pdfファイルへのリンク - SEAD

SASLOB:Sustainable Ageing Small Leasehold Office Building
報告書
2008 年 SASLOB 研究会
SASLOB 研究会メンバー
佐々木勝年
:特定非営利活動法人 環境持続建築 理事長
芦原太郎
:芦原太郎建築事務所 代表取締役
岩村和夫
:岩村アトリエ 代表取締役 、 武蔵工業大学教授
木林茂利
:環境トータルシステム株式会社 代表取締役
長沼由恭
:長沼環境計画 代表取締役
(あいうえお順、敬称略)
SASLOB 報告書 目次
まえがき
1章
2章
3章
4章
佐々木勝年
SASLOB の考え方
1-1
環境負荷軽減と耐久性・耐用性の向上
1-2
SASLOB のサポート運営システム
1-3
SASLOB 賃貸システム
1-4
SASLOB のブランド化
SASLOB 建築へに改修に関する計画
2-1
一般的な建築プロジェクトの流れ
2-2
SASLOB 建築への改修計画の流れ
2-3
SASLOB 改修計画のフロー図
2-4
建築基礎情報マトリクスの作成
芦原 太郎
岩村 和夫
SASLOB 設備計画
3-1-1
設備の寿命と改修計画の動機と目的
3-1-2
機械設備
3-2-1
改修の考え方
3-2-2
電気設備計画
長沼 由恭
木林 茂利
Case Study:千駄ヶ谷ビル改修計画提案
4-1
建築デザイン改修計画
芦原 太郎
4-2
SASLOB 改修計画
岩村 和夫
4-3
機械設備改修計画
長沼 由恭
4-4 電気設備改修計画
木林 茂利
まえがき
この報告書は、東京ではもちろんのこと、日本の各都市に数多く存在押している小規模テナント
オフィスビルの環境持続型改修の実施という視点から、そのポテンシャルを検討し、環境改修(=
快適オフィス空間の創造)の方法、改修内容、建築環境の維持の方法、マチとのつながり、などを
明らかにしたものです。環境持続型改修とは、やや聞きなれない言葉ですが、環境負荷を軽減し、
建築物の耐久性を向上させ、建築物の改修が後の世代に負荷を与えないようなものをさします。
われわれは、今回、このような小規模テナントオフィスビルの環境改善を「SASLOB(Small Aging
Sustainable Leasehold Office Building)」計画と呼び、その概要をここに示しております。
いうまでもなく、都市生活者は、主に建築物の中で生活し、活動する。人生の大部分を建築物
の中で過ごす訳であり、生活者にとって最小の環境単位であり、身体の延長とも言うことができる
のではないかと思われます。この建築空間が快適であり、活動的であることは非常に重要な意義
があることです。今回対象とした小規模テナントオフィスビルは、 ペンシルビル とも呼ばれ、空間
規模が小さいがゆえに、建築的な評価、検討の対象から外れていました。しかし、この SASLOB
は、多くの都市の中で街並み景観をつくりあげている重要な要素であり、建築の内部環境としても
様々な工夫がされています。この SASLOB 計画によって、 ペンシルビル の資産価値の向上も望
めるでしょう。
ところで、「エネルギーの使用の合理化に関する法律(省エネ法)」の改正が、来年度には可決
成立し、平交付される予定です。これにより、「一定の中小規模の建築物(第二種特定建築物)」
の新築や大規模改修を行う際には省エネ措置の届出義務や維持保全の報告義務が必要となっ
ております。さらに、住宅・建築物の省エネルギー性能の表示等も必要となってきます。この一定
中小規模の建築物が、500 ㎡以上の床面積の建築物とすると、ほとんどの SASLOB は第二種特
定建築物の対象となり、SASLOB 計画の必要性はますます高くなるとおもわれます。
いずれにしろ、この報告書は、この研究会に参加した方々の SASLOB 処方箋であり、
今後さらに進化してゆくものと思われます。約 1 年間に及ぶ研究会の成果をこのような形で公表で
きることを執筆者とともに喜びたいと思います。
この成果は、研究会の議論の中から生まれてきたものであり、執筆者1人1人の考え方では必ず
しもありませんが、各章別の担当執筆者を紹介しておきます。
第1章
芦原 太郎
第2章
岩村 和夫
第3章
長沼 由恭、木林 茂利
第4章
芦原 太郎、岩村 和夫、長沼 由恭、木林 茂利
なお、最後に、この1年間、SASLOB 研究会に積極的参加し、この報告書をまとめられた執筆者
の皆様に感謝の気持ちと敬意をお送りいたします。また、この報告書作成とまとめに大きな力とな
っていただいた早津隆史さん(岩村アトリエ)、小池周湖さん(芦原太郎設計事務所)にも感謝し
ます。
特定非営利活動法人
NPO 環境持続建築
理事長
佐々木勝年
第1章
SASLOB の考え方
芦原太郎
1章
1章
SASLOB の考え方
●今考えなければならないこと
2007 年は、日本にとって地球環境に対して真摯に向き合える年であった。夏の猛暑や暖かい
冬、少ない雨量、度重なる地震など、万人が「何か最近変だ」と環境の変化を感じさせることが日
常的に起こっている。二酸化炭素排出削減が叫ばれ、我々を取り巻く生活の中には「エコ」「サス
テナブル」という言葉が浸透し始めている。
しかし、日本の建築や都市におけるの環境問題への具
体的な取り組みはまだ始まったばかりである。目の前に
ある経済成長を優先した都市づくりや建築のスクラップア
ンドビルドが繰り返えされる現状を再考し、環境負荷軽減
に向けて戦略的に取り組む必要がある。
また、良好な建築、都市、地球環境を次世代に継承して
ゆくためには、環境負荷軽減だけでは不十分である。
ヨーロッパなどの歴史ある街並みや建築を目にするたび
名バックブランドも手掛けるエコバック
に考えさせられることは魅力ある景観や生活文化を継承
環境対応の高さを謳う
しまた発展させてゆくことの大切さである。
建築に携わる我々は、はっきりとした将来に対するビジョ
ンを多くの人々と共有し、個々の建築において出来ること
から具体的な行動を起こす時である。
もはや見慣れた再生紙マーク
●SASLOB の目指すところ
日本の都市に多く存在する小規模テナントオフィスビル
を対象として、良好な建築、都市、地球環境を次世代に継
承してゆくための方策を探る試みがこの「SASLOB (Small
Aged Sustainable Lease Office Building)」である。
上位計画に位置付けられたトップダウンの大規模な再
開発とは違い、小規模な地主や事業者によるボトムアッ
プの現実的なアプローチをとりたい。
建築環境性能の向上と耐久性・耐用性向上,街並みへの
貢献、快適な執務空間の創造とビル事業の安定化といっ
た観点から検討を進め、「地球・都市環境」「建築」「ビル
事業」の 3 本の柱が融合した小規模テナントオフィスビル
のありかたの提案を目指している。
取り壊されるビル群
1-1
1章
1-1
環境負荷軽減と耐久性・耐用性の向上
● 環境負荷軽減
SASLOB において環境負荷軽減の方策は、建築使用時の消エネとライフサイクルコスト観点より
CO2 の排出を抑えることである。省エネ要素技術は現在様々なものが開発されているが、
SASLOB の特性に有効な技術を精査して導入することと、またオリジナルな技術の開発も求めた
い。資料 A と B のように、現在様々な観点から評価する傾向が強くあり、SASLOB においてもオリ
ジナルな評価表を作ることで、より能動的で等価でオリジナルな環境持続型建築の指針を見出す
ことが可能となるであろう。
また技術に頼るだけではなく、SASLOB ワークスタイルと呼べるような小規模なオフィスならでわの
省エネに向けた使用者のワークスタイルを定着させていくことも効果的である。
建物の寿命を長くするには、耐久性と耐用性を向上させればいいわけであるが、ビル事業上はラ
イフサイクルコスト(LCC)の観点から双方の適切なバランスが求められる。
資料 A-1 省エネ要素技術の一例
地球環境の保全
『環境共生住宅 A-Z』より抜粋
1-2
1章
資料 A-2 :省エネ要素技術の一例
地球環境の保全
『環境共生住宅 A-Z』より抜粋
ここに添付した要素技術表は、環境共生住宅を目指した際の地球環境保全という大きな目的に
向けられたチェック項目となっているが、SASLOB の対象ビルでもこういった視点を持って、対峙し
てゆくことは非常に有効であると考える。
1-3
1章
資料 B :グリーン化技術チェックリスト
『グリーン庁舎基準及び同解説』より抜粋
1-4
1章
●SASLOB 的耐久性・耐用性の向上
耐久性の向上は、まず建物ハードの耐久性を上げる改修を計画する。
構造の耐震補強や躯体の補修にはじまり、外装・サッシ・防水の改修や更新、設備の改修や更新
などがこれらにあたる。SASLOB メニュー(資料 C)のなかでの耐久性欄では基本的に「補修」「更
新」「カバー」といった考え方から、構造、外装、サッシなどのハード面において、どの程度処置して
ゆくかを該当ビルの状況をみて判断をくだしてゆく。また建物自体のグリーン化(前出資料 B 参
照)という観点もある。こうした観点を参考にしながら、より良い SASLOB ビルの方針をまとめるこ
とは重要である。
耐用性の向上については、主に内部の様々な使用を促
進するための計画となる。
街並みへの関与にも大きく関わるグランドレベルの用
途については、共用空間やサービス提供によりテナント
サポートを行いテナントの定着に努める。またカフェや
店舗などテナントのみならず近隣の方々にも役立つグ
ランドフロアの多様な展開を可能とし、ビル事業の安定
化とともに耐用性の高いビルとする。
グランドフロアの使用例
SASLOB ビルのテナントスペースはスケルトン状態を基
本とし、テナントによる創造的な執務空間の改装を奨励
したい。今回の大きな目的でもあるエコにおいて、建材
でも多くのエコ商品が発売されている。中でも意匠的に
こだわり、SASLOB 推奨仕上げリスト(資料 E)を作成し
た。このリストは、エコマーク取得製品を中心に、より持
続性のある建築に相応しい意匠性をえる素材をリスト
化している。このリストを今後よりもみ込み、SASLOB 仕
上げ表として確立することができれば、ビル内でもデザ
スケルトンオフィスの例
イン的に統一感を保ち、より良い環境対応型のビルに
なることだろう。
※エコマーク
エコマークは、様々な商品(製品及びサービス)の中で、「生産」から「廃棄」にわた
るライフサイクル全体を通して環境への負荷が少なく、環境保全に役立つと認め
られた商品につけられる環境のブランドマークです。商品の全ライフステージ(資
源採取、製造、流通、使用、廃棄、リサイクル)における環境負荷を考慮して策定、
制定され、非常に厳しい基準をクリアする製品に与えられており、消費者、業者な
どすべての人々に向けて環境改善努力を進めていくことにより、持続可能な社会
の形成をはかっていくことを目的としています
1-5
1章
資料 C:SASLOB メニュー
項目
1-1 構造の強化
1-2 外装の耐久性
建築耐久性向上
1-3 防水性能
2-1 グランドレベルフロア
2-2
具体策
チェック項目
A
構造補修
B
耐震改修
A
外壁の補修
B
外壁の更新
C
外壁のカバー
D
サッシの補修
E
サッシの更新
F
サッシのカバー
A
補修
B
更新
C
カバー
A
店舗
B
ショールーム
C
レストラン
D
レセプション
E
サポートセンター
F
その他
チェック欄
床
壁
天井
照明
建築耐用性向上
建具
サイン
エレベーター
2-3 テナントフロア
2-4
具体策
A
間仕切り撤去
B
天井落とし
C
水廻り整備
D
配線整備
E
塗装壁
床
壁
天井
照明
サッシ
ミニキッチン
トイレ
1-6
1章
イメージアップ
3-1 外観
看板管理など
3-2 外構・エントランス
街並みとの連携
3-3 エントランスホール
3-4 エレベーター
インターホン
ボタンシステム
3-5 基準階ホール
ホール仕様の設定
こういった統一データを作成することで、SASLOB 使用の統一化を図ってゆくことを期待したい。
●街並みへの考え方
また周辺環境を配慮し、街並みに貢献する姿勢も持っていたいと考える。周辺地域の方々も
SASLOB の存在を自然に感じて、利用できる環境作りを行ってゆきたい。下記の資料 D は住宅に
おけるチェックリストとなるが、こういった大味な観点を押さえておくことも大切ではないかと考える。
そして、ビルのトレードマークとなり、資金源ともなる看板については、よくある商業ベースの単な
る宣伝ではなく、SASLOB 精神に則った企業広告や、SASLOB 看板を提示するなど、美しい景観
への関与を行うことによって、SASLOB のイメージアップとブランド化を図っていきたい。SASLOB
自体がイメージの良いブランドを作り上げてゆくことが、ビル事業を潤す一番のポイントとなること
は言うまでもない。
資料 D:周辺環境との親和性チェックリスト
『環境共生住宅 A-Z』より抜粋
1-7
1章
1-8
1章
1-9
1章
1-10
1章
1-2 SASLOB のサポート運営システム
