全社戦略(1) 経営資源と多角化

経営資源とは
• 経営資源は、「企業が利用することのできる
資源の束」である。
• 一般に、「ヒト・モノ・カネ・情報」と分類される。
第四回 全社戦略(1)
~経営資源と多角化~
• 経営資源を、以下の二軸で分けることができ
る。
– 「可変性 ←→ 固定性」
– 「汎用性 ←→ 企業特異性」
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経営資源の類型
固定性・可変性
=資源の量を増減させる
のに時間やコストがか
かる程度。
汎用性
シナジーとは
固定性
• もともとは「一緒に働く」を意味する、ギリシア
語の「synergos」に由来する。
信用・ブランド
工場設備
資
金
熟練労働
未熟練労働
• 複数の事業ユニットまたは企業が、別々に仕
事をするよりは、協力した時のほうが大きな
価値を生むという現象。
• 多角化を考える上で、シナジーは重要な概念
組織文化
顧客情報
レンタル機械・設備
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企業特異性
(汎用性低い)
汎用性・企業特異性
=資源の希少性の程度
可変性
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シナジーの類型(1)
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シナジーの類型(2)
• 相補効果(コンプリメント効果): 1+1=2、となる関係
• 相乗効果(シナジー効果): 1+1<2、1+1>2、となる関係
1.財務シナジー
• 企業の内部に抱える事業間で、財務的資源を共
有することで生じるシナジー(資源の効率的な配
分)
2.戦略シナジー
• 複数の事業を保有することが交渉力を増すようなシナジー
(e.x.サムスン電子の半導体事業とスマホ事業)
3.資源シナジー
• ある一時点において事業間で経営資源を共有することから生じるシナジー
– 販売シナジー:流通チャネルやマーケティング手法の共通利用から
生じるシナジー(e.x.POSによる顧客情報の製品開発へ
の応用)
– 操業シナジー:設備や従業員などの稼働率向上や間接費を広く配
分できることなどから生じるシナジー
– 投資シナジー:工場や研究開発への投資が共通利用できることから
生じるシナジー(e.x. 富士フィルムの化粧品事業進出)
– マネジメント・シナジー:ある事業での経営手法や経験を転用するこ
とから生じるシナジー
(e.x. トヨタ生産方式を水産加工業業に応用)
4.資源のダイナミック・シナジー
• ある時点での事業活動で蓄積された経営資源が他の事業を将来展開する
際に重要な役割を果たすという、「現在」と「将来」という異なる時点の間で
生じるシナジー
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情報的経営資源の特徴
ダイナミック・シナジー
• 現在の戦略から生み出される「見えざる資産」
が将来の戦略で使われる。
• 同時に複数のヒトが利用可能
• 使いべりしにくい
• 使っているうちに、新しい情報が他の情報と
の結合で生まれることがある。
– e.x. 花王のダイナミック・シナジー
• 油脂化学、界面化学のノウハウ、花王のイメージ、ブラ
ンド、物流、営業ノウハウを、飲料(ヘルシア緑茶)や機
能性食品などに応用
→ある一時点だけで生じるシナジーだけではなく、「現在」
と「将来」という異なる時間の間で生じるシナジーを考え
ることができる。
– e.x. カシオの半導体設計技術
• 電卓で培った半導体設計技術を、腕時計、電子楽器な
どに応用
• 技術、顧客情報、ブランド、信用など。
• 「みえざる資産」とも呼ばれる(伊丹、1989)。
• ダイナミック・シナジー実現のための「オーバ
ー・エクステンション(多少の無理)」の必要性
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ダイナミック・シナジーの概念図
オーバー・エクステンション(背伸び戦略)
現在
現在の戦略
オーバー・
エクステンション
現在の資源ストック
・製品・市場、
現在の資源蓄積戦略
・業務分野
日常の業
務活動に
よる資源
蓄積
実行戦略
戦略
将来の資源ストック
将来
オーバーエクステンションを埋
めるのは、「見えざる資産」が
重要な役割を果たす
将来の戦略
能力
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多角化とは
なぜ企業は多角化するのか
(アンソフの成長ベクトル)
•
製品
既存事業の停滞
• 代替する新たな成長分野へ進出の必要性
既存
市場
既存
新
市場
浸透
製品
開発
• 成長の経済
• 成長すること自体からもたらされる経済的なメリット。
• 成長していることによる心理的エネルギー
• 範囲の経済
• 独立に行うより、一緒に行ったほうがコストが割安になる
• 市場支配力を増加させる
• リスクの分散
新
市場
開発
• 複数事業へ進出によってリスクを分散させる。
• 未利用資源の活用
多角化
• 企業が保有する余剰資源の活用する。
• 経営者報酬の増加(多角化をすると経営者の報酬が増える)
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多角化と垂直統合
クイズです 多角化先と企業名をつないでみましょう
企業名
•
•
•
•
•
多角化先
大和ハウス
味の素
AOKI
日清紡
ブラザー工業
• スマートフォン用電子
材料(ABF)
• いちご栽培
• ロボット
• 複合エンターテイメント
施設
• 通信カラオケ
• 多角化:
事業領域の拡大
原材料調達
(狭義)
企業が事業活動を行って外部
に販売する製品分野全体の
多様性が増すこと。
部品製造
最終組立て
(広義)
異なる製品分野への進出。ま
た同一製品分野にある取引
関係にある分業単位への進
