小 児 耳Vol.6,No.2.1985 第12回 日本小児耳鼻咽喉科研究会 体 温 計 水 銀 槽(水 銀) の気管支 異 物 国立 小 児病 院 耳 鼻咽 喉科 は じ め 川城信子 古 賀慶次郎 荒木 昭夫 に 30日(9日 小 児 の 気 道 異物 で 一 番 多 い の は ピー ナ ッツ 、大 豆 等 の 豆 類 で あ る こ と は よ く知 ら れ て い る 。 こ の よ う な食 物 類 に 次 い で 、 頑 具 類 が 多 い 。 当病 院 に 後)に 胸 部 レ線 の 結 果 、 水 銀 体 温 計 の 水 銀 槽 の 気 管 支 異 物 と判 明 し 、 当 病 院 耳 鼻 咽 喉 科 に 紹 介 さ れ た 。. 経 過:昭 和59年3月30日 当病 院 受 診 し、 た だ ち お け る 最 近 の 統 計 に つ い て は 古 賀 撃 小 方 ら2}の 報 に 入 院 し た 。 入 院 時 体 温36.9℃ 告 が あ る 。 し か し 、 日 常 身 の ま わ りの 品 は 何 で も ゼ な し 。 時 々 咳 漱 が 聞 か れ る。 打 診 上 異 常 な し。 、 喘 鳴 、 チ ア ノー 異 物 と な る危 険 性 が あ る。 今 回 、 水 銀 体 温 計 の 先 聴 診 上 、 肺 雑 音 な く呼 吸 音 も 左 右 差 な し。 胸 部 レ 端 部 が 気 管 支 に 入 り、 こ ぼ れ た 水 銀 が 肺 内 に 残 溜 線 所 見 は 次 の よ う で あ っ た(図1)。 し 、 そ の 後 約1年3ヵ 水 銀 槽 は 水 銀 を 入 れ た ま ま 、 先 端 部 を下 に 、 右 の 月 経 過 を追 う こ とが で きた 症 例 につ い て若 干 の 考 察 を加 え報 告 す る。 下 葉 枝 に 嵌 入 して い た 。 右 の 下 肺 野 の 含 気 は 低 下 し て い る 。 右 の 下 肺 野 に は 約35個 1.症 水銀体温計の 例 影 が 、 左 の 下 肺 野 に は11個 の水銀の点状陰 の点 状 陰 影 が 認 め られ けん らく 症 例 は10ヵ 月 の 男 児 。 既 往 歴 は 勝 帯 巻 絡 に て 出 生 。 生 後4ヵ 月 の 頃 よ り喘 息 性 気 管 支 炎 が あ り 、 和59年3月21日 こ み が 激 し く な る 。 発 熱 は37.1℃ か ら 一 時 は38.8 ℃ とな った 。 時 々治 療 を受 け て い た 。 現 病 歴:昭 た。 入院 後 、 時 々咳 漱 が あ り、特 に 哺 乳 時 に は咳 、 兄 と体 温 計 の キ ャ 昭 和59年4月2日 、全 身 麻 酔 の も と に異 物 摘 出 ップ を 口 に入 れ 、遊 ん で い た所 、体 温 計 をか じ っ が 施 行 さ れ た 。 異 物 がX線 て しま っ た 。 母 親 は 体 温 計 の 先 端 部 の 水 銀 槽 が で透 視 を使 用 しなが ら 、水 銀 体 温 計 先 端 部 の ガ ラ 非 透 過 性 物 質 で あ るの な い こ と に気 付 き、指 で と り出 そ う と し、 ま た逆 スの 縁 を 異物 専 用 鉗 子 に て つ か み摘 出 した。 使 用 さ に して 叩 い た。 さ らに 近 医 に電 話 で 問 い 合 せ 、 した の は 斉 藤 ら鋤 の 考 案 に よ るフ ァ イバ ー ス コー 牛 乳 と卵 を の ま せ 様 子 を み て い た 。 翌 日 よ り咳 と プ 付 挿 管 用 気 管 支 鏡FS・VB250(町 微 熱 が あ る た め 近 医 受 診 し投 薬 を 受 け る 。 しか し 、 異 物 は 右B10に 発 熱38.0℃ 野 の 点 状 陰影 は 増 加 して い な い の で 、 摘 出 時 に水 、 咳 も続 く た め 、 他 病 院 受 診 し、3月 (図1)(図2) 一16一 田 社 製)で あ る。 嵌 入 して い た 。摘 出 後 、 水 銀 の 肺 小 児 耳VoL6.No.2.1985 水 銀 値0.7μg/2(表1)と な お 、1年3ヵ い ず れ も正 常 値 内 を 示 し た 。 月経 過 した現 在 、 水 銀 に よ る 中 毒 症 状 は 認 め られ な い 。 