天の川銀河の変光星探査 松永典之 (東京大学・天文学教室) 概要 イントロダクション • 銀河のトレーサとしての脈動変光星 – どんな応用が出来るか。なぜ重要か。 研究報告 • KISOGP 銀河面変光天体探査 – いろいろな天体のライトカーブが得られてきた。 – 700個以上のミラを発見。その分布の初期成果 を示す。 イントロダクション 天の川銀河のトレーサとしての 脈動変光星 脈動変光星について • ミラ型変光星 – AGB (1~6 Msun) – 周期 100~1000日程度 セファイド • 古典的セファイド – Blue loop (4~10 Msun) – 周期 3~50日程度 • Ⅱ型セファイド ミラ RRライリ – post-HB (~1 Msun) – 周期 1~40日程度 • RRライリ変光星 – HB (~1 Msun) – 周期 0.5~1日程度 Gautchy & Saio (2005) 脈動変光星の応用 • 銀河系研究への4つの役割 – 銀河系構造のトレーサ – 恒星種族のトレーサ – 化学進化のトレーサ – 星の運動のトレーサ LMCにある変光星の周期光度関係 (IRSF/SIRIUSの観測結果より) 古典的セファイド ミラ型変光星 Ⅱ型セファイド 変光星の応用例(1) • Matsunaga et al. (2011, 2015) – Nuclear Stellar Diskに古典的セファイド(~20 Myr)を 発見して、星形成史や運動を議論。 Matsunaga et al. (2011, Nature, 477, 188) Matsunaga et al. (2015, ApJ, 799, 46) 変光星の応用例(2) • Feast et al. (2014, Nature, 509, 342) – 銀河系円盤のフレアに付随する初めての恒星と して古典的セファイドを同定。 Feast et al. (2014, Nature, 509, 342) 変光星の応用例(3) • Genovali et al. (2013, 2014, 2015) – 銀河系円盤の400個以上の古典的セファイドの 化学組成(FeおよびNa, Al, Mg, Si, Ca)を調べて、 銀河系円盤の金属量勾配を議論。 [Na/Fe] [Fe/H] [Al/Fe] Genovali et al. (2014, A&A, 566, 37) [Si/Fe] Genovali et al. (2015, A&A, in press; ArXiv:1503.03758) 天の川銀河のトレーサ 普通の星 変光星 両者を使った研究は相補的 • 距離・年齢の推定は難しい。 – 分光などから距離を推定する 方法もあるが、精度は低い。 – Gaiaは数kpcまで高精度の距離。 • 数が多い。 – 分解能の高い調査が可能。 – 統計的な有意性が高い。 • 大規模観測をやりやすい。 – 測光は基本的に一度でよい。 – 天球での密度が高いので、多 天体分光もやりやすい。 • 各星の距離・年齢がわかる。 – タイプや周期光度関係から – トレーサとして、位置・時間の 正確な情報が得られる。 • 数が少ない。 – 特定の進化段階なので少数。 – 個々の情報の精度は高いが 分解能と有意性は限られる。 • 観測のコストは高い。 – 探すのに反復観測が必要。 – 測光・分光的性質も時間変化 研究報告 KISOGPーKWFC銀河面変光星探査 共同研究者 • 小林尚人、三戸洋之、福江慧、山本遼、 泉奈都子、中田好一(東大) • 前原裕之、浮田信治、柳沢顕史、岩田生 (国立天文台) • 坂本強(スペースガード協会) • 岩崎仁美, 花上拓海, 小野里宏樹, 板由房 (東北大) • 新井彰(京都産業大) • 山下智志(鹿児島大) KISOGPの目的と概要 • KISOGP=KWFC Intensive Survey of the Galactic Plane • 円盤部(銀河系の骨格)にある変光天体探査 – 320平方度。現在約3000個の変光星が知られている 領域内で、数千個の新しい変光星の発見を目指す。 – (周期光度関係をもつ)変光星の分布から銀河円盤 の構造を明らかにする。 – これまでよりも暗いand/or遠い新星・矮新星の発見 (前原さん講演参照)。 – YSOなどその他の変光天体を探し出し、詳細研究へ のサンプルを提供する。 • 見つけた変光星の追観測 KISOGPの観測 α~21.2h δ~+24deg 木曽シュミット望遠鏡と KWFCカメラ 320平方度(2度刻みに 並べて80視野) 3年間に約40回の反復観 測( I バンド)を行う計画 限界等級17等(S/N=30) 4kpc α~23.9h δ~+48deg α~0.4h δ~+63deg α~4.1h δ~+52deg α~5.8h δ~+29deg α~6.8h δ~+03deg 10kpc 観測領域 • 銀河面、銀経60~210度 • こぎつね座(Vul)、はくちょう座(Cyg)、ケフェウス座 (Cep)、カシオペア座(Cas)、ペルセウス座(Per)、 ぎょしゃ座(Aur)、おうし座(Tau)、ふたご座(Gem)、 いっかくじゅう座(Mon) Gem Cep Aur Cas Mon Cyg Per Vul Tau Ori 210 180 150 120 Galactic longitude [deg] 90 60 天の川の変光星探査 • 1990年代から、重力マイクロレンズなど様々な変光 天体を調べるために、CCDカメラを用いた大規模な 変光星探査が進められてきた。 各探査による周期変光星の発見状況 Drake et al. (2014、Catalina Survey DR1の周期変光星を報告する論文) より KISOGP ~𝟓 ~𝟐𝟎𝟎𝟎(? ) 𝟑𝟐𝟎 𝟗. 𝟓 − 𝟏𝟕 𝟑 𝟒𝟎 𝑰 KISOGPの位置づけ • 北半球の銀河面変光天体探査としては先行。 • 3年以内に報告すれば、北半球で見える銀河面 の変光星探査として先駆的な成果を上げられる。 – PTF, Pan-STARRS, Gaiaによる探査も進んでいる。 Catalinaサーベイの発見した 約8000個の突発天体(超新 星、新星など)と、銀河面の 各変光星探査の領域 これまでに収集したデータの概要 • 2年半に30~50回の反復観測データ • 月に1~3回。 • 脈動変光星を調べるデータとしてはちょうどよい程度。 2012年8月~2015年3月(約2年半)の観測回数 (5秒+60秒×3を1回とカウント)。 悪天候のデータ(約3割)も含んでいる。 解析の現状 • Astrometry:USNO-B1を利用。 • 測光:SExtractorによる開口測光。 • 等級ゼロ点:APASSのr+i等級を利用。 – AAVSO Photometric All-Sky Survey (in UCAC4) – 一部の領域はデータが無い。 – 一部おかしい等級が含まれている。 – 精度は0.2~0.3等級程度 • 測光結果はデータベースで管理。 – 入力した座標の測光結果を集めて、ライトカーブの データの出力やプロットが可能。 解析の現状(2) • 相対的な変化(ライトカーブの形)は調べられる。 • 等級ゼロ点の精度は0.2~0.3等程度。 • ノイズ(外れ値)が多い。 • 星が混んだ領域で、測光や同定の精度が低い。 既知変光星ライトカーブの紹介 変光星カタログ • GCVS (General Catalog of Variable Stars) – Kukarkin, Kholopov, Samusらロシアの研究チームが 長い期間にわたり更新してきた変光星総合カタログ – 2013年4月の版で約48000天体 • AAVSO International Variable Star Index VSX (Watson+2006-2014) – American Association of Variable Star Observersが管理 – 2015年2月の版で32万天体以上 – マゼラン銀河の変光星なども含まれている。 既知変光星の個数 GCVS AAVSO KISOGP領域内に ある天体 KISOGPで測光 できている天体 1381 3455 830 2010 KISOGP領域内の GCVS変光星の分布 新星 V407 Cyg Nova Cyg 1936 (NR+ZAND+M) V959 Mon Nova Mon 2012 (NB) 2012/04 2012/10 2012/06 V809 Cep Nova Cep 2013 (N) 2013/01 2012/12に 未検出のデータ V2468 Cyg Nova Cyg 2008 (N) FU Ori V2492 Cyg PTF 10nvg (FU Ori) V2493 Cyg PTF 10qpf (FU Ori) V582 Aur (FU Ori+UX Ori) V710 Cas (FU Ori) YSO V478 Aur (FUOR) V1683 Cyg (I, Irregular YSO) V1478 Cyg (S Dor) V2417 Cyg (Be) V517 Cyg (UX Ori) X線天体 SAX J2103.5+4545 (HMXB) IGR J06074+2205 (HMXB) V831 Cas (HMXB/XP) V635 Cas (HMXB) 既知(AAVSO)変光星の種類 種類 説明 天体数 サブクラス Eclipsing 食連星 492 (708) Rotating 回転星 39 (81) Pulsating 脈動星 794 (1230) M (Mira), DCEP (δ Cep), RR (RR Lyr), … Eruptive 爆発星 189 (317) BE (Be star), CTTS, FUOR, I (Orion type), … E, EA (Algol), EB, EP, EW, … ELL (Ellipsoidal), TTS/ROT (T Tau), … Cataclysmic 激変星 28 (41) N (Nova), NA, NB, NC, NL, NR, CV, … X-ray X線星 7 (11) HMXB, LMXB, X, … Others その他 270 (652) Total MISC, VAR, AGN, BLLAC, QSO, … 2010 (3455) タイプ未知を含む カッコ内はKISOGPで非検出(saturationが主)も含めた個数。 ミラ型変光星候補の発見 大振幅長周期変光星の検出 • 約750天体のミラ型変光星候補を検出 – 大振幅(約0.4等級以上)、長周期(100日以上のトレンド) – ライトカーブを目で見て確実なもの – 約500個がこれまでに知られていなかった変光星 • 領域内にある既知ミラをあわせると約800個のミラ候補 発見したミラのライトカーブの例 • 多くの天体の周期がすでに決められそう。 2012 2013 2014 周期分布 • 約750個のうち、現時点で585個の周期を得た。 350日にピーク すでに周期がわかっていたミラ 82 KISOGPで周期が決められたミラ 585 (そのうち、新しい周期) 合計 551 633 2MASS 近赤外線等級 • 2MASS(測光1回)からJHKs等級を探した。 – 距離を精度よく求めるには平均等級が必要。 0 2 4 Ks 6 8 10 12 J-Ks 青:AAVSOミラ( 𝑏 < 5°, 𝑃 > 100d ) 9429個 赤:KISOGP領域内ミラ 797個 距離の推定 • 周期と2MASS等級を使って距離を計算 – 誤差は距離指数で0.5 mag程度(30~50%程度) A(Ks) 距離 [kpc] 0 5 10 15 銀河系円盤中での位置 メーザ源の少ない領域 (蜂須賀さん講演) 赤 AAVSOミラ ( 𝑏 < 5°, 𝑃 > 100d) (そのうち、60° < 𝑏 < 210°) 緑 KISOGP領域内ミラ 8191 377 611 まとめ • 脈動変光星は、距離・年齢などが(普通の星 よりも)精度よく得られる特徴あるトレーサ。 • KISOGP: 銀河面320平方度の変光星探査を 2012年から行っている(3年で約40回観測)。 • 700個以上のミラ型変光星を発見(500個以 上は新発見の変光星)。 • ライトカーブデータをテスト的に公開中 – 銀河面領域(銀経60~210度)で、変光を知りた いターゲットがあれば声を掛けてください。 今後の展望 • 700個のミラの追観測 – 光赤外での分光分類観測(M型星/炭素星) – 赤外線での反復観測から平均等級→高精度距離 – メーザ輝線探査 • KISOGPはメリハリをつけて継続 – 突発天体、長周期(P>500日)の変光天体 • 星形成領域に特化した(新しい)大規模観測 • OGLE-IV、VVV、PTF、Gaiaによって、今後10年 ほどで銀河系変光星カタログが整ってくる。 – 分光観測(視線速度、化学組成)が重要になる。
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