 に測定
言 へ る.
析 出 は 全 く起 り得 ぬ もの と
これ に 反 して150° 以 上 の温 度 で人 工 時 効 を行ふ 場合
示 した樣 に な る.(13)
に は圖 か ら明 か に格 子 常數 は 何時 か は變 化 してゞ
即 ちAI(面 心立 方格
の それ に近 づ く.換言 す れ ば 化 合 物CuAl2の
子)の 格 子 常數 はCu
つ て母體 過 飽 称 固溶體 の濃 度 はほゞ その 温 度 に於 け る平
5.7重 量%(=2.4原
衡 値 に近 づ く もの と考 へ られ る.然 し乍 ら この場 合 と難
子%)迄Cuの
原子濃
も合 金 の硬 化(抗 張 力 の増 大)と 析 出 とは一 般 に 一致 する
度 と共 に ほゞ 直 線 的
もの で は な い.例 へ ば150° の 時 効 の 場 合 に は第8圖 か
純A1
析 出が起
に 減 少 しそ の割 合 は
ら明 か な樣 に 抗 張 力は4日
大體 に 於 てVegard
ず析 出 は9乃 至20日
線(細 實 線)に 一 致 す
の 認 め られ る頃 に は 合 金 は 既 に 軟 化 しつ ゝあ る ので あ
る.換 言 す れ ばCu
る.225° 並 に300° に於 け る時 効 の 場 合 に は數 時間 に し
はA1に對
状 態 圖 と格
度曲線
雖 も格 子常
ら燒 入 し後 方 反 射 粉
す る と第7圖 太 線 で
第7圖A1-Cu合4の
子 常數-濃
第8圖Al-Cu合
金(Cu=4.3%,530°燒
入)の
常 温並 に 人 工 時 効 に伴 ふ 諸 性 質 の變 化
(Stenze1,Weerts)(13)
し共 晶 温
度 に 於 て5.7%迄
固
溶 し併 もその 固 溶體
日に極 大 値1に達 す るに拘 は ら
後 に於 て 始 めて 認 め られ 併 も 析出
て 硬 化 も析 出 も 完 了 す るた め に あ だか も硬 化 と析出 と
が 同時 に起 る樣 に 見 え る.こ れ を 要 す るにAl-Cu合
金
の時 効 硬 化 は化 合 物 析 出 以 前 に生 ず る現 象 で あ る.從 つ
第2號
時
効
硬
化
問
題(I)
85
て硬 化 の 原 因 は 畢竟 母體 過 飽 和 固 溶體 内 部 に 於 け る 何 等
子 を形 成す るに 至 らず特殊 の 中間状 態 を 採 つ て ゐ るわ け
か の變 化 に 基 く も の と結 論 し得 る.
で あ ろ.換 言 すれ ば 結 晶學 的 にCuAl2の
Gayler,Preston(8)及
氏 等 のX線
びHengstenberg,Wassermann(12)
的 研 究 に 依 れ ば 母體過
析 出 が 完 了す る
の は 既 に時 効 硬 化 の現 象 も終 り母體固 溶體 の濃 度 も平衡
飽 和固 溶體 の 廻 折 線
は時 効 と共 に次 第 に 散 大 す る 事 が 明 か で あ る.廻
折線の
値 に達 した後 更 に長 時 間 の 加熱 を必 要 とす る事 が判 る,
以 上 の結 果 を總合 して 本合金 の 析 出過 程 を説 明的 に圖
散 大 は 結 晶 格 子 に 内 部 歪 を 生 じ た 誰 左 で あ る か ら時 効 硬
示 す れ ば 第10圖
化 の 現 象 は 化 合 物 析 出 前 の 母體 格 子 の 内 部 歪 に 基 因 す る
樣 に な る.
の
圖 に於 て1に 溶 質
事 は最 早 疑 問 の餘 地 が ない.尚Schmid,Wassermann(10)
兩 氏 は ヂュ ラル ミ ンに 就 い て も ほゞ 同樣 の 事 實 を 認 め て
原 子Cu(◎)と
溶媒
ゐ る.
原 子Al(・)と
が不
扨 て以 上 は 主 と し て 母體 過 飽 和 固溶體
的研
規 則 的 に置 換 しだ 過
的 に研
飽 和 固溶體 を 示 す.
