プロセス設計集中講義 - 京都大学大学院工学研究科化学工学専攻

プロセス設計集中講義
2015/05/28-29
講師:馬場 一嘉 <(株)ダイセル>
講義の概要
本講義では、以下のような疑問を解決できるようにしていきたい。
・プロセス設計では、どんなことをするのか?
・プロセスを設計する上で考慮すべきことは何か?
① プロセス設計演習ですぐに役立つ内容
② 化学工学系エンジニアの常識として知っておいて欲しいこと
③ 企業に入ってから役立つ(かもしれない)こと
P.1
目次
1.プロセス設計の概要
2.反応器設計
3.蒸留塔設計
4.シミュレーションと物性推算
5.その他の機器設計のポイント
6.制御性と安全性
7.最近の事故事例からの教訓
8.その他
P.2
プロセス開発の流れ
プロセス開発の流れは、以下のようなステップに分けられる。
市場調査、文献収集
↓
机上検討、プロセス概念作成
↓
試験管、フラスコレベルの合成
↓
プロセスイメージの具体化
↓
物質収支の素案作成
↓
ベンチスケール設備
↓
プロセス基本設計
↓
パイロット設備
↓
商業プラント
P.3
ニーズやシーズの調査
実際に成り立つプロセスになる可能性は?
本当に出来るの?
最も初期のプロセスイメージ
できるとすれば、こんな感じ。
基本的なプラントイメージの立証
実プラントのイメージを固める
実プラントのミニ版で長期運転も含め検討
実プラントの建設・運転
プラント建設の流れ
プラント建設の流れは、凡そ、以下のようなステップに分けられる。
研究開発、概念設計
↓
事業性検討、各種アセスメント
↓
投資提案、決裁
↓
発注、詳細設計
↓
納入、据付、現地工事
↓
メカラン、試運転
↓
性能試験、能力テスト
↓
商業運転
P.4
技術開発、基礎設計
実施の価値があるか? 問題は無いか?
経営的判断
エンジニアリング業務
建設工事
基本的な(単体での)動作チェック
総合テスト、設計の検証、性能保障
完成、引渡し
プロセス設計とは
プロセス設計とは、種々の必要条件や制約条件のもとで、プラント建設や運転の基本
となる物質収支(Material Balance)や熱収支(Heat Balance)などの諸条件を導出し、
さらに詳細の機器設計や配管設計などを可能とするものである。
プロセスフローとしては、まずはPFD(Proces Flow Diagram)が必要となる。
P.5
プロセス設計の流れ
概念設計から詳細設計となるにしたがって情報量も増え、より専門性の高い設計が
必要となってくる
【設計で得られる情報】
ブロックフロー
↓
PFD
↓
マテバラ・ヒートバラ
↓
機器概略仕様
↓
機器図面、P&ID
↓
プロットプラン・配管図
↓
電気・計装図面
↓
試運転方法検討
P.6
【プラント建設の段階】
プラントの機能構成
↓
操作、機能の順序表現
↓
単位操作設計
↓
機器設計
↓
機器製作、配管部品等手配
↓
据付・配管工事
↓
電気・計装工事
↓
保温・塗装
マテバラとヒートバラ
◇マテバラ(Material Balance)は、プロセスの各ストリームごとに、流量(質量流量、
モル流量)と組成(重量分率、モル分率)を表形式で表したもので、機器ごとに
出入りするストリームの合計は収支(バランス)が取れている必要がある。
◇ヒートバランス(Heat Balance)は、上記のマテバラにストリームごとのエンタルピー
の大きさを記載したもので、反応熱の出入りや熱交換器での加熱/冷却すべき熱量、
コンプレッサでの必要仕事量などが把握できる。
プロセスシミュレータを用いればマテバラとヒートバラが取れた解が得られるが、結果
を確認したうえで、数値を丸めたりしながら、改めて表形式に仕上げる必要がある
P.7
PFDとP&ID
◇PFD(Proces Flow Diagram)には、主要機器と主要配管(および計装)が描かれる。
◇P&ID(Piping and Instrumentation Diagram)は、すべての機器とともに、すべての
配管やバルブ類、計装機器が描かれたものである。P&IDは、EFD(Engineering
Flow Diagram)と称される場合もある。
◇これらのほか、プラントの配管についての詳細を記述するためには配管ルート図、
フロアごとの平面図や立面図なども併用され、イメージを深めることができる。
(近年では3次元のウォークスルーも活用されることがある)
P.8
プラントの構成
◇化学プラントは、一般に、反応器と分離精製系などから構成される
◇原料の精製、副生物の精製、原料や中間体のリサイクルのための設備が場合に
よっては必要となる
◇さらに、原料受入れ、製品の移送や出荷のための設備、および貯槽(タンク)なども
必要となる
◇そのほか、受電設備、ボイラーなどの蒸気発生設備、排水処理設備なども、工場
での共通設備として必要になる。
P.9
プラントの大きさのイメージ
化学プラントは、反応器や蒸留塔などを設置したストラクチャーと、それに付随する
製品や中間製品などを保管するタンク群から構成される。
そのほか、設備全体が3~6階建ての建物の中に設置される例も多い
プラントの大きさ(イメージ)
20m~150m
製造所(製油所)
のイメージ
100m~500m
300m~1km
P.10
http://www.daicel.com/profile/history.html から
500m~2km
コンビナート
石油化学コンビナートのことを指すことが多く、石油精製工場からのナフサをもとに
エチレンやプロピレンを製造し、さらにその誘導体や、芳香族製品およびその誘導体
などを製造するプラント群が存在し、それらがパイプラインでつながって原料や副生物
