第2章 墨付け要領の解説

 ガイダンス2
第2章 墨付け要領の解説 実技演習が始まると、つくることが中心となり理屈抜きになる。実技と同寸の短
い材料を使って、矩使いと墨付け要領について学ぶ。
講師 安下 省三
10
1
5
2-1 図面を読む 長さ
垂木
大工は建物を理解するために、べニア板に伏図を書き写す。これを図板と
いう。自分で書くことで、建物の形状、番付けの位置、組み立てる順序を理
解できる。平面である図面に書かれた部材それぞれに勾配を与え、頭の中で
法は、図面に記されていなくとも、自分で割り出さないといけない。
峠
軒桁
1.0
立体に組み上げる作業が「図面を読む」ということである。工作に必要な寸
4.0
0.5
軒の出 15.0
A
演習課題では、上(かみ)と下(しも)とで軒先の納まりを違えている。
0
3.
左桁
桁芯から広小舞前ツラ下端の角までを軒の出として、その長さを 1.5 尺とす
広小舞
ることは共通しているが、上には鼻隠しが入り、下は広小舞のみで納まる。
右桁
垂木の長さ、隅木の長さは同じではなく、それぞれ割り出さないといけない。
中
入
隅
木
軒の出 15.0
そして計算に際しては、地の間と隅の間、表目と裏目を区別して拾う。
15
.0
2-1-1 軒先の寸法 <図面集 53・54 頁>
A
A
裏
目
【1. 広小舞だけが入る軒先】
すると、5÷ 1.118 = 4.5 分 A となる。
目
裏
隅
木
巾
5 寸勾配の玄の長さは 11.18 であるから、流れ方向の 5 分を水平長さに換算
▲垂木先端
A
垂木は広小舞前ツラから流れ方向に 5 分出ている(図1)
。殳 10 に対する
A は 4.5 分。隅木長さは裏目 15.0 +裏目 0.45+
垂木長さ:軒の出1.5 尺を流れ長さで換算すると、15 × 1.118 = 16.77 寸。 隅木巾 3.0 となる。
10
垂木はこれより5分長いため 16.77 + 0.5 = 17.27 寸となる。
垂木
隅木長さ:隅木側面における入中から広小舞前ツラまでの水平長さは裏目
1.5 尺。裏目 1 尺に対する隅木の玄の長さは 1.5 尺であるから、入中から広
峠
4.0
小舞前面までの隅木長さは 1.5 尺× 1.5 = 2.25 尺となる。
ことで求まる。つまり隅木は、広小舞前ツラから裏目 0.45 +3.0 = 3.63 寸
4.0
は、垂木の出として地の間方向に 4.5 分進み、隅の間方向に隅木巾 3 寸進む
軒桁
1.0
隅木木端は端見通しで決めている。広小舞前ツラから木端までの水平長さ
2
5
長さ
1.0
B
1.0
軒の出 15.0
左桁
0
3.
だけ陸方向に長い。裏目 0.45 は 0.45 ×√2として求める。
【2. 鼻隠しが廻る軒先】
右桁
入
広小舞の出と鼻隠しの厚さを合わせると2寸。流れ方向の 2 寸を水平長さ
中
木
軒の出 15.0
に換算すると、2 ÷ 1.118 = 1.79 寸 B となる。つまり垂木先端は、広小舞
隅
前ツラから地の間方向に 1.79 寸戻った位置になる。
目 1.5 尺(= 2.25 尺)
。隅木側面では、裏目 1.79 寸(= 1.79 ×√ 2)だけ
15
目
裏
目
B
B
裏
隅木長さ:隅木側面における入中から広小舞前ツラまでの隅木実長は、裏
垂木実長は、流れ方向に 2 寸短くなるため、16.77 -2= 14.77 寸となる。
.0
B
垂木長さ:軒の出 1.5 尺を流れ長さで換算すると、15 × 1.118 = 16.77 寸。
は 1.79 寸。隅木側面の長さは、(裏目 15.0 -
B
裏目 1.79)となる。
陸方向に〆ることになる。
- 12 -
2-2 隅木の墨付け要領
1
隅木は隅勾配
.0
5
:1
ここでは、鼻隠しの入らない[に‐四]を例に解説する。屋根勾配 5 寸、
隅玄
垂木は巾 1.5 寸×成 1.8 寸、
隅木は巾 3 寸×成 4.5 寸。隅山は加工済みである。
隅殳:裏目 10
1.この姿
をイメージする
隅勾
5
●
【1. 隅木の上下を決める】
山高さ
2.裏目 10、勾 5 を
とり陸墨を引く。
2-2-1 軒先廻り <図面集 55 頁> ●
●
陸墨
逆木とならないように(水上が末、水下が元となるように)隅木の向きを
3.陸上に
隅木半巾をとる
決める。上下が決まれば、隅木の右ツラ、左ツラが決まる。常に、右ツラは
隅木:
水上
陸墨のひき方。陸墨をひくときは長手側でひく。
右上がりの勾配になる。隅木は右ツラから墨する。
陸墨上に隅木半巾をとると、山の高さが求まる。
【2. 隅山の高さの求め方】
隅木は隅勾配。陸墨を描くには、殳として裏目 1 尺、勾に 5 寸をとり、長
2
垂木は平勾配
手側でひく(図1)
。このとき、さしがねの表側を使うか、裏側を使うかで勾
配が反転するので注意する。描こうとするツラの隅木の傾斜(右ツラは右上
陸
殳:10
がり)を思い浮かべて、
使うさしがねの表裏を決める(右ツラは裏使いになる)。
次に、隅木上端から隅木半幅 1.5 寸を陸墨上にとり、その点を通る隅木上
2.ひきたい始点 に 5 を合わせる。
●
●
垂木
端と平行な線が隅山の高さになる。これは木の身返し法による作図である。
一方、「勾殳玄法」では隅山勾配は隅中勾勾配であった。隅中勾勾配は、隅
玄 15 に対して隅勾(=平勾 5)の勾配であるから、隅木半幅 1.5 寸に対する
山の高さは(5/15)× 1.5 寸= 0.5 寸、5 分と求まる。
【3. 垂木の立水高さを求める】
1.この姿
をイメージする
立水
勾:5
立水
3.裏使いでは
裏目 7 寸 7 厘△印に合わす。
立水のひき方。立水は返し勾配、短手側でひく。
18
垂木と隅木は勾配が異なる。垂木の高さを隅木に写すとき、立水方向に測っ
3
立水
11.