IVはCu原
子が析 出
側 のX線
究 に依 つ て知 り得 た 事 實 で あ る が 最 近Wassermann,
Weerts(14)(18)兩 氏 は こ の 合 金 の 析 出 過 程 をX線
究 してCu-Al2格
して 母 格 子 は純A1
子 の 形 成 に 先 立 ち特 殊 の 中間 相 が 出 現
す る事 實 を 見 出 した.
第9圖1はCu4.3%を
含 むAl-Cu單
結 晶 を520°
か
に 近 づ き析 出 した
第10圖A1-Cu合
金 の時 効 に伴
ふ 原 子 配 列 の變 化 説 明 圖
I過
III中
(Wassermann)(24)
飽和 固 溶體
II準 備(硬化)状
間状
態 IV析
出 状
態 を 示 す.IよりIVの
Cu原 子 はAl原
態
態
子と
結 合 してCuA12格 子
を形 成 した究 局 の状
状 態 に到達 す るた め には順 序 と し
て過 飽 和 固溶體 内 に於 て 異種 の原 子 間 に 位置 の 交換 が 行
はれ 母體 格 子 内の1部 にCu原
必 要 であ る.圖IIは
子 が 集合 して 來 る過 程 が
斯樣 な状 態 を示 す.圖IIIはCu並
にAl原 子 が 凡 そ1:2の
割合 に集 合 し終 つた 状 態 で ある
が この部 分 の原 子 配 列 は未 だ 完全 なCuA12格
る に至 つ て ゐ ない.Wassermann(19)氏
子 を形 成 す
等 の見 出 した 中間
相 は 凡 そ斯樣 な状 態 と考 へ られ る.
扨 て上 記 過 程 中時 効 に依 り到達 す る最 高 硬 度 の状 態 は
II
I
第9圖A1-C單
軍 結 晶(Cu=4.3%)の
(Wassermann,Weerts)(14)
I燒
入 直 後,II 200°,30時
第10圖IIの
廻轉寫
眞
如 き もの で な け れ ば な らな い 事 は既 に説 明
しだ 事項 か ら 明 白 で あ ら う.III乃 至IVの
間時効
状 態 と なつ
て は合 金 の硬 度は低 下 し始 め る わけ で あ る.然 らば 何 故
ら燒 入 した 状 態 に 於 け る 廻轉寫 眞(板 の 方 法)で 圖 上 の 斑
にIIの樣
點 は 凡 てAl-Cu固
この
に 關 して は固體 金屬 の機 械 的 性 質 乃 至 は 塑性變 形 に 基 く
加 熱 し た 後 の寫 眞 で 圖 上 に は 新 に
硬 化 の理 論 が 確 立 され ない 以上 根 本 的 の 解 決 は至難 と思
溶體 の 反 射 線 に 基 く.同
結 晶 を200° に30時間
圖IIは
弱 い斑點 が 澤山 に現 は れ て ゐ る.こ の 斑點 はA1固
はCuAl2のい
つ れ に屬 す る も の と も相 違 しWassermann
氏 等 に 依 れ ばa=8.2A,c=11.6A,c/a=1.41な
格 子 に屬 す る.因
み にAl固
∼4.029A(Cu=5.7%)な
は6組
溶體 或
る正 方
溶體 は α=4.0407A(純Al)
る面 心 立 方格 子(13)に屬 しCuAl2
の體 心 正 方 格 子 の 組 み 合 せ よ り成 る 複雜 な 結 晶 で
な状 態が 最 も硬い の で あ ら うか?こ
はれ るが 少 くと もIIの樣 な状 態 にな る と 結 晶 格子 は局
部 的 に著 しい歪 を受 け る事 は考 へ られ る.
Al並 にCu原 子 のGoldschmidt氏
原 子 直徑 は 夫k
2.8∼2.85A及
び2.551Aで
あつ てCu原
子 はAl原 子 に
比 して か な りに 小 さい,從 つ てAl原 子 の 形 造 る空 間 格
子 中にCu原
子が 固 溶 してA1原 子 を置 換 す れ ば その 附
そ の 格 子 常數 はa=6.052A,C=5.035A,C/a=0.832と
近 に は幾分 歪 を 受 ける 筈 で あ る.第10圖1の樣
測 定 せ られ て ゐ る(23).
