加速器の基本概念 IV : 高周波加速の基礎

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髙田耕治
KEK
[email protected]
http://research.kek.jp/people/takata/home.html
総研大加速器科学専攻
2015 年度「加速器概論I」講義
2015 年 4 月 16 日
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加速器の基本概念
IV : 高周波加速の基礎
目次
§1 粒子加速器のあけぼの
§2 高エネルギービームの力学 (1)
§3 高エネルギービームの力学 (2)
§4 高周波加速技術
• 加速空洞のいろいろ
• 高電界と放電
• 超伝導と高周波
• クライストロン
§5 これからの高エネルギー加速器
§6 参考文献
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[ I ] 加速空洞のいろいろ (1)
分類
単セル構造
• 単一の加速間隙
• 複数の加速間隙
多セル構造
• 進行波 (TW) 構造
• 定在波 (SW) 構造
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加速空洞のいろいろ (2)
単一の加速間隙をもつ単セル構造の例:電子加速用
KEK Photon Factory リングで使われている空洞
fRF = 500 MHz (λ/2 = 300 mm)
r
R10mm
R234.69mm
Ez (r=0)
R50mm
R91.375mm
z
220mm
R130mm
300mm
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加速空洞のいろいろ (3)
単一の加速間隙をもつ単セル構造の例:陽子加速用
数十 GeV までのシンクロトロンでは陽子速度は大きく変るので、
広い周波数範囲で同調可能な構造でなければならない
下図は J-PARC 陽子シンクロトロンで使われている空洞:
• 赤色は高い透磁率 µ をもつ鉄合金のテープを巻きあげたディスク
• 共振周波数範囲は fres ∼ 1 MHz → 2 MHz
600 mm
magnetic-alloy discs
ceramic pipe
φ
247 mm
acceleration gap
beam
必要であればバイアス電流で µ を変え、fres を変える
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加速空洞のいろいろ (4)
複数の加速間隙をもつ単セル構造:DTL 加速管
J-PARC 陽子リニアックで使われる drift tube linac (DTL) 加速管
• fRF = 324 MHz (λ = 926 mm)
• 陽子の β : 0.08 (3 MeV) → 0.56 (190 MeV)
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加速空洞のいろいろ (5)
前ページの J-PARC DTL 加速管の内部
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加速空洞のいろいろ (6)
複数の加速間隙をもつ単セル構造:RFQ 加速管
• J-PARC 陽子リニアックの低エネルギー部で使われる加速管
• 高周波電場は加速成分と収束用の 4 極成分をもつ
fRF = 324 MHz (λ = 926 mm)
陽子の β : 0.01 (50 keV) → 0.08 (3 MeV)
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加速空洞のいろいろ (7)
多セル構造:電子加速用進行波型加速管
• disk-loaded structure (DLS)
• 電子リニアックに多用される
上半分を切開したところ
fRF = 2856 MHz (λ = 105 mm)、 セル長 λ/3 = 105 mm ( 2π/3 構造)
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加速空洞のいろいろ (8)
多セル構造:定在波型加速管
トリスタンで使われた Alternating Periodic Structure (APS)
fRF = 508 MHz (λ = 59 cm)、セル長 λ/2 = 29.5 cm (π/2 構造)
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加速空洞のいろいろ (9)
多セル構造:定在波型加速管 (その 2)
side-coupled structure
E. A. Knapp, ”High Energy Structures” in Linear Accelerators,
ed. P. M. Lapostolle and A. L. Septier, p. 607 (North-Holland, 1970).