●SASLOB 運営体制とフロー
「SASLOB」もう一つの提案のポイントとなるのは、ソフト体制の確立である。
まず SASLOB の運営システムとしてビルオーナーとテナントの間を取り持ち、改修工事やテナント
工事の調整・相談役となるサポートデザイナーを起用し、よりよい SASLOB の姿を模索しながら運
営を進めてゆく。
テナント対応ソフトとして考えられるのが、セキュリティ、サポートシステムなどがあげられる。
ビルサポーターによるテナント選定を行い、ビル内に出入りするテナント同士の連携を深めてゆき
たい。場合によっては、職種などでの枠組みを設けてみることも可能かもしれない。昔ならではの
「隣組」を形成してゆくことが、SASLOB すべての運営発展につながってゆくことは明解である。
SASLOB 構成図
1-11
1章
●SASLOB サービス
今回対象となるビルには、恐らくほとんど個人経営の小企業や事務所がメインテナントとなること
が予想される。
こういった企業では総務や事務に対して割けるパワーが低
くならざるを得ない。そのようなテナントに対し、ビル管理と
並行したテナントサポートシステムを設けることで、一般事
務・総務業務に対してのフォローアップを行ってゆくことを提
案したい。
日頃の周辺掃除に始まり、一般事務・総務業務のフォロー
アップ業務を行うことで、オーナーにとっても、テナントにとっ
ても無駄なく働く姿を実現したい。例えば、事務備品の売店
レセプションカウンターイメージ
やお茶出しサービス、宅急便の受け取り、留守中の緊急対
応窓口、共有コピー機、プリンターの管理など様々なことが
考えられる。
このように「ただのテナント」ではなく、これら SALOB 精神を
共有できる人々をターゲットに、新しい働き方、働く場所の
在り方を提唱してゆき、実現させてゆくこと、この成功こそが
本当の意味での「地球・都市環境」「建築」「ビル事業」の各
共有サービスのイメージ
者を満足にさせる SASLOB の姿なのだと考える。
参考:CUBE24 でのサービス一覧
・岡村製作所製オフィス家具を備えつけ
・室内白黒レーザー複合機FAX、プリンター、コピー、スキャナー対応(A4サイズ対応)
・共用フィニッシャー付カラー複合機(A3サイズ対応)料金別途
・空調代含む電気光熱費
・ビジネスフォン
・電話回線
・FAX用回線
・インターネット回線(オプションで固定IPも対応可)プロバイダ料含む
・既存ビル内にある貸し商談室、会議室は一般価格の 60%OFF で優先的にご利用可能
・来客時のお茶出し、宅急便の受取
・留守中の電話受取、取次ぎ
※CUBE24:大阪駅前に立地する巨大ビルの 1 フロアを小分けにしてレンタルオフィスとして行わ
れている物件
1-12
1章
1-3 SASLOB 賃貸システム
今回の SASLOB ビルの賃貸では、内装評価システム、「敷金」改め「SASLOB 基金」の提示を取り
入れたい。
●内装評価システム
まず内装評価システムとは、SASLOB のコンセプトを象徴する評価のしくみを指す。
これはテナント退去の際に、サポートデザイナーが SASLOB 的に評価できる点、できない点をル
ーム評価する。その評価には、床・壁・天井といった現状復帰を必須とするものと置き家具など産
廃ものの二つに大きく分けられる。
まず床・壁・天井・照明・造作家具については、より長く無駄のないビルの姿勢を示したい。ここに
SASLOB がスケルトンを基本とする理由がある。スケルトンの場合、天井、壁に関してはいじる必
要性が低いためである。評価に際しては、SASLOB 仕様を設定し、それに基づいて展開されること
が望ましいが、テナントごとの趣味も無視できないため、まずはサポートデザイナーの視点で評価
してゆき、様子をみながら仕様を設定してゆけばよい。手始めの評価では、長く使うほどに味わい
の出る仕上げや使い方をしたことに対して評価をするのはどうだろうか。将来的な仕様の設定で
は、前に提示した SASLOB エコ仕上げリスト(前出資料 E)を役立て進めてゆくのもいいだろう。
設備関係の LAN、無線機器、電話交換機、ドリンクサーバーなどに関しては、設備チームのご意
見をいただきたい。
もう一方の置き家具については、産廃の処理を SASLOB 事務局で一任するとし、長く使えるもの
は SASLOB で保管し、将来のテナントにつなげてゆくのはどうだろうか。使い手がいない際や明ら
かに将来性がない家具に関しては、中古家具屋に買い取ってもらうという手もある。将来、
SASLOB 不動産が手広い状態になった際に、家具リースとして展開したり、お抱えオフィス家具屋
と連携するなど、より良い方法は考えられる。
つまり内装評価という考え方の根底には、ものをもっと大切にしてゆくこと、無駄な建築産廃を出さ
ないことに起因している。マンション、オフィスビルなど賃貸で当り前の「現状復帰」という観念を取
り払い、侘び寂びまではいかなくとも、エコ的理念を取り込むことを積極的に進めていただきたい。
1-13
1章
●SASLOB 基金
普通のオフィスビルでは、ほとんど礼金は発生しない。その代り「預託金」として家賃の 6 か月から
8 か月程度を納めることがほとんどである。
そこで、SASLOB ビルでは「預託金」を「SASLOB 基金(仮)」と名付け、1 か月から 2 か月分の家
賃を事前に預かる。この基金では、家賃滞納の際に回したり、テナント側による建築的要望の対
応費、日々のメンテナンス費に回したい。その代り、基本テナントフロア内での不具合管理をテナ
ントに任せ、ビルレベルでの不都合以外は各自で対応してもらうことで、基金を下げる仕組みであ
る。
そしてもう一つの利点になりうる点は、テナントによるフロアいじりをコントロールしやすくする点で
ある。SASLOB ビルでは退去時のルーム評価で敷金を別途請求としたい。つまり、テナントが内
装を変えたり、造作家具を設ける際に、サポートデザイナーに打診をし、より高い評価になるよう
指示をしてゆくことで、将来的にも余計な内装工事がでないよう、SASLOB 事務局で調整してゆく
ことにつながると考えている。テナントとしても、サポートデザイナーのアドバイスを聞いていれば、
退去時の支払いが低くなるもしくは無くなるかもしれない、と思い、添わせる形で進めてゆくことに
なるだろう。
このシステムは、基本スケルトンであること、SASLOB 思想に基づいて内部をよりよくしてゆくこと、
置き家具一任制にすることを前提にした場合、とても有効なものとなる。
●SASLOB website
今日、インターネットと仕事は非常に密接にあることは言うまでもない。SASLOB も website を早々
に設立し、概念を世に提示することが望まれる。そしてそのサイトでは、物件情報、空き室情報、
家具リース情報、ビルによっては貸し会議室の予約・空き情報などを随時お知らせし、すでに入っ
ているテナント、新テナントがいつでも状況を把握できる状態としておきたい。またテナントリストペ
ージなども設け、困ったときに駆け込めるようなネットワーク体制を形成することも面白い。
積極的な公開をすることがブランド化への近道となり、より一般にこの思想を伝えてゆく上で、
website のオープンは必須と言えるだろう。
co-lab website
1-14
1章
資料 F Co-lab
R プロジェクトで行ったビルである RE-KNOW 三番町ビルで行われている co-lab というシェアオフ
ィスがある。ここでは、クリエイティブシンクタンクとして、約 100 名の参加者の下、ビル運営が行わ
れている。ラウンジ、ミーティングルーム、工房、などは共有となっており、他にデスク貸し、ブース
貸し、部屋貸しなどコースが選べるしくみ。また単なるオフィス共有にとどまらず、個人や小さな組
織が同じ場所をフラットな関係でシェアし、場所(co-lab)として請けた仕事をプロジェクトとして関
係者でチームを組み、終了後解散するというシステムなども行っており、既存の会社組織に依存
するというかたちではない、独立心を維持し続ける方法を模索している。
Co-lab website: http://www.co-lab.jp
co-lab 内のみにとどまらないクリエイティブディレクションシステム
共有ラウンジ、仕切り奥は MTG 室
共有作業場所付ブース貸しフロア
受付スペース
工房
1-15
1章
1-4 SASLOB のブランド化
SASLOB はリノベーションにより環境負荷軽減と景観や
地域環境への貢献と同時に不動産価値をあげてゆくこ
とを目指している。不動産事業の経済原理からスクラッ
プアンドビルドを繰り返している現実に対して、別の視
点からのアプローチが「SASLOB」である。
建て替えには莫大な費用がかかる上、環境負荷は
大きなものとなる。リノベーションは非常に認知度が上
がっており、現在 R プロジェクト、REISM など、「建て替え
ではない方法」について色々と活動は行われているが、
環境配慮に特化して取り組んでいるものはまだない。ヨ
ーロッパの建物群のように、建築物はもっと寿命を延ば
し、魅力的な建築にすることができるはずだという考え
が SASLOB の根底にある。単なる「リノベーション」では
なく地球環境や地域環境に貢献しながら、もっと創造的
R プロジェクトの一例
に、もっと自分たちらしく働いてゆくことを目指している。
SASLOB をブランド化してゆくためには、前に述べたイメ
ージアップが非常に重要になってくる。看板、エントラン
ス、街並み関与など、建築的配慮を持ちながら、より魅
力的な SASLOB の姿を提示してゆくことは不可欠であ
る。ブランドを立ち上げてゆくことが、ビル事業を潤すた
めに必須の項目であることはいうまでもない。
REISM のコンセプトシート
●まとめ
改めてここで表明したいことは、SASLOB とはワーキングスペースにおける創造的空間の創出に
向けた総合的なシステムの提案であり、環境と向き合う新しい価値観の提示なのである。
その為には、この志を共にするビルテナントの獲得を行い、互いに助長し合ってゆけるソフトを少
しづつ作り上げてゆくことが次なる課題となるであろう。
1-16
1章
資料 G:リノベーション事業参考 REISM R-Investment & Design
REISM
R-Investment&Design
1-17
第2章
SASLOB への改修に関する計画
岩村和夫
2章
2.SASLOB 建築への改修に関する計画
本章では、一般的な中・小規模のオフィスビルディングを SASLOB 建築へと改修する具体的な流れと
検討内容について解説する。
まず始めに、一般的な建築プロジェクトの流れを示し(2-1)、次いで「改修」・「環境への配慮」の視点
から企画、設計、発注・工事、維持管理のそれぞれの段階における SASLOB 改修計画の検討内容を示
す(2-2)。そして 2-3 では、2-2 の内容をフロー図で表し、最後に 2-4 では、企画、設計段階での検討内
容と改修時の対策を整理するため、建物基礎情報をマトリックス化した(第 4 章で千駄ヶ谷ビルの建物
基礎情報マトリックスを具体例として提示する)。
2-1.一般的な建築プロジェクトの流れ
表 1:設計業務からみた一般的なプロジェクトの流れ
1.企画段階
建築主と共同して、要求項目・与条件を明確にし、必要な調査・計画を行う。
2.設計段階
2-1 基本設計段階
要求項目・与条件を元に、建築物の構想を確立する。また構想に法的・技術的な裏づけ及
び工期・工費の確認を行い、完成時の姿を明確にする。
2-2 実施設計段階
デザインと技術の両面に渡って詳細な検討を進め、設計の最終決定を行う。
3.発注段階
実施設計図に基づいて発注図書を準備する。建築主が行う工事施工者の選定、工事請負契約
の締結などに対し、支援または代行業務を行う。
4.工事段階
4-1 工事段階
施工者が行う工事及び施工管理を指導しつつ、その経過と結果を確認し、発注図書に従っ
て建築物の竣工までの計画を遂行する。
4-2 工事完成段階
設計者・監理者として竣工検査を行うとともに、建築主事の検査など各種検査の合格を確
認した上で、施工者から建築主への引渡しに立ち会う。
5.維持管理段階
建物引渡し後も、専門家の立場から建物所有者や維持管理者に助言・補佐を行う。
(出展:『建築家の業務(改訂版)』日本建築家協会、2002)
2-1
2章
2-2.SASLOB 建築への改修計画の流れ
(1)企画段階
① 計画与条件の整理
改修方針を策定するための与条件を整理し把握する。
・建物の改修履歴の把握
・建物の診断(躯体、設備、内外装の劣化状況)
・周辺環境の調査(自然エネルギー(光・風・水)利用可能性の把握、植生・生態的環境の把握)
・事業規模の把握(オーナー、テナントのニーズ、建設コスト、費用対効果の検証)
・基準法、その他関連情報の整理
② 改修方針の策定
与条件に基づき 50~100 年間、持続可能な環境とするための改修方針(設計目標)を策定する。
・プロジェクト毎の目標像の策定
・適用技術の優先度の検討
企画段階における与条件の整理では、建物本体に関する調査分析だけでなく、その建物が立