考 按 水 銀 が誤 って 異 物 と して 気 道 に 吸 入 され た 場 合 、 問 題 とな るの は ① 異 物 と しての 問 題 及 び② 水 銀 と しての 毒 性 で あ る。 一般 に 金 属 水 銀 の 経 口摂 取 で は 、比 較 的 毒性 が 少 な い が 、 水 銀 蒸 気 お よ び 水 銀 塩 は毒性 が強い§ (図3) 気 道 に 入 った水 銀 は 常 温 で も 揮 発性 が あ るの で 、肺 内 の 水 銀 が 蒸 気 化 し中毒 症 状 を呈 す る 危険 も あ る。 水銀 の 気 道 異 物 の 事故 は 非 常 に稀 で は あ る。 そ の 報 告 の 代 表 的 な3例 に つ い て ふ れ る。 Zimmerman`》(1969>の 報 告 の 症 例 は48歳 性 で あ る 。 原 疾 患 にHodgkin氏 の男 病 が あ り、 そ の 治 療 経 過 中 に イ レ ウ ス を お こ した た め 、Miller・A㎞tt 管 を挿 入 し 、 そ のbagの 置 し た 。4日 際 にbagが 中 に10並 の 水 銀 を 入 れ 留 後 に 、 こ のMiller・Ab。tt管 を抜 く 鼻 咽 腔 で 破 裂 し、 水 銀 が 気 道 に吸 入 さ れ 、 ま た 、消 化 管 に も入 った 。 症 例 は 発 熱 、 消 化 器 症 状 、 腎 障 害 、 気 管 か らの 出 血 等 、 急 性 水 銀 中 (図4) 毒 症 状 を お こ し110時 銀 は 水 銀 槽 か ら もれ な か っ た よ う に 思 わ れ た 。 術 後 、喉 頭 浮 腫 を考 え一 日の み 挿 管 の ま ま お き、 充 分 に 加 湿 、tapping,頻 回 に吸 引 を施 行 した。 翌 日 に は 抜 管 し た 。 抜 管 後 も ネ ブ ラ イ ザrtapping, 咽頭 部 の 吸 引 を施 行 し咳 漱 反 射 を誘 発 し、 こぼ れ て 残 存 して い た点 状 水 銀 の 排 泄 を促 した 。 手 術 後 翌 日 の み39℃ の 発 熱 が あ っ た が 、 そ の 後 は37℃ 以 下 に 下 降 し た 。 ま た 、 術 後 約1週 続 い た が 、 軽 快 し 、4月14日 退 院 時 の 胸 部 レ線(図2)で 間 後 に 死 亡 に 至 っ た。 Wallach7}(1972)の 間水様 泥状便が 報 告 は11歳 で あ る 。 虫 垂 炎 の 術 後 に や は りMiller-Abott管 を 使 用 す る 際 、 鼻 咽 腔 で 破 裂 し 、 水 銀5m2が 気道 に 流 入 し た 。 約8日 行 な 間posturaldrainageを い 、 流 入 し た 気 管 支 内 の 水 銀 は 減 少 した 。 し か し 約9ヵ 月 後 に も両 肺 野 に な お 水 銀 が残 って い た 。 尿 中 水 銀 は543μg/2と606μg/2(正 は 水 銀 の点 状 陰 影 が と高 値 を 示 し 、 肺 か ら 吸 収 さ れ た と思 わ れ る 。 身 Olivero81(1976)の 報 告 は65歳 の 男 性 で 心 筋 硬 塞 の た め 入 院 した 。 治 療 中 に水 銀 体 温 計 を使 用 し 減 少 し 、 右 下 肺 野 の 含 気 も 正 常 と な っ た 。 図3は 摘 出 した 水 銀 体 温 計 の 水 銀 槽 で あ る 。 写 真 で は 割 れ て い るが 、 これ は摘 出 後 に割 れ た もの で 、 破 損 水銀測定値 (S.59,6,13) す る こ と な く 、 水 銀 を 中 に 入 れ た ま ま摘 出 さ れ た 。 あ った。 肺 に 残 存 し た 水 銀 の 減 少 の 経 過 を 図4に 常10μg/2) 体 的 な 検 査 、他 の 種 々 の 検 査 も正 常 で あ った 。 に退 院 した 。 先 端 部 の 水 銀 の 内 容 量 は0.4gで の男児の症例 症 例 正 常 値 示 した。 胸 部 レ線 の 水 銀 の 点 状 陰 影 の 数 を時 間 の 経 過 に従 血 中 水 銀O.6μg/dl(く5 .Oμg/dl) っ て 示 し た 。 術 前 、 両 肺 野 に46個 あ っ た の が 次 第 に 減 少 し、 約9ヵ 月 後 に は11個 に 減 少 し、 喀 出 さ 尿 中 水 銀0.7μg/4(<IO.