テルモ株式会社 - 日本IVR学会

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テルモ株式会社
高 橋 誠
テルモメディカルプラネクス
Terumo cop. Terumo Medical Pranex Makoto Takahashi
The IVR Summer Seminar was held in the objective of learning animal experiment operation and IVR
techniques. In the four series, we will presents the method of animal preparation, keep Swine, experiment
technique, for doctors who begin animal experiment. In the last series of them, we will introduce the
experience of experiment using Swine.
はじめに
IVR 学会学術夏季セミナーで行った, IVR の動物実験
凶暴な大型豚にはこの部分での投薬が推奨できる。
〈筋肉内注射の道具について〉
基礎と手技についてのまとめを, 稚拙ながら IVR 学会誌
穿刺時にブタが暴れてしまうことが多く, 動物の動き
に 3 回掲載させていただき, 動物概要と血管造影像を紹
に合わせて注射器と針を動かすのは慣れが必要なので,
介した。今回は掲載の最後として, ブタを使用した実験
翼状針による投薬が推奨される(Fig.2)。
経験より血管確保および気管挿入までのポイントを紹
介する。
特に, 試験前に動物を刺激することなく麻酔状態にす
るために, 前投与薬(アトロピン)鎮静薬(ストレスニ
投薬について
ブタは神経質な動物であり, イヌのように餌付け等に
よる学習性は乏しい。そのため, 実験者が接近するだけ
で暴れ, 処置できない場合もある。実際に実験の事前処
*A
*B
置や実験後の採血や投薬について, 実施しやすいように
予め検討する必要がある。
1. 経口投与
もっとも容易な投薬方法は粉末餌または粒状餌に混
ぜて与える方法である。ただし, 被検動物の餌の摂取癖
Fig.1 筋肉注射および皮下注射部位
によっては, 餌を残したり, 撒き散らしたりすることが
あるため, 薬剤摂食状況の確認方法を考える必要があ
る。薬によってはカプセルでの投与もあるが, 軟性チュ
ーブにより流し込む経口投与では, 被検動物と実施者の
両者の慣れが必要になる。
2. 筋肉注射および皮下注射
注射部位は, 臀部および首部が適している(Fig.1)。
臀部(Fig.1b)は筋肉注射するには確実性が高い。また,
首でも耳の付け根より後下部分(Fig.1A)は, 他の部分
に比較し疼痛に対しての反応が鈍化な部分であるので,
Fig.2 筋肉内注射針(19G
翼状針, 10 p シリンジ,
導入麻酔時の投薬時に
使用)
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動物実験の基礎 4
ル)や導入麻酔薬(ケタミン)の投薬にはこの道具が有
4. 動脈採血
Fig.3-10 に示す耳介動脈, Fig.5-7, 8 に示す大腿動脈
用である。
注意点として, ブタは皮膚が硬く, 厚い。また, 栄養
状態の良い個体については, 脂溶性の薬剤等や脂肪分布
を使用する。特に Fig.5-8 の血管は触診により血管の拍
動が確認しやすので推奨できる部位である。
性のある麻酔薬については, 皮下組織が厚いことを考慮
して麻酔薬等の効果を観察する必要がある。特に麻酔
薬については筋肉注射による効きはバラツキがあるもの
として扱った方が良く, 十分な麻酔深度を得るためには,
筋肉注射はあくまで導入麻酔や簡単実験時の処置として
考え, 長時間の実験には吸入麻酔や静脈麻酔法がよい。
3. 静脈確保および採血
点滴しやすい部位は, 耳介静脈(Fig.3-9, 3-11)が推
