水田農業の構造変動と農地市場,農地売買事由,価格形成の変化

水田農業の構造変動と農地市場,農地売買事由,価格形成の変化
49
[研究論文]
水田農業の構造変動と農地市場,農地売買事由,価格形成の変化
高崎経済大学地域政策学部教授 吉 田 俊 幸
はじめに
18年には39.5%の1兆5,517億円へ減少した。水田
農地価格は,平成5~10年(2000年代)代前後
経営収支は,急速に悪化している。米生産費調査
より,北海道でも東北,北陸等で大幅に下落して
(21年産)により,土地純収益(粗収益-地代を
きた。この点は,都道府県農業公社(農地保有合
除く生産費)をみると,都府県では,3ha未満
理化法人。以下「公社」)の買入,売渡価格にも
の土地純収益はマイナスであり,支払小作料を上
反映している。とくに,都府県の東北地区での価
回るのは5ha以上のみとなっている。北海道で
格下落が著しく,北海道の水田価格の水準に近づ
は,5ha未満がマイナスであり,支払小作料を
いている。同時に,実勢小作料も下落しており,
上回るのは10ha以上のみとなっている。農林水
多くの都道府県では農地価格の下落率を上まわっ
産省資料によると,22年産平均販売額の10,260円
ている。この背後には,水田農業をめぐる諸環境
では,2ha未満では経営費を賄えない状況にあ
が大きく変化したことがある。
り,2ha以上とくに,5ha以上でも経営費は賄
まず,従来まで水田農業を支えていた兼業農家
えるが,家族労働費が賄えない状況にある。なお,
と高齢農家の離農が急速に進展し,大規模経営体
戸別所得補償の基準である標準的販売価格では,
が増加するとともにその農地シェアが大幅に増
1~5haでは経営費は賄えるが,家族労働費が
加するという構造変動が生じていることである。
賄えない状況にあり,5ha以上のみが利潤がで
2010年(平成22年)農業センサス結果によると,
る状況にある。稲作経営収支は米価下落によって
第一に,販売農家の大幅な減少と組織経営体,土
悪化し,大規模経営といえども利益を確保するこ
地持ち非農家,自給的農家の増加であり,第二に,
とが困難となっている。水田経営収支の悪化が,
借地面積の急増と大規模経営体の農地集積の進展
実勢小作料や水田価格が大幅に低下した要因の一
(注1)
を特徴としている
。注目されるのは,「組織経
つである。(注5この点については,大西,島本氏
営体の動きが地域農業の構造変動を規定する状況
が指摘している)。
が出現した」(注2西川) のである。以上の構造変動
以上の水田農業の構造変動と水田経営収支の悪
(注3橋詰)
を「予想を遥かに超える変化」
,「農業脆
(注4安藤)
化により,農地市場にも大きな変化が生じている。
弱化の一層の深化か,構造再編の進展か」
この点について,「(農地)供給が需要をはるかに
と表現している。兼業農家中心の水田農業構造の
上回る状況がうまれれば,その一つの表れ方が耕
崩れ,水田農業構造の再編が急速に進展している。
作放棄地の増加だと想定できる。そうすると,農
2010年の農業センサス結果では,「農業を主とす
地の売買価格および小作料は下がっているはずで
る担い手のいない水田集落」が54%であり,東海
ある。しかし,実際の農地用益市場はどうなって
以西では60%台となっている(農林水産省組替集
いるかどうか。
計)。
しかし,近年の現地実態調査は大規模農家経営
米価下落と米消費減により,米の粗生産額は,
内容についてのヒアリングに偏る傾向であり,ど
昭和59年の3兆9,300億円をピークとして,平成
のようなプロセスで農地を集積したという聞き取
50
りは薄手になりがちである。こうした農地市場の
40%台なのが,群馬の41.4%,富山の43.4%,山
具体的実情が必要だ」と安藤氏が指摘した(注6)。
口の43.1%,香川の40.3%,愛媛がの41.0%であり,
したがって,構造変動の下での農地市場の変化を
これらの地域は,小作料水準の推移をみると,富
確認するとともに最近の農地価格形成の変化を実
山 が19,605円 か ら11,105円 へ, 愛 媛 が22,262円 か
態調査,統計分析で検討する。
ら13,372円へ低下し,群馬,山口,香川が09年で
(注1) 2010年農業センサスの分析については,「農業問題
は9~8千円と1万円を割る低い水準となってい
研究学会2012年度手記春季大会」橋詰登「近年の農
る。富山を除くと,中山間地域のシェアが大きく,
業構造変化の特徴と展開方向」,平林光幸「家族経
担い手不足の地域である。
営の動向と特徴」安藤光義編『農業構造変動の地域
なお,20~30%は15県であり,10~20%は,山
分析』農文協2012年
梨,愛知,和歌山,徳島,高知の5県である。こ
(注2)西川邦夫「組織経営体の展開と経営構造」「農業問
題研究学会2012年春季大会」
れらの県は,愛知を除くと,米のシェアが小さく
米価下落の影響が地域農業に小さい地域である。
(注3) 橋詰,前掲
11年では小作料が1万円未満は群馬,10,000~
(注4) 安藤 「2010年農林業センサスの分析視点」 前継書序
12,500円は岐阜のみであったが,08年になると,
1万円未満が群馬,岐阜,兵庫,鳥取,島根,広
章
(注5)大西敏夫「農業構造問題と国家の役割」『現代の農
島,山口,香川,沖縄の9県,10,000~12,500円
業問題』2008年農業問題研究学会編,島本富夫「農
が北海道,岩手,埼玉,神奈川,山梨,静岡,三
地移動の最近の動向と農地保有合理化事業」『土地
重,富山,福井,長野,滋賀,京都,奈良,岡山
と農業』第41号,全国農地保有合理化協会
の1道13県に増加している。したがって,12,500
(注6)安藤光義「農業政策分野に関する研究動向の概括」
円未満が23県と半数を占める状況となった。
生源寺真一編『改革時代の農業政策』2009年農林統
一方,11年では,2.5~2.75万円が青森,栃木,
計出版社
千葉,佐賀,熊本の5県,2.75~3万円が宮城,
秋田,福島,茨城4県,3万円以上が山形,新潟
1.農地移動の事由の変化と農地価格,小
作料の下落
の2県であったが,09年は2.5万円以上がゼロと
なり,最高は新潟の2万3,377円となり,2万円
(1)農地価格及び小作料の下落と地域類型
田畑価格実態調査(全国農業会議所)に基づく
(注7)
島本富夫氏の分析
によると,北海道,東北
以上は大阪,茨城,新潟の3県のみとなった。東
北,北陸等の水田地帯の小作料は12,500~2万円
に低下した。
の水田価格は,ピーク時の半分近くまで下落した。
小作料の下落とともに水田小作料水準の平準化
また,標準小作料と実勢小作料は昭和60(1985)
が進展している。農業地域別にみると,最高の東
年をピークに下落し,近年も,農地価格と小作料
北,最低の中国との水田小作料の格差は11年の
の下落は続いている。
13,645円から20年の8,892円へ縮小している。沖縄
一方,平成11(1999年)年から20(2008年)年
を除く県別にみても最高の新潟と山口との差は,
の小作料の下落率は,九州と東海を除くと,1/3
20,552円から16,258円へ,第2位の山形県と山口
前後となっている。具体的には,北海道が33.6%,
の差は17,409円から12,273円へ縮小している。最
都府県が33.2%,東北が33.5%,北陸が34.3%,関
高の新潟と岐阜との格差は20,827円から14,423円
東が30.9%,東海が23.0%,近畿が34.3%,中国が
へ,第2位の山形と岐阜との格差は17,678円から
36.2%,四国が33.6%,九州が26.5%である。都
10,518円へ大幅に縮小している。
道府県別にみると,小作料の下落率が30%以上の
さらに,小作料から土地改良・水利費を差し引
県は24であり,全体の半分を占めている。さらに,
いた「地主手取り」の推移をみると,その水準が
水田農業の構造変動と農地市場,農地売買事由,価格形成の変化
51
表1―1 小作料の水準(平成11(1999)年~平成20(2008)年)
1万円未満
平成11年
平成20年
群馬,岐阜,兵庫,鳥取,島根,広島,
山口,香川,沖縄
岐阜
北海道,岩手,埼玉,神奈川,
山梨,静岡,三重,富山,福井,長野,
滋賀,京都,奈良,岡山
群馬,神奈川,山梨,静岡,
愛知,石川,和歌山,愛媛,
愛知,京都兵庫,和歌山,鳥取,島根, 福岡,大分,宮崎,鹿児島
岡山,広島,山口
埼玉,三重,福井,長野,奈良,香川, 長崎,熊本,千葉
鹿児島
北海道,岩手,石川,滋賀,
徳島,高知,佐賀,青森,宮城,秋田,
大阪,福岡,長崎,大分
山形,福島,栃木
富山,徳島,宮崎
大阪,茨城
愛媛,高知
新潟
青森,栃木,千葉,佐賀,熊本
宮城,秋田,福島,茨城
山形,新潟
沖縄
10,000~12,500円
未満
(以下同じ)
12,500~15,000円
15,000~17,500円
17,500~20,000円
20,000~22,500円
22,500~25,000円
25,000~27,500円
27,500~30,000円
3万円以上
王倩(高崎経済大学大学院)の博士論文より(全国農業会議所の資料より作成)
表1―2 小作料が高い地域と低い地域の格差の推移
平成11(99)年~平成20(08)年
岐阜
兵庫
島根
広島
山口
香川
差額
山形
新潟
山形
新潟
山形
新潟
山形
新潟
山形
新潟
山形
新潟
平成11年
17,678
20,827
16,955
20,104
16,012
19,161
15,616
18,765
17,403
20,552
14,993
18,142
平成20年
10,518
14,443
10,804
14,729
10,778
14,703
10,132
14,057
12,273
16,198
10,482
14,407
20年対11年
-40.5
-30.7
-36.3
-26.7
-32.7
-23.3
-35.1
-25.1
-29.5
-21.2
-30.1
-20.6
前表と同じ。
低下するとともに県間格差が縮小している。12
取りも配慮し,賃貸借の安定することを意図して
年では15,000~17,500円が宮城,茨城,福井,高
決定されていたことを反映している。地主手取り
知,福岡,鹿児島の6県,17,500~20,000円が秋
が1万円以下となった場合には,地主が農地を所
田,栃木,千葉の3県,20,000~22,500円が福島,
有する経済的なメリットが小さくなるからであ
熊本の2県であったか,22年には15,000円以上は
る。
ゼロとなった。22年の地主手取りは7,000円から
その一方,22年には,地主手取り3,000円未満
10,000円 が13道 県,10,000~12,500円 が 8 県 で あ
が京都,香川の2県,3,000~5,000円が埼玉,島根,
り,両者で21道県となっている。以上の小作料及
岡山の3県,5,000~7,000円が群馬,岐阜,広島,
び地主手取りの下落と平準化が生じたのは,以下
大分の4県というように,地主手取りがゼロに近
の要因と推測される。第一に,米価下落により,
い県が生まれている。
稲作経営収支が悪化したため,借り手支払能力が
以上のように,小作料は10年間で約1/3程度
低下したことである。第二に,標準小作料が設定
下落したが,小作料水準の都道府県間の格差は,
する場合には,借り手の支払能力とともに地主手
大幅に縮小した。そのなかで,10,000円未満が9
52
表1―3 地主の手取り(実勢小作料―土地改良費および水利費)
平成12年
3,000円未満
3,000~5,000円
5,000~7,000円
7,000~10,000円
10,000~12,500円
12,500~15,000円
15,000~17,500円
17,500~20,000円
20,000~22,500円
平成22年
京都,香川
島根
埼玉,島根,岡山
岐阜,京都,山口,香川
群馬,岐阜,広島,大分
埼玉,富山,滋賀,兵庫,愛媛
北海道,青森,岩手,静岡,
愛知,富山,石川,福井,滋賀,兵庫,
山口,愛媛,高知
北海道,青森,岩手,群馬,
宮城,山形,栃木,三重,長野,福岡,
静岡,愛知,三重,長野,岡山,広島, 宮崎,鹿児島
大分
山形,新潟,石川,鳥取,宮崎
秋田,福島,茨城,千葉,新潟,鳥取,
熊本
宮城,茨城,福井,高知,福岡,鹿
-
児島
秋田,栃木,千葉
-
福島,熊本
-
前表と同じ
表1―3―② 地主手取りの高い県と低い県との格差
(円/10a)
島根
京都
香川
埼玉
差額
茨城
千葉
福島
熊本
茨城
千葉
福島
熊本
茨城
千葉
福島
熊本
茨城
千葉
福島
熊本
平成12年
11,072
14,641
15,759
18,056
10,153
13,722
14,840
17,137
9,120
9,689
13,807
16,104
5,974
9,543
10,661
12,958
平成22年
9,367
7,965
7,281
8,914
12,235
10,833
10,149
11,782
12,778
11,376
10,692
12,325
8,067
6,665
5,981
7,614
22年対12年
-15.4
-45.6
-53.8
-50.6
20.5
-21.1
-31.6
-31.2
40.1
17.4
-22.6
-23.5
35.0
-30.2
-43.9
-41.2
県,10,000~12,500円が14県に増加した。さらに,
一つの要因である。全国的に,稲作の土地純収益
地主手取りは,7,000円から12,500円に集中する傾
が長期的に低迷し,平均土地純収益が支払小作料
向にある。さらに,地主手取りが5,000円未満と
を下回るとともに土地純収益の経営規模間の格差
いうゼロに近い,地主が貸し付けても経済的なメ
が拡大している。まず,平成20(2008)年では,
リットが見込めない県が生まれている。このよう
土地純収益がプラスなのは,北海道では,3ha
な県では,農地を資産として所有する経済的なメ
以上層であり,都府県,東北,北陸では,2ha
リットが見込めないため,農地を継続的に所有す
以上層である。また,農地借入で小作料を支払え
る意識が希薄化し,農地市場に大きな変化をもた
る層(土地純収益-支払小作料>0)は,北海道
らすと予想される。
では5ha以上,都府県,東北及び北陸では,3
ha以上層である。
(2)稲作農地純収益の低下と小作料水準
小作料低下の背景には,稲作経営収支の悪化が
一方,平成21(09)年では,土地純収益がプラ
スなのは,北海道では,5~7haと10ha以上層
水田農業の構造変動と農地市場,農地売買事由,価格形成の変化
53
であり,都府県,北陸ともに,3ha以上層,東
農地を借入れた場合,小作料を支払い後,プラ
北では2ha以上層である。また,農地を借入れ
スとなる層は,北海道では5ha以上層から15ha
た場合,小作料を支払い後,プラスとなる層は,
以上層へ,東北では,3ha層から5ha以上層へ
北海道では15ha以上,都府県,東北及び北陸では,
と上昇し,2010年では,すべての層において農地
5ha以上層のみである。
を借入れた場合,小作料を支払い後マイナスと
平成22(10)年になると,米価が大幅に下落し
なっている状態にある。
たため,土地純収益は悪化した。土地純収益がプ
土地純収益が小作料を上回る層は,都府県で
ラスなのは,北海道では,10ha以上層のみであり,
は,3ha層から5ha以上層へ,そして,10年で
都府県は5ha以上層,北陸は,3ha以上層であり,
は15ha以上層へと上昇し,北陸では,3ha層か
東北ではすべての層において,マイナスとなって
ら5ha以上層へと上昇した。
いる。また,農地を借入れた場合,小作料を支払
(注)なお,「水田小作料の実態に関する調査」と米生産費
い後,プラスとなる層は,都府県では15ha以上,
調査の小作地の地代との間で差が生じている。北海道
北陸では,5ha以上層のみであり,一方,北海
では21(09)年の小作料は13,420円(調査12,314円),
道及び東北では,すべての層において農地を借入
20(08)年が13,283円(調査11,805円),18(06)年が
た場合,小作料を支払い後,マイナスとなる状態
15,011円(12,830円),17(05)年が14,995円(13,878円)
にある。
であり,約1,500円の差が生じている。
表1―4 北海道の土地純収益の推移
20
年
21
年
22
年
土地純収益①
実勢小作料②
①-②
土地純収益①
実勢小作料②
①-②
土地純収益①
実勢小作料②
①-②
(円/10a当たり)
平均
2~3ha 3~5ha 5~7ha 7~10ha 10~15ha
17,361 -47,493
2,037
12,155
19,163
26,912
13,263
18,000
10,340
11,182
13,356
13,049
4,098 -65,493
-8,303
973
5,807
13,863
253 -36,465
-4,986
3,327
-4,463
7,287
13,420
18,000
11,729
8,631
13,456
13,355
-13,167 -54,465 -16,715
-5,304 -17,919
-6,068
-7,437 -40,005 -17,817
-6,230
-8,236
268
13,148
-
10,987
11,420
12,807
14,348
-20,585
-
-28,804 -17,650 -21,043 -14,080
15ha~
42,043
15,003
27,040
21,444
13,618
7,826
5,325
14,081
-8,756
出所:農林水産省統計情報部「農業経営統計調査報告(米及び麦類の生産費)」
表1―5 都府県の土地純収益と実勢小作料
20
年
21
年
22
年
土地純収益①
実勢小作料②
①-②
土地純収益①
実勢小作料②
①-②
土地純収益①
実勢小作料②
①-②
平均
2~3ha 3~5ha 5~7ha 7~10ha 10~15ha
17,361 -47,493
2,037
12,155
19,163
26,912
13,263
18,000
10,340
11,182
13,356
13,049
4,098 -65,493
-8,303
973
5,807
13,863
253 -36,465
-4,986
3,327
-4,463
7,287
13,420
18,000
11,729
8,631
13,456
13,355
-13,167 -54,465 -16,715
-5,304 -17,919
-6,068
-7,437 -40,005 -17,817
-6,230
-8,236
268
13,148
-
10,987
11,420
12,807
14,348
-20,585
-
-28,804 -17,650 -21,043 -14,080
15ha~
42,043
15,003
27,040
21,444
13,618
7,826
5,325
14,081
-8,756
出所:農林水産省統計情報部「農業経営統計調査報告(米及び麦類の生産費)」(2005年,2009)
54
表1―6 東北,北陸の土地純収益と実勢小作料
東
北
20
年
21
年
22
年
北
陸
20
年
21
年
22
年
土地純収益①
実勢小作料②
①-②
土地純収益①
実勢小作料②
①-②
土地純収益①
実勢小作料②
①-②
土地純収益①
実勢小作料②
①-②
土地純収益①
実勢小作料②
①-②
土地純収益①
実勢小作料②
平均
2~3ha 3~5ha 5~7ha 7~10ha 10~15ha
17,361 -47,493
2,037
12,155
19,163
26,912
13,263
18,000
10,340
11,182
13,356
13,049
4,098 -65,493
-8,303
973
5,807
13,863
253 -36,465
-4,986
3,327
-4,463
7,287
13,420
18,000
11,729
8,631
13,456
13,355
-13,167 -54,465 -16,715
-5,304 -17,919
-6,068
-7,437 -40,005 -17,817
-6,230
-8,236
268
13,148
-
10,987
11,420
12,807
14,348
-20,585
-
-28,804 -17,650 -21,043 -14,080
平均
2~3ha 3~5ha 5~7ha 7~10ha 10~15ha
17,361 -47,493
2,037
12,155
19,163
26,912
13,263
18,000
10,340
11,182
13,356
13,049
4,098 -65,493
-8,303
973
5,807
13,863
253 -36,465
-4,986
3,327
-4,463
7,287
13,420
18,000
11,729
8,631
13,456
13,355
-13,167 -54,465 -16,715
-5,304 -17,919
-6,068
-7,437 -40,005 -17,817
-6,230
-8,236
268
13,148
-
10,987
11,420
12,807
14,348
15ha~
42,043
15,003
27,040
21,444
13,618
7,826
5,325
14,081
-8,756
15ha~
42,043
15,003
27,040
21,444
13,618
7,826
5,325
14,081
出所:農林水産省統計情報部「農業経営統計調査報告(米及び麦類の生産費)」
以上のように,統計的には土地純収益が小作料
る。下落率が10%以下なのは,8県,10~20%
を上回る層,平成21(09)年では北海道では15ha
が17県,20~30%が11県,30~40%なのが5県,
以上層,都府県,東北及び北陸では5ha以上層
40%以上なのは宮城1県である。
である。3ha未満層では土地純収益が大幅に低
水田価格は,下落率の高い東北が75.6万円,九
下しマイナスになっている。つまり,2010(平成
州が108万円であり,他地区と比べて低い水準に
22)年農業センサス結果で示された2ha未満の
あり,一方,東海は250.8万円と依然として高い
販売農家の大幅な減少,5ha以上層とくに10ha
水準にある。
以上層の大幅な増と農地集積の動き及び,平成12
米の主産地域である東北,北陸について,水田
(00)年から平成22(10)年における小作料水準
価格と小作料の下落率を県別にみると,3つの類
が約1/3に低下した要因でもある。
型に区分することができる。第一の類型は,水田
価格の下落率が上回っている県,つまり,青森
(3)農地価格の下落と地域類型
(水田の下落率が36.4%,小作料が32.2%),宮城
一方,平成11年から20年の10年間の農地価格の
(41.3%,36.4%)の2県である。
下落率を地域別にみると,東北が28.1%と最も高
( 注 ) 全 国 的 に は 茨 城(34.7 %,28.6 %) と 佐 賀(31.2 %,
く,次いで九州の21.2%,関東の20.2%の順となっ
23.8%)のみである。