玄:
勾:5.0
1.8
殳:10
た垂木高さを、隅木の立水方向に写す。
x
垂木の立水高さを測るには、さしがねに殳 1 尺、勾 5 寸をとって短手側で
垂木
立水をひき、実測する。さしがねを裏に使う勝手となる場合には、殳 1 尺を
裏目 7 寸 7 厘の△印に合わせてひく(図2)
。さしがねで読める単位は精々、
2 厘位までである。立水の長さが 2.0 寸であることがわかる。
垂木の立水高さの計算方法。
10:11.18 = 1.8:x
10 x= 11.18 × 1.8
x=(11.18 × 1.8)/10 = 2.01
次に、立水高さを計算で求めてみる(図3)
。立水高さをxとすると、三角
10(殳)
:11.18(玄)= 1.8(垂木成)
:x(立水)となる。
形の相似の関係から、
立水高さは 2.01 寸と求まる。
4
【4.口わき墨をひく】
としてさしがねを当て、短手側で引く。この立水に沿って、隅木上端から垂
木の立水高さ(2.01 寸)をとり、2点を結ぶ。これが口わき墨②。隅木右ツ
●
2.01
品下
2.23 2.
01
①立水
隅木右ツラの両端に立水を引く(図 4)
。材の下端を基準に裏目 10、勾 5
② 口わき
隅木右ツラ
5.0
ラに表れる垂木下端の線である。
口わきから下の部分は、桁に落とし込む部分、品下になる。隅木と桁とは
裏目 10.0
水下
水上
勾配が異なるため、品下寸法も立水方向で測る。品下は 2 寸 2 分3厘になる。
【5.広小舞前ツラの位置を求める】
水下側の立水①の上端角を、隅木の木端、隅木長さの始点とする。その点
を起点に広小舞前ツラの位置を求める(図5)
。端見通しの隅木である。立水
隅木の立水①をひく矩使い。口わき②は描けて
いないので、材の下端で目盛を合わす。立水①
の上端を隅木木端、長さの起点とする。
広小舞前ツラ位置
隅木木端上端角
5
●
①に矩を当て、陸に 3.63 寸進んだところに印し、この点を通る立水③を引く。
●
③上端角が広小舞前ツラの位置となる。3.63 寸は、隅木巾 3.0 に広小舞前ツ
わき
②口
ラからの垂木の出 0.45 を裏目寸法として加えた長さである(12 頁参照)。
【6.投げ墨をひく】
立水③と上端の交点から陸墨を引く④(図 6)。次に、陸墨④を基準として
①
3.63
③
投げ墨をひく(図 7)
。投げ墨の勾配は裏目 5 寸に対して「勾」の返し勾配。
屋根勾配 5 寸を勾にとり、短手側で墨する⑤。投げ墨とは、平勾配の垂木先
端を真横から見通した墨である(5 頁参照)
。
- 13 -
立水①から陸方向に 3.63 寸離れた平行線、立水
③をひく。上端角は広小舞前ツラの位置になる。
6
7
広小舞前ツラ位置
隅木木端上端角
勾(5.0 )
●
●
墨
投げ
④
墨
投げ
④
●
●
8
隅木木端上端角
②
①
③
③
広小舞前ツラの位置を通る陸墨④をひく
⑧
隅木木端上端角
軒先廻り全体の墨
広小舞前面位置
●
●
9
左ツラにも⑦の墨が
上がってきている
●
⑧
⑨
⑩
⑦
⑥
⑦
⑤
③
両ツラの墨を
見通して位置
を決める
●
④
②
①
⑥
⑦
①
陸墨④を基準線として、投げ墨を引く。投げ墨 木端上端角から、投げ墨⑤と平行な線⑥を引く。
は倍勾配の返し勾配であるが、七矩を2回し、 立水①に矩をあて、⑥までの長さが半分となる
裏目5寸に対し「勾」の勾配をつくり短手をひく。 ところに印し、木端角と結ぶ⑦。合の矩の切墨。
⑪
●
⑤
⑤
●
裏目 5.0
右ツラ
隅木 右ツラ
【7. 切墨を「合(あい)の矩」で求める】
立水①の上端角から、投げ墨⑤と平行な線を引く⑥。棒隅木では通常、こ
の⑥を切墨とすることが多い。しかし今回の演習では、反り隅木に応用でき
る作図方法として、
「合の矩」の作図要領を学ぶ(図 8)
。
山の頂点にさしがねを水平に当て、両ツラの切
墨を墨の方向(真上)から見通し、さしがね上
に交点を結ぶ位置に合わせ、頂点に印する。
10
⑧
●
立水①にさしがねを沿わせ、任意のところ(2 等分しやすい目盛のところ)
で、⑥までの長さを 2 等分する。その点と隅木木端先端とを結んだ墨⑦が「合
の矩」での切墨となる。棒隅木の場合、
「合の矩」は隅木下端と直角になる。
⑦
【8. 隅山の切墨を「見通す」
】
右ツラに描いた切墨⑦を下端へ廻し、左ツラにも矩に廻す。次に、山の頂
点にさしがねを水平に当て、両ツラの切墨⑦を墨の方向(真上)から見通し
見通して決めた点⑧と木端上端角とを結ぶ。隅
