2015/5/12 ソフトマター工学・第4回 2015年5月12日(火) レオロジー入門 九州大学大学院工学研究院機械工学部門 准教授 山口 哲生 1 本日のおはなし 1.前回の復習:ゴム弾性,レポート課題の解答 2.レオロジー入門 • レオロジーとは? • 粘弾性とは? • 線形粘弾性と複素弾性率 3.まとめ ※高分子ゲル(平衡状態および動力学)のお話は レオロジー入門の後にすることにします. 2 1 2015/5/12 1.前回の復習:弾性自由エネルギー密度 (単位体積あたりの弾性自由エネルギー) • 変形勾配テンソル R ' ( R ) ER x ' R' y ', z ' x R y z • Neo-hookean model W (E) G E ij2 3 2 i , j 1, 2,3 G nc k BT :せん断弾性率 nc :架橋点の数密度 • Gent model W (E) I 3 GJ m log e 1 1 2 J m Jm :伸びきりの効果を表す定数 I1 E i , j 1, 2 , 3 2 ij 3 応力とひずみ(伸張比)との関係 • 変形勾配テンソル 単純せん断変形 x' x y ' y z ' z γ y 1 0 x 0 1 0 y 0 0 1 z 1軸伸張変形 x ' x x y ' y y z ' z z 1 0 0 0 1 0 0 x 0 y z P(x, y, z) 1 P’(x’, y’, z’) 変形勾配テンソル • 応力の求め方 ( ) W 引張応力 ( ) W せん断応力 4 2 2015/5/12 2.レオロジー入門 レオロジー(rheology)とは? 物質の変形および流動一般に関する学問分野.日本語では 「流動学」とも呼ばれる.レオロジーという用語は,ヘラ クレイトス(異説もあり)の有名な言葉 “panta rhei ” 「万物は流転する」による造語で,ユージン・ビンガム (英語版)(1920年)による. (Wikipedia,レオロジー) • レオロジーの主要な研究目的は,応力と変形・流動との 関係を理解し,変形・流動のメカニズムを解明すること. • レオロジーの研究対象は多岐に渡る. 高分子,コロイド,界面活性剤,油,血液,粉体,土,岩 石,断層,マグマ,金属,セラミクス,ガラス,交通流, 群れ,… 粘弾性(viscoelasticity)とは? 復習:Hook弾性とNewton粘性 弾性(elasticity):一定の力に対して,一定の形状を取るような性質 Hook弾性の場合の,ずり応力(せん断応力)σとずり歪み(せん断歪み)γ との関係 γ G G :ずり弾性率 1 (shear modulus) 粘性(viscosity):一定の力に対して,平衡形状を取らず流動し続ける性質 Newton粘性の場合の,ずり応力とずり歪み速度(せん断速度)との関係 :ずり粘性率 (shear viscosity) 3 2015/5/12 粘弾性とは?(2) いま,t=0で物体に一定のずり応力を加えたとする. (i) 粘弾性液体(viscoelastic liquid):長時間では一定のずり速度で流れる粘性 的挙動を示すが,短時間では弾性的応答を示す.高分子溶液(のりなど)な どにみられる.力を0にすると試料は元の形に戻ろうとするが,完全には戻ら ない. (ii) 粘弾性固体(viscoelastic solid):力を加えるとゆっくりと(遅れて)変形 し,長時間では一定の平衡値に達する.ゴムなどにみられる.力を除くと元 の形に戻る. γ Newton粘性体 粘弾性体は,弾性体と粘性体の 中間的な振る舞いを示す レオロジーは,主に粘弾性体の 変形・流動を扱う学問 (i) 粘弾性液体 Hook弾性体 (ii) 粘弾性固体 t 線形粘弾性(linear viscoelasticity) 前のスライドでみたように,粘弾性体における応力と歪みの関係は単純で はない.しかし,応力が小さい場合には,この関係を一意的に表すことが できる. いま,t = 0 で試料にステップ歪み γ(t) = γ0 Θ(t) を加えたときのずり応力の 応答を次のように表す. (t ) 0G (t ) ここで,G(t)は緩和弾性率と呼ばれる.G(t)の 典型的振る舞いは以下のように表される. G (t ) Ge G exp(t / ) Ge :平衡ずり弾性率.これが0で ない物質を粘弾性固体と呼ぶ. G :ずり弾性率 :緩和時間 G(t) G+Ge 粘弾性固体 Ge 粘弾性液体 0 τ t 4 2015/5/12 重ね合わせの原理(重畳原理)と定常粘度 時間に依存する任意の歪みγ(t)は,時刻t’とt’+ dt’との間に加えた大きさ (t ' )dt ' のステップ歪みの重ね合わせと考えることができる. すると,tにおける応力σ(t)は,次のように表される. t (t ) G (t t ' ) (t ' ) dt ' 複素弾性率(complex elastic modulus) 試料に振動的な歪みを加え,応力の応答を見ることで,複素弾性率を 得ることができる. (t ) 0 cos(t ) この入力(刺激)に対する応答は,次のように表される. (t ) 0 G ' ( ) cos(t ) G" ( ) sin(t ) ここで, G ' ( ) dt sin(t )G (t ) :貯蔵弾性率(storage modulus) 0 G" ( ) dt cos(t )G (t ) :損失弾性率(loss modulus) 0 tan G" ( ) G ' ( ) :損失正接(tangent delta) 5 2015/5/12 複素弾性率 複素弾性率G*(ω)を以下のように定義する. G * ( ) G ' ( ) iG" ( ) ( ) ( ) G(t ) Ge G exp( t / ) の式に従うとき,G’, G”はそれぞれ 以下のようになる. ( ) 2 G ' ( ) Ge G , 1 ( ) 2 G" ( ) G . 1 ( ) 2 12 6 2015/5/12 13 複素弾性率 粘弾性流体と粘弾性固体のG’, G”, tanδをグラフに描くと次のようになる. (i) 粘弾性液体 (ii) 粘弾性固体 G’(ω) G’(ω) G”(ω) ω 1/τ tan δ(ω) 1 1/τ Ge G”(ω) tan δ(ω) 1 ω ω 1/τ 1/τ ω 7 2015/5/12 線形粘弾性の測定 線形粘弾性の測定には,レオメータ,TMAなどが用いられる. レオメータ: 円盤状の試料を用いる. 試料にねじりを加え,トルクを 測定することでせん断応力を推定し 線形粘弾性を求める. TMA(Thermal Mechanical Analysis): 短冊状の試料を用い,試料に正弦波的な 引張ひずみを与え,引張応力から線形粘弾性 を求める. 線形粘弾性の測定例 粘着剤(粘弾性固体).x1, x10, x30は架橋密度の違いを表す. T. Yamaguchi, K. Koike, M. Doi, EuroPhys. Lett. 77, 64002 (2007) 8 2015/5/12 3.本日のまとめと次回の予告 本日のまとめ 本日は, -レオロジーとは? -粘弾性とは? -線形粘弾性と複素弾性率 について学んだ. 次回の予告 次回は以下のような内容のお話をする予定. -非線形粘弾性 -時間-温度換算則 -連続体力学における記述 -その他のレオロジー現象 17 9
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