地する場所の気候風土や植生・生物環境といった自然環境や、歴史・文化やまち圏などの社会環
境についても把握することが望ましい。表 2 では、自然環境と社会環境を把握する際の基本的な
診断内容(調査内容)や情報収集の方法を整理している。このような項目に沿って調査した、立地
環境の具体例を第 4 章で紹介する。(千駄ヶ谷ビルを事例とした「周辺環境のあらまし」)
2-2
2章
表 2:地球環境建築をデザインするための敷地診断基本表
(出展:シリーズ地球環境建築・入門編『地球環境建築のすすめ』日本建築学会、2002)
(2)設計段階
③ 改修設計の提案
改修方針に沿って意匠、構造システム、設備システムを具体的に検討する。
・意匠の検討(温熱環境の改善、自然エネルギー利用、昼光利用、室内空気質への配慮、換気
通風性能の向上、バリアフリーの採用、まちなみ・景観への配慮、地域性への配慮、雨水・雑
排水利用、負荷抑制(雨水、交通、廃棄物)、騒音対策、間取り・広さ・収納、リフレッシュ空間
の検討、その他)
・構造システムの検討(高耐久、耐震性)
・設備システムの検討(更新性、省エネ性、耐久性 ※別途詳細検討)
2-3
2章
④ 改修設計の評価、コストの検証
改修設計の内容について、省エネルギー性、環境性(CO2 排出量)などをコストとのバランスを踏
まえ評価・検証する。
・CASBEE 既存、CASBEE 改修の活用
設計段階では、企画段階で整理した計画与条件と改修方針から意匠、構造、設備について具
体的な要素技術を検討し設計を行う。特に SASLOB 改修では、それぞれの要素技術において省
エネルギー、省資源、地域環境との親和、健康・快適性などの環境へ配慮した設計が求められ
る。
また、計画した設計内容が実際にどの程度環境へ配慮されているかを評価・検証することも同
時に行うことが望ましい。そして、評価・検証の結果によっては設計内容を再度検討し、設計→評
価・検証→再設計→評価・検証というプロセスを経てベストプラクティスを導き出す。
現在、設計内容を評価する CASBEE というツールが開発され広く運用されている。CASBEE は、
建物の総合的な環境性能を評価し、建築物への環境配慮事項を客観的に説明、建築物の環境性
能を評価・表示、建築物の環境性能を診断・改修設計ができるツールである。全国 13 の自治体
(名古屋市、大阪市、横浜市、京都市、京都府、大阪府、神戸市、川崎市、兵庫県、静岡県、福岡
市、 札幌市、北九州市)では、一定規模以上の建築物を建てる際に、環境計画書の届出を義務
付けており、その際に CASBEE による評価書の添付が必要となっている。
また、民間の金融機関では、CASBEE の評価により一定の性能を有している建築物に金利の優
遇措置を実施している。(例:住友信託銀行と横浜銀行では、川崎市内で新築される集合住宅に
おいて CASBEE-川崎での評価が一定の性能を有している場合に金利の優遇措置を実施してい
る)
(3)発注・工事段階
⑤ 建設
改修建物(テナントが残っている場合は特に)や周辺環境への環境負荷の低減を考慮し、廃棄
物、振動、騒音、悪臭などに配慮した現場施工を実施する。
(4)維持管理段階
⑥ 運営
設計段階での計画が、実際の運用段階でどのように機能しているかを事後検証するとともに、
長期スパン(50~100 年)を考慮した維持管理・運用計画を策定する。
設計者は、設計段階で計画した様々な環境性能(断熱、換気、省エネルギーなど)を、シミュレー
ション等により設計値として把握することは可能である。ただし、実際の運用時において、それらの
2-4
2章
環境性能が設計値通り発揮されているとは限らない。
そのため、運用段階において施設管理者などと共にモニタリング(計測・軽量)を実施し、環境性
能の実態を把握することが求められる。そして、モニタリング情報を元に、設計段階での計画を検
証しそこから得られた知見をその後の改修計画などに反映させることで、より環境に配慮した建物
へと向上していくことができる。
また、モニタリングにより把握した情報を元に、運用管理計画や維持修繕計画、SASLOB テナン
ト入居マニュアル(SASLOB 建築の意図や建築的工夫の紹介、使用時の環境配慮への注意点な
ど)などを整備し、ビルオーナーやテナント入居者へ運用時の環境配慮への取組みを働きかける。
図 1:環境マネジメント技術を活用した施設管理手法と組織の関係
(出展:シリーズ地球環境建築・入門編『地球環境建築のすすめ』日本建築学会、2002)
2-5
2章
○建築物の総合環境性能評価手法:CASBEE(Comprehensive Assessment System for Building
Environmental Efficiency)
CASBEE は、2001 年に国土交通省の主導の下に(財)建築環境・省エネルギー機構内に設
置された委員会において開発が進められているもので、2003 年 7 月に「CASBEE-新築」
、2004
年 7 月に「CASBEE-既存」、2005 年 7 月には「CASBEE-改修」が完成した。
CASBEE の評価ツールは、①建築物のライフサイクルを通じた評価ができること、②「建
築物の環境品質・性能(Q)」と「建築物の環境負荷(L)
」の両面から評価すること、③「環
境効率」の考え方を用いて評価する、という理念に基づいて開発された。
また、2007 年に発行された「CASBEE-新築(2007 年暫定版)」では、LCCO2 削減を評価し
「温暖化防止対策」が CASBEE 評価に明示された。
図 2:CASBEE ファミリーの構成
(CASBEE‐新築 2007 マニュアルより抜粋)
2-6
2章
2-3.SASLOB 改修計画のフロー図
2-2.SASLOB 建築への改修計画の流れを整理すると以下の通りである。
①計画与条件の整理
②改修方針の策定
①建物の改修履歴の把握
・改修、メンテナンスの
履歴、修繕計画内容
②建物の診断、現状の評価
・躯体、設備、内外装の
劣化状況
③周辺環境の調査
・光、風、水、緑、生物
など自然環境条件
④事業規模の把握
・オーナー・テナントの
ニーズ、費用対効果
⑤基準法、その他関連情報
の整理
・建築基準法、省エネ法、
その他
50~100 年間、持続可能な環境とするた
めの改修方針(設計目標)を策定
③改修設計の提案
①意匠/配置・平面・断面・立面の検討
(温熱環境の改善、自然エネルギー利
用、昼光利用、室内空気質への配慮、
換気通風性能の向上、バリアフリーの
採用、まちなみ・景観への配慮、地域
性への配慮、雨水・雑排水利用、負荷
抑制(雨水、交通、廃棄物)、騒音対
策、間取り・広さ・収納、リフレッシ
ュ空間の検討、その他)
②構造システム
(耐久性、耐震性)
③設備システムの検討
(更新性、省エネ性、耐久性 ※別途
詳細検討)
④改修設計の評価
コストの検証
改修設計の内容について省
エネルギー性、環境性(CO2
排出量)などの視点から評
価し、コストとのバランス
を踏まえた検証
・CASBEE 既存の活用
・CASBEE 改修の活用
※改修費用と賃貸料金との
関係の検証も不可欠
⑤建設
改修建物(テナントが残っている場合は
特に)や周辺環境への環境負荷の低減を
考慮し、廃棄物、振動、騒音、悪臭など
に配慮した現場施工を実施
⑥運用(事後検証、維持管理・修繕)
設計段階での提案が実際にどのように機
能しているかを事後検証するとともに、50
~100 年スパンを考慮した維持管理計画
を策定
2-7
2章
2-4.建物基礎情報マトリックスの作成
マトリックスの軸となる環境性能の視点は、CASBEE-改修の評価項目から引用した。(第 4 章で千駄ヶ
谷ビルの建物基礎情報マトリックスを具体例として提示する)
【建物基礎情報マトリックス】
■SASLOBの改修に関する建築計画、建築デザイン 【建物基礎情報マトリクス】
環境性能の視点
‐
C
A
S
B
E
E
~
改
修
Q
1
自然環境
社会・人文環境
既存建物仕様
改修時の対策
備 考
自然環境
社会・人文環境
既存建物仕様
改修時の対策
備 考
騒音
(外部環境)
騒音
(建物内部)
温熱環境
Q
3
光・視環境
グレア対策
環境性能の視点
‐
C
A
S
B
E
E
~
改
修
L
R
1
L
R
3
熱負負荷抑制
自然エネルギー
利用
設備システム
の高効率化
ERR
効率的運用、
モニタリング
環境性能評価の
企画段階で整理した計画与条件を、自然環境、
計画与条件を元
視点は CASBEE-
社会・人文環境、既存建物仕様に分類する。
に具体的な環境
既存から引用す
配慮対策を示す。
る。
2-8
2章
参考資料:CASBEE-改修(2006 年版)の評価項目の一覧
2-9
2章
2-10
2章
2-11
第3章 SASLOB 設備計画:
3-1:機械
長沼由恭
3-2:電気
木林茂利
3章
3章
3-1
SASLOB設備計画
機械設備計画
長沼 由恭
3-1-1 設備の寿命と改修計画の動機と目的
(1)設備の寿命
設備の寿命は概ね物理的寿命、機能的寿命および社会的寿命に分類される。
・ 物理的寿命・・・・機器・システムが劣化して運転不能になった状態ではなく、修繕・改修すれば使用は
できるが初期要求機能まで回復できなくなった状態。
・ 機能的寿命・・・・まだ、修繕・改修すれば初期要求機能まで回復することはできるが、多様なテナント
のニーズに応えることが難しくなった状態など。
例えば、異なるテナントに対して同じ空調器(系統)で冷暖房を行うシステムはテナントにとっては使いづ
らいので、空調器を分散して運転時を任意できるようにしたい場合。
また、改修すれば大幅な省エネルギー効果が見込める場合。
・ 社会的寿命・・・・環境・安全対策上その他の理由により、法律などで改善を促されるようなケース。
フロンガス規制、アスベスト規制及び設備機器・システムの省エネルギー化への呼
びかけなどがこれにあたる。
(2)改修計画の動機
改修計画を立てるときは、その動機が何かを明確に整理しておく必要がある。物理的劣化によるものか
機能的劣化によるものかまたはその他によるものかをよく確認しないと期待を裏切ることになりかねな
い。
(3)改修計画の目的
改修の動機は必ずしも一つではない場合がある。
3-1-1
3章
ただ、一つであれ、複数であれ、計画に携わる人が目的を共有しながら計画を進めないとバランスの
とれた改修にはならない。
3-1-2 機械設備計画
●既存小規模ビル設備の傾向
1.空調設備
(1)空調方式
既存の小規模賃貸ビルの空調は、殆んど個別分散空調方式となっている。20年程度以上前
に竣工したビルでは、セントラル方式もあったが、既に1回ないし2回の改修を済ませ、個別分
散空調方式に変更されているケースが多い。
個別分散空調方式と言っても多種に分類されるが、代表的なものを下に示す。
空調方式
室内機の設置タイプ
室内機の形状
床置直吹出しタイプ
大形ユニット
パッケージ方式
小形ユニット
床置ダクトタイプ
天井設置タイプ
天井カセット形
天井隠ぺいダクト形
天井吊り形
壁掛け形
ビル用マルチ方式
パッケージ方式と同
じ
パッケージ方式と同じ
事例は少ないが、パッケージ方式では小形ユニットによる排熱回収型もある。
4章では、ルームエアコン方式の可能性を検討しているが、一般的には中高層の建物では冷
媒配管の長さと室内外機の高低差に制約があるため、室外機の設置スペースを確保すること
が難しく採用されることが少ない。
熱源は空気で、動力源として電気かガスであるが、中でも電気方式が大半を占めている。
電気方式では夜間の割引電力を利用して、電力料金の低減を図る氷蓄熱方式も増えている。
室内機の形状では天井カセット形の設置事例が最も多い。
(2)性能の向上
パッケージとルームエアコンの性能をみると、この10年近くでCOPが25~30%向上してい
る。例えば、設置後10年を経過した空調設備を更新すれば25%以上の省エネルギー効果
が得られわけで、ランニングコストの削減のほか、今言われている地球温暖化対策にも貢献
することになる。
3-1-2
3章
COPの向上
2000 年
2008 年
アップ率
ビル・店舗用
3.15
3.95
25.4%
メーカー平均
ルームエアコン
3.74
4.90※
31.0%
同上
※ルームエアコンは 2007 年のデータ
(財)省エネルギセンター資料を編集
(3)空調器の機能
最近のパッケージ類は過剰とも思える様々な機能を持たせたものになっているが、小規模貸
ビルではテナント自らが運転制御するので、その機能を十分使いこなせていないのが実態の
ようである。メーカー側はもう少し使用実態を把握して、機能の絞り込みを図ってもよいのでは
ないか。
その中で、有用と思われる機能としては以下のようなものがある。
これ等の機能はメーカーにより、また、機種により付いているものと付いていないものがある。
・ 風向きの自在設定
パッケージ天井カセット4方向形
・ 体感温度コントロール
パッケージ天井カセット形
ルームエアコン壁掛形
・ 外気水分取り込み加湿方式
ルームエアコン壁掛形
・ フィルター自動清掃
