Title Author(s) Journal URL Australia 抗原 (Hepatitis Associated Antigen) について 村上, 省三 東京女子医科大学雑誌, 41(3):149-156, 1971 http://hdl.handle.net/10470/1576 Twinkle:Tokyo Women's Medical University - Information & Knowledge Database. http://ir.twmu.ac.jp/dspace/ 1 (無職鋳56油綿46難謂) 〔綜 説〕 Australia抗原(Hepatitis Associated Antigen) について 東京:女子医科大学輸血部 教授 村 上 ムラ カミ セイ 省 三 ゾウ (受付 昭和45年12月22日) On the Austra1量a Andge甑(Hepatitis Associated Ant量gen). by Pro£Seizo MURAKAMI, M.D. (Blood Trans魚slon Service, Tokyo Women,s Medical College) Australia antigen is now considered the antigen associated with viral hepat三tis, especially serum he. patitis. I have reviewed some recent literatures on that antigen and also reported our experiences about blood donors and patients. The method used are the immunodi航【sion method(micro.Ouchterlony) and our revised technique using the precipitation by polyethyleneglycol, The incidence of the antigen in blood donors are O.78%in male and O.56%in艶male donors. Tili October,1970, we have got 112 Au(1)一positive donors and among them only g were those with abnormal sGoT and/or sGPT values. In 6204 patient samples we have fbund 55 Au(1)一positive and 46 anti−Au(1)一positive samples and could con且rm that in some cases Australia antigen seems to become positive without parenteral exposure to blood or blood derivatives. はじめに 者などに高率に検出されることがわかり,ことに Australia抗原とはBlumberg1)が血友病患者に その背後にある疾患として肝炎が大きく浮び上っ できたある種の血清タンパクに対する抗体であろ てきた.その間の事情についてはすでに多くの報 うと思われたもめを使って,24例のヒト血清を検 告がなされており,詳述する余裕もないので,他 査したところ,1人目オーストリア原住民の血清 の文献(たとえば文献3∼11)をご覧いただきた のみが陽性に反応したところがらそのように命名 い。 されたものである.かれは最:初は遺伝する血清因 Australia抗原のあらまし 子の1つと考えたが(今でもこの抗原による慢性 BlumbergらはAustralia抗原は1血清肝炎にも 感染に対する感受性は劣性遺伝子の影響下にある 伝染性肝炎にも検出されるとしているが,1968年 と考えている,Blumbergら2)),その後白血病, Princelら12)は血清肝炎のみに検出される抗原を発 Down症候群, Hansen氏病,ウイールス性肝炎患 見し,これをSH抗原と命名した.またGocke 一149一 2 第1は,Australia抗原は伝染性肝炎にも血清肝 ら12)は両種のウイールス性肝炎の初期に高い陽性 炎にも検出されるとする説である。