などを移送していることが多い。
1つの企業だけで構成していることもあれば、複数の企業が参画していることも多い。
石油精製やエチレンプラントを含まないがコンビナートと称される例もある
国内のコンビナートの例
・鹿島(鹿島石油(JX)、三菱化学、三菱ガス化学、JSR、日本ポリプロ、ほか多数)
・千葉①(コスモ石油、丸善石化、電気化学工業、ほか)
・千葉②(出光興産、三井化学、ほか)、 ・千葉③(富士石油、住友化学、ほか)
・川﨑①(東燃石油、日本ゼオン、ほか) ・川﨑②(JX日鉱日石、日本ポリエチ、ほか)
・四日市(コスモ石油、東ソー、JSRほか) ・大阪(JX日鉱日石、三井化学、ほか)
・水島①(JX日鉱日石、三菱化学、ほか) ・水島②(JX日鉱日石、旭化成ケミカルズ)
・岩国大竹(JX日鉱日石、三井化学、ダイセル)
・徳山(出光興産、東ソー、日本ゼオンほか)
・新居浜(住友化学) ・宇部(宇部興産)
・黒崎(三菱化学)
・大分(昭和電工ほか)
P.11
エチレンプラントの所在地
540千トン/年
石油化学工業協会のHP(http://www.jpca.or.jp/62ability/0plant.htm)から
P.12
エチレンプラントの概略フロー
P.13
http://chemeng.in.coocan.jp/process/ethylene.html から
鹿島コンビナートの例
三菱化学鹿島事業所のホームページから
P.14
プロセス設計での要求事項
プロセス設計の結果に対し、何が要求されるであろうか。
・他の技術者のチェックを受けることができるようにする
・得られた結果を次工程の設計者が利用できるようにする(詳細設計)
・いくつかの案を比較し、最善な設計内容を選択する(ケーススタディー)
P.15
プロセス設計のアウトプット
プロセス設計では、一般に、次のようなアウトプット(成果物)が要求される
PFD
マテリアルバランス表
ヒートバランス表
プロットプラン
オフサイトの配置
主要機器の基本仕様
主要機器のサイジング
機器リスト
機器の材質検討
主要機器のコスト計算
プラント全体の概略建設費用
製品の比例コスト
製品のフルコスト
投資回収計算
P.16
さらに詳細には、・・・
P&ID
配管設計
配管ルート設計
ストラクチャー設計
計装点、制御系設計
安全設備設計
基本運転条件
運転範囲設計
運転開始/停止方法案
学生のプロセス設計演習では・・・
学生のプロセス設計演習では、期間も情報も限られるため、以下のようなアウトプット
を出すことでよいと考えられる
◎=必須、○=できるだけ欲しい、△=できれば欲しい
◎ PFD
◎ マテリアルバランス表
○ ヒートバランス表
◎ 主要機器の基本仕様
○ 主要機器のサイジング
○ 機器リスト
○ 機器の材質検討
○ 主要機器のコスト計算
○ 基本運転条件
◎ 製品の比例コスト
○ プラント全体の建設費用
△ 製品のフルコスト
○ 投資回収計算
△ 安全設備設計
P.17
以下の観点からできるだけ実現
可能なプロセスとして欲しい
・比例コストが現実的(採算性)
・省エネルギー性
・副生物や排水負荷が処理可能
・機器が製作、建設可能
また、何らかの特色を持たせ、
注力して検討した点を報告できる
ようにして欲しい
反応器設計のポイント
取り扱う物質や反応のメカニズムにより反応器の種類は様々に分類される。基本的
には反応を促進し、転化率や収率を向上させるための要件が成立するように、反応
器やその組み合わせを設計する。発熱反応の場合には除熱が大きな課題となる。
1)
2)
3)
4)
5)
6)
7)
液+液
液+ガス
液+ガス+触媒
ガス+触媒
ガス+ガス+触媒
液+微生物
・・・・
・ 平衡反応⇔非平衡反応
・ 可逆⇔不可逆
・ 発熱反応⇔吸熱反応
・ 競争反応、逐次反応
・1パス⇔リサイクル
・量論比、過剰、溶媒
・モノマー⇔重合
P.18
・ バッチ⇔連続
・ 管型、攪拌槽、槽列
・ 全量供給、分割供給、滴下
・ 多管式、コイル式、ジャケット(除熱)
・ 固定床、流動層、移動層(触媒)
・ 触媒劣化、再生、入替え
・ 熱回収、温度コントロール
・ 安定性、安全性、制御性、操作性
・ 運転開始方法、停止方法、清掃方法
・ マイクロリアクター
:
:
(例)多管式触媒層型反応器
多管式熱交換器に似た反応装置のチューブ側にペレット状の触媒粒子を充填し、
気相の発熱反応を行わせる。反応熱は、シェル側に水を循環させ、除熱する。
ある程度、運転負荷範囲を広げた設計をしたいが、ポイントはどこにあるだろうか。
or
・ガスを流す方向は?
・チューブの径はどの程度がよいか?
・線速をどのように設計すべきか?
・除熱側の設計ポイントは?
・強制循環か、自然対流循環か?
・触媒の充填は均一にするか?
・温度分布はどのようになるか?
・反応熱の再利用は考えるか?
・ホットスポットは発生しないか?
・安定性はあるか?
・温度コントロールはどのように?
or
P.19
反応熱の循環式での徐熱の例
反応温度をできるだけ均一にしたい場合、その目的に沿うように、流れの方向や
徐熱方法を設計する。また、冷却が停止しないよう、安全性を考慮する。
副生蒸気(熱回収)
反応ガス
フラッシュドラム
反応器
補給水
冷却器
原料ガス
P.20
(参考)鉛直鉛管内の沸騰伝熱の様子
熱伝達係数(下の図の左端のグラフ)は、環状流から噴霧流に移る領域で最大となり、
それより上のドライアウトした部分では小さくなってしまう。発熱の多い部位の除熱が
大きくなるよう、設計に配慮が必要となる。
P.21
化学工学便覧(改訂七版)から
バッチと連続
反応器をバッチにするか、連続(流通式)にするかの判断はどこにあるだろうか?