山の切墨となる。切墨の完成。
(図 9)、さしがね上に交点を結ぶ位置に合わせ、頂点⑧を印する(図 10)
。こ
11
の作法を「見通し」という。頂点⑧と木端上端角を結ぶと、隅山の切墨となる。
【9. 隅山上に広小舞の前ツラ位置を墨する】
広小舞前ツラ位置
⑨
●
広小舞前面付近に、任意の高さで陸墨を引く⑨(図 11)
。この陸墨⑨と投
げ墨⑤との交点から、
陸墨に沿って隅木の半幅(1寸5分)をとって印する(図
12)
。この点を通る投げ墨⑤と平行な線⑩を引く。左ツラも同様に⑩を墨する。
次に、山の頂点にさしがねを水平に置き、左右の墨⑩を真上から見通して
③
⑤
(眼を左右⑩の墨の延長線上に置きつつ、両方の墨がさしがね上と交点を結ぶ
位置にさしがねを合わる)
、隅山の頂点に印する⑪(図 13)
。左右の広小舞前
面の位置と結ぶと隅山部分での前ツラ位置が求まる(図 14)
。
12 左ツラにも⑩が上がっている
隅木
半巾
●
⑪
⑨
●
広小舞前ツラ付近に、陸墨⑨を引く。
13
14
広小舞前ツラの墨
⑪
●
●
⑩
⑩
⑤
陸墨⑨の線上に測って、投げ墨⑤からの長さが
隅木半巾(1.5 寸)になる処に印し、その点を
通る投げ墨と平行な線⑩をひく。
⑩
⑩を左面にも作図する。隅山の頂にさしがねを 隅木木端の完成。見通しで決めた点⑪を真横から
当て、左右の⑩の墨を見通せる位置⑪に印し、 見れば、見通した線⑩の延長線上に載る。
両ツラの広小舞前面位置と結ぶ。
- 14 -
1
【1. 入中および桁上端を求める】
広小舞前面から桁芯までの隅木実長は 2.25 尺であった。地の間方向に測っ
前面
広小舞
2-2-2 桁との取り合い <図面集 56 頁>
た軒の出(1.5 尺)に、裏目 1 尺に対する隅玄の長さ(1.5 尺)を掛けて算
2.25 尺
2.25 尺
広小舞前面位置
右桁芯
●
●
●
出した(12 頁参照)
。
右ツラ
隅木右面
隅木右ツラにおいて広小舞前面から 2.25 尺を測り印する(図1)
。口わき
にさしがねを当て、その点を通る立水①を引く(図 2)
。これが隅木右ツラと
接する右桁芯の位置、入中である。また、入中と口わきとの交点が右桁の峠、
峠を通る陸墨を引く②(図3)
。峠から5分下がりが、右桁上端③である。
広小舞前面位置から桁芯までの長さ 2.25 尺をと
り印する。
入中の線上で、口わきから隅木下端までの立水の長さは、右桁に落とし込
む部分、品下(仕込み寸法)である。その寸法は桁の墨付けに必要であり、
2
右桁芯
22.5
●
2.01
実測し書き留めておく(2寸2分4厘)
。
峠
入中①にさしがねを沿わせ陸方向に長さをとる。①から隅木半巾(1.5 寸)
進んだところが本中④、さらに隅木半巾(1.5 寸)進んだところが出中⑤で
口わき
3.53
表目 10.0
右ツラ
①
入中
あり、ともに立水に引く。出中は左桁の芯の位置になる(図4)
。
上端にとった桁芯の位置から立水をひく。立水
は、口わきを基準に隅勾配(3.53/ 表目 1 尺)を
つくり短手でひく。立水①と口わきの交点が峠。
3
右
ツ
ラ
隅
木
左桁芯
左
ツ
ラ
うえ
0.5
中
上端
峠
●
入
右桁
〇
品下
2.24
①
入
中
〇
本
中
下
立水①は入中となる。峠から 5 分下がりが桁上
端。入中の線上で、峠から立水にはかった下端
までの長さを品下という。
木
巾
半
木
隅
4
●
天
桁
隅木平面図
法
寸
〆
1.
2
目
5
1.
②
5
目
裏
1.
隅
木
右ツ
ラ
寸
〆
⑤
右
側
面
き
口わ
法
④
①
入中
図
③
本中
24
口わき
裏
出中
4.
1.5
●
上
端
1.5
入中①から水下の方へ、陸に測って、隅木半巾 1.5
寸進めば本中④、さらに進めば出中⑤が求まる。
【2. 渡りあごの墨】
5
隅木は桁に渡りあごで納まる。桁巾は4寸であり、隅木を5分大入れ、す
なわち、桁芯から1寸5分〆と決めている。しかし、隅木は桁に対し 45°振
から左側に裏目1寸5分の立水⑦をひく(左桁のあご巾)(図 5)
。
次に、隅木と桁とが組み合うツラ(=天)を墨する。隅山は除いた隅木の
1.2
に
ねを沿わせ、右側に裏目1寸5分をとり立水⑥をひき(右桁のあご巾)
、出中
⑤
陸に裏
立水
れているため、隅木ツラでの〆寸法は裏目1寸5分となる。入中①にさしが
4.0
〆寸法
⑦
目 1.5
④
①
陸に
③
裏目
天
1.5
⑧
⑥
1.2
1.5
品
巾
半
隅
.5
1
0
3.