ている。一方,東海の下落率が9.7%の一桁台と
第二の類型は,農地価格と小作料の下落率がほ
最も低い水準である。残りの地域の下落率は,15
ぼ同一水準の県である。具体的には,山形(35.7%,
~18%であり,北海道が18.1%,都府県が19.1%,
35.2%),新潟(28.4%,29.5%),石川(24.4%,
北陸が16.4%,近畿が18.1%,中国が15.5%,四国
が16.4%である。以上のように,小作料の下落率
が一般的には,農地価格の下落率よりも高くなっ
28.7%)の3県である。
(注)この類型は,全国的には,千葉(37.4,38.0%),栃木
(25.5%,28.9%)のみである。
ている。
第三の類型は,小作料の下落率が農地価格の下
なお,都府県別にみると,やや異なる動きがあ
落率を上回っている県である。具体的には,岩手
水田農業の構造変動と農地市場,農地売買事由,価格形成の変化
55
表1―7 東北,北陸の水田価格と小作料の下落率
北海道
都府県
東 北
青 森
岩 手
宮 城
秋 田
山 形
福 島
北 陸
新 潟
富 山
石 川
福 井
水田価格 万円,%
H11
H20
減率
337
276
18.1
1,810
1,466
19
1,051
756
28.1
830
528
36.4
922
774
16.1
1,211
711
41.3
1,023
728
28.8
1,276
820
35.7
1,028
881
14.3
2,107
1,761
16.4
1,755
1,256
28.4
1,766
1,625
8
1,830
1,383
32.3
2,797
2,331
16.6
小作料 円,%
H11
H20
減率
17,791
11,805
33.6
21,308
14,227
33.2
27,556
17,779
35.5
26,569
18,020
32.2
18,687
11,876
36.4
28,909
19,099
34
29,794
18,606
37.6
30,024
19,452
35.2
27,787
18,373
33.9
23,421
15,394
34.3
33,173
23,377
29.5
19,605
11,105
43.4
17,652
12,578
28.7
16,294
10,841
33.5
全国農業会議所資料より
(16.1%,36.4%),秋田(28.8%,37.6%)福島(14.3%,
拡大している。田畑価格実態調査と公社買入水田
33.9%)の東北3県と富山,石川,福井の北陸3
価格との価格差は,99年度では北海道が-3.5万
県である。全国的には,この類型の県が一般的で
円,青森が12.7万円,岩手が23.8万円,宮城が6.1
ある。
万円,秋田が10.8万円,山形が8万円,福島が-
(注)この類型は,全国的には,ほとんどの県に該当する。
23.4万円であった。09年度になると,北海道が-
水田小作料の下落率は,どの都府県でも1/3
4万円,青森が18万円,岩手が40.4万円,宮城が
前後なのて,第一と第二の類型の県は,水田価格
16.4万円,秋田が17.9万円,山形が8.9万円,福島
の下落率が他の県よりも高く,1/3以上である。
が7.3万円となっている。以上のように,北海道
宮城,山形では平成11年の水田価格は,121万,
だけが,公社買入水田価格が田畑価格実態調査よ
128万円と東北の中では,相対的に高水準であっ
りもやや高い水準にあるが,東北の各県では,公
たが,20年になると,水田価格は東北の平均水準
社買入水田価格が田畑価格実態調査よりも低く,
である70~80万円へ低下した。北陸の新潟,石川
価格差も拡大している。
の水田価格は,11年では富山と同一水準の175~
(注)田畑価格実態調査は暦年(1月~12月)で,公社実績
180万円であったが,20年には北陸の平均よりも
は会計年度(4月~3月)での集計であり,正確な比
低い125~138万円に低下した。これらの県では,
較にはないことに留意。
11年の水田価格は,転用の影響を受けて相対的に
さらに,12年~21年の10年間の下落率をみる
高い水準であったが,21年になると転用の影響が
と,田畑価格実態調査よりも高くなっている。
小さくなり,地域の平均的な水準となったと推測
具体的には,北海道が15.8%,青森が48.5%,岩
される。
手が59.7%,宮城が51.7%,秋田が41.7%,山形
一方,青森の水田価格は,11年の83万円から52
が38.8 %, 福 島 が35.0 % と 東 北 で は 大 幅 な 下 落
万円へ低下し,北海道の水準に近づいている。米
である。さらに,平成11年と比較すると,北海
価等の下落による水田収益の悪化が主要な要因で
道が15.6%,青森が48.6%,岩手が48.8%,宮城
あり,さらに担い手不足による買い手市場に変化
が55.2%,秋田が45.9%,山形が41.4%,福島が
していると推測される。
35.0%である。東北での公社買入価格は福島を除
一方,道県公社の買入水田価格は,田畑価格実
くと,11年間で半値に下落しており,小作料の下
態調査よりも低い水準であり,さらに,価格差も
落率と比べても高くなっている。21年の公社買入
56
価格は,青森が34万円,岩手が35.7万円と北海道
いずれの利回りも生産費調査の資本利子の4%を
の水準に近い30万円台に低下している。さらに,
上回っている。つまり,実勢小作料を基準とする
宮城,秋田でも50万円前後に低下している。
と,北海道の水田価格は,理論値よりも低めの水
公社買入価格の下落率が田畑価格実態調査さら
準といえる。ただし,公社価格が調査価格より高
に小作料よりも高いのは,以下の要因がある。公
いことは,公社買入が水田価格を下支えしている
社経由の農地売買は耕作目的である。地価水準が
ことおよび北海道では農地移動の大部分が売買で
上昇期では,キャピタルゲインが見込めるので,
あり,貸借は従であることも反映している。
周辺の地価水準で購入してきた。しかし,地価下
青森を除く東北5県では,田畑価格実態調査で
落時になると,キャピタルゲインが見込めないの
も公社買入価格でも小作料率は,2~3%前後で
で,購入者は水田経営収支での採算つまり小作料
推移している。青森のみが小作料率は4~5%に
や土地純収益を考慮するようになる。そのため,
推移している。東北5県の利回り2~3%は,農
公社買入価格は,農地転用地価の影響が小さくな
協の貸付金や政策資金等の利率に近い水準にあ
り,小作料に連動する傾向が強まったためである。
り,なお,公社買入価格の利回りがやや高い水準
次に,東北ブロックでの農地価格水準(中田)
である。したがって,東北各県公社の買入農地は
の分布をみると,11年度では10a当たり100万円以
耕作目的のための売買であり,同時に,確実に農
上が31%であったが,16年度では33.9%,21年度
家等が購入できる価格水準に設定されていること
では12.7%へ減少した。とくに,120~140万円の
を示唆している。以上の動向を整理すると,米価
割合は,11年度が14.3%,16年度が8.9%,21年度
の下落等により土地純収益と小作料が低下し,水
が4.4%へ減少した。逆に,40~80万円未満の割
田価格が小作料収益還元価格に近づいている。
合は,11年度が25.6%,16年度が40.6%,21年度
青森県の小作料率は,田畑価格実態調査の場合,
が60.8%へ大幅に増加した。さらに,40~60万円
3.3~3.4%で推移しており,公社の場合,11年度
の割合は,11年度が7.2%から,16年度が10.0%,
の3.8%から20年には,5.0%へ上昇した。したがっ
21年度には21.9%へ大幅に増加した。さらに,40
て,青森の水田価格は,小作料の水準を反映した
万円未満を加えると,60万円未満が3割程度と
価格水準となっている。とくに,実勢小作料に対
なっている。以上のように,11年度以降,広範な
する公社買入価格の利回りは,5%であり,北海
旧市町村において,農地価格が大幅に下落してい
道よりもやや高い水準となっている。
る。その結果,農地価格は,転用地価の影響を強
以上のように,東北の水田価格(田畑価格実態
く受けている旧市町村が減少していると思われ
調査,公社買入)は,耕作目的の水田価格(=小
る。
作料/利子率)という理論値に近づいている。し
たがって,東北での水田価格下落の大きな要因は,
(4)実勢小作料と水田価格の利回り
米価の下落等による水田経営収支の悪化を反映し
実勢小作料と水田価格に対する利回り(以下,
た実勢小作料のつまり土地純収益の悪化にある。
小作料率)を検討し,水田価格の水準を検討する。
「農地価格の変動理由別地区数割合」により価
まず,田畑価格実態調査の水田価格に対する小作
格下落の要因をみると,第一位は「米価など農
料の利回り(小作料率)は,北海道では,11年の
産物価格が低いため」が11年の31.4%から20年の
5.28%から20年度の4.28%へ低下した。公社買入
42.3%,21年の39.9%へと増加した。第二位は,
価格は,11年度の4.7%から20年度の3.9%へ低下
「農地の買い手が少ないためまたは買い控えのた
した。北海道では農地価格の下落幅が小作料より
め」であり,11年が13.9%,20年が16.1%,21年
も小さく,公社買入価格が田畑価格実態調査の価
が19.1%である。第三位は「農業の意欲が減退し
格よりもやや高いことを反映している。しかし,
ているため」20年が10.7%,21年が12.1%である。
水田農業の構造変動と農地市場,農地売買事由,価格形成の変化
57
以上のように,価格下落の要因は,米等の農産物
23.2%であり,6.6ポイントの増である。
「農業廃止」
価格下落であり,それにともなう農業意欲の減退
も7.2%であり2.6ポイント増である。「農業経営上
や農地の買い控え,担い手不足という「農地市場」
の負債整理」が7.6%に減少している。
が買い手,借り手市場に変化したことである。
さらに,21年(2010年)になると,「高齢化・
病気等で労力不足」が件数で21.9%,面積では
(5)農地移動の事由の変化―負債整理,営農資
金から高齢化,規模縮小,離農へ
※
11.0%であり,「農業廃止」が件数で9.4%,面積
で17.6%となっている。
農林水産省「農地移動実態調査」 によると,
以上のように,農地売却の事由は,「その他」
自作地相互交換をのぞくと,平成12年(2000年)
を除くと,負債整理,営農・住宅資金等から農業
度では,第一位は「その他」が全体の47.4%であり,
廃止,高齢化,労力不足という高齢化,担い手不
ほぼ半数を占めていた。第二位は「営農経営上の
足の要因が占める割合が大幅に増加している。
負債整理」が10.2%であり,「営農資金」と合わ
地域別にみると,北海道では,「農業廃止」が
せると10.8%であった。第三位は,「兼業による
第一位であるが,16(04)年が件数で25.9%,面
縮小」の8.6%であり,次いで,
「高齢化による縮小」
積が27.4%がピークであり,近年,件数も面積と
の8.3%及び,「病気等での労力不足」の8.3%と続
も減少傾向にある。年次別にみると,00(12年)
いていた。さらに,農業廃止が4.6%となっていた。
の件数で27.2%,面積で32.1%であったが,09(21)
※「農地農地移動が実態調査」も集計は暦年(1月~12月)。
年には件数で20.2%,面積で20.2%へ減少してい
15年(2005年)では,「その他」が43.6%と3.8
る。「高齢化・病気で労力不足」や「兼業による
ポイント低下した。第二位は,「高齢化による経
経営縮小」,「資金の必要」は,それぞれ件数でも
営縮小」が11.1%であり,2.8ポイント増となって
面積でも10%未満であり,減少傾向にあり,「そ
いる。「病気等での労力不足」が9.6%であり,両
の他」のみが増加している。北海道では「農業廃止」
者で合計20.7%であり,4.1ポイント増である。「農
や「規模縮小」が主な理由であるが,近年,減少
業廃止」が6%となっている。一方,「農業経営
傾向にあり,その他,つまり,離農者による「貸
上の負債整理」が8.7%へ低下した。
付農地」の売却等の複合的要因による売却(その
19年(2009年)では,その他が40.3%で,11年
他)が増加しつつある。
に比べると7.1ポイントの低下である。第二位は,
都府県では,売却事由の第一位は「高齢化・病
「高齢化による経営縮小」が13.5%であり,11年
気等で労力不足」であり,12(00)年の19.8%,
と比べると5.2ポイント増となっている。「病気
面積では19.2%から21年(09年)の件数で22.8%,
等での労力不足」が9.7%であり,両者の合計が
面積で19.5%へ増加した。次いで,「農業廃止」
表1―8 売買事由別の件数と面積のシェアの推移
農業廃止
北海道
都府県
東 北
北 陸
12年
21年
12年
21年
12年
21年
12年
21年
件数
27.2
20.2
6.5
8.5
4.1
7.8
5.2
4.9
面積
39.1
20.7
6.7
8.9
4.3
7.1
5.6
4.5
農林水産省「農地移動実態調査」
高齢化・病気
等で労力不足
件数
面積
11.4
5.7
9.5
6.3
18.9
19.2
22.8
19.5
14.2
16.0
21.5
18.2
12.8
11.2
14.1
12.7
兼業化
件数
2.6
1.8
10.0
9.3
7.0
9.5
11.2
9.6
面積
3.5
1.0
9.9
8.4
6.6
7.9
11.8
9.1
資金を必要と
するため
件数
面積
3.6
3.5
2.8
2.2
8.3
2.7
6.1
9.4
12.4
6.9
9.7
14.0
7.5
9.3
7.8
9.8
単位:%
負債整理
件数
2.4
1.6
3.4
2.4
8.0
6.1
2.7
3.4
面積
2.4
1.3
1.6
5.5
5.2
10.3
4.1
4.5
58
であり,00年の件数で6.5%,面積では8.5%から
数でみると,「農業廃止」や「高齢化,病気等に
10年になると,件数で9.4%,面積では17.6%へと
よる労力不足」という高齢化,担い手不足という
増加した。なお,「農業廃止」の事由とする面積
要因が主体となり,「負債整理」や「資金を必要」
は18(06)年の6,825haがピークとして,それ以降,
が従となった。しかし,21年になると,「負債整
減少している。
理」や「資金を必要」は,件数シェアが減少した
以上のように,都府県での売却事由は,
「その他」
が面積シェアが増加し,「農業廃止」や「兼業化」
を除くと,離農,高齢化,担い手不足という担い
での面積シェアを上回っている。とくに,東北で
手不足が主な要因となっている。
は,「資金を必要とするため」と「負債整理」の
同時に注目すべきは,「負債整理」や「資金を
21年の面積シェアは「高齢化・病気等で労力不足」
必要とする」が,件数では減少傾向にあるが,面
と「農業廃止」との面積シェアと同一水準となっ
積では増加傾向にある点である。「負債整理」は
り,両者が農地売却の主要な事由となった。
件数では3.4%から2.4%へ,「資金を必要とする」
その変化の要因は,事由別の1件当たり移動面
が8.3%から6.1%へ減少しているが,面積では「負
積に差が生じているからである。00年の1件当た
債整理」が1.6%から5.5%へ,
「資金を必要とする」
り移動面積をみると,「農業廃止」は,北海道が
が2.7%から9.4%へ増加した。「面積」では「負債
6.3ha,都府県が0.9ha,東北が0.9haであり,「高
整理」や「資金を必要とする」が「高齢化・病気
齢化等による労働力不足」は,北海道が2.2ha,
等」「農業廃止」を上回っている。
都府県と東北が0.9haである。「資金を必要」は北
東北でも,「農業廃止」と「高齢化・病気等労
海道が4.2ha,都府県が0.4ha,東北が0.5ha,「負
力不足」,
「兼業化」が件数,面積シェアで増加し,
債整理」は,北海道が4.4ha,都府県が0.4ha,東
「負債整理」,
「資金を必要とする」が件数で減少し,
北が0.6haである。したがって,「農業廃止」によ
面積シェアで増加している。「高齢化・病気等労
る移動面積がいずれの地域でも他の事由と比べて
力不足」は12年の件数で14.2%,面積で16.0%か
大きくなっている。しかし,09年になると,「農
ら21年には件数で21.5%,件数の18.2%へ,「農業
業廃止」は,北海道が5.0ha,都府県が0.2ha,東
廃止」は,件数で4.1%,面積で4.3%から件数で
北が0.4haとなり,「高齢化等による労働力不足」
7.8%,面積で7.1%へ,「兼業化」は件数で7.0%,
は,北海道が3.25ha,都府県が0.2ha,東北が0.3ha
面積で6.6%から件数で9.5%,面積で7.9%へそれ
と12年に比べて小さくなった。一方,
「資金を必要」
ぞれ増加している。以上のように,東北では高齢
は,北海道が3.8ha,都府県が0.3ha,東北が0.6ha
化,兼業化,離農という担い手不足が農地売却の
であり,「負債整理」は,北海道が3.8ha,都府県
大きな事由となっている。さらに,「資金を必要
が0.50ha東北が0.7haである。12年と比べると,北
とする」は件数では12.4%から9.7%へ減少したが,
海道では小さくなったが都府県と東北では大きく
面積では6.9%から14.0%へ7.1ポイントも増加し,
なっている。
「負債整理」も件数では8.0%から6.1%へ減少した
「農業廃止」の移動面積が縮小した要因は,買
が,面積では5.2%から10.3%へ5.1ポイントも増
手が効率の良い農地を選択する傾向が強まってい
加している。「資金を必要とするため」と「負債
ると推測される。たとえば,農業センサスでの土
整理」の21年の面積シェアは24.3%であり「高齢
地持ち非農家の所有面積の半分は,耕作放棄地で
化・病気等で労力不足」と「農業廃止」との面積
ある。また,「高齢化等による労働力不足」の場
シェア26.0%と同一水準にある。
合には,自分で耕作できる面積を残し,労働力が
以上のように,都府県では,農地売却事由は,
不足した部分を売買,貸付する傾向をみてとるこ
昭和40~50年代においては,「負債整理」や「資
とができる。一方,「資金を必要」や「負債整理」
金を必要」が主流であったが,12年になると,件
での売却は,まず,要資金需要額があり,農地価
水田農業の構造変動と農地市場,農地売買事由,価格形成の変化
59
格の下落により,その額を確保すには大きな面積
1,964ha(13.8%)
,10~30haが1,484ha(10.5%)
,30
を販売せさるを得ないことを示している。
~50haが834ha(5.9%)
,
50ha以上が2,397ha(16.9%)
以上のように農業構造変動の急速な進展と米価
であり,5ha以上が47.1%,10ha以上が33.3%を占め
下落による水田経営収支の悪化により,農地市場
ている。販売農家についてみると,経営耕地シェアは
は小作料と農地価格の大幅な下落と,売買,貸借
5~10haが1,897ha(販売農家全体の18.7%)
,10ha
事由の変化等,大きく変化している。
以上が766ha(7.6%)にとどまっている。
以下,構造変動の進展した地域での農地市場の
以上のように,花巻市では販売農家が05年から
変化を検討する。
10年までの5年間で21.2%と大幅に減少したが,
5ha以上も減少しており,代わって農家以外の
2.構造変動下での農地価格低下と買い手
経営体か増加し,経営耕地シェアが26.8%を占め
不足,売買動機の変化―岩手県花巻の
ている。その結果,経営体の面積シェアは,5
事例―
ha以上が47.1%,10ha以上が33.3%さらに,30ha
(1)集落営農,法人の増加と農地集積
以上が22.8%を占めている。農家数の減少と10ha
花巻市は,旧花巻と石鳥谷,大迫,東和地区
以上層及び,組織経営体に農地が集積するという
とが合併した市町村である。17年(05年)現在
構造変動が進展している。その一つの要因は,花
の農家数は7,849戸(旧花巻3,663戸,大迫896戸,
巻市は,品目横断経営安定対策の取組みで,集落
石鳥谷1,599戸,東和町1,691戸)であり,22(10
営農を組織化しており,その結果,集落営農と法
年)が6,722戸,5年前と比べると15.4%(旧花巻
人経営が増加したためである。
19.7%減,大迫12.2%減,石鳥谷12.8%減,東和9.4%
花巻市の集落営農も,全国的に動きと同様に,
減)減であり,旧花巻が最も高くなっている。販
枝番方式の集落営農も少なくない。そのため,農
売農家は6,683戸であり,5~10haが340戸,10ha
業センサス結果で把握された農家以外の経営体に
以上が56戸であるが,5ha以上層は旧花巻,石鳥
も枝番方式の集落営農が含まれていると推測され
谷地域に集中している。22年では販売農家が5,363
る。24年3月現在の認定農業者数は,788であるが,
戸であり,5年間で21.2%の減であり,5~10ha
うち法人は38経営体にとどまっている。また,10
が284,10ha以上が48である。さらに,経営体数
年農業センサスでは,農事組合法人等が35であり,
は,5,588,5~10haが292,10~20haが53,20~
農協等が23であり,個人経営体以外の「法人化し
30haが31,30~50haが23,50ha以上が28である。
ていない」経営が138も存在している。
経営耕地総面積は14,161ha,1経営体当たり経営
面積258a,総農家の経営耕地面積が10,371ha(全
(2)高齢化の進展,担い手不足の下で農地余り
現象と買い手
体の73.2%),販売農家が10,115ha(71.4%),農
家以外の経営体が3,760ha(26.3%)である。
5年間で生じた構造変動の動きは,今後,経営
経営体の経営耕地面積別シェアは,5~10haが
規模縮小と離農の動きが進展し,農地の管理者が
表2―1 平成22年(2010年)花巻市の経営耕地面積別経営体,販売農家数,面積
(ha,%)
経 営 体 数
販 売 農 家
組 織 経 営
経営体面積
販 売 農 家
組織経営体
農業センサス結果
計
5~10ha
5,586
292
5,363
284
225
8
14,161 1,964(13.8)
10,115(100) 1,897(18.7)
3,790(100)
67(1.8)
10~20
53
39
14
724(5.1)
504(5.0)
220(5.8)
20~30
31
6
25
760(5.4)
154(1.5)
606(16.0)
30~50
50~
23
28
3
20
28
834(5.9) 2,397(16.9)
108(1.1)
726(19.2) 2,397(63.2)
60
表2―2 「5年後の農業労働力の従事状況」平成22年はなまき農協調査
(※上段の戸数,下段は比率) (戸,%)
合計
30a未満
30a~1ha
1~2ha
2~4ha
4~10ha
10ha以上
合計
13,755
100
3,268
100
4,357
100
3,160
100
1,573
100
1,028
100
369
100
自分
7,967
57.9
1,294
39.6