で あ る とCu原
第8圖
の 結 果 か ら考 へ る と200°,30時
に 依 つ て は 母體 固 溶體
は 既 にCu原
間 の人 工 時 効
子 を 析 出 し て 純Al
の 問題
な状 態
子 は公 算 的 に一樣 に 分布 せ られ て ゐるか
ら結 晶 格 子 内 の歪 も一樣 に分 布 せ られ その 量 は比 較 的小
い.こ れ に 反 して同 圖IIの樣 にCu原
子 が 局 部 的に集
の 格 子 常數 に 近 づ き合 金 は 最 早 著 し く軟 化 し て ゐ る 筈 で
あ る.そ
れ に も拘 は ら ず 析 出 原 子 は未 だ 完 全 なCuA12格
(23) J. B. Friauf, J. Amer. Chem, Soc., 49 (1927), 3107.
(24) G. Wacsermann,
241.
Arch. Eisenhuttenwes.,
9(1935/36),
86
講
義
第3卷
合 す れ ば そ の 部 分 の 内 部 歪 は 著 し く増 大 す る筈 で あ る.
化 せ しめ る重要 な 因子 で あ る事 は言 ふ 迄 もな い.斯樣 に
斯樣 な 内 部 歪 の 存 在 は變 形 に 際 す る 結晶 格 子 面 の た のを
考 へ る と本 合 金 の時 効 硬 化 現 象 も畢竟 塑 性變 形 に基 く金
妨 げ 從 つ て 硬 化 の 原 因 と な る と考 へ る の で あ る.
屬 硬化 の理 論 に依 つ て説 明 し得 る わ け であ るが この點に
前 述 の樣 に 本 合 金 の 過 飽 和 間 溶體 内 部 に 於 け る斯樣 な
内 部 歪 の 存 在 はGayler,Preston(8)或
Wassermann(12)氏等に
依 つ てX線
る.又 最 近 篠 田 氏(20)は 特 殊 のX線
關 して は必 ず しも斷 案 を 下 し得 な い.後 刻 討議 の席上 に
於 て諸 家 の御批判 を得 度 い と考 へ る次 第 で あ る.
はHengstenberg,
的 に證 明 せ られ て ゐ
的 方 法に 依 つ て 時 効
以上 を總 括 す るにAl-Cu合
金 の 低 温(70° 以下)に 於
け る時 効硬 化 現 象 は 決 し て化 合 物CuAl2の
析 出に基 く
中 母體固 溶體 の 結 晶 格 子 面 に は彎 曲 乃 至 は 旋 廻 の 起 る
もの で は な い.母體 過 飽和固 溶體 内部 に 於 け るCu原
事 實 を 指 摘 し て 居 ら れ る.更
の 移動 の た めに生 ず る結晶 格 子 の 内部 歪 乃 至は こめ歪 力.
Wassermann(l8)氏
にFinlc,Smith(17)及
等 は 顯 微 鏡 的觀 察に 依つ
び
て時効 中結
子
の た め に生 ず る1種 の 塑性變 形 が 結 局 硬 化 の 原 因 とな る
晶 粒 子 内 に スリ ッ プ或 は 双 晶 的變 形 の起る 事 實 を 見出 し
もの で あ ら う.高 温 に 於 て所 謂 人工 時 効 を行 ふ場合 に は
て ゐ る.
母體溶體
從 つ て これ 等 の 結 果 か ら 考 へ る と第10圖IIの樣
Cu原
な
子 の 局 部 的 集 合 が起れ ば そ の 部 分 に 大 き な 歪 力 を
生 じ 更 に そ の 歪 力 は 結 晶 格 子 内 部 に1種
子 面 の辷 り,旋 回,彎 曲 等)を
へ る 事 も可 能 で あ る .結
の 塑 性變 形(格
生 ぜ し め るに至
る もの と考
晶 格 子 の 塑 性 的變 形 が 金屬 を 硬
の1部 に 集合 したCu原
子 は先 づ 特殊 の結 晶
格 子(正 方 晶 型 中間 相)を 形 成 し然 る後 この もの は徐 々に
CuAl2格 子 に變 態 す る.然 し乍 ら この場 合 と難 も時効硬
化 の現 象 は常 に化 合 物 の 析 出が 認 め られ る以 前 に於 て起
るか ら時効 硬化 の機 構 は低 温時 効 の場合 と 同樣 に考 へて
よい わ け であ る.(未
完)