奨できる。針は 18G もしくは 20G の留置針を挿入する。
他の静脈について Fig.4 に示す。大量の採血を実施す
るなら 1 の外頸静脈が使用できるが, 深さが深いため熟
れが必要である。また, 他の部分も皮が厚い点は考慮す
る。他に Fig.5-7, 8 に示す大腿静脈も多くの採血が可能
な静脈である。
Fig.5 大腿部の血管
1)
気管挿管
1. 方法と道具について
Fig.6 に気管チューブ挿入方法のイラストを示す。
ブタは口喉蓋が非常に深いため, 喉頭鏡 Fig.7 も長くて
真っ直ぐなものを使用している。実際, 導入麻酔時にア
トロピンを入れているが, 唾液の分泌も多いため, 麦粒
Fig.3 耳の血管
1)
Fig.4 1 : External jugular vein, 2 : Cephalic
veine, 3 : Lateral saphenous vein
86(432)
Fig.6 気管チューブの挿入方法
1)
動物実験の基礎 4
鉗子にガーゼをはさみこんで, 分泌物をふき取った上で
にした方が良い。特に体重が重い場合は, 豚を仰向けに
実施している。分泌物により口喉蓋がめくりにくくなっ
固定しただけで低換気になる場合もあるし, 四肢の固定
ているので, 喉頭鏡を入れる前には必ず実施している。
がきついために十分に自発呼吸ができない場合もある。
Fig.8 に気管挿入に必要な道具を示す。体重 30 o で
吸入麻酔の装置は人用のものを使用している。また,
24 Fr., 40 o で 28 Fr., 50 o で 32 Fr.の気管チューブを
参考までに我々が使用しているマスクは自作品(Fig.10,
使用している。ブタは右前葉の肺気管枝が気管に直接開
11)で, 動物用の市販品では対応できない大きいブタに
口しているので, カフ気管チューブをあまり深く挿入す
も対応可能である。
ると, これを塞ぐ可能性があるため注意する必要がある。
挿入の際には, 動物体位を真っ直ぐにして実験助手が
イントロデューサーシース挿入部位について
舌をガーゼでつまみ, 引き上げて Fig.6 のように喉頭鏡
シース挿入法には, ダイレクトパンクチャーとカット
を用いて口喉蓋をめくりあげると, 目視にて気道の入り
ダウンがある。特にダイレクトパンクチャーは慣れが
口が確認できる(Fig.9)。気管チューブは挿入後カフを
必要である。留置針が挿入できる部位で, シースサイズ
膨らました後, 顎にテープで固定する。ブタの場合は特
が適していれば挿入は可能である。挿入法の選択は, そ
にバインディングブロックは使用していない。
2. 吸入麻酔におけるマスクと気管挿管について
我々は, セボフレンによる吸入麻酔を実施している。
その際の手順は前回 2)紹介したが, 重要なポイントなの
で, 実験の流れとして再度ご説明する。
①前投与薬および鎮静薬:臀部に筋肉注針で Atropine
(0.05m/o)と azaperone(4m/o, 鎮静剤:商品名:
ストレスニル)を投与。
②導入麻酔薬:①を投与後, 約5分から10分後, ketamine
(5 ∼ 10 m/o)を筋注投与。
③実際ケタミンのみで十分に反射や筋肉の弛緩が得ら
Fig.10 マスクによる吸入麻酔
れない場合が多いので, マスクによるセボフレンによ
る吸入麻酔(ガス: N2O : O2 = 1 : 11.5 ∼ 4 % 流量:
5 ∼ 10 p/o/x
吸入麻酔薬: seboflaaene(導入時
は 4 から 3 %))を実施。
④ 麻酔深度が得られたら, その後気管挿管してセボフ
レンによる維持麻酔を seboflaaene の吸入麻酔(維持
は 1.5 ∼ 3 %)にて実施。
マスクによる吸入麻酔でも十分に麻酔深度は得るこ
とはできるが, ブタは麻酔実施時における自発呼吸が非
常に弱いため, 気管挿管して強制呼吸が実施できるよう
Fig.7 喉頭鏡
Fig.11 自作のマスク(オイルピッチャーの底を
切断し, テープにて注ぎ口を塞いだもの)
Fig.8 気管挿管の道具
(左より)ガーゼ, 麦粒鉗子, カフ付