連続の場合でも、完全混合層や押し出し流れ(ピストンフロー)まで様々な形式がある。
例① 液相の速い発熱不可逆反応(1~2秒で完結)の場合
例② 気相の早い高温での吸熱反応(数秒で平衡に達する)で、
生成物は熱分解しやすい場合
例③ スラリー+液相の遅い反応(30分~数時間で完結)で、
副反応が少ない場合
P.22
反応器の設計例
例1: 液相反応で、主反応 A + B → C (C が目的生成物)と、副反応 C + B → D が
ある。反応速度は同程度である。
例2:水を副生する液相の可逆反応 A + B ←→ C + H2O で、必要な滞留時間が
数分の場合、目的生成物のC の収率を高めたい。
例3:触媒層での気相の部分酸化反応で、転化率が50%程度と低い、副反応は
少ないが、未反応の原料ガスを有効利用したい。
P.23
蒸留塔設計の流れ
まず蒸留分離手順を設計し、各蒸留塔の入り出のスペック(分離条件)が決まってから
蒸留塔ごとの設計に入る
塔頂組成、塔底組成、抜き出し量などのスペック(マテバラ)
↓
フィード段、液フィード/ガスフィード、還流量、中間加熱の有無などの
蒸留塔設計(蒸留シミュレーション)
↓
充填塔(規則充填物or不規則充填物)、シーブトレイ、キャップトレイなどの内部構成、
塔径、塔高などの構造設計
↓
運転操作可能範囲、余裕などの確認
★単純には蒸留分離できないと分かったら、別の操作での
分離を検討する必要がある。
P.24
蒸留塔の構造
キャップトレイ
シーブトレイ
P.25
http://weblearningplaza.jst.go.jp/ から
蒸留塔(充填塔)の構造
規則充填物
不規則充填物
P.26
http://weblearningplaza.jst.go.jp/ および
http://www.matsuimachine.co.jp/products/products3.html から
蒸留塔の設計
必要理論段数が一応設計できたら、実際の蒸留塔として設計するには、液ガス流量や
許容できる圧損などから、構成を検討する。トレイの種類を決め、塔径を仮定して能力
線図を描き、操作が可能な範囲にあるかをチェックする
◇ 単純なのはシーブトレイ、液流量が少ないと、キャップトレイが有利
◇ 減圧塔など、圧損が問題になれば、充填塔を検討する
◇ 濃縮部と回収部で塔径やトレイ形式を変更することもある
P.27
化学工学便覧(改訂七版)から
共沸蒸留
エタノールと水は、89mol%で気液平衡組成が同じになり、単純な蒸留操作ではそれ
以上エタノールを濃縮できなくなる。共沸剤としてベンゼンを加えると、3成分の共沸
混合物として、エタノールの沸点より低い温度で塔頂から留出する。留出液は2相に
分離し、溶剤層は共沸蒸留塔に還流し、水層はベンゼンを回収し、さらに、水を分離
するような構成になります。
P.28
http://chemeng.in.coocan.jp/memb/et.html から
共沸蒸留の他の例
D
水とIPAの混合物Aを脱IPA塔に供給し、
登頂からは3成分共沸混合物Dを、塔低
からIPAを抜き出す。登頂のデカンター
で分離した溶剤層を還流として脱IPA塔
に戻し、水層は脱水等で塔底から水を、
登頂からの水-IPA混合物はAの組成に
近いため脱IPA塔に戻す。
G
E
A
F
脱水塔
脱IPA塔
B
P.29
C
化学工学便覧(改訂七版)から
多成分蒸留
多成分の蒸留では、低沸と高沸の限界成分(キーコンポーネント)を決めて、それらが
互いに分離されるよう、運転条件を定める。
また、フィード組成によっては、いくら段数を増やしても目的とする組成の製品が得られ
ないことがある。蒸留境界をまたいでいることが原因であり、共沸蒸留や抽出を利用
するなどして、分離可能なシーケンスとすることが必要となる。
そのほか、沸点差が非常に小さい場合などは蒸留分離は困難であるので、蒸留以外
の分離方法が無いか検討してみることも必要である。
P.30
熱回収設計
蒸留塔のリボイラーでの加熱、コンデンサでの冷却など主要な熱の出入りを、温度差
を考慮して組み合わせることで、省エネルギーを図ることができる場合がある。
そのままでは実現できない場合でも、蒸留塔の圧力を変化させることで実施可能と
なる場合がある。ただし、加圧、減圧下で蒸留塔を運転する場合の問題点や、建設
コストのアップを考慮しなければならない。
加圧塔
減圧塔
Heat Composite Curve (熱複合線図)
( http://ecoeng.exblog.jp/19821913 から)
P.31
爆発範囲の図示と変化
下図のように、可燃性ガス、支燃性ガス(空気)、不活性ガスの3成分系として考える
ことが多い。また、運転管理上は、酸素濃度で管理することが一般的である。
爆発範囲は、一般的に、圧力が上昇した場合や、温度が上昇した場合に、拡大する
とされている。
可燃性ガス
爆発上限界
爆発下限界
爆発範囲
P.32
空気
不活性ガス
参考: http://www.safe.nite.go.jp/airpollution/pdf/add06_Sec46ryuui.pdf
爆発範囲の回避
酸化反応などで、可燃物と酸素(空気)を共存させる必要がある場合は、爆発範囲を
回避するような運転条件とすることが必要である。また、反応によって酸素が副生
する場合も、爆発範囲を逃れるようにプロセスを設計する必要がある。
爆発範囲を回避し、反応をマイルドにするために不活性ガスとして窒素やスチームを
供給する場合がある。
P.33
プロセスシミュレーションの進め方
大きいプロセスの場合、プロセスシミュレータに最初からすべてのデータを入力して、
実行させて正しい答えを得ようとすることは、通常は無謀である。
例えば、以下のような手順を踏んで、ステップを踏んで収束解を得ることが必要である。
①必要な成分数での物性が推算できるように推算式やパラメータの選定などを行う。
②気液平衡や液液平衡など、ポイントとなる箇所の物性が文献値と一致するか
確認と修正を行う。
③反応器のみ、蒸留塔のみなどと、プロセスを分割して、それぞれで妥当な解が