パッケージ天井カセット形
ルームエアコン壁掛形
2.換気設備
(1)全熱交換器方式
古いビルでは、排気ファンのみを設置した第3種換気方式が多いが、省エネルギー意識の高
まりとともに排気される熱を回収できる熱回収換気方式の設置が増えている。この方式には
顕熱回収方式と全熱回収方式があるが、設置事例は省エネ効果の高い後者が多い。
(2)デシカント換気方式
乾燥剤を用いて室内の除湿を行う方式で、これまでは大規模ビルや工場などで採用されて
いたが、温熱源が別に必要になりランニングコストと、導入コストが高いことから設置事例は
少ない。
最近になって、温熱源が不要で除湿に加えて加湿もでき、小規模ビルでも使える製品が開発
された。この加湿方式は空気中の水分を取り込んで室内の湿度を高める仕組みになっていて、
水を補給する一般的な加湿方式に比べて維持管理が容易である。
高顕熱型パッケージと組み合わせ、潜熱(湿度)と温度処理を別の機器で行うことで快適性と
省エネルギー化が図ることができる。
この製品は開発されて間もないため実績はあまりないが、製品価格の低下と選定のバリエー
ションが増えれば今後普及すると思われる。
3-1-3
3章
3.給水設備
(1)給水方式
最近の給水方式は 3 階以上の建物でも、直結給水方式が一般的となっている。
水道供給管の信頼性が高くなってきていることと、一方で、特に中小規模の建物の水槽管理
が不十分で衛生面の問題が多いという側面もあって、水道供給事業者が積極的に直結給水
方式を勧めていることが背景にある。
水槽を設置するのに比べ、直結給水方式は衛生的なことと維持管理費の低減になり、メリット
は大きい。
直結方式には、本管の水圧を利用して各給水器具に給水する直結直圧方式とポンプで高所
まで給水する直結増圧方式の二通りがある。
東京都水道局管内では、3階までを原則直結直圧方式とし、条件次第で5階まで直結直圧方
式が可能である。
既存ビルで受水槽と高架水槽方式を直結方式に変更する場合は、竪のメイン管は入れ替え
なければならない。また、引込管もサイズが大きくなるので引替えが必要になるケースが多い。
3-1-4
3章
(2)配管材料
古い建物では塩ビライニング鋼管が多いが、徐々に水道用硬質塩化ビニル管(耐衝撃性=
HIVP)が増えている。塩化ビニル管は施工性が優れていること、低価格であることが理由に
あげられる。
4.給湯設備
給湯設備が用意されている場合、築年数の古いビルではガス熱源が多いが、最近では安全
性と管理のし易さから電気を熱源としたものが多い。
ガス熱源では排気量が多くなるので、省エネルギー面からも電気熱源の方が有利である。
5.排水設備
オフィスビルではマンションやホテル等と違って、排水方式の変化は殆んどみられない。
配管材料は古いビルの場合、石綿被覆二層管が使用されているところがかなりあるが、最近の
ものは繊維強化モルタル被覆二層管が使用されている。
因みに千駄ヶ谷ビルの排水管は石綿被覆二層管が使用されているので、排水管の撤去にあた
っては飛散防止対策が必要である。
6.衛生器具設備
小規模ビルの衛生器具の中では特に便器の使用水量が多いが、最近の便器は使用水量の少
ないものが開発されており、改修の際に切り替えるケースが増えている。
また、女子便所には擬音装置をブース内に設置して、節水を図ることもある。
新旧使用水量の比較
従来の洋風便器
12~16L/回
最新の洋風便器
5.5~10L/回
擬音装置設置効果(TOTO資料)人数 100 人
1,988t/年間
139.1 万円/年間
3-1-5
3章
3-1-6
3章
3−2 電気設備計画
木林 茂利
3-2-1 改修の考え方
建物内の電気設備は、古くなっている設備や最新の設備まで劣化状況はさまざまです。設備機器
は、日常の保全業務をいかに正確に実施していても経年劣化は徐々に進行し、いつかは必ず更
新時期を迎えることになります。
SASLOB改修の目指すところは、劣化したものを単に変えるだけでなく、設備機器の耐久性の向
上、環境の持続、省エネルギーと信頼性・経済性の向上などを考慮した改修計画としている。
最近の電気設備は、技術の著しい進歩と時代のニーズに合わせて複雑、かつ高度化してきてい
ます。
電気設備は電源設備、負荷設備に大別されるので改修計画は、設備種目ごとに計画を述べるこ
ととします。
3-2-2 各設備の改修
●受変電設備
改修検討項目
高効率変圧器の採用
変圧器の年間電力損失は大きく近年標準化された高効率のトップラ
ンナー変圧器に更新することで、設備全体の効率向上とランニングコストの削減に貢献できる。
・変圧器の損失比較
油入三相 300KVA 6.6KV/210V
機種
年間損失量
変圧器損失(W)
無負荷損
負荷損
全損失
(kwh)
従来型
690
4,480
5,170
45,289
トップランナー変圧器
495
2,789
3,280
28,732
省エネルギー量
195
1,695
1,890
16,557
油入単相 150KVA 6.6KV/210-105V
機種
年間損失量
変圧器損失(W)
無負荷損
負荷損
全損失
(kwh)
従来型
310
2,110
2,420
21,199
トップランナー変圧器
205
1,690
1,895
16,600
省エネルギー量
105
420
525
4,599
3-2-1
3章
デマンド監視制御の採用
契約電力 500KW 以下の需要家にとって実量値(最大需要電力)が
契約電力となるため常時需用電力を検知し最大需要電力を抑え
契約電力の低減を図る
削減効果はw×基本料金単価×力率割引×消費税
力率制御に変更
力率を改善することにより無効電力の低減を図り電力会社と
率改善による割引を受ける。
変圧器の夜間停止
変圧器電力損失の低減
電圧安定化による省エネ 電力需要は時間帯(昼または夜間等)により大きく変化します。それ
に伴い受電端の電圧が変化しビル内の低圧側の電圧も変化しま
す。
電圧が高くなれば定格以上の電力消費となります。自動電圧調整装
置などにより、常時定格電圧に近い値で供給し省エネを図ることが
考えられます。
また、変圧器のタップ切替により適正電圧に近づけることも効果的で
す。
●電灯設備
改修検討項目
①省エネ対策
高効率照明器具の採用
白熱電球の蛍光灯電球化およびFL蛍光灯のHf蛍光灯化
現状の配列のなかで、単に器具を取り替える対応でも採用可
能であるが、同一照度の場合は器具台数を減らすことが出
来コストダウンも図れる。
3-2-2
3章
人感センサーによる点滅制御
人の動きを感知し人のいる間のみ100%点灯し、それ以外は
消灯する。(便所、湯沸し室等個室制御)
人感センサーによる調光制御
人の動きを感知し人のいる間のみ100%点灯し、それ以外は
減光する。(ロッカー室、在室率の低いオフィス等)
初期照度補正
ランプ交換時の余分な明るさを設計照度に自動補正する。
3-2-3
3章
昼光利用照明制御
明るさセンサーが昼光によるまわりの明るさを検知し、適切な光
の量に自動制御する。常に一定の快適な照明環境を保つ。
タイムスケジュール制御
毎日決まった時間に点灯もしくは調光を行う。
ゾーニング制御
照明の点滅区分をなるべく細分化し時間帯や人の動きにより必
要なエリアだけを点灯または調光する。
②長寿命化対策
給電部の交換
器具本体と給電部の寿命の違いがあり、給電部を交換使用する
ことで長寿命化を図る。適正照度制御
③住環境対策
昼光利用照明制御
ルーバー器具の採用
常に一定の快適な照明環境を保つ。
グレアをなくし快適な照明環境を保つ。
●コンセント設備
OAフロアの採用
従来、オフィスのコンセントは古くは配管配線工法からフロアダクト工法やセルラーダクト工法が
採用されてきたが、照明に比べコンセント負荷(OA機器等)は容量が非常に容量が増大してい
るため、オフィスのレイアウト変更を含め対応が難しくなっている。
OAフロアはオフィスレイアウトの変更、コンセント負荷の増設対応が容易であります。
改修に当たっては多くのメーカーにより各種の形態のものが製作されているので、オフィススペ
ースに合った製品を選定し採用することが望ましい。
3-2-4
3章
コンセント設備の省エネ 待機電力の少ない機器を選定することとともに、就業時間以外は必
ず電源を切ること、長時間使用しない場合はコンセントを外すなどを
習慣化することが必要です。
コピー機、プリンターなど比較的大きい容量の危機は企業内ネットワ
ークを活用して共有化を図ることも効果的です。
OAフロア配線
OAフロア配線はデスク配置が決定してから、その位置にあわせて
配線を敷設する方法と、デスク配置に関係なく配線および取り出し口
を用意しておく方法がある。
●通信情報設備
オフィスに欠くことのできない電話、LANなどの通信情報設備機器は半導体等の電子部品が多
く使用されているため、寿命が短いのが普通であるとともに、技術の向上が目覚しいため陳腐
化も早い。
3-2-5
3章
傾向としては、施設の安全性や利便性の向上のため新システムの導入および改修が必要とな
っている。
IPネットワークが広がり、情報の共有化が行われていることにより、設備を単独で計画するので
はなく、総合的な計画を行う必要があります。
LAN設備
IPネットワークで構築するための基幹となる設備であるため、改修を考える場合①拡張性②通
信速度③セキュリティー④設備の安定・信頼性などを注意してネットワーク機器の選定を考える
必要があります。
情報セキュリティーについては、対策を行っていても定期的な情報セキュリティー監査はあまり
実施されていないのが現状のようです。
したがって、最新の情報に基づいた定期的な監査を実施し、不正な外部端末の攻撃に対する防
御や、PC自身のセキュリティー強化の対策が正しい状態であるか検査の必要があります。
電話設備
従来音声の通信を中心としたPBXによる方式から、IPネットワーク上に音声を乗せるVoIP技
術を利用したIP−PBXの開発により、LAN・WAN設備の環境が整っている場合には、通信コ
ストの削減や配線システムの統合が図れるIP−PBXの導入が考えられます。
●防災犯設備
建築基準法や消防法などの法的設備として、防災設備が設置されている建物については、定期
点検が義務付けられており、定期点検にて発見された劣化機器をそのつど修繕または交換して、
常に良好な状態にしているのが一般的である。
したがって、経年劣化ならびにメーカー失効による種装置の改修および施設の用途変更対応とな
る。
運用面では定期点検時にテナント内に立ち入る必要のない遠隔試験機能付に改修することが望
ましい。
●防犯設備
昨今の情報化社会の出現にあわせて防犯設備の必要性が高まっている。
従来は人による防犯監理が主流であったが、管理者の省力化防犯機器の性能向上から、機械的
な防犯設備の採用を計画する。
すでに、防犯設備を設置されている建物については、防犯機能の向上を目指した改修とする。
新設、改修に当たっては何を守るか、ゾーンの設定、運用形態、適正機器を充分検討して行う必
要がある。
3-2-6
3章
●その他
入退出監理
大切な資産や情報を守るため、建物や部屋への人の出入りを管理する必要があります。
必要に応じたセキュリティー基準を設け、個人IDカードによる認証や指紋・静脈・顔などの人体情
報により個人を認証するさまざまな認証システムで、入退出者の管理を行い、情報漏えい防止、
外部者進入排除のシステムを計画します。
内部雷保護
避雷針による外部雷保護対策をくぐり抜けて進入する雷から電気設備機器、情報通信機器を保
護する必要があります。
進入経路ごとに避雷器を設け雷サージを低減させる計画をします。
電力契約形態
建物によっては、曜日・時間帯により電力使用量の違いがあります。
スタンダードな契約形態は業務用電量契約ですが、建物の用途、使われ方によって下記の契約
形態とする検討を行います。
① 業務用電力2型
電力負荷設備を年間を通じて効率的に使用し、平日の昼間に電力の使用量が多い需要家
② 業務用季節別時間帯別電力
夜間、日曜、祝日に電力の使用量が多い需要家
③ 業務用季節別時間帯別電力2型
電力負荷設備を年間を通じて効率的に使用し、夜間、日曜、祝日など電力の使用量が多くな
る需要家
④ 業務用休日高負荷電力
休日(土曜・日曜日、祝日など)に電力の使用量が多い需要家
⑤ 業務用休日高負荷電力2型
電力負荷設備を年間を通じて効率的に使用し、休日(土曜・日曜日、祝日など)電力の使用
量が多い需要家
⑥ 深夜電力
毎日午後 11 時から翌日午前 7 時までまたは、午前 1 時から午前 6 時までの時間に限り、動
力を使用する需要家
⑦ 業務用地区熱調整契約
地区熱槽を有する負荷などの蓄熱式運転により、昼間時間(毎日午前 8 時から午後 10 時ま
で)から夜間(毎日午後 10 時から翌日午前 8 時まで)に負荷を移行できる需要家
⑧ 業務用電化厨房契約
電力会社が定める電化厨房機器を採用し、その電化厨房機器の総容量が 30KW 以上である
需要家
3-2-7
3章
⑥⑦⑧はスタンダードまたは①②③④⑤と組み合わせで契約することが可能です。
電力量の検針
電力量計(WHM)の設置はテナント内部に設置されているのが一般的であるが、各階のテナント
