日本英語教育学会ワードテンプレート (タイトル)

Proceedings of the 44th Annual Meeting of the English Language Education Society of Japan
日本英語教育学会第 44 回年次研究集会論文集
ICT を取り入れた中学 2 年生授業の実践報告
執行 智子 1
1
3
E-mail:
カレイラ 松崎 順子 2
宮城 まなみ 3
東京未来大学こども心理学部 〒120-0023 東京都足立区千住曙町 34-12
2
東京経済大学現代法学部 〒185-8502 東京都国分寺市南町 1-7-34
国本学園国本女子中学校高等学校〒157-0067 東京都世田谷区喜多見 8-15-33
1
2
[email protected],
[email protected],
3
[email protected]
概要 本研究では,中学 2 年生の英語の授業において,小学校外国語活動で使用している Hi, friends!2 にある視
聴覚教材(静止画,コマ送りしているもの)の画面を利用し,学習した語彙や文法を具体的な場面や状況に応じて
適切に活用しながらセリフを作りそれを吹き込み,さらにそれを鑑賞するという ICT を利用した 4 技能統合型の活
動が,生徒の言葉の気づきや学習の仕方にどのように影響を及ぼすのかを調査することを目的とした.参加者の振
り返りから,本活動が,聞き手の存在意識,既習の学習事項の意識的な活用,言語スタイルの気づき,達成感,学
習への動機づけを参加者へもたらしたことが分かった.一方,事前事後に行った定期テストについて対応のある t
検定を行った結果,生徒の成績において有意な差が見られなかったが,インタビューからレベルの低い生徒が英語
を楽しく学ぶきっかけになった様子がうかがわれた.よって,ICT を利用し動画のセリフを作り吹き替えをする活
動は生徒が既習事項を活用できる 4 技能統合型の活動であり,生徒の主体的な学びを促進することができる効果的
な活動であるいえると思われる.
Report on the Effectiveness of the Project Using ICT
-From the Reflective Habits of Junior High School Students-
Tomoko Shigyo 1
1
Junko Matsuzaki Carreira2
Manami Miyagi3
Faculty of Child Psychology, Tokyo Future University 34-12 Senjuakebono-machi, Adachi-ku, Tokyo 120-0023 Japan
2
Faculty of Contemporary Law, Tokyo Keizai University 1-7-34, Minami-cho, Kokubunji-shi, Tokyo 185-8502 Japan
E-mail:
1
[email protected],
2
[email protected]
3
Kunimoto Girls Jnior and Senior High School 8-15-33, Kitami, Setagaya-ku, Tokyo
157-0067 Japan
Abstract The purpose of this study is to report language awareness and learning strategy of the second-grade junior high
school students in their reflections over the project of making and dubbing the scripts and viewing the video. Furthermore, the
study aimed to determine whether this kind of programs was appropriate in developing the students’ linguistic ability. The
reflections of the students showed that the projects helped them become aware of the existence of the listener, use target
sentences, feel accomplishment of the task, and be motived to learn, while some low-level students’ scores on the test after the
project were better than before it. Therefore, the project of making and dubbing the scripts and viewing the video appears to be
appropriate as a project which actively uses the abilities of listening, speaking, reading, and writing. It also appears to be
effective in developing students’ independent learning.
く こ と 」の 技 能 を 総 合 的 に 育 成 し ,文 法 指 導 を 言
1. は じ め に
2012 年 度 か ら 施 行 さ れ た 文 科 省 新 指 導 要 領
[ 1]
では,
中学校外国語科改訂の趣旨に,
・コミュニケーションの中で基本的な語彙や文構造
を活用する力の育成
・指導に使用する教材の題材や内容については ,外
国語で発信しうる内容の充実を図る
・「 聞 く こ と 」,「 話 す こ と 」,「 読 む こ と 」 及 び 「 書
語活動と一体的に行うようにする
・ 生 涯 に わ た る 外 国 語 の 基 礎 を 養 う (pp.2-3)
とある.中学校においては外国語(英語)学習に生
徒が関心意欲を持ち進んでコミュニケーションをとる
よ う な 内 容 で ,学 習 し た も の (語 彙 ,文 法 )を 具 体 的 な
場面や状況に応じて適切に活用できるような 4 技能統
合型の活動の作成をし ,さらに,生徒自身の主体的な
執行智子・カレイラ松崎順子・宮城まなみ, "ICT を取り入れた中学 2 年生授業の実践報告,"
日本英語教育学会第 44 回年次研究集会論文集, pp. 25-34, 日本英語教育学会編集委員会編集, 早稲田大学情報教育研究所発行, 2015 年 3 月 31 日.
Copyright © 2014-2015 by Tomoko Shigyo, Junko Matsuzaki Carreira and Manami Miyagi. All rights reserved.
学びを促進 ,持続できるような力を育成しなければな
とで,作成した作品を繰り返し鑑賞し何度でも作り直
らない.新指導要領での検定を受けた教科書には,学
すことができたり ,編集できるのでより完成度を高め
校や学校生活,家族,友人,将来の職業など自分のこ
るために一層言語の意味機能や形式について考察でき
と自分のまわりのことを題材として扱っているものが
る 機 会 を 得 る こ と が で き る( Carney & Foss [ 1 0] )の で あ
多い.しかしながらそういった題材のみでコミュニケ
る .ま た ,ス ク リ プ ト を 作 成 し ,映 像 に 取 り 入 れ た り ,
ーション活動を展開していくには ,学習者である中学
ビデオを作成する ことで,4 技能を統合した能力も養
生の生活範囲はあまり広くなく,経験もあまり多くな
われると思われる.
いと思われる.特に,中学 2 年生の生徒たちが多感な
以上のことから,生徒が自主的に関わり 4 技能統合
思春期を迎えているということを考慮すれば,彼らが
す る 活 動 と し て , ICT を 活 用 し た セ リ フ を 入 れ る 活 動
自分のことをクラスメートの前で話す活動に進んで参
が 考 え ら れ る .ま た ,題 材 と し て 小 学 校 で 使 用 し た Hi ,
加することを好ましくないと感じるときもあると思わ
friends!を 使 用 す る こ と が ,生 徒 が 自 主 的 に 既 習 の 語 彙
れる.生徒の関心意欲を引きだし主体的に関わること
や文構造を想起・使用できる良い機会 を与えるのでは
ができる題材や活動とはどのようなものだろうか .