出るかを確認する。
④全体のバランスを確認する必要があれば、上記の分割モデルを結合して全体
のモデルに仕上げる。(リサイクルは後回し)
⑤リサイクルラインも含めて全体を収束させる
⑥熱回収ができる条件になるよう、蒸留塔の圧力を変えるなどの変更を加えてみる。
P.34
シミュレータの使用について
プロセスシミュレータは、必要な条件さえ与えれば、通常は何らかの答えを出してくる。
しかしながら、シミュレータの答えは常に正しいものではなく、過信をしてはならない。
インプットミス、物性推算式の選定ミス、物性推算式の適用限界、収束の不十分な解、
など、不適切な答えが返ってくる場合はよくある。
シミュレータの答えが常識的に妥当なものかなどのバックチェックが必要となる。
P.35
シミュレータの計算結果評価
以下のような方法で、シミュレータの計算結果が妥当であるかをチェックすべきである。
・手計算による簡易計算の結果とほぼ一致するか
・常識的な範囲に答えがあるか
・条件を少し変更してみて、答えが妥当な変化を示すか(グラフに描いてみるとよい)
・熱交換量などが妥当な値になっているか
P.36
物質収支と熱収支
プロセス設計の重要なアウトプットとして、物質収支(Material Balance)や熱収支(Heat
Balance)がある。
P.37
http://comtecquest.com/Practice/practice1.html から
設計ツールについて
プロセス設計やプラントの詳細設計を行う際に使用するその他のツール(ソフト)と
して、以下のようなものがある。
・配管設計(3次元)
・熱交換器設計
・蒸留塔詳細設計
・タービン、コンプレッサの設計
・ダイナミックシミュレーション
・流動解析(CFD)
・コスト計算ツール
P.38
物性推算について
物性は、シミュレータでの計算の精度に非常に大きな影響を与える。シミュレータ標準
で物性パラメータや物性推算用データが準備されているが、適切な物性推算式を用い
ないと、推算の精度が悪くなってしまうこともあり、注意が必要である。
・純物質の物性
・2成分系の物性
・状態方程式モデル
・対応状態原理
・偏心係数
・グループ寄与法による推算
・物性データバンクの利用
・物性の実測
・輸送物性
P.39
参考図書:Poling, Prausnitz ら
“The Properties of Gases and Liquids 5th ed.”
(http://www.amazon.co.jp/dp/0071189718)
水-メタノール系の気液平衡線図の比較
Ideal/Raoult’s Law
RK-SOAVE
○
(実験値)
―――(計算値)
NRTL(最も確からしい)
物性データバンク
プロセスシミュレータには、成分ごとの純物性のパラメータが登録されている。また、
2成分の間の平衡定数などもある程度は登録されている。
しかしながら、2成分の平衡関係についは、成分の数やその組み合わせが膨大で
あり、プロセスシミュレータでは十分にカバーしきれてはいない。
2成分間の平衡関係は実測データも多いが、それらのデータをまとめてデータバンク
化されているものもある。
プロセスシミュレータのベンダーでは以下のような物性データバンクと提携して、
データを利用できるようにしているところが多い。
物性データバンクの例
DIPPR(The Design Institute for Physical Properties)
NIST(The National Institute of Standards and Technology )
DECHEMA(Gesellschaft für Chemische Technik und Biotechnologie)
DDB(Dortmund Data Bank)
P.40
グループ寄与法による物性推算
純物質の物性データが存在しない場合、物質の構造式から、標準沸点、蒸発潜熱、
臨界温度、臨界圧力、標準生成熱、定圧比熱などの物性を推算できる。
さらにこれらから、熱伝導度、粘度、などの輸送物性も推算することができる。
標準沸点の文献値が存在する場合、それを利用することで推算精度が向上する。
P.41
物性推算法のガイドライン
P.42
分離技術会:「実用蒸留技術」 (2010)から
リサイクルとパージ
反応器における転化率が低いと、多量の原料が残ってしまう。これを無駄なく再利用
するために、反応系に戻すリサイクルが行われる。
また、反応に関係しない溶媒なども、再利用のためにリサイクルされる。
分離の仕組み上、リサイクルラインに不活性ガスなど蓄積してしまい、反応成績が悪く
なってしまうのを避けるために、一部を抜き出して捨てるパージが行われる。
フレアスタックへ
オフガスブロア
リサイクルガス
吸収液
M
原料ガス
空気
吸収塔
反応器
P.43
精製工程へ
リサイクルを含む系のシミュレーション
リサイクルを含むプロセスのシミュレーションは、最初から全体を収束させることは
非常に難しい。最初のうちは、リサイクルを分断して、仮の流量や組成での流入や
分岐を考え、その後、リサイクルストリームを設定するのがよい。
ここで分断
フレアスタックへ
吸収液
M
原料ガス
空気
吸収塔
反応器
P.44
精製工程へ
成り立つプロセス
学生のプロセス設計においても、経済的なプロセスとして成り立つような設計が求め
られる。より具体的に、「成り立つプロセス」とは、どんなものであろうか。
P.45
熱交換器設計
プロセス設計のあとの、機器の詳細設計の部類に入るが、ひとつの簡単な例として、
多管式熱交換器の設計問題を取り上げる
◇伝熱量を促進するためには・・・
Q=U・A・ΔT
U=func(G)
◇しかし、機器コストアップは避けたい
P.46
多管式熱交換器の設計
多管式熱交換器では、管側が2パス以上、胴側も邪魔板の設置により多パスとなって
いることが多い。このような場合、流体の温度差(平均温度差)をどのように評価する
かが問題となる。
また、設計する上で、伝熱管の定尺、製作可能な胴のサイズ、装置効率などを考慮
する必要がある。
P.47
