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(様式11)
論文審査の要旨(課程博士)
生物システム応用科学府長 殿
審査委員
主
査
豊田
剛己
㊞
副
査
橋本
洋平
㊞
副
査
安藤
哲
㊞
副
査
佐藤
令一
㊞
副
査
寺岡
徹
㊞
循環生産システム学専修 平成 25 年度入学 学籍番号 13701302
学位申請者
氏
申 請 学 位
名
河野辺
雅徳
博士(農学)
Investigation of plant-parasitic nematodes (PPN) of sugarcane in
Okinawa, Japan, to predict crop damage as well as search for green
論 文 題 目 manure crops antagonistic to the PPN
沖縄県のサトウキビ圃場に生息する植物寄生性線虫の同定・定量技術の確立
と評価、及び緑肥を用いた対策に関する研究
論文審査要旨
第 1 章 緒言
サトウキビは世界で最も産出量の多い熱帯・亜熱帯地域の重要な作物で、日本の最大産地
である沖縄県では産出額第一位の農作物となっている。中でも離島地域経済はサトウキビ生
産依存度が高く、大東地域では全世帯の約 3 割がサトウキビ生産を行っているが、単位面積
当たり収量(単収)は世界および日本の平均のそれぞれ 6 割および 7 割と低く、生産性の向
上が急務となっている。単収低迷の要因の一つとして、先行研究で 3 割程度の収量減が報告
されている植物寄生性線虫(PPN)の影響が考えられる。PPN 研究では、主として顕微鏡
下で形態的特徴による種の分類および密度測定(計数)が行われてきたが、土壌毎の線虫抽
出効率の違いや形態観察の困難さなどにより、結果が大きく変動するなどの問題が指摘さ
れ、DNA 解析を用いたリアルタイム PCR 法などによる定量技術が開発されてきている。本
研究では、北大東島のサトウキビ圃場を主な調査地とし、生息する PPN 種の解明、PPN 密
度とサトウキビ初期成長との関係性の解明、PPN 抑止性をもつ緑肥の探索、土壌抽出 DNA
を用いたリアルタイム PCR 法による PPN の定量技術の開発を行った。
第 2 章 北大東島サトウキビ圃場の PPN 種および密度
北大東島の 15 カ所のサトウキビ圃場より採取した土壌から、ベルマン法および二層遠心
法を用いて線虫を抽出し、ribosomal RNA (rRNA)の配列から種の特定を行った。また、島
の全域から、全線虫数(20 g 土壌あたり平均 167 頭)の半分近くを占める PPN が検出され、
モロコシネグサレセンチュウ(同 48 頭)
、リュウキュウイシュクセンチュウ(同 22 頭)
、ナ
ミラセンセンチュウ(同 6 頭)が主要な線虫種であった。また、ヤリセンチュウの一種であ
る Hoplolaimus columbus やワセンチュウ類も散発的に見られた。
第 3 章 北大東島の PPN のサトウキビ生育への影響
PPN のサトウキビ生育への影響を確認するために、殺線虫剤であるネマトリン(有効成
分:フォスチアゼート)を用いて主要な PPN を殺処理した土壌と、無処理土壌を使ってサ
トウキビの生育調査を行った。試験供試前の土壌(処理前)では PPN は 20 g 土壌あたり
136 頭(ベルマン法)であったが、サトウキビ一芽苗(芽だし後)を植えて 10 週間のポッ
ト試験の結果、無処理区は PPN が同 317 頭となったのに対し、処理区で同 135 頭(①フォ
スチアゼート 4.5 kg/ha 施用区)から同 45 頭(②同 22.5 kg/ha 施用区)まで抑制された。
また、処理区のサトウキビのバイオマス(乾物重)は 73 g(①区)
、88 g (②区)と無処理区
と比べてそれぞれ 3 割超、6 割超上回った。ネマトリンを用いた圃場試験では、サトウキビ
二節苗(芽出し前)の植え付け後 5 ヶ月で、モロコシネグサレセンチュウは処理区(フォス
チアゼート 7.5 g/ha)で 28 頭となり、無処理区(77 頭)と比べて 64%減と有意に低位とな
り、サトウキビ生育調査時の主要指標である茎数、仮茎長が有意に無処理区を上回った。
第 4 章 サトウキビ圃場の PPN 対抗植物としての緑肥の探索
、タデ科ソバ(さちいずみ)
、サトウ
マメ科緑肥である Crotalaria juncea(ネマコロリ)
キビ一節苗をそれぞれ北大東島の PPN 汚染土壌を入れたポットで 8 週間生育し、土壌中の
PPN の比較を行った。自活性線虫(害を及ぼさない)は、無処理区も含めてほぼ初期密度
と同程度であったが、PPN はネマコロリ区でサトウキビ区より有意に少なくなった。
第 5 章 リアルタイム PCR を用いた北大東島の PPN の定量技術の確立
北大東島のサトウキビ圃場に生息している主要な PPN4種(モロコシネグサレセンチュ
ウ、リュウキュウイシュクセンチュウ、ナミラセンセンチュウ、Hoplolaimus columbus)
について、
リアルタイム PCR 法で使用するプライマーを、GenBank に収載されている rRNA
の遺伝子配列情報と、北大東島の土壌から採取した各線虫種のサンプルから得た配列情報を
基に設計した。近縁種の同じ遺伝子配列領域を確認したところ、これらのプライマーはリア
ルタイム PCR でターゲット遺伝子の増幅を行う際に重要とされる 3’末端から⒑塩基の中に
2 塩基以上のミスマッチがあり、他の線虫種の DNA 増幅の可能性は僅少であることを確認
した。さらに、対象土壌中に存在しない線虫を用いて、土壌検量線と一頭の線虫から抽出し
た希釈 DNA テンプレートを用いた検量線とが近似することを示した。
第 6 章 総合的考察
北大東島のサトウキビ圃場に PPN が広範かつ高密度に生息していた。これらの PPN は
ポット試験および圃場試験からサトウキビ初期生育に極めて大きな影響を与えることが分
かり、最終的にサトウキビ収量減に結びつく可能性が示唆された。また、サトウキビに対す
る殺線虫剤は現時点で登録されていない中、限定的ではあるが効果の確認できたクロタラリ
アなどの緑肥による PPN 抑止の可能性が示唆された。さらに、これまで形態的特徴によっ
て同定、密度測定が行われてきた PPN の診断法として、より簡易に行える可能性があるリ
アルタイム PCR 法を開発することができた。
以上の第 1~6 章からなる本論文の研究成果は、博士(農学)に十分値すると判断される。