巾
木
中
隅
出
.5
1
立水に
〇
1.5
隅木
右桁芯
〇
峠
中
出
1.5
〆寸法
1.5
〇
口わき
②
③
成は 4 寸。隅木の成を1/ 3 以上欠かないように、ここではあごの深さを立
水に1寸2分と決めた。隅木下端から1寸2分を立水にとり墨する⑧。この
位置が天である。⑦⑧③⑥で囲う部分が渡りあごの墨。
- 15 -
あご巾は入中①から陸に裏目 1.5 寸、出中⑤か
ら陸に裏目 1.5 寸。あご深さは、下端から立水
方向に 1.2 寸とした。
【3. 下端のたすき墨】
⑤
下端に芯墨⑨を打ち、右ツラに墨した入中、本中、出中の3本を矩手に廻 右ツラ
④
6
①
⑦
す ( 図6)
。それぞれの対角を結んだ墨が「下端のたすき墨」である。
⑥
入中①と出中⑤で区切られた形は、平面では正方形であるが、下端ツラで
⑨ 芯墨
は勾配の分だけ間伸びした長方形となる。これを勾殳玄法では隅長玄勾配と
下端
桁
①
本中
④
出中
⑤
芯
たすき墨の右ツラの入中①から対面の出中⑤へ抜ける墨は右桁芯、左ツラ
入中
して説明するが、このような作図から自ずと求まる。
左
桁
芯
右
の入中①から対面の出中⑤へ抜ける墨は左桁芯であり、隅木芯⑨と本中④と
隅木下端にさしがねを沿わせ、入中、本中、出
中の墨を廻す。それぞれの対角を結んだものが
(下端の)たすき墨である。
の交点を通る。作図精度が悪いと、
ひとつに交差しないので確認が必要である。
このたすき墨の勾配を自在がねに写し、あご巾の形状⑥⑦を墨する ( 図 7)
。
隅
7
長
玄
勾
9.42
【4. 左ツラの墨】
隅木左ツラに、下端の入中・本中・出中、両端のあご巾の墨を立水として廻し、
配
10
右ツラ ⑦
右ツラ同様の方法で峠・桁上端・天を墨する。
【5. 上端のたすき墨】
⑥
⑨芯墨
た
隅木上端のたすき墨を「見通し」によって作図する。隅山の頂にさしがね
す
い、頂点⑧と入中・出中とを結ぶ墨を上端たすき墨という ( 図 9)
。
④
⑤
①
墨
しがねを合わせ頂点に印する⑧。本中④と頂点⑧とを結ぶ線を馬乗り墨とい
き
を水平に置く ( 図8)
。左右のツラに墨した本中④の延長線上に眼を置きつつ、 左ツラ
上から俯瞰して、墨の延長と水平に置いたさしがねとが交点を結ぶ位置にさ
隅木下端にさしがねを沿わせ、入中、本中、出
中の墨を廻す。それぞれの対角を結んだものが
(下端の)たすき墨である。
8
頂点⑧と出中⑤を結ぶ線が配付け垂木の芯。図 10 で①⑧⑤のたすき墨は長
前後に
動かす
玄勾配であり、配付け垂木の胴付きを長玄勾配とするのはそのためである。
④
④
●「陸に隅木半巾進む」ことの意味
⑧
右ツラ
中・出中は立水としてひいているから鉛直になる。また、馬乗り墨の頂点⑧
は本中を見通して決めているため、本中の延長上に載る。
ラ
左ツ
図 11 は隅木を隅勾配に傾けている。その写真からわかるように、入中・本
そして入中の上端角①と馬乗り墨の頂点⑧とを結んだ線は陸(水平)になる。
つまり入中から陸に隅木半巾進むと(=本中)、入中上の上端角と隅山頂点の
高さが同じになる。隅山の高さを求める際に(13 頁図 1)
、陸墨をひきその
さしがねを山の頂に水平に置く。さしがねを前
後に動かし、左右の墨④の延長が、さしがね上
に交点をつくる位置を探し、頂に印する⑧。
9
9
線上に隅木半巾をとって山高さを求めた作図がここに当てはまる。
⑤
同様に、軒先で広小舞下端の墨を描く際に(14 頁図 12)
、投げ墨から陸に
④
①
⑧
隅木半巾進んだ平行線を見通して頂点を決めた。これも同じ作図である。
(隅
木半巾進んだ)投げ墨を見通しても、
(隅木半巾進んだ)立水を見通しても求
⑤
まる頂点は同じであり(図 12)
、その都度作図しやすい方を選べばよい。
きる角度(図 9 の∠①⑧①)は、真上からは矩手(直角)になる。
隅木上端の角から「陸に隅木半巾進む」ことの意味は、隅山の稜線上に、
元の高さと同じにしつつ、真上から見て矩となる点を見つける作図法である。
10
し
a
隅木半巾
げ
投
入中
隅勾配
隅木半巾
墨
本中
出中
上端たすき墨は長玄勾配の関係にある。よって
配付け垂木は長玄勾配が切墨になる。
b
隅木半巾
①
入
中
本
中
出
中
右ツラ
①
玄
④
12
通
⑤
陸
⑧
長
殳
11
⑧
①
本中同士④を結んだ線を馬乗り墨、頂点⑧と入
中、出中を結ぶ線を上端たすき墨という。頂点
と出中を結んだ線は、配付け垂木の芯になる。
立水
④
右ツラ
見
⑤
①
見通し
また、右頁の平面図をからわかるように、両ツラの入中と頂点を結んでで
④
隅木を隅勾配に傾ける。頂点⑥は、本中の延長線 鼻隠しの廻る隅木木端の側面図。点aから、投
上で垂直、入中①と頂点⑥を結ぶ線は水平、陸に げ墨を隅木半巾進めても、立水を隅木半巾進め
ても、見通して決まる点bは同じ。
なる。
- 16 -
芯
桁芯
8.0
ここでは、隅木と取り合う「に‐四」
、右桁(上木)の墨付け要領を解説する。
1
②左
2-3 桁の墨付け要領 <図面集 58 頁>
木
隅
④
【1. 桁上端の墨】
5
1.
上端
5
上端に芯墨を打つ①(図1)
。切墨から8寸進んだところが左桁の芯である。
1.
① 右桁芯
⑤
桁天端に左桁芯を墨する②。左右の桁芯の交点を通る 45°の線が隅木芯③と
なる。隅木芯に対して左右に1寸5分を取り、隅木巾④⑤を墨する。
③
外ツラ
桁には、渡りあごでかかる隅木を 5 分大入れする。桁芯から 1 寸 5 分〆の
墨⑥をひき、隅木芯との交点を桁の外ツラに出す⑦(図2)
。あごとして欠き
取る部分は、左右の桁の内ツラ同士、外ツラ同士が交差する入隅であり、隅
②
上端の墨付け。端から 8 寸が左桁芯。上端に隅
木芯とその巾を墨する。
木
隅
③
【2. 桁外ツラの墨】
⑦'
●
●
●
①右桁芯
上端
5〆
1.
下がりであるが、桁下端から 5 寸 5 分上りとして口わき墨⑧をひく(5頁図
⑥
12 参照)。上端で墨した隅木巾④⑤を、基準面である桁下端からさしがねを
⑦
5
5.