ないだろうかと考えられる .
2011 年 度 よ り 小 学 校 に お い て 外 国 語 活 動 が 必 修 化
本研究では中学 2 年生の英語の授業において,小学
された.小学校中学校の外国語学習における効果的な
校 外 国 語 活 動 で 使 用 し て い る Hi, friends!2 に あ る 視 聴
連携が望まれ て(高野 ・加藤
[ 2]
)おり,中学校指導要
覚教材(静止画,コマ送りしているもの)の画面を利
領にも「小学校における外国語活動との関連に留意し
用し,学習した語彙や文法を具体的な場面や状況に応
て,指導計画を適切に作成するものとする」
じて適切に活用しながらセリフを作りそれを吹き込み ,
( MEXT [ 1] ) と あ り , 中 学 校 に お い て の 指 導 計 画 は 小
さ ら に そ れ を 鑑 賞 す る と い う ICT 機 器 を 利 用 し た 4 技
学校における外国語活動の教授内容を十分に考慮に入
能統合型の活動が ,生徒の言葉の気づきや学習の仕方
れて授業を組み立てていかねばならないとされている .
にどのように影響を及ぼすのかを報告する.
小学校での外国語活動を生かした 小中連携 の研究は各
地方自治体などの教育機関においても ,進んで 推進さ
2. 先 行 研 究
2.1. 授 業 実 践 モデ ル :「PCPP 指 導 」
れているようである.特に,中学校において,中学校
で学習する基本的な表現が多く含まれている共通教材
村 野 井 [ 11] で は ,「 日 本 の 教 育 現 場 で は , 英 語 の 検 定
で あ る Hi, friends!を , 中 学 校 の 授 業 の 中 で , 表 現 活 動
教科書を使用して 行う授業が中心的なわけであり,教
の充実に生かしたり,新出の文法等の導入に生かすよ
科書を使った英語指導をどう効果的に行うかを議論す
う 推 奨 し て い る 例 ( 鹿 児 島 県 総 合 教 育 セ ン タ ー [ 3] ) も
る こ と が 大 切 で あ る 」( p. 18) と し , 教 科 書 を 用 い た
あ る . ま た , 那 覇 市 立 高 良 小 学 校 [ 4] で は , 小 学 校 中 学
内 容 中 心 の 英 語 指 導 法「 PCPP 指 導 」( p. 18)を 提 案 し
校 連 携 の 試 み と し て , Hi, friends!を 活 用 し 小 中 合 同 で
て い る . PCPP の そ れ ぞ れ の 段 階 で 行 う こ と は 以 下 の
紙芝居にセリフをつけ ,その読み聞かせをしている.
とおりである.
このように画像や紙芝居にスクリプトをつけるタスク
1) Presentation( 提 示 ) で は , 題 材 内 容 の 背 景 知 識
は,コミュニケーション活動を活性化させるための文
を 口 頭 導 入 す る 中 で ,目 標 文 法 形 式 を 帰 納 法 に 導
脈をつける手立てとして,近年多く用いられている.
入する
茨 城 県 教 育 研 修 セ ン タ ー [5]で は 画 像 に セ リ フ を 付 け 発
2)Comprehension( 理 解 )で は ,
「教科書の題材内容
表する活動を中学 2 年生に て行い,既習の言語材料を
の 理 解 を 中 心 と し た 聴 解 活 動 お よ び 読 解 活 動 」(p.
活用するタスクを行っている.また,大学の外国語教
育 に お い て は ,
20)を 行 う
Informati on and Communication
3) Practice( 練 習 ) で は , 有 意 味 な 文 脈 の 中 で , 目
Technology( ICT)を 用 い て ,ス ク リ プ ト を 作 成 し ,映
標文法形式の文型練習や発音練習をする
像に取り入れたり ,ビデオ を作成する タスク活動が外
4)Production( 産 出 )で は ,
「題材内容を自分の英語
国語習得に効果的であるという報告が多く ある(間・
で 再 生 ・要 約 し た り ,題 材 内 容 に つ い て 考 え た こ
甲 斐 ・ 張 ・ 王 [6] , 熊 木 [ 7] , Nikitina [ 8] , Saugera [ 9] ,). こ
とを学習した事柄を応用して表現したりする」
れらの活動では,学習者は 問題解決をするために様々
( p. 22) プ ロ ジ ェ ク ト 型 の タ ス ク を 行 う
な文脈の中で,学習言語を使用する体験を積む ことが
1) Presentation( 提 示 ) で は , イ ン プ ッ ト の 中 に あ
できるのである.そして, 学習者は,テキストを使用
る 目 標 言 語 形 式 に 気 づ き 理 解 し ,2)Comprehension( 理
した授業で学ぶよりはるかに多くの言語の意味機能や
解 )に お い て ,教 科 書 本 文 の 意 味 形 式 機 能 を 理 解 し ,3)
形式に気づく機会を得ることができるのである( 間・
Practice( 練 習 ) で は , 2) で 理 解 し た こ と が 認 知 的 に
甲 斐 ・ 張 ・ 王 [ 6] ,熊 木 [ 7] ). さ ら に , ICT を 活 用 す る こ
処 理 さ れ ,自 動 的 に 産 出 で き る よ う に な り ,そ の 後 4)
26
Production( 産 出 )に お い て ,自 分 ら し く 使 用 す る よ う
進されるのではないかと思われる.
になることを目的とするものである.
現 在 ,様 々 な タ ス ク が 現 在 考 案 さ れ て い る が ,そ の 中
の 1 つとして画像や紙芝居などの視覚教材にスクリプ
ト を つ け る タ ス ク が あ る . 茨 城 県 教 育 研 修 セ ン タ ー [ 5]
2.2. セ リ フ を つ け る タス ク と ICT
「 平 成 21・ 22 平 成 23 年 度 教 科 に 関 す る 研 究 」 で は ,
近 年 ,タ ス ク 活 動 を 取 り 入 れ た 外 国 語 学 習 に 効 果 が あ
に よ れ ば ,タ ス ク に は「 知
思考力,判断力,表現力を育むために既習の言語材料
ら な か っ た 事 項 を 学 ぶ た め の 文 脈 つ く り 」( p. 120)の
を活用させるために,画像にセリフを付け発表する活
役 割 が あ り ,タ ス ク を 行 う こ と に よ っ て 学 習 者 が ,
「現
動を中学 2 年生において行った.その結果 ,事後の意
実性をともなった意味の文脈の中で言語使用を求めら
識 調 査 に お い て 20 人 の 生 徒 が「 学 習 し た 英 語 を 使 う こ
れ,そこで経験した困難やそれを通じて自覚された問
と が で き ま し た か 」の 質 問 に ,
「 で き た 」,
「だいたいで
題に対するより良い解決方法,答えとしての文法に出
きた」と回答しており,また,聞き手を意識した会話
会 う こ と 」( p. 137) が で き る も の で あ る と し て い る .
