技術紹介 AE 法における F.C.O.G 手法を用いた CFRP 健全性評価手法の検討 その 2 川﨑 拓 *1 Kawasaki Hiraku 佐藤 浩幸 滝沢 真実 *1 戸部 訓子 Takizawa Mami *3 Sato Hiroyuki 飯田伊佐務 Tobe Satoko Iida Isamu *2 Nakamura Hideyuki 田中丸天兵 *4 中村 英之 *1 *4 Tanakamaru Tennpei IIC では CFRP 試験片の引張試験中に検知された AE 信号の周波数に着目し、試験中に AE 信号の重心周 波数が変化することを確認している。この重心周波数変化は、損傷評価・強度評価において一般的に AE 法 で使用されるカイザー効果と相関があり、AE 信号の重心周波数変化時に試験体にどのような損傷が発生し たかを調査した。この結果、重心周波数の変化は CFRP 試験体に層間剥離が発生する直前の現象であるこ とを確認した。 キーワード:AE、CFRP、カイザー効果、重心周波数、引張試験 められている。しかし、試験機の荷重や変位、ひ 1. はじめに ずみ等の従来の評価方法では、CFRP の各破壊ス 炭 素 繊 維 強 化 プ ラ ス チ ッ ク・CFRP(Carbon テップを確認することは困難である。 Fiber Reinforced Plastic)は航空機体や宇宙ロケッ 一 方、AE(Acoustic Emission) 法 は、CFRP に トの圧力容器など幅広い分野で使用され、自動車 代表される複合材料における健全性評価手法とし の車体等にも使用されている。加えて、水素自動 て普及しており、カイザー効果を用いた方法は 車や水素ステーションの燃料タンクにも使用され ASME 規格にも制定されている 。しかし、カイ (1) (2) (3) 。CFRP に代表される複合材料は、繊 ザー効果の成立有無を確認するためには荷重・圧 維を束ねて積層し、樹脂材等で固めて作成される 力などの負荷応力を上げ下げすることが必要とな ため、強度評価に用いられる引張試験等において、 る。さらに、材料強度をカイザー効果から判断す 複合材の破壊ステップは樹脂割れ、層間剥離、繊 るためには負荷応力を細かなステップで載荷・除 維破断、破断の順番であることが知られている。 荷を繰り返す必要があるため、初期破壊荷重を調 ている 複合材料が使用される場所や設計強度により、 査するなど材料強度評価試験に本手法は適さな 許容される破壊現象が異なるため、材料強度評価 い。そのため、カイザー効果成立前後に変化する としては各破壊ステップの現象を捉えることが求 AE パラメータの調査が必要である。 *1:検査事業部 技術部 *2:検査事業部 技術部 NDE グループ 部長 博士(工学) *3:計測事業部 材料試験部 福浦グループ 課長 *4:計測事業部 材料試験部 福浦グループ — 11 — IIC REVIEW/2015/04. No.53 IIC では CFRP における材料強度評価や、構造 近傍、250kHz 近傍の三か所に特徴的な強さを示 物の健全性評価手法に AE 法を適用することを検 す成分を確認することができる。AE 信号源の周 討しており、著者らは CFRP 試験片の引張試験中 波数成分は損傷の入る速度や超音波伝搬体の成分 に発生する AE 信号の周波数に着目し、特に重心 等の要因でさまざまな周波数が混在する。そこで、 周波数(Frequency Center Of Gravity:F.C.O.G)解 IIC では重心周波数に着目した解析方法を実施し 析を用いた解析手法が有効と考えている。本手法 ている。 によると、カイザー効果が成立しなくなる荷重に CFRP 試験片引張試験時の AE 計測結果例にお 達すると、重心周波数の集中部が急低下すること ける Hit 数と試験荷重の時間履歴を図 2(a)に示 (4) (7) - 。 を報告している す。左縦軸および緑線は 1 秒毎に発生した AE の 本 稿 に お い て、 重 心 周 波 数 変 化 が 発 生 し た 数(Hit 数)を、右縦軸および赤線は試験荷重を CFRP 引張試験片の引張荷重前後において CFRP 表している。