①胴 ②胴側ノズル ③固定管板 ④伝熱管 ⑤固定棒とスペーサー
⑥邪魔板 ⑨仕切室 ⑪仕切室ノズル ⑫仕切板 ⑬胴ふた
⑭遊動頭ふた ⑮遊動管板
化学工学便覧(改訂七版)から
多パス熱交の設計
𝑄
𝐴=
0
𝑑𝑄
𝑈ΔT
・・・・・・・・・・(1)
𝑇𝑖2 − 𝑇𝑖1
𝑃=
,
𝑇𝑂1 − 𝑇𝐼1
𝑇𝑂1 − 𝑇𝑂2
𝑅=
𝑇𝐼2 − 𝑇𝐼1
𝑄
𝐴=
𝑈(Δ𝑇𝑙𝑚 𝐹)
・・・・・・・・・・(3)
・・・・・・・・・・(2)
平均温度差は、パス数によって
異なる温度差の分布を積分して
求めることになる。化工便覧には
左図のようなチャートがあり、
PとRから対数平均温度ΔTlmに
掛ける係数F を求めることが
できる
P.48
化学工学便覧(改訂七版)から
汚れ係数
連続プラントは、できるだけ停止させずに継続して運転したい。 プラントを運転して
いると、汚れが付着し、特に、熱交換器の伝熱係数が悪くなってくる。
汚れ係数は、内側および外側の境膜および隔壁(管壁)の伝熱抵抗に加算される
かたちで、総括伝熱係数に影響を与える伝熱抵抗の一種である。
汚れの原因は、スケール析出(スケーリング)、タール分の付着、微生物(スライム)の
付着などがある。
U=
P.49
1
1
1
𝑙𝑤
+ 𝑟𝑖𝑛 +
+ 𝑟𝑜𝑢𝑡 +
ℎ𝑖𝑛
ℎ𝑜𝑢𝑡
𝜆
コンプレッサ
ガスを圧縮するためにコンプレッサ(圧縮機)が用いられる。コンプレッサには、
遠心式(ターボ式)、容積式(往復式または回転式)などがある。
コンプレッサでの圧縮は、近似的には断熱圧縮(等エントロピー)であるが、厳秘には
少しずれることがある。そのような変化をポリトロープ変化と言い、
𝑝𝑣 𝑛 = const
で近似する。
冷凍サイクルの設計には、モリエル線図(p-h線図)が用いられることがある。
P.50
コンプレッサのいろいろ
P.51
化学工学便覧(改訂七版)から
モリエル線図
P.52
http://www.kitanet.ne.jp/~hibi/kitanet/mondai/kaisetu/R134a-p-h.jpg
タービン
ガスタービンやスチームタービンを回して得られる動力を求める必要が生じる場合も
ガスタービンやスチームタービンを回して得られる動力を求める必要が生じる場合も
ある。
ある。
高圧蒸気の場合は、多段のタービンや、さらに復水タービンを用いることもある。
高圧蒸気の場合は、多段のタービンや、さらに復水タービンを用いることもある。
プロセスシミュレータを用いれば得られる動力を計算してくれる。
プロセスシミュレータを用いれば得られる動力を計算してくれる。
手計算の場合は、モリエル線図や、スチームテーブルを用いる。
手計算の場合は、モリエル線図や、スチームテーブルを用いる。
P.53
機器の材質について
プラントの材質は、腐食が問題にならない部分では鉄(CS=Carbon Steel)が用いられ、
腐食環境においては、SUS304、SUS316、SUS326J4L、さらには高級材質である
ハステロイやチタンなどが用いられることがある。
使用する材質は、酸やアルカリの雰囲気、その濃度、温度領域などで異なり、専門家
のアドバイスや、テストピースでの加速試験や長期試験を行いながら決定をする。
P.54
化学工学便覧(改訂七版)から
プラントの付帯設備について
主要機器として塔槽類を設置し、さらにポンプを設置して配管系で結ぶ必要がある。
そのほか、プラントの付帯設備として、まずは調節弁や流量計、圧力計などの計装
機器が必要となる。プラント全体を監視し制御するDCSは、計装設備とは別に予算化
するのが通例である。
また、大きな機器には、梯子(はしご)や階段、歩廊などとメンテナンス用のステージ
なども必要になる。また、保温や保冷も考慮しなければならない。
あとは、オフサイト設備として、タンクや入出荷設備が必要である。
そのほか、工場共通ではあるが、用役や排水処理の設備、事務所などが必要になる。
P.55
化学装置コストハンドブック(改定3版)から
プラントのコスト計算
蒸留塔や熱交換器など、装置ごとのコストは「化学装置コストハンドブック(改定3版)」,
工業調査会(2000)などを参考にするとよい。計装などの付帯設備や建設のための
人件費などについては、これに一定比率を掛けて加算することが多い。物価上昇率に
ついては、コストインデクスとして係数が公表されている。
P.56
化学装置コストハンドブック(改定3版)から
コスト計算参考資料
化学工学会、システム・情報・シミュレーション部会の情報技術教育分科会主催の
「プロセスデザイン学生コンテスト」では、2010年度までは、コスト計算用のExcelシート
を提供していた。
本冊子および本冊子が説明する
Spread Sheet は、情報技術教育
分科会が主催、共催するコンテス
ト、および大学・大学院等高等教
育機関における教育を目的とし
た活動に限って、使用、配布を
認める。算出された結果により
不利益が生じた場合でも、情報
技術教育分科会はその責任を
負わない。
P.57
http://altair.chem-eng.kyushu-u.ac.jp/scej_contest2010/download.html から
プラント コストインデクス
基準年を100としたプラント建設に関わる物価上昇の推移を指数化したものが公表
されている。
P.58
日本機械輸出組合:2012年PCI/LF(プラントコストインデックス/ロケーションファクター)報告書
(http://www.jmcti.org/planthomepage/report/2012PCI_LF_summary.pdf)から
資金回収期間
投資(または追加投資)した金(カネ)が、何年で回収できるか(元が取れるか)を
評価する指標として、資金回収年がある。資金回収年の計算にはいくつかの方法が
あるが、最も単純な方法は以下に示すものである。
資金回収期間[年]=
投資額[百万円]
年間純利益[百万円/年]
純利益
工場
出荷額
変動費(原料費、用役費、消耗品費、etc.)
固定費(人件費、管理部門費、減価償却費、修繕費、
税金、保険料、金利、etc.)