文の作成を通して ,生徒たちは,聞き手に分かりやす
つまり,タスクは 現実に必要とされる言語使用場面を
い表現を考えて書いたり,書いた英文を読み直して校
提供することで,学習者が自主的に言語を使用し問題
正したりしていた.さ らに,普段の授業で教科書を読
解決をすることを促し ,言語運用能力を伸ばすことが
んで習得した既習の学習内容を書いたり発表したりし
る と 報 告 さ れ て い る .松 村
[ 1 2]
)な の で あ り ,
て,書き,話し表現する活動から ,発表を聞き理解す
特に学習者が「現実性をともなった意味の文脈の中で
るまでの4技能を統合的に活用できる活動となったと
言語使用を求められ,そこで経験した困難やそれを通
報告している.
で き る 手 段( 松 村
[ 12 ] ,
高島
[ 1 3]
, 高島
[ 1 4]
じて自覚された問題に対するより良い解決方法 ,答え
Saugera [ 9] で は ,フ ラ ン ス 語 専 攻 の 大 学 生 の 授 業 に お
と し て の 文 法 に 出 会 う こ と 」( 松 村 [ 1 2] ,p. 137)が で き
いて,映画のスクリプトの作成を行うタスク取り入れ
る学習方法であるとしている.つまり,村野井
[ 11]
たところ,使用場面や使用者に合わせて言語スタイル
の
PCPP モ デ ル の 最 後 の 段 階 で あ る 4)Production( 産 出 )
を変化させることを学習し ,タスク完成後 ,言語面で
において,タスク活動をすることは,教科書で出会い
も芸術面でも達成感を味わうことができたと報告して
練習してきた目標文法形式の例文を,問題解決するた
いる.映画作品にある文脈が,参加者にどのように言
めに適切に活用する機会を学習者に与えることになる
語を使用すべきかということの理解を促し ,社会的に
は ,こ の よ う な タ ス ク 活 動
言語を使用することは教室での言語学習をはるかに超
において,
「 学 習 者 が 苦 労 す る こ と ,活 動 が ス ム ー ズ に
える実践学習が必要であることの認識をもたらしたと
進まないことは,むしろそうだからこそ活動を行う意
言えよう.
の で あ る .加 え て ,松 村
[12]
味 が あ る 」( p. 118) と し , 現 実 の 世 界 で ,authentic に
間 ・ 甲 斐 ・ 張 ・ 王 [ 6] は 映 画 の 字 幕 制 作 の 教 育 効 果 と
ことばを使用することのむずかしさを味わうこと自体
して,
「新しい形態の語学学習に学生が興味や意欲を感
も学習者が体験すべき意義あることとしている.
じ 学 習 意 欲 が 向 上 し た り 」( p. 4),
「共同で字幕制作を
では,タスク活動に協同学習を取
することにより自律性や責任感を持たせ他者との協働
り入れることで,
「仲間同士で対話的に学ぶ方が学習内
の 訓 練 が で き る 」( p. 4) と 述 べ て い る . ま た ,「 そ の
容 の 定 着 を 促 進 す る こ と 」( p. 10)が で き ,「 仲 間 と 安
映像場面を正確に把握し,映像でわかる事柄は極力省
心して失敗でき挑戦できる教室空間で ,主体的な学び
き,発話の要点を発話時間にふさわしい時数に切り詰
の 面 白 さ (学 び の 快 楽 )を 実 感 」( p. 21)が で き る よ う に
め て 表 現 す る 作 業 」( p. 6)を 語 学 学 習 に 効 果 が あ る と
なるとしている.協同学習を取り入れたタスク活動に
している.
さらに,江利川
[ 15]
おいて,学習者は他者とコミュニケーションをしなが
熊 木 [ 7] で は , 映 画 に 字 幕 を つ け る ほ か に 「 実 演 を 取
ら目標言語形式を文脈に合わせて活用し問題解決に臆
り入れるなど,複合的な取り組みを同時に行うことで
せず挑戦できるようになったり,失敗も乗り越えるこ
具 体 的 な 語 学 体 験 に 近 づ く 」( p. 13) と 述 べ , 実 際 そ
とができるようになることができると思われる.さら
れらの取り組みをした学生たちは,
「授業で主に扱う 4
に ,江 利 川 は ,協 同 学 習 が も た ら す も の と し て ,
「異質
技能(読む・書く・聞く・話す)や文化的・歴史的知
な 個 性 同 士 が 互 い に 高 め 合 い 全 員 を 伸 ば す 」( p. 39)
識だけでは味わえない人間の感情への洞察までも意識
ことがあるとし,一人では達成できないようなタスク
し て 作 業 を 行 っ た 」( p. 29)と 報 告 し て い る .こ れ は ,
を協同学習によって他者と協同することで達成できる
実演を録画し,それを画像に取り組むことが可能な
ようになるとしている.このような成功体験を積むこ
ICT の 機 能 の 効 用 が 大 き い と 思 わ れ る .
とで,現実に目標言語形式を使用することに対する積
同 様 に ,Nikitina [ 8] の 文 献 調 査 に よ る と ,ICT を 活 用
極性が生まれ,さらに ,言語使用における自動化が促
したビデオを作る活動を言語学習に取り入れる ことが,
27
コミュニカティブ活動の土台となる文脈を伴う言語に
行うことにより,
「どこまで自分の意見を主張するのか ,
よるやりとりの場や必然を提供することになり ,その
相手の言い分をどこまで取り入れるのか,その折合い
結果,学習者が習得すべき言語技能を活性化するのに
を 互 い に 探 ろ う 」( 間・甲 斐・張・王 [ 6] )と し ,言 語 使
役立ったり ,現実の生活においての現実的な言語使用
用について ,ともに考える とともに,実際に作業の中
を促進したり,学習活動での学習者の参加を刺激・促
でのやり取りの中でのことばの使用についても考える
進したり,他者の前で話すときの不安を和らげたり,
場を与えることになるのである.
