その3 - 京都大学エネルギー理工学研究所

ZE26A-23
繰り返し高熱負荷環境およびパルス高熱負荷環境下における
タングステンの損傷形成機構に関する研究
江里幸一郎 1,鈴木 哲 1,関 洋二 1,奥西成良 2,木村晃彦,2
1
日本原子力研究開発機構 核融合研究開発部門
2
京都大学エネルギー理工学研究所
1. 緒言
核融合システムは二酸化炭素を排出しない(ゼロエミッション)エネルギーシステムである。核融
合システムにおける重要な材料科学的課題の一つに、ダイバータシステム材料の開発があげられる。
タングステン(W)は他材料と比較して損耗が少なく高温特性に優れていることから、核融合炉内ダイ
バータといったプラズマ対向機器の表面保護材(アーマ材)として有望な候補材料である。アーマ材
表面は 10MW/m2 程度の繰り返し定常高熱負荷に加え、ディスラプションや ELM 時等にはパルス高熱
負荷を受け、これによる材料表面の材料の劣化・損傷は機器の寿命やプラズマ放電に大きな影響を与
えることが予想されている。本研究では、原子力機構で実施した高熱負荷試験(繰り返し加熱および
パルス)後のタングステン表面の破壊挙動および強度特性を明らかにし、材料開発ならびにタングス
テンを用いたダイバータの設計指針を得ることを目的とする。
三年目である今年度は W ダイバータ試験体の断面観察結果と
W モノブロック
強度特性評価結果を報告する。
2. W ダイバータ試験体への繰り返し高熱負荷試験
2.1. 繰り返し高熱負荷試験の状況
図 1 にタングステン(W)ダイバータ試験体の概要を示す。試験
加熱領域
体には純 W モノブロック(圧延材、27。8mm 幅、26。5mm 高、
12mm 奥行)5 枚が銅合金 CuCrZr 冷却管に冶金接合されている
ものである。W モノブロックと CuCrZr 冷却管の間には、無酸
素銅の緩衝層が挿入されている。W と無酸素銅は日本タングス
テンによる NDB 法により接合されている。無酸素銅と CuCrZr
図 1 タングステン(W)ダイバータ試験体
冷却管は中性子により蒸気圧の高い元素に核変換される金・銀
などを含まない、Cu-Mn-Ni 合金によるロウ付けにより、W
タイルの圧延方向を加熱面(プラズマ対向面)と垂直になる
図 2:2 種類の
よう冶金的に接合している。冷却管には無酸素銅製のねじ
りテープを挿入し、熱伝達(除熱)性能を高めている。本試
験体の繰り返し高熱負荷試験は原子力機構の電子ビーム照
射試験装置 JEBIS を使用し、冷却管に純水(流動条件:室温、
2MPa、10m/s)を供給し、強制冷却を行った。熱負荷条件は
20MW/m2 以上の熱流束で 10 秒加熱、10 秒冷却の繰り返し
を 1000 サイクル実施した結果、W タイル接合部の除熱性
能の劣化は観察されなかったものの、W タイル表面は再結
晶を起こし、最も高い熱負荷を受けた中心のタイルでは、
熱負荷端部領域で表面変質(粗面化)していた(昨年まで報
告)。今年度は、図 2 に示すように、熱負荷面から銅管ま
W-モノブロック
ZE26A-23
での距離の異なる二種類の W-モノブロックに対し
て熱負荷試験を実施し、損傷を比較した。
2.2. 強度特性評価
W-MB-3 と W-MB-6 のビッカース硬さ試験結果を
見ると、W-MB-3、W-MB-6 ともに加熱面に近く、
高温にさらされるところほど、軟化していることが
わかった。二つのモノブロックで測定した結晶粒径
とビッカース硬さから、ホール・ペッチの関係を求
めると、図 3 に示すように、直線で近似でき、ホー
ル・ペッチの関係に従うことがわかった。
図 3:ビッカース硬さの結晶粒径依存性
一方、再結晶化により、内在していた転位が回復し、転位密度が低下することも硬度低下の原因にな
ることから、再結晶化による転位密度の変化を考慮する必要がある。
4 点曲げ試験を行ったの結果、W-MB-3 では非再結晶部に比べ再結晶部は曲げ強度が低下している
ことがわかった。さらに、再結晶部の中でもモノブロック端部から試験片を切り出した加熱時に高温
になる部分ほど強度が低下している。W-MB-6 では、溶融部および再結晶部で強度が低下しているの
は W-MB-3 と同様だが、データのばらつきが大きく温度と強度の関係性は見られない。曲げ試験の結
果、すべての試験片が延性を示さず破壊した。
2.3. 断面観察結果
熱負荷試験後の W タイル断面観察を行った。観察は 0.25 μm
の砥粒でバフ研磨した後、腐食液を用いてエッチングを行ったもの
を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した。また、組織変化が硬さに
与える影響を調べるため、マイクロビッカース硬さ試験機を用いて
硬さを測定した。W-MB-3 に発生した亀裂の観察結果を図 4 に
示す。亀裂は粒界に沿って入っており、端部での亀裂深さは
3。4 mm で、W 内で亀裂の進展は止まっており CuCrZr 冷却
管および無酸素銅緩衝層にまでは達していない。
亀裂がどこに発生するかについては、再結晶による材料の
図 4:W-MB-3 に発生した粒界に沿っ
粒界強度の低下の程度と加熱後の冷却時にかかる引張応力の
たき裂
大きさの兼ね合いにより決定すると考えられ、このモノブロ
ックにおいては中心から 4。5 mm ずれた位置で発生している。
これに対し、熱負荷表面から冷却管緩衝材までの距離が 2 倍の W-MB-6 の場合は、結晶粒径はおよ
そ 3 段階に変化していた。さらに、溶融部の結晶粒径は数百 μm と再結晶前の数 μm に比べ、二桁も
粗大化していることがわかる。冷却管付近の粒径は W-MB-3 とほとんど変わらなかった。
3. 結言
W ダイバータ試験体にたして、高熱負荷繰り返し加熱試験を実施し、W タイル内の熱・応力分布を
評価するとともに、加熱試験後の W タイル内の粒径などを測定した結果、熱負荷を受けた W モノブ
ロックにおいては、高温化に伴う再結晶が硬度ならびに破断強度の低下をもたらし、熱応力によりき
裂が発生し易くなることを明らかにした。