2,581
59.2
2,078
65.8
1,126
71.6
684
66.5
204
55.3
配偶者
3,262
23.7
424
13
1,041
23.9
844
26.7
520
33.1
327
31.8
106
28.7
後継者
2,517
18.3
321
9.8
810
18.6
651
20.6
372
23.6
279
27.1
84
22.8
同妻
425
3.1
55
1.7
129
3
116
3.7
64
4.1
48
4.7
13
3.5
その他家族 集落営農法人 誰もいない
兄弟
150
283
1,562
2,805
1.1
2.1
11.4
20.4
30
96
476
1,302
0.9
2.9
14.6
39.8
51
74
501
802
1.2
1.7
11.5
18.4
34
61
329
387
1.1
1.9
10.4
12.2
14
22
149
139
0.9
1.4
9.5
8.8
13
20
78
104
1.3
1.9
7.6
10.1
8
10
29
71
2.2
2.7
7.9
19.2
不足している状況にあり,さらに,加速化すると
後の労働力がいない」や「縮小」が「規模拡大」
予想される。
よりも強いのである。5年後の農業の従事状況は,
アンケート調査(平成22年はなまき農協,管内
「30a ~1ha」では「誰もいない」が18.4%,
「法人・
全農家対象,回答数14,341)によると,5年後の
集落営農」が11.5%であり,
「4~10ha」では,
「誰
農業の従事状況は「法人化もしくは集落営農へ全
もいない」が10.1%,「法人・集落営農」が7.6%,
て任せる」が11.4%であり「誰も農業に従事して
「10ha以上」では,「誰もいない」が19.2%,「法
いない」が20.4%であり,5年後には,約1/3
人・集落営農」が7.9%となっている。なお,「後
の農家が農業従事者のいない状況になると予想さ
継者が就農」は「4~10ha」が27.1%,
「10ha以上」
れる。なお,「誰も従事しない」理由は,「後継者
が22.8%である。
がいない」と「農業以外の仕事に専念」(離農)
さらに,「5年後の農業」をみると,「30a ~1
とが半々である。さらに,「後継者が一緒に農業
ha」では「経営の全部委託」が21.8%「縮小」が
をやっている」が11%なのに対し,「後継舎がい
11.9%,「経営の一部委託」が6.8%であり,3者
ない,決まっていない」が29%,「自分の代で農
が39.0%を占めている。ところが「4~10ha」では,
業をやめる」が20%であり,両者が半分を占めて
「経営の全部委託」が10.4%「縮小」が13.0%,
「経
いる。
営の一部委託」が4.3%であり,3者合計27.7%
さらに,5年後の農業経営の状況をみると,
「経
であるのに対し,「拡大」が15.2%であり,3者
営の全部を委託したい」が20.1%を占め,「縮小」
合 計 が12.2ポ イ ン ト も 上 回 っ て い る。「10ha以
が11.3%,「経営の一部委託」が6.4%であり,委
上」でも「経営の全部委託」が13.0%「縮小」が
託と縮小の意向が合計で37.9%を占めている。一
11.2%,「経営の一部委託」が3.8%であり,3者
方,
「拡大」は3.6%にすぎない。借入農家のうち,
合計28.3%であるのに対し,「拡大」が19.2%であ
28.5%が借入地の縮小を希望している。一方,
「貸
る。委託・縮小等の3者合計が「拡大」より9.1
していない農家の5年後」のうち22.3%が5年後
ポイントも上回っている。また,5年後の借入地
に貸付を希望している。
について,縮小が「4~10ha」で21.1%,「10ha」
以上のように,はなまき農協管内の農業とくに
以上が17.7%である。
水田農業は5年後には,さらに,少数の大規模層
その要因は,この間の米価下落と生産者手取り
等へ集中することが予想される。
の減少により,水田農家が経営の悪化と見通しの
さらに,規模別にみても,大規模層でも「5年
暗さ反映したものである。10年前と比較した農産
水田農業の構造変動と農地市場,農地売買事由,価格形成の変化
61
表2―3 「5年後の規模拡大の意向」平成22年はなまき農協調査
(※上段の戸数,下段は比率) (戸,%)
合計
30a未満
30a~1ha
1~2ha
2~4ha
4~10ha
10ha以上
12,906
100
2,858
100
4,133
100
3,056
100
1,539
100
981
100
339
100
規模拡大 現状通り 規模縮小 一部委託 全部委託 全部委託
724
6,915
1,457
823
2,593
394
5.6
53.6
11.3
6.4
20.1
3.1
56
1,365
224
128
913
172
2
47.8
7.8
4.5
31.9
6
152
2,210
493
282
899
97
3.7
53.5
11.9
6.8
21.8
2.3
143
1,764
377
251
475
46
4.7
57.7
12.3
8.2
15.5
1.5
159
889
197
107
161
26
10.3
57.8
12.8
7
10.5
1.7
149
530
128
42
101
31
15.2
54
13
4.3
10.3
3.2
65
157
38
13
44
22
19.2
46.3
11.2
3.8
13
6.5
物総販売額は,増加したのが8%であるが,減少
区では70万円となっている。
した68%である。減少金額をみると,100万円未
以下,平地農村に位置する旧花巻,石鳥谷と中
満が50%,100~500万円が17%である。
山間地域に位置する大泊,東和とは価格水準が異
以上のように,小規模農家だけではなく,担い
なるので,両者を区分して分析する。
手である4ha以上さらに10ha以上も,5年後の
まず,花巻市での大字別の水田価格は,元年
状況をみると,労働力がいないが約20~25%を占
では花巻が170万円,湯口150万円,太田が130万
め,
「経営の縮小,離農」が約27~8%を占め,
「拡
円,笹間が130万円であり,10年では花巻が155万
大」を約10ポイントを上回り,その結果,借入地
円,湯口145万円,太田が85万円,笹間が85万円,
の返還意向を持っている大規模経営農家が少なく
22年では花巻が135万円,湯口100万円,太田が75
ない。大規模生産者であっても,5年後において,
万円,笹間が75万円である。22年の旧花巻市水田
後継者問題等の労働力不足により「離農,縮小」
価格の10年対比は,花巻が79,湯口が69,湯本が
に直面している。そのため,集落営農や,法人化
70,太田が88,笹間が88である。この地区の田畑
に期待している経営が生じている。17年から22年
売買価格調査での,花巻市での価格水準の推移
の間に構造変動が生じたが,今後,5年後につい
は,岩手県の推移とほぼ同じ傾向にある。なお,
てみると,現状の生産者や地域農業システムを大
10年価格の平成元年対比は,花巻,湯口,湯本で
きく動かす構造変動が進展することが予想され,
は,91,97,104であり,余り下落していなかった。
農地市場では農地余りという事態も想定される。
したがって,花巻,湯本,湯口の水田価格は,平
成10年以降において,大幅に下落したことがわか
(3)農地価格の下落にともなう売買価格実態調
査と売買事例との乖離―平地農村
る。
一方,中山間地域の周辺である農村地域である
平地農村に位置する旧花巻と石鳥谷地区及び中
太田,笹間の10年価格の元年対比は65であり,元
山間地域に位置する大迫,東和地区とでは水田価
年から10年にかけて水田価格が大幅に下落した。
格水準や動向が異なっている。「農地売買価格実
旧花巻,湯本,湯口は10年以降に価格下落が始まっ
態調査」によると,22年度(2010)の水田価格は,
たが,太田,笹間は元年から10年にかけて大幅に
旧花巻地区の花巻,湯口,湯本では95~130万円
下落し,それ以降は徐々に価格が低下している。
であり,太田,笹間では75万円である。大迫地区
次に,農業委員会資料に基づく売買事例は,21
では70~85万円,石鳥谷地区では60万円,東和地
年農地売買価格実態調査(以下実態調査)(平均)
62
表2―4 花巻市「農地売買価格実態調査」での価格の推移
花 巻
湯 口
湯 本
矢 沢
宮野目
太 田
笹 間
大 迫
内川目
外川目
亀ケ森
石鳥谷
新 堀
八重畑
八 幡
土 沢
中 内
谷 内
小山田
元年 5年 10年 15年 18年 19年 20年 21年 22年
170
145
155
140
140
135
135
135
135
150
145
145
120
120
115
115
110
100
130
120
135
110
100
95
95
95
95
140
125
125
110
110
110
110
100
100
150
145
155
155
155
150
150
140
130
130
115
85
75
75
75
75
75
75
130
120
85
75
80
75
75
75
75
100
100
100
100
90
85
85
85
85
80
80
75
75
75
70
70
70
70
75
75
70
70
70
70
70
70
70
105
110
100
100
80
85
85
85
85
120
120
120
90
65
60
60
60
60
110
110
120
80
65
60
60
60
60
110
110
110
80
65
60
60
60
60
120
120
120
80
65
60
60
60
50
100
100
100
100
100
100
100
100
100
89
89
75
70
70
70
70
70
70
89
89
75
70
70
70
70
70
70
98
98
80
75
75
75
75
75
75
22 元年
79%
67%
73%
71%
87%
58%
58%
85%
88%
93%
81%
50%
55%
55%
42%
100%
79%
79%
77%
10a当たり万円
22 22 10 10 15 元
87%
96%
91%
69%
83%
97%
70%
86% 104%
80%
91%
89%
84%
84% 103%
88% 100%
65%
88% 100%
65%
85%
85% 100%
93%
93%
94%
100% 100%
93%
85%
85%
95%
50%
67% 100%
50%
75% 109%
55%
75% 100%
42%
63% 100%
100% 100% 100%
93% 100%
84%
93% 100%
84%
94% 100%
82%
に比べると,以下のように低い事例が主となって
に下落した。その後,21年までの3年間は60万円
いる。大字花巻の実態調査による水田価格は,21
で推移している。花巻地区と比べ,10年から19年
年,22年では10a当たり135万円であるが,旧花巻
までの価格下落率が高いのが特徴である。
と確認できた売買事例は,60~100万円の間に分
売買事例の10a当たり価格は,45万円以下が7,
布しており,95~105万円が全体の2/3以上であ
46~55万円が13,56~65万円が4,66万円以上が
る。湯口の水田価格も110,100万円であるが,売
8となっている。66万円以上の事例は,公社の売
買実例では70万円もしくは隣接地の購入した事例
却が3,公社の購入が2,圃場60a以上が3(重複)
でも80万円にとどまっており,さらに44万円とい
となっている。つまり,実態調査価格よりも高い
う低価格の事例が生まれている。湯本では95万円
事例は圃場のまとまりや公社が数年前に購入した
であるが,売買実例では30a区画で70万円であり,
事例が大部分である。約60%の売買事例は,田畑
44万円,36万円という事例もある。太田は75万円
価格調査結果の水準よりも低くなっている。
であるが,1ha程度まとまった事例でも70万円,
なお,公社の購入事例は,45万以下が2,46~
65万円という水準である。公社からの購入事例で
55万円が2,66万円以上が2である。公社からの
も50万円,公社への売却で32万円,40万円となっ
購入事例は,55万円以下が1,56~65万円が1,
ている。以上の事例から太田地区では,条件の良
66万円以上が3である。以上から公社が介在した
い水田であっても実態調査に比べてやや低い水準
購入した場合,公社が購入した数年前の価格水準
であり,一般の水田では半分程度となっている。
を反映していると考えられる。
しかも価格が低下傾向にある。
以上のように,いずれの地区も売買事例の水田
笹間村も売買75万円であるが,70万円は1事例
価格は実態調査価格に比べて低い水準にある。こ
であり,40~50万円が中心であり,実態調査結果
の差が生じたのは,第一に,売買事例の場合には,
と比べてかなり低い水準となっている。
その事由や圃場条件等により,売買価格が異なっ
合併市町村である石鳥谷地区では,実態調査結
ているからである。第二に,田畑価格調査の場合
果の価格は,元年から10年まで120万円で推移し,
には,平均値であり,価格の継続性にも配慮され
15年には90万円へ19年には60万円へ9年間で半値
るため,価格下落傾向にある場合には,実態の価
水田農業の構造変動と農地市場,農地売買事由,価格形成の変化
63
格低下に比べてタイムラグが生じしいる。そこで
接し,米の収量が周辺よりも1俵程度低い水田で
実態調査に基づいて農地価格の動向と事由につい
ある。売買事由も本家の負債整理のために分家で
て検討する。
ある大規模農家が購入した例である。
5年の70万円の事例は,同じ農家が,息子の建
(3)平場での水田価格の低下と売買事由の変化
築資金を確保するために農協の斡旋で購入した例
―10年間で1/2~1/3へ―負債整理,代
である。10年の33万円の事例は離村にともなう財
替地取得から相続,高齢化へ
産整理であるため,相場よりもやや安い水準で
① 代替地取得と耕作目的の借入との併存
あった。
―63年から平成12年まで
以上のように,田畑価格実態調査の価格は農地
はなまき農協管内の農家調査と聞き取り調査に
転用と代替地取得の影響を受けた水準であり,耕
より農地価格(購入)の推移と売買事由を整理し
作目的の売買では,その水準より低い100万円が,
たのが,表である。調査対象は,花巻地区と石鳥
圃場整備済水田での標準的価格であった。さらに,
谷地区に平地農村に位置する農地取得農家であ
離農,離村にともなう財産整理による売却が生ま
る。平地での圃場整備済の水田購入価格は,10年
れており,その価格は,低い水準という例が生ま
前までは10a当たり100~150万円前後であったが,
れている。財産整理の場合には,農協が斡旋する
15~20年には60~70万円前後へ,現在では30~50
のではなく,不動産屋斡旋や相対となっている。
万円へ低下したといわれている(農業委員会,農
協の聞き取り)。平場の水田価格は10年前後の間
に約1/3に低下し,この5年間でも約6割程度
② 負債整理とともに相続,資産整理,離農に
よる売却
に低下したのである。なお,中山間地域では,10
平成15年以降になると,売買価格は100万円を
~20万円にまで低下している。
超える事例が,1例のみであり,50~70万円が主
まず,63年から平成12年までの売買事例をみる
体である。
と,売買価格は,33万円から180万円の間に分布
50~70万円よりも髙い価格での購入事例は,以
している。元年の180万円の事例は,買い手が工
下のような特別な理由の場合である。15年の150
業団地売却の代替地取得を目的とし,売り手は負
万円の事例は,売り手が負債整理のためであり,
債整理である。6年の130万円の事例は,売り手
集落のまとめ役である農家が農協の斡旋で購入し
は負債整理であるが,買い手は宅地7aを売却し
た。4.8haの経営主は,同一集落であり,隣接水
た代金である。以上のように,売買事例価格が田
田であるため,高めであるが購入したという。し
畑売買事態結果に近い水準である場合は,買い手
かも,面積は50aと小面積である。しかし,現在
が農地転用等の代替地取得の例である。この時期
では,購入者は高かったと認識している。という
の田畑価格実態調査結果の価格は,転用による代
のは,同一の買い手は,17年になると,同一集落,
替地取得価格という傾向が強いといえる。
負債整理,隣接水田という同じ条件の水田を半分
8年の100万円の事例は,33.4ha経営が公社経
以下の70万円で購入しているからである。
由で購入したものである。7年の94万円の事例は
また,21年の80万円の事例は,14.2ha経営が土
14.2ha経営が後継者不在のため離農した農家から
地改良の換地の余りを購入したもので,土地改良
不動産屋からの斡旋で購入した例である。二つの
開始時の相場ということである。さらに,84万円
売買事例は,売買事例実態調査の水準よりも低い
の事例は,市街地の農地である。以上のように,
が,公社経由等の事由から判断すると耕作目的の
17年以降になると,50~70万円以上の事例は,換
意向を反映した価格水準と推測される。
地の余りや市街地の農地である。
63年の70万円と低い価格の売買事例は,麓に隣
売却の理由は,農協による負債整理だけではな
64
表2―5 農地価格、売買事由及び購入者,斡旋者
農地価格 購入面積
万円
a
63年
元年
5年
6年
7年
8年
10年
12年
15年
17年
18年
19年
20年
21年
70
180
70
130
97
100
33
100
70
150
50
70
40
50.5
(70万)
(35万)
20
60
50
80
60
44.2
50
50
30
84
40
30
45
50
26.5
50
売買事由
180
200
150
100
140
200
260
本家の負債整理
事業失敗の負債整理
子供の家建築資金
負債整理
後継者不足,離農
農業公社経由
離村のため財産整理
200
100
50
40
20
220
170
78.5
94
100
300
100
負債整理
負債整理
負債整理
事業失敗の負債整理
負債整理
会社倒産の負債整理
入院費用と新築の負債整理
うち南笹間水田
北上牧草地
負債整理
本家の負債整理
経営不振
10
36
72
93
84
200
60
144
200
75
80
300
90
離村の財産整理
相続にともなう財産整理
負債整理
息子の死亡による離農
独居高齢婦人の財産整理
負債整理
負債整理
負債整理
相続にともなう売却
離農
負債整理
万円/10a
斡旋
購入者と評価
農協の依頼
農協の斡旋
農協,農業委員会
農協の斡旋
不動産屋の依頼
40ha経営,相場より高い
14.2ha経営工業団地売却40aの代替地
40ha経営,ほ場整備水田
14.2ha経営宅地7a売却代金
14.2ha経営 ほ場整備水田
33.5ha経営
40ha経営売手が500万円,買手が1,000万円
で中間,近隣農地より安い
相対交渉
農協の依頼
農協,公社(5年
農協の依頼
農協の依頼
農協の依頼
競売,農協の依頼
農協の依頼
27ha経営,高い,現在では30万円
4.8ha経営,集落責任者,同級生,隣接
14.2ha 単収6俵で低い,転作田用
4.8ha 同一集落,隣接水田
集落営農 負債見合い額
地区内親類女性 負債額を考慮
品目横断の要件確保6.7ha
農地流動化資金,農協が利子負担
競売
集落営農,水利施設が不備
農協と組合長依頼 40ha経営負債見合う額,高い
相対
40haハウス用地を70万円で購入したので
50万円,高い
土地改良の換地の余り,14.2ha経営
相対
知人の姉,隣接地
相対
60ha経営
相対
60ha隣接地
相対
46ha小作地
相対
収量が不安定農地
市街地
40haきのこ経営
高齢世帯
耕作していた農地やや高め
開田なので収量が低い
旧田で収量が高く
農地購入者の調査結果より作成
く,相続にともない農地の売却(営農しないため),
となっている。また,買い手は個人の生産者では
高齢化による資産の整理が増加している。農業労
なく,競売に掛けられる事例や集落営農が購入す
働力の高齢化が進展し,担い手が不足した場合,
る例が生まれている。農家の買い手が存在しない
貸付するのでなく,売却を選択する例が増加して
ため,競売や集落営農の購入した事例は,価格水
いる。というのは,農地価格下落したため,資産
準は低い。まず,18年の負債整理で売却を希望し
としての魅力がなくなり,農地を所有することは,
たが,集落内で購入希望者がいないので,集落営
経済的,労力的な負担となったからである。その
農が購入した例は,負債額に見合う水準で10a当
ため,連帯保証人でも借金の肩代わりはするが,
たり40万円であった。競売にかけられた事例は水
農地はいらない例や競売,集落営農という例が生
利施設がないという水田が半分である事情のた
まれているという。
め,10a当たり20万円である(19年)。
21年を例にとると,負債整理が5例,相続,高
さらに,相続,高齢化,離農による売却は,以
齢化,離農が5例であり,隣接地との相対が2例
下のようにやや低い水準にある。
水田農業の構造変動と農地市場,農地売買事由,価格形成の変化
65
平成10年,離村のための財産整理での売却を集
まっている。兼業農家や5ha未満にとっては農
落内の生産者が購入した例が33万円であった。
地を所有しても,生産手段としても資産としても,
平成21年,相続にともなう財産整理で60ha経
価値が低下しているからである。
営が購入した例は,10a当たり44万円である。
以上のように,花巻地区の圃場整備済の水田で
平成21年独居高齢婦人の売却した例は,収量が
も,10年 前 の10a当 た り100~150万 円 前 後 か ら,
不安定な水田であるため,30万円である。 また,
15~20年には60~70万円前後へ,現在では30~50
高齢世帯が離農し,それに伴い農地が売却した事
万円へ低下した。つまり,平場の水田価格は10年
例は,30万円である。相続にともなう財産整理に
前後で約1/3に低下し,この5年間でも約6割
よる売却は45万円である。
程度に低下した。現在では,負債整理の場合には,
以上のように,相続,高齢化,離農による売却
負債額にみあう50万円前後であるが,離農,高齢
の場合には30~45万円であり,負債整理による売
化等による場合は,30~40万円と低い水準となっ
却の50~60万円に比べて低い水準にある。
ている。それは,離農等の場合には,買い手の経
しかし,高齢化等による離農の場合でも,買い
営収支がより強く反映するからである。
手が耕作していた農地を購入した場合には,以下
農地価格が低下したのは,第一に,代替地取得
のようにやや高く,負債整理を事由とした場合と
等による転用地価の影響が小さくなった点であ
同じ水準である。
る。第二に,米価低下により水田経営収支の悪化
離村のための財産整理であるが,知人の姉であ
と小作料水準の低下である。第三に,買い手不足
り,隣接地であったため60万円で購入した。
である。
息子の死亡にともなう離農であるが,耕作して
ところで,農業委員会によると,花巻市の小
