川崎市、熊本市、札幌市の公的オンブズマン制度の運用が政策法務にもたらす意義 ―立法法務の適正化の可能性― (1) 濱崎 晃 1. はじめに―本稿のリサーチ・デザイン 1.1. 公共政策と公的オンブズマン(ombudsman)制度の第三者性 日本が一連の地方分権改革を経て地方分権型社会に移行する中で、地域の公共的諸問題 を解決する上で主要な担い手となる地方自治体には、いわゆるゴミ屋敷問題といった具体 的な問題や支障が生じていて何らかの対応が求められる「問題解決型課題」と、特別な問 題や支障が生じているわけではないが自治基本条例や環境基本条例の制定といったよりよ い状況への改善を目指す「状況解決型課題」1に対応できるような公共政策が求められる。 本稿では、公共政策について、足立幸男(2003)に基づき、「行政機関がその任務又は所掌 事務の範囲内において、ある特定の問題や問題群に対処するために企画及び立案をする行 政上の一連の行為についての行動指針としての法令、条例、計画、規則及び要綱等を含む もの」2と定義する。 他方、地方自治体が公共政策や行政を執行する過程で、行政と住民3の間で見解・認識等 の齟齬や摩擦が生じて、それらが行政に対する苦情として表面化する場合もある。本稿で は、行政に係る苦情(以下「行政苦情」)について、 「行政活動により生じる住民の不利益に 係る不平・不満」と定義する。行政苦情が生じる場合には、行政と住民の間の様々な齟齬 等を解消し、住民との諍いが生じない行政の執行へとつなげていくために、地方自治体に おいては、公的オンブズマン制度4といった行政統制の制度が設置される。地方自治体によ る公共政策や行政の執行の結果、生じることとなる行政苦情について、公的オンブズマン 制度を通じて見直すことにより公共政策の応答性を担保していくこともまた同時に求めら れる。本稿では、公的オンブズマンによる行政苦情の調査・処理について、 「行政活動によ り生じる住民の不利益に係る不平・不満を受け付け、事実関係を明らかにし、それに基づ き住民の権利利益を擁護・救済することで、行政に対する住民の理解及び協力を得る業務」 と定義する。 公的オンブズマンによる公共政策の執行に係る行政苦情の調査及び処理に関して、今川 (1994)は、民主的な手続きを保証する手続き的な統制という観点からのみではなく、政策へ の評価を行い、政策の変更や形成に影響を及ぼす一つの主体としての「第三者性」が浮か び上がることを指摘している5。これは、公的オンブズマンの苦情申立人等にとっての代理 人としての働きのみならず、公共政策との関係性を示唆する指摘でもある。今川の指摘は、 政策の変更や行政の執行への改善を公的オンブズマンが行政機関に対して要請した場合、 改善状況を追跡して調査し、当局からの報告を求めることになり、それにより改善の可能 性が担保されること、また、必要に応じて自己の発意により調査して当局からの改善の報 1 告を求めることを通じて、当局に継続性をもった統制が可能であることと関係している。 本稿では、公的オンブズマンによる行政統制について、濱崎(2014a)に基づき、 「公的オン ブズマンが実施した行政苦情についての調査や発意による調査とその処理に基づき、公的 オンブズマンが行政機関に対して、行政活動や公共政策に係る民主制、公平性、効率性の 向上の観点から不備のある箇所について改めて良くなるように指導・監督し、また行政苦 情の調査結果に係る勧告及び意見表明、並びにその措置状況の公表を行うことを通じて行 政機関の権力乱用を防止するとともに、行政苦情を救済すること」6と定義する。 行政統制という観点からすれば、公的オンブズマンのほかに弁護士等で構成されるいわ ゆる市民団体としての「市民オンブズマン」や、諸外国から公的オンブズマンと近似する 機能を果たすものと評価されている7、行政相談委員があげられる。