実験資料(6/6以降)

デルタ翼の低速空力特性
流体力学研究室
TA:伊藤,田口,澤田,吉田
デルタ翼の例(F/A-18)
(http://en.bestpicturesof.com/strike%20fighter%20squadron%20(vfa)%20154)
本書では,2012 年度学生実験(デルタ翼)における目的,デルタ翼機の機体形状,実
験方法,および課題について説明する.なお,自由傾斜風洞の諸元などについては,配布
されているテキストを参照のこと.
1 .目的
近年,より低コストで高効率な航空機の開発が求められ,盛んに研究が行われている.
その中でも本実験では超音速巡航に向くといわれているデルタ翼模型を扱う.
今回モデルとしたのは,F/A-18 戦闘機である.平常巡航時は超音速巡航だが,離陸時など
には低速で飛行する場合もあり,このとき最も高い揚力係数が要求される. しかしなが
ら,デルタ翼の空力特性として通常の翼に比べて揚力傾斜∂CL/∂α が小さいという特徴
がある.このため,最大揚力を得る迎角が直線翼等に比べて非常に大きい.つまり,デルタ翼
機は低速飛行時には大迎角での飛行を強いられる.このような大迎角飛行時には,デルタ翼
の上面では翼前縁で流れは剥離し,一対の前縁剥離渦が生じる.この存在により翼上面に強
い負圧が生じ,翼には渦揚力が付加される.
この前縁剥離渦によって翼に働く揚力は増大するが,同時に抵抗も増大してしまう.その際,
抵抗の増大の割合が大きいため揚抗比(L/D)特性が悪くなる.
本年度の実験では,このような飛行フェイズでの機体の空力特性を知るために,後退角
30degの胴体付きデルタ翼を使用し,機体表面の流れ場の可視化(オイルフローによる可視
化法)及び翼後方での総圧計測をすることによって,前縁剥離渦の大きさや位置を把握す
る.また,ストレーキを着脱し,それぞれの場合のCp分布及び総圧を測定・比較することで,
ストレーキによってどのような恩恵が受けられるのか調べる.
2. 実験に用いるデルタ翼機形状 および 圧力測定位置
2.1 デルタ翼形状および翼面上の圧力孔について
本実験で用いる模型は後退角 30deg の胴体付きデルタ翼である.翼模型諸元を表 1 と図 1
に形状を示す.また, 圧力孔位置と翼素面積を図 2 と表 2 に示す.
表1:翼模型諸元
後退角Λ=30deg
最大翼幅 b=600mm
最大翼弦長 Cr=161mm
主翼翼面積 S=51520mm2
ストレーキ面積(一枚当たり)Sst=4517mm2
翼厚(主翼)t=5mm
平均空力翼弦 Cmac/Cr=0.67
アスペクト比 AR=6.99 (AR = b2 /S)
材質(主翼・ストレーキ):アクリル
材質(胴体):アルミ
圧力孔φ=1.0mm,60 点(ストレーキ装着時,図
2 参照)または 54 点(ストレーキ非装着時)
<補足>平均空力翼弦(Mean Aerodynamic Chord)
一般に飛行機の翼には,広い範囲にわたって揚力が分布している.このような三次元翼
にも,全体としての空力中心 aerodynamic center: ac を考えることができる.すなわち三
次元翼全体の空気力が等価的に一点に作用し,しかもその点まわりのピッチングモーメント
が変化しないような点である.このような点を『三次元翼の空力中心』という.左右の翼に
ついて,それぞれの空力中心と同じ位置に,翼断面の空力中心があるような翼弦を選び,こ
れを『平均空力翼弦: MAC』という.左右の平均空力翼弦を機体対称面に射影し,その空力
中心に全揚力 L が作用すると考える.MAC とは,三次元翼を代表する翼弦である.つまり,
三次元翼に働く空気力は,等価的に機体対称面に射影した MAC の空力中心に集中的に働くと
考えてよい.MAC 空力中心には,高度,速度一定で飛行する場合,迎角が変わっても変化し
ない一定値のモーメント Mac が発生している.これは,「MAC 空力中心まわりのモーメント」
という.MAC 空力中心は,翼の断面形や平面形が与えられれば,一定値となる.
