肺Mycobacterium abscessus症に対する外科治療の検討

Kekkaku Vol. 90, No. 3 : 407_413, 2015
407
肺 Mycobacterium abscessus 症に対する外科治療の検討
― MAC 症との比較も含めて―
1
山田 勝雄 3 川澄 佑太 4 杉山 燈人 5 安田あゆ子
3
関 幸雄 2 足立 崇 2 垂水 修 2 林 悠太
2
中村 俊信 2 中川 拓 2 山田 憲隆 2 小川 賢二
要旨:〔目的〕今回 6 例の肺 M. abscessus 症に対する手術を経験した。肺 M. abscessus 症に対する外科
治療の報告は多くない。同時期に手術を施行した MAC 症例との比較検討も含めて報告する。
〔対象と
方法〕2012 年 7 月から 2014 年 6 月までの 2 年間に 6 例の肺 M. abscessus 症に対する手術を経験した。
6 例全例を完全鏡視下手術で行った。手術を施行した 6 例の肺 M. abscessus 症例に対し,年齢,性別,
発見動機,菌採取方法,病型,術前抗 GPL-core IgA 抗体価,術前化学療法,術前治療期間,手術適応,
手術術式,手術時摘出組織の菌培養結果,術後入院期間,手術合併症,術後再燃再発の有無に関し検
討した。これらの項目の一部に関しては,同時期に手術を施行した 36 例の MAC 症例との比較検討を
行った。
〔結果〕手術に関連した大きな合併症は認めず,術死や在院死もなかった。 6 例のうち 3 例
が術後 1 年以上を経過し化学療法を終了したが,現時点で 6 例とも再燃再発は認めていない。MAC
症例との比較では,肺M. abscessus症例の術前治療期間の平均が5.5カ月とMAC症例より18.9カ月短く,
統計学的にも有意差を認めた。
〔結論と考察〕肺 M. abscessus 症に対する手術は安全で有効な治療手段
と考える。また内科医が肺 M. abscessus 症に対して MAC 症よりも早期に外科治療が必要と考えている
ことが示唆された。
キーワーズ:Mycobacterium abscessus,非結核性抗酸菌(NTM),MAC,外科療法
される。われわれの施設では 2012 年 7 月から 2014 年 6
はじめに
月までの 2 年間に 42 例の肺 NTM 症に対する手術を経験
非結核性抗酸菌(nontuberculous mycobacterium : NTM)
した。その起因菌の多くは MAC であったが,迅速発育
は現在約 150 種類が確認され,わが国ではその中の 15 種
菌であるM. abscessus が起因菌である症例も 6 例(14.3%)
による感染症が報告されているが,Mycobacterium avium
経験した。
complex(MAC)と M. kansasii による感染症が肺 NTM 症
肺 M. abscessus 症の発症率はわが国では全肺 NTM 症中
全体の90%以上を占めている。病原性が弱いため肺NTM
の 3 % 程度とされているが,MAC と比べ薬剤抵抗性が
症はあまり注目されてこなかった感染症であるが,難治
強く肺 NTM 症の中では最も難治であるとされ,それゆ
1)
性のものがあり,かつその増加が報告されている 。治
え外科治療への期待も高いと思われる。しかし,本邦で
療は原則多剤併用療法であるが,薬剤の有効性に限界が
は肺 M. abscessus 症に対する外科治療に関した報告は多
あり難治の症例も少なくない。
くない 3)。今回,肺 M. abscessus 症と診断され術前化学療
このような状況の中で治療の選択肢として外科療法が
法を行った後に手術を施行した 6 症例に対し臨床学的検
あげられるようになり,2008 年には当学会から「肺非結
討をし,さらに同時期に手術を施行した MAC 症 36 例と
核性抗酸菌症に対する外科治療の指針」2)(以下「外科
の比較検討も行った。
治療の指針」
)が示され,今後も手術症例の増加が予想
1
国立病院機構東名古屋病院呼吸器外科,2 同呼吸器内科,3 国
立病院機構名古屋医療センター呼吸器外科,4 小牧市民病院呼
吸器外科,5 名古屋大学医学部附属病院医療の質・安全管理部
連絡先 : 山田勝雄,国立病院機構東名古屋病院呼吸器外科,〒
465 _ 8620 愛知県名古屋市名東区梅森坂 5 _ 101
(E-mail : [email protected])
(Received 29 Jul. 2014 / Accepted 2 Dec. 2014)