ただこれらと公的オン ブズマンとの違いをあげるとすれば、それは地方自治体の内部に設置される第三者機関と して、地方自治体の公共政策はもとよりその体質に起因する問題に関して、地方自治体に 対して一過性に終始することのない調査を継続して実施し、改善を求め実現できるかとい う点である。行政相談委員が地方自治体の法定受託事務及び自治事務に係る苦情等を受け 付けても、関係する行政機関等に通知するにとどまる(行政相談委員法第 2 条第 1 項)ため、 地方自治体に設置される公的オンブズマンのようにそれらの事務を所管する関係部署に対 して直接的に調査を実施し必要に応じて改善を求めることが必ずしもできるわけではない。 また、市民オンブズマンの場合、高寄(1996)が「市民オンブズマンによって違法支出を摘 出したとしても、一過性の市民統制に過ぎず、自治体の官治体質の変革、すなわち、組織・ システムを改善しなければ、病原菌の絶滅は不可能」8と指摘するが、市民オンブズマンに よる統制と、公的オンブズマンによる統制とを比較したときに、前者がいわゆる地方自治 体の外部からの統制であるが、地方自治体の内部からの統制である点に違いがある。 以上を踏まえると、公的オンブズマンは連続性のある調査を経て内部からの行政改善を 求めることが少なくとも可能であって、これは、行政相談委員や市民オンブズマンにはな い、地方自治体内部に設置された第三者機関という公的オンブズマン制度の特徴といえる。 1.2. 公的オンブズマン制度の運用と政策法務の相関関係性 公的オンブズマンの公共政策の変更や形成に影響を及ぼす第三者性としての性格に関連 してあげられる議論は、政策法務論9にも見られる。政策法務論においては、公共政策の五 段階モデル「課題設定→政策立案→政策決定→政策実施→政策評価」10から成る公共政策の 諸段階としての政策過程に応答する形で、法律事務のモデルを提示している。礒崎(2012) による類型を準用すれば、政策法務には「立法法務」「執行法務」「争訟・評価法務」があ げられる11。五段階モデルとこれらの法務の対応関係を見ると、五段階モデルのうち「課題 設定→政策立案→政策決定」に係る法律事務が立法法務となり、 「政策実施」に係る法律事 務が執行法務となり、 「政策評価」に係る法律事務が争訟(訴訟)法務ないし評価法務となる。 本稿では「争訟・評価法務」について、評価の観点に主眼を置くことから「訴訟法務」「評 2 価法務」として再設定した上で、立法法務を国の法令等を解釈したり、条例、規則、計画 及び要綱等を形成したりする法律事務、執行法務を条例、規則、計画及び要綱、並びに地 方自治体の事務を定める法令執行に係る法律事務、訴訟法務を国や地方自治体による行政 の執行の結果、行政苦情が発生し、それが公的オンブズマンによる苦情調査・処理の対象 となったり、また公的オンブズマンの業務の対象にとどまらず、訴訟に発展したりする場 合には応訴に係る法律事務でありかつ司法手続き全般に求められる法律事務、評価法務を 地方自治体が住民等との訴訟の結果をはじめ、住民等からの苦情の調査・処理を受けて、 判決、苦情調査・処理の結果等を踏まえた上での条例、規則、計画、要綱及び要領等の内 容と執行に対する見直しの法律事務とそれぞれ定義する。そして、これらを包摂する政策 法務を「国及び地方自治体がその任務又は所掌事務の範囲内においてある特定の問題や問 題群に対処するために、国の法令等を解釈しかつ行政上の一連の行為についての行動指針 として、条例、規則、計画並びに要綱・要領等を形成する立法法務、立法法務を執行する ための執行法務、執行の結果、訴訟に発展する場合の応訴をはじめ司法手続き全般に対応 するための訴訟法務、判決結果等を踏まえた上での条例、規則、計画及び要綱、並びに行 政事務の内容とその執行の見直しにつながる評価法務で構成される法律事務」と定義する。 