学習者の自律性や自信を高めるたりする効果があると
述べている.
2.3. 中 学 校 教 材 と し て の Hi, friends!
Nikitina [ 8 ] に よ れ ば ,マ レ ー シ ア で 行 っ た 大 学 生 対 象
2011 年 度 か ら は 小 学 校 に お い て 外 国 語 活 動 が 必 修
に し た 12~14 週 間 の 学 習 言 語 ( ロ シ ア 語 ) で ビ デ オ を
化されており,小学校中学校の外国語学習における効
作るプロジェクトを行ったところ ,参加者は,学習言
果 的 な 連 携 が 望 ま れ て い る( 高 野・加 藤 [ 2] ).渡 邉・高
語でのオリジナルのスクリプトやシナリオや,対話を
梨・齋 藤・酒 井 [ 1 7] に よ れ ば ,小 学 校 で の 外 国 語 活 動 の
作成する際に,自分にとって必要なことばを取捨選択
経験を生か し中学へ接続させるために ,小学校で扱わ
できる学習の主体者として 成長していった と報告して
れてきた活動の場面やコミュニケーションの働きを中
い る .こ れ は ,プ ロ ジ ェ ク ト に 取 り 組 む と い う こ と が ,
学でも引き続き行ったり,同じ活動を行うことが望ま
参加者に既習の語彙や文法構造の知識を再活性化 させ,
れると述べている .また,萬屋・直山・卯 城・石塚・
さらに,言語技術自体も向上させたと報告を続けてい
中 村・中 村 [ 1 9] で は ,小 学 校 と 中 学 の カ リ キ ュ ラ ム の 連
る.また,協同作業を通して参加者間の集中的なやり
携 が 必 要 で あ る と し ,「 目 標 の 一 貫 性 」「 指 導 法 の 継 続
取りが相互援助を促進し,参加者たちは物理的感情的
性 」「 学 習 内 容 の 継 続 性 」( p. 7 ) が 考 え ら れ る と し ,
な新しい学習形態に積極的に参加していたと報告して
「指導法の継続性」が特に重要であるとしている .そ
いる.
の具体的な方法として「外国語活動で児童が経験した
Nikitina [ 16 ] で は , マ レ ー シ ア の ロ シ ア 語 専 攻 の 大 学
活動を行うこと,外国語活動で扱われていた教材等を
生 に 12 週 間 の 学 習 言 語 で の ビ デ オ 制 作 の プ ロ ジ ェ ク
活 用 す る こ と 」( p. 7)を 提 案 し て る . 鹿 児 島 県 総 合 教
トを行った.制作中に ,参加者は学習してきた言語材
育 セ ン タ ー [ 3] で は ,中 学 校 の 授 業 の 表 現 活 動 に お い て ,
料を思い起こすことに留まらず,どのようにしたら洗
Hi, friends!の 絵 や 音 声 を 利 用 し ,
「当該の文法事項を含
練された作品を作れるかを十分に考慮する時間が持て ,
む 対 話 を 行 い ,意 味 や 表 現 等 を 思 い 起 こ さ せ 」( p. 4),
またこのプロジェクトが言語面,非言語面双方におい
新出の文法等の導入に生かすよう推奨している .
て多様な学習結果を引き起こすことが分かったと述べ
ま た , 那 覇 市 立 高 良 小 学 校 [4]で は , 小 学 校 中 学 校 合
ている.特に,言語面では ,参加者自身が ,他のセミ
同のプロジェクトにおいて ,小学校外国語活動で使用
スターと比較してこのプロジェクトにおいてロシア語
し て い る Hi, friends!2 を 利 用 し , 紙 芝 居 の 中 の 日 本 語
での活動を通して効果的に学習したと報告している.
のセリフをこれまでの既習事項の中で慣れ親しんでき
こ れ は ,言 語 を 使 用 す る 機 会( ス ク リ プ ト を 書 い た り ,
た 言 語 材 料 を 元 に ,「 ① 既 習 単 語 に 直 す 」「 ② 表 現 の 仕
それを練習したり ,演じたこと)が以前のセミスター
方を工夫する」活動を行い ,その紙芝居の読み聞かせ
に比べ多かったからだと思われる.さらに ,参加者の
を作り上げる単元を行っている.特に中学生は ,小学
中には,ロシア語を話すことに以前より自信を持った
生のわからない単語のアドバイスをしたり ,小学生が
と述べているものもいた.そして多くの参加者はプロ
考え出すセリフをメモしたりするという,語彙が少な
ジェクト遂行には時間がかかり大変であったにもかか
く文字を学習していない小学生には行うことができな
わらず,ビデオ制作を することは面白く楽しかったと
い役割を担ってきた. また,高良小学校が教材として
述べていたと報告している.
使 用 し て い る Hi, friends!2 に 収 め ら れ て い る “We are
ビデオにセリフをつけたり字幕を制作したり,ビデ
good friends”は , 「 子 ど も に と っ て は お な じ み の ( 既
オそのものを制作する効果は,昨今開発が進んできた
習 の ) 表 現 が 盛 り 込 ま れ る 」 ( 高 野 ・ 加 藤 [ 2] ) の で セ
ICT の 特 徴 に よ る も の が 大 き い と 言 え る .こ れ は ,ICT
リフを言い換えていく活動は,参加した児 童生徒にと
を利用することで ,作成した作品を繰り返し鑑賞し何
っては心的負担があまりなく参加しやすい活動と思わ
度 で も 作 り 直 す こ と が で き た り ,編 集 で き る( Carney &
れる.
Foss [ 10 ] ) の で ,学 習 者 は よ り 完 成 度 を 高 め る た め に 一
以上のこと から,タスクに小学校外国語活動で使用
層言語の意味機能や形式について考察 し,よりふさわ
し て い る Hi, friends!に 含 ま れ る 教 材 を 活 用 す る こ と は ,
しい表現とその使用を学習する機会を得ることができ
生徒の外国語活動の経験を生かすことができ,さらに
るからであると思われる.さらに,制作を協同作業で
目標文法事項の習得にも効果があると思われる .
28
本研究では ,中学 2 年生の英語の授業において,小
て授業を行ってきた.また ,中学 2 年生になってから
学 校 外 国 語 活 動 で 使 用 し て い る Hi, friends!2 に あ る 視
は , 検 定 教 科 書 New Horizon 2 を 主 要 教 材 と し て 使 用
聴覚教材(静止画 ,コマ送りしているもの)の画面を
している.