P.59
スケールメリット
プラントを構成する機器は、処理能力の0.65~0.7乗に比例すると言われている。
プラント全体の建設費用も、ほぼ、これに従うと考えてもよい。
しかしながら、いくらでもサイズの大きい反応器や蒸留塔を製作できるわけではなく、
また、混合や撹拌の効率を考えると、装置には適切なサイズがあると考えられる。
あるサイズ以上では系列数を増やすなど、装置構成を変更する必要がある。
P.60
制御系設計
流量計や圧力計などのセンサーと、調節弁(CV)とを、どのように組み合わせて所望
の制御を行い安定した運転とするかは、大規模なプラントではしばしば課題となる。
単純に「押せ押せ」のルールや、自由度を考えるだけでは不十分で、動特性を考慮
して制御ループを組むことが必要な場面もある。
D
TC
A
C
LC
FC
FC
水
B
P.61
タンクの液面を一定に
保ち、Bへの流量、Dへ
の流量を所定値に調整
し、かつ、D行きの温度
も目標値としたい。
なお、調節弁は1つが
余分に描かれている。
いろいろな制御方法
流量調節計(FC)を設け、その設定値を温度制御計(TC)などから与えることによって、
制御を安定させることができる。このように上位から設定値を与える制御を、カスケード
制御(Cascade Loop)と呼ぶ。
また、流量比率を一定に保つために、比率制御(Ratio Control)も使用される。
FC
TC
RC
FC
FC
カスケード制御ループ
P.62
比率制御ループ
流体輸送の設計
簡単な詳細設計の事例として、流体輸送の設計を取りあげる。
タンクAからタンクBへ、指定された流量で流体をポンプで送りたい。配管や調節弁の
サイズをどのように設計すればよいだろうか
調節弁開度
30%
ポンプ性能曲線
70%
揚
程
[m]
管路の圧損曲線
流量
P.63
50%
配管網の圧力分布
2
𝑄 = 𝜋𝐷 4 𝑢
𝐿 + 𝐿𝑒
H = ℎ2 − ℎ1 + 4𝑓
𝐷
揚
程
1
𝑔
流量大
[m]
ℎ1
𝑢2
2
流量小
ℎ2
距離
調節弁を通る流量とCv値
調節弁(Control Valve)には、構造やサイズによって決まる流れやすさを表すCv値
(定格Cv値)と、弁特性(開度とCv値の関係)、流量可変範囲のレンジャビリティー
という特性値がある。
ある開度(%)における流れ安さを表すCv値は、弁特性、開度、定格Cv値、レンジャ
ビリティーから計算できる。
Cv値とは、15℃の清水を、バルブ
前後の差圧を1psi(6.9kpa)に保っ
て流した場合の流量を gal/min
(= 3.787L/min)で表した数値
液体の場合、以下の関係となる。
𝑄 =(45.58)Cv ΔP 𝐺
Q:流量[L/min]
ΔP:差圧[MPa]
G:比重[-](水を1とした値)
P.64
http://www.motoyama-cp.co.jp/technology/plug.html から
プラント建設
プラントの建設には主要な大型機器から細かな電気部品までを合わせると、数万~
数十万もの部材が必要となる。これらを必要とする時期に必要な場所に納入させ、
作業員を手配して、作業の前後関係や安全を考慮したうえで工事を遂行する必要が
ある。
また、天候異変を含む種々のトラブルを乗り越えて完成時期(納期)までに建設を
終えるためには厳格なプロジェクト管理やリスク管理が必要となる。
P.65
プラントの運転
プラントの運転には、多くの場合、DCS(Distributed Comtrol System=分散型制御シス
テム)が用いられ、オペレータが操作室でDCSの画面を用いてプラントの状態を集中
監視し、必要な操作を行っている。計器ごとに必要なアラームが設定されている。
P.66
プラントの運転管理
DCSを利用した運転監視では、少ない人数および画面台数で、広域のプラント群を
監視・操作できるように、以下のような設計がなされている。
◇ プロセス改善や制御性改善によるプラントの安定化
◇ シーケンスプログラム等による定常操作の自動化
◇ 工夫された運転操作画面による効率的な監視・操作
◇ 適切なアラーム設定による異常・変調の通知
◇ 緊急時にプラントを安全に自動停止させるESD(Emergency ShutDown System)
P.67
プラントの安全設計
プラントでは種々の危険物などを取り扱う。一方で、設備は故障する可能性があり、
人間は間違う可能性がある。そのほか、停電や蒸気の停止なども発生する。
様々なケースを想定して、異常変調を早期に検知し、自動または手動で適切な措置
が取れるように設計をしておく必要がある。
【キーワード】
・二重化(予備機、ホットスタンバイ)
・本質安全設計
・インターロック(フールプルーフ)
・自動停止システム
・緊急停止システム(ESD:Emergency ShutDown System)
・フェイルセーフ
・安全弁
・ラプチャーディスク(破裂板)
P.68
独立防護層
安全を達成するため、1つの条件が故障等によって満たされなくなっても、次の対策
が予め考案されていて、重大事故には至らないような独立防護層(
:
)による設計が一般には行われる。
IPL1:プロセスの本質安全設計
IPL2:プロセスアラーム、基本制御
IPL3:クリティカルアラーム、回避操作
IPL4:安全インターロック、ESD
IPL5:物理的防護(安全弁など)
IPL6:物理防護層(防液堤など)
IPL7:プラント非常事態対応
IPL8:地域防災計画
P.69
独立防護層の実際
バッチ反応装置を例として独立防護層の考え方を確認してみる
泡消火剤・中和剤
行政による
避難指示
IPL1:プロセスの本質安全設計
IPL2:プロセスアラーム、基本制御
IPL3:クリティカルアラーム、回避操作
原料
IPL4:安全インターロック、ESD
安全弁
除害
設備へ
LA
オーバーフロー
ライン
重要アラーム
IPL5:物理的防護(安全弁など)
IPL6:物理防護層(防液堤など)
IPL7:プラント非常事態対応
IPL8:地域防災計画
LI
一般アラーム
各防護層は本当に独立か?