政策法務論における公的オンブズマンの取扱いを見たときに、公共政策の変更や形成に 影響を及ぼす第三者性について議論しているものとして、兼子(2008)があげられる。兼子は、 公的オンブズマンによる改善・是正要請、勧告及び意見表明が、既存法規の枠内における 行政裁量の方針変更のほか、既存例規の改正・変更にも積極的に及び得るとして、正式訴 訟ではなく住民の行政苦情を契機として行政を法制的に改善すると指摘する12。これを踏ま えれば、濱崎(2014a)13が指摘するように、住民からの行政苦情を契機として行政の効率性や 民主性の向上の観点から不備のある箇所の改善を求める観点に立てば、公的オンブズマン の苦情調査・処理方法(改善・是正要請、勧告及び意見表明)には評価法務としての側面があ り、また行政苦情の救済の観点に立てば行政に対する裁判外紛争解決手続き(ADR)に近似す る側面を有するわけであって、公的オンブズマンは訴訟法務に準じる位置付けともいえる。 評価法務に係る議論では、出石(2011)は政策法務の循環を管理・運用することについて「政 策法務のマネジメントサイクル」との表現を与え、政策法務のマネジメントサイクルの「連 結器」としての役割を果たすものが評価法務であると位置付け、「『評価』なくしては、法 務におけるマネジメントは成り立たない」14として評価法務の役割に注目している。そして、 評価法務を中心に地方分権改革に伴う法解釈権と条例制定権の拡大を機に法律の独自解釈 に基づく法律執行の改善から法定許認可の審査基準の改定、条例及び要綱の制定や見直し につなげていくこと、地域課題の解決に当たって法律で対応するものがない場合、独自に 条例等を制定し執行し、その効果を評価し、見直しへとつなげていくことの重要性を唱え る一方で、政策法務のマネジメントサイクルの「連結器」としての役割を担う評価法務が 十分に機能しているとは言い難い状態で、地方自治体において評価法務から立法法務にフ ィードバック(帰還)するマネジメントが確立されているとは必ずしも言えないと指摘する15。 3 他方、最近の先行研究では、公的オンブズマンの機能面から政策法務のマネジメントサ イクルに関して考究するものとして、濱崎(2013, 2014b)があげられる。本稿では、濱崎(2014b) と同様の問題意識の下、地方自治体における政策法務のマネジメントサイクルについて、 「行政機関が法令、条例、計画、規則及び要綱等を制定し、それらを適切に執行しつつ、 執行状況を見定めかつ必要な見直しを実施することにより、それらの効果を向上するため に必要な法律事務が運用上、相互に関連する過程」と定義する。その上で、公的オンブズ マンが評価法務の一端を担うものであれば、それは同時に、政策法務のマネジメントサイ クルの「連結器」としての役割を担うこととも関連すると考える。それとともに、評価法 務の一端を担う公的オンブズマンが政策法務のマネジメントサイクルの「連結器」として 評価法務から立法法務に帰還することを促す機能を有すれば、公的オンブズマンが地方自 治体における政策法務のマネジメントサイクルの確立に寄与し得る可能性をもつと考える。 濱崎(2013)においては、「川崎市市民オンブズマン」及び「札幌市オンブズマン」が取り 扱った不法占拠問題に係るもので改善に至った事例を 4 点取り上げ、比較している。そし て、行政刑罰等を含めた行政上の義務履行確保及び民事上の請求の観点からより実現可能 な政策法務の強化のための方法論、並びに政策法務を管理する庁内体制に関して考察を追 加している。ただここでの知見としては、先行研究では審査法務指向になりがちとの指摘16 もなされる地方自治体当局に対して、公的オンブズマンは不法占拠対策に係る管理体制を 含めて地方自治体当局の執行法務及び訴訟法務を促進させる機能を担うことを指摘するに とどまるものである。