利用し,学習した語彙や文法を具体的な場面や状況に
応 じ て 適 切 に 活 用 セ リ フ を 作 り ICT を 利 用 し そ れ を 画
3.3. 方 法
像に取り込み,さらにそれを鑑賞するという 4 技能統
合型の活動を作成し,生徒の言葉の気づきや学習の仕
本研究では生徒の言葉の気づきや学習の仕方どの
方に対する振り返りにどのように影響を及ぼすのかを
ようにどのように影響を及ぼすのかを明らかにするた
報告する.
めに,プロジェクト終了後に授業中に記入させた振り
返りシートを質的に分析し ,またプロジェクト前後に
行 わ れ た 定 期 テ ス ト (中 間・期 末 )を 量 的 に 分 析 す る も
のである.振り返りシートの記入項目は以下のとおり
3. 本 研 究
である.
3.1. 目 的
( 1) 英 語 の セ リ フ を 考 え た 時 に 工 夫 し た こ と
本 研 究 の 目 的 は ,2012 年 度 か ら 施 行 さ れ た 文 科 省 新
( 2) 英 語 で 録 音 し た 時 に 工 夫 し た こ と
指 導 要 領 [1] の 外 国 語 科 改 訂 の 趣 旨 の 中 に あ る ,
「コミュ
( 3) 感 想 (作 成 )
ニケーションの中で基本的な語彙や文構造を活用する
( 4) 感 想 (鑑 賞 )
力 の 育 成 」 (p. 2),「 指 導 に 使 用 す る 教 材 の 題 材 や 内 容
については ,外国語で発信しうる内容の充実を図る」
3.4. 実 践 内 容
(p. 3)「『 聞 く こ と 』,
『 話 す こ と 』,
『 読 む こ と 』及 び『 書
本研究で行われたプロジェクトの内容と実践時間
くこと』の技能を総合的に育成し ,文法指導を言語活
は以下のとおりである.
動 と 一 体 的 に 行 う よ う に す る 」(p. 3),さ ら に「 生 涯 に
第 1 時 : New Horizon 2Speaking +1 ( p.18)「 先 生 に お
わ た る 外 国 語 の 基 礎 を 養 う 」(p. 3)こ と を 実 践 す る た め
願いていねいに許可を求める,依頼する」
に , 中 学 2 年 生 の 英 語 の 授 業 に お い て , Hi, friends!2
1. 教 科 書 本 文 を 見 ず 聞 き 取 り ,場 面・意 味 を 推 測 す る .
に収録されている動画にセリフをつけ ,それを鑑賞す
2. 教 科 書 を 使 用 し Could you~? May I~?を 学 習 す る .
る ICT を 利 用 し た 活 動 が ,参 加 者 で あ る 中 学 2 年 生 の
3. 生 徒 の 持 ち 物 を 利 用 し て ,May I ~ ?,Could you ~ ?
生徒の言葉の気づきや学習の仕方にどのように影響を
を確認,復習する.
及ぼすのかを,生徒の 振り返りシート と定期試験の結
第 2 時 : Hi, friends!2 の 「 オ リ ジ ナ ル の 話 を 作 ろ う 」
果から報告する.
( Momotaro)の 映 像 を 観 る .グ ル ー プ に 分 か れ ,担 当
のシーン(さる,犬,雉に出会っていくシーン)のス
3.2. 参 加 者 及 び 学 習 背景
クリプトを考える.
参 加 者 は ,東 京 都 内 私 立 女 子 中 学 2 年 生 11 名 で あ る .
第 3 時:スクリプトを完成し,練習・録音する.
参加者のうち,3 名は付属の小学校からの内部進学者
第 4 時:録音する.
であり,小学 1 年生より英語に触れてきた.また,外
第 5 時:録音したものと映像を合わせ鑑賞する.振り
部からの入学者のうち 8 名は公立小学校出身であり,
返りシートを記入する.
小 学 5・ 6 年 生 の 時 に 英 語 活 動 に て 英 語 に 触 れ て き た .
使 用 機 器 に は iMovie お よ び IC レ コ ー ダ ー を 用 い た .
また残り 1 名は私立小学校からの入学者であり ,内部
以 上 の 内 容 と 実 践 時 間 を 村 野 井 (2006)の 教 科 書 を 取 り
進学者同様小学 1 年生より英語に触れてきている.さ
入 れ た 授 業 実 践 モ デ ル 「 PCPP 指 導 」 に 当 て は め る と
ら に , 当 中 学 1 年 生 時 に は 全 員 週 6 時 間 ( 総 計 210 時
以 下 の 通 り に な る .( 表 1)
間 )の 英 語 の 授 業 を 受 け て き た .1 週 間 6 時 間 の う ち ,
1 時間は外部の語学学校から派遣されたイギリス人の
外 国 語 指 導 助 手( ALT)が phonics や チ ャ ン ツ を 導 入 し ,
他 5 時 間 は Z 会 出 版 の New Treasure 1 を テ キ ス ト と し
て 使 用 し , 適 宜 検 定 教 科 書 New Horizon 1 を 取 り 入 れ
29
3.5. 結 果
3.5.1 生 徒 の 振 り 返 り シ ート
表1
授 業 実 践 モ デ ル 「 PCPP 指 導 」 と 本 研 究 に お け
る実践内容の相当表
時 授 業 実 践 モ デ ル
「 PCPP 指 導 」
1
1) Presentation
(提示)
2
2 ) Comprehension
(理解)
3)
Practice
(練習)
4)
Production
(産出)
3
4
5
鑑賞会
本研究のプロジェクト終了後生徒が書いた振り返
り シ ー ト の 記 述 は 以 下 の と お り で あ る .( 生 徒 の 記 述
本研究における実践内容
の ま ま で あ る .)
教科書本文を見ず聞き取
り,場面・意味を推測す
る
New Horizon 2, p. 48 の
聴解活動と読解活動
生徒の持ち物を利用し
て , May I ~?と Could you
~?を 確 認 , 復 習 .
「プロジェクト型タスク
活動」
Hi, friends!2 の 「 オ リ ジ
ナ ル の 話 を 作 ろ う 」
( Momotaro) の 映 像 を 観
る.グループに分かれ,
担 当 の シ ー ン( さ る ,犬 ,
雉に出会っていくシー
ン)のスクリプトを考え
る.