本試験は荷重の載荷・除荷を 3 回繰 試験体にどのような損傷が発生したかを確認した り返し、カイザー効果の確認を行った試験である。 ので紹介する。 1 ~ 2 度目の載荷に着目すると、カイザー効果が 成立しており、1 度目の載荷までは試験片が健全 2. F.C.O.G 手法について であったことを示している。2 ~ 3 度目の載荷で 重心周波数とは、AE 信号の周波数解析結果に は、カイザー効果が成立しなかったため、本試験 おけるスペクトルの代表値である。重心とは、加 片が健全性を失ったのは 2 度目の載荷中であるこ 重平均を指しており、周波数 f i における成分強度 とが確認できる。 図 2(b)には重心周波数と荷重の時間履歴を A( f i ) の積和を、成分強度の総和で割った値となる。 F . C . O. G = ∑ A( f ) ∗ f ∑ A( f ) i 示し、左縦軸と緑丸は重心周波数が 1 秒毎に最も i i (1) i 集中した周波数を示している。本試験では 150kHz 近傍に共振をもつ AE センサを使用している。IIC i 図 1 に CFRP 試験片の引張試験時に取得した では、共振周波数よりも低い周波数帯域において AE 信号波形例を示す。(a)は時間波形を、(b) 周波数スペクトラムの重心を計算する方法を採用 は周波数解析結果を示している。この波形のスペ し て い る。 そ の た め、 本 結 果 で は 20kHz か ら クトラム成分に着目すると、80kHz 近傍、150kHz 140kHz の周波数域において計算された重心周波 (a)時間波形 (b)周波数解析結果 図 1 CFRP 試験片の引張試験において受信した AE 信号例 — 12 — (a)Hit 数と荷重の関係 (b)重心周波数(F.C.O.G)と荷重の関係 図 2 CFRP 試験片引張試験時の AE 計測結果例 数を示している。 し、断面観察を実施した。 (a)より、試験片が健全であると考えられる 1 今回、使用した CFRP 試験片はトレカプリプレ 度目の載荷では、荷重の増加と共に重心周波数は グ 3252S-20(高強度炭素繊維と高靭性樹脂を組み 高くなっている。一方で、健全性を失ったと考え 合わせた東レ社の製品)を 45°毎に積層して作成 られる 2 度目の載荷では、試験時間 300 秒近傍に し、板厚を 3mm とした。本プリプレグの炭素繊 おいて重心周波数が低下していることが確認でき 維は航空機等で使用される T700SC である。試験 る。 片形状は JIS K 7073 に準拠し L200 × W12.5mm と IIC では、このようなカイザー効果の成立有無 (4) した。AE センサは富士セラミックス社製 AE144A と重心周波数の関係を確認し報告しており 、積 を使用し、図 4 に示すように AE センサを設置し 層方法の異なる CFRP 試験片でも同様の傾向が確 た。 認できている。この重心周波数が変化する際に、 試験片にどのような損傷が発生したかを調査し た。 3. 試験方法 試験手順を図 3 に示す。作成した試験片は引張 試験を実施する前に水浸超音波探傷試験により内 在欠陥の有無を確認した。試験片に内在欠陥が存 在しないことを確認した後、予備試験として引張 試験により周波数変化荷重の調査を実施した。 本試験では、周波数変化荷重の直前と直後で一 次負荷した二パターンの試験片を作成し、周波数 変化荷重時に試験片に発生した損傷の調査を実施 した。 損傷調査では、まず水浸超音波探傷試験を実施 し、内在欠陥の有無を確認し、その試験片を切断 — 13 — 図 3 試験手順 IIC REVIEW/2015/04. No.53 図 4 試験片と AE センサ設置位置 タでも、破断前に何らかの損傷が発生したことを 4. 実験結果 示す兆候は確認できなかった。 4.1 引張試験結果 一方、 図 5(d)に示す重心周波数解析結果では、 本試験では、5 体の試験体について、試験体が 試験時間 150 秒近傍にて重心周波数の変化が明瞭 破断するまで引張荷重を増加させる破断試験を実 に 確 認 で き る。 こ の 周 波 数 変 化 後 に、Hit 数 や 施し、周波数が変化する荷重を調査した。