加速器の基本概念 I : 粒子加速器技術のあけぼの

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髙田耕治
KEK
[email protected]
http://research.kek.jp/people/takata/home.html
総研大加速器科学専攻
2015 年度「加速器概論I」講義
2015 年 4 月 16 日
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加速器の基本概念
I : 粒子加速器技術のあけぼの
目次
§1 粒子加速器のあけぼの
§2 高エネルギービームの力学: (1)
§3 高エネルギービームの力学: (2)
§4 高周波加速技術
§5 今後の高エネルギー加速器
§6 参考文献
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加速器基本概念 I
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粒子加速器のあけぼの
Contents
1
人工的核崩壊の発見(1919 - 1932)
と加速器の誕生
2
初期の加速器いろいろ
3
直流電圧加速から高周波加速へ
4
高周波加速のための諸課題
5
第2次世界大戦(1941 - 1945)前後の急展開
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人工的核崩壊の発見(1919 - 1932)と加速器の誕生 (1)
Ernest Rutherford (英国 Cambridge Cavendish 研究所):
α 線照射による核崩壊発生の発見 (1917 - 1919)
• 窒素ガスを詰めた容器に α 崩壊する放射線源を置いたとき
陽子と酸素が生成されることを確認:
α + 147 N → p + 168 O
この人工的核崩壊現象をより深く追求するために、高エネルギー
粒子ビーム発生装置の開発が各国で始まる
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人工的核崩壊の発見(1919 - 1932)と加速器の誕生 (2)
結局 1932 年に Cavendish 研究所の John D. Cockcroft と Ernest T.
S. Walton が 800 kV まで加速した陽子ビームでリチウム原子核を
破壊し、はじめて人工的な原子核反応を得た。
p + 73 Li → α + α
これに使われた加速器は通常コッククロフト・ウォルトン型とよば
れているが、スイスの H. Greinacher の発明になる多段型直流整流器
(1919) を改良したものである。
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直流高電圧加速器
主要な二つの方式
• 多段のコンデンサー・整流管回路による電圧増培 : コッククロフト・
ウォルトン 800 kV 加速器 (1932)。
• 帯電ベルト方式 : バンデグラフ (Robert J. Van de Graaff) 1.5 MV
静電圧型加速器 (1931)。
静電圧型加速器はビームエネルギーが安定かつ精密に設定できる
ので、質量分析用として現在でも使われる。
• 同位元素比
•
14
14
C/12 C の分析による考古学年代測定。
C の半減期約 5,730 年を単位として、生物が呼吸停止してからの
時間がわかる。
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コッククロフト・ウォルトン回路
V(3+cos ωt)
V(1+cos ωt)
V cos ωt
V(5+cos ωt)
AC
0
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2V
4V
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6V
0
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コッククロフト・ウォルトン加速器 1
1
J. D. Cockcroft and E. T. S. Walton, ’Proc. Roy. Soc. London,’ A, vol.129, p.477 (1930)
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1932 年頃の Cockcroft:鉛直に立つ加速管の横で
Please see the figure in p.227 of ref. 2
2
E. Segr`e, From X-rays to Quarks, p.227, (W. H. Freeman and Company, 1980)
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ガラス製真空チューブとビーム加速間隙
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帯電ベルト方式の静電圧型加速器:
バンデグラフ (Robert J. Van de Graaff) 1.5 MV 加速器 (1931)
Insulating Belt
High Voltage for Acceleration
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静電型加速器の加速エネルギー限界
絶縁破壊電圧が決定的要因
• 1cm 離れた金属平面間での絶縁破壊電圧の目安
絶縁体
典型的絶縁破壊電圧
空気 (1 atm)
≈ 30 kV
≈ 80 kV
≈ 360 kV
SF6 gas (1 atm)
SF6 gas (7 atm)
絶縁油
超高真空
≈ 150 kV
≈ 220 kV
• 電極間隙の大きさに比例してどこまでも耐電圧が上がるわけ
ではない
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Van de Graaff 加速管電極からの放電のデモンストレーション
∗3
3
http://web.mit.edu/museum/exhibitions/mindhand.html
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高周波加速への中間段階:Donald W. Kerst のベータトロン (1940)
磁束 Φ の時間変化にともなう誘導電場 を使う
• 交流トランスと同じ原理.
