ポスター - 日本応用地質学会

P4.近赤外分光分析の土木地質試料への応用(その 3)
Application of near-infrared diffuse reflectance spectroscopy to engineering geological materials (Part3)
○磯野陽子,木村隆行(エイト日本技術開発)
,中嶋
悟(大阪大学)
表-1 岩石物性試験結果
1.はじめに
圧縮強度 P波速度 S波速度
含水比
供試体No
(km/s)
(%)
(MN/m2) (km/s)
分光法は,物質が反射あるいは吸収する光(電磁波)の
No.1
186.1
5.91
3.29
0.465
スペクトルを測定し,物質の組成や物理状態を推測する方
No.2
108.4
4.65
2.36
0.450
法で,医療・食品・化学物質など様々な分野・物質を対象
No.3
25.6
4.32
2.25
0.720
に利用されている.我々の分野でも,赤外・ラマン・X 線
No.4
124.8
5.90
3.06
0.422
No.5
156.6
5.39
3.14
0.456
分光法による岩石・土壌の測定は広く行われている.これ
No.6
148.1
5.16
2.81
0.478
らの分光器は,近年の技術発展に伴い,小型化・軽量化が
No.7
152.3
5.25
2.85
0.268
進み,野外での迅速分析法としての新たな適用が期待され
No.8
4.4
4.21
2.32
0.483
る.筆者らはこれらの分光法のうち,可視および近赤外領
No.9
220.2
5.80
3.21
0.250
域の光を用いる,分光測色法と近赤外分光法の土木地質試
料への適用を進めている.両分光法とも,非破壊・その場分析が可能であることが最大の利点で
ある.昨年までに花崗岩類の力学特性把握に,近赤外分光が有効である可能性を示した(磯野ほ
か(2013)).今回は,花崗岩類より細粒の凝灰岩類について近赤外分光測定を行い,岩石の強度特
性等との相関を検討したので報告する.
2.検討試料
試料は道路設計のために実施されたボーリングコアより得られた流紋岩質凝灰岩を用いた.岩
石物性試験結果を表-1 に示す.この一軸圧縮試験後の供試体について,
近赤外分光測定を行った.
3.近赤外分光測定方法
測定は近赤外分光器(NIR256)で行った.一軸圧縮試験後の岩石供試体に直接プローブをあて,
反射スペクトルを取得する.プローブからの光の照射反射部の直径は約 2mm である.昨年までは
鉱物粒子の大きな試料であったことから,長石類に的を絞って測定していた.しかし,今回は細
粒な凝灰岩類であることから,無作為に選んだ(ただし,脈等特異部は除く)5 箇所の反射スペ
クトルを測定した.本測定で得られた反射スペクトルは,アルミナ粉体での反射スペクトルに対
する相対反射率とし,これをクベルカ・ムンクの式で吸光度に変換し,吸収スペクトルとする.
各吸収帯に直線のベースラインを引き,吸収帯の面積を求め岩石物性値との相関を検討した.
4.測定結果と解析
圧縮強度の高い No.5 供試体と,強度の低い No.3 供試体の近赤外スペクトルを図-1・2 に示す.
1100 nm 付近に Fe2+による幅広い吸収帯が見られる.1450 nm (OH)付近と 1950 nm(H2O)付近およ
び,2100~2500nm 間に吸収帯(2200nm・2250nm・2350nm)(鉱物の水酸基(X-OH 基))が確認
された.ただし,2250nm 付近の吸収帯は No.5 供試体では明瞭に確認されるが,No.3 供試体では
確認されなかった.今回の傾向として,強度が低いと 2250nm 付近の吸収帯が見られなくなった.
それぞれの吸収帯の面積を計算し,岩石物性試験結果との相関を検討した(図-3).
4.0
(H2O) 1950nm
(OH) 1450nm
3.0
1100nm
2.0
1
4
2
5
1450nm
2.0
1100nm
3
800 1000 1200 1400 1600 1800 2000 2200 2400 2600
波長(nm)
No.5 供試体
1
2
4
5
3
0.0
0.0
図-1
(X‐OH) 2200・2350nm
(Fe2+) 1.0
1.0
(H2O) 1950nm
(OH)
3.0
(Fe2+) 吸光度(KM値)
吸光度(KM値)
4.0
(X‐OH) 2200・2250・2350nm
5 箇所の近赤外スペクトル
800 1000 1200 1400 1600 1800 2000 2200 2400 2600
波長(nm)
図-2
No.3 供試体
5 箇所の近赤外スペクトル
その結果,2250nm 付近の吸収帯面積以外は,岩石強度・速度とおおよそ負の相関があり,吸収
帯面積が大きいほど,圧縮強度が小さく,P 波・S 波も遅いという結果が得られた.これらの相関
関係は昨年までの報告(花崗岩類の長石粒子における検討)と同様にべき乗則で近似された(図
-3). 今回 2250nm 付 近 吸 収帯 が,強 度の 低い供 試体 では見 られ なくな る傾 向があ った.
