物性値分布の予測によるそり解析の精度向上

物性値分布の予測によるそり解析の精度向上
The Prediction of Property Distribution for Warp Analysis
(金沢工大)
⃝(学)瀬戸 雅宏、
(正)山部 昌
1.緒 言
射出成形 CAE は、これまで現場の経験と勘に頼
:実 験
っていた成形品の成形不良の予測や成形条件の最適
:解 析
化を、経験の浅い技術者でもコンピュータを用いて
線膨張係数
残 留 応 力
線膨張係数
分 子 配 向
線膨張係数
繊 維 配 向
繊 維 配 向
分 子 配 向
分 子 配 向
せん断応力
せん断応力
線膨張係数
比較的簡単に予測、最適化できることから、近年急
速に普及しつつある。しかし、工業的、工学的に重
要である成形後の変形を予測するそり解析の精度は
十分とはいえないのが現状である。我々はこれまで
材料を、非晶材料系、多成分材料系、結晶材料系、
強化材料系の4種類に分類して、射出成形品の流動
方向および厚み方向に生じる物性値分布に注目し、
各物性値の相関関係について実験を行い、射出成形
CAE への取り込み方法について検討を行ってきた。
図1 CAE への取り込み方法
本研究は、その第1段階として、非晶材料系につい
係を実験により明らかにし、射出成形 CAE から得
て、残留応力の発生要因、分子配向と線膨張係数の
られるせん断応力と分子配向の関係を求め、最終的
相関関係について報告する。
に射出成形 CAE によるせん断応力から線膨張係数
2.材料系および CAE への取り込み方法
を求めてそり量を予測する方法を提案している。
我々は、前述したように材料を表1に示す4種類
3.実験方法
の材料系に分類し、研究に取り組んでいる。今回は、
残留応力の発生要因、分子配向と線膨張係数の相
結晶や強化材の影響を考慮しない非晶材料系の
関関係を明らかにするため、
図2に示す長さ200mm、
GPPS について報告する。
幅 120mm、厚さ 2.5mm のフィルムゲート射出成形
表1 取り組んでいる材料
非晶材料系
多成分材料系
結晶材料系
強化材料系
GPPS・PC
ABS・PA-PPE
PP・PE・PBT・PA
GF-PBT・GF-PA
平板(ポリスチレン製)から残留応力測定用試験片、
分子配向測定用試験片、線膨張係数測定用試験片を
切り出し、測定を行った。残留応力測定は、厚みを
0.03∼0.15mm ずつ約 20 回除去し、曲率を測定して
また我々は、射出成形 CAE を用いたそり量の予
残留応力を求める逐次除去法を用いて測定した。ま
測技術として、図1に示すように線膨張係数と線膨
た、分子配向測定については、層間での分子配向の
張係数・繊維配向、繊維配向と線膨張係数の相関関
分布を測定するため、厚さの半分を 3 層にスライス
し、試験片の誘電率の異方性から分子配向を求める
Masahiro SETO*, Masashi YAMABE: Department of
簡易型分子配向計(MOA-5012A:王子計測機器製)
Material Design Engineering, Kanazawa Institute of
を用いて測定した。線膨張係数の測定については、
Technology,
分子配向測定用試験片から試験片を切り出し、TMA
*3-1 Yatsukaho, Mattou, 924-0838, Japan,
(TMA-50:島津製作所製)を用いて測定を行った。
Tel. 076-274-9258,
残留応力および線膨張係数に関しては、流れ方向
Fax. 076-274-9251
E-mail: [email protected]
(MD)
、流れ直角方向(TD)について測定した。
3
厚さ 2.5mm
35
2
残留応力[MPa]
2.5
INNER
2.5
厚さ
OUTER
MIDDLE
0.5
200
35
アニーリング前
アニーリング後
1
0
-1
-2
-0.5
-0.4
-0.3
35
4
線膨張係数測定用試験片
70
0.0
0.1
アニーリング前
アニーリング後
5
残留応力・線膨張係数はそれぞ
2
12
残留応力[MPa]
0.5
35
成形品形状
-0.1
MD 方向
3
120
-0.2
標準化距離
分子配向測定用試験片
1
0
-1
れMD 方向TD 方向を測定
2.5
-2
残留応力測定用試験片
-0.5
-0.4
-0.3
-0.2
-0.1
0.0
0.1
標準化距離
図2 試験片採取箇所および試験片形状
TD 方向
4.結果及び考察
図3 残留応力測定結果
図3に残留応力の測定結果を示す。波線はアニー
リング後の残留応力である。アニーリングを行う前
は、比較的大きな残留応力を示しているが、アニー
リングを行った結果、OUTER 層(表面層)MIDDLE
Outer1
層、INNER 層のすべての層で残留応力は小さくな
MOR
った。射出成形品における残留応力発生要因は、熱
我々が行っている他材料の分子配向度に比べて小さ
いく、このことからも GPPS の残留応力発生要因は
熱的要因が大きいことが確認できる。しかし、
OUTER 層付近は、アニーリングを行っても残留応
力が残っていることから、流動的要因も無視できな
1.149
1.083
1.1
分子配向度比[TD/MD]
いといえる。また分子配向度を測定した結果(図4)
、
Inner
図4 分子配向度測定結果
的要因と流動的要因があり、今回供試材料とて用い
た GPPS の残留応力の発生要因は、熱的要因が大き
1.073
Middle1
1.0
0.9
0.8
0.7
0.7
0.8
0.9
1.0
1.1
線膨張係数比[TD/MD]
いといえる。
また、線膨張係数と分子配向度の相関関係を、横
図5 線膨張係数比と分子配向度
4.結 言
軸に線膨張係数比[TD/MD]、縦軸に分子配向度比
・ GPPS の残留応力発生要因は熱的要因が支配的
[TD/MD]として図5に示す。分子配向度と線膨張係
であるが、表面層付近では流動的要因も無視で
数に相関関係があると、(1,1)を通る直線となる。
きない。
GPPS も多少のばらつきはみられるが、ほぼ(1,1)を
通る直線となっており、相関関係がみられた。
・ 線膨張係数と分子配向度には密接な関係がある
ことが明らかとなった。