図 5 に Energy の値が減少している。 表 1 に各試験片の重心周波数変化荷重を示す。 は、試験片 TP5 による試験結果を代表として示す。 (a)に Hit 数と荷重の時間履歴を、 (b)に Energy 重心周波数変化荷重の最小値と最大値の差は約 と荷重の時間履歴を、図 5(c)にひずみと変位の 10kN であった。この荷重のバラツキは、試験片 荷重履歴を示す。Energy とは、計測された AE 信 が複合材料であるため金属材料のように応力集中 号波形の振幅積分値を示す。本試験では、試験開 部を発生させるように形状を成型できないことか 始直後から弾性域での変形に伴い Hit 数が増加す ら、損傷位置等が均一ではないためであると考え るが、100 秒を経過したあたりから Hit 数の減少 る。 が見られる。しかしながら、健全材でも変形しきっ そのため、一次負荷材作成時には、負荷荷重の てしまうと Hit 数の減少が見られることから、Hit 余裕をとって周波数変化前の試験片(低負荷材) 数の減少や Energy では損傷の有無を判断すること の負荷荷重を 20kN、周波数変化後の試験片(高 は難しいと考える。また、ひずみ及び変位のデー 負荷材)の負荷荷重を 50kN とした。 表 1 重心周波数変化荷重 — 14 — (a)Hit 数と荷重の時間履歴 (c)ひずみ、変位の荷重履歴 (b)Energy と荷重の時間履歴 (d)重心周波数(F.C.O.G)と荷重の時間履歴 図 5 引張試験結果 4.2 損傷調査結果 方形の指示は一次負荷試験で試験体に設置したひ 一次負荷材に対して、水浸超音波探傷試験を用 ずみゲージである。 いて重心周波数変化後の損傷有無を調査した。水 低負荷材、高負荷材共に、受け入れ検査時と一 浸超音波探傷は、「JIS K 7090 炭素繊維強化プラス 次 負 荷 後 の 探 傷 結 果 に 変 化 が な か っ た。JIS K チック板の超音波探傷試験」に準じて行った。図 7090 は大きさ 2 × 2mm 以上、直径 2mm 以上の剥 6 に水浸超音波探傷結果を示す。 (a)(b)は受け 離などの傷を検出する方法であることから、周波 入れ検査時探傷結果を、 (c)(d)は一次負荷後の 数変化直後に発生した損傷は本規格の検出限界値 探傷結果を示す。試験体中央に表示されている長 よりも小さいことが考えられる。 受け入れ検査探傷結果:(a)低負荷材、(b)高負荷材 一次負荷後探傷結果:(c)低負荷材、(d)高負荷材 図 6 水浸超音波探傷結果 — 15 — IIC REVIEW/2015/04. No.53 図 7(a)に低負荷材、 (b)に高負荷材の断面 が確認された。加えて、重心周波数変化後の試験 観察結果を示す。本結果は試験片の長手方向断面 片では一部小さな剥離が発生していたことから、 を観察した結果であり、図の方位方向が引張方向 AE 信号の重心周波数変化は剥離の直前を捉えて となる。図中の赤線は表示スケールを示しており、 いると考えられる。本手法では、CFRP 試験片の 低負荷材は 20mm、高負荷材は 50mm である。図 剥 離 直 前 の 荷 重・ 応 力 を 確 認 で き る こ と か ら、 中の黄色丸と黄色矢印は確認された欠陥を示して CFRP 材の強度評価・損傷評価等への適用が期待 いる。 できる。今後は、この重心周波数変化に着目した 低負荷材の結果では、長さ 20mm 以下の傷が少 方法を疲労試験に適用する予定である。 量、高負荷材の結果では 50mm 前後の欠陥が多量 また、今回は非破壊検査手法として水浸超音波 に確認された。これらの欠陥は樹脂割れであると 探傷試験「JIS K 7090」を適用した。断面観察か 考えられ、高負荷材では一部小さな剥離が発生し ら確認された樹脂割れは 50mm 前後と本規格の欠 ている部分も確認できた。この結果より、AE 計 陥検出限界よりも小さかったため、内在欠陥を検 測における周波数変化の現象は 50mm 前後の樹脂 出することができなかった。今後は、その他非破 割れに起因して発生していることが確認できた。 壊検査手法を用いて本欠陥の検出性を確認する予 高負荷材では一部小さな剥離が発生していたこと 定である。 