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[ II ] 高電圧と放電 (1)
1
Fowler-Nordheim による電界放出電子の理論 (暗電流)
2
Kilpatrick の臨界電圧曲線
3
金属表面の放電痕
4
弱い共鳴的放電 (マルチパクター)
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高電圧と放電 (2): Fowler-Nordheim による電界放出電子の理論 (1)
R. H. Fowler and L. Nordheim, Proc. Roy. Soc. A 119 (1928) 173
金属表面に直流電場 E [V/m] がかかっているときに表面から放出さ
れる伝導電子の電流密度 jF [A/m2 ] (暗電流ともいう):
(
)
−0.5
6.53 × 109 ϕ1.5
1.54 × 10−6 × 104.52ϕ (βE)2
exp −
jF =
ϕ
βE
• 仕事関数: ϕ [eV]
• 平均的表面電場: E [V/m]
• 微視的にみると表面には凹凸があり電子が感じる電場は βE のように
1 より大きい係数 β がかかると仮定
β は 電場像倍係数ともよばれる
純銅の場合 β は馴らし運転で通常 102∼3 から ∼ 101 に下がる
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高電圧と放電 (3): Fowler-Nordheim による電界放出電子の理論 (2)
直流電場を高周波電場へ拡張した Wang-Loew 理論
J. W. Wang and G. A. Loew, SLAC-PUB-7684 (1997)
前ページの E に E sin ϕ を代入し時間平均
∫ π
jF dϕ
(1/2π)
0
をとる
その結果えられる近似式:
−0.5
jF =
5.7 × 10−12 × 104.52ϕ
ϕ1.75
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(βE)2.5
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(
)
6.53 × 109 ϕ1.5
exp −
βE
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高電圧と放電 (4) : Kilpatrick の臨界電圧曲線
W. D. Kilpatrick, Rev. Sci. I nstr. 28 (1957) 824
間隔 g の平行金属板間に電圧 V がかかっているとする(表面電場は E = V /g )
間隙の浮游分子の電離で発生した正イオンのエネルギーを W とする
前ページのように電界放出電流は k を適当な係数として jF = E 2 exp(−k/E) とい
う形の式に従う
正イオンが金属表面に衝突して発生する 2 次電子流 jF 2 は jF に比例するが、実験
的に W にも比例することが確かめられている
これらを前提にすると放電は jF 2 > jF となると起こるであろう
多くの実験事実を jF 2 = jF という臨界式で整理したのが次図
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高電圧と放電 (5) : 純銅空洞にできた放電痕
数十 MV/m の高周波電場で運転された X バンドリニアック加速管
に残された放電痕
f = 11.4 GHz (λ = 2.63 cm)
R. E. Kirby, SLAC-PEL, 2000
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高電圧と放電 (6) : 弱い共鳴的放電 (マルチパクター)
狭い金属壁間を電子が走る時間が高周波の半周期の奇数倍に等しいときに
発生する放電
比較的低い電圧で起こる弱い放電であるが、高周波機器の誤動作を引き起
こすことがある
A. J. Hatch and H. B. Williams, Phys. Rev. 112 (1958) 581
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[ III ] 超伝導と高周波 (1)
銅の抵抗率は低温になるほど小さくなるが、低温を維持するための
熱効率も考えると全電力はむしろ増加し、特に空洞の連続波運転を
行うには不都合である
そこではるかに低い抵抗率がえられる超伝導空洞の研究開発が 1960
年代からすすめられてきた
• ただし高周波磁場は臨界値以下という制約がある
材料研究を別として加速器用にはもっぱらニオブ(Nb)が使われて
きた
• 超伝導に遷移する臨界温度 Tc が 9.2 K と純金属では極めて高い
• 機械的剛性と加工性に優れている
1977 年に Stanford Univ. キャンパスではじめて電子加速に成功
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超伝導と高周波 (2) : 臨界温度前後での Nb の抵抗率
臨界温度 Tc 前後での Niobium の抵抗率1
