大阪大学社会学研究会 ニューズレター No.38

大阪大学社会学研究会
ニューズレター
No.38
2015年5月20日
〒565-0871 吹田市山田丘 1-2
tel : 06-6879-8063
e-mail :[email protected](助教・髙松里江)
第22回
大阪大学社会学研究会開催のご案内
来る 7 月 20 日(月・祝)「第 22 回 大阪大学社会学研究会」を下記の要領で開催い
たします。本年 4 月より社会環境学講座に専任講師として赴任されました遠藤知子先生
(大阪大学)と、人間科学研究科の設立期より研究・教育にご尽力されました塩原勉先
生(大阪大学名誉教授)がご報告くださいます。ご多忙とは存じますが、是非ご出席く
ださいますようお願い申し上げます。
準 備 の 都 合 上 、 7 月 1 日 ( 水 ) ま で に 同 封 の 葉 書 も し く は e-mail
([email protected])でご出欠をお知らせください。
記
<研究会>
日時
2015 年 7 月 20 日(月・祝)
時間
14 時 00 分~ (受付開始は 13 時 30 分)
場所
人間科学研究科 本館 5 階 51 講義室
(セキュリティの都合上、本館の正面玄関よりお入りください)
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■研究報告1
サードセクターによる福祉提供と社会権
遠藤 知子氏(大阪大学)
福祉国家は、国民の社会権を制度的に保証する権利に対する義務負担者として発展
した。しかし、近年、人的資本の育成や社会的包摂を目指す積極的福祉政策の主体と
して、非営利組織、社会的企業、協同組合などを含むサードセクター組織が政策的に
推進されるようになっている。本報告では、社会権保証の観点から、自発性にもとづ
く社会的資源に依拠するサードセクター組織による福祉提供の可能性と課題について
検討する。
■研究報告2
<strong ties>と<weak ties>をめぐる社会学的思考
塩原 勉氏(大阪大学名誉教授)
「<strong ties>と<weak ties>をめぐる社会学的思考」という題目でお話しする。
21世紀の社会と世界の動向について、近年の社会学研究をフォローしながら、社会
構造論的および社会過程論的視点から、できるだけ多くの論点に言及したい。
<懇親会>
時間
17 時 00 分~
場所
カフェテリア匠 (大阪大学吹田キャンパス内)
会費
一般 6,000 円
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<第 21 回
研究会・木前利秋先生を偲ぶ会のご報告>
昨年 7 月 21 日(祝)には、第 21 回研究会・木前利秋先生を偲ぶ会が開催されまし
た。大学院時代、木前先生の指導を受けられました亀山俊朗先生(中京大学)、ならび
に木前先生の同僚であり研究仲間でもあった三島憲一先生(大阪大学名誉教授)による
研究報告が行われました。
■研究報告1
シティズンシップを巡る葛藤
―木前利秋とアーレントから考える―
亀山 俊朗氏(中京大学)
亀山先生より、はじめに田中清助-山口節郎-木前利秋という流れをご説明いただい
た後、先生が「今一番考えていること」としてシティズンシップを巡る葛藤について
ご報告いただいた。
近代社会の成立以降、シティズンシップが発展してきた。その起源はギリシャ時代
まで遡るが、市民資格として訳される近代的シティズンシップは自然権を保障する形
で 18 世紀以降に発展する。19 世紀には参政権などの政治的権利、20 世紀には社会権
などの社会的権利を伴い発展してきた。そして第二次世界大戦後には、シティズンシ
ップとしての諸権利=人権を国家ごとに保障する仕組みが成立することとなる。
しかし、人権やシティズンシップとして保障される対象について批判的な議論もな
されている。ホロコーストなどの経験から、H.アーレントは、人権とは抽象的なもの
で人権を宣言することは政治的に意味をなさないという人権批判を展開する。また、
シティズンシップには国民国家に属していない人――たとえば難民――の人権を保障
することは難しいという批判もある。