当て、外ツラに下ろす(図2)
。
⑥'
1.5 〆
桁の基準面は上端でなく、下端である。図面上の垂木下端は上端から 5 分
●
2
芯
木芯③を挟んで対角に入る(右頁、桁平面図参照)。
④
⑤
●
⑧ 口わき
外ツラ
右桁の場合は、隅木右ツラ④の線上に(左桁の場合は、隅木左ツラの線上
になるので注意)口わき墨⑧との交点から下に隅木の品下寸法(2 寸 2 分 3 厘) 上端に、隅木のあごを描く。あごは対角方向の
をとりaを印する(図 3)
。aから半勾配[2.5/10]でひいた線が落ち掛りで
2 か所に入り、桁芯から 1 寸 5 分で〆る。つぎに、
隅木巾を外ツラに下ろす。
あり、隅木下端の墨となる⑨。この隅木下端墨⑨を桁上端と交わるところま
(2.5
●
●
水墨をひくので、表目 1 尺を使った半勾配をつくれる)。
隅木と桁を組んだとき、隅木の口わきと桁の口わきが揃わならなければい
⑧ 口わき
品下 2.24
裏目 1 尺]として一気に上端までひいている(実際の演習では、桁の中腹に
b
④
⑤
a
下端
配
半勾
隅木
⑨
●
図3では、口わき墨にさしがねを当て、半勾配を十四矩した矩使い [3.53/
3.53 四矩)
の十
で延長してbを印する。
3
裏目 1 尺
外ツラ
②
けない。ここが合わなければ、隅木下端と桁の隅木下端墨⑧も一致しない。
【3. 天を決める】
側面で、隅木下端(=落ち掛り)を求める。隅
図3において、隅木下端墨⑨から上を全て欠きとれば、桁は非常に弱くなる。 木右ツラ④の線上に、口わきから品下寸法をと
る高さが 1/3 未満となるよう、今回の演習では隅木のあごの深さを、立ち水
方向に測って 1 寸 2 分と決めた(15 頁図 5 参照)。
ぶ⑩。これが天の墨、隅木下端⑨と平行だからこれも半勾配になる。隅木下
⑥
を大入れする部分(⑤ - ⑦間)は、1 寸 5 分〆として 5 分彫ることになる。
⑦'
1.2
4
④
⑥'
c
天
⑩
⑨
⑤
口わき
⑦
④
外ツラ
大入れ 1.5 〆
端墨⑨と同様、この天の墨を上端まで延長させてcを印する。
天⑩から上は全て欠き取る。一方、隅木下端の墨⑨から上の部分で、隅木
③
⑦
よって、桁と隅木が重なる天の高さは、隅木下端⑨よりも立水方向に 1 寸
2 分高くなる(図4)
。隅木両脇の立水④⑤に沿ってこの値をとり、互いに結
⑤
上端
1.2
なる。隅木の立水高さは 4.24 寸。隅木も欠き取りすぎると弱るため、欠き取
る。その点aから半勾配。
●
そのため隅木下端をいくらか欠き取って、桁を痛めすぎない配慮が必要に
隅木との天は、隅木下端⑨から立水に 1 寸 2 分
上がりと決めた。これも半勾配であり、天端ま
で延長して短い墨cを角に出す。
5
【4. 桁内側の墨】
桁内ツラでは、
桁上端の隅木巾墨④⑤を立水に下ろしておく④ ' ⑤ '(図5)
。
次に、隅木下端⑨と天⑪を桁上端まで延長した外ツラの墨b・cを上端角に
出し(図6)、45 度に戻る方向でさしがねを当て、桁内ツラとの交点b ' c '
を求める(図 6)
。この2つの点を起点にして、内ツラに半勾配をひくと、内
外ツラ
④
③
⑤
上端
⑥'
⑦'
内ツラ
④’
⑤’
ツラの隅木下端⑪と天の高さ⑫が求まる(図 7)
。
また、上端で 1 寸 5 分〆として作図した隅木のあごの墨⑦ ' を側面に下ろ
すことで、大入れする部分を作図できる。⑪と⑫の間を立水に測ると、作図
が正確であれば 1 寸 2 分、あごの深さになる。
- 17 -
。
内ツラに、隅木巾④⑤を立水に廻す④’⑤’
左桁(下木)
6
うえ
c’
上端
b’ 内ツラ
5
5
隅
木
桁平面図
内ツラ
b
4.0
1.5
1.5
〆寸法
c
芯垂木
外ツラ
右桁(上木)
桁上端では、半勾配で延長した外ツラの墨bc
を起点に矩勾配をひき、内ツラ角にb’c’を
印する。さしがねに 5/5 をとり矩勾配をつくった。
外ツラ
0
3.
7
外ツラ
c
右桁展開図
上端
②
⑥'
内ツラ
5.5
④’
●
大入れ 1.5 〆
●
⑩
⑧ 口わき
品下
天
との
隅木
天
d●
⑨
左桁との
●
⑮
e
●
⑨
●
2.0
5.5
あご深さ
成
垂木
a
●
外ツラ
●
8
④
⑤
b
c
木)
天(隅
⑯
①上端芯墨
④
⑤
③
⑱
〆寸法
垂木巾
芯垂木
⑲
⑥ ⑦
⑩
内ツラの墨。求めたb 'c' を起点に半勾配をひく
⑪⑫。天は側面だけでなく上端に折れることが
わかる。上端でわずかに平らな部分ができる。
b'
c'
⑥'
●
内ツラ
⑪
⑫
〆寸法
垂木
成
⑦'
⑰
⑫
⑪
⑤’
⑦’
●
●
0.5
天
c'
b’
)
桁
⑮天(左
⑬
⑬
⑭
外ツラ
8.0
2.0
②
左桁を墨する。左桁芯②から左桁巾をひき、そ
れぞれ天⑩までの長さを 2 等分する。その点 d
eを結んだものが、左桁との天になる⑮。
【5. 左桁と取り合う墨 ねじ組み】
隅木芯
右桁は隅木だけでなく、左桁とも渡りあごで交差する。
桁上端
●
f
⑰
れぞれを 2 等分した点deを求める。このdeを結んだ線⑮が、左桁との天
左桁
外ツラ
⑯
になる。半勾配を等分した墨だがら、平勾配の1/4 の勾配となる。
(内ツラ
⑬
外ツラ
残った部分の高さを2等分して組み合う高さを決める。そのため天は水平で
⑧ 口わき
1.8
巾とする⑬⑭(図 8)
。その墨に沿って、桁下端から天までの長さを測る。そ
隅木が桁を欠き取る部分は天から上。左右の桁が均等な強さになるよう、
9
③
右桁外ツラに、左桁の姿を描く。左桁芯②から左右に 2 寸をとり、左桁の
でも、同じ要領で桁同士の天を描く)
。
⑭
