建築材料科学

9.建築材料の熱的性質

融点




一定圧力下で固相と液相が熱力学的に平衡に共存する
温度
純物質
:一定温度、融点=凝固点
混合物質
:融点は組成とともに変化
融解


相転移、相の構造が変化
比熱
 融点以下の温度:結晶の比熱
 融点以上の温度:液体の比熱
9.建築材料の熱的性質

融点
9.建築材料の熱的性質

ガラス転移点






融点以下の固体状態で、相転移を起こさずに性質が急激
に変化する物質固有の温度
ガラス・非晶質合金・高分子などの非晶質、一部結晶質を
含む非晶質物質
転移点より低温:固体状態の挙動
転移点より高温:過冷液体の挙動
ゴム類
:220~350K
プラスチック
:240~390K
9.建築材料の熱的性質

ガラス転移点
9.建築材料の熱的性質

比熱


単位質量の物質の温度を単位温度だけ上昇させるのに
必要な熱量
定圧比熱


定積比熱


圧力を一定に保ちながら熱を加えるときの比熱
体積を一定に保ちながら熱を加えるときの比熱
定圧比熱と定積比熱の差

固体・液体では数%
9.建築材料の熱的性質

伝熱(熱移動)

伝導


物質の移動なしに熱が伝わる現象
絶縁体物質が接している場合
 高温側の激しい格子振動が低温側に伝わることによる熱移動

金属
 伝導電子による熱移動も重要な役割

輻射


物質が熱エネルギーを電磁波として放射し、離れて存在する他
の物質で受け取られて再び熱エネルギーになる現象
対流(熱伝達)


熱エネルギーを持っている物質が密度差や流動によって場所を
移動する際、熱エネルギーも移動する現象
液体・気体が関与
9.建築材料の熱的性質

熱伝導

熱流速


x方向に単位時間に単位断面積を通過する熱量(J)
定常状態の場合(フーリエの第1法則)
(t t )
 T 
J   
 1 2
d
 x 
 ∂T/∂x:温度勾配、λ:熱伝導率

熱エネルギー保存則


ある領域に蓄積される熱量=(流入する熱量)-(流出する熱量)
フーリエの第2法則(非定常状態での温度と時間と位置の関係)
T
 2T

a 2 ,
a
t
C
x
ρ:密度、C:比熱、a:熱拡散率
J
9.建築材料の熱的性質
9.建築材料の熱的性質

対流(熱伝達)


物質表面から周囲空気への熱の移動
材料表面の空気の対流による熱の移動量
J   ( Ts - Ta )
α:対流熱伝達率
 材料固有の値ではない
 影響因子
 材料表面の形状・寸法
 周囲の気流特性(屋外であれば風向きや風速)
Ts:材料表面温度
Ta:周囲空気温度
J
9.建築材料の熱的性質

熱貫流

熱貫流抵抗
R  ri  rk  ro
ri, ro:熱伝達抵抗(=1/λ)
rk:熱伝導抵抗(=1/a)
9.建築材料の熱的性質

輻射伝熱

物体表面(温度T)から単位面積・単位時間あたりに射出
される輻射熱エネルギー
E   T 4
ε:材料の放射率(0≦ε≦1)
δ:ステファンボルツマン定数
(=5.67×10-8 [kcal/(h ・m2 ・K4)])
T:黒体の絶対温度(=273+θ℃)
9.建築材料の熱的性質

輻射伝熱

相対している2物体間の差引伝熱量


相互の輻射熱エネルギーの差
高温の平面材料Ⅰ から低温の平面材料Ⅱへの放射伝達熱量
E12   12S( T14  T2 4 )
ε12
S
:材料Ⅰから材料Ⅱへの有効放射率
1
 12 
1 1
 1
1  2
:材料の面積
9.建築材料の熱的性質

輻射伝熱

入射エネルギー





γ+α+τ=1
吸収エネルギー:α
透過エネルギー:τ
反射エネルギー:γ
吸収率=吸収エネルギー/入射エネルギー


黒体:吸収率=1の物体
非金属:吸収率=0.75~0.95
9.建築材料の熱的性質

熱膨張

温度上昇に伴い平均原子間距離が増加し材料が膨張す
る現象
dL
 dT
L
L:ある温度での長さ
dL:温度をdT変化させたときの長さの変化分
α:線膨張係数、温度の関数




等方性材料:体積膨張=3×線膨張
異方性材料:方向によって線膨張係数が異なる
インバー合金:ほとんど膨張を示さない
αウラン、炭素繊維:特定の方向で負の線膨張係数
9.建築材料の熱的性質

熱応力




熱膨張による変形が拘束される場合
線膨張係数の異なる複数の構成物質からなる複合材料
単相均質材料で変形が拘束されない場合:熱応力=0
熱変形が拘束される場合




温度dTの上昇
長さL0の棒
L0の長さに拘束
:L0→L0(1+αdT)
:-L0αdTだけ圧縮、熱応力=EαdT
複合材料の場合

作製・使用過程での温度変化による残留応力が発生
9.建築材料の熱的性質

熱応力
9.建築材料の熱的性質

熱応力
9.建築材料の熱的性質

熱的性質に基づく材料選択

熱伝導が支配的な場合

定常状態
 熱伝導率λが大きいほど熱流速Jは大きい

非定常状態
 熱拡散率aが大きいほど速く熱が伝わる



熱流の進む距離  at
熱流が厚さsの壁の裏面に伝わる時間(C:比熱)
s 2 s 2 C
t

a

断熱材
 定常状態
 熱伝導率が小さい発泡材(発泡スチロールなど)が有利
 非定常状態
 熱拡散率の小さいポリマー(ポリスチレンや塩化ビニルなど)が有利
9.建築材料の熱的性質

熱的性質に基づく材料選択

熱伝導が支配的な場合
9.建築材料の熱的性質

熱的性質に基づく材料選択

熱容量が支配的な場合

蓄熱量のみ考慮する場合
 物体をΔTだけ温度上昇させるのに必要な熱量(ρCΔT)が指標

実際の蓄熱材
 昼間に蓄熱した太陽熱を夜間に暖房として取り出す

 時間tの間の蓄熱量
Q  t T




a1 / 2
tの間に熱流が進む距離( at )は装置の大きさと対応
aがあまり大きなものは蓄熱材に不向き
装置の寸法1m、蓄熱時間12時間の場合:a<10-6~10-5m2/s
λ/a1/2が大きく、aのあまり大きくないものが優位
 コンクリート、岩石、氷(融解潜熱が加算されるためさらに有効)
9.建築材料の熱的性質

熱的性質に基づく材料選択

熱応力(σ=EαΔT)が支配的な場合

材料(強度σB)が耐えられる温度上昇 T   B
E
 石英ガラス:1000℃、パイレックスガラス:200℃、ソーダガラス:40℃
 鋼:200℃、レンガ:300℃、コンクリート:70℃

非定常状態の場合、熱伝導率も関与
 熱膨張率が大きく、熱伝導率が低い場合:熱応力大、高強度でも不利

熱疲労
 温度変動を受けて塑性変形を繰返し、低サイクル疲労と類似の機構に
よって破壊

線膨張係数の異なる構成材料からなる複合材料
 線膨張係数の差による材料間の剥離・亀裂
 線膨張係数を合わせる工夫が必要