いた農地の購入や離農であるが,耕作していた農
作 料 水 準 は21年 度 の 場 合, 平 均13,100円, 最 高
地のいずれも50万円である。
21,000円,最低が5,000円であり,石鳥谷地区では
以上のように,離農や財産整理でも,耕作して
平均が12,300円,最高が21,000円,最低が5,000円
いた農地や隣接地というように,買い手の経営に
である。実態調査によっても,小作料水準は,地
とって重要な農地であり,さらに買い手と売り手
域差や圃場条件等により,格差が大きい
との人的関係もある場合には,高めの水準である。
そこで,平均水準と最高水準の小作料で還元し
しかし,中山間地域では,耕作していた農地を購
た農地価格の利子率は,50万円の場合には,2.6
入する場合には,低価格水準である。
~4.2%であり,調査事例の最低である農地価格
もう一つの特徴は,負債整理や離農,高齢化に
が30万円で小作料が6,500円の場合には1.3%であ
ともなう売却の買い手が,地縁,血縁という関係
る。また,40万円の場合には,3.3%~5.5%となる。
者の比重が低下し,10~40haの経営の比重が高
この水準は,県公社の平均買入価格と小作料によ
表2―6 花巻平坦部の小作料推移
16年
花巻
石鳥谷
17年
21年
10a当たり円
23年
24年
23,000
21,000
21,000
16,000
14,600
17,000
15,000
13,100
10,300
9,600
12,000
9,000
6,000
3,000
5,000
3,000
4,000
23,000
20,000
21,000
15,000
12,500
18,000
15,000
12,300
10,600
9,300
13,000
9,000
9,000
3,000
5,000
3,500
5,000
農業委員会資料より作成
(注)
。
66
る小作料率と同一水準となっている。
(注)調査事例によると,小作料は,最低が飯米30㎏(高齢
70万円で購入した。相手は負債整理のための売却
である。
化 等 に よ る ), 1 俵,12,600円,17,000円,18,000円,
また,22年に集落内農家より1haを10a当たり
20,000円等となっている。借り手の評価は1万7千円
30万円で購入の依頼があり,売買の合意していた。
以上の場合には高いと評価している。
相手の妻が売却するよりも自力で借財を返すこと
なお,花巻市の標準小作料は,16年から17年で
を主張したので,キャンセルされた。なお,30万
は2,000~3,000円下落し,石鳥谷は3,000~4,000円
円の水準は圃場の未整備であったためであり,圃
下落している。さらに,21年の実勢小作料の平均
場整備済の水田は50万円と評価している。
は,標準小作料の中位と仮定すると,花巻市では,
今後,集落内で農地の売却希望がでた場合,買
16年と比べ21年は3,900円,約23%下落し,石鳥
い手がいないので,集落営農で購入することが必
谷では,4,700円,32%も下落している。さらに,
要となると考え,集落内で検討しているが,まだ,
24年の実勢小作料は,花巻市では平均で2,500円,
集落内の合意形成にいたっていない。
27%の下落,最高で5,400円,30%の下落である。
この経営の事例から同じ集落内の水田価格は,
石鳥谷では平均で3,000円,24%,最高で8,500円,
平成15年が150万円,17年が70万円,22年が50万
40%の大幅な下落である。標準小作料の中位を平
円と1/3に下落している。集落内において,担
均小作料と仮定すると,平均小作料は,16年から
い手層の買い手がいない場合には,この事例のよ
24年にかけて,花巻が44%,石鳥谷が48%の大幅
うに所得水準の高い兼業農家が農協等から購入を
な下落と推計される。
依頼されてきた。今後,買い手が確保できないこ
小作料の大幅な下落は,水田農業収支が悪化も
とが予想されるので,集落営農を含めた農地の受
一つの要因であるが,花巻市での構造変動にとも
け皿づくりが課題となっている。
ない農地市場が借り手,買い手市場に変化したこ
⒝ 購入から借地へ―大規模水田経営
とを示している。
経営耕地27ha(借地21ha)の経営で,経営主(68
歳)は6年前から就農した。妻(60歳)は産直野
③ 農地購入者の経営とその動向
菜,花の栽培・販売とともに,タマネギの苗栽培
農地購入者は,地縁・血縁から大規模経営,兼
と販売を担当している。長男(36歳)とその妻(32
業農家や集落営農に変化している。以下,農地購
歳)が農業労働力の主力である。
入者の購入の論理を実態調査に基づき検討する。
①平成15年に,農協の依頼で集落外の農家(負
⒜ 集落のリーダーである兼業農家
債整理)からで購入した。県公社(5年間)を通
経営耕地480a(うち借地180a)であり,主(57歳)
じて10a当たり70万円で100aを購入した。負債額
は農業生産法人会長,乾燥組合の副会長であり,
と見合う水準で購入したため,高いと評価してい
平成18年までは会社員であり,現在では法人の仕
る。現在では,その農地は10a当たり30万円が適
事が主である。長男(31歳)が稲作作業と自家野
当であるとのことである。現在では,購入ではな
菜を担当し,花巻東部カントリーのオペレターで
く,市の公社による特定利用権設定により借地で
ある。妻は美容院の自営,長男の妻は,専業主婦
拡大する。その場合,地代は10a当たりコメ30㎏
である。
である。この事例でも,水田価格は半分以下となっ
農地の購入は,①平成15年に集落内の同級生の
ており,27ha規模の経営でも購入の意思がなく
負債整理のための売却した50aを農協の依頼によ
なっている。
り10a当たり150万円で購入した。当時の小作料は
⒞ 購入を中心とした規模拡大―水田複合経営
10a当たり2万円なので,やや高いと思った。
経営耕地14.2ha(借地4.9ha,転作,ピーマン)
さらに②17年に集落内農家より20aを10a当たり
主は69歳,農業専業であり,妻(69歳)はピーマ
水田農業の構造変動と農地市場,農地売買事由,価格形成の変化
67
ン,椎茸を担当している。長男(45歳)は,農機
となり,購入によって500a,借入地とほぼ同じ面
具メーカーに勤務し,土,日に農業の手伝いをし
積を拡大している。同時に,この農家は,転用等
ている。
で購入できる経済的な余裕があるため,農協,土
①平成元年,200aを農協の斡旋により10a当た
地改良区,不動産屋等の様々な依頼があることを
り180万円,総額3,600万円で購入した。相手は事
示している。
業失敗による負債整理である。工業団地用地に
⒟ 品目横断的経営安定対策の基準達成のため
の購入
40aを売却して得た資金による代替地取得である。
②平成6年に100aを10a当たり130万円で農協の
経営規模6.7ha(借地3.2ha米,麦,ヒエ,りん
紹介で購入した。相手は負債整理であり,購入資
どう)であり,主(63歳)と妻(60歳)が農業専
金は7aを宅地として売却した代金である。
業であり,後継者はいない。
以上の2事例は,農地転用の代替地取得の側面
平成18年に地区内の親類女性の高齢者より170a
をもっており,負債額に見合った総額で購入した
を,10a当たり50.5万円,総額878.5万円で購入した。
ため,単価は高いという認識である。
花巻の南笹間の78.5aは10a当たり70万円であり,
③平成7年に,140aを10a当たり97万円で不動
北上市の94aは牧草用地で10a当たり35万円という
産屋からの依頼で購入した。相手の事由は,後継
評価であり,平均50万円と認識している。購入の
者が就農しないため,離農することになったため
理由は,品目横断経営安定対策の4ha基準を達
である。この時期でも,離農による売却の例が生
成するためである。売り手は入院費用,家の新築
まれており,売買価格も売買事例調査よりも低い
資金による負債整理のためである。価格は,農協
が,耕作目的では妥当な水準である。
との話し合いであり,相手の返済金を考慮した価
④15年に,事業失敗による負債整理のため売却
格である。土地改良の償還金は滞納分を売り主が
された40aを農協の依頼で購入した。価格は10a当
清算し,買主が残金を支払う。農地流動化資金を
たり50万円であるが,自宅より250mはなれた農
活用して農協が利子負担するので利子はゼロであ
地で反収6俵という条件の悪い農地なので,耕作
る。
目的では高いと評価している。購入目的は,稲作
⒠ 購入による規模拡大農家
の耕作目的というよりも水田転作の用地として購
経営規模40ha(借地20ha),農業労働力は世帯
入した。
主(78歳)と妻(76歳)であり,後継者(次男は
⑤21年には,土地改良の換地あまり地を10a当
他出)であるが,機械作業は担当している。経営
たり80万円で購入した。現在では50万円であり,
内容は,水稲18ha,残りは転作(小麦,はと麦)
やや高いのは,土地改良開始時の価格水準だから
である。
である。
①63年に圃場整備済の水田180aを当時の相場価
この農家の農地の購入単価をみると平成元年が
格である10a当たり70万円で購入した。相手は地
180万円,6年が130万円,7年が97万円,15年が
区内の本家であり,農協の依頼による負債整理で
50万円であり,15年間で28%の水準に下落した。
負債総額に見合う額である。
さらに,6年と15年とを比較すると,9年間で
②平成5年に圃場整備済の水田150aを10a当た
38%の水準に下落した。この要因は,米価が低下
り70万円で購入した。売り手は高齢の女性であり,
し,水田営農の採算が悪化したこともあるが,何
子供の家の建築資金のための売却である。農協,
よりも農地価格に転用価格の影響がなくなったた
農業委員会の仲介である。
めである。平成21年の土地改良の余り地は,開始
③平成10年,280aを10a当たり39万円で購入し
時の価格を反映したものである。同時に,この事
た。同じ集落の住人が離村のための財産整理のた
例では平成7年まで,農地転用が農地購入の資金
めの売却である。売り手は「安くてもいいから買っ
68
てほしい」と総額500万円を提案したが,買い手
いる。また,集落営農では競売等の特別な事情の
が約1,000万円を提示し,その額で購入した。農
ある物件しか購入できない。競売物件は,集落の
地を安すぎる価格で買うと地域の目があるので,
目があるので,一般農家はなかなか買いにくいか
地域が納得する価格で購入したが,当時としては
らである。集落営農法人には集落の農地を守る義
やや安い価格である。
務があるという目的があるので,購入することに
④平成19年に300aを10a当たり60万円で購入し
抵抗がない。仮に売り主が買い戻したいと言った
た。農協の仲介と組合長の依頼で本家の負債整理
場合には,売り主に売却すればよいと考えている。
のために購入した。相場と比べて高いが,本家な
集落営農の法人としては条件のよい水田を20万円
ので負債整理総額に見合う金額で購入した。
で購入したい。
⑤平成20年に育苗ハウス付きで100aを10a当た
以上のように農地購入者の第一のグループは,
り50万円で購入した。所有者は,退職金により
十数haから40haの大規模経営であり,農地購入
10a当たり70万円で購入したが,農業経営にいき
の依頼があれば,積極的に購入している。第二は,
づまり,売却することとした。50万円は高いが相
5ha前後で,兼業所得もある経営であり,依頼
手が70万円で購入したことや育苗ハウス用地であ
されれば,購入するグループである。新たな動き
ることを考慮した。
として集落営農が登場した。農地価格や米価下落
⑥平成21年に36aを10a当たり60万円で購入し
のもとで,積極的に購入する経営が存在しないと
た。地区外であるが知り合いの姉であり,離村の
いう状況のもとで,地域の農地を守るために集落
ための財産整理である。知り合いであり,所有地
営農が新たな買い手として登場してきている。負
の隣であったため,やや高い水準で購入した。
債整理のための売却は農協等が斡旋しているが,
この事例の購入単価は,63年が70万円,平成5
離農,離村のための財産整理の売却は相対が主体
年が70万円,平成10年が39万円(離村のため財産
となっている。
整理,安い),19年が60万円(高い),20年が50万
円(高い),21年が60万円(高い)であり,相場
よりもやや高い水準である。その理由は,相手が
(4)価格下落の一層の進展と買い手不足の深刻
化―中山間地域
本家(農協組合長の依頼),知人等であり,負債
中山間地域では農地価格が低下するとともに,
整理,相手の購入価格等の相手の事情を配慮して
売却事由のなかで「後継者不足や離農,高齢化」
いるためである。なお,63年からの購入による農
の比率が平場の水田地帯に比べて高まっている。
地集積は1,046aであり,借入地の半分にあたる。
はなまき農協管内の大迫と東和町を事例に検討す
⒡ 集落型法人経営(転作部門共同経営,稲作
る。ヒアリングによれば,大迫は,帳簿上の農地
は一部共同,100ha)
面積は700haであるが,実際に耕作しているのは,
平成18年に30a区画の水田220aを10a当たり40万
500haであるという。はなまき農協の合併前に,
円で購入した。売り手は自分の経営している会社
北上山系開発の関連事業の整理と第一次農協合併
が倒産したため,負債整理のためであり,価格は
にともない,農家の負債整理を実施した地区であ
売り主の負債状況から農協と協議して決定した。
る。したがって,負債をもつ農家は少なく,高齢
平成19年に100aを10a当たり20万円で競売によ
化,離農等が売却の主な理由である。
り購入した。入札は,1社のみであり, 農地の
一方,東和町は,農協合併にともない,農家の
半分に給水用蛇口がないので妥当な水準と考えて
負債整理が本格的に実施された地区である。
いる。
集落営農が農地を購入したのは,転作団地の都
① 農地売買から財産整理,競売へ―価格低下
合もあり,地区外者の購入をふせぎたいと考えて
東和地区では,農業委員会の売買事例実態調査
水田農業の構造変動と農地市場,農地売買事由,価格形成の変化
69
によると,土沢地区が100万円であり,その他地
(31a)を購入した例であり,後者は2.57haとまと
区が70~75万円である。平成10年の対比をみると,
まった面積であり,売り手は財産整理を目的とし
水田価格は余り変化していない。
ていた。
まず,実態調査によると,東和町での売却事由
なお,離農により借地していた生産者が購入
は,負債整理が4/14,離農,労働力不足,相続
した例が10万円,6.2万円であり,離農した農地
が9/14であり,離農や相続の割合が高くなって
を認定農業者が購入した例が11.3万円となってい
いる。相続した農地を売却したなかには,負債を
る。
含めた財産整理を実施したと思われる例が2例あ
以上からみると,担い手不足と高齢化による農
る。
地の管理者不足のもとで,売買事例は10~20万円
負債整理が主な理由の場合についてみると,借
前後であり,田畑価格実態調査とは大きく乖離し
地人(13ha)が借地を購入した例は20万円である。
ている。さらに,公社経由での購入価格が27.6万
本家が連帯補証人であり,耕作放棄地と利用権設
円と公社への売却価格が21.7万円であり,さらに,
定農地とが混在した農地を購入した例は7.6万円,
公社経由の価格よりも高いか,同一水準なのは,
血縁関係者が1.9haを購入した例が13万円である。
大規模農家が購入した2例のみである。その他の
さらに,競売で臨地を購入した例が16.7万円であ
売買事例の価格は競売価格と同じ水準かそれ以下
る。
となっている。
一方,相続で公社に売却(1.38ha)が21.7万円
東和町の購入者をみると,利用権を設定してい
であり,不在地主が公社経由での売却が27.6万円
た農地の購入が7例,隣接地の購入が3例であり,
である。相続,死亡にともなう売却の事例は,他
買い手の経営的なメリットがある場合のみ,売買
出者が相続し,利用権設定していた農業者が購入
が成立している。購入者をみると,血縁関係者が
した例が14.2万円と15.5万円である。死亡による
3例,大規模農家と認定農業者が3例であり,買
相続にともなう売却した農地を東和地区での最
い手が地縁,血縁から担い手にシフトしてきてい
大経営規模の農家(15ha)が購入した例が12.9万
る。
円と31.2万円である。前者は,借地していた農地
以上のように,東和地区では,農地価格は大幅
表2-7 東和町の売買事例(19~21年,農業委員会資料より聴き取り)
1
2ha
10a当たり
単価
7.6万
2
3
4
5
6
33a
1.38ha
1.32ha
1.93ha
46a
18万円
21.7万円
11.3万円
13.0万円
14.2万円
7
8
28a
2.57ha
5.5万円
31.2万円
9
31a
12.9万円
10
1ha
20万円
11
12
13
14
30a
51a
13a
75a
11万円
27.6万円
6.2万円
10万円
面積
総額
152.3万 負債整理で本家(連帯補償)が購入した。 耕作放棄していた農
地と買い手が利用権設定した農地とが混合しており,通常
の価格より1/3である。
60万円 競売で臨地を購入
300万円 農家相続,農業をやらないので農業公社へ売却。
149万5千円 親戚の負債整理のため認定農業者が購入
250万円 負債整理で血縁関係者が購入,負債整理の金額
65万円 所有者が死亡し,他出者が相続したため,購入した。 以前
より耕作していた農地(利用権を設定していた)
15.5万円 7と同じ理由で所有地と地続きなので購入
800万円 父が死亡し負債整理するために売却,買い手は,10ha超える,
東和最大規模の農家であり,林業も兼営
40万円 死亡による相続にともなう負債整理,8の同一の買手で,
耕作していた農地を購入。
200万円 負債整理で売却,買手は耕作していた農地,20万円はやや
高い水準であり,米でつくっていたらあわない
33万円 買い戻し
141万円 不在地主(95歳)が公社を経由して売却
8万円 離農農家が資産整理で売却,耕作していた農家が購入
75万円 離農農家が資産整理で売却。 耕作していた農家が購入
70
に低下したが,その要因の一つは農業労働力の高
1例,買い手の希望が2例となっている。相続農
齢化と担い手不足による離農,規模縮小が進展す
地の2例は,ハウスを経営している担い手農家が,
る一方,買い手の不足にある。同時に,米価下落
中山間の奥の地域からふもとへ移動を目的とし,
等により水田経営収支が悪化していることも一つ
ハウスの隣接地を確保するために購入した。買い
の要因となっている。そのため東和地区の平均小
手の希望とも合致した。そのため,面積は17a,
作料水準は16年の13,000円から21年には9,300円へ
5aと小さいが,価格は45万円と平場の水田と同
さらに23年に5,100円へ大幅に低下している。条
じ価格水準である。離農農家の場合も,農協退職
件の悪い水田(最近)は16年の8,000円から21年
者が,ぶどう栽培をするために,生食用のぶどう
の3,000円,23年の1,900円へ下落している。
園を棚込みで購入したため,56.1万円と高い水準
東和地区では,労働力の高齢化,担い手不足が
となっている。
進展し,水田農業の農地管理は,少数の担い手と
残りの例は,養豚農家が,浄化槽予定地とし
なり,小作料と農地価格が大幅に下落した。その
て隣接として購入したもので,13.3aを10a当たり
ため,農地を資産として所有する意識が希薄とな
75.1万円で,総額100万円で購入した。もう一つは,
り,資産整理,相続による売却が増加し,競売の
ハウス(なす)農家がすでに6棟を建てている隣
事例が産まれている。
接地で日当たりの良い農地5.7aを10a当たり87.5万
円で購入した。集落排水場の予定に隣接しており,
② 離農と買い手の希望による売買
10a当たり75万円と見込まれている。
大泊地区の田畑売買実態調査価格は,大泊が85
以上のように,大迫では,購入者をみると,ハ
万円,その他が70万円である。20年水田価格の10
ウス農家が2,養豚農家が1,ぶどう園を拡大す
年対比は,85%,その他が93~100%である。
る農家が1であり,集約的な経営農家が購入者と
大迫地区は,東和地区の例とは異なり,負債整
なっている。しかも,購入目的が,ハウス用地,
理が一段落したため負債整理がゼロである。売却
浄化槽,樹園地という施設用地であり,購入単価
の事由は,相続農地が2例,高齢化による離農が
は高いが面積は最小限である。そして,稲作をす
表2―8 大迫の農地売買の事例(19~21年 農業委員会資料より聴き取り)
1
面積
10a当たり単価
17a
26.5万円
2
3
5a
5.4a
90万円
87.5万円
4
5
13.3a
樹園地
21.4a
75.1万円
56.1万円
総額
45万円 離村者が相続した農地を売却、買い手は所有地の隣接地で
ハウス用地として購入
45万円 1の用地の隣接地で1の買い手が希望
47.5万円 農業縮小のため売却、買い手はハウス用(なす)用地とし
て購入。日当たりがよい。また、集落排水場の予定地の隣
100万円 離農農家から養豚業が浄化槽の用地として購入
120万円 高齢化による生活費の確保 買い手は農協退職後、ぶどう
園を購入してぶどう農家が棚込みの価格である。
表2―9 標準小作料、実勢小作料の推移
大迫
東和
16年
17年
21年
23年
24年
16,000
13,000
13,400
6,000
6,700
12,000
9,000
7,400
5,400
5,700
9,000
6,000
4,000
3,000
3,100
2,200
3,000
20,000
19,000
15,800
8,200
8,000
17,000
14,000
9,300
5,100
5,600
12,000
9,000
8,000
5,000
3,000
1,900
3,600
農業委員会資料より作成
水田農業の構造変動と農地市場,農地売買事由,価格形成の変化
71
るために購入した例は一つもない。その要因は,
した農地管理,受け手づくりが今後5年間の課題
負債整理を必要とする農家が少なく,また,地域
となっている。
全体での集落営農を取り組んでいるため,水田耕
作が地域で維持されている。そのため,労働力不
3.急速な構造変動と米価下落にともなう農
足等による売却が少なく財産整理やハウス,果樹
地問題の変化―新潟県旧三和町農地価
格の推移
の縮小のための売却が中心となっている。
花巻市では05年から10年までの5年間で販売農
(1)旧三和村の構造変動―農家数の大幅な減,
10ha以上層への農地集積
家が21.2%の大幅に減少する一方,農家以外の経
営体及び10ha以上が数も経営耕地シェアへ大幅
新潟県上越市旧三和村は,上越市と南西部に接
に増加する構造変動が進展している。一方,5年
する平地農村であり,水稲単作・安定兼業地帯で
後を展望すると,小規模農家だけではなく,担い
ある。12年(2000年)では総農家数は,764戸(農
手である4ha以上さらに10ha以上も,労働力の