芯垂木の墨。左桁外ツラ⑬の墨(すなわち隅木
芯③の墨)と口わきとの交点fを起点に、平勾
配で垂木下端⑯の墨をひく。
はない。落ち掛り勾配の半分の緩い傾斜がつく。これがねじ組みである。
10
【6. 桁の木端の墨 芯垂木】
⑱
0.5
桁芯に入るのが芯垂木。まず、芯垂木の下端の高さを求める(図9)
。
⑲
左桁の外ツラ⑬(これは側面に下ろした隅木芯③と同じ墨になる)と口わ
き(垂木下端墨)との交点fから平勾配(5/10)をひくと、垂木下端⑯が求まる。 ⑰
この⑯から垂木成 1 寸 8 分をとって垂木上端⑰とし、この桁上端角から矩
⑯ ⑲’
手に⑰の墨を廻す⑱。⑰より上の部分は、欠き取る部分になる(図 10)
。
次に、桁上端に垂木巾 1.5 寸と、垂木を大入れする深さ 5 分⑲を墨して、
右桁の木端の墨が完成する。
- 18 -
垂木上端⑰より上は欠き取る部分。天端に矩を
廻し。木端に芯垂木の位置を墨する
1
● 隅木下端の作図法と「 落ち掛り」について
内ツラ
前頁では、桁内ツラの隅木下端の高さを求めるにあたって、外ツラから隅
h’
木下端の半勾配の墨を延長して上端に起点をつくり、上端では矩勾配で内ツ
ラ角へ墨を廻す要領で作図した。
A'1
端
A'0
B' 0
B0
桁外ツラにおける隅木左ツラの落ちか掛りは上端から 3.79 寸(A0A1)で
A0
3.79
2.73
あり、桁内ツラにおける落ち掛りは 1.79 寸(A '0 A '1)となる。内ツラの落
このことは、
隅木がA '0 からA0(あるいはB '0 からB0)に至る過程で [ 桁
桁巾 4.0
前頁で作図した落ち掛りの高さを測ることにする(図1)。
隅
木
右
ツ
ラ
隅
木
左
ツ
ラ
上端
【方法1】
ち掛りは 2 寸浅いことがわかる。これは隅木右ツラにおいても同様である。
B' 1
0.73
得た墨の精度を確かめる、あるいはより精度の高い作図要領を知る必要があ
る。また、その作図法が成り立つ意味を知る必要もある。
隅木下
1.79
この方法は、木の身返し法であり作図過程で誤差が生じやすい。作図から
B1
A1
巾×平勾配 ] すなわち[桁巾 4 寸× 0.5=2.0 寸]落ちるためである。
端
隅木下 り)
掛
ち
(=落
h
それを踏まえれば、次のような作図が可能になる。
外ツラ
桁の墨付けの基準面は桁下端である。外ツラにおいて桁下端からA1までの
高さhを測り、その高さに [ 桁巾×平勾配 ] を加えた長さ(h ')を内ツラの
Y
下端からとれば、隅木左ツラの下端角A '1 が求まる。
2
左桁巾 4.0
X
これにより、作図の精度を把握できるし、A '1 を起点に半勾配を引けば下
端墨A '1 B '1 を容易に描ける。
うえ
芯
木
内ツラ
隅
a
d’’ c’’●
●
●
▲
c●
.0
-1
e●
かる隅木下端の高さを示している。
b●
.5
-1
隅木下端の芯が桁内ツラと交わる点aの高さを±0とすると、5 寸勾配の
●
●
e’
-2
▲
外ツラ
d’
.0
場合、隅木芯が桁外ツラと交わる点bの高さは、2 寸下がり(桁巾 4 寸×平
.5
d●
-0
巾 4 寸の桁が交差してできる四角形は正方形である。図2は、その桁にか
右桁巾 4.0
0
±
【方法2】
勾配 0.5)である。そして、この正方形の対角線abを 4 等分すれば、それ
ぞれの点の高さは、c= -0.5、d= -1.0、e= -1.5 と求まる。
次に、その隅木下端の高さを桁のツラに引き出す。左桁芯の線上で、右桁
3
C’
0
内ツラ
外ツラ位置e’での隅木下端の高さは -1.5(=e)、右桁内ツラ位置c’’での
③
(=c)
である。左桁芯の位置で外ツラと内ツラとでは 1 寸の違い、
高さは -0.5
すなわち [ 桁巾(4 寸)×半勾配(0.5 × 1/2)
]の高低差がある。
C’
1
このことがわかれば、内ツラの墨はより簡単かつ正確に描ける(図3)
。
④ 隅木
下端墨
(半勾
長さに [ 桁巾×半勾配 ] を加算する。その値③を、左桁芯上に内ツラ下端C '0
からとれば隅木下端位置C '1 が求まり、ここを起点に半勾配④をひけば良い。
上端
配)
左桁芯
、その
外ツラに墨した隅木下端墨①を、左桁芯上で下端から測り(C0C1)
また、内ツラの隅木下端を外ツラよりも[桁巾×半勾配]だけ高く設定す
る方法として、桁上端に矩勾配を(戻る方向に)描き、半勾配の起点を外ツ
ラより桁巾分だけ近づけたのが、前頁の作図法だということもわかる。
木下端
①隅
そしてもう一度、図2を見ていただく。
桁外ツラにおいてd ' からbへ(桁巾4寸)進む過程で、隅木下端の高さ
は 1 寸落ちる。よって右落ち掛り勾配は半勾配である。そしてd’からb’へ
進む過程も 1 寸落ちており、左落ち掛りも半勾配である。このように、隅木
と桁とが交差する天は、縦横(X・Y方向)ともに半勾配の傾斜がある。9
頁の図 6 は、この図 2 を簡略化したものである。 - 19 -
C1
②
外ツラ
C0
内ツラの隅木下端の作図要領:外ツラの隅木下
端墨①を左桁芯上で桁下端から測る②。②に[桁
巾×半勾配]を加えた長さを、内ツラの左桁芯
上にとる③。半勾配で隅木下端をひく④。
配付け垂木
隅
木
15.0
【1. 垂木長さ】
1
左桁芯
2-4 配付け垂木の墨付け要領 <図面集 59 頁>
右桁芯
芯垂木
15.0
垂木間隔を尺 5 寸と決めているから、桁芯から隅木芯までの地の間長さは
尺 5 寸。そして軒先では、鼻隠しの有無によって垂木長さは異なるが、桁芯
から広小舞前面までは、同じく尺 5 寸である。
広小舞前つら
15.0