P.70
防液堤
プラントの保守・改造
プラントが運転開始してからも、その性能を維持するために、保守(メンテナンス)が
必要となる。
また、プラントの能力を向上させたり、新規グレードや新規製品の製造に対応する
ためや、さらなる省エネを達成するために、プラントの改造が実施されることがある。
そのほか、運転中にも簡単な工事や非定常作業を行うこともある。
メンテナンス:内容、頻度、期間、作業方法、・・・・
プラント改造:実施内容、設計、停止期間、工事方法、安全対策、・・・・
P.71
最近の事故事例からの教訓
2011年から2012年にかけて、化学産業で大きな事故が相次いだ。プロセス設計や
プラントの安全管理に関係する事例であるので、簡単に振り返ってみる
事例1:2011年11月13日 東ソー(株)南陽事業所
事例2:2012年4月22日 三井化学(株)岩国大竹工場
事例3:2012年9月29日 日本触媒(株) 姫路製造所
事例4:2011年3月11日 コスモ石油(株)千葉製油所
P.72
http://blogs.yahoo.co.jp/fugufugu2003jp/64908917.html から
事例1
オキシ反応工程A系が緊急停止し、その影響でVCM精製工程の塩酸塔の運転状態
が変動し、その変動への対応不備で塩酸塔の塔頂のHCl中にVCMが混入したため、
プラント全体を緊急停止させたが、その後、塩酸塔還流タンク内、および液塩酸一時
受タンク内に溜まったHClとVCMの混合液は鉄錆等が触媒となって、1,1-EDCの
生成反応(発熱反応)が徐々に進行し、ある時点から急激に反応が進行し、内部圧力
が異常上昇して可燃物等漏洩、破裂と爆発火災につながった。
P.73
南陽事業所 第二塩化ビニルモノマー製造施設
爆発火災事故調査対策委員会 報告書から
事例1(続き)
塩酸塔中段(18段)の温度(通常運転では
重要とされる指標)が低下したため、回復
させるために、塩酸塔の加熱器蒸気量を
増加し、還流量を低減させた。
(通常80℃→57℃→80℃)
P.74
南陽事業所 第二塩化ビニルモノマー製造施設
爆発火災事故調査対策委員会 報告書から
事例1での問題点と教訓
◇オキシ反応工程の対処方法についてマニュアルへの記載はなく、事前の危険予知や
異常対応の教育・訓練がなされていなかった。
◇塩酸塔の通常運転時の管理点の1つである18段温度だけに注視しており、塩酸塔の
他の温度計は管理基準から外れて上昇した。対応操作で80℃に回復させ、蒸気量を
ロードダウン時に見合う蒸気量に設定運転継続した。その結果、塔頂組成は、通常は
HClだけのところが、HCl:40wt%、VCM:60wt%程度になった。
◇緊急措置マニュアルに「塩酸塔還流、スチーム(蒸気)量の調整」のみ記載されている
だけで、具体的な数値の目安は明記されていなかった。
◇塩酸塔還流槽の温度と圧力、および液塩酸一時受タンクの圧力が徐々に上昇を始め
たが、初期の上昇速度は小さく、運転員はこれに気付かなかった。
◇1,1-EDC生成反応について調査、解析が不十分であったため、危険性を認識して
いなかった。
P.75
南陽事業所 第二塩化ビニルモノマー製造施設
爆発火災事故調査対策委員会 報告書から
事例2
ボイラープラントの緊急停止に伴い、レゾルシン製造プラントの酸化反応器もESDが
かけられ、空気の代わりに窒素が供給され、緊急冷却水に切り替わった。1時間後、
冷却が遅いため、ESDを解除し、通常の循環冷却水に戻したが、同時に窒素の供給
による撹拌が停止したことに気が付かなかった。冷却コイルは反応器の下部だけに
設置されていて撹拌が停止したために反応器上部の温度が上昇し、その後、圧力
上昇に気がついたが、温度、圧力が加速度的に上昇して破裂し爆発炎上した。
P.76
三井化学(株)岩国大竹工場レゾルシン製造施設
事故調査委員会報告書から
事例2(続き1)
【定常運転時】
P.77
三井化学(株)岩国大竹工場レゾルシン製造施設
事故調査委員会報告書から
事例2(続き2)
【緊急停止時】
P.78
三井化学(株)岩国大竹工場レゾルシン製造施設
事故調査委員会報告書から
事例2(続き3)
P.79
三井化学(株)岩国大竹工場レゾルシン製造施設
事故調査委員会報告書から
事例2での問題点と教訓
◇ESDを解除して循環水による冷却としたほうがよいと判断した。
・ESD後の安定状態を維持する温度目標値や冷却速度の記載がなかった。
・通常停止時の経験から循環水に切り替えたほうがよいと判断した。
◇インターロックを容易に解除できた。
・インターロック解除のための手続きを取らなかった。
・インターロック解除の重要性の認識が不足していた。
◇インターロック解除により窒素撹拌が停止し、温度が上昇した。
・インターロック解除で窒素が停止するシステムであった。
・インターロック解除で窒素が停止することがマニュアルや教育資料に記載
されていなかった。
・インターロックが作動する温度計が反応器下部のみであった。
・DCS操作画面に窒素流量の表示がなかった。
・反応器内の温度分布が把握しにくいシステムであった。
・温度計位置と指示温度の関係を認識しておらず、異常な温度上昇に長時間
気がつかなかった。
・生成物の分解挙動に対する技術的知見が不足していた。
・生成物の分解開始温度が明示されておらず、周知されていなかった。
P.80
三井化学(株)岩国大竹工場レゾルシン製造施設
事故調査委員会報告書から
事例3
高純度アクリル酸製造工程で、回収塔の能力テストを実施するため中間タンクV-3138
に精製塔ボトム液を溜めていた。V-3138 下部はコイルにより冷却されるが、上部の液
は冷却されにくくなった。また、天板リサイクルと称する液循環をかけることが忘れられ
ており、高さ方向に温度分布が生じた。その結果、比較的温度が高い領域において
アクリル酸の二量体(DAA)生成反応が進行し、この反応熱がV-3138の貯蔵液温度を