図1:デルタ翼模型
図2:圧力孔位置概要
表2:圧力孔位置および翼素面積
圧力孔番号
No
翼素面積
ΔS [m
㎡]
圧力孔座標 圧 力 孔 座 標 圧力孔座標
(x)
(y)
x [mm]
(z)
y[mm]
z [mm]
1
218.9
5
0
-20
2
437.9
5
-31
0
3
437.9
5
-62
0
4
437.9
5
-93
0
5
437.9
5
-124
0
6
437.9
5
-155
0
7
437.9
5
-186
0
8
437.9
5
-217
0
9
437.9
5
-248
0
10
541.7
5
-279
0
11
283.2
23.3
0
-20
12
566.3
23.3
-31
0
13
566.3
23.3
-62
0
14
566.3
23.3
-93
0
15
566.3
23.3
-124
0
16
566.3
23.3
-155
0
17
566.3
23.3
-186
0
18
566.3
23.3
-217
0
19
461.7
23.3
-248
0
20
283.2
41.6
0
-20
21
566.3
41.6
-31
0
22
566.3
41.6
-62
0
23
566.3
41.6
-93
0
24
566.3
41.6
-124
0
25
566.3
41.6
-155
0
26
566.3
41.6
-186
0
27
461.7
41.6
-217
0
28
283.2
59.9
0
-20
29
566.3
59.9
-31
0
30
566.3
59.9
-62
0
31
566.3
59.9
-93
0
32
566.3
59.9
-124
0
33
566.3
59.9
-155
0
34
461.7
59.9
-186
0
35
283.2
78.2
0
-20
36
566.3
78.2
-31
0
37
566.3
78.2
-62
0
38
566.3
78.2
-93
0
39
566.3
78.2
-124
0
40
461.7
78.2
-155
0
41
283.2
96.5
0
-20
42
566.3
96.5
-31
0
43
566.3
96.5
-62
0
44
566.3
96.5
-93
0
45
461.7
96.5
-124
0
46
283.2
114.8
0
-20
47
566.3
114.8
-31
0
48
566.3
114.8
-62
0
49
461.7
114.8
-93
0
50
437.9
133.1
-31
0
51
461.7
133.1
-62
0
52
283.2
151.4
0
-20
53
461.7
151.4
-31
0
54
93.6
169.7
0
-20
55
414.0
171
-25
0
56
414.0
162
-35.8
0
57
856.5
216
-25
0
58
856.5
195
-56.6
0
59
988.0
261
-25
0
60
988.0
228
-77.3
0
注意:翼下面の測定では圧力孔の位置は,z の正負が逆になる.
2.2 総圧測定について
渦が発生すると,粘性による摩擦が原因で流体のもつエネルギの一部が熱の発生に消費さ
れる.その結果,渦が発生している場所の局所総圧は減少する.(総圧損失が起こる)
以上より,総圧分布は渦の位置や大きさをそのまま反映することが分かる.今回の実験では
これを利用して渦の可視化に利用する.
総圧分布の測定は,ピトー管を,トラバースをもちいて順番に動かしていき,図3に示す各
測定点における局所総圧を測定する.総圧分布を図示する際に図3を使用せよ.
なお学生実験当日は翼上面の後縁における断面の総圧測定は行わない.
図3:総圧測定点詳細
図3の数字は測定点番号を示していて,アップロードされるデータの測定点番号に対応す
る.測定点番号の順番に注意すること.
3. 実験手順
今回,実験当日に行う実験は以下の3つである.
・ストレーキ有の場合のデルタ翼上面の Cp 分布の測定
・ストレーキ有の場合のオイルフロー法による渦の可視化
・タフトを用いた渦の構造の理解とそのスケッチ
3.1 Cp 分布の測定
主翼及びストレーキの表面に開けられた圧力孔における静圧と大気圧のゲージ圧をマノメ
ータで測定する.Cp は解析時にデータから各々が計算すること.
ゲージ圧の測定は,圧力孔とマノメータの間に設置された圧力切替機を用いて,一点ずつ切
り替えながら測定する.