家以外の事業体は0),経営耕地面積は,1,601ha
高齢化と後継者不足に直面している。以上の構造
うち水田が1,547ha(96.6%)であり,借地面積は
変動のもとで,農地供給層は,拡大しているが,
512ha,借地率は,32.0%であり,県平均の19.8%
農地の受け手は限定される状況が生じた。さらに,
を大きく上回り,県内ではトップ水準である。12
米価下落による水田経営収支が加わり,農地市場
戸の15ha以上の農家だけで,全経営面積の16%,
は農地余りという事態が進展している。その結果,
5ha以上のシェアは29.0%となっていた。
小作料も農地価格も大幅に下落した。05~10年の
17年になると,経営体数は509であり,12年に
間に,水田価格は1/2~1/3に下落した。事由
比べると約2/3に減少し,さらに,22年には310
も負債整理から離農,財産整理が増加している。
へ,17年対比61%,12年対比41%であり,10年間
購入者も,地縁・血縁関係による農家は減少して
で6割減となっている。一方,経営耕地面積は,
きている。農地を購入するだけの経営基盤をもっ
17年 が1,569ha,32ha, 2 % 減,12年 が1,542ha,
ているのは,10ha以上の経営,法人経営,集落
12年対比59ha,4%減にとどまっている。その結
営農もしくは兼業所得が大きな兼業農家に変化し
果,1経営体当たり経営耕地面積は,12年の2.10ha
た。
から22年には4.97haに拡大した。借地面積は17年
さらに,中山間地域では,労働力の高齢化,後
が650ha,面積率が41.4%,22年が868ha,面積率
継者不足が深刻化するとともに水田経営収支が悪
が56.2%と過半を超えた。
化したため,小作料も農地価格も平地よりさらに
17~22年の間の経営耕地規模別経営体数は,
下落し,農地が資産として意義をうしないつつあ
10ha未満が減少,とくに,3ha未満が半減である。
る。とくに,農地の売却要因は離農,相続にとも
10~20haが11か ら18へ,20~30haが 9 で 変 わ ら
なう財産整理,負債整理が主要な要因となってい
ず,30ha以上が5から12へ増加している。さら
る。
に, 経 営 耕 地 シ ェ ア は,10~20haが16 %,20~
以上の構造変動の進展と農地市場の変化に対応
30haが15%,30ha以上が29%を占め,10ha以上
表3―1 旧三和村経営体数の推移,面積シェア
計
0.5ha未満 0.5~1ha 1~2ha 2~3ha 3~5ha 5~10ha 10~20ha 20~30ha 30ha以上
平成12年
764
30
117
310
132
66
26
15
17年
509
28
84
202
90
33
33
11
9
5
22年
310
9
38
118
48
35
27
18
9
12
1,542
3
29
153
117
138
171
245
224
454
100%
0
2
10
8
9
11
16
15
29
面積 ha
農業センサス結果
72
が60%を占めている。以上のように,2000年の時
(2)農地市場の変化と農地価格の下落―公社の
売買価格を中心に
点でも,新潟県の中でも構造変動が進展した地域
であったが,10年間でさらに構造変動が急速に進
12(2000)年以降の急速な農業構造変動と少数
展し,少数の大規模水田経営が地域農業の大宗を
の10ha以上とくに30ha以上への農地集積によっ
占める状況に変化した。
て,農地の借り手,買い手が限定される状況が加
以上の構造変動の動きについて,細山隆夫氏(注8)
速化した。そのもとで,農地売買において,細山
は,「離農,経営縮小農家群と他方で大規模化を
氏が指摘した状況がさらに進展している。
実現する農家群とに両極分化するなかで,近年で
ま ず, 三 和 町 の 借 地 率 は,00年 の32 % か ら
は少数の担い手に農地が集中している」。さらに
56.2%へ大幅に増加し,10ha以上に6割の農地が
「大規模借地経営は,複数の担い手不在集落に出
集積した。小作料水準も10a当たり2万円前後に
作する」動きがあると指摘している。
低下した。
さらに,平成6年(1994)年より大規模基盤整
三和町の農地価格(全国農業会議「田畑価格実
備事業が実施された。そのことにより「いっそう
態調査」)は,平成12年から18年まで,10a当たり
の離農と農地流動化を促すことになる」「特に,
64万円で推移してきた。しかし,19年~20年の間
東部地区では集落構成員の多くが脱農に向かい,
には60万円,21,22年の間には50万円へ低下した。
大規模借地経営群への農地供給が加速している。
一方,公社の平均買入価格をみると,表のよう
そこでの特徴として,農地貸付に加えて,工事費
に12年度が53.0万円,13年度が54.6万円,14年度
負担を回避したなかで,農地所有を見切る売却希
が55万円,15年度が54.1万円,16年度が51.5万円,
望者が増加している。売却増加の要因としては工
17年度が47.4万円,18年度が58.5万円,19年度が
事費償還回避の他に,低地価のため資産的価値が
53.8万円,20年度が55万円,21年度が45万円であ
低いことも指摘できる。低地価・低地代の中,農
り,横ばいないし,徐々に低下傾向に推移してい
地所有への関心が希薄化傾向にある。だが,地域
る。
としての担い手が減少するなかで,売却希望地を
ところで,20~30万円水準という買入価格が12
受けきれない事態も発生している」と指摘してい
年度では5件,13年度では2件,16年度では1件,
る。事実,平成12年の水田価格は,64万円であ
17年度では10件,存在している。農業委員会のヒ
り,県平均の176万円の約1/3であり,地代水準
アリングによると,20~30万円という水準の農地
も2万1千円であった。
は,区画が小さく,耕作が不便等の場合とのこと
表3―2 旧三和村の県農業公社の売買価格の推移
(単位:件,a)
年度
12年
13年
14年
15年
16年
17年
18年
19年
20年
21年
件数 面積 件数 面積 件数 面積 件数 面積 件数 面積 件数 面積 件数 面積 件数 面積 件数 面積 件数 面積
5 82.7 2 42.4 0
0 0
0 1 20.6 10 104.8 0
0 0
0
20~30万円
30~40
8 227.6 2 100.7 0
0 0
0 0
0 6 68.4 0
0 0
0
40~50
19 1050.9 15 1040.2 8 451.1 5 344.5 4 213.8 2 73.1 2 248.7 1 117.2
1 117.8
50万円
19 945.5 21 941.5 6 260 4 77.9 7 374.4 4 330.4 1 41.7 1
93
50~55
2 114.5 6 390.3 3 178.1 0
0 0
0 0
0 0
0 0
0
55万円
19 974.7 18 613.4 7 533.6 7 515 3 79.8 0
0 7 270 2 356.1 1 149.5
55~60
5 196.1 1 51.6 2 240.2 1 148.9 0
0 0
0 0
0 0
0
60万円
8 217 2 168.4 4 249.2 0
0 0
0 2 160.3 0
0 0
0
60~70
7 501.8 4 364.1 3 174.7 6 392.4 3 345.8 0
0 2 181.5 1 154.4
70万円~
4 162.5 6 355.7 1 40.1 0
0 4 87.6 2 25.8 3 217.5 0
0
計
96 4473.3 77 4068.3 34 2127 23 1478.7 22 1122 26 762.8 15 959.4 5 720.7 1 149.5 1 117.8
平均価格
53
54.6
55
54.1
51.5
47.4
58.5
53.8
55
55
新潟県農業公社資料より作成
水田農業の構造変動と農地市場,農地売買事由,価格形成の変化
73
である。事実,20~30万円の事例をみると,販売
て,世帯主の入院費用確保のための売却である。
単位(個人別)は,12年度の20~30万円が16.5a,
面積は77aであり,価格は70万円であった。集落
30~40万円が28.4a,13年度の20~30万円が21.2a,
で調整した結果,作業受託農家(親戚)が購入し
16年 度 の20~30万 円 が20.6a,17年 度 の20~30万
た。平成8年,区画整理を契機に9aを売却した。
円が10.5a,30~40万円が11.4aと小規模となって
売却先は本家である。価格は10a当たり60万円で
いる。土地改良にともなって,小規模の農地貸付
ある。
者等が農地を処分したと農業委員会のヒアリング
以上のように,昭和60年代の売却の事由は,負
では説明されている。
債整理や資金の必要性であった。水田価格は60年
40万円未満を除くと,40万~55万以下が12年度
の10a当たり120万円がピークであり,62年には70
では,件数で71%,面積で74.1%を占め,13年は,
万円に低下した。平成7,8年には大規模区画整
件数で82.1%,面積では78.6%を占めている。こ
理を契機としており,換地標準価格である70万円
の両年は,60万円以上の事例も2~3割存在する
と60万円の水準に収斂した。その水準は,田畑価
が,公社の買入価格は,45~55万円前後が大宗を
格実態調査と同じ水準となった。
占めている。14年~18年度をみると,40~55万円
しかし,12年以降になると,換地標準価格より
が2/3前後で推移し,残りは,60万円以上となっ
も低い水準の40~55万円の事例が大部分を占め,
ている。なお,19,20,21年度は買入件数が減少
換地標準価格水準を維持している例は少数となっ
しており,買い手と売り手との間で相対で合意さ
た。さらに,小面積の売却では,20~30万円水準
れた事例に限定されたものと推測される。その結
という例が生まれたのである。
果,19年以降の買入事例は,1例を除くと,45~
55万円未満となっいる。
(3)近年の農地価格と売却事由の変化(農業委
員会とヒアリング)
以上のように,公社の買入価格は,55万円前後
で推移しており,40~55万円が中心的な価格帯で
次に,農業委員会のヒアリングによる22年の水
ある。16~18年度では,換地標準価格である70万
田売買価格の事例は以下の通りである。農地法
円という水準をスーパーL資金の無利子というこ
3条での移転は,5件490.8aである。うち,畑が
ともあり,遵守したと推測される。したがって,
10a当たり5万円,10a未満不整形の水田が20万,
田畑価格実態調査と比べると,公社買入価格は10
30万円という低い水準である。しかし,40a区画
万円程度低い水準であったが,近年はほぼ同一水
圃場が50万円,1ha区画圃場で470aの売買が60
準となった。
万円という水準であり,20~21年度の公社買入価
(注)なお,三和区土地改良区と関川土地改良における換地
格と同じ傾向にある。
標準価格である70万円に近い水準である65~70万円の
農業経営基盤強化促進法による農地売買は,公
事例は16年度が4事例,17年度が1事例,18年度が4
社経由が5件で880aである。10a未満が2件で,
事例であり,だだ一つ80万円という事例があり,19年
26万7千円,35万7千円である。二つの事例は,
度では1事例である。
購入目的は換地等の耕作利便性の確保のためや,
なお,細山氏の調査による平成12年以前の農地
売り手とのつきあいのためである。1ha未満の
売買事例は,以下の通りである。昭和60年,女性
取引では,91.5aが50.4万円,95.8aが54.1万円であ
世帯主が農業負債整理のため,40aを10a当たり
る。
120万円で売却している。昭和62年,家の新築,
1ha以上の取引では437.8aの公社経由(5年)
自営業の資金確保のために120aを10a当たり70万
が49.7万円である。購入者は,農業部門を持って
円で売却した。すでに貸付農地であり,借り手が
いる会社社長である。購入した農地はすでに作業
購入した。平成7年,大規模区画整理を契機とし
受託を行っていたものである。売り手は離農を契
74
機とした売却である。その他の公社経由(5年間)
(4)法人経営の農地購入論理とその条件
では,232aが52万円,120aが45万円である。
以下,農地を購入した法人経営による売買の事
70万円を超えている事例は,50.2aの売買が70
由と価格水準を検討する。
万6千円である。公社とは5年間の契約であるが,
相対での話し合いで決定した事例であり,売却事
① 公社経由での購入
由は離農にともなうものである。
―経営概況
以上のように,基盤強化促進法による公社経由
A法人は水田面積合計32.8ha(所有11ha),一
は,45~54万円であり,前年度までの水準とは余
般畑30aは基盤整備の換地の関係で所有したもの
り変化していないが,40万円台の事例か増加して
である。水稲の作付面積は合計31.8haであり,転
いる。70万円の事例は公社が決定したというより
作については加工用米6haで対応している。う
も相対で価格を決定したためである。
ち,コシヒカリ10ha,雪の精10ha,五百万石5
相対取引では,不在地主が売却した74.6aで40
haであり,その他,わたぼうし,どんとこい,こ
万円(10a当たり)である。主人の急死にともな
しいぶき計6品種である。品種が多い理由は,コ
う事業見直し,会社の建て直し資金を確保するた
シヒカリ以外を作付けすると,転作割当が緩和す
めの売却した事例で,106.1aで37万7千円である。
るからである。残りの1haはハウス用地であり,
以上のように,作業受託の農地や不在地主,事
12棟であり,プール育苗栽培である。プール育苗
業資金の確保の場合は,他の売買事例よりも低い
によって,臨時雇用3人から2人に削減できた。
水準となっている。相対売買の事例をみると,公
農産物販売収入は,稲作収入が3,500万円(2,800
社買入価格とくらべると,低い水準となっており,
俵生産,1.3万円/俵)である。基本的に農協には
農地価格が低下する可能性が生じている。
出荷しない(学校給食用に46俵)。業者販売(長
三和区土地改良区と関川土地改良では,換地標
岡にあるエコライス)へ75%であり,農協仮渡金
準価格を70万円と定めているが,その価格は10年
に1千円/俵の上乗せである。個人販売が25%で
以上前の米価が2万2千円時代である。しかし,
あり,増やしたいが販売のための手間等が増える
換地標準価格で取り引きされている事例は,公社
ので難しい。なお,反収はコシヒカリで8.5俵(平
買入でも農業委員会のヒアリングによると,相対
均より0.5俵高い),どんとこいは10俵である。 作
で価格を決定した場合で売り手に離農,負債整理
業受託収入は200万円であり,コンバイン作業(1.9
等の事情があった場合に限られている。
万円/10a)と田植が中心である。 最近は,作業受
そのため,現実の農地売買では70万円から小作
託が減少傾向にあり,貸借に転換している。 戸別
料や土地改良償還金の差し引くこととなってい
所得補償,品質奨励,加工米に対する補助金など
る。大規模農家は,購入する場合,換地標準農地
で合計で800万円であり,総収入は,4,500万円で
価格ではなく値引き交渉を行っているとのことで
ある。
ある。また,大規模農家は,借地をしている場合
農地購入とその論理
には購入することを回避する動きが強くなってい
農地の購入は以下の通りである。平成21年度に公
る。土地改良によって,1ha圃場になったため,
社経由で,132.9aと195.3aを44万円/10a(2%の公
小規模農家は耕作できなくなったため,農地を売
社手数料,総額1,444.7万円)で購入した。132.9aは,
却せざるをえないが,買い手は,購入価格水準を
小作地を購入したものであり,平成11年から21年の
換地標準価格よりも値引きし,さらに小面積の場
間,公社が保有していた。195.3aは,平成13~平
合には低価格水準を提示している。構造変動の激
成21年の間公社が保有していた。公庫のスーパー資
化により,農地市場は買い手,借り手市場に変化
金に対する利子補給で実質ゼロ金利事業が終了す
したのである。
るので,21年にかけこみで購入した。
水田農業の構造変動と農地市場,農地売買事由,価格形成の変化
平成21年購入した15aは,30a区画のなかの水田
75
(自作地8ha(うち法人所有が4ha),借入地が
であり,土地改良の償還が終了している。 30万
28ha),畑が2.2ha(自作地が0.2ha ハウス用地,
円/10aである。
借 入 地 が 2ha) で あ る。 水 稲 が25haと 加 工 米
最初の2つの事例は,地主からA法人に直接,
が3haである。品種別にみると,コシヒカリが
買い取りを依頼した。地主は希望金額を言わな
13ha,その他が12ha(コシイブキ,どんとこい,
かったが,A法人から「地域での取引価格は40~
ミルキークィーン,みずほのかがやき)である。
50万円で推移しているから,その間をとって,45
農協出荷はゼロであり,加工用米2haは雪の精
万円でいかがでしょう?」って感じで決定した。
を酒造用米として加茂錦酒造と契約栽培してい
売り手の売却理由は,子どもの結婚資金であり,
る。価格は60㎏当たり7千円である。1haが新
もう一つは,離農のためである。
規需要米(コシノカオリ)でめん用として浦川原
拡大した農地からの収益増にもとづく,償還の
地区のジインジョウそばへ60㎏当たり6,800円で
可能性について,試算は以下の通りである。10a
販売している。
当たりの価格は,44万円+土地改良の償還金20~
米の販売は地元の小売店(3軒)へコシヒカリ
25万円=64~69万円である。1俵当たり1.3万円
1万4千円で販売している。農協に比べると農協
の販売価格であると仮定する。 基盤整備後の農地
の手数料分だけ手取りに差がある。その他品種の
は1年目を除いて,10年間は反収落ちる。最悪
販売価格は1万2千円である。消費者直売は100
6俵とすると10a当たりの収入は1.3万円×6俵=
軒で400俵であり,価格は白米コシヒカリ5,600
7.8万円である。所得率は6割くらいであるから,
円/10㎏,その他の品種は4,600円である。玄米で
10a当たりの収入7.8万円×6割=4.7万円の所得と
販売するコシヒカリが2万円(60㎏当たり)であ
なる。 4.7万円の所得を全て返還に当てると,約
る。米販売のため準低温倉庫を借りている(年間
15年となる。公社の借入期間10年分の小作料が戻
16万円)。本年は,米価格が下がったが,今後の
る。したがって,所得から労賃を控除した土地準
価格上昇を見通し,本年はまだ,在庫をもってい
収益でも償還可能となる。しかし,44万円は高く,
る。大豆8~9haは農協出荷である。畑作物を
妥当なのは30万円であると考えている。というの
みると,大豆2ha(青大豆)を実需者の豆腐屋
は,土地改良の償還金や土づくりなどの費用負担
へ1万5千円/50㎏で販売,ハウスミニトマト(調
が必要となるからである。今後,農地価格は下が
理用トマト,需要増がみこめる)は,農協の直売
ると予想されるが,農地を売る人は事情があって
所及び加工してドライトマトで販売している。今
売るのだから,あまりに安すぎると社会的な問題
後,ドライトマトは外食産業等への働きかけを
となる。
行っている。 22年収入は,農産物販売収入4,000
なお,A法人の小作料は,原則的に,2万円で
万円(昨年4,800万円),5~6年前がピークで7,000
ある。水利費は借り手負担であり,土地改良の償
万円であった。各種助成金1,000万+350万円(さ
還金は地主負担である。償還額はまだ暗渠工事が
ちに追加払い)である。法人での所得は,主が
終わらず,未確定だが,ただ,10a当たり20~25
600万円,妻が300万円,次男が月15万円である。
万円,20年償還を予想している。したがって,小
相対での農地購入の論理
作料/農地価格は,4.5%,償還金込みでは3.3%と
B法人は最近では,法人名義で農地を購入して
なっている。
いる。最近5年間の購入価格と売却の理由は,以
下の通りである。
② 相対での購入
5年前(平成18年)70aを10a当たり70万円で,
―経営概況
総額490万円で購入した。すでに,借入地であり,
B 法 人 は 1 戸 1 法 人 で あ る。 水 田 は,36ha
法人で耕作していた農地である。世帯主(同級生)
76
が病気で死亡した。子供の学費のための売却なの
大したい。
で,やや高めで購入した。基盤整備前の土地なの
なお,B法人は,認定農業者を個人から法人に
で50~60万円が相場である。資金はJAアグリマ
変更したのにともない賃貸借の契約も法人に変
イティ資金(2.5%)を活用した。
更した。そのため,平成19年3,4月に10年契約
5年前(平成18年)に94aを10a当たり60万円,
で20haを契約し,基盤整備済み水田の小作料が
総額564万円で購入した。すでに,法人が借入をし,
2万4千円である。さらに,平成21年には4ha
耕作していた農地である。売却理由は,事業の失
を3年契約で契約した。基盤整備田は2万1,100
敗による負債整理である。農地基盤整備が完了し
円であり,未整備地は1万6,700~800円である。
た水田である。資金はJAアグリマイティ資金2.5%
したがって,20年分の小作料とすると19年では
である。
48万円,21年では42~3万円である。したがって,
19,20年にかけて2haを総額1,200万円(単価
B法人は,その論理からみて基準からみて高めの
60万円)で購入した。すでに借入農地であり所有
水準で購入したことになる。22年に購入した農地
者が財産整理のため生前に売却した。その理由
の価格でも高めとなっている。なお,22年の購入
は,子供に農地を残すと面倒だからである。資金
農地について,小作料/農地価格は,3.8~4.3%で
はJAアグリマイティ資金2.5%である。
あり,JAアグリマイティ資金2.5~2.8%に比べて
21年に水田1.2haを,相対で800万円(単価67万
高い水準となっている。
円)で購入した。事業主が死亡したため事業整理
のための資金である。この農地は基盤整備地であ
(3)小活―二つの調査事例のまとめ
り,法人が借地していた。売り手は4ha所有し
農地購入の論理はA法人は,経営の論理であり,
ている。資金はJAアグリマイティ資金2.5%であ
B法人は,経営の論理とともに資産造成及び地縁
る。
血縁関係での購入である。論理の差は,A法人は
22年2月18日に水田2.2haを公社(5年と10年)
44万円で購入し,B法人は,60~70万円という購
経由で1,200万円(平均52.3万円)で購入した。相
入価格差に反映している。経営の論理でみると,
手は,6人であり,50~60歳の土地持ち非農家で
A法人は,公社の償還期間の10年間で借入金を返
あり,資金が必要となったためである。なお,条
済することを考えている。収量は最悪の水準で試
件が悪い,未整備地で基盤整備予定地は,土地改
算し,その所得と小作料(公社買入)の合計で返