徐々に上昇させた。しかし、V-3138 には温度計が設置されておらず、温度上昇を検知
できず、重合反応が起こり、白煙が噴出した。その後、圧力がさらに上昇し、タンクが
亀裂して大量漏洩、飛散が発生し、着火、爆発・火災が発生した。
P.81
(株)日本触媒 姫路製造所 アクリル酸製造施設
爆発・火災事故調査報告書 から
事例3での問題点と教訓
◇ 当該タンクへ前工程から高温のボトム液を受け入れ、また、タンクの貯蔵液量を
通常より増加したにもかかわらず天板リサイクルを実施しなかったために、タンク
の上部において、アクリル酸を高温で長時間滞留させることになった。
◇タンク貯蔵液の高温部において、アクリル酸の二量体生成反応が加速的に進行
し、その反応熱によりタンクの貯蔵液温度が上昇した。その結果、アクリル酸の
重合反応が進行し、さらなる温度上昇を招いた。
◇ タンク貯蔵液の温度検知および温度監視の不備があったことにより、アクリル酸
の重合反応が進行するまで異常な状況を把握できなかった。
◇ タンクの運用方法は引継ぎ記録に記載があるだけで、運転マニュアルには記載
されていなかった。2010年の引継ぎ記録には「V-3138 基本管理方法」の記載が
あり、「冷却水コイルの上部を越える液量で数日間保持する場合は、天板リサ
イクルを行う」と記載があり、現場バルブにも同様の記載があったが、使用機会
が無く、忘れられていた。また、タンク貯蔵液の温度管理範囲は定められて
いなかった。
◇ 当該タンクの状態や危険性について公設消防隊や従業員への情報提供や退避
指示が行われず、結果的に死傷者を出すことになった。
P.82
3つの事例で共通する問題点と背景
◇他のプラントの停止や、プラントの他の部分での停止などに起因する非定常な
運転状態での対応のミスや判断ミスに起因している
・運転員の世代交代に伴う経験不足、知識不足
◇取り扱い物質の異常時の挙動に対する知見の不足
・混合危険、異常反応の実験やアセスメントが不十分
◇運転マニュアルに記載が無く、運転管理方法が不徹底
・ベテランの知識に頼った運転のまま、マニュアル化されていない
◇アラームや運転監視画面で気がつかない、または、気がついても正常範囲だと
思い込んでいる
・多数のアラームが発報して気がつきにくいシステム
・異常を異常だと思わない人間の性質、知識の不足
◇撹拌が不十分なら温度が不均一になることなど、物理的常識や感性の欠如
・基礎学力または感性の不足
P.83
事例4
14時46分の東北地方太平洋沖地震(震度5弱)で、点検のために満水状態であった
LPGタンクの支柱筋交いの多くが破断した。15時15分の茨城県沖地震(震度4 )で、
筋交いが破断したLPGタンクの支柱が座屈してタンク本体が倒壊し、近接する複数の
配管が破断し、LPGが漏洩した。漏洩、拡散したLPGに着火し、火災が発生した。
火災の影響により隣接するLPGタンクが爆発・延焼し、さらに、付近の複数のLPGタンク
が爆発し、火災が拡大した。
P.84
コスモ石油(株)ホームページのプレスリリースから
事例4での問題点と教訓
◇LPGタンクを満水にすることは開放検査のための一時的な措置であるものの、その間
に地震が発生した場合の潜在リスクに係る認識が不十分であった。
◇万が一タンクが倒壊しても当該LPGタンク付近の配管・設備等が破損し、LPGの漏洩が
発生しないよう、配管・設備等の保護、縁切り、切り離し等ができていなかった。
◇漏洩箇所のうち1箇所の破断した配管につながる緊急遮断弁の作動用空気配管で
漏洩が確認され、補修を行うまでの間、緊急遮断弁を開状態で固定していた。
緊急時は現場で開状態の固定を解除する考えであったが、現場に近づいて解除する
ことが出来なかった。
◇火勢が強くなり、隣接するLPGタンク本体の表面温度上昇により強度が低下し、内圧
に耐えられず爆発・延焼した。
P.85
失敗知識データベース
東京大学名誉教授(現、工学院大学教授)の畑村洋一郎先生が主催し、各種産業
分野における事故事例などを「失敗事例」として各1枚に簡潔にまとめられており、
化学分野だけでも150件を超える事例が紹介されている。現在は、畑村創造工学
研究所のホームページとして公開されている。
P.86
http://www.sozogaku.com/fkd/index.html から
企業でのプロセス設計業務
プロセス開発担当がマテバラを作成、エンジニアリング担当が機器設計を実施する
など、分業をする場合が多い。
企業によるが、エンジニアリング業務を外注化するところも多い
P.87
プロセス設計課題への質疑応答
何かあれば・・・。
各研究室での指導教官のアドバイスも受けてください。
「プロセス設計専用掲示板」も活用してください。(過去ログも含む)
P.88
プレゼンテーションについて
プロセス設計演習の発表会に際して、気をつけて欲しい点
・ 時間に合わせて内容を絞る
・ 態度
・ 話しぶり(速さ、明朗さ、アイコンタクト)
・ 資料(文字の大きさ、図的表現、凝りすぎない)
・ ポインター、指示棒の使い方
・ ユーモアは上級編
詳細は各研究室の指導教官、先輩からアドバイスを受けていただきたい
参考: http://university.chase-dream.com/edu_univ/advice_JpnConf.html
P.89
レポートについて
レポート提出にあたって、気をつけて欲しい点
・ 文章で説明する
・ ストーリーを持った構成
・ 章立て、字下げ、余白、・・・・
・ 図表とキャプションの表現(図1、表2、式3・・・・)
・ 正しく分かりやすい日本語で書く
・ 発表会での質問や指摘事項などを反映
詳細は各研究室の指導教官や先輩からアドバイスを受けていただきたい
学会誌の投稿規程なども参考にできる
P.91
おわりに
今回の特別講義を通じて、プロセス設計の概要や雰囲気を理解していただけたと思う。
プロセス設計演習だけではなく、今後の皆さん方の活動に何らかのかたちでお役に
立つことを祈ります。
P.92