このような批判を解消するために、抽象的な「人権」とも、排他的な国民の権利で
ある「シティズンシップ」とも区別される、
「諸権利を持つ権利」という概念が注目さ
れる。木前先生も国民国家の枠組みにとらわれないトランスナショナルな市民社会に
おいて「難民」を包摂する可能性を構想していたと考えられる。
そして、前半のアーレント=木前の「諸権利を持つ権利」を敷衍して、後半で亀山
先生は、日本型雇用について検討される。日本では、非正規雇用者という一種の「難
民」が無権利状態であふれている。その原因として、企業別の労働組合によって正規
雇用者のみが保障され、雇用形態による分断が生じていることがあげられる。そこで
「諸権利を持つ権利」を応用して、企業別ではないジョブ型の労働組合によって非正
規雇用者を包摂する可能性を提示された。
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しかしながら、非正規雇用者の包摂を実現するためには、引き続き議論が必要であ
る。企業別組合の課題に対処するうえで、ナショナルな政策への期待が高まるだろ
う。その際に、安易なナショナリズムに陥らないためには、再分配を担う正当性のあ
る主体をどのように形成すればよいのか、木前先生の議論を引き継ぎ考えていきたい
と発表を終えられた。
フロアからは、シティズンシップを考える時に、亀山先生は国民国家をどう位置付
けているのかという質問が出された。亀山先生は、現状としては当面、国民国家が再
分配を担うと考えるしかないのではないか、と応答された。
(コミュニケーション社会学・博士前期課程 三品 拓人)
■研究報告2
木前利秋氏と批判理論
三島 憲一氏(大阪大学名誉教授)
今回の発表で、三島先生は批判理論と木前先生というテーマについて発表された。発
表は、アドルノやハーバーマスの研究に光を当てることで批判理論とはなにかを明らか
にし、その上で木前先生と批判理論の関係を捉えていく、という展開でなされた。
三島先生によれば、「批判理論」という理論があるわけではないという。それは、多
面的に幅広く社会を捉え、一見異質にも思えるものを結びつけ、この世の動きから一定
の距離を置きつつ、複雑に絡み合う社会に対して社会全体を見つめようとする知的批判
である。アドルノやハーバーマスらの行った研究を見ても、これら――「異質なものの
結びつき」と「多面性」、
「この世の動きに対する一定の距離」――は共通してみてとれ
る。
木前先生の知的人生の大半は、この批判理論という思想を消化・吸収する作業だった
と言ってもいいだろう。消化・吸収とは、単なる「なぞり」や、「巨人たちの肩の上に
乗って巨人たちより遠くを見る」という作業ではない。巨人たちの作業を一つ一つ再検
討――彼らの足元を覗き、抜けがないか丹念に渉猟――し、彼らに対する書物や批判ま
でも念入りにおさえ、巨人たちが見えなかったものさえも見ようと研究するという作業
である。そうすることで、現代の問題を視角化しテクストを多様に読み替えていくこと
を目指したのである。木前先生の著作を見ても、様々な文献をハーバーマスよりも広く、
かつ、深く読み込んで理論追求を図っていることがわかる。猛烈な多様性から「学ぶこ
とを学び」、現代を批判的に見ることから生まれる彼の「メタ構想力」という概念をと
っても、批判理論という伝統を継承しそして生きた木前先生の姿が偲ばれ、つくづく、
早世が惜しまれる限りである。
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以上の発表に対し、次のような質問があった。「木前先生の著作の中で、初学者にも
お勧めできる一冊は何か」という質問に、三島先生は「
『ハーバーマスと現代』の前書
き、遺作の後半部は明瞭でよいのではないか」と答えられた。また、「木前先生はアド
ルノを経由せずにハーバーマスを受容することに批判的であったが、経由して読む意義
は何か」という質問には、「他所の国の話を全てみるのはきりがないし必要もないが、
ドイツという同じ社会的集団の経験をつないでいくという点では無視できないだろう、
親たちの世代の生活スタイルの中に自分たちの生活スタイルが組み込まれていること
を指摘したハーバーマスの言葉になぞらえるなら、アドルノやベンヤミンたちの経験・