から、剥離の直前を示す傾向であると考える。 参考文献 5. まとめと今後 (1) 燃料電池実用化推進協議会(FCCJ)、FCV と 水素ステーションの普及に向けたシナリオ、 本稿では、CFRP 試験片の引張試験 AE 計測に FCCJ、http://fccj.jp/pdf/22_csj.pdf、(2014) おいて確認された AE 信号の周波数変化に着目し、 重心周波数変化直後に発生した損傷の確認を行っ 、2015 年 (2) 石油エネルギー技術センター(JPEC) た。断面観察の結果、50mm 前後の樹脂割れに起 の燃料電池自動車・水素ステーションの普及開 因して AE 信号の重心周波数変化が発生すること 始 に 向 け て、 実 施 す べ き 規 制 再 点 検 項目、 (a)低負荷材 (b)高負荷材 図 7 断面観察結果 — 16 — http://www.pecj.or.jp/japanese/report/2011report/ of the Damage Evaluation Method for the CFRP deta/rep04_05.pdf、(2011) Material Using F.C.O.G part 1, Proceedings of the (3) ASME Boiler and Pressure Vessel Code, Section V, 22nd International Acoustic Emission Symposium, Article 11, Acoustic Emission Examination of Fiber Reinforced Plastic Vessels, American Society IAES-22 SENDAI, 2014/11, pp.105-110 (6) Hiraku Kawasaki, Mami Takizawa, Hideyuki Nakamura, Hiroyuki Sato and Isamu Iida :Strudy for Mechanical Engineers, Latest edition (4) 川﨑拓、滝沢真実、中村英之、佐藤浩幸、飯 of the Damage Evaluation Method for the CFRP 田伊佐務:AE 法における F.C.O.G 手法を用い Material Using F.C.O.G part 2, Proceedings of the た CFRP 健全性評価手法の検討、IIC REVIEW、 22nd International Acoustic Emission Symposium, No.51、2014/04、pp.39-43 IAES-22 SENDAI, 2014/11, pp.111-116 (5) Mami Takizawa, Hiraku Kawasaki, Hideyuki (7) 特許出願中、特願 2013-011110「強度検査方 Nakamura, Hiroyuki Sato and Isamu Iida : Strudy 法及び強度評価用データ出力装置」 検査事業部 技術部 検査事業部 技術部 川﨑 拓 滝沢 真実 TEL. 045-791-3523 FAX.045-791-3547 TEL. 045-791-3523 FAX.045-791-3547 検査事業部 技術部 検査事業部 技術部 NDE グループ 部長 博士(工学) 戸部 訓子 中村 英之 TEL. 045-791-3523 FAX.045-791-3547 TEL. 045-791-3523 FAX.045-791-3547 計測事業部 材料試験部 福浦グループ 課長 計測事業部 材料試験部 福浦グループ 佐藤 浩幸 飯田 伊佐務 TEL. 045-791-3519 FAX.045-791-3542 TEL. 045-791-3519 FAX.045-791-3542 計測事業部 材料試験部 福浦グループ 田中丸天兵 TEL. 045-791-3519 FAX.045-791-3542 — 17 — IIC REVIEW/2015/04. 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