81umbergな 率を示す抗原を報告し,hepatitis antigenとよん だ,これら3種の抗原はその後の研究により,全 どもいまだにこの考え方をすてていないようであ く同じものか,あるいは極めて似かよったもので る.一般的にいうと,後者の方が検出率が高いと あることがわかったので,共同の命名を与える必 されている.これに対しては伝染性肝炎では血液 要が生じてきた.そこで1968年のYale大学での conferenceでH.A.A.(hepatitis associated anti. 中に現われる抗原量が概してすくないことのため という考え方がなされている.Changら17)は最近 gen)が提唱された.正式に決定したわけではない の報告8つを集計して,1血清肝炎で46%,伝染性 が,広く使用されている, 肝炎では32%に検出されているとしている.この 一方,Bayerら14)はAustralia抗原陽性の患者 考え:方では,言種の肝炎は同じ起炎ウイールスに の血清中に直径20m粋ぐらいの粒子をみつけ,こ よって発症するもので,ただ侵入口や感染径路の の粒子が抗Au(Austraiia)抗体で凝集することか 差によって別れたり,また初感染か再感染かによ ら,Austraha抗原はこの粒子の中にあると推論 り,臨床的にも1血清学的にも異なる所見を呈する した.さらにMillmanらは15)は蛍光抗体法によ のではないかとされている(Hirschman ら18)), り,ウイールス性肝炎患者の肝細胞の核の上また 第2はPrinceらi2)の主張するように, S H抗 は中にAustralia抗原の存在を確認した.この大 原(Australia抗原)は工倉!清肝炎とのみ関連を持つ きさはかって血清肝炎の起炎ウイールスに想定さ とする考え方である.今日までの常識では,血 れた大きにほぼ一致している. 清肝炎は注射針やいれずみ,あるいは手術など, 起炎ウイールスが消化管を経由しないで,体内に また1969年にLeveneら16)はIeukaemic reticu− loendotheliosisの患者血清でウサギを免疫して, 持ちこまれる時にのみ発生するとされていたが, 今までの抗Au抗体とくらべると,共通の部分は 経口的にも十分感染を起こし得るとしている.す あるが,その他にそれぞれ特有の部分が認められ なわち,両種の肝炎は感染経路には差異がなく,起 る新しい抗体を得た.この抗体で検査すると,肝 炎ウイールスそのものに差があるとする考え方で 炎や無黄疸性肝炎にも,また健康とみなされる人 ある.Krugmanら19)20)は知能障害児の収容施設 にも,今までの抗体にくらべるとはるかに陽性率 であるWillowbrook State Schoo1における肝炎の が高く,ことにフィラデルフィア地区での肝炎発 発生を長年にわたって観察していたが,肝炎に2 生率から逆算して得た一般住民の汚染率が健康人 種類あることに気づき,これをMS−1とMS−2と に分けた.MS−1は潜伏期の短かい肝炎で,今ま での陽性率によく一致したことから,多くの学者 の注目を集めたが,残念なことにはその後同じよ での考え方では伝染性肝炎に,MS−2は潜伏;期の うな抗体を得ることはできないといわれている. 長いもので血清肝炎に相当する.Australia抗原は また,今までの抗体で検出される抗原にAu(1), そのうちMS−2にのみ97%の高率に検出された. 新しい抗体で検出された抗原にAu(2)という かれらはさらに感染実験をおこなったが,MS−2 記号が与えられることとなり,陰性のものはAu 血清を筋肉内と経口的とにわけて投与してみた。 (0)とよばれている. 筋肉内注射では,S−G OT上昇は平均65日, Aus− 以上のように,Australia抗原は現在ではウイー tralia抗原出現には28∼43日を要したが,経口的 ルス性肝炎の起炎ウイールスそのものか,あるい 投与では投与量を50倍にしても,S−GOT上昇には はそれに近いものと考えられている. 平均98日,Australia抗原出現一こは68∼81日とかな りの長時間を必要とした.また同じ経路では接種 Australiaと抗原とウイールス性肝炎 前項にもふれたように,Australia抗原とウイ ールス性肝炎との関係には相反する2つの考え方 がおこなわれている. 