良区の評価に基づき50万円である。圃場整備済の
済する論理である。B法人は,小作料2万円の20
農地は,圃場整備前に契約し,55と60万円である。
年分と計算しているが,実際の購入価格は,10~
圃場整備の換地対策として1haを借り受けて
15万円程度高めである。その一つの要因は,売り
おり地代2万円,70万円の清算金を支払う予定で
手が負債整理等であり,50万円以下では売り手が
ある。
「かわいそう」という論理である。もう一つの要
農地を購入するのは農地が長期的な資産として
因は,農地を法人で購入しており,利子を経費と
の意味をもつからである。価格については相対で
して計上できる点である。さらに,B法人は,米
周りの価格を基準にして決めた。また,県内では
や大豆等を高付加価値で販売しており,経営面で
地価は安いので,50万円より低くなると売却者の
余裕がある(借入金の負担がほとんどないし赤字
立場をみるとかわいそう。だいたい,小作料の20
決算をしたことがない)こともある。A法人も,
「安
年分である。経営収支からみると支払可能額から
すぎる社会的な問題となる」といっているが,売
試算すると,50~60万円が妥当な水準である。し
り手が結婚資金,離農を理由としており,資金需
かし,50万円では売却者がかわいそうである。今
要が切迫していないことも反映している。
後は出来れば購入したくないので,借地中心で拡
とはいえ,両法人とも小作料率は,A法人が償
水田農業の構造変動と農地市場,農地売買事由,価格形成の変化
還金込みで3.8%,B法人が3.8~4.3%であり,JA
77
の在り方が問われている。
アグリマイティ資金2.5~2.8%よりも高く,経営
(注7) 島本富夫「農地移動の最近の変化と農地保有合理化
環境の激変がないかぎり,農地純収益での返還が
(売買)事業」『土地と農業』No.41全国農地保有合
可能といえよう。
理化協会2011年
三和町の農地価格は,12年以降,売買実態調査
(注8) 細山隆夫「農地賃貸借進展の地域差と大規模借地経
でも公社買入価格でも横ばいないし徐々に低下傾
営の展開」『総合農業研究義書No52』中央農業研究
向にあり,現在では10a当たり,45~50万円となっ
センター2004年
ている。この水準は小作料率からみると妥当な水
準であるが,農地購入にやや積極的であったB法
4.30ha以上への農地集積と農地市場の変
人でさえも,農地購入には慎重になるという認識
化―農地価格・小作料下落―青森県五
に変化している。B法人は,今後,A法人やB法
所川原市の事例より―
人のような少数の農地購入者でさえも,購入に慎
(1)青森県の農業構造の変化と農地市場
重になった場合にはが企業が農地を購入すること
① 10~30ha以上層の大幅な増加
を心配している。その一つの要因は水田農業の見
青森県は,農地価格も小作料も全国的な中では,
通しの悪化であり,そのため,農地価格の下落傾
下落率が高い県であり,水田価格は都府県のなか
向が続いていることである。さらに,農地価格下
では最低水準であり,北海道の価格水準に近づい
落により,土地改良の実施においても障害となり
ている。その一方で,5ha以上とくに10ha以上
つつある。というのは,土地改良にともなう余り
の経営体が大幅に増加し,農地集積が急速に進展
地や離農者の農地の買い手不足が現実化している
している。
からである。
青森県における総農家数は平成17年の61,587戸
2000年 以 降 の 急 速 な 農 業 構 造 変 動 と 少 数 の
から22年の54,210戸へ,7,377戸,12.0%も減少し
10ha以上とくに30ha以上への農地集積によって,
た。そのうち,販売農家数は43,314戸から50,790
農地の借り手,買い手が限定され,農地市場は借
戸へ,7,476戸,14.7%減少した。一方,自給的農
り手,買い手市場に変化した。その結果,小作料,
家数は,10,797戸から10,896戸へ,99戸,0.9%微
農地価格は低下し,低地価・低地代の中,農地所
増し,土地持ち非農家数は,24,761戸から28,236
有のもつ資産的意味が希薄化し,農地管理,所有
戸へ,3,475戸,14.0%と大幅に増加した。
表4―1 経営耕地面積規模別農業経営体と販売農家数の推移
年
農業経営体
販売農家数
17年
22年
増減数
22-17年
増減率(%)
22-17年
17年
17年
22年
増減数
22-17年
増減率(%)
22-17年
17年
5ha以下
10ha以上
5~10ha
単位:戸
48,177
40,214
2,946
3,027
1,143
1,426
-7,963
81
283
209
44
30
-7,599
-16.5
2.7
24.8
20.9
53.0
49.2
-14.5
46,861
39,112
2,919
2,992
1,010
1,210
942
1,120
58
75
10
15
50,790
43,314
-7,749
73
200
178
17
5
-7,476
-16.5
2.5
19.8
18.9
29.3
50.0
出所:17年,22年農林業センサス結果
30~50ha
83
127
50ha以上
61
91
計
10~30ha
999
1,208
52,266
44,667
-14.7
78
販 売 農 家 の 経 営 耕 地 面 積 は,107,905haか ら
以上層は,1,010戸から1,210戸へ,200戸で19.8%
102,114haへ,5,791ha,5.4%を減少し,自給的農
と大幅に増加した。そのうち,10~30ha層では
家の経営耕地面積も,0.5%の微減となっている
18.9%増,30~50ha層では29.3%,50ha以上層で
一方,青森県の耕作放棄地面積は,14,590ha
は50.0%と大幅な増である。
から15,212haへ,622ha,4.3%の増で,全国平均
青森県の借地面積は17年の18,261haから22年の
より1.7ポイントも上回っている。そのうち,農
20,867haへ,2,606ha(14.3%)増加しており,また,
家 が 所 有 す る 耕 作 放 棄 地 の 面 積 は7,981haか ら
借地率も16.6%から20.0%へ,3.4ポイントの増加
7,436haへ,545ha(6.8%)減少する一方,土地持
である。これは東北地域の借地率20.8%と同一水
ち 非 農 家 で は,6,609haか ら7,776haへ,1,167ha,
準にある。
17.7%と大幅に増加した。
総農家数を減少する中で,(表4―2),法人化
さらに,経営耕地面積規模別経営体数の推移(表
している経営体数は422経営体で,17年の333経営
4―1)をみると,5ha以下層は,48,177戸から
体に比べ26.7%増加した。
40,214戸へ,7,963戸で16.5%を減少した。一方,
そのうち,株式会社が200経営体で,17年の150
5~10ha層は,2,946戸から3,027戸へ,81戸で2.7%
経営体より50経営体で33.3%増,農事組合法人が
の微増であり,10ha以上層は,1,143戸から1,426
19経営体(31.1%)の増で80経営体である。
戸へ,283戸で24.8%と大幅に増加した。そのうち,
また,17年から22年にかけて,農業経営体に
10~30ha層では20.9%増,30~50ha層では53.0%,
お け る 経 営 耕 地 面 積 は116,111haか ら115,716ha
50ha以上層では49.2%を急激に増加した。このよ
へ,0.3%の微減である。そのうち,総農家にお
うに,10ha以上層の経営体が大幅に増加してい
ける経営耕地面積は,5.3%を減少する一方,組
ることが,青森県の特徴である。
織経営体では,6,310haから11,716haへ,5,406ha,
ところで,経営耕地面積規模別販売農家数の
85.7%と大幅に上昇した。
推移をみると,5ha以下層では,46,861戸から
総 農 家 の 経 営 耕 地 シ ェ ア は,94.6 % か ら,
39,112戸 へ,7,749戸 で16.5 % を 減 少 し て い る 一
89.9%へ,4.7ポイントを減少する一方,5ha以上
方,5~10ha層では,2,919戸から2,992戸へ,73
の農家における面積は40,355haで総面積の34.8%
戸で2.5%の微増にとどまっている。しかし,10ha
を占めている。東北のそれ(27.4%)を比べると,
表4―2 法人化している経営体の推移
農事組合法人
会社
各種団体
単位:経営体,%
その他の法人
合計
17年
61
150
117
5
22年
80
200
128
14
422
31.1
33.3
9.4
180.0
26.7
増加率
333
出所:表4―1に同じ
表4―3 農家および組織経営体における経営耕地面積の推移
総農家
17年
22年
増減率
構成比
17年
22年
109,801
104,000
-5.3
うち5ha
以上農家
-
40,355
-
94.6
89.9
-
34.8
出所:表4―1に同じ
うち10ha 組織経営体
以上農家
-
6,310
20,368
11,716
-
85.7
-
17.6
5.4
10.1
単位:ha,%
農業経
営体の
うち5ha以上 10ha以上
総面積
116,111
43,917
24,435
115,716
53,740
33,510
-0.3
22.4
37.1
100.0
100.0
37.8
46.4
21.0
29.0
30ha以上
9,495
15,163
59.7
8.2
13.1
水田農業の構造変動と農地市場,農地売買事由,価格形成の変化
79
7.4ポイントも上回っており,また,10ha以上層
へ,13,530戸,14.9ポイントの減少である。その
は17.6%も占めている。しかも,組織経営体にお
うち,
「農業に従事している後継者」は26,469戸(販
ける面積シェアも,5.4%から10.1%と倍増した。
売農家の44.1%)から16,712戸(32.9%)へ,9,757
農業経営体における経営耕地面積のうち,5
戸,11.2ポイントの大幅な減少である。一方,
「同
ha以上の経営体による集積面積は,43,917haから
居農業後継者がいない」は24,413戸(40.7%)か
53,740haへ,9,823ha,22.4%の増であり,さらに,
ら28,737戸(56.5 %) へ,4,324戸,15.6ポ イ ン ト
10ha以上が37.1%,30ha以上が59.7%の大幅増で
の増加である。
ある。
さらに,「同居農業後継者がいる」は,17年の
さらに,経営耕地面積シェアは,5ha以上が
22,052戸から22年の18,596戸へ減少し,販売農家
46.4%,10ha以上が29.0%,30ha以上が13.1%で
全体に占める割合は,42.9%に低下し,後継者問
あり,17年に比べると,8.6ポイント,7ポイン
題はさらに深刻化している。
ト,4.9ポイントと大幅に増加した。以上のように,
青森県では,5ha以上の経営体に約半分の農地
③ 農地流動化と小作料,農地価格
が集積しており,さらに10haさらには30ha以上
青森県における2010年の農地流動化面積は,
層への経営耕地の集積が急速に進展していること
表 4 ― 5 に 示 す よ う に3,454haで,17年 と 比 べ,
に特徴がある。
430ha,14.2%の増加である。そのうち,所有権
移転は,17年から22年までの間,1,000ha前後で
② 後継者不足の深刻化
推移している。一方,賃借権移転では,21年を除
急速な構造変動の背後には,農業労働力の高
くと2,000ha台で推移している。
齢化の進展と後継者不足の深刻化がある。まず,
また,農地流動化面積に占める賃貸借権の割合,
後継者の状況をみると(表4―4)12年から17
22年では71.0%であり,17年(66.3%)に比べ4.7
年にかけて,「同居農業後継者がいる」農家は,
ポイントを高くなっている。一方,所有権移転は
35,583戸(販売農家の59.3%)から22,053戸(43.4%)
と,22年では28.9%であり,17年の33.7%と比べ,
表4―4 青森県における後継者の状況(販売農家)
同居農業後継者がいる
年
農業に従事して
いる
単位:戸,%
同居農業後継者がいない
農業に従事して
いない
合計
他出農業後継者が 他出農業後継者が
いる
いない
12年
26,469(44.1)
9,114(15.2)
6,257(10.4)
18,156(30.3)
59,996
17年
16,712(32.9)
5,341(10.5)
3,629(7.1)
25,108(49.4)
50,790
18,596(42.9)
5,900(13.6)
18,818(43.4)
43,314
22年
( ):構成比
出所:表4―1に同じ
表4―5 青森県の農地流動化面積と農地権利移転面積の推移
年次
農地流動化面積①
17年
18年
19年
20年
21年
単位:ha,%
22-17 17年
3,454
14.2
22年
3,024
3,863
3,681
3,410
所有権移転
1,020
1,045
1,197
1,176
830
1,000
賃借権移転
2,004
2,818
2,485
2,235
1,388
2,454
22.5
159,200
158,500
158,100
157,700
157,200
156,800
-1.5
1.9
2.4
2.3
2.2
1.4
2.2
-
耕地面積②
農地流動化率①/②
出所:土地管理情報収集分析調査、農地の権利移動・借賃等の調査
2,218
-2.0
80
表4―6 受け手の経営規模階層別面積
年
17年
18年
19年
20年
21年
22年
構成比
17年
22年
経営規模階層(個人・農業生産法人)
3ha以下
3~5ha
5ha以上
852
430
1,469
798
560
2,161
829
547
1,932
618
464
2,001
580
327
1,059
746
434
1,935
28.3
22.4
14.3
13.1
48.8
58.3
単位:ha
農業生産法人
を除く法人
261
261
262
192
160
202
総移動面積
8.7
6.1
3,013
3,787
3,571
3,236
2,127
3,318
100.0
100.0
出所:土地管理情報収集分析調査,農地の権利移動・借賃等の調査
注:「農業生産法人を除く法人」とは,農地保有合理化法人等による権利移動の数値。「総移
動面積」とは,所有権耕作地(自作地)有償所有権移転面積(2009年)までは自作地交
換を除く)と賃貸借の設定面積の合計。
4.8ポイントを減少したが,まだ3割弱を占めて
いた。
おり,売買による農地移転が東北や他の都府県に
比べて高いのが特徴である。
借り手の経営規模をみると(表4―6),2005
年では,3ha以下層が852ha(全体の28.3%),5
(2)五所川原市における構造変動と農地市場
① 5ha未満の離農と5ha以上とくに10ha以
上の大幅増と農地集積
ha以上層は,1,469ha(48.8%)であったが,2010
五所川原市は,17年,旧五所川原市,北津軽郡
年では,3ha未満が746ha(22.4%),5ha以上が
金木町,市浦村3市町村が合併した。市の面積は
1,935ha(58.3%)である。以上のように5ha以上
約4万ha,耕地面積は9,750ha,うち水田は7,400ha
の大規模層と農業生産法人を除く法人への農地集
で,耕地面積の8割は水田である。20年の米の産
積シェアが高まる傾向にある。
出額は65億円で,農業産出額の54%を占め,果実
青森県の小作料(水田の賃借料)は20年が11
は33億円で,主にリンゴである。
年に比べて32.2%の大幅な低下であり,21年の
総農家数は17年の3,404戸から22年の2,904戸へ,
16,774円 か ら23年15,606円 へ,1,168円( ▲7.0 %)
500戸(14.7%)の減少であり,県の12%減より2.7
の下落である。22年の10a当たりの小作料の分布
ポイント高くなっている。その中で,販売農家数
をみると,1~2万円台が最も多く45.1%を占め
は2,894戸から2,410戸へ,484戸で16.7%を減少し,
ており,次いで2~3万円33.8%,5千~1万円
自給的農家数は510戸から494戸へ,16戸で3.1%
8.4%の順となっている。
の微減となっている。一方,土地持ち非農家は,
18年と22年とを比較すると,5千円未満を占め
2,004戸から2,119戸へ,115戸で5.7%を増加した。
る割合は1.8%から3.9%へ倍となり,1~2万円
17年では,旧五所川原市と金木町,市浦村の総
台は31.6%から45.1%へ,13.5ポイントを増加し
農家の経営耕地面積は,7,227haで,合併後の22
た。とくに,2~3万円台は,18年の39.8%から
年では7,028haへ,199haで2.8%を減少した。また,
32.9%へ,6.9ポイント低下した。
販売農家の経営耕地面積は,7,140haから7,122ha
一方,農地価格の低落率は36.4%と小作料の下
へ,18ha,0.3%の微減であり,自給的農家は,
落率に比べ,4.2ポイント高くなっている。なお,
87haから85haへ,2ha,2.3%の減となっている。
全国的にみると農地価格の下落率が小作料の下落
次いで,経営耕地規模別の推移(図4―1)を
率より高い県の一つである。そして,22年は,水
みると,17年から22年にかけて,3ha以下層は,
田価格が51万円まで低下し,北海道の水準に近づ
2,218戸から1,706戸へ,512戸,23.1%の減,3~
水田農業の構造変動と農地市場,農地売買事由,価格形成の変化
表4―7 農家数及び経営耕地面積の推移
販売農家
年
戸数
2,894
2,410
-16.7
17年
22年
増減率
単位:ha,%
自給的農家
面積
7,140
7,122
-0.3
戸数
510
494
-3.1
81
総農家
面積
87
85
-2.3
出所:表4―1に同じ
注:17年では,旧五所川原市と合併前の金木町,市浦村の合計値である。
戸数
3,404
2,904
-14.7
面積
7,227
7,028
-2.8
図4―1 販売農家における経営耕地面積規模別戸数の推移
平成17年
平成22年
出所:表4―1に同じ
表4―8 農家および組織経営体における経営耕地面積の推移
総農家
17年
22年
増減率
構成比
17年
22年
7,227
7,208
-0.3
うち5ha
以上農家
-
3,435
-
93.0
88.3
-
42.1
うち10ha 組織経営体
以上農家
-
540
1,854
955
-
76.9
-
22.7
7.0
11.7
単位:ha,%
農業経
営体の
うち5ha以上 10ha以上
総面積
7,767
-
-
8,163
4,466
2,870
5.1
-
-
100.0
100.0
-
54.7
30ha以上
-
1,142
-
-
35.2
-
14.0
出所:表4―1に同じ
5ha層は,389戸から354戸へ,35戸,9.0%の減
組 織 経 営 体 で は,540haか ら955haへ,415ha,
である。一方,5~10ha層は,209戸から238戸へ,
76.9%の大幅な増となった。
29戸,13.9%の増,10ha以上層は,82戸から114
5ha以上の経営体が経営耕地面積に占める割
戸へ32戸,39%の増であり,県平均(19.8%)と
合は,54.7%であり,県のそれ(46.4%)を8.3ポ
比べ,19.2ポイントを上回っている。3ha未満層
イントも上回っている。また,組織経営体の面積
の離農が急速に進展する一方,とくに,10ha以
シェアは,17年の7.0%から22年の11.7%と4.7ポ
上層の増加が著しい。
イントを増加した。
22年では,法人化している経営体数は22経営体
さらに,10ha以上,30ha以上の経営体が占め
で,17年の18経営体に比べ4経営体,22.2%を増
るシェアは,それぞれ,35.2%,14.0%であり,
加した。
県の平均(29.0%,13.1%)に比べ,それぞれ6.2
農家および組織経営体における農地面積の推移
ポイント,0.9ポイントも上回っている。
(表4―8)をみると,17年から22年にかけて,
5ha以上農家の経営耕地面積シェアは,3,435ha
総農家の経営耕地面積は,0.3%を微減する一方,
で総面積の42.1%を占めており,県のそれ(34.8%)
82
より7.3ポイント,東北の平均の27.4%を比べると,
戸で48.8%を激減した。そのうち,「農業に従事
14.7ポイントも上回っている。また,10ha以上層
している後継者」は849戸から464戸へ,385戸で
は22.7%も占めており,県の17.6%より5.1ポイン
45.3%を減少し,「農業に従事していない後継者」
トも上回っている。
は398戸から174戸へ,224戸で56.3%の大幅減で
以上のように,5ha未満の離農・規模縮小が
ある。一方,「同居農業後継者がいない」は1,189
急速に進展するが,5ha以上の経営体(農家及
戸から1,363戸へ,174戸で14.6%を増加した。逆に,
び組織経営体)とくに10ha,30ha以上層への農
「他出後継者がいない」のは903戸から1,246戸へ,
地が集積か着実に進展し,そのことが,経営耕地
343戸で38.0%を増加した。以上のように,農業
の減少に歯止めをかけている。
労働力の高齢化と後継者問題が深刻化している。
17年から22年にかけての借地面積は,1,391ha
17年から22年にかけて,小規模農家の離農と5
から1,652haへ,261ha(18.8%)増加し,借地率
ha以上とくに10ha以上層および組織経営体が増
も19.2%から23.5%へ,4.3ポイントの増加である。
加するという全国的にみても顕著な構造変動が生
ちなみに,22年では,県平均の20.0%より3.5ポイ
じている。さらに,農業労働力の高齢化と後継者
ント,東北平均の20.8%より2.7ポイントも上回っ
不足が深刻化しており,今後,さらなる構造変動
ている。
が生じることが予測される。
② 農業就業人口の高齢化と後継者不足の深刻化
③ 農地の賃貸借と売買の推移
五所川原市における農業就業人口の平均年齢は
五所川原市では,構造変動が生じているが,借
17年の54.4歳から22年には56.3歳へ,1.9歳を高く
地割合が必ずしも高くないのがもう一つの特徴で
なった。そのうち,男性では,53.4歳から55.6歳へ,
ある。まず,利用権設定中の面積は1,528.7haで,
2.2歳を,女性では55.5歳から57.1歳へ,1.6歳を高
利用権設定率は14.8%にとどまっている。
くなっている。
17年から23年にかけて,農地移動の推移をみる
年齢別でみると,農業就業人口が増加したのは,
と,利用権設定件数は,17年が226件であったが,
75歳 以 上 層 の み で770人 か ら918人 へ,148人 で
20年の286件に一時的に低下したが,400件前後
19.2%の大幅な増加であり,他の年齢層は,10%
で推移しており,面積も17年が204.0ha,20年の
以上の減である。その結果,65歳以上層の割合は