スクリプトを完成し,練
習・録音する.
録音する.
録音したものと映像を合
わせ鑑賞する.振り返り
シートを記入する.
( 1) 英 語 の セ リ フ を 考 え た 時 に 工 夫 し た こ と
・本 当 の こ と ら し く 作 っ た …「 よ り 現 実 的 に し た 」「 本
当 に 物 語 の 中 に い る よ う な 風 に し た 」「 現 実 的 に し
ました」
・ 聞 き 手 が 楽 し め る よ う に し た …「 英 語 の 歌 な ど を 入
れ た り し た 」「 面 白 く す る た め に 歌 を 入 れ た 事 」「 聞
いている人も言っている人も楽しめるようにした
事 」「 面 白 く す る 」
・ 意 味 が 伝 わ る よ う に し た …「 次 の 言 葉 に き ち ん と つ
な が る よ う に 」「 意 味 を よ く 考 え て 」「 文 書 の 並 べ 方 ,
言 い 方 」「 言 葉 の 並 び が お か し く な い か 注 意 し た 」
・ 丁 寧 な 言 い 方 に し た …「 丁 寧 な 言 葉 を 考 え た 」
・ 書 く と き に ス ペ ル に 気 を 付 け た …「 ス ペ ル 」
参加者である生徒たちの振り返りにおいて ,セリフを
考える時には,物語の中にいて実際に体験しているよ
うなことばを使用しよう,つまり,本当らしくことば
を使おうと心がけたり ,聞き手を意識して ,歌を挿入
したり楽しめたりするように工夫をしたり ,意味が聞
き手に正確に伝わるように語順や文の並べ方に注意し
たり,文脈から適切な言葉使い(丁寧な言い方)を選
択したり,スクリプトを書くときもスペルに注意した
りしていたのがうかがえる.
( 2) 録 音 す る と き に 工 夫 し た こ と
・聞 き 手 に セ リ フ が は っ き り 伝 わ る よ う に し た・・「 は
っ き り と 言 う 」「 聞 く 人 が 何 を 言 っ て い る か 分 か る
よ う に 」「 誰 に で も 聞 こ え る よ う に 」「 は き は き と 言
う 」「 す ら す ら 言 う 」「 強 調 」
・ 聞 き 手 に 気 持 ち が 伝 わ る よ う に し た …「 感 情 を こ め
て 言 う 」「 気 持 ち を こ め て 」「 し っ か り 感 情 を 込 め
た」
・英語 特有 の音 や強 弱に 気を付 けた …「発 音の 仕方」
「 音 の 強 弱 」「 イ ン ト ネ ー シ ョ ン 」
・効果 的に 意味 が伝 わる ように した…「間 をあ ける」
「楽しさ感がでるように」
・ 協 同 作 業 が う ま く い く 工 夫 を し た …「 息 を 合 わ せ た
り 」「 合 図 を し た り 」
セリフを録音するときには,生徒たちは ,聞き手に
30
伝わるようにわかりやすくはっきりと話そうとしたり ,
て 本 当 に ス テ キ で し た 」「 み ん な 文 章 を 替 え て お も
聞き手に気持ちが伝わるように感情をこめ て話そうと
しろくしていた」
したり,英語独特の発音やイントネーションに気を付
・ 作 成 し た 作 品 に 満 足 し た …「 自 分 た ち の 班 だ け 脅 し
けて話そうとしたり,効果的に意味が伝わるように間
み た い に な っ た け ど ,そ れ は そ れ で 良 か っ た 」「 な か
をあけたり楽しい感じで話したり ,目標を達成するた
な か の 出 来 だ っ た 」「 3 人 で 力 を 合 わ せ た の を ク ラ
めに協同作業がうまくいくように ,仲間との連携のた
ス 全 体 で 聞 い て ,な ん か 感 動 し ま し た 」「 本 物 と 全 然
めの工夫をしたと振り返っている.
違って,とても面白いなと感じました」
( 3) 作 成 し た 感 想
以上のことからよく聞き理解しようという姿勢が
・楽 し か っ た …「 楽 し か っ た 」「 み ん な で 最 初 か ら 文 を
あったり,臨場感を味わることができたり ,工夫した
考 え た の が 楽 し か っ た で す 」「 1 か ら 自 分 た ち で
ところに共感できたり ,自分の活動に満足できていた
分かる単語などを使って作る事で,すごく楽しかっ
という様子がうかがえる.
た 」「 セ リ フ を 作 る と こ ろ が 一 番 楽 し く 感 じ ら れ ま
した」
その他に
・ 役 に な り き っ た …「 桃 太 郎 , さ る に な り き っ て , 元
・「 先 生 が パ ソ コ ン で 色 々 な 事 を や っ て く だ さ る の で ,
気よく皆で楽しくできた」
本当に感謝しています」
・ 正 確 に 発 音 し た …「 記 憶 も よ み が え ら す 事 ( 単 語 を
・「 ま た や り た い 」「 楽 し か っ た 」
思い出す)ができたので,自分たちにとってすごく
など教員が準備していた環境整備についての言及や ,
良 か っ た 」「 発 音 の 仕 方 な ど ひ と つ ひ と つ 気 を つ け
今後もこのような活動を続けていきたいなどの学習へ
ま し た 」「 い ろ い ろ な 事 を 工 夫 し て 注 意 し た 」
の動機づけについてもあった.
・ グ ル ー プ 活 動 で よ り 良 い も の が で き た …「 班 の み ん
一方,
なと協力して頑張れば何でもできるのだと分かりま
・「 自 分 の 発 表 を 見 て 恥 ず か し か っ た 」
した」
・「 難 し か っ た で す 」
・ こ れ か ら も 学 ん で い き た い …「 こ れ か ら も 学 ん だ 事
・「 緊 張 し た 」
を活かしていきたい」
といった感想もあった.
録音後,作成全体に対して ,初めから生徒自身が主
体となって作り上げていくことが楽しかったり ,物語
3.5.2 試 験 結 果
(文脈)の中に入り,役になりきり言葉を使用するこ
本プロジェクトの前後に行われた定期試験の結果は以
と楽しかったり,発音を正確に言うことにも気を付け
下 の と お り で あ る .( 表 2 )
たり,グループで活動することにより一人で行うこと
表2
以上のことができる喜びを味わったり ,この活動が動
定期試験結果
番号
機づけになったりしたと述べていた.