量:に逆比例して潜伏期は短縮する(Barkerら21)). Princeらの最近の報告でも伝染性肝炎と思われ る,MS−1では4例全部,14才以下の散発例では 一150一 3 表1 各種肝炎におけるAustralia抗原の出現状況 (Blumbergら1970) 鮮2智留甥鎧臨床的所見 肝 機 能 急性肝炎 a輸血後肝炎 b伝染性肝炎 慢性活動性肝炎 十 十 一過性1∼58% 黄疸,発熱,アノキシア ノ ∼38% 肝腫大,生検一急性肝炎 S.GPT 1000U以上 AP上昇,ビリルビン>3mg/100m璽 持続的 3/6 上に同じ,慢性化 S−GPT>100<500 持続的 ∼30% 黄疸なし,時に肝腫大 S−GPT 40一ユ00 SBP∼5% ∼10% 生検で慢性肝炎の所見 その他正常 原病による症状と区別し 慢性無黄疸性肝炎 Down症候群 白血病(CMLを除く) 十 ノク 結節らい 〃 ツ20% 長期腎透析 !ク 8/9 健康保有者 !ク にくい 1∼20% 一見正常 正常またはS−GPT軽度上昇 19例全部,伝染性肝炎の74例では1例をのぞきす が極期に達したころ,臨床症状の出そろった頃に べてAustralia抗原は陰性であったが,一方, MS− はむしろ陰性化する.したがって検査材料をい 2(100%),注射針による感染と思われる例(66 つ,どのような間隔で採取するかが大きく成績を %),輸血後肝炎(58%),非経口的な感染の考えら 左右する.またアメリカでは陽性率は高い(Gocke れない成人のウイールス性肝炎(55%)などで はかなりの高率に検出されている.また最近血 液透析患者に接する医師,看護婦や技術者にも ら13))がオーストラリヤ(Ferrisら27))イギリス され,また同じイギリスでもLondonは高率であ Aust・alia抗原陽性の肝炎の流行がしばしぼ報告さ る(Cossartら30)).一般住民間の陽性率でもかな れ(たとえば文献23∼25)るようになったが,中 りの差があり,白人0.1∼0.3%,日本人1%, には非経口的感染の考えられぬ症例もあり,これ 東南アジア,太平洋諸島3∼7%,地中海沿岸2 は伝染性肝炎と考えるよりも,患者と同じ肝炎が ∼4%,アフリカの一部10%となっている. (Rossら28), Laiwahら29))では低い数字が報告 発生したと考える方がより合理的と考えられる. 慢性活動性肝炎では,急性肝炎にくらべて永続 一方,以上のような事実は感染実験にこそ認め 的に検出されることが多い.しかしこの場合で られるが,実際の流行にはあり得ないとする人々 もFoxら37), Sherlockら32)はイギリスではかな もある.しかし伝染性肝炎では,最近の報告でも らずしもそうではないとしている.わが国では Changら17), M・sleyら26)の報告のように感染実 Okochiら33)は11%という数字をあげているが, 験を裏書きするものがあり,われわれとしても一 われわれも後にのべるような経験によりかなり高 応考慮の要があるのではあるまいか. 率なのではあるまいかと見ている. さてこの新しい考え方を信ずるか否かは別とし Down症候群や白血病,結節らい,長期血液透 て,Australia抗原がウイールス性肝炎に検出され 析患者では,免疫的にいわぽ不全の状態にあるの ることには異論はない.しかし肝炎の各時期でも で,一旦Australia抗原が侵入すると,これを早 出現率はかならずしも一様ではない.またその国 く消滅させることができないので,長期間にわた (地方)にAustralia抗原陽性の肝炎が広く蔓延 り抗原を証明することができる. Australia抗原の検出法 しているか否かによっても陽性率に差がある.表 1にBlumbergら9)が最近まとめているものを少 Australia抗原は当初免疫拡散法で検出された し簡略化してかかげておく.ご覧のように,急性 が,その後数多くの検出法が考案された。大別す 肝炎では主として潜伏期の後半,臨床症状出現 ると,補体結合を利用するものとそうでないもの の初期にのみ一過性に出現し,S−GPTやS−GOT とにわかれる。前者には補体結合反応(Shulman 一151一 4 ら34),Purcellら35)),免疫吸着反応(大河内ら) おれわれは1969年5月以来,人由来抗Au抗体 などがあり,後者には昔ながらの免疫拡散法の を利用して供血者のスクリーニングを続けてい 他に,免疫泳動法(Princeら36), Gockeら37), る.Australia抗原陽性血液を輸血すると,陰性1血 Pesendorferら38), Sarvisら39))がある.