政策法務の理論的な発展を考えたときに、田中(2011)が指摘するよう に、政策法務論の検討領域を拡大すること17につながるものとされる、政策法務の適正化を 検討することには至っておらず、かかる観点での多角的な検討を施すことは政策法務論が 地方自治を実現する一定の指針となる体系性の整った理論として発展していくことへの一 助となると考えられる。本稿では、「適正化」を「地方自治体の第一線職員及びその所管部 署・部局が適法でありかつ合理的な状態で非違行為を執り行わないこと」と定義する。 そこで、濱崎(2013)を補完するものが川崎市の追跡調査結果を踏まえて考究した濱崎 (2014b)である。濱崎は、不法占拠問題の対策を講じるに当たり、評価法務の一端を担う公 的オンブズマンは地方自治体の第一線職員を包摂する当局の公共政策の実施において影響 を及ぼし得ることもあり、その影響の結果、地方自治体当局の執行法務及び訴訟法務とそ れらの管理体制の整備を促進しかつ適正化を促すことにつながる機能を担う可能性もある と指摘している。その上で政策法務のマネジメントサイクルの理論では評価法務から立法 法務への帰還機能が作用するとされるが、不法占拠対策をめぐっては第一線の職員及びそ の所管部局が直接、不法占拠者との交渉に当たるものであることから、評価法務から立法 法務ではなく執行法務とその管理体制を含めた適正化につながっていること、そのように して評価法務の一端を担う公的オンブズマンが政策法務のマネジメントサイクルにおいて、 地方自治体の所管部署の執行法務及び訴訟法務とそれらの管理体制の整備を促進しかつ適 正化を促すことにつながる「連結器」として機能し得る可能性があることを指摘している。 4 1.3. 本稿の基本的視座と構成 冒頭で述べたとおり、地方分権型社会への移行の中で、地域の公共的諸問題を解決する 上で、地方自治体が「問題解決型課題」及び「状況解決型課題」に対応できるような公共 政策を実施していくためには、適正な立法法務がこれらの課題の解決に向けた公共政策の 形成に貢献することが重要であり、その在り方を考察することは必要であると考えられる。 ただ、かかる観点から先行研究を俯瞰したときに、管見の限り、北村編著(2011)における 議論のように個々の法務について詳細な検討はなされていても、政策法務の循環の過程で 公的オンブズマンの機能を取り扱った議論が蓄積されており、上記観点での政策法務に対 する公的オンブズマンの定説が確立されているとは、必ずしも断言できるわけではない。 また、濱崎(2013, 2014a, 2014b)に関して、濱崎(2014a)では公的オンブズマンや監査委員と いった行政統制制度がそれぞれの制度目的の違いがある中で、それを超えて評価法務にも たらす意義を考察しているが、必ずしも公的オンブズマンが全体的な政策法務の循環にも たらす意義を説明できているわけではない。そして、濱崎(2013, 2014b)では、いずれも今後 の課題として、公的オンブズマン制度が立法法務、執行法務、訴訟法務、評価法務を包含 した政策法務にもたらす意義として、それらの管理体制を含めて地方自治体当局を政策法 務指向へと全体的に促進させ、かつ、これらの法務の適正化をもたらし、政策法務のマネ ジメントサイクルを機能させる役割を担い得るのかを明らかにすることが掲げられている が、立法法務に特化した考究は、特段なされているわけではなく、不足しているといえる。 そこで、本稿では、濱崎(2013, 2014a, 2014b)の研究の継続性を確保するとともに、立法法 務の適正化に補完的な考察を加えることにより、濱崎(2013, 2014a, 2014b)を発展させた成果 の位置付けとなることを目指す。さらに、出石(2011)の指摘への解を見出すために、政策法 務のマネジメントサイクルにおいて公的オンブズマンが評価法務から立法法務への帰還機 能を担うことで、政策法務(特に立法法務)にもたらす意義を明らかにすることを目的とする。 