258haにとどまったが,330~400haで推移してい
47.2%から48.6%へ,1.4ポイントが増加し,とく
る。一方,所有権移転では,件数は17年の155件
に,75歳以上層では14.3%から20.2%へ,5.9ポイ
から19年以降,200件以上で推移し,面積も,17
ントと大幅に上昇した。
年の96.9haであったが,120~150haで推移してい
ま た,12年 か ら17年 に か け て,「 同 居 農 業 後
る。
継者がいる」農家は,1,247戸から639戸へ,608
また,23年における権利移動は,件数では賃借
表4―9 五所川原市における年齢別農業就業人口(販売農家)の推移
単位:人,%
17年
22年
増減率
構成比
17年
22年
29歳以下
30~49歳
50~59歳
60~64歳
358
250
-30.2
701
535
-23.7
1,047
1,071
2.3
656
573
-12.7
6.7
5.5
13.1
11.8
19.5
23.6
12.2
12.6
出所:表4―1に同じ
65歳以上
75歳以上
2,534
770
2,206
918
-12.9
19.2
47.2
48.6
14.3
20.2
合計
5,370
4,535
-15.5
100.0
100.0
水田農業の構造変動と農地市場,農地売買事由,価格形成の変化
表4―10 総権利移動の推移
年
17年
18年
19年
20年
21年
22年
23年
所有権
件数
155
193
287
206
224
240
273
(37.6)
面積
96.9
129.9
181
132.6
125.3
155.2
120.5
(24.4)
利用権
件数
226
438
342
286
382
403
453
(62.4)
面積
204.1
405.5
278.1
258.4
333.8
344.7
374.1
(75.6)
83
単位:件,ha,%
総件数
総面積
381
631
629
492
606
643
726
(100.0)
301
535.4
459.1
391
459.1
499.9
494.6
(100.0)
( ):構成比
出所:五所川原市農業委員会資料 17~23年
注:総権利移動は,農地法第3条許可によるもの(有償,無償所有権移転,賃借権設定,使用賃
借権設定),利用集積計画公告によるもの(所有権移転,賃借権設定,使用貸借権設定)の
合計である。
権が60.2%,所有権移転が37.6%である。面積では,
は別々であるが,1つのグループとして経営して
賃借権が70.0%,所有権移転が24.4%となってい
いる)である。経営耕地規模は,10~20haが1戸,
る。17年以降,賃貸借と所有権移転がともに増加
30~40haが1戸,40ha以上が5戸,69haの法人
しており,所有権移転の割合が高いことが特徴と
が1つである。
なっている(表4―10)。
5年前と比べた経営規模の拡大面積は,10ha
と こ ろ で,23年 の 認 定 農 業 者 数 は522経 営 体
以 下 は 1 件 の み で あ り,10~20ha増 は 4 件 で,
で あ り,17年 の279経 営 体 に 比 べ,243経 営 体,
28ha,29haの大幅な増加も2件である。しかも,
87.1%の大幅な増であり,認定農業者によって集
拡大した面積が10ha以下の場合には,5年間で
積された農地も,17年より83.8%大幅に増加した。
7.6haの増であり,現経営面積の4割を占めてい
なお,認定農業者の借入面積は,23年で,1,303.9ha
る。また,10~20ha増の4件の場合には,増加
であり,17年に比べ,79%も増加した。
面積は,経営面積の17~30%を占めている。
さらに,O経営は,毎年5~6haペースで増
(3)五所川原市における規模拡大経営と農地集
積の特徴
① 30ha以上経営体(調査経営体)規模拡大
の実態と規模拡大意向
加しており,経営面積は5年前の16haから44ha
へ28ha(63.6%)増である。W経営は,9haから
38haへ29ha(76.3%)の増である。以上のように,
農業センサス結果で大幅に増加した30ha以上層
17年センサス結果で大幅に増加した10ha以上,
は,この5年間での拡大は10~29ha増という急
とくに30ha以上の経営体について,実態調査に
スピードであり,経営耕地規模が2倍,3倍増と
より経営の特徴と農地集積の状況を分析する。調
なった例もある。
査対象となったのは,経営面積が30ha以上であ
次いで,農地集積の方法は,借入が中心である
り,販売金額(平成23年)も3,000万円以上の経
が,借入面積増が占める面積割合も,50%以下1
営体であり,五所川原市での農地集積を担ってい
件,50~70%,70~90%,90%以上はそれぞれ2
る経営の典型である。
件ずつである。90%以上の2例を除くと,購入も
規模拡大経営(7経営のうち,個人経営は5戸
農地集積の手段の一つになっている。一方,購入
で,法人経営Uは1戸1法人,M経営では,トマ
による拡大シェアが30%を超えている例が3/7
トは法人化しており,米は別の経営で法人と個人
である。U法人は,購入と借入による面積増加の
経営の農作業に関しては一緒にやっている。会計
割合は半々であり,Sは,購入による増が55.8%
84
を占めている。
由は離農が4,農地を借り手が返還したためが1
今後の経営規模拡大目標面積は100haが3件で
である。小作料は,すべて10a当たり29,500円で
あり,70~80haが1件,「できる範囲まで」が1
あり,うち,土地改良費等が19,973円である。小
件であり,残りも,現在の経営規模の2~3倍と
作料水準の決定に際して,地主の手取りを1万円
なっている。
保証することを配慮している。というのは,地主
そして,拡大を実現するために,W,S,U法
手取りが1万円以下になると,農地を売却する可
人は,雇用を増やす。また,Mは,50haの経営
能性が高くなるので,貸借と経営の安定のために
設備をしているので,それまで拡大を図っていく。
小作料水準を維持することとしている。
一方,Oでは後継者(長男)がいるので,目標面
O:この5年間,毎年500~600aのペースで拡
積は決めてないが,水稲の作付面積は目を届く範
大 し て き た が,20年 に は,10~11ha増 と な り,
囲まで,育苗ハウスの限界も配慮しつつ,直売で
経営面積は55haになる。貸し手の事由は,主に
きる範囲まで拡大を図っていく考えである。H
高齢化・病気による労働力不足である。また,小
では,水稲の経営面積は50haまで拡大し,また,
作料は,8年前から,10a当たり15,000円であり,
3~4人の友人と組み,作業受託作業組合を立ち
10a当たり1,000円の水利費が耕作者負担である。
上げ,100haまで規模拡大する構想をもっている。
S:16年,相手の高齢化の事由で83aを借り入れ,
2005年から10年までの間に急速に農地を集積した
18年には,同じく高齢化の事由で107aを借り入れ
30ha以上層はさらなる拡大目標をもち,その実
た。借入地とは別に,20年,全作業受託が405aも
現が可能と考えている。
存在している。借入より全作業受託が価格変動と
いうリスクがないメリットがある。小作料は10a
② 小作料水準と賃借の実態
当たり33,000円で土地改良費は12,000円で地主持
五所川原市における「小作料」は,21年から23
ちであり,地主手取りは21,000円である。
年にかけて,10a当たり26,300円から,24,400円へ,
I:17年が70a,18年が170a,19年が120a,年
1,900円(▲7.2%)を低下したが,青森県の平均
次不明が300aの合計660aを5年間で新たに借り入
よりも高くなっている。以下,農地賃貸借の主な
れた。小作料は10a当たり1俵半である(土地改
動きを整理する。
良費は耕作者負担)及び土地改良費3,000円は耕
W:16年が200a,17年が700a(地主3人)18年
作者負担と地代は飯米のみである。
が200a,19年が300a,20年が70aと毎年,賃貸借
以上と表4―12のように,いずれの経営体も,
によって200~700aを拡大している。貸し手の事
毎年のように,賃貸借を通じて規模拡大を図って
表4―11 5年間で農地増減状況と規模拡大意向
No.
U法人
経営面積
(ha)
69.5
5年間で面積の増減(増
購入面積
借入面積(借入面積を
減面積を占める経営面 (購入面積を占める増
占める増加面積の割
積割合)(ha,%) 加面積の割合)
(ha,%)
合)(ha,%)
12.15(17.5)
6.0(49.4)
6.15(50.1)
目標面積(ha)
100
個人
S
46.62
13.46(28.9)
7.51(55.8)
O
44.0
28.0(63.6)
0.6(2.1)
M
42.0
10.14(24.1)
2.6(25.6)
7.54(74.4)
50
H
40.736
13.3(32.7)
0.8(6.0)
12.5(94.0)
100
W
38.0
28.0(73.7)
7.0(25.0)
21.0(75.0)
100
I
18.86
8.8(46.7)
2.2(25.0)
6.60(75.0)
29
注:平成24年2月28,29日五所川原市におけるヒアリング調査により作成
5.95(44.2)
70~80
27.4(97.9) できる範囲まで
水田農業の構造変動と農地市場,農地売買事由,価格形成の変化
85
いる。貸し手の事由は,高齢化,労力不足(病気),
円程度に保障し,売却を防ぐことを考慮する例も
離農による規模縮小,離農のためである。さら
生まれている。
に,他の農家が借り入れていた返還した農地の引
き受けという例も生じている。貸付単位は1~2
③ 農地価格の動向と農地購入の実態
ha未満が大部分であり,一方,3haを超える担
農 地 価 格 は, 青 森 県 で は,07年 の10a当 た り
い手層が後継者不足等により貸付者となっている
82.7万 円 か ら18年 の51.1万 円 へ,31.6万 円( -
例も少数であるが生じている。
38.2%)の大幅な下落である。しかし,北五地域
また,小作料は,1.5~3.3万円分布しているが,
に属する五所川原市では82.5万円から47.4万円へ,
1.5~2万円の場合は水利費を耕作者が負担して
35.1万円(-42.5%)へさらに大きく下落している。
おり,2.5~3.3万円の場合には1.2~2.9万円の水利
農業委員会資料により農地価格の分布は,以下
費を地主が負担している。したがって,小作料の
の通りである。10万円未満や10~20万円台の売却
地主手取りは1~2万円の水準となっている。地
事例が14~24例がある。その価格水準に売買は,
主手取りの差は,地域による収量差(1俵前後)
調査事例によると,耕作放棄地や他出による売却
と収量の安定性によるものである。さらに,小作
である。また,農業委員会の資料によると,20万
料の低下にともない地主手取りを1万円~15,000
円未満の例は,売却面積30a未満が大部分となっ
表4―12 賃借による規模拡大の実態
No.
W
O
S
H
M
I
移動面積
(a)
①16年:200
②17年:700(3人から)
③18年:200
④19年:300
⑤20年:400
⑥20年:250
⑦20年:50
16~19年,毎年5~6haで増加
している(5,6人から)
20年10~11ha(7,8人から)
17年:83
19年:107
20年:405
16~20年,毎年2~3haで増加
している(3,4人から)
16年:180
17年:80
17年:70
②18年:170
19年:120
年次不明:300
U法人 19年:140
19年:75
20年:400
出所:実態調査により集計
事由
離農
離農
その他
離農
離農
不明
不明
水利費(19973円)は地主負担
高齢化,病気
水利費1000円耕作者負担
高齢化
高齢化
作業受託
水利費12000円は地主負担
水利費は地主負担-
高齢化
病気
水利費は地主負担
高齢化
高齢化,出稼ぎ
高齢化,後継者不足
不明
水利費は耕作者負担
労力不足
労力不足
労力不足
水利費は地主負担
小作料
(円/10a)
29,500
29,500
29,500
29,500
29,500
29,500
29,500
29,500
地主手取
9927
15,000
33,000
33,000
33,000
地主手取
21000円
3俵
33,000
33,000
1俵半
1俵半
1俵
3俵
(3000円)
2.5俵
2.5俵
2.5俵
86
表4―13 農地価格の推移
北五地域
青森県
7年
82.5
82.7
13年
60.7
61.7
18年
47.4
51.1
7年→18年
-35.1
-31.6
出所:青森県農業会議 平成18年度田畑売買価格などに関する調査結果(概要)
表4―14 五所川原の農地価格の分布
17 年
18 年
19 年
10 万円未満
4(5
8(13
2(4
10 万~ 20 万円 20 万~ 30 万円 30 ~ 35 万円
16(20
21(26
13(16
16(27
12(20
9(15
12(25
15(31
7(15
35 ~ 40 万円
9(11
3(5
4(8
40 ~ 45 万円
9(11
4(7
6(13
45 ~ 50 万円
6(8
2(3
1(2
50 万円以上
2(3
6(10
1(2
農業委員会資料より集計
ている。耕作放棄地や小規模圃場等の条件の悪い
購入した例が多い。①15年,相手が高齢化し,後
水田や他出等の財産整理の場合には,低価格での
継者がいないため,160aを10a当たり30万円で購
売買となっている。
入した。②16年,高齢者より,162aを10a当たり
3年間の推移をみると,45~50万円の件数は減
50万円で,③17年,借りている農地40aを購入,
少し,20~35万円の割合が全体の46%を占め,通
④17年,相手が病気のため,70aを購入した。さ
常の売買価格は20~35万円の水準となっている。
らに,⑤18年,2名の高齢者より借りていた農地
次に,調査事例に基づいて,農地売買の動きを
55aを購入した。⑥19年,相手が高齢化で離農,
整理する。
負債整理のため,234aを10a当たり30万円で購入
W:①15~16年,離農した相手から150a(集落内)
した。⑦20年,賃借していた隣の農地30aを10当
を購入,同年,借入地であった農地250a(資産整
たり50万円で購入した。購入金額として,農地の
理)を購入した。購入金額は10a当たり40万円で
条件によるが30~50万円(10a当たり)の範囲で
ある。②また,17年,集落内にある農地300aを購
決めている。資金調達は購入金額が小さい場合に
入した。相手は75歳の高齢者で離農にともなう資
は,現金であるが,大きくなった場合には,スー
産整理のため,春の時点で秋に買ってくれって依
パーLを利用している。
頼されていた。単価は10a当たり35万円であった
H:①18年,相手から依頼されて,貸借してい
が,購入単価は高いと評価している。例えば,地
た農地50aをそのまま購入した。金額は10a当たり
代は1万円とすれば,20年で償却できるが,借入
30~35万円である。②19年と20年には,相手が高
と比べ,35万円だとコストが高くなる。したがっ
齢化のため,集落内にある農地50aと,30aを購入
て,20万円が妥当であると考えている。
した。価格は30~35万円である。
O:19年 相続などが面倒になる前に売却した
農地購入について,相手の希望によるものであ
いとの理由で,高齢者で知り合いの学校の恩師か
り,自分から購入の交渉はしない。10年から毎年
ら頼まれて,60aを購入した。購入価格は,10a当
農地を購入をしているが,1年間に購入する面積
たり70万円の現金払いである。恩師の先生だった
は50~100aを限度と決めている。また,価格は
ので,相場より高めの価格で購入している。農地
10a当たり25~30万であれば,妥当であると考え
価格は,10年前までは10a当たり100万円であった
ている。
が,現在では30~50万円が相場である。今後は,
M:①14年,相手は70歳の高齢者で離農のため,
50万円位あれば,買ってもよいと考えている。
集落外農地190aを公社経由で10a当たり(以下同)
S:農地購入は,15から20年の間では,7件で
50万円と高めの金額で購入した。②15年,170a(集
あり,ほとんど集落内にある農地である。賃借ま
落外)を,相手が離農(80歳の高齢者),45万円
たは作業受託していた農地を相手の依頼によって
で購入した。③16年,借入していた農地40a(集
水田農業の構造変動と農地市場,農地売買事由,価格形成の変化
87
落外)を相手の希望により45万円で買い入れた。
U法人:①17年,150a(集落外),②18年,250a(集
④17年,借入していた農地180a(集落内)を相手
落外)を購入した。2件とも相手が体調不良のた
の死亡により45万円で買い入れた。⑤18年,集落
め,10a当たり40万円で公社経由である。また,
外の農地120aを45万円で購入した。相手の事由は
③19年,集落外にある農地200aを農業経営基盤強
10ha以上の経営で,資金需要のためである。⑥
化準備金で購入した。相手はハウスでトマトを栽
19年,相手が離農のため,集落内の農地54aを45
培して農家であり,労力不足と資金確保のためで
万円で購入した。この地区は冷害がないので単収
ある。農地価格は10a当たり30万円であり,売却
は1俵から1.5俵が多くとれるので,45万円の水
者が提示した価格である。
準で購入している。
調査事例の売買価格は10a当たり40~50万円が
以上の購入6件ともに,公社経由であり,資金
最も多く,11件で45.8%を占めており,次いで,
調達はスーパーL資金を利用している。
30~40万円は10件で41.7%,10万円以下は2件で
I:②17年,相手の希望で,3年間耕作放棄地
8.3%,50万円以上は1件で4.2%の順となってい
であった農地70aを購入した。金額は10a当たり
る。
8万円である。③19年は,相手が東京に他出した
年次別でみると,13年では,40万円が1件,14
ため,30aを10a当たり10万円で購入した。
年では,50万円が1件,15年では,30万円,40万円,
表4―15 農地の売買事例と価格
No.
W
購入面積(a)
①15-16年:150
②15年:250
③17年:300(2名)
O
S
19年:60
①15年:160
②16年:162
③17年:40
④17年:70
⑤18年:55(2名)
⑥19年:234(3名)
⑦20年:30
H
①18年・50 ②19年:50
③20年:30
M
①14年:190
②15年:170
③16年:40
④17年:180
⑤18年:120
⑥19年:54
I
①13年:120 ②17年:70
③18年:30
U法人 ①17年:150
②18年:250
③19年:200
調査事例をもとに集計
事由
賃借していた農地
離農
離農
市役所勤務,資産整理
相続,先生からの購入
高齢化・後継者無
価格(万円/10a)
公社40
公社40
公社35
公社35
70
30
50
高齢化・後継者無 50
賃借地の購入,資産整理
50
病気
50
高齢化
50
離農
40
負債整理
30
離農
30
高齢化
50
賃借から売買
借入農地の購入
30~35
高齢化
30~35
高齢化
30~35
70歳離農
公社50
80歳離農
公社45
賃借から売買
45
離農,貸借農地
45
10ha以上農家,資金が必要 45
離農
45
農協の負債整理
公社40
相手の希望
耕作放棄地8
東京へ他出
10
病気労力不足,高齢化
公社40
病気労力不足,高齢化
公社40
ハウストマト労力不足,資金確保 農業経営基盤強化
準備金 30
88
45万円が1件,16年では,8万円(耕作放棄地),
理が3件,資金需要が2件,その他(不明)が2
40万円,45万円,50万円,それぞれ1件ずつであ
件である。以上のように,高齢化,離農及び病気・
る。17年では,50万円が最も多く3件で,そのほ
労力不足という売り手が事実上離農することが主要
か,35万円が2件,40万円が1件,45万円が2件
な事由となっている。注目されるのは,資産整理及
である。18年では,35~40万円,45万円が各1件,
び貸付地の売却を事由とする例が多くなっているこ
50万円が2件である。19年では,30~35万円が最
とである。離農,高齢化等の事由としている例でも,
も多く5件で,10万円,45万円,70万円(恩師か
資産整理という側面が含まれている。
らの購入なので高め)が,それぞれ1件ずつであ
小作料と農地価格の低下により,農地の資産価
る。20年では,30~35万円,50万円は,それぞれ
値が薄れたため,農地を資産として所有する意識
1件ずつである。
が希薄化していることを示している。その結果,
したがって,14年から20年にかけて,売買価格
貸付地を売却したり,離農・縮小にともなって,
は30~50万円台で推移しているが,2011年以降に
貸付よりも売却を選択する例が生まれていること
なると,30万円台の比重が増加している。
を示している。
さらに,売買事由(複数)をみると,高齢化が,
したがって,今後農地売却の希望が増加すると
6件でであり,離農が6件,借入地の購入が6件,
推測されるが,購入者の確保が課題となることが
資産整理が5件,病気・労力不足が4件,負債整
予想される。
表4―16 経営状況と主要作物面積
主要な作物の面積(ha)
販売金額(平成18年度) 販売金額の増減
販売売上上位3位
(万円)
(17年比)
平成18年度
平成19年度
10,000
増加
第1位:米
水稲:27.85
水稲:30.0
U法人
第2位:大豆
大豆:31.80
大豆:41.0
第3位:小麦
小麦:6.00
トマト:160坪
個人
5,000
変化ない
第1位:米
水稲:42.0(うち)
水稲:44.0(うち)
つがるロマン:20.0
つがるロマン:23.0
S
まっしくら:5.0
まっしくら:5.0
ユキミモチ:17.0
アカリモチ:16.0
5,000
増加
第1位:米
(2009年)
水稲:44.0
第2位:トマト 水稲:22.84
牧草:12.0
第3位:牧草
牧草:11.62
トマト:50a
O
トマト:50a
小松菜:13a
小松菜:13a
みずな:3a
みずな:4a
ほうれん草:9a
ほうれん草:9a
えさ米:60a
米,大豆:3,000~5,000
増加
第1位:米
水稲:26.0
水稲:29.0
M
トマト:3,000~5,000
第2位:トマト 大豆:4.50
大豆:2.0
第3位:大豆
飼料米:7.20
飼料米:7.2
3,000~5,000
増加
第1位:米
-
水稲:43.0(うち)
H
まっしくら:28.67
つがるロマン:14.33
2,000~3,000
増加
第1位:米
水稲:20.0
水稲:21.0
W
第2位:麦
第3位:大豆
1,500~2,000
増加
第1位:米
まっしぐら:8.2
まっしぐら:9.7
第2位:リンゴ 飼料用米:2.0
飼料用米:5.0
I
小麦:2.5
小麦:2.0
リンゴ(富士):80a リンゴ(富士):80a
No.