ここで RRR (residual resistance ratio:残留抵抗比) は常温での抵抗率
と絶対 0 度での抵抗率の比で、金属純度の目安となる
1
W. Singer et al: TTC-Report 2010-02 (DESY)
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超伝導と高周波 (3) : Nb の臨界磁場
典型的な第1種超電導体の Pb とことなり、Nb は第2種超電導体である
• Niobium の臨界磁場*2
- H < Hc1 : Meissner 状態(完全超伝導)
- Hc1 < H < Hc2 : 超伝導と常伝導の混合状態
- Hc2 < H: 常伝導状態
磁場 (magnetic field) H の単位としては MKS では A/m、ガウスでは Oe を使う
• MKS 単位の T(Tesla) とガウス単位の gauss は磁気誘導 B を表す単位
2
K. Saito: srf2003.desy.de/fap/paper/MoO02.pdf
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超伝導と高周波 (4) : Nb の物性値
高純度ニオブでは
• 臨界温度: Tc = 9.3 K
• 臨界磁場: Hc = 2.0 × 103 Oe
• Meissner 状態: H ≤ Hc1 = 1.7 × 103 Oe at T = 0 K
• 常伝導状態: H ≥ Hc2 = 2.3 × 103 Oe
• コヒーレント長: ξ0 : ∼ 40 nm at T = 0 K
磁気誘導にともなう電場により超伝導電子 (対) のみならず
常伝導電子も加速される
• 常伝導電子流によりオーム損失が発生
• これにより空洞の Q 値は大きいものの有限である
* 通常 109∼10 程度、これは銅空洞の 105 倍以上である
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超伝導と高周波 (5) : 1.3 GHz Nb 空洞で測定された無負荷 Q 値 *3
3
斉藤健治:私信
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超伝導と高周波 (6) : 超電導体内部の電磁場
マクスウェル方程式:
∂H
∇×E+µ
= 0,
∂t
∇×H−ε
∂E
= J (= Js + Jn ) ,
∂t
Jn = σn E,
ここで σn は常伝導電子についての伝導度
London 方程式も同時に成立する必要:
ns e2
ns e2
Js = −j
E,
∇ × Js = −
µH.
ωme
me
両方程式を満足する波動方程式:
(
)
2
∇2 (J, E, H) = λ−2
L + jωσn µ − ω εµ (J, E, H)
(
)
≈ λ−2
L + jωσn µ (J, E, H) ,
ここで λL =
√
me /ns e2 µ : London の侵入深さといい
Nb では 50 nm 程度*4
4
µ は µ0 とする
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超伝導と高周波 (7) : 金属壁の表皮抵抗
表皮抵抗 Zs の定義
Zs = E∥ /H∥ ,
ここで ∥ は表面に平行な成分*5
RF 電力損 Pwall は表皮抵抗の実数部分 Rs = Re[Zs ] に比例し
1 2
Pwall / 単位面積 = Rs H∥ 2
超電導体については σs (≡ 1/µωλ2L ) ≫ σn であって
Rssuper ≈
1
σn ω 2 µ2 λ3L
2
常伝導体では σs = 0 であるので
√
Rsnormal ≈ ωµ/2σn (Cu では = 8.5 mΩ)
超伝導 Nb (2K) と常伝導 Cu (300K) の ω/2π = 1 GHz での比較:
Rssuper . 2 × 10−6 Rsnormal = 17 nΩ
5
真空側では Zs = Z0 = 377Ω .
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[ IV ] クライストロン (1)
KEKB コライダーリングで使われる UHF 高周波電力発生用電子管
周波数: 508 MHz、出力: 連続波で 1 MW
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クライストロン (2)
クライストロン断面の模式図
GULIWWXEH
FHUDPLFEXVKLQJ
LQSXW
FDYLW\
ZHKQHOWHOHFWURGH
IRFXVLQJ
PDJQHW
DPSOLI\LQJ
FDYLW\
RXWSXWFDYLW\
FROOHFWRU
+9
KHDWHU
FDWKRGH
DQRGH
FHUDPLF
ZLQGRZ
5)LQSXW
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FHUDPLF
ZLQGRZ
EHDP
5)RXWSXW
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