外部(共用部)または共用部に集中して設置し、テナント内への立ち入る必要のないような計画とし
ます。
3-2-8
第4章
Case Studay:
千駄ヶ谷ビル改修計画提案
芦原太郎/岩村和夫/長沼由恭/木林茂利
4章
4-1 建築デザイン改修提案
芦原 太郎
今回ケーススタディとして取り組むビルは、千駄ヶ谷にある「ビクトリアプラザ千駄ヶ谷」である。
このビルは、1986 年(昭和 61 年)に竣工した 9 階建てのオフィスビルとなっている。
通りに沿った立地で、
築 20 年を超えたビルではあるが、現在もテナントはすべて入居済み。最寄駅は JR 千駄ヶ谷と JR 代々木にな
るが、2008 年6月の東京メトロ副都心線の開通を迎えると、北参道駅が一番の最寄駅となる高立地となって
おる。
ビクトリアプラザ千駄ヶ谷 概要
○敷地概要
所在地
東京都渋谷区千駄ヶ谷 4-5-4
用途地域
商業地域、第二種住居専用地域
防火
防火地域
高度地区
第三種
その他
市街化区域
日影規制
規制なし
敷地面積
113.12m2(34.21 坪)
容積率
600% 500・300%(許容容積率 581.43%)
建ぺい率
100% 60% (許容建ぺい率 98.30%)
○建物概要
主要用途
事務所
階数
地上 9 階 搭屋 1 階
主要構造
SRC 造
建築面積
91.54m2
延べ床面積
685.92m2(207.49 坪)
容積対象床面積
656.12m2 (容積率 580.02%)
建物高さ
31m
軒高
29.7m
1 章で述べた SASLOB メニューを千駄ヶ谷ビルの場合としてプロットしたものが次頁となる。
4-1-1
4章
プロジェクト名: ビクトリアプラザ千駄ヶ谷(SASLOB sendagaya)
項目
1-1 構造の強化
1-2 外装の耐久性
建築耐久性向上
1-3 防水性能
2-1 グランドレベルフロア
2-2
具体策
チェック項目
チェック欄
A
構造補修
-
B
耐震改修
-
A
外壁の補修
● ポイント補修
B
外壁の更新
C
外壁のカバー
D
サッシの補修
E
サッシの更新
F
サッシのカバー
A
補修
B
更新
C
カバー
A
店舗
B
ショールーム
C
レストラン
D
レセプション
E
サポートセンター
F
その他
● ポイント補修
● 状況を見て判断
● 既存テナントとの協同
建築耐用性向上
床
クリーニング
壁
クリーニング
天井
更新
照明
更新
ドア
更新
テナントサイン
デザイン更新
ポスト
デザイン更新
自動販売機
撤去
セコム機器
デザイン更新
エレベーター
出入口のデザイン整備
内部シート張り替え
2-3 テナントフロア
A
間仕切り撤去
●
B
天井落とし
●
C
水廻り整備
●
D
配線整備
●
4-1-2
4章
E
2-4
具体策
塗装壁
●
建築耐用性向上
床
更新(OA フロアにするか否か)
壁
更新
天井
撤去
照明
更新
サッシ
-
窓
- (二重窓にするかどうか)
イメージアップ
テラス窓
撤去もしくは取り換え
南側窓
撤去もしくはカバー
ついたて
デザイン更新
エントランス扉
デザイン更新
ミニキッチン
更新
トイレ
更新
3-1 外観
看板管理など
●看板取り換え
3-2 外構・エントランス
街並みとの連携
●前庭の整備
●内装更新
3-3 エントランスホール
3-4 エレベーター
3-5 基準階ホール
インターホン
-
ボタンシステム
-
ホール仕様の設定
●
上記概要の程度での改装が SASLOB 化には必要と判断した。
次頁より、より詳細の検討をまとめていく。
4-1-3
4章
4-2. SASLOB 改修計画
岩村 和夫
1.千駄ヶ谷ビルを事例とした「周辺環境のあらまし」では、千駄ヶ谷ビルが位地する渋谷区の歴史や
人口などの概要、気温・湿度、風速などの気象データ、動植物などの生態、まち圏などを調査した結
果を述べる。
また、2.建物基礎情報マトリックスでは、周辺環境のあらましで把握した千駄ヶ谷ビル周辺の立地環
境(自然環境、社会・人文環境)や、設計図書による既存建物仕様、改修時における環境配慮の対策
を、CASBEE-改修の評価項目に沿って示す。
1.千駄ヶ谷ビルを事例とした「周辺環境のあらまし」
1-1 渋谷区の概要
1-1-1 位置
(1)位置
渋谷区は、東京都 23 区の西南に位置している。都全体から見れば東に片寄り、特別区区域の西南
部の中心となっている。
中心部に、明治神宮・代々木公園という大きな緑地があり、新宿御苑の一部を加えると、全体の 10
分の 1 を緑地が占める。
(2)地形
渋谷区は、武蔵野台地の東部にある淀橋台地に位置している。淀橋台地は、北を神田川に、南を
目黒川にはさまれた、標高 30~60m の台地のこと。
渋谷区の中央には、渋谷川によってできた開析(せき)谷とその支谷(しだに)がシカの角のように
西方へのびる。それを取りまいて、東に東渋谷、北東に千駄ヶ谷、北に代々木・幡ヶ谷、西に駒場・西
渋谷の台地がある。
区内の台地面は、北西部で標高 40m、南東部で 25m と、ゆるやかな傾きを持っている。地質構成は、
台地は洪積層からなり、3m から 12m に達する関東ローム層の表面を黒色有機土が覆っている。低
地は沖積層によって構成され、その基盤として厚い第 3 紀層が地下深く横たわっている。湧水線は平
均して標高 15m 付近である。
(3)代々木の名の由来
戦国時代の書状に、「代々木村」の名がすでにあり、江戸時代には大名・旗本の屋敷地があった。
この名は、村人が代々サイカチの木(豆科の落葉高木)を生産したことにちなむ。
また、現在の明治神宮御苑の東門近くに、「代々木の大樅(モミ)」といわれたモミの木があり、その
名が由来ともいわれる。現在は残っていませんが、井伊家の下屋敷があったころの大樅は、当時の
記録に残るほど大きなものであった。黒船が江戸湾を測量していたころ、その動静をこの木の上から
見張らせ、桜田門外の上屋敷に報告させたという。(参考:渋谷区HP)
4-2-1
4章
(4)渋谷区の位置
区役所の位置
東経 139 度 41 分 53 秒
北緯 35 度 39 分 50 秒
区役所の標高 33.21 メートル
面積 15.11 平方キロメートル
1 人あたり公園面積 8.10 平方メートル
(平成 17 年 4 月 1 日 東京都公園調書)
図 1:渋谷区の位置
図 2:東京都の地形
図 3:渋谷区周辺の地形
1-1-2:人口・世帯
(1)渋谷区の人口・世帯
平成 19 年 9 月 30 日現在の渋谷区の人口は、 197,071 人で、10 年前の平成 9 年に比べ 14,332
人の増加となっている。
区内人口は、昭和 40 年(283,730 人)をピークに、以降毎回一桁台の減少率で推移してきたが、平
成 9 年を境に増加傾向に転じ、ここ数年は 0.6%程度の増加率を示している。
男女別では、男性 93,785 人、女性 103,429 人で,女性が男性よりも 9,644 人程多い。女性 100 人に
対する男性の割合は 90.6 人で、10 年前の 90.7 人とほぼ変わらない。男女人口の差はここ 10 年間一
定で、比率の差も変化がない。
4-2-2
4章
区全体の人口密度は、13,051.9 人/平方キロメートルで、10 年前の 12,103.3 人/平方キロメートルよ
りも、948.5 人/平方キメートルとわずかに増加している。
世帯数は、平成 19 年 9 月 30 日現在 116,587 世帯で、10 年前の 97,786 世帯と比べ、18,801 世帯
増加している。一世帯あたりの平均世帯人員も 1.69 人で 10 年前の 1.87 人と比べ 0.18 人減少してい
る。
(2)計画地付近の年齢別人口構成
計画地のある千駄ヶ谷 4 丁目と北に隣接する代々木 1 丁目、新宿御苑に接する千駄ヶ谷 5 丁目は、
30 代の若年層と比較的高齢者人口が多い。古くからの住宅地や生活が今なお残る。代々木 1 丁目
の若年層が特に多いのが特徴的である。一方、明治神宮の反対側の上原 2 丁目は典型的な新興型
住宅地。全体に人口も多く、若年層の人口割合が多い。表参道に面する神宮前 4 丁目はオフィスや
商店の多い住宅の少ない商業地区である。(参考:渋谷区HP)
表 1:渋谷区の人口(平成 19 年 9 月 30 日現在)
種別
住民登録人口
世帯数
人口
男性
女性
117,134
197,071
93,640
103,431
11,320
6,174
5,146
外国人登録人口
男
105,000
女
人口
200,000
100,000
世帯数
120,000
115,000
195,000
110,000
95,000
190,000
105,000
90,000
185,000
100,000
85,000
180,000
95,000
80,000
19
年
成
18
年
平
17
年
成
平
16
年
成
成
平
15
年
平
14
年
成
平
13
年
成
平
12
年
成
平
11
年
成
平
成
平
平
成
年
19
18
成
平
成
平
平
成
17
年
年
年
年
16
平
成
平
成
15
年
年
14
成
平
平
成
12
11
成
平
成
13
年
年
年
10
成
平
平
図 4:渋谷区の男女別人口の推移
90,000
10
年
175,000
75,000
図 5:渋谷区の人口と世帯数の推移
4-2-3
4章
代々木1丁目
千駄ヶ谷4丁目
千駄ヶ谷5丁目
神宮前4丁目
上原2丁目
渋谷区全体
25.00
20.00
15.00
%
10.00
5.00
0.00
0~9
10~19
20~29
30~39
40~49
50~59
60~69
70~79
80~89
90~99
100~
年齢
図 6:渋谷区の地域別年齢人口構成比
1-1-3:歴史
(1)中世(奈良・平安時代~戦国時代 )
この時代の武蔵野は茫漠たる大荒原
で、渋谷の地もそこに住む人々の炊煙
がかすかになびくのみであったと思わ
れる。平安時代末期の武家勃興のころ
は、渋谷氏(渋谷金王丸常光)を中心と
する源氏諸将の伝説が、社寺や地名と
して残る。
武蔵国には、源氏の家人として功が
あった武蔵武士が地方豪族として住ん
計画地
でいた。そのため、渋谷区にもいくつか
の鎌倉道が通じ、中央の新しい文化の
伝播や渋谷の開発も、この鎌倉道周辺
から進んでいった。南北朝時代から室
町時代にかけて、渋谷・原宿が次第に
開拓され、後北条氏全盛時代には下渋
谷・原宿・千駄ヶ谷・幡ヶ谷に村落が発
図6:長禄2年(1458)、太田道灌が江戸城を築いたころ
達した。徳川時代には下渋谷・原宿は
いわゆる江戸御府内に属し、最も開けた存在であった。
4-2-4
4章
(2)近世( 江戸時代 )
江戸時代の渋谷は、諸侯や寺領のほか
は幕府の直轄地として統治さていた。渋
谷の丘はほとんどが武家屋敷で、低地の
水田地帯には農家が点在し、宮益坂と元
広尾には商家があった。
渋谷の地域は、江戸市街の繁昌に伴い、
計画地
江戸の郊外地として代官や村役人の支
配をうけ、人々は名主の絶大な権力と五
人組の連帯責任の中で生活していた。
行政区画としての渋谷区は、慶応 4 年
政体書の発布から、明治 11 年郡区町村
編制法により、南豊島郡に包括されるま
での間、武蔵県、武蔵県及び東京府、小
管県及び東京府、品川県及び東京府、朱
印外 1 区などと、はなはだしい時は毎月
図7:文久2年(1862)内藤新宿・千駄ヶ谷付近
変更されるほど改正が行われた。
(3)近世(明治時代)
明治 22 年市制町村制の施行により、
上渋谷・中渋谷・下渋谷の 3 村を中心に
麻布・赤坂両区の一部を加えて渋谷村
に、代々木・幡ヶ谷の両村で代々幡村に、
千駄ヶ谷・原宿・穏田の 3 村で千駄ヶ谷
村となった。明治 40 年には、住宅地とし
て発展しつづけた千駄ヶ谷村が他にさき
がけて町制を実施しました。同 42 年には
計画地
戸数 8,954、人口 35,191 を擁して渋谷村
が町制を実施、大正 4 年には代々幡村も
町制を施行した。昭和 7 年 10 月 1 日、
渋谷町、千駄ヶ谷町、代々幡町が合併し、
東京市渋谷区が成立、他の 79 町村とと
もに大東京 35 区の一環として誕生した。
その後、大東京市の自治権拡大に関
する要求が盛んになったが、第 2 次世界
図8:明治44年(1912)の千駄ヶ谷
大戦に突入、昭和 18 年戦時態勢の強化に
伴う都制の施行などで、区の自治は著しくせばめられた。
4-2-5
4章
(4)現代へ(昭和)
商業が主要産業の渋谷区は、戦後の復
興も渋谷駅から道玄坂を中心に始まっ
た。
昭和 30 年ごろを境にして高層ビルが
続々建設され、商業地区に加えて業務地
区といわれるオフィス街が生まれ副都心
化が進んだ。
昭和 39 年のオリンピック東京大会を契
計画地
機として、道路の新設や拡張があいつぎ、
渋谷区の街並みは大きく変わった。昭和
40 年には渋谷区総合庁舎や渋谷公会堂
が完成。渋谷区の人口は、都市化の影響
をうけ漸減している反面、渋谷駅周辺を
はじめとして商業地区・業務地区が拡大
図9大正10年(1921)頃、関東大震災直前の千駄ヶ谷