その他, 液輸血例に比べて有意の差で肝炎発生率が高い 血小板凝集反応,受身血球凝巣反応およびその抑 ことは大河内10),Okochiら44), Gockeら45)46), 制反応を利用したもの(Vyasら40)), radi・三mm− Alterら47), Fadellら48)により認められている。 un・assay(Walshら41)),蛍光抗体法などがある. すなわちAustralia抗原陽性の肝炎を発生するか, これら諸法のうち,免疫拡散法は簡単ではある あるいは無症候のままAustralia抗原が血液中に が,感度においてはもっとも鈍感とされている.し 出現してくる.一方,抗Au抗体を発生してくる かし特異度は逆にもっとも高い.電気泳動を加味 こともある.抗体が発生すると,ある程度肝炎の してくると,感度は4∼1σ倍に上昇するというが, 発生を抑制する効果がありそうである.陰性血液 特異度では多能の難点を生じてくる.一方,補体 を輸血しても肝炎が発生するのは,われわれの持 結合反応,殊に免疫吸着法は感度においてはもっ つ検査法がまだまだ不十分であるためであること ともすぐれているが,鋭敏度では使用する抗原や はもちろんであるが,Au(2)抗原が関与して 抗体に十分な注意を払わないと欠陥を生じてくる いるかも知れない.したがって,Australia抗原陽 とされ,一長一短がある.われわれはあとにも述 性血液を輸血することは人道的に許せない.現 べるようにJasminら42)がFriend virusの濃縮に 在の状態でAu(1)抗原のみを対象としてスク 成功した方法にならってpolyethyleneglycolによ リーニングをおこなうことに対しては,検査に使 る濃縮法をおこなってある程度免疫拡散法の感度 用する材料,術式などにまだまだ問題があるの を上げることに成功している(川井ら43)).Vyas で,アメリカのNational Academy of Sciences− らはかれらの方法がもっとも鋭敏で,感度も高く, National Research Councilの医学部門の血漿およ 血液銀行における供血者のスクリーニングにも使 び代用血漿委員会44)は極めて慎重であるが,Alter 用でき最良であると自負しているが,抗原を精製 しなけれぽならない点が今のところブレーキとな ら47)は抗体保有者からplasmapheresisをおこなっ てでも抗体を集めて実施すべきだとしている. 表2 免疫拡散法原法とPEG法の比較 っている.また,その精製度の如何によっては補 体結合を利用する方法と同じ欠点が考えられる 原 法 が,かれらの抗原は10倍に濃縮しても抗ヒト血清 に対しては沈降線を生じなかったとしている. PEG法 ・pl・P 十 十 radioimmun・assayは複雑で,時間を要する欠点 十 十 がある.また免疫拡散法でも寒天その他の材料を 十 十 反 応 吟味し,資料を2∼3回と追加充填すれぽかなり 十 十 各法の評価は今後動物免疫により高力価でしかも 検査脚数 品質の安定した抗体が大量に補給されるようにな 陽 れぽおのずから定まってくると思うし,」血液銀行 陽 性 率 の供血老のスクリーゴングのために使用するか, 性 60 50 83.33 24 3 十 よい成績が得られるようになるといわれている. 計 n.t 1 十 22 十 1 十 9 59 60 29 56 48.33 94.91 100.00* *1Pと2Pとのいずれかでは全例陽性 臨床検査法として使用するかによっても異なり得 われわれの採用したpolyethyleneglyco1(pEG) る.以下われわれのところで川井を中心におこな 法は,つぎの通りである.すなわち,被検血清1 っている検査成績の一部を報告する. mlに対し,まずPEG6,000,0.2mlを加え, よく混和して,4℃に2時間おき,遠心,その沈 供血者のスクリーニング 一152一 5 材料の関係上大量輸血時の血清は検査対象から脱 渣を1Pとし,その上清にさらにPEG 6,000 0.3m1を加え,4℃に2時間おき,遠心,その 沈渣を2Pとした,この!Pと2Pとを数滴の食 知する一助としておこなった.その結果は6,204 塩水で溶解し,免疫拡散法を実施した.その結 例中抗原陽[生34例,抗体陽性28例で,抗原検出率 果は表2に示す通りで,免疫拡散法の原法およ び1:P,2Pいずれかで陽性と判定された60例で は0.54%で,供血者よりむしろ低率であった.