マノメータでゲージ圧はアナログの電気信号に変換され,DAQ ボードを介してデジタル信
号に変換されたのち、PC のプログラムによりテキストファイルに保存される.
ゲージ圧は多少の揺らぎを伴う(完全に一定ではない)ため、プログラムによって約 5 秒
間の信号を平均した値が記録されるように設計されている.
3.2 オイルフロー法
翼表面に特殊なオイルを均一に塗り、5 分から 10 分間一様流中に放置する.
すると,表面には渦の構造を反映した模様が浮かび上がる.
結果がでたら,その模様を写真にとり,後日実験結果としてアップロードするので,解析に
活用すること.
3.3 タフトを用いた渦の構造のスケッチ
タフトを使って,翼全体の渦の構造を理解する.
タフトをいろいろな位置に動かしながらその様子を各自スケッチし,渦の位置や強さなど
を記録せよ.
またストレーキを着脱した際の,流れの変化についても詳しく記録しておくこと.
※その他の解析及び考察に必要なデータも,後日流体力学研究グループのホームページに
アップロードするので各自ダウンロードし,解析を行うこと.
4. 実験結果の解析(課題1)
以下の項目について実験データを整理する.
4.1 デルタ翼面上の圧力分布の計算
実験によって得られた各圧力孔での静圧を用いて,次式によりそれぞれの圧力孔での圧力
係数 Cp を計算せよ.
Cp 
ここで
p
,
p  p
2
1
2 U 
(1)
p  ,  , U  はそれぞれ局所静圧,一様流静圧,空気密度,一様流流速を
表す. 計算した値を用いて翼上面・下面の Cp 分布のグラフを作成せよ.
通常は空気の密度は温度と圧力の関数として表になっており,例えば  =0.76 の場合,
t=15℃, p=760mmHg ではρ=1.220 [kg⁄m3 ]である.
本実験の場合も指定する表から,実験当日の気圧・気温における密度ρを読み取りその値を
使用すること.
4.2 空力係数
(1)本実験の機体に働く揚力係数 CL,抗力係数 CD,ピッチング・モーメント係数 CM を求めよ.
空力係数とは物体に加わる空気力を無次元化したものであり,航空宇宙機に加わる空気力
の本質的な特性を理解するために重要な特性量である.
以下に各空力係数の定義を示す.ここで L は揚力,D は抗力,Myはピッチング・モーメント,S
は翼面積を示す.
CL 
CD 
CM 
L
U 2 S
(2)
D
2
1
2 U  S
(3)
1
2
My
1
2
U 2 SC m
a c
(4)
4.3 流れ場の構造把握
・翼後縁上の総圧計測結果から二次元の総圧分布図を作成しせよ.(コンターを用いるな
ど工夫すること)
・総圧分布図とオイルフロー法,タフト法による流れ場の可視化実験結果と圧力係数分布
より,流れ場の構造(前縁はくり渦の位置と大きさ等)を理解し,説明及び図示せよ.ま
た翼面上の流れ場が空力特性に与える影響について説明せよ.
5. ストレーキなしの場合の解析(課題2)
・4.で行った解析過程を用いて,ストレーキなしの模型の場合についても同様に結果を
整理し,解析・考察せよ.
6. 考察1(課題3)
・実験結果および解析結果から,ストレーキの有無によって機体が受ける影響を説明せ
よ.
7.考察2(課題4)
上記の手順(課題 1)により,異なる迎角(ストレーキ有の場合のみ)についても同様
に結果の整理・解析・考察を行い,迎角の違いによってどのような違いがあるか説明せよ.
なお,比較対象の迎角は実験当日に指定するので各々指定されたデータを流体力学研究
グループの HP からダウンロードし,解析・考察を行うこと.
8. デルタ翼の特性(課題5)
・デルタ翼の特徴について詳しく調べよ.
・ストレーキについて詳しく調べよ.
このとき,文献を調べて参考にすることを推奨する.文献は図書館にある本や,学会誌(日
本航空宇宙学会誌や,アメリカ航空宇宙学会誌.AIAA Journal, Journal of Aircraft.)に
掲載されている論文,また NACA/NASA のテクニカルペーパーに関連研究が記載されている.