する一方、交通網の伸長は、区内外に通
じる利便さを増大させた。
渋谷駅周辺や原宿界隈は、ファッション
関係の店舗や百貨店などの新しいビルが
次々につくられ、多くの人々が集まる一方、
若者の街として賑わいを見せている。
(参考:渋谷区HP)
4-2-6
4章
1-2 気象
1-2-1 気温・降水量・湿度(大手町)
(1)気温・湿度
東京の気温は8月上旬頃が最も高く1月下旬頃が最も低く、高い時期と低い時期で約 20 度の温
度差。梅雨時期には一時温度の低い時がある。
年平均気温は、16.5℃で札幌より約 8℃高く、那覇に比べ約 6℃低い。夏期は那覇と同じく 30℃を
越える。30℃を越える日数は年間約 45 日あり、那覇の約半分だが 35℃以上の猛暑日が増加傾
向。
(2)降水量
東京の降水量は、梅雨時期や秋雨・台風の時期を中心に多い。
年間降水量は、東京では 1575mm、札幌(約 1100mm)に比べ多く、那覇(約 2000mm)に比べて
少ない。冬期間では、冬型の気圧配置となることが多く、東京では年間で最も少ない時期。
(3)日照時間
東京の日照時間は、年間を通して多く、年間日照時間は、1958 時間で、札幌(約 1700 時間)、八
丈島(約 1500 時間)より多く、南にある那覇(約 1800 時間)に比べても多い。一方で、梅雨時期と秋
雨・台風の時期には少ない。
●キーワード
・夏期の高い気温と湿度、近年は 35℃以上の猛暑日も
・梅雨時と、特に台風の時期に多い降水量
・冬期は、降雨は少なく乾燥
・年間を通じて多い日照時間。特に冬期は晴天が多い。
東京
250
40
●年間日照時間
35
東京(大手町):1958時間
30
200
25
20
(℃)
150
15
10
100
5
0
50
-5
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
最高
15.9
18.6
20.9
27.1
28.5
32.9
35.6
35.6
33.9
29
23.5
19.7
平均
6.08
7.14
9.9
15.3
18.7
22.8
26.1
27.4
24.1
18.6
13.9
8.44
最低
-0.6
-0.1
1.72
5.74
10.4
16
19.3
19.9
16.2
10.9
6.28
0.76
図10:東京(大手町)の年間月別平均気温
0
東京
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
198
168
184
200
154
125
167
159
136
140
151
176
図11:東京(大手町)の年間月別日照時間
4-2-7
4章
最低
(%)
東京
平均
80
400
70
350
60
300
50
250
40
(mm) 200
30
150
20
●年間高水量
東京(大手町):1575mm
100
10
50
0
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
最低
12.8
11.6
10.4
11.8
17.2
25.2
33.6
32.6
27.6
24.2
19
14.4
平均
45.2
48.6
49.6
56
63.8
69
70.4
68.2
67.6
65
57.6
49.4
図12:東京(大手町)の年間月別平均湿度
0
1
東京 81.3
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
33.9
110
74
157
133
125
179
187
338
105
52.1
図13:東京(大手町)の年間月別降水量
(参考:気象庁アメダスデータ
2002~2006
より)
1-2-2:気温・降水量・湿度(代々木・渋谷宇田川町)
(1)気温・湿度
新宿御苑と渋谷宇田川町の年間気温と湿度を比較する。気温は平均、最低気温は年間を通じて
2 つの場所に差は少ない。一方夏季の最高気温に明らかな差が見られる。新宿御苑の樹木による
夏季の蒸散作用が気温低下に寄与している。
湿度は夏季から秋季にかけて差が見られる。特に宇田川町の最高湿度は年間を通じ 100%に近
いが新宿御苑は 90%台である。特に 8 月~10 月にかけては宇田川町と比較し平均湿度で約 10%
低い。
*測定点:新宿御苑:新宿御苑内(渋谷区内藤町 11) 風速計高さ 11m
:宇田川町:渋谷区役所(渋谷区宇多川 1-1)風速計高さ 30.5m
●キーワード
・夏季の最高気温が宇田川町より 2 度ほど 低い新宿御苑
・年間を通じて湿度の高い宇田川町
・夏季の湿度が宇田川町より 10%ほど低い新宿御苑
・夏季の樹木の蒸散佐用による環境改善効果
4-2-8
4章
平均
℃
最高
平均
最低
40
40
35
35
30
30
25
25
20
15
20
℃
15
10
10
5
5
0
0
最高
最低
-5
-5
1月
2月
3月
4月
5月
6月
7月
8月
9月 10月 11月 12月
1月
2月
3月
4月
5月
図14:新宿御苑の年間月別気温
平均
6月
7月
8月
9月 10月 11月 12月
月
月
最高
図15:宇田川町の年間月別気温
最低
平均
120
120
100
100
80
80
% 60
% 60
40
40
20
20
0
最高
最低
0
1月
2月
3月
4月
5月
6月
7月
8月
9月 10月 11月 12月
1月
2月
3月
4月
5月
6月
図16:新宿御苑の年間月別湿度
7月
8月 9月 10月 11月 12月
月
月
図17:宇田川町の年間月別湿度
(参考:東京都環境局HPより)
1-2-3:風況(大手町)
(1)風 向
春先から風向は南西に移行し春季から夏季にかけては南西の風が卓越する。秋季からは北より
移行し、冬期は北北西の風が卓越する。
日変化では、夏期晴天日の場合、日中は沿岸部から内陸部に向かって、海風が吹くが、夜間は
陸風に変化する。
(2)風速
年間を通じた平均風速は 3.5mほど。夏期は湿気を含んだ海よりの弱い風、高温・多湿の気候の
遠因に。春先と秋季に強い風が吹く傾向。特に秋季は台風の影響が大きい。
●キーワード
・春から夏にかけて南西の卓越風
・秋から冬は北北西の卓越風
・沿岸部では海風による気温・湿度に
4-2-9
4章
14
12
10
8
(m)
m/s
6
4
2
0
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
最大
10.94
11.22
12.28
12.44
10.94
10.08
9.62
11.12
10.56
12.16
10.14
11.7
平均
3.46
3.5
3.7
3.76
3.5
3.02
3
3.26
3.54
3.36
3.08
3.28
図18:大手町の月別平均風速
冬季
N
NNW 50
NNE
40
NW
NE
30
WNW
20
ENE
10
W
E
0
春季
N
NNW 50
NNE
40
NW
NE
30
WNW
20
ENE
10
W
E
0
WSW
WSW
ESE
SW
SSW
ESE
SW
SSW
SE
SSE
SE
SSE
S
S
夏季
N
NNW 50
40
NW
30
WNW
20
10
W
0
WSW
秋季
NNE
NE
ENE
E
ESE
SW
SSW
SE
SSE
S
NNW 50
40
NW
30
20
WNW
10
W
0
N
NNE
NE
ENE
E
WSW
ESE
SW
SSW
SE
SSE
S
図19:東京(大手町)の季節別風配図
(参考:気象庁アメダスデータ
2002~2006
より)
4-2-10
4章
1-2-4:風況(渋谷宇田川町)
(1)風 向
春季は 3 月、4 月は北の卓越風が吹くが、5 月は一転して南が卓越する。夏季は北東と南南西の
風が卓越するが、盛夏に近づくにつれ北東から南西へ卓越風が変化する。
秋季はほぼ一定に北及び北北東の風が卓越する。冬季は北の風が卓越し、1 月の北の風向頻度
は 50%に達する。
(2)風速
年間を通じ平均風速は 2m/s ほどで、大手町と比較し 2m/s少ない。最大風速も大手町は 10m/s
を越えるのに対し、最も強い春先の南風も 8m/sに留まる。
6~8 月の夏季は最大風速、平均風速とも小さく、高い気温と相まって、高温多湿の気候を形成す
る。
*測定点宇田川町:渋谷区役所(渋谷区宇多川1-1) 風速計高さ 30.5m
●キーワード
・秋季から春先にかけて、ほぼ北の卓越風
・夏季は、南西と北東の卓越風が交互
・風速は内陸型、特に夏季は小さく蒸し暑い
平均
最高
最低
10
9
8
7
6
m5
4
3
2
1
0
1月
2月
3月
4月
5月
6月
7月
8月
9月
10月
11月
12月
平均
2
1.9
2.3
2.1
2.1
1.4
1.6
1.5
2.1
2
1.6
2.4
最高
6.7
6.2
8.6
8.4
6.1
4.6
5.7
6.1
5.8
6.5
5.9
7.6
最低
0.2
0.1
0.1
0
0.1
0.1
0.1
0.2
0.2
0.1
0
0.1
月
図20:渋谷(宇田川町)の年間月別平均風速
4-2-11
4章
春季
3月
夏季
4月
NNW 40
30
NW
20
WNW
10
W
0
6月
5月
7月
N
NNE
NE
ENE
E
WSW
ESE
SW
SSW
NNW 40
30
NW
20
WNW
10
0
W
NE
ENE
E
ESE
SE
SSE
S
秋季
冬季
10月
12月
11月
1月
2月
N
N
NNW
NNE
ENE
E
WSW
ESE
SE
SSE
40
NNE
30
NW
NE
SW
SSW
NNE
SW
SSW
SE
SSE
NNW 40
30
NW
20
WNW
10
0
W
N
WSW
S
9月
8月
NE
20
WNW
ENE
10
0
W
E
WSW
ESE
SW
SE
SSW
SSE
S
S
図21:渋谷(宇田川町)の季節別風配図
(参考:東京都環境局HP
より)
4-2-12
4章
1-3 生態
1-3-1 水・緑
(1)公園・緑地等
区内の公園・緑地等は国立、都立の公園緑地を等を除き、108 箇所ある。総面積 16.1ha の公園・
児童遊園地・緑道がある。区分別では、公園が 57 箇所で最も多く、箇所比 52.8%、面積比も 64.3%
を占める。ついで、児童遊園地が 45 箇所、緑道が 6 箇所。面積比では緑道が 24.5%、児童遊園地
が 11.2%である。種別で見ると、街区公園が箇所数、面積とも最大で 99 箇所、9.5ha で、箇所比
91.7%、面積比で 59.1%を占める。
(2)屋上緑化
区内の屋上緑化面積は 2.46ha。そのうち樹木で被覆された屋上緑化面積は 1.35ha で、草地で被
覆された屋上緑化面積 1.11ha よりも多い。区全体の屋上緑化面積の 36%を占める。最も低い地域
は、本町・笹塚地域の 0.05ha で、区全体の 2%である。
(3)水環境
明治神宮内の代々木神園町には、明治神宮の森で涵養された地下水が湧出する「清正の井」が
ある。枯渇の心配もなく、菖蒲田とともに、都民に親しまれている。
●キーワード
・緑に恵まれた渋谷区(緑被率 20.6%、都内 3 位)
・計画地近辺には、新宿御苑や明治神宮など都内有数の緑地
・計画地は明治通りと外苑北通りの並木の交わる場所
■計画時の環境配慮の視点
・区の緑被率の向上への貢献
・明治神宮と新宿御苑をつなぐ緑のネットワーク形成
・明治神宮の森からの冷気を取り入れる工夫
図21:渋谷区の緑被面積等の推移
図22:渋谷区の緑被等被覆状況
(参考:渋谷区緑の基本調査H15.6)
4-2-13
4章
■新宿御苑
■明治神宮
■清正の井
■渋谷区の生き物
モズ
トノサマガエル
図23:計画地周辺の自然環境概況図
4-2-14
4章
1-3-2 代々木フェノロジーガイド
気象
40
(℃)
気温
1月
2月
3月
4月
5月
6月
7月
8月
9月
10月
11月
12月
1月
2月
3月
4月
5月
6月
7月
8月
9月
10月
11月
12月 (%)
35
30
25
平均
最高
℃
最低
20
15
10
5
0
400-5
(mm) 350
300
250
降水量 200
150
湿度
100
50
0
降水量と湿度
月
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
1
198
2
168
3
184
4
200
5
154
6
125
7
167
8
159
9
136
10
140
11
151
12
176
1月
2月
3月
4月
5月
6月
7月
8月
9月
10月
11月
12月
80
70
60
50
40
30
20
10
0
200時間
日照時間 (時間)
100
0
日照時間
花
昆虫
野鳥
魚
祭り・行事
春
スミレ(9種)
ソメイヨシノ
フタリシズカ
ホタルブクロ
アジサイ
キンモクセイ
イチョウ
開花
キンモクセイ
ホタルブクロ
ふくらむ 展開開始
展開終了
変色 紅葉 落葉終了
アゲハ
アブラゼミ
アキアカネ
ユリカモメ
ツグミ・アオジ
モズ
ウグイス・メジロ
マガモ
展開
初鳴
冬鳥
初鳴
冬鳥
アユ
ヒキガエル