2100-2500nm 間の鉱物水酸基の吸収帯は,試料によりその位置が変化し,消失することがあるこ
とが判明し,今後詳細な解析が必要である.また今回,含水比と各吸収帯面積との関連性も検討
,近
した結果,分子状水(H2O)の吸収帯面積(1950nm 付近)と含水比は良好な関係があり(図-4)
赤外分光による含水比の予想は,有効であることが確認された.
0.8
7
6
y = 9E+08x‐4.907
R=0.88
10
0.7
y = 8.415x‐0.31
R = 0.88
0.6
含水比
5
速度(km/s)
100
4
3
P波
2
S波
y = 4.821x‐0.34
R = 0.85
0
20
40
60
5
10
0
10
20
30
40
吸収帯面積
吸収帯面積
図-4 含水比と 1950nm 付近吸収帯面積の関係
流紋岩質凝灰岩
領家花崗岩類
y = 126.92x‐0.14
1000
y = 0.0157x + 0.1679
R = 0.9
15
図-3 岩石物性値と各吸収帯面積の関係(一部)
古第三紀花崗岩類
0.3
0
0
吸収帯面積
領家花崗岩類
0.4
0.1
0
1
0.5
0.2
1
古第三紀花崗岩類
流紋岩質凝灰岩
y = 148.01x‐0.10
logy=‐0.10logx+2.17
R = 0.45
1000
logy=‐0.14logx+2.10
R = 0.58
100
100
y = 7453.2x‐2.79
logy=‐2.79logx+3.87
R = 0.81
10
y = 8.75x‐2.08
logy=‐2.08logx+0.94
R = 0.87
1
0.1
0.1
1
10
1450nm付近吸収帯面積
100
圧縮強度(MN/m2)
圧縮強度(MN/m2)
圧縮強度(kN/m2)
1950nm付近
1450nm付近
2350nm付近
1000
y = 5534.5x‐1.51
logy=‐1.51logx+3.74
R = 0.57
10
1
y = 142.32x‐2.04
logy=‐2.04logx+2.15
R = 0.84
0.1
1
10
100
1950nm付近吸収帯面積
図-5 両対数表示した強度と吸収帯面積の関係図
5.まとめ
昨年までは,粒径の大きな花崗岩質岩石の風化変質に伴う強度低下を,長石類の近赤外スペク
トルから評価し,長石類の OH(1450nm)および H2O(1950nm)あるいは 2250・2350nm 付近(X-OH)
の吸収帯面積と一軸圧縮強度・音波速度に相関があり(図-5),近赤外分光による岩盤強度特性の
推定の可能性を示した.今回は,細粒な凝灰岩で同様の検討を行った結果,強度特性と 1450nm・
2350nm 付近吸収帯面積が良好な負のべき乗則で近似できた(図-3・図-5).その一方で,花崗岩試
料では負の相関があった 2250nm 付近吸収帯面積は,本検討では吸収帯が確認できない試料があ
るなど,強度特性と相関のよい吸収帯面積は,検討試料毎に異なる結果が得られた.昨年度まで
と同様に強度特性と吸収帯面積はべき乗則で表されるが,そのべき指数はそれぞれの試料で大き
く異なる結果が得られた(図-5).それらの意味するところについてはさらなる検討が必要である.
近赤外分光法は,プローブ先端を測定対象にあてるだけの非破壊測定法であり,短時間で反射
スペクトルの収集が可能である.今後も引き続き吸収帯と岩石物性値の相関の意味を吟味しなが
ら,土木地質試料への新たな非破壊分析手法として利用を検討していきたい.
参考文献
・磯野ほか(2013):可視・近赤外分光による花崗岩質岩石コアの測定と強度特性の対比,支部設立 20 周年記念
行事
平成 25 年度研究発表会・記念シンポジウム
発表論文集・シンポジウム講演論文集
p1-4