そ は,検出率は原法83.33%,PEG法は1Pで 48.33%,2Pで94。91%,1Pと2Pとを合せ 性率の高い青年男子がすくなく,むしろ老年者, 落するおそれはあったが,1血清肝炎の推移を探 の理由としてはいろいろ考えられるが,第1に陽 ると100%であった。すなわちAUstralia抗原は 少年層など検出率の低いと思われる年令層の比 率が高いこと,第2には供血者の場合は採血後1 PEGで遅れて沈降する分子量の小さいタンパク ∼2日の間に検査がおこなわれるが,患者の場合 と一しょに沈降することがわかった. は多くは採.血肥2週以上,時には!ヵ月ぐらい経 われわれのスクリーニングは3期にわけること 過した後検査がおこなわれていることなどが考え ができる.1969年10月までは原法のみ,1970年 られる.しかし,月別に観察すると,1969年は同 8月までは原法で陰性のものにさらにPEG法を 期間に供血者では46例の陽性者が得られていたの おこない,9,月以降は一血清1mlに対しPEG にかかわらず,2,703例中わずか4例しか検出さ 6,000,0.6m1を加えた沈渣iを利用したPEG法 のみを採用している.10月初旬まで合計112名の れていない.工970年に入っては5月以降または検 陽性者を検出しているが,うち男性104名,女性 清中原法で抗原または抗体を検出し得たもの, 出率が下ってきたので,8月上旬5月以降の血 8名である.このうちS−GOT, S−GPTのうち, および:量のいちぢるしく不足しているものを除 すくなくとも1法が40単位以上であったものはわ き, 1,109例についてPEG 6,000を0.6ml加 ずか9名で8%にすぎなかった.なお第2期では 原法で検出されたもの56名,PEG法で追加され たもの11名であった.1970年2月までの成績で えて作った沈降物をつかって再検査をおこなった 検出し得た。その浜原法による陽性者は1,284例 は,陽性率は男性0.78%,女性0.56%で,男性 中抗原6名,抗体8名で,両者を合わせれば抗原 にやや高く,年心的には若年者に高く,男性で は!.47%,抗体は1.40%に陽性であったこととな 20才まで.071%,30才まで1.03%,40才まで0.57 る.このことは血清が冷蔵庫に保管されていたこ ところ,さらに抗原陽性者13名,抗体陽性老10名を %,それ以上では579名中1名にすぎなかった, とと合わせて第2にかかげた理由がより大きな原 これらは今まで血液提供者としては若い男性がよ 因であろうと思われる.また採血後時日を経過し いとされていた考え方に大きな反省をうながすも た血清を検査する場合には,原法では不十分で, のであると同時に,生化学的な肝機能検査法によ PEG法など,より鋭敏な検査法が特に有効であ るスクリーニングの矛盾をよく示している.しか ることがわかる.また結局10月上旬までの陽性例 しS−GOTやS−GPT値とはほぼ平行して陽性率 も上昇しており,たとえぽS−GOT値30単位を境 は抗原55例(うちPEG法で検出したもの21例), 抗体46例(うちPEG法18例)であったが, PE にしてみると,男性で以下では0.78%,以上では G法は一部にしか実施してないので,これを全例 0.92%であった.なお抗Au抗体保有者はPEG におこなえば,さらに多くの陽性例が得られたで 法を採用して以来1名発見された. あろうことは容易に想像される.また抗原陽性例 患者血清についての検討 われわれは交差試験用として輸血部に提出され た患者血液中,1週間の有効期間を過ぎてなお残 55例は患老実数にすれぽ33名,抗体陽性患者実数 は34名であった.また抗原陽性患者33豊中病名の っているものから」血清を分離し,画法によってAu− 調査できたものは肝炎3:肝胆道疾患4;心疾患 9;胃がん5;急性白血病2;尿毒症2;食道が stralia抗原および抗体の検出をおこなってきた. ん1;その他3であった, 一153一 6 われわれの調査がはじめから肝炎を意識してお おわりに こなわれたもので.はないので,同一患者に対して 以上,われわれが今日までに得たデータの一部 反復検査の機会を持つチャンスは,一に輸血を反 を報告したが,Australia抗原と血清肝炎とについ 復する必要があるか否かにかかっており,また実 ては,この際思い切って考え直してみなけれぽな 際に血清肝炎が発症する前後のもっとも検出率の らぬ問題点が多い.