地の間 1 尺に対する 5 寸勾配の玄の長さは 1.118 尺。地の間 1.5 尺の垂木
実長は、1.5 尺× 1.118 = 1.677 尺となる。これが垂木長さの基本単位となる。
配付け垂木
芯垂木
配付け垂木の長さを求める。
15.0
垂木間隔と配付け垂木
2
木
隅
【2. 胴付き墨の墨】
木半幅の裏目]である。しかし垂木芯の位置に陸墨をひくことはできない。
.0
3
材料のど真ん中であり、墨は垂木側面にしかひけない。
配付け垂木の〆寸法を割り出す作図方法(木の身返し法)には、以下の 2
垂木
つがある。それとは別に、計算で求める方法がある。作図による方法は常に
作図誤差が伴うので注意が必要である。
隅木芯までの垂木長さ
●
② 長辺を基準
木ツラまで〆なければならない。垂木芯の位置での〆寸法は、陸に測って [ 隅
●
垂木〆寸法
隅木半巾裏目
① 垂木芯を基準
配付け垂木は隅木にとりつく。計算で求めた隅木芯までの垂木実長を、隅
配付け垂木の〆寸法と作図による求め方
1.垂木芯を基準にする方法(図3)
3
垂木上端に芯墨をひく①。隅木芯までの垂木実長を上端にとり②、側面に
隅木芯までの垂木長さ
立水③を下ろし、陸墨④をひく。陸墨に沿って隅木半幅裏目だけ進んだ位置
⑦
に立水⑤を引き、その上端角から矩となる墨⑥を引いて、垂木芯との交点を
②
⑥
①
求める。この交点を通る長玄勾配⑦をひき、側面に立水を下ろす⑧。
④
a
2.垂木の長辺を基準にする方法(図4)
し、陸墨③をひく。陸墨に沿って、隅木半幅裏目進み、垂木半幅戻った位置
に立水④をひく。④の上端角から長玄勾配⑤をひく。
③
⑤ ⑧
垂木上端に隅木芯までの長さをとる①。この墨から右ツラに立水②を下ろ
a =隅木半幅裏目
木の身返し法①:垂木芯を基準にする方法
3.計算で求める方法
4
隅木巾が 3 寸であるとき、平面上の〆寸法(=隅木半巾裏目)は 2.12 寸
(= 3.0 × 1/2 × 1.4142)
である。流れ方向の長さはその 1.118 倍になるから、
隅木芯までの垂木長さ
①
⑤
隅木芯から 2.37 寸(= 2.12 × 1.118)を流れ方向に〆ればよい。
b
墨付けの手順としては、隅木芯までの長さから、垂木芯上に〆寸法 2.37 寸
③
だけ戻り、ここを起点に長玄勾配をひく。図3を借りて手順を追うと、①→
④
②→⑥→⑦の順で墨できる。
b=隅木半幅裏目 - 垂木半幅
平勾配 5 寸の長玄勾配は、8.94/10 の勾配。細い垂木に直に墨するよりも、
いくらか大きな材料に長玄勾配を描き、自由矩にとる方が正確な墨になる。
②
木の身返し法②:垂木長辺を基準にする方法
E’
5
● 胴付きが長玄勾配となる理由
E
C
勾
隅
木
芯
て作図することにより、実際の小平の形状を把握できる。
辺 BE’を殳として三角形 ABE’をとらえた場合、AE' の勾配すなわち
垂木
AB/BE' は、平勾配を示す三角形 BCE’の殳 / 玄であり長玄勾配となる(8
頁参照)
。よって垂木の胴付き墨は長玄勾配になる。
玄
殳= 10
図5は小平起こしの図である(7 頁参照)
。小平起こしでは、BE=BE' とし
D
玄
広小舞・鼻隠し
また、広小舞の上端留めや鼻隠しの上端留めは、AB を底辺とした三角形
ABE’であるから、長玄返しの勾配として墨することになる。
- 20 -
A
10 =殳
B
小平起こしで作図した隅木。隅木芯AE’はB
E ' を基準にすれば長玄勾配。ABを基準にすれ
ば返し勾配。
1
2-5 鼻隠し・広小舞の墨付け要領
軒の出 15.0
【1. 鼻隠しの長さを求める】
鼻隠しの長さは、裏側(後ろツラ)の上端角を基準に求める。
2.0 1.0
0
.
1
全体の長さは、桁間の芯々寸法に(課題図面では 9 尺)
、左右の軒先長さを
広小舞
軒桁
●
加えて求まる。軒先部分の長さは、
断面図(図1)から読み取ることができる。
鼻隠し
鼻隠しの厚さと広小舞の出は流れ長さで 2 寸、地の間では 1.79 寸(= 2
1.79
/1.118 13 頁参照)である。よって、桁芯から隅木上端角(=垂木上端角に
13.21
相当)までの長さは 15.0-1.79 = 13.21 寸となる。
平面図
【2. 鼻隠しの墨付け要領】
a
鼻隠し裏側の上端角に、桁芯間の長さ 9 尺をとり、そこから軒先までの長
●
さ 13.21 寸をとって印する(a)
。後ろツラでは、aから中勾返し勾配①を下
13.21
ろす。上端では a から長玄返し勾配②をひき(長さが伸びる方向に描く)、前
①
a
ツラに出た角から前ツラに中勾返し勾配③をひく(図 1 下)。
●
②
③
こうすることで、長玄返し勾配は屋根勾配に沿った「上端留め」となり、
鼻隠し
裏(後ろツラ)
上端
鼻隠し 前ツラ
中勾返し勾配は屋根勾配とは矩手の「向こう留め」になる。
鼻隠しの墨付け要領:①③は中勾返し勾配、②は
長玄返し勾配
●中勾返し勾配が向こう留めになる理由
前頁では、鼻隠しの上端留めが長玄返し勾配であることについて説明した。
ここでは、向こう留めが中勾返し勾配であることについて説明する。
2
10
5
図2の左側は軒先を拡大した図であり、右側に鼻隠しの材料を置いている。
C
鼻隠し断面の三角形ABCは、鼻隠しの姿図の三角形A ' B ' C ' とは同じ
殳
の長さは、三角形ABCの玄の長さ AC に等しい。
成
め
したがって、
鼻隠しの向こう留めの勾配 B ' C '/ A ' B ' は勾 / 玄となり、
A
中勾勾配であることがわかる(8 頁参照)。
A'
断面
鼻隠しを墨付けする際には、材料の長さ方向(B ' C ' の方向)に向い