茅の輪くぐり(金王八幡宮)
代々木餅つき唄(代々木八幡宮)
流し雛(明治神宮)
花見まつり(代々木公園ほか)
富士塚山開き(烏森八幡神社)
秋祭り(渋谷神社大祭)
東京国際映画祭(Bunkamura)
酉の市(御嶽神社)
クリスマスイルミネーション(表参道ほか)
初鳴
マガモ
アオジ
ツグミ
産卵
産卵
酉の市
流し雛
茅の輪くぐり
4-2-15
4章
1-4 まち圏
1-4-1 代々木・千駄ヶ谷地区の現況
(1)計画地周辺の現況
計画地周辺は、北側に新宿御苑、西側に明治神宮を擁する、渋谷区はもとより都内でも有数の緑
豊かなエリア。一方で、交通量の多い明治通り、首都高速 4 号線、JR 山の手線、中央本線、都営地
下鉄大江戸線といった交通インフラが複雑に錯綜する地区でもある。その広大な緑にはさまれるよ
う、計画地周辺は三つのエリアに大きく分類できる。
JR 代々木駅をアクセス中心とする代々木エリアは大手予備校、各種学校を中心に物販、飲食店
が集中。人の流れも多く活気ある賑やかなエリア。JR 山の手線、明治通りにはさまれたエリアは、
近年開発が進み、巨大な高層建築も出現。明治神宮よりは、神宮北参道として神宮を訪れる人も。
JR 千駄ヶ谷駅をアクセス中心とする千駄ヶ谷エリアは、神宮外苑、国立競技場、東京体育館をは
じめとしたスポーツ施設の玄関口に当たりハレの雰囲気。明治神宮よりの烏森地区は、歴史のある
烏森神社や街道に、新しいアパート、住宅、小規模なオフィスの混在する閑静な地区。原宿に近づ
くにつれ、ファション系のショップ、アトリエも。
明治通りと、JR 中央本線、新宿御苑にはさまれた、千駄ヶ谷 5 丁目地区は、古い住宅や商店街、
事務所等が混在する下町的雰囲気の残るエリア。新宿御苑の緑を背景に、どこか時代に取り残さ
れた感も。
平成 20 年 6 月に明治通り地下に、東京メトロ副都心線が開通予定。計画地直南に「北参道駅」が
開業予定。
(2)計画地の現況
計画地はこれら三つの特徴のあるエリアの「はざま」的場所に立地。JR 等各駅からの人の流れか
らも距離を置き、北側に首都高速 4 号線の高架が迫る。地形的にも、かつての河川跡に近く、「谷底
的」な雰囲気。
一方で、「北参道」駅の開業は、計画地近辺に新たな賑わいを生む可能性あり。池袋、西武鉄道
方面からの流入者はダイレクトに新駅を利用する可能性。千駄ヶ谷、鳩森神社周辺の住民の利用
も期待され、明治神宮の第二の参道としても、休日などの賑わいが期待できる。
●キーワード
・緑にはさまれた交通の結節点である、代々木、千駄ヶ谷エリア
・代々木、千駄ヶ谷、千駄ヶ谷 5 丁目は、特徴のある三つエリア
・首都高速 4 号線の高架は、環境的にも景観的にも配慮要素
・都営地下鉄 号線の開通と新駅の開業は、新たな賑わいの創出
■計画時の環境配慮の視点
・首都高速 4 号線からの見え方、見せ方の工夫
・新駅開業を視野に入れた、賑わい空間の創出
(参考:渋谷区HP他)
4-2-16
4章
図24:計画地周辺のまち圏の概況図
4-2-17
4章
1-5 環境特性に基づく計画の視点
自然環境特性
地
象
•かつての玉川上水の派川跡に近い谷底地形
水
象
•玉川上水は四谷大木戸で、渋谷川に分流
•渋谷川は、計画地東部で暗渠化
•明治神宮内には湧水、「数正の井」も現存
象
•夏季の最高気温が宇田川町より2度ほど低い新宿御苑
•夏季の湿度が10%ほど低い新宿御苑
•夏季の樹木の蒸散佐用による環境改善効果
•秋季から春先にかけて、ほぼ北の卓越風
•夏季は、南西と北東の卓越風が交互に
気
生き物
•新宿御苑、明治神宮は豊かな生物生息地
植
•自然林(鎮守の森)は代々木八幡、二次林は代々木公園に
•新宿御苑、明治神宮など広大な緑地が多く自然性が豊か
•植栽起源の森林の代表、明治神宮、植物種は以外に単純
•明治神宮ではレッドリストの希少種も数種確認
•明治通り等は並木が整備、緑のネットワークを形成
物
人文環境特性
まちなみ
交
通
人通り
•大名屋敷跡や神社、街道の古い歴史ある代々木
•千駄ヶ谷は、東京のスポーツのメッカ、西部は閑静な住宅街
•代々木は学生の町、近年は大規模な開発も
•一部には下町的な雰囲気も残る
•鉄道、道路等交通インフラの錯綜する代々木
•それぞれのエリアを特徴付けるJR各駅
•都営地下鉄 号線、北参道駅の開業予定
•JR各駅を中心とした人の流れと賑わい
•一歩内部に踏み込むと、少ない人通りと静かな生活
•各エリアの、「はざ間」的な計画地周辺は、北参道駅の開業
で新たな賑わいの可能性あり
4-2-18
1-6 オフィスビルにおける改修のメニューイメージ
4-2-19
4章
4章
2.建物基礎情報マトリックス
環境配慮の視点
自然環境
社会・人文環境
●周辺の騒音源
・首都高速、明治通り、JR
⇒周1-4を参照
騒音
(外部環境)
騒音
(建物内部)
温熱環境
改修時の対策
・窓の二重化
(内付け窓)
・岩綿吸音板にアスベストが
含有している可能性有り。
解体の際には充分な確認
が必要。
・断熱の強化
●断熱仕様
・壁、最下階床:断熱なし
・窓の二重化
・最上階天井面:スタイロ25mm打ち込み (内付け窓)
・ガラス:熱線吸収ガラス t=6.9mm
●空調機器
・空冷ヒートポンプ天井カセット型(1フロア
2機設置)
・8、9階は2機に2機の室外
機。その他の階は2機に1機
の室外機。
●熱負荷要素
・北、東面:道路、高速、アスファ
ルト舗装
●周辺建物による日影
・主要開口は、北、東のみ。南、
西からの日射取得は期待できな
い
⇒周1-4を参照
●気象条件
・日照時間
⇒周1-2を参照
●主要開口部
●立地条件
・北・東面がメイン。夏季であれば南東側
・南、西側:13階建てマンション
開口部からの採光は上階では期待できる
・東側:明治通りに開放
・北側:北参道を挟んで高速道路
・北・東側:低層階(6階位)まで街
路樹による日影
⇒周1-4を参照
●照明器具
・照明器具
・メインの照明機器:40W×2本(逆富士型
蛍光灯)
グレア対策
照 度
室内空気質
備 考
・仕様書では遮音性能の指
示有り。ただし、具体的な性
能は不明
●スラブ厚
・遮音シートの敷設
・t=130mm
●天井:二重天井
・LGS下地の上、岩綿吸音板(懐640mm)
●次世代省エネ基準の地域区分
・Ⅳ地域(温暖地)
●地域の冷熱源
・明治神宮の緑、外苑の緑
●気象条件
・気温、日照時間
⇒周1-2を参照
光・視環境
●配線系統
・4系統に分岐されている
・適切な照明計画
・実測が必要
●内装仕上げ材
・天井:岩綿吸音板 t=○
・壁:PB下地の上、ビニルクロス仕上げ
・床:モルタル下地の上、Pタイル
・内装材への配慮
・岩綿吸音板、Pタイルにア
スベストの可能性有り。解体
の際には充分な確認が必
要。
●周辺環境
●換気設備機器
・給気口にフィルターの設置
・取り入れ外気が車等の排気ガス ・給気口:南側1カ所
・給気位置の変更
で汚染されている。
・排気口:各フロアに執務室2、トイレ1、台 (給気口と排気口の間隔を6m以上)
所1、集合管で南側に排気
●換気方式
・局所方式
換 気
●ビル管法
・室内空気質のモニタリング
・ビル管法の対象外の規模
・喫煙スペースの有無、CO
2監視実施状況の確認
・通信設備の更新、電気容量の拡
大
・高度情報通信設備の有無
の確認
・段差の解消
・間口の確保
・要現地確認(アプローチ、
EV廻り、トイレ)レベルの確
認
運用管理
‐
C
A
S
B
E
E
既存建物仕様
●サッシの仕様
・アルミサッシ+シングルガラス
(熱線吸収ガラス t=6.9mm)
~
改
修
Q
1
●基準階床面積
・約62㎡
・収納スペース無し
使いやすさ・
機能性・広さ
バリアフリー
計画
Q
3
●立地条件
・南・西側は隣接建物(外部階段)
・東側:街路樹(5階程度の高さ)、
明治通り
・北側:街路樹(7階程度の高さ)、
首都高速道路
⇒周1-4を参照
広さ感、景観
●開口部配置
・西側開口部なし
・北、東面は連続した窓で開放的
●空間要素
・一体的なフロア
・天井高の確保
●耐震性能
・新耐震に対応
耐震・免震
・耐用年数の高い部材の使用
●外装仕上げ材
・外装:磁器質タイル、一部吹きつけタイル
・屋上:アスファルト防水3層の上、コンク
リート押さえ60mm
●配管、配線類
・給水配管:塩ビライニング鋼管(内部)、
硬質塩ビびにる管(外部)
・雑排水配管:石綿びにる二層管、塩ビ管
・汚水配管:屋内石綿びにる二層管、屋外
硬質塩化ビニル管
・電気配線:・・・
部材の
耐用年数
・雑排水配管にアスベスト含
有の可能性有り。解体の際
には充分な確認が必要。
主要設備
機器の更新
●各高さ関係
・階高:3.2m
・天井高さ:2.4m
・梁下有効高さ:2.35m
空間のゆとり
・天井懐の最小化
・EVホールの専有化
・設計図からでは判断でき
ないため要確認
荷重のゆとり
生物環境の
保全と創出
街並み景観
への配慮
●周辺緑地
・明治神宮の杜、街路樹、後背地
の緑、住宅地の緑
⇒周1-3を参照
●景観要素
・明治神宮の杜、街路樹、後背地
の緑、住宅地の緑
⇒周1-3を参照
●景観要素
・沿道沿いはオフィス等
・高速道路の大型構造物
・新駅開設
⇒周1-4を参照
●狭域緑地
・グランドレベルの緑地
・建物緑化なし
・屋上緑化
●景観要素
・1階のレストラン
・夜間の室内照明
・最上階の広告看板
・まちかどを意識したファサードデザイン
(曲面デザイン)
・明治神宮の参道としてのデザイン
・将来の道路拡張について
要確認
・緑被率の試算
・舗装(透水性、保水性)
*自然環境、社会・人文環境の項目内にある「⇒周 1-○を参照」とは、4-2 の 1.周辺環境のあらまし内に関連する記述があることを示している。
4-2-20
4章
環境配慮の視点
自然環境
社会・人文環境
既存建物仕様
改修時の対策
備 考
熱負負荷抑制
●気象条件
自然エネルギー ・日照時間、風向・風速
利用
⇒周1-2を参照
●周辺建物による日影
・南面する建物の日影
●既存の取組
・直接利用、変換利用とくに無し
・省エネ設備の導入(エアコン、照明器
具等)
設備システム
の高効率化
・省エネ法対象
・仕様基準(ポイント法)によ
る評価は可能
ERR
・テナント毎の使用量の把握(省エネナ
ビ)
・管理内容の確認が必要
効率的運用、
モニタリング
・節水機器の採用
水資源の保護
C
A
S
低環境負荷材
B
E
E
・再生資材の活用
‐
フロン・ハロン
の回避
~
改
修
L
R
1
●使用可能性のあるもの
・エアコン冷媒としてのフロン
・発プラ系断熱材(最上階天井)のフロン
・ノンフロン製品の使用
(断熱材)
●汚染源
・給湯機からの排気
・低Nox型機器の採用
●騒音源
・エアコン屋外機(屋上、1階に設置)
・給水ポンプ
・エアコン室外機の位地
・排気位地
・解体時の処分方法
大気汚染防止
L
R
3
騒音
振動
悪臭
風害
日照阻害
光害
温熱環境
悪化の改善
地域インフラへ
の負荷抑制
●気象条件
・風向・風速
⇒周1-2を参照
●建物の日影範囲
・北側は広幅員道路、高速道路
●立地条件
●発生源
・建物南・西面は隣接建物により ・屋上の看板、オフィスの漏れ光
日影になる
・東面グレア
・屋上看板ライトの対策
●立地条件
●既存の取り組み
・屋上緑化
・建物南・西面は隣接建物により ・建物緑化、透水性・保水性舗装、高反射 ・保水性・浸透性舗装
日影になる
塗料等の取り組みなし
・高反射塗料
・試算が必要
●駅
駅位置(新駅)確認
⇒周1-4を参照
・廃棄物の出し方
・テナントからのゴミ
●駐車場、駐輪場の有無
・駐車場なし、駐輪場なし
●ゴミ置場
・一般ゴミ置場あり
・分別ストックヤードなし
・違法駐輪への対策
*自然環境、社会・人文環境の項目内にある「⇒周 1-○を参照」とは、4-2 の 1.周辺環境のあらまし内に関連する記述があることを示している。
4-2-21
4章
4-3 機械設備改修計画
長沼 由恭
●空調換気設備
空調換気設備のケーススタディの前に、室内温熱環境について整理してみる。
人が熱的快適感に影響する要素として6つ挙げられている。すなわち、温度、相対湿度、平均放
射温度、平均風速、着衣量、作業量であり、前4つが物理的要素、後2つが人間側の要素である。
これ等の要素を加味して快適性を指数化したものがPMV(温熱環境評価指数)であり、その温熱
環境に不満足・不快さを感じる人の割合を表すのがPPD(予測不快者率)で ある。
下の図はPMVとPPDの関係を示したものであるが、ISOではPMVが±0.5以内、PPDが10%
以内を標準として推奨している。
小規模ビルでPMVとPPDを完全に意識した設計は難しいが、空調器に温度と湿度に加えてその
他の要素も検知して制御する製品がでてきている。
ここでは温度と湿度及び気流の関係について整理してみる。
(1)湿度
小規模ビルの空調設備では、多くの場合湿度は成り行きである。
前述したように、湿度は人の熱的快適感に影響する重要な要素であるが、次に述べる気流と
共に温度ほど重視されていない。
温度と湿度の関係で一般によく理解されているのに不快指数がある。PMVで示される6つの
要素のうち2つのみであるため正確さに欠けるが、目安にはなるので検討してみる。