背景・視線に目を向けることは重要である」と答えられた。
(理論社会学・博士前期課程
<第 21 回
川本 悟士)
研究会および懇親会 会計報告>
収入
懇親会費
繰越金
120,000
72,192
合計
192,192
支出
懇親会(匠)
返信用葉書
木前先生業績集
式典花
写真
写真・業績集送料
学生スタッフ謝礼(5名)
茶菓子等
合計
120,000
6,240
43,000
10,000
1,240
1,868
8,000
1,844
192,192
<教室だより>
社会環境学講座の近況をお知らせいたします。
学部では、本年 3 月に社会学科目(人間学・人類学を含む)から第 40 期 41 名の卒業
生を送り出しました。かわって 32 名の 3 年生を迎え、4 年生 57 名とあわせて、平成 27
年度の在学生は 89 名となります。大学院(社会環境学講座)では、博士前期課程への
入学者が 18 名、博士後期課程への進学者が 7 名でした。全体では、前期課程 41 名、後
期課程 30 名、あわせて 71 名の在籍となります。また、博士号取得者は 4 名でした。
社会環境学講座にかかわる異動といたしましては、福祉社会論研究室の専任講師とし
て遠藤知子先生が着任されました。また、三谷はるよさんが龍谷大学社会学部専任講師
に、樋口麻里さんが大阪大学人間科学研究科評価資料室助教に、塚常(久山)健太さん
が大阪大学未来戦略機構戦略企画室特任研究員に着任されました。
昨年度の修士論文・課程博士論文のタイトルは以下のとおりでした。
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■修士論文
尾﨑
俊也
男性性と性暴力
小田
奈緒美
倫理的消費の普及過程とその社会的性格
玉井
理子
なぜ長時間労働をするのか
坂口
恵莉
区域外「避難者」の暮らしと意識の変容過程
肖
白
杉村
廈門日報における高集海堤の表象変容と地域社会の変遷
孫
健太
武田
莉
高校生の規範意識と同調行動
中国「民工子弟学校」の存続要因
佳久
日本企業の新卒採用と社員育成
多田隈 翔一
現代社会における価値観の変化
田中
佑季
男性の育児の推進政策に関する社会学的考察
茶谷
賢一
社会学におけるシミュレーション
肥後
晶
日本の女性政治家の「パワー・ドレッシング」に関する一考察
平松
誠
都市化が社会関係に与える影響
正井
佐知
障碍者とコミュニケーション
松永
有生
ファストフード業界の低賃金労働者に関する考察
村上
彩佳
パリテ法制定を契機とした「政治的なものの再興」とフェミニズム
安井
宏伸
ファンはアイドルの何を消費しているのか
矢部
瞳
介護ロボットの抱える倫理的社会的問題について
山川
秀史
中小企業経営者の人材育成に関する考察
■課程博士論文
伊藤
理史
現代日本における大衆民主主義の変容に関する実証研究
樋口
麻里
精神障がい者の社会的排除の国際比較分析
―社会的包摂概念の発展可能性
藤田
智博
ポピュラー文化のグローバリゼーション
―大衆の空間的拡大と外国イメージ形成への寄与
李
容玲
法と文化の二つの水準による制度分析
―日本人の対外国人共生意識の生成過程
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<ご挨拶>
阪大社会学研究会のニューズレター第38号をお送りいたします。昨今の国立大学法
人をめぐる変革の波のなか、人間科学研究科も、10年に一度あるかどうか、というた
いへん大きな組織改変を次年度に予定しております。ただし阪大社会学の半世紀以上
の歴史は、この先でも人間科学の基幹として継続されていく見通しです。変わらずご
支援のほどよろしくお願い致します。
本年度の年次研究会は7月20日に開催します。ご登壇いただくのは、新しくメンバー
に加わった福祉社会論の遠藤知子講師と、多くの世代が師として薫陶を賜った塩原勉
先生です。特段に多くの方々にご聴講いただくことを願い、例年より少し早めに本紙
をお届け致します。ご参加を心よりお待ちいたしております。
2015年5月
社会学系幹事教授
吉川 徹
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