出(垂直統合)も含む。
販売
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再転換・
成型加工
専業型
建設・保守
再処理
燃料化
垂直型
生産
セル生産
モジュール
生産
発電システ
ムの設計
発電事業
関連分野・集約型
関連分野・拡散型
非関連型
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多角化のタイプ (1)
専業型(本業重点型)
全売上高に対する
当該事業および当
該事業群の売上高
の比率を見る。
本業中心・集約型
本業中心・拡散型
シャープの太陽電池事業
原材料
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(ルメルト1974、伊丹・加護野1981)
東芝の原発事業
転換・濃縮
川下・
(前方)
多角化戦略判定チャート
垂直統合の事例
ウラン生産
川上
(後方)
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多角化のタイプ(2)
垂直型
本業の特化率が比較的高い(専業ほどではない)。
↑ 原材料
本業中心型
(集約型)
本業中心型
(拡散型)
川上・川下方面の
多角化
本業に大きなウェイトをおくが、
それ以外の事業分野にも進出す
る。(事例:かつてのサントリー)
↓ 市場
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多角化のタイプ(3)
多角化のタイプ(4)
本業の比率と多角化先との比率はあまりかわらない。
関連分野型
関連分野型
(集約型)
(拡散型)
• 無関連型多角化
– GEのNo.1, No.2ポリシー
• 関連性は無視し、それぞれの市場でマーケットシェア
が一位か二位にならないと撤退あるいは売却。
– 韓国財閥
• M&Aを使って急拡大をはかる。
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どの分野に多角化したらよいか
多角化の失敗事例
• 事業の発展性
– その分野の将来性
(市場、技術、その他環境要因)
• 事業の競争力(シナジー)
– 進出先でどの程度の競争力をもてるか
• 事業の波及効果
– 新分野への進出が既存の事業にどのような影響
をもたらすか
•
•
•
•
•
•
•
旭山動物園の「遊園地事業」
ファーストリテイリングの「野菜事業」
夕張市の「テーマパーク事業」
鉄鋼メーカーの「半導体事業」
すかいらーくの「介護事業」
キリンの「ホテル事業」
イーベイの「スカイプ」買収
• 技術的な側面(キャノンのシンクロリーダー事業部の事例)
• 心理的な側面(サントリーのビール事業部)
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セコム、AOKIの顧客ターゲット
シニアレジデンス業界への異業種参入
セコム(2009)
AOKI(2007)
既存事業
セキュリティ業界、メディカル事業、
その他
紳士服業界、ウェディング業界、カラオケ
業界、総合カフェ
顧客
高所得、資産家の60代以上の夫婦
のみ単独世帯
都心に近い郊外に住む30~50代のお父さ
ん、20代の学生、フレッシャーズ、20代、
30代の女性
提供機能
安全、安心、信頼
お母さんの経済的・時間的負担
機能的利便性、フレッシャーズには価格・
機能面での安定感、女性には経済的余裕
65歳以上の弁護士や経営者
高所得
セコム
(警備事業の顧客=
シニアレジデンスで想定した顧客)
紳士服業界の成熟化、多角化の必要性
の増大、「生命美の創造」
シニアレジデ
ンス業界進出
の背景
1983年から病院経営に関心あり
1990年代からホームセキュリティー
のオプションとして「マイドクター」など
医療サービス開始
シニアレジデ
ンス業界進出
の理由
顧客との長期継続的な関係性、信頼、 多角化の必要性、市場の成長、洋服業界
スイッチングコスト、顧客情報
で培った顧客との関係、顧客情報の活用
生かされた
資源とシナ
ジー
病院とのネットワーク、救急医療、在
宅医療・介護サービス、警備、ITネッ
トワーク
AOKI
(シニアレジデンスで
想定した顧客)
20代
30代
40代
50代
60代
AOKI(洋服事業の顧客)
70代
80代
年齢層
顧客層が分断していてシナジーが働かな
かった
低所得
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おまけ)
多角化のパターンとパフォーマンス
シナジー幻想
• 経営者が持ちがちなシナジーに対する幻想
パフォーマンス
収益性:投下資本収益率、自己資本利益率
成長率:売り上げ成長率、利益成長率
– シナジー・バイアス
• シナジーの利点を過大評価し、コストを過小評価すること。
成長率
– ペアレンティング・バイアス
• 親会社や上位組織がシナジーを生みだすために介入すべきだと
いう思い込み(現場の言い分を無視する)。
– スキル・バイアス
• シナジーを達成するために必要なノウハウは組織内で得られると
いう思い込み。
収益性
– 楽観バイアス
• シナジーの潜在的利益の過大評価、思いもしないマイナスの波
及効果の見落とし
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多角化のパターンとパフォーマンスの
間の関係の説明
• 経営者は自分の報酬、経営リスクの削減とい
う観点から、多角化をするインセンティブがあ
る(多角化=成長=経営幹部の報酬の増大)
。
• しかし多角化による管理コストの増大、調整
費用の増大、シナジーが発揮されない、など
の理由から過度の多角化は利益を生まなくな
る。
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多角化の程度
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