• マクスウェル方程式のうちのファラデーの法則:
∇×E=−
∂B
.
∂t
• 閉曲線 C に沿って電場 E の接線成分を積分しよう:
I
∂
E · dl = −
∂t
C
∫∫
B · n dxdy = −
S
∂
Φ,
∂t
ここで
- dl は閉曲線 C, の線素
- n は閉曲線 C で囲まれた曲面 S の面素 dS = dxdy に
鉛直な単位ベクトル
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Kerst のベータトロン第一論文
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最初の高周波加速:Wider¨
oe のリニアック
創案は Gustaf Ising (Sweden, 1925)
試作は Rolf Wider¨
oe (Norway/Germany, 1928).
ドリフトチューブ を取付け、各間隙で VRF ∼ 25 kV (1 MHz) の
加速電圧を実現
彼はこの配置を繰りかえせばはるかに高いビームエネルギーが得ら
れるはずと確信
RF
Ion
So urce
Drift Tube
Beam
この方式は今日陽子加速に使われるドリフトチューブ・リニアック
(DTL) の原型である
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Ernest Lawrence のサイクロトロン (1931)
Wider¨
oe の方式で高エネルギーを得るにはリニアックが長すぎ
ると考えた米国の Lawrence は、磁場中の円軌道を周回する陽子は
「エネルギーによらず同じ周波数」
で多重回加速できることを思いつく。
• 円形加速器 のはじまり
• サイクロトロン周波数
ωc = eB⊥ /m.
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初期のサイクロトロン
引用文献 p.229 の図を参照のこと a
Lawrence と最初のサイクロトロン
(ca. 1932).
a
1930 年代に理研仁科博士のチームが作った
サイクロトロン
陽子を 9 MeV まで、重陽子を 14 MeV
E. Segr`e, From X-rays to Quarks, p.227,
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まで加速2015
(1939).
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サイクロトロンでの粒子の円周運動
RF Generator
dee
dee
磁場 B のなかでの電荷 e、質量 m の
粒子の円軌道 ( β = v/c ≪ 1 を仮定).
• 軌道半径: r =
rn
rn+1(> rn)
mvc
|e|B .
• 周回周波数: fc =
|e|B
2πm .
• f は B で決まる。上の仮定の範囲
Magnetic Field
では r と v に無関係
Electric Field
• サイクロトロン周波数: ωc = 2πfc .
beam
dee
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dee
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磁場中の電子の円運動の例
∗4
4
http://en.wikipedia.org/wiki/File:Cyclotron motion.jpg
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高周波加速にどんな問題があったか
1
リニアック:
• 高周波電力が不十分: 電子管技術が未成熟であった
2
サイクロトロン:
• 陽子質量の相対論的増加:
→ ωc , の低下
→粒子が高周波と非同期 になる
3
ベータトロン:
• 真空ドーナッツへ電子を入射し正確に円軌道にのせることが極
めて困難であった
• 正規軌道からの粒子のずれを力学的に解析する必要があった
• 今日の ベータトロン振動論の始まり
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第2次世界大戦の末期から戦後にかけての急進展
1
高周波加速法における 位相安定性原理の発見
• Vladimir Veksler (ソ連、1944) および
Edwin M. McMillan (米国、1945)
• サイクロトロンは
→ シンクロサイクロトロン、そして
→ シンクロトロンへ
2
強集束法の発明: ビーム軌道を補正する強力な方法
• Christofilos (1950) と Courant-Livingston-Snyder (1952).
3
レーダ技術開発にともない大電力電子管が使えるようになった
• マグネトロンやクライストロン
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