本稿は、2 編 4 節で構成される。前編は本節及び第 2 節までで構成され、後編は第 3 節及 び第 4 節で構成される。第 2 節では、日本の公的オンブズマン制度の設置状況として、地 方自治体別の共通点等を概説するとともに、筆者が「川崎市市民オンブズマン専門調査員」 として担当した事例を含めて、同制度を設置している地方自治体の立法法務に係る事例を 選定する観点を説明する。第 3 節では、それらの事例 6 点を実績として掲げる 3 つの地方 自治体の苦情調査・処理体制等を概説し、事例を紹介する。第 4 節では、事例を比較検討 しながらそれらの事例の背景を考察するとともに、行政が改善された要因を行政上の責任 (以下「行政責任」)の観点から分析し、公的オンブズマン制度が政策(立法)法務にもたらす 意義を考察した上で、今後の研究課題を提示する。本稿では行政責任について、足立忠夫 (1976)18に基づき「行政機関が住民との関係において、行政を展開する上で全ての行政に携 わる者が住民に対して果たす必要のある任務、応答、弁明、受難に係る任務」と定義する。 5 2. 日本における公的オンブズマン制度19 2.1. 公的オンブズマンの設置状況、職務内容、定義 公的オンブズマンには、行政府(以下「行政設置型」)あるいは立法府(以下「議会設置型」) に置かれるものがある。さらに、行政設置型には行政活動全般を取り扱う「一般型」(ない しは「総合型」と呼ばれる)のものと、福祉・人権等の特定の行政分野を取り扱う「特殊型」 のものがあり、議会設置型にもそれらは同様にある20。日本において、国には公的オンブズ マン制度は設置されておらず、議会設置型は国及び地方においても未設置である。行政設 置型でありかつ一般的な公的オンブズマンに関して、職務内容が行政からの住民の権利利 益の救済・擁護に主眼を置いている点に留意して同制度を設置し、また、全国行政苦情救 済・オンブズマン制度連絡会構成機関に所属する地方自治体を列挙すると、2014 年 3 月末 時点で、28 あり、特殊の公的オンブズマン制度を持つ地方自治体は 10 ある21。 上記の 28 の都道府県別市町村等の内訳としては、都道府県で 4、市で 22(その中で政令指 定都市は 4)、東京 23 区で 1、町で 1 となっている。また、設置根拠として、条例に基づく ものは 18、要綱に基づくものは 8、規則に基づくものは 1 である(図表)。 図表「全国の行政設置型の一般的な公的オンブズマン制度の設置状況」 都市名 名称(定数) 設置年 根拠 1 川崎市 川崎市市民オンブズマン(2) 1990 条例 2 沖縄県 沖縄県行政オンブズマン(2) 1995 要綱 3 西尾市 西尾市行政評価委員会(3) 1995 要綱 4 藤沢市 藤沢市オンブズマン(2) 1996 条例 5 川越市 川越市オンブズマン(3) 1997 要綱 6 新座市 新座市オンブズマン(2) 1998 条例 7 山梨県 山梨県行政苦情審査員(2) 1999 要綱 8 秋田県 秋田県県民行政相談員(1) 1999 要綱 9 北海道 北海道苦情審査員(2) 1999 条例 10 上尾市 上尾市市政相談委員(2) 1999 要綱 11 新宿区 新宿区区民の声委員会(3) 1999 条例 12 三鷹市 三鷹市総合オンブズマン(3) 2000 条例 13 府中市 府中市オンブズパーソン(2) 2000 条例 14 札幌市 札幌市オンブズマン(3) 2001 条例 15 美里町(埼玉県) 美里町オンブズマン(2) 2001 条例 16 国分寺市 国分寺市オンブズパーソン(2) 2002 条例 17 つくば市 つくば市オンブズマン(2) 2002 条例 18 調布市 調布市オンブズマン(3) 2002 条例 6 19 昭島市 昭島市総合オンブズパーソン(2) 2003 条例 20 上越市 上越市オンブズパーソン(2) 