玄
う留
玄
向こ
ではない。B ' C ' =BC(勾)であっても、A ' B ' ≠ABである。A ' B '
C' 勾 B'
勾 B
鼻隠し
中勾返し勾配が向こう留めになる理由
て作業するため、中勾返し勾配が向こう留めとなる。
3
3
1.0 広小舞
【3. 広小舞の墨付け要領】
広小舞の長さは、前ツラ下端角を基準に求める。
軒桁
●
鼻隠し
軒の出は、桁芯から広小舞前ツラ下端まで 1.5 尺として決めている。その
軒の出 15.0
ため、広小舞の全体の長さは 12.0 尺(= 9 尺 +1.5 尺×2)と簡単に求まる。
墨付けの手順としては、下端の前ツラ角にこの長さをとってbとし、bを
起点に長玄返し勾配①をひけば、裏面の切墨となる。そして前ツラには、b
c
から中勾返し勾配②(長さが伸びる方向に描く)
、前ツラに出た角から上端に
●
b
長玄返し勾配③をひく。これが上端留めの墨になる。
●
鼻隠し前ツラの長さ
屋根の角は視線が最も集まるところであり、鼻隠しと広小舞が(設計とお
③
上端
りに)流れ方向に 1 寸離れてピッタリ納めたい。精度を上げるために、以下
の要領で描くことを覚えておくと良い。
b
②
●
前ツラ
①
まず、広小舞下端に鼻隠し前ツラの位置を墨する。流れに 1 寸であるから、
広小舞の前ツラから 1 寸下がればよい。次にこの墨上に、桁芯から鼻隠しの
平面図
広小舞(下端)
鼻隠し前ツラの長さ
る(点c)
。そしてcを通る長玄返し勾配①をひく
(その後の要領は先と同じ)。 c
1.0
表ツラまでの長さを(墨付けした鼻隠しを実測、もしくは当てがって)印す
●
①
広小舞(下端)
これにより、鼻隠し前ツラから確実に 1 寸離れた広小舞の上端留めを作図
広小舞の墨付け要領:①③は長玄返し勾配、②は
中勾返し勾配
できる。
- 21 -
2-6 小屋束の墨付け要領 <図面集 55 頁>
1
10
5
【1. 小屋束の長さを求める】
束の長さを求めるには、まず、桁の峠から母屋の峠までの長さ①を求める。
③母屋下端まで
① 峠間の高さ の高さ= 4.5 寸
= 1.5 尺
束長さ
母屋
桁から 3 尺入った位置の峠間の寸法は、5 寸勾配の場合、 3 尺× 0.5 = 1.5
尺になる(図1)
。
② 梁天までの高さ
桁
= 0.5 寸
3.0 尺
次に、桁の峠から小屋梁の天までの高低差②、母屋の峠から母屋下端まで
までの高低差を図面から読み取る。演習図面では、梁は峠から 5 分上り、母
屋下端は峠から 4 寸 5 分下がりである。よって束の長さは、1.5 尺- 5 分- 4
小屋束の長さの求め方
寸 5 分= 1 尺となる。
①峠間の高さ 15.0
③ 梁下端
までの高さ
② 梁天まで
の高さ
【2. 小屋束の墨付け要領】
束の長さを墨する場合も同じ要領となる。
束に芯墨を打ち、まず峠間の長さ 1.5 尺を測る(通常は尺竿から長さを写
す)、その上下の端から、梁天までの高さ②、母屋下端までの高さ③をとって
束の長さを墨し、これにほぞ長さを加える(図2)
。
束長さ
ほぞ長さ
ほぞ長さ
小屋束の墨付け要領
ガイダンス風景1
「勾」
平勾配
5 寸なら
5 寸をとる
ある勾配を描くときの矩使いは
必ずしも一つではない。大工それ
① 陸墨
水
②立
用として、便利で正確な作図法を
選択すれば良い。右は投げ墨のひ
き方。
裏目 5 寸をとる
(定数)
投げ
まずは基本を覚え、次にその応
墨
ぞれに自分の作法をもっている。
投げ墨の基本。陸墨①を基準に、「裏目 5 寸」に
対し「勾」の返し勾配が投げ墨。
- 22 -
に
立水
る
をと
3寸
矩使いについて
投げ
墨
ガイダンス風景 2
ら
寸な 3
配 5 分×
平勾 目 5
とる
裏
寸を
1.5
目
=裏
応用:その投げ墨は、②立水上の 1 寸に対
して裏目の勾(3 寸に対して裏目 1.5 寸)
となる。陸墨をひかずに投げ墨がひける
2
1
<中勾・長玄勾配を作図で求める>
1
殳:
中勾、長玄勾配は、電卓がなく
配
(a
勾
平
とも、規矩術の基本に立ち返り、
2
5.0
勾:
0.0
)
作図から求めることができる。
玄の長さ b
(11.18)
材料の余長にこの作図を行な
い、自在矩にとれば、広小舞や鼻
隠しの正確な墨付けができる。
中勾勾配の作図法。材のうえに、平勾配 5/10 を
つくり、下端の 2 か所に印する。
し
配
る
と
配
勾
返
を
0)
4.0
b(
玄
を
4)
配
勾
玄
長
9
8.
5
8.
:8.
長
0(
殳
る
と
勾:
とる
中勾
勾
返し
中勾
勾配
aを
とる
bを
4
a)
a(
3
その長さbを測る。
玄の長さ b
(8.94)
次に、殳に(玄の長さ)bをとり、勾に平勾 長玄勾配の作図法。5/10 の平勾配をつくる。短 次に、玄の長さbを殳に、a を勾にとる。
の値a(= 5.0)をとる。長手側が中勾勾配、 手の長さは 8 寸であるため、たとえば 80%の大 長手が長玄勾配、短手が返し勾配になる。
短手側がその返し勾配。
きさ、殳 8 寸、勾 4 寸をつくり、玄の長さbを読む。
1
<平行な墨を描く>
自在矩がない場合、さしがねを
2
a
b
使って平行線をひく方法。
また、勾配にさしがねを当て、そ
の数値を読んで写す方法もある。
親指と人差し指でさしがねをしっかり持ち、第 別の方法。さしがねを2丁使って、一方を
一関節あたりを材に当てがいスライドさせる。 スライドする。
(a、bの値を読んで写す方法もある)
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