そこで最後に将来どのような 高い時期にはむしろ資料を得ることができなかっ ことが送春になるかを展望してみたい. たと思われることも,患者における陽性率の案外 第1に,血清肝炎と伝染性肝炎とがそれぞれ別 低かった理由の1つであろう.また同じ理由で長 別の免疫学的機構による疾患とするならぽ,別々 期にわたり連続的に抗原を検出できるような例に の異なった抗原を見出さねぽならぬ,Australia抗 遭遇することもすくなかったが,それでも白血病 原が血清肝炎に特有なものであるとするならば, の2例,尿毒症(血液透析患者)の1例に長期に 伝染性肝炎にもそれに見合うような診断的根拠に わたる陽性例を経験した. もなり得るような抗原や抗体が欲しい. また抗原陽性者33名中,調査することを得た31 第2に,Australia抗原が血清肝炎に特有とする 名について,何回目の検査ではじめて検出し得 ならぽ,もっと鋭敏度や感度にすぐれた検出法が たかを調べてみたところ,1回目19例,2回目6 考案されねぽならぬ.ことに急性肝炎において極 修羽, 第3回目1{列, 4回目2て列, 5回目, 7回 めて一過性にしか検出できぬことが,検出法の 目,10回目それぞれ1例で,むしろ回数の若い方 改善によって埋められるようなギャップであるの にかたよっていた.このことはわれわれが反復し かどうか。今日でもAustralia抗原はどうも単一 て検査できるような例に余り遭遇しなかったこと のものではなく,いくつかのsubfactorsにわかれ にもよるが,Australia抗原が急性肝炎では極め るといわれているが(Del Prete50)ら, Raunio5D て一過性にしか検出し得ないことを考えると,む ら),抗原や抗体の画一化でどこまで検出率を高め しろ意外なデータであった.うち1回目で検出し 得るかも問題であろう.一方,Barkerら21)のいう 得た19例について,抗原検出前後数日間におこな ように,補体結合反応で10倍の抗原価をもつJ血1漿 われた肝機能検査の成績を調べてみたところ,該 を,1万倍に希釈したものを皮下に11nl注射し 当する検査のおこなわれていた15例中,実に14例 ても肝炎をおこし得るし,1,000万倍に希釈した は1またはそれ以上の項目で異常値が認められ ものでも臨床症状はあらわれないにしてもAustra− た.このことはわが国では慢性肝炎での検出率が ha抗原が血中に出現したということや,実際の かなり高いことを思わせる.またそのうち3例 輸」血量の多いこと,またAustralia抗原が真にvirus は,輸血の既往歴もなく,その時おこなわれる手 であって輸注後増殖するとすれぽ,果して血清学 術の際の輸血準備のために提出された交差試験用 的検査法のみでどこまでアプローチできるのであ 血液で陽性と判定されていた.また肝機能検査も ろうか. すでに1∼2項目で異常値が認められていた,こ 第3に,今日われわれはAustralia抗原として Au(1)を主として追求してきている,しかし の肝機能異常値はあるいは原病によるものと解釈 できぬこともあるまいが,同時にAustralia抗原 さきにも述べたように工eveneらはAu(2)の が陽性であったことはすでに述べたPrinceらの 存在をウサギで得た抗体で確認している.しかも 考えているように,輸血や注射器などによらな Au(2)の陽性率はAu(1)にくらべてはるか に高いとされているのに,人体で抗Au(2)抗 い.経口的な感染があり得るのではないかと思わ せる.注射器による感染の有無の断定はむつかし いとしても,血清肝炎の元兇と目されている輸血 を実施する前に,Australia抗原が陽性であり得る 体ができたという報告はまだないようである.あ ことは考慮しなければならない事実である. 物実験でもできにくいと今のところは考えてよさ るいはわれわれの手に届かない量でできている のかも知れないが,とにかく抗体が人体にも動 一154一 7 そうである.一方,Au(1)の場合は,抗体が 18玉 (1969) 16)Levene, C。 and B。S。 B1麗mberg 3 Nature 221 できるとある程度肝炎の発生を抑制する効果はあ 195 (1969) りそうである,と考えてくると,もしLeveneら 17)Cba蹴g, L.W. and T。