2003 条例 21 清瀬市 清瀬市オンブズパーソン(2) 2004 条例 22 富山市 富山市行政苦情オンブズマン(3) 2005 要綱 23 北見市 北見市オンブズマン(2) 2006 条例 24 明石市 明石市行政オンブズマン(2) 2007 要綱 25 多摩市 多摩市総合オンブズマン(2) 2010 条例 26 熊本市 熊本市オンブズマン(2) 2011 条例 27 新潟市 新潟市行政苦情審査会(3) 2012 規則 28 三田市 三田市オンブズパーソン(2) 2014 条例 (出典)濱崎(2013)、108 頁、及び各地方自治体のホームページの検索結果に基づき筆者作成。 我が国における 28 の公的オンブズマン制度について、選任の対象者は民間の有識者とし て大学の社会科学系を中心とする研究者をはじめ、法曹有資格者、株式会社の取締役員等 が選任される。選任の手続きは、公的オンブズマンの候補者について首長が地方議会の同 意を得て上記の選任対象者を選任するというものである。法律上の身分及び資格は、地方 自治法第 174 条の定める専門委員であり地方公務員法第 3 条の定める特別職公務員となる。 公的オンブズマンの権能22に関して、28 の公的オンブズマンの職務を見ると、次のとおり である。公的オンブズマンの苦情調査には、住民からの行政に関する苦情申立てを受理し 調査し、簡易迅速に処理するという日常的なものと、問題が苦情として表面化するものに 限らず、住民全体に及ぶ可能性のある問題を公的オンブズマンが自己の問題意識に基づき、 事案として取り上げ調査するという発意調査がある。いずれの調査に当たっても、必要に 応じて、公的オンブズマンが調査結果に基づき行政機関等に対して、改善・是正要請、勧 告、意見表明を行うことを通じて、それらの内容を公表することで、共通する。改善とは、 行政の効率性や民主性の向上の観点から、不備のある箇所を改めて、良くなるよう提言す ることである。是正とは、違法状態を適法状態に改めて、正しくなるよう提言することで ある。勧告とは、行政指導の範疇において一定の行政行為を行う、あるいは、行わないよ う勧めることである。意見表明とは、条例、規則、その他の行政の制度の改善を求めて意 見を明らかにすることである。そして、苦情調査の結果、改善・是正要請が非公開の形で 行われる一方で、勧告及び意見表明はその内容が広報紙等で公開される点で違いがある。 以上を踏まえて、本稿では公的オンブズマンについて、濱崎(2013)に基づき、「行政府に 置かれ、行政活動により生じた住民の不利益に係る不平・不満を受け付けたり、自己の発 意により能動的に住民全体に及ぶ可能性のある問題を取り扱ったりして、苦情調査及び発 意調査とそれらの処理の過程で行政機関等に対して公正・中立的な立場から行政活動を見 張り、住民の不利益の原因となる行政活動を改善・是正できるよう要請、勧告、意見表明 を行うことを通じて、住民の権利利益を擁護・救済し行政に対する住民の理解及び協力を 7 得て、住民主権に基づく行政の実現を担保するための制御装置」23と定義付ける。 2.2. 公的オンブズマンの専門調査員を設置する意義 上記の図表が示すとおり、全国に先駆けて、川崎市では、1990 年から一般型の「川崎市 市民オンブズマン」の制度の運用を開始している。また、2002 年から、子どもと男女平等 に係る人権侵害を対象とした特殊型の「川崎市人権オンブズパーソン」の制度の運用を開 始している。このように、一般型及び特殊型で共通して公的オンブズマンを設置する地方 自治体が川崎市である。そして、川崎市のこれらの制度の運用体制と、同市より後に設置 した地方自治体の同制度の運用体制を比較したときに、特段、川崎市にて指摘できる特徴 点が、両型の公的オンブズマンとともに苦情調査・処理を遂行する「専門調査員」を設置 しているという点である。