き気管チューブ, スタイレット, シ
リンジ, 固定用テープ, 鋏
Fig.9 気道入り口の写真
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動物実験の基礎 4
の日で終了する実験であれば, ダイレクトパンクチャー
イヤーを挿入した方が安全に実施できる。
でも問題にならないが, 長期実験の場合, 十分に止血が
左右総頸動脈は非常に深い部分にある。そのためカ
できない可能性がある。特に抗血栓薬投与や太いシー
ットダウンによらないとシースの挿入は難しい。アプ
スを挿入した場合, 止血が不十分で血腫になることもあ
ローチ方法としては正中切開し気管の両側にある血管
る。その後のケアを考えればカットダウンにて血管確
を鉗子で引き上げる方法と, 頸溝よりやや正中よりの部
保をしてシース挿入し, シース抜去後はタバコ縫合また
分切開し, 頸部筋間からアプローチする方法がある。
は結紮した方が手間がかからなく確実である。
また, 頸動脈と神経は平走しているため, 神経を剥離
する必要がある(Fig.14)。その際, 血管は剥離する操作
1. 頸部の血管
頸部の血管について Fig.12 に示す。また, Fig.13 に
各切開部分を示す。
外頸静脈について, 頸溝部の皮膚切開をすると皮筋が
でスパズムを起こし易いし, 神経を刺激することで自発
呼吸が停止する場合もあるので, 頸動脈を操作する際に
は呼吸の確認も必要である。シースの挿入サイズは
あり, それをさらに切開すると脂肪結合織の中に外頸静
40o で 9 Fr.でも挿入可能である。
脈が認められる。その際に心臓側を圧迫すると怒張して
2. 大腿動脈について
分かり易い。太さは 30o の豚でも 13 Fr.以上が挿入可能
Fig.5 に示す Femoral artery は拍動触診が難しい。ただ,
である。ただし, 静脈弁があるため頭側からの血流がな
筋肉の間に存在するため, 慣れると溝の部分を目安に,
いと, 穿針時のバックフローも出てこない場合もある。
穿針可能である。veine も同様である。切開は Fig.15, 16
また静脈は側枝が多いので, シース挿入の際はガイドワ
Fig.14 頸動脈の剥離
Fig.12 頸部の解剖
1)
Fig.15 大腿動脈切開部分
Fig.13 切開部分(* C 外頸静脈切開部, 総頸動
脈の切開部* A 正中切開, * B 頸部溝部内縁
切開)
88(434)
Fig.16 大腿切開してのシース挿入
動物実験の基礎 4
に示すように筋肉の間をあけて実施する。その際, 開創
機を使用すると実施し易い。シースも体重 40 o であれ
ば 9 Fr.挿入も可能である。
また, Fig.5 に示す Medial saphenous artery は触診可
能な血管で 6 Fr.程度までならシースは挿入可能だが,
血圧モニターや採血としては適しているが, スパズムを
起こし易くカテーテルの挿入は向かない。
バイタルサインについて
バイタルサインはシースの挿入カテーテルより大き
めのシースを挿入して, シースのプライミングラインか
らモニターしている。また, 呼吸については注意する必
要があるので SpO2 モニターは必須としている。参考ま
1)
でに麻酔時のパラメターを Teble 1 に示す。
以上, 誠に簡単な内容ではあったが動物実験手技の基
礎についてご紹介した。ブタを用いた実験の書籍がほ
とんど無いため, 我々の数少ない経験を恥ずかしながら
まとめてみた。今後, 先生方の実験のご参考になれば幸
いである。
【文献】
1)M Michael Swindle : Surgery, Anesthesia, & Experimental Techniques in Swine, Iowa State Press, 1988.
2)高橋 誠 : 動物実験の基礎③. IVR 会誌 19 : 283 - 287,
2004.
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