1
2
3
4
5
6
8
9
10
11
12
( 4) 鑑 賞 し た 感 想
・ 他 者 の 作 っ た も の が よ く わ か っ た …「 分 か り や す か
っ た 」「 聞 き 取 り や す か っ た 」「 分 か り や す く , 面 白
く,大きく言っていたので ,とても良かった」
・ 臨 場 感 が あ っ た …「 み ん な の 発 表 を 聞 い て , 自 分 が
その世界にいるようですごく楽しかった」
・ 他 者 の 工 夫 し た と こ ろ が 分 か っ た …「 み ん な 工 夫 し
て い る な と 思 い ま し た 」「 効 果 音 と か も あ っ た 」「 二
中間試験
期末試験
得点差
90
43
89
81
75
30
37
77
76
58
38
93
32
78
93
69
31
42
67
71
65
52
3
-9
-9
12
-6
1
5
-10
-5
7
14
人 そ ろ っ て 言 う の も 良 い な と 思 い ま し た 」「 一 人 一
下 位 レ ベ ル の 生 徒 の 多 く ( 6, 8, 11, 12) の 点 数 は
人の個性や考えなど,声を聴くだけでも分かったの
上がったが ,上位レベルの生徒の点数には上昇下降い
で と て も 面 白 か っ た 」「 感 情 を 込 め て ,な り き っ て い
31
ずれもあり 何らかの傾向性があるとは言えない.さら
らを活用できたと言えるのではないだろうか.この点
に,本プロジェクトが生徒の英語力向上に効果がある
に お い て も 茨 城 県 教 育 研 修 セ ン タ ー [ 5]「 平 成 21・22 平
かどうかを調べるために,事前事後に行った定期テス
成 23 年 度 教 科 に 関 す る 研 究 」の 報 告 に 一 致 す る と 言 え
トについて対応のある t 検定を行った結果 ,有意な差
よう.
が見られなかった.
ま た , 生 徒 の 記 述 の 中 に は ,「 よ り 現 実 的 に し た 」
「 本 当 に 物 語 の 中 に い る よ う な 風 に し た 」「 現 実 的 に
4. 考 察 お よ びま と め
し ま し た 」「 感 情 を こ め て 言 う 」「 気 持 ち を こ め て 」
本研究では ,中学 2 年生の英語の授業において,メ
「 し っ か り 感 情 を 込 め た 」「 桃 太 郎 , さ る に な り き っ
ディアを取り入れたタスク(画面に合わせてスクリプ
て」とあるように ,セリフを考える時も録音するとき
ト を 作 り ,録 音 す る )を 行 い ,そ れ を 鑑 賞 す る 活 動 が ,
においても ,画像のある昔話である「ももたろう」の
参加者である中学 2 年生の生徒の言葉の気づきや学習
教材の中で ,生徒たちは本当の事としてことばを考え
の仕方どのようにどのように影響を及ぼすのかを ,生
発話しようとしていたと思われる.つまり ,本活動が
徒の振り返りシートと定期試験の結果から報告してき
言語使用のために本物に近い状況の場を提供できたか
た .ま ず ,生 徒 の 振 り 返 り シ ー ト か ら は ,
「聞いている
ら で あ り ,Saugera [ 9] に お い て ,学 習 者 が 実 践 的 に 映 画
人 も 言 っ て い る 人 も 楽 し め る よ う に し た 事 」,「 聞 く 人
作りをし,場面や使用者に合わせて言語スタイルを変
が 何 を 言 っ て い る か 分 か る よ う に 」「 誰 に で も 聞 こ え
化させることを学習したことに相当すると思われる.
るように」などはっきりと「聞き手」という言葉を記
つまり言語スタイルや言語機能の気づきを促したとい
述しているものがあったり,
「英語の歌などを入れたり
うことになるのではないだろうか.
し た 」「 面 白 く す る た め に 歌 を 入 れ た 事 」「 は っ き り と
そ し て , セ リ フ を 考 え そ れ を 記 録 す る 時 に ,「 ス ペ
言 う 」「 誰 に で も 聞 こ え る よ う に 」「 は き は き と 言 う 」
ル」に注意したと述べている生徒もいた.本活動が初
「 す ら す ら 言 う 」「 間 を あ け る 」「 楽 し さ 感 が で る よ う
め か ら 終 わ り ま で を 通 し て「 聞 く 」「 話 す 」「 読 む 」「 書
に」など聞き手の存在を意識し効果的に意味を伝えよ
く」の 4 技能を統合した活動であったことを生徒たち
うと工夫したことを記述しているものもあった.これ
も認識していたということになる.
は,コミュニケーションにはやり とりをする相手がい
さ ら に ,「 息 を 合 わ せ た り 」「 合 図 を し た り 」「 み ん
るというコミュニケーションの際の聞き手の存在の意
な で 最 初 か ら 文 を 考 え た の が 楽 し か っ た で す 」「 1 か
識化に本活動が役立ったと言ってよいであろう.こ の
ら自分たちで分かる単語などを使って作る事で ,すご
点 に お い て ,茨 城 県 教 育 研 修 セ ン タ ー
[ 5]
「 平 成 21・22
く 楽 し か っ た 」「 セ リ フ を 作 る と こ ろ が 一 番 楽 し く 感
平 成 23 年 度 教 科 に 関 す る 研 究 」 の 報 告 に 一 致 す る .