この公的オンブズマンの専門調査員とは、公的オンブズマンと ともに苦情調査・処理を遂行する立場にある者を指すが、専門調査員の場合、公的オンブ ズマンと比較すると、より若年世代の社会科学系の博士学位取得者や法曹有資格者等が主 に選任される。専門調査員の法律上の身分及び資格等は、公的オンブズマンと同様である。 公的オンブズマンの専門調査員を設置することは、公的オンブズマンの職務が専門的及 び技術的事項にまで及び得るため、常勤の市の職員の補佐に加えて、当該専門知識を有す る者の助言・協力なくして、公的オンブズマンは機能しえないという考えに基づくもので ある。さらにその意義として、公的オンブズマン制度の運用に当たり、公的オンブズマン と行政職員による 2 者体制と、公的オンブズマン及びその専門調査員、調査支援担当職員(以 下「支援担当」)の 3 者体制との違いを比べたときに指摘できることが、公的オンブズマン の専門調査員の任用に当たっては上記の有識者が主に選任の対象となり、予め各分野の専 門性を有する者を選任しておくことで、任用後すぐに公的オンブズマン制度の運営をより 円滑なものとする即戦力としての期待だけでなく、公的オンブズマンと行政の間に専門調 査員を置き、行政側と一定の距離を保ちながら職務を遂行することで、より行政からの独 立性を確保することを目指しているといえる。本稿では、公的オンブズマンの専門調査員 について、 「公的オンブズマンの職務の遂行に当たり、組織的権威から相対的に高い自立性 と相当程度の裁量を持ちながら住民と密接に係る場面において、個別的に苦情申立人や相 談者をはじめ対象者と接触し、行政当局及び利害関係者等との間で利害調整を図りつつ、 住民の行政からの権利利益の擁護・救済に努める役割を担う行政の専門職員」と定義する。 筆者は、2009 年から 2014 年にかけて、「川崎市市民オンブズマン専門調査員」の職務を 全うしたが、実務を通じて得られた知見に基づけば、苦情申立人及び行政当局、並びに公 的オンブズマンとの間に立って、苦情調査・処理を通じて地方自治の深化に寄与するとい う共通の問題意識の下、生活者としての住民の視点を常に基底に据えることを前提とする。 そして、公的オンブズマンの専門調査員として、行政当局と行政情報を共有し、苦情調 査・処理を通じて、行政活動の適正化を図る上で、対話による交渉を重ねながら利害を調 整し、合意形成に向けた環境を整備することが本質的な職務であると考えられ、これが、 8 実質的に公的オンブズマン制度の運用を中枢に担うという点で、その意義は過小ではない。 2.3. 立法法務に係る事例の選定 上記の図表を見ると、市が公的オンブズマン制度を最も多く設置している地方自治体で ある点が全体的な特徴といえる。本稿ではこの特徴を踏まえた上で、上記の公的オンブズ マンの専門調査員の機能及び役割に重点を置きながら、 次の 3 点の観点で事例を選定する。 3 点の観点とは、すなわち、公的オンブズマン制度の設置年及び定数は相違が見られるが、 その設置根拠が条例であること、苦情調査・処理方法が改善・是正要請、勧告、意見表明 であること、そして、苦情調査・処理体制として、公的オンブズマン及びその者に協力す る公的オンブズマンの専門調査員、並びに行政職員等としての立場でこれらの調査を支援 する支援担当という三者体制で編成されていることである。これらの観点から見て、いず れも共通する地方自治体として、人口は異なるが、川崎市、札幌市、熊本市があげられる。 さらに、これらの 3 市における事例の選定に当たっては、公的オンブズマンの苦情調査・ 処理の結果、改善・是正要請、勧告、意見表明により行政改善を実現したものの中で、公 的オンブズマンが評価法務から立法法務への帰還機能を担うとともに、立法法務の適正化 に係る事象が、条例、規則、計画並びに要綱及び要領等の改善であると考えられるため、 かかる観点で選定した事例 5 点、及び、筆者が担当した事例 1 点を、次節で取り上げる。 [注] 1 礒崎(2012)、232-233 頁。 足立幸男(2003)、2 頁。 3 本稿では住民、市民等の用語を併用して使用するが、厳密な意味で使い分けるものではな い。文脈に応じて慣用的に使用されるものとする。 4 本稿では公的オンブズマン制度に基づき設置される者を公的オンブズマンとする。 5 今川(1994)、76-77 頁。 6 濱崎(2014a)、107 頁。 7 「行政相談委員制度の在り方に関する研究会」(2009)、14-15 頁。 8 高寄(1996)、74 頁。 9 政策法務論叢生期の代表的な文献は、主に天野ほか(1989)、山梨学院大学行政研究センタ ー(1997)、兼子(1999)。 10 西尾(2001)、249 頁。 11 礒崎(2012)、87 頁。 12 兼子(2008)、398 頁。 13 濱崎(2014a)、109 頁。 14 出石(2011)、18 頁。 15 出石(2011)、17-31 頁。 16 鈴木(2009)、243-245 頁。 17 田中(2011)、185 頁。 18 足立忠夫(1976)、227-237 頁。 19 濱崎(2013)、107-110 頁。濱崎(2014a)、113-114 頁。 20 渡邊(2006)、9-11 頁。 2 9 21 22 23 総務省ほか(2013)及び多摩市総合オンブズマン(2014)、45 頁。 濱崎(2014a)、114 頁。 濱崎(2013)、107 頁。 参考文献 足立忠夫(1976)「責任論と行政学」辻清明編集代表『行政学講座第 1 巻 行政の理論』東京 大学出版会、217-254 頁。 足立幸男ほか編著(2003)『公共政策学』ミネルヴァ書房。 天野巡一ほか編著(1989)『政策法務と自治体』日本評論社。 礒崎初仁(2012)『自治体政策法務講義』第一法規。 出石稔(2011)「自治体における『評価・争訟法務』の意義と課題」北村喜宣ほか編著『自治 体政策法務』有斐閣、17-31 頁。 今川晃(1994)「住民の監視と行政の総合」 『アドミニストレーション』第 1 巻第 1・2 号、熊 本県立大学、65-80 頁。 兼子仁(1999)『新 地方自治法』岩波書店。 (2008)「オンブズマン制度と政策法務」兼子仁ほか編『政策法務辞典』ぎょうせい、 398-401 頁。 鈴木潔(2009)『強制する法務・争う法務』第一法規。 高寄省三(1996)『市民自治と直接民主制』公人の友社。 田中孝男(2011)「執行法務の適正化に向けた課題」北村喜宣ほか編著『自治体政策法務』有 斐閣、185-197 頁。 西尾勝(2001)『行政学[新版] 』有斐閣。 濱崎晃(2013)「公的オンブズマン制度の運用を通じた公有財産に係る政策法務管理への一考 察」 『年報行政研究』第 48 号、ぎょうせい、102-121 頁。 (2014a)「公的オンブズマン制度と監査委員制度が評価法務にもたらす意義」 『都市社 会研究』第 6 号、せたがや自治政策研究所、107-128 頁。 (2014b)「川崎市における公的オンブズマンが公有財産に係る政策法務にもたらす意 義」 『季刊行政管理研究』第 148 号、行政管理研究センター、36-51 頁。 山梨学院大学行政研究センター編(1997)『分権段階の自治体と政策法務』公人の友社。 渡邊榮文(2006)『初期オンブズマン論』ふくろう出版。 調査・研究資料 行政相談委員制度の在り方に関する研究会(2009)「行政相談委員制度の在り方に関する研究 会報告書」 。 総務省ほか(2013)「全国行政苦情救済・オンブズマン制度連絡会構成機関一覧」 。 多摩市総合オンブズマン(2014)「平成 25 年度報告書」。 10
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