F.0,Brien:Lancet 2 59 (1970) のいうことが事実であれぽ,Australia抗原のう 18).Hirscbman, RJ., N.R. Sbulman, L.F. ち,血清肝炎により関係が深く,より重要である Barker and K.0. Smi伽JAMA208 のはむしろAu(2)であるということになる. 1667 (1969) 19)Krugman, s・, J・P・G麺es and J・Hammond= とすると,われわれに与えられたもっとも重要な JAMA200365(1967) 課題は,Au(2)の追求ということになる.し 20)Krugman, s・and J・P・Giles3 J A M A かし今日までウイルス学的に,また生化学的に追 212 1019 (1970) 21)Barker,正.E. N.R Shulman, R. M皿rray, 求されたデータを見ても,これこそAu(2)の RJ・Hirschman, F・Ratner, W・c・L・Die・ 艶nbacぬand H・M・Ge旦墨er3 J A M A 211 存在を確認してくれるというものもなさそうであ る、とすると果してAu(2)とは何かという疑 1509 (1970) 22)P血ce, A.M。, RI。 Hargrove, W. Sz皿賦血ess, 問もないではない. C.E. Cllerubin, V.」. Fonta聡a and G.H. おわりに患者病歴の調査にご.協力いただいた関係各 Jeff士ies=New Eng J Med 282987(1970) 教室に感謝します・なおわれわれのデータもすべて公開 23)正ondon, W.T. M. DiFig1ね, A.1. Sutnick いたしますので,ご利用いただきたいと思います. and B・S・Blumberg;New Eng J Med 281 571 (1969) 文 24)Tumer, G.C。 and G.B.B. Wbite=Lancet 献 2121(1969) 1)Blumberg, B.S.:Bull N Y Acad Med 25)Norde㎡e亘t, E. and L Kjellen= Acta path 40 377 (1964) microbiol Scand 77489(1969) 2)B亙umberg, B・s・, J.S・Friedlaender, An量ta, 26)Mos且ey, J・w・, D・F・Barker, N.R. Shu互man Woodside, A.1。 Sutnick, and W.T. London 3 and M。H. Hatch:Nature 225953(1970) Proc Nat Acad Sci 621108(1969) 27)Ferris, A・A・, J.賊aldor,1.D。 Gust and 3)Blumberg, B・s・, H・J・Alter and s・A. vis− G。Cross塁 Lancet 2243(1970) nich3 JAMA191541(1965) 28)Ross, C.A.C. and S. McM量chael:Lancet 4)Blumberg, B.s・, B.J.s. Gerstley, D.A. 261(1970) Hungerfbrd, W.T. London and A.1. Sut・ 29)Laiwah, A.C.Y., R.B. Goudie, DM。 Gold・ 且nick=Ann Int Med 66924(1967) あerg,」.F. Davidso臨 and T.S。 Murray塁 5)Blumわerg, B.S., L Melartin, M. Lechat and Lancet 2 121 (1970) R.S. Guinto 3 r.ancet 2173(1967) 30>Cossart, Yvo㎜e E。 and J. Vahrman: 6) F亘umberg, B.S.: Jclin Invest 45988(1966) Brit Med J 1403(1970) 7)sut血ick, A.1. w.T. Lon魂on, Betty Jane s. 31)Fox, R.A. S.P。 Mazi and Sbeila Sberlock 3 Gerstley, M.M. Cmnlund and B.S. Blum− ][.ancet 2609(1969) berg=JAMA205670(1968) 8)B亙麗mberg, B。