エネルギー節約の一環として政府が推奨している室温の冷房28℃以上、暖房20℃以下が
湿度を考慮するとどうなのかをみると、快適と感じる人の割合は少ないことが分かる。除湿機
能を働かせないで28℃の設定で運転すると相対湿度は60%を越えると考えられるが、この
ときの不快指数は77以上になり、快適の範囲から外れることになる。また、暖房温度を18℃
に設定し、加湿なしの運転をすると相対湿度は30%台になると考えられ、このときの不快指
4-3-1
4章
数は62台であり、快適の範囲内とはいえ肌寒いと感じる人の割合も増えることになる。また、
静電気が起こりやすくなり、何らかの方法で加湿が必要になる。
不快指数値の評価
不快指数
~55
~60
~65
~70
~75
~80
86 以上
体感
寒い
肌寒い
快適
快適
快適
やや不快
たまらない
冷房の場合
70 を超えると不快を感じる始める人が出る
75 を超えると半数ぐらいの人が不快を感じる
80 を超えるとほぼ全員が不快を感じる
(2)気流
温度が高くても気流があると涼しく感じるのは日常経験することだが、温度と気流による快適
性をグラフで表したものを下に示す。
ここで28℃のとき快適と感じる風速は0.9m/s 弱であり、これは通常の空調としてはかなり
強い風速である。体感温度はともかく、ドラフトを感じる風速であり、そのために不快を感じる
人も出てくる。
ASHRAEでは着座で執務している人に対する風速の許容値を0.075~0.20m/s
の値を推奨しているので、前記の風速はあまり適当なものではないことが分かる。
気流との関係をみても冷房温度28℃で快適感を得るのは難しい。
事務スペースでも体感温度を下げることを目的に天井にファンを設置している事例はあり、一
定の効果はあるようである。
4-3-2
4章
(3)空調設備改修案
3 章で述べたように、空調設備の設置事例は個別分散式が一般的であり、中でも天井カセット
形パッケージエアコンが多く採用されている。
千駄ヶ谷ビルの場合、1 フロアーの賃貸面積は約 60 ㎡と小さいこともあるので、導入コスト面
で有利なルームエアコン方式も検討対象にしてみたい。
最近のルームエアコンは機能面で優れて容量もかなり大きいものが出現いているので、オフィ
スビルでも使えるようになってきた。
ルームエアコンの弱点はパッケージエアコンに比べて室内機と室外機間の冷媒管の長さ、高
低差が多くとれないことである。(標準は冷媒管長 15m、高低差 12m 以内)2~9 階全階をル
ームエアコン方式にするには室外機の設置スペースを確保する必要があるが、 エレベーター
と便所の裏側の各階にサービスデッキを設けることができれば可能である。
(竣工図では各階にバルコニーがあるようになっているが、現地調査によると、2 階のみで 3~
9 階は設置されていない。)
サービスデッキの設置が可能という前提で計画したものが別図である。
(4)換気設備改修案
既存の換気方式は、貸室、便所、給湯コーナーに天井扇を設置した第三種換気方式となってい
る。給気は貸室に給気口を2ヶ所設置している。(竣工図では1ヶ所)
改修案では貸室に省エネルギー性、室内環境の向上を目指し全熱交換器の設置を提案する。
3 章で述べたデシカント式換気方式は、製品が開発されたばかりで、まだ高価格なのと機種が
1つであるなど、普及するにはもう少し時間がかかるようである。
●給排水衛生設備
(1)給水設備
既存設備は受水槽、高置水槽を設置した重力給水方式となっている。3章で述べたように
現在は中小規模の建物は直結給水方式が一般的であるが、千駄ヶ谷ビルでも直結増圧
方式を提案する。
既存引込み管は 40A となっているが、詳細計算の必要はあるものの増径のための引き替
えはせずに既存のままで間に合うと思われる。
増圧ポンプユニットは現ポンプ置場(1 階)に設置する。
配管は既存管の劣化具合を確認のうえ、更新するかどうか判断をすることになるが、空調設
備の項で提案したサービスデッキが設置されれば、外部に竪管を通し、将来の改修・修理が
容易になるようにしたい。
計量は現在と同様に、1,2階は単独のメーターを設置し、2~9階は親メーター(局契約用)の
他、各階に私設メーターを設置する。
4-3-3
4章
(2)給湯設備
既存の給湯コーナーの給湯は、竣工図によるとガス給湯器を設置していることになっている
が、現地調査した7階は電気温水器が設置されていた。
他の階も調査して、ガスが使用されている場合は電気温水器に切り替えることが望ましい。
(3)排水設備
給水管同様、劣化具合を確認して更新するかどうか判断することになるが、更新する場合に
は竪管はサービスデッキに設置したい。
既存排水管は石綿ビニル二層管が使用されているので、撤去にあたっては石綿の飛散防止
対策に十分な配慮が必要である。
(4)衛生器具
腰掛便器は洗浄水量の少ない仕様にし、洗面器は既存より水容量は小さいが使用に支障の
ない程度のものを提案する。
また、節水に効果があると言われる擬音装置をブースに設置したい。
4-3-4
4章
空調設備比較
A ルームエアコン
B ルームエアコン
C パッケージエアコン
壁掛形
1 方向吹出形
天井カセット 4 方向形
6.3+5.0=11.2
5.6+5.6=11.2
7.1+5.0=12.1
加湿
○
○
除湿
○
○
○
フィルター自動清掃
○
○
○
機器容量(kw)
機
備
考
上位機種のみ
ルームエアコンは
上位機種のみ
能
方向別吹出風量調整
COP(冷暖平均)
○
4.15(6.3kw)
4.33(5.0kw)
3.57
4.26(7.1kw)
4.47(5.0kw)
46~48(室内機)
47
31~35(室内機)
48~52(室外機)
52
45
735+661.5
703×2
1,083+1,002
=1,396.5
=1,406
=2,085
冷房運転時
運転音(dB)
(室外機)
価格(千円)
(注)データはダイキンカタログ(2008.05)による
4-3-5
4章
4-3-6
4章
4-3-7
4章
4-3-8
4章
メリット
デメリット
直結方式
貯水槽方式
○配水管の水が直接蛇口まで供給される
ため、水が新鮮。
○水槽の清掃・点検に掛かる費用が不要
になる。
○水槽を設置するスペースが不要になり
、空いたスペースを有効利用できる。
○災害・緊急時等に配水管が断水になっ
た場合、すぐに断水になる。
○災害・緊急時等に配水管が断水になっ
た場合でも、タンクに貯留されている
水を利用できる。
○水槽が不衛生な場合、安全な水が供給
されない恐れがある。
○水槽の清掃・点検費用がかかる。
○水槽設置のためのスペースが必要にな
る。
給水方式の比較
4-3-9
4章
便所改修案
既設(TOTO)
改修案(TOTO)
腰掛便器
C-14
隅付ロータンク
洗浄水量 12L
ネオレストDタイプ
ウォシュレット一体型、擬音装置付
洗浄水量大 6L、小 5L
洗面器
カウンター式はめ込角形
L331RA類似品
給水栓、水石鹸入れ
容量 6.5L
アンダーカウンター式丸形
L530
自動水栓
容量 5L
イメージ図
イメージ図
4-3-10
4章
千駄ヶ谷ビル概要(竣工図による他一部は現地調査による)
主要用途
階数/主要構造
床面積(㎡)
建
物
事務所(1階は飲食店)
地上9階、塔屋1階/SRC造
基準法上
75.44×3
75.44×5
73.04
―
685.92
7~9F
2~6F
1F
B1F
合計
方位
断熱
ガラス
その他
空調
空
調
・
換
気 換気
施工床
93.709×3
96.189×5
89.149
22.23
882.811
備考
塔屋面積を含む
専用部分は三面が外気に接し、それぞれ北、北東、東南に面しており、その内の東南面
には隣地建物が約1m離れて建っている
屋根スラブ下にスタイロフォーム25mm打込み、その他はなし
熱線吸収ガラス6.8mm網入
開口部には庇などの日除けになるものはないが、日照の影響は少ない建物である
9F
8F
6、7F
3~5F
2F
9F 貸室
2~8F 貸室
2~9F便所
2~9F
給湯コーナー
空調方式、容量
空冷HP、天井カセット形 2.3kw×1組、10.5kw×1組
空冷HP、天井カセット形 5.2kw×2組
空冷HPツインタイプ、天井カセット形 13.0kw×1組/F
空冷HPツインタイプ、天井カセット形 14.5kw×1組/F
空冷HP、天井カセット形 5.2kw×2組
換気方式
中間ダクトファン+天井換気扇による第3種換気方式
天井扇2台よる第3種換気方式
天井扇よる第3種換気方式
天井扇よる第3種換気方式
給水
給水方式:1,2Fは直結直圧給水方式、3~9Fは重力給水方式
受水槽 :槽容積6m3、FRP製、有効4.5m3程度
高置水槽:槽容積2.25m3、FRP製、有効1.9m3程度
揚水ポンプ ×2台(交互運転)
引込管 :40A
計量 :各階にメーター設置(2Fは1Fと同一メーター、3F~9Fは私設メーター)
給湯
給湯方式 :竣工図によると給湯コーナーにガス給湯器設置となっているが、
現地調査した7階は電気温水器が設置されていた。他の階は未確認
給
排 排水
水
・ 都市ガス
そ
の 衛生器具
他
排水方式:汚水、雑排水合流方式で下水本管に接続放流
供給範囲:1F店舗、その他の階は未確認(7Fはガス配管なし)
便所 :腰掛便器、隅付ロータンク×1/F
洗面器、水石ケン入れ ×1/F
連結送水管
3~9Fに放水口設置
配管材料
給水管 :(屋内)塩ビライニング鋼管
(屋外)硬質塩化ビニル管
排水管 :(屋内)石綿ビニル二層管
(屋外)硬質塩化ビニル管
通気管 :(屋内)石綿ビニル二層管
消火管 : 亜鉛鍍鋼鋼管
4-3-11
4章
4-4
電気設備改修計画
●
既存設備概要
○
受変電設備
引込ケーブル
木林
6KV
茂利
CVT38mm2(75)
機器類
受変電設備
屋上に屋外キュービクル設置
主遮断装置
高圧負荷開閉器
変圧器
油入
7.2KV
200A
3φ100KVA×1 台
油入 1φ75KVA×2 台
進相コンデンサ
○
計 250KVA
3φ30KVA
幹線設備
幹線系統は 2 フロアまたは 3 フロア1系統で各階に電力を供給しており、下記の系統と
なっている。
動力系統
①
1階、共用部
②
3、4階系統
5、6階系統
7、9階系統
エレベーター系統
電灯系統
①
1 階、共用系統
2、3階系統
4、5、6階系統
7、8、9階系統
○
動力盤・分電盤
各階テナント用動力盤、分電盤はテナントスペースに設置されている。
電力量計(WHM)は盤内に設置されている。
○
電灯コンセント設備
照明器具は白熱灯および従来型の蛍光灯を使用している。
○
弱電設備
通信情報設備
外部から地中管路で建物に引き込み、各階に端子盤を設置し、各テナントまで配管を敷
設してある。
放送設備
設備なし。
4-4-1
4章
テレビ共聴設備
屋上にアンテナを設置し各階テナント内テレビ受口までの配線を敷設してある。
防犯設備
玄関および各階で入り口に警備設備を設置してある。
○
防災設備
自動火災報知設備
P 型 1 級10回線受信機 1 階に設置、各階必要箇所に煙または熱感知器を設置してある。
非常照明・誘導灯設備
各階各室、エレベーターホールに電池内蔵型の非常照明器具が設置してある。
避雷設備
屋上に避雷針を設置してある。
●
改修計画提案
○
受変電設備
本建物は築 20 年余を経過しており機器の劣化による更新だけでなく、省エネルギー、
機能向上、負荷容量増加対応、信頼性の向上を目的として、キュービクルの全面更新が望
ましい。
この場合、建物を使用しながらの改修となるためテナントに影響の出ない停電可能日を調
整し改修する必要がある。
幹線設備
幹線供給系統は現状の方式でよいが、負荷容量の増加に対応できる幹線サイズに更新する。
各テナントスペースに設置されている電力量計を共用部に設置し、テナント内に立ち入ら
ずに検針が出来るよう改修する。
動力設備
機械設備の改修計画にあわせ電力の供給、配管配線の改修を行う。
電灯コンセント設備
高効率の照明器具に更新する。
点滅区分を細分化し省エネルギーを図る。
テナントの用途によりOAフロアを採用しオフィスレイアウト変更、および負荷の増加に
対応する。
弱電設備
情報通信設備
現状の配管状況を調査の上、情報通信網が構築できる配管システムに改修する。
テレビ共聴設備
現状のままとし、不良機器の更新のみとする。
4-4-2
4章
防災設備
自動火災報知設備
設備の試験、検査時のテナント内への立ち入りをなくすため、遠隔機能試験付の感知
器および受信機に更新する。
非常照明・誘導灯設備
近年では、高輝度化、コンパクト化、低消費電力化が図られた高輝度誘導灯が主流とな
っている。従来型誘導灯を高輝度誘導灯に更新する。
また、自動火災報知器と連動させ、誘導灯を消灯させて省エネルギーを図る。
4-4-3
発行
特定非営利活動法人 NPO 環境持続建築
東京都港区赤坂 2-14-13 シャトレ赤坂 302
T:03-5570-2106/F:03-5570-2108
e-mail:[email protected]