じ ら れ ま し た 」「 班 の み ん な と 協 力 し て 頑 張 れ ば 何 で
次に,セリフを考える時に文脈に合わせて「丁寧な
もできるのだと分かりました」など,協同作業でタス
言葉を考えた」と述べている生徒がいた.これは本活
ク活動をすること ,つまり自らが中心となり目的向か
動の第 1 時において学習事項であった「お願い ,依頼
って力を合わせて作業していくなかで ,一人ではでき
の表現」を ,担当場面において活用できると気付いた
ないと思われる高いレベルのタスクに ,自主的に,ま
と と ら え る こ と が で き る .さ ら に ,
「次の言葉にきちん
た,協力し合いながら達成できたということ,さらに
と つ な が る よ う に 」「 意 味 を よ く 考 え て 」「 文 書 の 並 べ
それが楽しかったということが記述されている.これ
方 , 言 い 方 」「 言 葉 の 並 び が お か し く な い か 注 意 し た 」
は,本活動において,参加者である生徒が述べ ている
「 発 音 の 仕 方 」「 音 の 強 弱 」「 イ ン ト ネ ー シ ョ ン 」「 強
ように「仲間と安心して失敗でき挑戦できる教室空間
調 」「 ス ペ ル 」「 発 音 の 仕 方 な ど ひ と つ ひ と つ 気 を つ け
で ,主 体 的 な 学 び の 面 白 さ (学 び の 快 楽 )を 実 感 」( 江 利
ま し た 」「 記 憶 も よ み が え ら す 事( 単 語 を 思 い 出 す )が
川 [ 1 5] ,p. 21)し た と い う こ と で あ り ,協 同 学 習 を 取 り
で き た の で ,自 分 た ち に と っ て す ご く 良 か っ た 」な ど ,
入れたタスク活動をすることで,学習者は他者とコミ
本活動のみで学習したことではなく,これまで学習し
ュニケーションをしながら目標言語形式を文脈に合わ
てきた他の注意事項について言及しているものもあっ
せて活用し問題解決に臆せず挑戦できたということだ
た.これらを総じて既習の学習事項ととらえることが
と思われる.
でき,本活動の最後に行われたタスク活動では ,それ
加 え て , 鑑 賞 し た 後 の 感 想 の 多 く に は ,「 自 分 た ち
32
の班だけ脅しみたいになったけど ,それはそれで良か
活動であるといえると思われる.しかし,生徒の中に
っ た 」「 な か な か の 出 来 だ っ た 」「 3 人 で 力 を 合 わ せ た
は ,「 自 分 の 発 表 を 見 て 恥 ず か し か っ た 」「 難 し か っ た
の を ク ラ ス 全 体 で 聞 い て ,な ん か 感 動 し ま し た 」な ど ,
で す 」「 緊 張 し た 」な ど 積 極 的 に 本 活 動 を 受 け 入 れ る こ
自分のグループの発表を鑑賞することで,自らの活動
とができなかった生徒がおり,そのような生徒をどの
に満足しているものがある一方,
「 分 か り や す く ,面 白
ように引き込むかの手立てを模索していかなければな
く ,大 き く 言 っ て い た の で ,と て も 良 か っ た 」「 み ん な
らないことが,必要であることが今後の課題である.
の発表を聞いて,自分がその世界にいるようですごく
また,本活動の前後に行われた 2 回の定期テストの結
楽 し か っ た 」「 み ん な 工 夫 し て い る な と 思 い ま し た 」
果においては,有意差は出なかったので,低いレベル
「 効 果 音 と か も あ っ た 」「 二 人 そ ろ っ て 言 う の も 良 い
の生徒においては本活動が点数を上げる要因の一つに
な と 思 い ま し た 」「 一 人 一 人 の 個 性 や 考 え な ど ,声 を 聴
なったとは言い難いが、レベルの低い生徒が英語を楽
く だ け で も 分 か っ た の で と て も 面 白 か っ た 」「 感 情 を
しく学ぶきっかけになった可能性があると言えるかも
込 め て ,な り き っ て い て 本 当 に ス テ キ で し た 」「 み ん な
しれない.その一方でどの生徒にとっても英語力が上
文 章 を 替 え て お も し ろ く し て い た 」「 本 物 と 全 然 違 っ
がったとは言い難い. 2 回の定期テストの間には,本
て,とても面白い なと感じました」など他のグループ
活動以外の授業も含まれているので,どのように本活
の発表を鑑賞し,それぞれの良いところをみつけ楽し
動が生徒の英語力に及ぼしたかを取り出して述べるに
ん だ こ と が 分 か る . こ れ ら は , Nikitina
[ 16]
のプロジェ
は本研究では至っていない.この点においても今後の
クト遂行には時間がかかり大変であったにもかかわら
課題として研究していきたい.
ず,プロジェクトをすることは面白くビデオ制作を楽
しんだと述べたとする報告に一致する.
さ ら に ,「 先 生 が パ ソ コ ン で 色 々 な 事 を や っ て く だ
文
さるので,本当に感謝しています」など,環境を整備
[1]
した教員への心配りをも記述している.これは自己尊
[2]
厳他己尊厳のいずれもが本活動を通して養われたこと
を表しているのではないだろうか.
最 後 に ,「 こ れ か ら も 学 ん だ 事 を 活 か し て い き た い 」
「またやりたい」など生徒の動機づけに影響を及ぼし
[3]
ていることもうかがわれ,この点においても茨城県教
育 研 修 セ ン タ ー [ 5] の 報 告 に 一 致 す る .
以上のように,メディアを取り入れたタスク(画面
[4]
に合わせてスクリプトを作り,録音する)を行い,そ
れを鑑賞する 4 技能統合型の活動が,本物に近い状況
の提供を提供することを可能にし ,その結果参加者に
[5]
有意味な言語使用やその増加を引き起こすことができ ,
さらに,参加者である生徒が,聞き手を意識し ,既習
の学習事項を意識的に活用でき,言語スタイルに気づ
[6]
き,セリフを書くときにはスペル に注意をしたり,協
同学習によって高いレベルのタスクを達成できたと思
ったり,楽しみながら達成感を持つことができたり,
[7]
他者への思いやりを持つことができたり,学習への動
機 づ け が 持 て た り し た 活 動 で あ っ た . つ ま り , ICT を
利用し動画のセリフを作り吹き替えをする活動は生徒
[8]
が既習事項を活用できる 4 技能統合型の活動であり,
生徒の主体的な学びを促進することができる効果的な
33
献
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外 国 語 編 ,” 文 部 科 学 省 , 2008.
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ける小中連携の課題と方法” 山梨国際研究 山
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http://www.yamanashi-ken.ac.jp/wp-content/uploads/
kgk2014013.pdf
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語 ( 英 語 ) 第
72 号 , 2013 from
http://www.edu.pref.kagoshima.jp/research/result/sir
you/shidosiryou/h25/h25 -04-pdf/1768-gaikokugo72.
pdf
那覇市立高良小学校, “小中連携英語交流授業指
導
案
,
”
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from
http://www.nahaken-okn.ed.jp/takar-es/kounaikenkyu
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[18] 萬 屋 隆 一・直 山 木 綿 子・卯 城 祐 司・石 塚 博 規・中
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実践――小学校外国語活動と中学校英語をつな
ぐ 40 の ヒ ン ト ,” 開 隆 堂 , 2013
34