○ れ た もの と思 わ れ る。 昭 和59年6月13日 の 血 中 水 銀 値0.6μg/d4、 尿 中 一17一 俵1) ノ」g/21 小 児 耳Vo1.6.No.2.1985 た。 原 疾 患 は 順 調 に治 療 で きた が 咳 が 続 くの で胸 部 レ線、 を撮 った 所 、水 銀 体 温 計 の 破 片 が 右 主 気 管 〈参 考 文 献〉 1古 鼻出血 支 に入 って い た 。 幸 い に数 分後 に異 物 は 喀 出 され た。 こ の経 験 を も とに水 銀 体 温 計 の 危 険 性 を警 告 賀 慶 次 郎:気 2小 方 卓 、 他:気 3斉 以 上 の よ うに 水 銀 が 気 管や 消 化 管 に流 入 した場 合 、Zimmerman6>の 道 異物 小 児 外 科16:77-722、 銀 、水 銀 蒸 気 、 水 銀 塩)で 4斉 日 気 食 会 報28:30- 藤 誠 次 、 他:過 去5年 間 に お け る小 児 気 道 異 物 摘 出 症 例 の 検 討 一 〇pticI鵬ageFiberscpe付 に入 った か に よ って も水 銀 中 毒 をお こす か 否 か が 管 支 鏡 を使 用 し て 5和 田 攻:工 挿 管気 日 気 食 会 報33:132-133、1982 業毒 、水銀 新 内 科 学 大 系(中 山 書 店)、 60B:207-210、1979 の 危 険 が 考 え られ る。 6 (1)水銀 の 局 所 組 織 へ の影 響 度 の 炎 症 を ひ きお こ し喀 血 を お こす 。 Zimmerman Mercury 気 管 支 拡 張 を伴 う化 膿 性 気 管 支 炎 や 水 銀 が強 (Zimmer鵬 た に 開 発 し た小 児 用 フ ァ イ バ ー 33、1977 、 どめ 程 度 の 量 が 体 内 影 響 さ れ る と考 え られ る。気 管 内 に水 銀 が 入 った 藤 誠 次 、 他:新 ス コープ付挿 管用 気管支鏡 報 告 の よ う に不 幸 の 転 帰 を と った症 例 もあ る.水 銀 が どの よ う な形(金 属 水 stinal 7 灘s》の症 例) tube. 8 coronary 銀排 糧 JAMA に充 分 に注 意 す る必 要 が あ る。 我 々 の 症 例 で は 血 中水 銀 、 尿 中 水 銀 共 に正 常 を 示 した が 、 現 在 もな お 肺 内 に水 銀 が残 って い るの で 、 今 後 も尿 中水 銀 排 泡量 に注 意 す る 必 要 が あ る。 最 近 は 体 温 計 もデ ジ タル 体 温 計 に な り、Miller・ に水 銀 を使 用 す る こ と もな くな り、 この よ う な事 故 は 少 な くな って い くと思 わ れ る。 しか し、 一 般 家 庭 で は 水 銀 体 温 計 が な お 使 用 され て お り、 危 険 性 に つ い て 注 意 を 喚起 す る次 第 で あ る。 一18-一 of absorption J. care of elemental toxicity. 287 : 178-179, temperature : a risk 236 : 1936-1937, 1976 tactor? metallic of a long inte- : 2158-2160, without : Oral units following remoral : Aspiration J. of medicine Olivero, 慢 性 の 場 合 は 症 状 に注 意 す る と と もに尿 中水 : Fatality during JAMA208 Wallach,L. England (3饅 性 中 毒 症 状 を ひ きお こす. J.E. aspiration Evidence (21急性 中 毒 症 状 を ひ きお こす 。 Abott管 ・食 道 の 異 物 、 耳 出 血 、 耳 痛 、 1984 した 。 場 合3つ 道 小 児 科 臨 床3212410-2420、1979 1969 mercury— The New 1972 recording in
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