プレスリリース 2016 年 6 月 7 日 報道関係者各位 慶應義塾大学医学部 国立研究開発法人日本医療研究開発機構 呼吸器感染症を引き起こす肺非結核性抗酸菌症の国内患者数が 7 年前より 2.6 倍に増加-肺結核に匹敵する罹患率- このたび、慶應義塾大学医学部感染制御センターの長谷川直樹教授、医学部内科学(呼吸器) 教室の南宮湖(ナムグン ホウ)助教らは、国内における肺非結核性抗酸菌症(以下、肺 NTM 症) (注 1)の罹患率が、7 年前と比較して 2.6 倍と急激な勢いで上昇し、公衆衛生上、重要な感染 症となっていることを報告しました。 非結核性抗酸菌(NTM)は、肺に感染することで慢性呼吸器感染症を引き起こします。肺 NTM 症は感染症法に指定されておらず、近年の疫学的実態は不明でした。今回、7 年ぶりにアンケー ト調査を行い、結核の罹患率と比較することにより、肺 NTM 症の罹患率を算出しました。前回 の全国調査と比較して、肺 NTM 症の罹患率は約 2.6 倍に上昇しており、患者数はすでに肺結核 をしのぎ急激に増加していることが明らかになりました。また、今回の調査で日本は世界の中で 肺 NTM 症の罹患率が最も高い国であることもわかりました。 しかし、患者数の著しい増加はわかりましたが、肺 NTM 症には有効な治療法はほとんどなく、 肺 NTM 症について今後の更なる研究および対策の必要性が明示されました。 本研究は、結核予防会、国立感染症研究所と共同で行ったもので、本研究成果は、2016 年 5 月 17 日(米国東部時間) 、国際学術誌“Emerging Infectious Diseases”にオンライン掲載されま した。 1.研究の背景と概要 非結核性抗酸菌症とは、結核菌・らい菌以外の抗酸菌によって引き起こされる病気です。 結核との大きな違いは、ヒトからヒトへ感染せず、病気の進行が緩やかであるにも関わらず 抗菌薬による治療が難しい点が挙げられます。結核の減少とは逆に発症者が増えてきており、 確実に有効な治療がないため、患者数は蓄積され、重症者も多くなってきています。しかし、 2007 年の全国調査以後、日本国内において疫学調査は実施されておらず、近年の肺 NTM 症 の疫学的実態は不明でした。 今回、日本呼吸器学会認定施設・関連施設(884 施設)に、2014 年 1 月から 3 月までの肺 NTM 症と結核の新規診断数を記入するアンケート調査を実施しました。その結果、肺 NTM 症の推定罹患率は 14.7 人/10 万人年と算出され、2007 年の全国調査と比較して約 2.6 倍に増 加していることがわかり、公衆衛生上、重要な感染症であることが示されました。 (図 1)肺 NTM 症の患者数の急激な増加の要因は、医療従事者の間での認知度向上・高齢化・診断精度 の向上・検診機会の増加などが考えられますが、明らかな理由は不明であり、今後の研究が 待たれます。 1/3 図 1)肺 NTM 症の罹患率の年次推移 肺 NTM 症のうち、肺 MAC 症(注 2)が 88.8%と大多数を占め、全世界でも最も多いと報 告されています。今回の調査により、次いで多い肺 NTM 症は、肺 Mycobacterium kansasii 症(0.6 人/10 万人年) 、肺 Mycobacterium abscessus 症(0.5 人/10 万人年)と判明し、特に肺 NTM 症 の中で最も難治性の肺 Mycobacterium abscessus 症は、推定罹患率 0.5 人/10 万人年と算出され、 7 年前と比較して約 5 倍と急激に増加していることがわかりました。 さらに、肺 Mycobacterium avium 症と肺 Mycobacterium intracellulare 症の分布が地域により 大きく異なることが示され、肺 Mycobacterium avium 症の罹患率は東日本でより高く、肺 Mycobacterium intracellulare 症の罹患率は西日本でより高い傾向が見られました。その結果、 肺 Mycobacterium intracellulare 症の割合は、著明な「西高東低」を示しました。(図 2) 図 2)肺 Mycobacterium avium 症と肺 Mycobacterium intracellulare 症の分布 2.研究の成果と意義・今後の展開 今回の調査により、肺 NTM 症の発症が結核の発症者をしのぐ勢いで増加していることが、 わかりました。 結核は治療により、その大多数は治癒しますが、肺 NTM 症は現時点において、有効な治療 はほとんどなく、有病率(注 3)は結核よりもさらに高いと予想されます。特に肺 NTM 症の 中で最も難治性の肺 Mycobacterium abscessus 症は、2007 年の 0.1 人/10 万人年から約 5 倍と大 幅な増加を認めており、今後の対策が急務であると考えられます。 肺 NTM 症が患者さんへの負担に加え、社会に及ぼす影響は、既に十分に高いと考えられ、 有病率を含めた肺 NTM 症の詳細な実態把握、及び肺 NTM 症への更なる対策は今後の重要な 課題です。 2/3 3.特記事項 本研究は国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED) 「新興・再興感染症に対する革 新的医薬品等開発推進研究事業」の支援によって行われました。 4.論文 論文名:“Epidemiology of Pulmonary Nontuberculous Mycobacterial Disease, Japan” 日本における肺非結核性抗酸菌症の疫学 掲載誌:Emerging Infectious Diseases (注 4) 著者名:南宮湖、倉島篤行、森本耕三、星野仁彦、長谷川直樹、阿戸学、御手洗聡 掲載日:2016 年 5 月 17 日 【用語解説】 :結核菌・らい菌を除く抗酸菌の総称を非結核性 (注 1)肺非結核性抗酸菌症(肺 NTM 症) 抗酸菌(NTM)といい、水や土などの環境中に存在する菌で、150 種類以上発見されていま す。結核菌のようにヒトからヒトへは感染せず、また、菌の種類によって病原性は様々です。 (注 2)肺 MAC 症:MAC は Mycobacterium avium complex の略称で、Mycobacterium avium と Mycobacterium intracellulare の二つから構成され、全世界で最も多い非結核性抗酸菌です。 (注 3)有病率:罹患率は特定期間中の疾患の新規発生症例数であるのに対し、有病率は特定 時点における疾患を有する人口です。そのため、肺 NTM 症のような難治性の慢性疾患は、急性 疾患と比較して有病率が高くなります。 (注 4)Emerging Infectious Diseases:米国疾病管理予防センター(CDC)により出版される 学術誌で、感染症領域に関わる人々に幅広く読まれています。 ※ご取材の際には、事前に下記までご一報くださいますようお願い申し上げます。 ※本リリースは文部科学記者会、科学記者会、厚生労働記者会、厚生日比谷クラブ、各社科学部 等に送信しております。 【本発表資料のお問い合わせ先】 慶應義塾大学医学部 感染制御センター 教授 長谷川直樹(はせがわ なおき) TEL:03-3353-1211 FAX 03- 5363-3711 E-mail:[email protected] http://www.hosp.keio.ac.jp/annai/shinryo/inf ectioncontrol/ 【本リリースの発信元】 慶應義塾大学 信濃町キャンパス総務課:谷口・吉岡 〒160-8582 東京都新宿区信濃町 35 TEL 03-5363-3611 FAX 03-5363-3612 E-mail:[email protected] http://www.med.keio.ac.jp/ 【AMED 事業に関するお問い合わせ先】 国立研究開発法人 日本医療研究開発機構 戦略推進部 感染症研究課 TEL:03-6870-2225 E-mail: [email protected] 3/3
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