S.3 〕装京1甕学雑誌 32) Sherlock Sbeila, R。A. Fox, S。]P. Niaz量.and 76 324 P.J。 Scheuer言 Lancet 124ゴ3 (1970) (1968) 33)Okochi, K. and S。 Murakami:Vox sang 9)Blumberg, B.S. a−d Liisa, Melartin l Arch Int Med 125287(1970) 15 374 (1968) 10)大河内一雄:臨床免疫1405(1969) 34)Sbulman, N.R. and L.F. Barker;Sciencc 11)村上省三:日本医師会雑誌64(12)ユ357∼1365 165 304 (1969) (1970) 35)Purce1旦, R.H。 P.V。 Ho1亘and, J.H. Wa互sh, 12)Prince, A.M.3 Proc Nat Acad Sci 60814 D.C. Wong, A。G. Morrow and R.M. Cha・ noc猛言JInfbct Dis 120383(1969) (1968) 36)Prince, A.M。 and Ka出1een Bur駄e 3 Science 13)Gocke, D.」。 and N.B. Kavey 3 Lancet l 169 593 (1970) 1055 (1969) 14)Bayer, M.E。, B.S。 Bl皿mberg and Barbara, 37)Gocke, D・」・and C・Howe=J ImmunoI Werner: Nature 2旦8 1057 (1968) 15)M且11man,1・, v・zavat・ne, Betty Jane S. 38)Pesendorf6r, F.0。]Kfassnitzky and. F。 . 104 1031 (1970) Gerstley and R.S. Blumberg 2 Nature 222 Wewalka:Kl Wschr 4858(1970) 一155一 8 39) Sarvis, C.A., C. Trey and G,F. Grady: Kavey: Lancet 2 248 (1969) 46) Gocke, D.J., H.B. Greenberg, and N.B. Kavey: J A M A 212 877 (1970) Science 169 298 (1970) 40) Vyas, G.N. and N.R. Shulman: Science 170 332 (1970) 41) Walsh, J., R. Yalow and S.A. Berson: J 47) Alter, H.J., F.V. Holland and P.J. Schmidt: Lancet 2 142 (1970) 48) Fadell, E.J.: Lancet 2 418 (l970) Infect Dis 121 550 (1970) 42) Jasmin, C., Jean-Claude, Chermann, 49) Division of Medical Sciences NAS-NRC; Colette, Piton, G. Mathe, and M. Raynaud : C R Acad Sci (Ser D) 268 876 (1969) Transfusion 10 1 (1970) 50) Del Prete, S., D. Cestantino and M. Doglia: Lancct 2 292 (1970) 51) Raunio, V.K. W.T. Lendon, A.I. Sutnick, 4・3) )[l#nt iL ・ *t-tkE ・ iz±A-t ee ・ E-tfiAf : ee 18N H Ag //Efi,u Ml.e;t 5t -(F agX (1970) 44) Okochi, K., S. Murakami, K. Ninomiya and M. Kaneko: Vox Sang 18 289 (1970) 45) Gocke, DJ., H.B. Greenberg and N.B. I. MMman and B.S. Blumberg: P S E B M 134 548 (1970) -156-
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