出所:実態調査により高崎経済大学大学院生王倩が作成
水田農業の構造変動と農地市場,農地売買事由,価格形成の変化
(5)規模拡大経営の特徴―米の独自販売と経営
の複合化,多角化
89
大豆の面積が米より大きいのが,1例ある。
Oは複数の作型を組み合わせたトマト栽培と冬
① 販売金額は3,000万円以上,米の独自販売
と複合化
場の葉物野菜でハウスの周年利用を図るととも
に,特別栽培米の契約栽培などを通じて米の独自
平成17年から22年の間に急速に借り入と購入に
販売ルートを確保している。
よって10ha以上,とくに30ha以上層が農地集積
Iは米とリンゴの複合経営であり,リンゴは全
を可能とした経営的な背景はなにであろうか?以
部農協出荷で売上金は150万円であり,米の売上
下,規模拡大経営体の経営の特徴及び水田の農地
金の5分の1となっている。
集積を可能にした要因を以下検討する。経営の特
M経営では,トマト部門は法人化しており,米
徴の第一は,農産物販売金額が3,000万円超え(6
とは別の経営である。法人と個人経営の農作業は
例),U法人では,1億円となっている。しかも,
共同であり,1つのグループ経営である。法人経
昨年に比べ,米価が下落傾向にあるなかで7例中
営は,面積が130a,簡易ハウスと育苗ハウス(3
6例は販売金額を「増加」させている。戸別所得
棟)を合わせて40棟であり,トマトの作付面積は
補償等を加えた,収入合計では,Iは3,000万円,
90aで,すべて農協に出荷している。また,販売
Wは4,500万円,SとM(米と大豆)は5,000万円,
金額は3,300万円(18年)であり,米と大豆の販
OとHは6,000万円以上でであり,U法人では,
売金額3,500万円と同じ規模である。
1億3,000万円となっている。
第三の特徴は,米については,2例を除く4例
第二の特徴は,販売金額の第1位は米であるが
が独自販売,マーケティングしていることである。
以下のように複合化,多角化経営であるる。第2
Mは,米は全部農協へ出荷しているが,トマトの
位がトマト等の野菜部門が2戸,リンゴが1戸,
栽培に力点を入れ,米販売の面で省力化している
表4-17 労働力の構成と作業分担
経営主の
No.
家族構成員と担当作業
雇用
後継者
年齢(歳)
W
48
経営主:農作業全般
臨時:春作業(12人),草刈り(5人), 法人化する予定
妻:農作業補助,経理
秋作業(3人)
父:農作業全般
母:農作業補助
O
65
経営主:水稲一般作業,管理
常時:田植えなどの農作業(2人)
いる
妻:家事
(農業に従事)
長男:野菜と水稲の機械作業
長男の妻:家事
S
39
経営主:水田一般作業,経理
常時:水田一般作業,精米(妹)
決めていない
夫:農作業の管理
臨時:種まき(3人)田植え(3人)
H
64
経営主:水稲全般作業
常時:水稲作業(3人)
いる
妻:水稲全般作業
臨時:春作業(2人),秋作業(5人)
(農業に従事)
長男:水稲全般作業
長男の妻:米穀店で事務
M
58
経営主:トマト,水稲一般
臨時:育苗,田植え,稲刈り(360人) いる
妻:トマトの出荷
(農業に従事)
長男:トマト,水稲の機械作業
長男の妻:トマトの出荷
I
68
経営主:水稲一般,りんご
臨時:種まき(10人,1週間),秋収穫
いる
妻:水稲一般,りんご
(3人,1カ月)
(農業に従事)
長男:水稲一般,りんご
リンゴの摘果,袋取り,収穫(3人,1週間)
U法人
36
経営主(社長):全作業
臨時:育苗(妻),父,母
いる
弟(専務):全作業
(農業に従事)
社員1:全作業
社員2:全作業
調査結果を集計(高崎経済大学大学院生王倩と共同作成)
90
ためである。
用米である。米の販売先は,主にスーパーやホテ
労働力の面をみると,雇用等により,労働力が
ルなどである。販売単価は出荷先によって違うが,
豊富である。第一に,個人経営では,世代交代し
スーパーでは(10kg当たり,以下同)税込2,700
た直後のS経営を除くと,2世代家族が農作業に
円(60kg玄米換算で14,580円),老人ホームは2,600
従事している。同時に常時雇用者がいる経営が
円,ホテルは2,700円,また,個人のお客さんへ
4/7であり,残りは臨時雇用者を確保しており,
も50戸ほど,精米販売している。1人当たり10袋
雇用型家族経営という特徴をもっている。常時雇
(10㎏当たり)であり,1袋当たり2,700円である。
用者では弟,妹等の親族を雇用している。
聞き取り調査により,稲作の経営収支をみると,
第二に,「後継者がいる」が5/7であり,しか
18年では,米の売上は5,460万円であり,総支出(肥
も,農業に従事している。また,後継者が「決め
料・農薬,機械償却費,地代,土地改良費,以下同)
ていない」Sは39歳であり,経営主自身が後継者
は3,444万円であり,水稲部門の農業所得は2,016
である。Wは子供がいないので,法人化する予定
万円となっている。一方,全部を農協に出荷した
である。
と仮定した場合(9,500円/1俵で計算)の売上は
3,591万円であり,1,900万円前後の売上差が生じ,
② 米の独自販売と稲作経営収支
稲作所得は全体で150万円に低下し,労働費を確
青森県の米価(全農相対価格)は,最も低い水
保できない状況と推測される。また,19年では米
準にあるが,農地を集積した大規模経営体は,独
の売上は6,160万円であり,総支出は3,784万円を
自販売等を通じて,米価下落の影響を緩和し,稲
除くと,稲作所得は2,376万円となっている。一方,
作収支についても改善している。このことが,急
全部農協に出荷したと仮定した場合(11,300円/1
激な農地集積を可能とした経営的な要因である。
俵で計算)の売上は4,723万円であり,1,500万円
以下,米の販売と経営収支について,ヒアリング
前後の売上差が生じ,稲作所得は974万円となり,
調査に基づいて分析する。
労働費を充分に確保できない状況にある。
―独自販売による相対的高価格販売と経営収支
Hは,青森県米集荷組合傘下の集荷業者を兼業
の改善―
しており,H米穀店に保管場所として1万8,000
O:19年産では,米(つがるロマン等)の作付
俵を集荷する。手数料として,1俵当たり数百円
けは44ha,単収は9俵半から10俵で,総収量は
である。また,19年の収量4,000俵のうち,3分
4,000俵である。そのうち,300俵のみを農協に出
の1は加工用米であり,そのほか,1,000俵は直
荷し,1俵当たり11,300円である。2,000俵は白米
売している。出荷先は,全集連は8割,県内卸は
で販売,病院やホテルなどに販売し,販売単価
2割に出荷している。
は10kg当たり3,000円(60kg玄米換算で16,200円)
Iは米の独自販路を持つとともに,またリンゴ
である。また,県内生協(12店舗)に1,000俵を
との複合経営である。19年産では,水稲(まっし
出荷している。さらに,8人のグループで大阪の
ぐら)9.7haで,収量は540kgである。また,飼料
米屋と契約栽培で3,000~4,000俵を出荷している。
用米は5haで,収量は360kgで,販売単価は2,000
したがって,独自に販路を確保することによって,
円である。また,人件費と機械費を削減するため,
農協のみに出荷すると仮定した場合よりも,米の
飼料用米では直播きで作業している。2012年には,
販売高は1,774万円も高くなっている。
さらに,飼料用米の経営面積を7haまで拡大し
S:19年産は,水稲作付け44haで,単収は9.5
た。リンゴ(フジ)80aで,収量は400kgであり,
俵である。そのうち,つがるロマンは23ha,収
農協出荷で売上金は150万円であり,米の売上金
量125トン,まっしぐら5ha,30トンである。ア
の5分の1である。
カリモチは,16ha,86トンであり,すべて加工
3年前より,庭先販売をし,200俵,1俵当た
水田農業の構造変動と農地市場,農地売買事由,価格形成の変化
91
り14,000円で販売しており,農協に出荷するより,
は全部農協に出荷しており,売上は2,276万円で
1俵当たり2,700円を高くなっている。残りの416
あり,総支払費用が1,924万円なので,稲作農業
俵を農協に出荷している。
所得は352万円にとどまっており,労働費を確保
U法人は米の検査は自分でやることによって,
できていない状況にある。
検査手数料等が節約され,60㎏当たり1,560~2,000
19年の水稲作付面積は29haで,総収量は2,900
円の収入増につながる。米の販売では,農協へは
俵 で, 販 売 単 価 は 1 俵 当 た り10,000円 で あ る。
330俵で全体の10%のみである。それ以外は,老
10a当たりの収入は96,620円である。米は全部農
人ホームに100俵(つがるロマン),10kg当たり
協に出荷しており,売上は2,802万円であり,支
3,000円(60kg玄米換算で16,200円)で販売してい
払費用2,204万円なので,稲作農業所得は598万円
る。ネット販売を通じて,10kg当たり3,300円(60kg
にとどまっている。
玄米換算で17,820円)で販売している。
また,Wの18年の作付面積20haで総収量は1,800
18年の米売上高は3,336万円であり,総支出は
俵,販売単価は1俵当たり9,500円で,10a当たり
2,218万円であり,稲作農業所得は1,118万円であ
の収入は85,500円である。米は全部農協に出荷し
る。一方,全部農協に出荷したと仮定した場合の
ており,売上は1,710万円であり,総支出1,265万
売上は2,513万円であり,稲作所得は295万円と推
円を除くと,農業所得は446万円となっている。
計され,労働費が確保できない状況にある。
19年の作付面積21haで総収量は2,000俵,販売
19年の米売上高は4,389万円であり,総支払費
単価は1俵当たり12,500円で,10a当たりの収入
用が2,516万円なので,稲作農業所得は1,873万円
は116,850円,10a当たりの肥料・農薬は15,930円,
となっている。一方,全部農協に出荷すると仮定
機械償却費750万円,地代210万円,土地改良費な
した売上高は3,729万円となり,稲作所得は1,208
どは406.8万円である。出荷先は,地主販売の150
万円に低下する。
俵(玄米:12,000円/俵)を除いて,ほぼ全量農
一方,Mの18年の水稲作付面積は26haで,総
協に出荷している。売上は2,454万円であり,支
収量は2,600俵で,販売単価は1俵当たり8,100円
払費用が1,367万円なので,稲作農業所得は1,087
である。10a当たりの収入は87,530円,10a当たり
万円となっている。
費用をみると,肥料・農薬が16,076円,機械償却
独自の販路が持っているO,S,U法人は,労
費が18,576円,地代が28,565円,土地改良費など
働費を含めた稲作所得が充分に確保されており,
11,226円で,小計74,393円である。米(まっしぐら)
米を独自で販売する場合と農協のみに出荷すると
表4―18 2011年米の独自販売とそのメリット
両方による売上①
No.
独自販売による売上
出荷先,出荷量
売上
O
病院,ホテル:2,000
5,994
生協:1,000
米屋:3,000~4,000
S
スーパー,ホテル,個人販売:2,583
6,160
H
直売:1,000
不明
I
庭先販売:200
280
U法人
老人ホーム:100
4,016
ネット販売など
M
W
-
地主販売:150
出所:ヒアリング調査より作成
注:農協出荷金額:11,300円/1俵
-
180
農協
出荷量
売上
300
339
単位:俵,万円
農協のみ販売した
金額差
と仮定した売上②
(①-②)
出荷量
売上
4,000
4,520
1,774
-
-
416
330
-
-
470
373
4,180
-
616
3,300
4,723
-
696
3,730
1,437
-
54
660
-
1,850
-
2,090
2,900
2,000
3,500
2,260
-
10
92
表4―19 調査農家の平成18年,19年稲作経営収支
経営体
収入
18
作付面積(a)
4,200
収量(俵)
3,780
販売単価(円/俵) 12,960
10a当たり収入
13
総収入
5,460
10a当たり肥料・
1.2
農薬
機械償却費
2.9
地代(万円)
3.0
土地改良費
1.1
小計
8.2
計
3,444
所得③(①-②)
2,016
(万円)
農協出荷と仮定した
3,591
場合の総売上④
農協出荷と仮定した
147
場合の所得⑤(④-②)
所得差③-⑤
1,869
S
U法人
M
単位:万円
支払費用
稲作収支
W
18
19
2,000
2,100
1,800
2,000
9,500 12,300
8.6
16.7
1,710
2,454
19
4,400
4,180
14,000
14
6,160
18
2,785
2,645
12,960
9
3,336
19
3,000
3,300
13,300
14.6
4,389
18
2,600
2,600
8,100
8.8
2,276
19
2,900
2,900
10,000
9.7
2,802
1.2
285
312
1.6
1.8
-
-
2.9
3.4
1.1
8.6
3,784
824
739
320
-
2,218
1,000
840
320
-
2,516
1.9
2.86
1.1
7.4
1,924
1.8
2.99
1.0
7.6
2,204
677
200
387.5
-
1264.5
750
210
406.8
-
1,367
2,376
1,118
1,873
352
598
445.5
1,087
4,723
2,513
3,729
352
598
445.5
1,087
939
295
1,213
0
0
0
0
1,437
823
660
0
0
0
0
出所:前表に同じ
注:農協出荷総売上:2010年9,500円/1俵,2011年11,300円/1俵*収量で計算する。
所得=米の売上高と農作業受託料金―(肥料・農薬料金+機械償却費+地代+土地改良費など),ただし,
労働費が含まれてない。Mは全量農協出荷,Wはほぼ農協出荷のため,金額差は零である。
仮定した場合に比べ,18年では,それぞれ,1,869
深刻化し,実態調査から,今後も大きな構造変動
万円(S),823万円(U法人),また,19年では,
が生じると予測される。
それぞれ,1,774万円(O),1,437万円(S),660
10ha以上,とくに30ha以上の経営体,販売金
万円(U法人)の売上差が生じている。以上のよ
額(23年)3,000万円以上の経営体は,5年前と
うに,米の独自販売によってO,S,Uの稲作経
比べ,すべでの調査農家の経営面積は「増加」で
営の収支は,米価下落の影響を緩和するとともに
あり,毎年500~600aのペースで増加しつつける
借入,購入による経営規模拡大を実現しているの
ケースも存在している。その結果,5年間で経営
である。
規模を10ha以上も拡大したり,2倍,3倍増と
なっている例もある。
(6)小 括
規模拡大農家の経営の特徴として,経営の特徴
青森県は,5ha以上の経営体に約半分の農地が
の第一は,農産物販売金額が3,000万円超え,U法
集積しており,10ha以上の農地シェアが24.8%増
人では,1億円となっている。第二の特徴は,販
(22年対17年),さらに30ha以上層が51.4%と大幅
売金額の第1位は米であるが,一部の経営では,
に増加し,大きな構造変動が生じている。さらに,
経営の複合化・多角化が進展している。第三に,
五所川原市では,小規模農家の離農と10ha以上
個人経営では,世代交代した直後のS経営を除く
層および組織経営体が増加が,青森県の平均より
と,2世代家族が農作業に従事し,常時雇用が
も進展している。その結果,5ha以上の面積シェ
4/7,臨時雇用者が存在する雇用型家族経営で
ア54.7 %,10ha以 上 が35.2 %,30ha以 上 が14.0 %
ある。
となっており,全国的な構造変動の先進地となっ
ところで,五所川原では,10ha以上,とくに
ている。しかし,労働力の高齢化と後継者不足が
30ha以上が増加し,急速に農地を集積しており,
水田農業の構造変動と農地市場,農地売買事由,価格形成の変化
93
賃貸借や農地売買の動きや小作料,農地価格の水
いては,2例を除く4例が独自販売,マーケティ
準をみると,借り手,買い手市場に変化した。
ングしていることである。そのことによって,稲
農業委員会の資料によると,小作料水準(土地
作の収支を改善し,米価下落の影響を緩和してい
改良費込み)は,17年の10a当たり26,300円から,
ることである。
19年の24,400円へ,1,900円(▲7.2%)を低下した。
独自の販路を持ちO,S,H,U法人では,農
小作料の低下によって,地主手取り(小作料-土
協出荷と比べると,1,000万円以上も売上高が大
地改良費)を1~1.5万円を保障するというよう
きく,稲作農業所得も労賃部分を確保している。
に,借り手が配慮することも生じている。
これらの経営は,戸別所得補償は経営の運営資金
貸し手の事由は,高齢化,労力不足(病気),
や農地の購入金,機械への投資など,経営のさら
離農による規模縮小,離農のためであるが,借り
なる規模拡大の準備資金として利用している。一
手が農地を返還した農地の借り入れの例も生じて
方,米は農協をメインに出荷しているM,Wでは,
いる。一方,3haを超える担い手層が後継者不
稲作所得が低い水準にあるが,経営の複合化によ
足等により貸付者となっている例も少数であるが
り農業所得は充分に確保している。小規模の水田
生じている。
経営は,米価水準の低い状況のもとでは,水田経
農業委員会資料により農地価格の分布や実態調
営収支が悪化しており,そのことが離農を促進し
査によると,10万円未満や10~20万円台の売却事
ている。一方,それらの農地を集積できる経営は
例が存在しており,耕作放棄地や小規模ほ場等の
実態調査に示した10~30ha以上で,複合化,多
条件の悪い水田や他出等による財産整理の場合で
角化経営であり,米の独自販売を行うことによる
ある。
経営の優位性を確保している。しかし,五所川原
また,農業委員会の売買事例の3年間の推移を
の事例も,農地を集積が可能な経営は,少数の10
みると,45~50万円の件数は減少し,20~35万円
~30ha以上の経営に限定されている,その他の
の割合が全体の46%を占め,通常の売買価格は20
多くの経営にとって,水田経営収支の悪化と支地
~35万円の水準となっている。
代低下,農地価格低下という状況のもとで,農地
また,実態調査によると,2006年から2012年に
供給が拡大すると予想されるが,供給される農地
かけて,売買価格は30~50万円台で推移している
を少数の経営体が受け皿となるかが今後の課題で
が,19年には,30万円前後が増加している。
ある。とくに,農地の資産的意識の希薄化が進展
さらに,売買事由(複数)をみると,高齢化,
しているもとでの農地管理システムと地域農業の
離農,病気・労力不足という離農:規模縮小とす
る要因が主要な要因となっている。注目されるの
在り方が問われている。
(注)五所川原の部分は,吉田,王倩(高崎経済大学大学院)
は,資産整理や貸付地の売却が副次的な事由と
との共同調査の結果である。したがって,両者の共同
なっていることである。以上の事由からみると,
論文の性格をもつ。図表は王倩が整理したものを修正
小規模農家が高齢化,労力不足等による離農する
した。
場合,資産整理のため売却を選択していることを
示唆している。さらに貸付地も高齢化等により,
まとめ
資産整理のため,売却する動きが強まっているこ
2010年農業センサス結果は,従来まで水田農業
とを示している。以上の動きは小作料と農地価格
を支えていた兼業農家と高齢農家の離農が急速に
の低下により農地の資産価値が弱まり,農地を保
進展し,大規模経営体が増加するとともに農地
有する意識が希薄化しているためである。
シェアが大幅に増加するという構造変動が生じ
30ha以上の経営が急速に農地を集積した背景
た。調査地域である青森県五所川原市,岩手県花
には,水田経営の優位性がある。とくに,米につ
巻市,新潟県旧三和村では,センサス結果で示さ
94
れた以上に10ha以上,とくに30ha以上の経営体
手取り(小作料-水利費等)は,平成22年には
への農地集積が急速に進展した。農地集積のス
7,000~12,500円/10aに集中する傾向にあり,7,000
ピードは急速であり,五所川原の事例でみるよう
円未満の県が生まれている。このような県では農
に,5年間で10ha以上,経営面積が2~3倍と
地賃貸借をする経済的なメリットが希薄となって
なっている。一方,花巻の事例のように,農業労
いる。実態調査では,地主に1万円程度を保証し
働力の高齢化と後継者不足は,兼業農家だけでな
ないと,売却する可能性があり,経営の安定のた
く,担い手と言われた5~10ha層に波及し,今後,
めにも,地主に配慮する例が生まれている。しか
5年間でこれらの層の離農が加速化されると予想
し,中山間地域での小作料の低落はこの5年で激
される。今回のセンサス分析で,「予想を遥かに
しく,数千円程度となっている。
こえる変化」(橋詰),「農業脆弱化の一層の深化
2010年農業センサス結果を上回る構造変動が進
か構造再編の進展か」(安藤)と表現しているが,
展した実態調査の地域では,とくに農地価格の下
今後,5年間は,さらに構造変動が激化すること
落率が大きくなっている。農地価格の水準は平坦
に間違いがない。調査事例の農地を集積した経営
部で圃場整備済みの水田でも20~50万程度に下落
体は,30~100haを経営目標としているが,5~
し,さらに下落する傾向にある。売却の事由は,
10年の間に実現する可能性をもっている。以上の
負債整理から離農,財産整理,高齢化,相続等が
構造変動を踏まえると,多数の農地供給者に対し
主要な要因となっている。買い手は,地縁血縁関
て,少数の受け手という構造が定着し,農地市場
係から購入の経済的な能力のある大規模経営体に
が借り手,買い手市場に変化した。
シフトしてきたが,経済能力のある兼業農家,集
以上の農地市場の変化を促進しているのが,水
落営農,法人という新たな買い手が登場してきて
田経営収支は,急速に悪化している。米生産費調
いる。なお,急速に農地を集積した経営体は,経
査(21年産)により,土地純収益(粗収益-地代
営規模が大きいだけでなく,米の独自販売を含め
を除く生産費)をみると,都府県では,3ha未
た複合化,多角化及び労働力の雇用を特徴として
満の土地純収益はマイナスであり,支払小作料を
いる。
上回るのは5ha以上のみとなっている。北海道
小作料と農地価格の大幅な下落は,農地の資産
では,5ha未満がマイナスであり,支払小作料
的価値が低下し,農地売却に拍車をかけているこ
を上回るのは10ha以上のみとなっている。大規
とも指摘できる。低地価・低地代の中,農地所有
模経営といえども利益を確保することが困難と
への関心が希薄化し,地域としての受け手が減少
なっている。
するなかで,細山氏が指摘したように貸し付け希
以上の水田農業の構造変動と水田経営収支の悪
望地や売却希望地を受けきれない事態も発生する
化により,農地市場にも大きな変化が生じ,小作
可能性がある。低地価,低地代と構造変動が激化
料と農地価格は,10年間で大幅に下落した。実勢
している下での,農地管理システムを地域農業の
小作料は,全国的には1/3に下落したが,地主
あり方が今後の課題となっている。