竹筋コンクリート造による JICA 草の根援助プロジェクトへの技術協力

竹筋コンクリート造による JICA 草の根援助プロジェクトへの技術協力
米子工業高等専門学校 5年建築学科
1
1.1
はじめに
研究の概要
c)バイオトイレ
現在、世界各地の貧困地域で JICA(ジャイカ)の活動が行わ
れている。JICA とは独立行政法人国際協力機構のことであり、
開発途上地域において復興または経済の安定に協力すること
を通じて、国際協力の促進、国際経済社会の健全な発展に資
することを目的としている団体である。
その JICA の活動の一つに南インドの貧困地域を対象とし
たものが進められている。内容は、南インドの貧困地域にバ
イオトイレを建設し農業による自立を促進するというもので
あり、活動機関は駒澤大学、NPO 神戸まちコミュニティ、慶
應大学となっている。
玉井研究室は、今回のプロジェクトに竹筋コンクリート造
による建設技術について協力をすることとなった。
研究の目的は、バイオトイレの建物を竹筋コンクリート造
で作ることであるが、この技術を現地の住民が自ら建設でき
るようなプログラムを提案、実施することを目標とする。
1.2
バイオトイレとは、糞をトイレの貯蓄槽に溜めて底に溜ま
った糞の分解を微生物によって行い、それを農業のための肥
料として用いることができるものである。図 2 に駒澤大学の
バイオトイレ計画案を示す。
活動地域
活動地域を図 1 に
示す。活動地域は、
南インドのチェンナ
イから南に約 80km
の場所に位置する漁
村コバラム村である。
本村には、漁民カー
ストのほか被差別カ
ーストの住民が暮ら
している。この被差
別カーストの住民は
インドのカースト制
度の中で最も低い身
分の住民である。活
動はこの被差別カー
ストの住民に対して
中心的に行う。
1.3
富谷広基
内藤政樹
図2
2
2.1
活動地域
バイオトイレ計画案
実験方法
実験の概要
本研究は4つのシリーズとなっている。
シリーズⅠでは用いるコンクリートの調合を決め、シリー
ズⅡでは竹筋の定着方法を、シリーズⅢではバイオトイレに
用いる床の実大試験体を製作し、施工法、構造耐力について
検討を行い、シリーズⅣでは塀の計画図の作成を行った。
2.2 シリーズⅠ
図1
JICA 活動地域
技術協力プログラム
a)概要
技術協力プログラムの最終目標は、住民が自ら竹筋コンク
リート造でバイオトイレを建設し、バイオトイレで作られる
有機肥料をもとに漁業の他に農業で自立していけることを目
指している。そこで、まず、住民にコンクリートの製造、竹
筋の作り方を学習してもらうために、竹筋コンクリート造の
塀の建設を体験してもらい、技術の習熟の向上をはかる。そ
の後、バイオトイレを自ら建設できる施工法について技術支
援するものである。
ここで、活動地域である南インドチェンナイは、海が近い
ため鉄が錆びやすく、さらに現地のような貧困地域にとって
は鉄の入手が困難である。また、現地におけるヒアリング調
査によるとコンクリート造が良いということらしい。以上の
ことから鉄筋の代用品として竹筋を用いることとなった。
b)塀
この塀は、古くから日本に見られる万年塀をプレキャスト
製造して作るものである。塀に用いる支持材、板材が竹筋コ
ンクリート造である。
この工事を現地住民が体験することによって、コンクリー
ト工事、プレキャスト製造法などについて学習し、バイオト
イレの建設の基本的技術の習得をはかるものである。
本シリーズの目的は、インドで用いるコンクリートの練り
混ぜ方法および調合をワーカビリティーと圧縮強度によって
決定することである。
インドで用いるコンクリートの調合を決めるにあたり前提
とするのは「インドで安価で容易に手に入るもの」とした。
他に、セメントには普通ポルトランドセメント、砕石は15
05、混和剤には中性洗剤を使用することとした。中性洗剤
はAE剤の代用品として空気を連行する役割がある。
今回は表 1 に示す6種類の調合パターンでワーカビリティ
ーと強度について検討した。
表1
No.
W/C
W
C
S
調合表(シリーズⅠ)
G
圧縮強度[N/mm 2 ]
Ad
スラ
C×%
ンプ
材令 7 日
材令 28 日
1
55%
220
400
735
947
0%
9.5
32.64
42.27
2
55%
220
400
660
1025
0%
12.0
33.78
42.06
3
55%
220
400
660
1025
5%
―
―
―
4
55%
220
400
583
1025
1%
20.0
12.99
18.84
5
55%
220
400
583
1025
0.5%
17.5
14.68
20.54
6
55%
210
382
655
993
0.7%
18.5
13.20
17.36
調合条件は、水セメント比は 55%で全て同じとし、№1・
2は混和剤不使用、№3・4・5・6は混和剤の使用量を変
えたものとした。
№3に関しては混和剤の使用量が多すぎたためコンクリー
トを練ることが出来なかった。よってスランプ試験、圧縮試
験は行っていない。
コンクリートの練り混ぜ方法は、インドではミキサーが高
価であるため、攪拌機を用いることとした。また、練り混ぜ
順序は、水+セメント+中性洗剤を入れ攪拌機で1分間、さ
らにそこへ細骨材を加え3分間混ぜた。次に、モルタルを練
り板の上にあけ粗骨材を人力により練り混ぜた。攪拌機によ
る練り混ぜ状況を写真1に、人力による状況を写真2に示す。
型枠は翌日脱型し、水中
に浸漬し養生を行った。曲
げ試験は、JIS A 1106 に
従い、支点間距離 450mm、
中央一点載荷試験によっ
て行った。試験中の状況を
写真 3 に示す。
写真 3
2.4
写真 1
写真 2 人力による練り混ぜ
攪拌機
圧縮強度実験は、JIS A 1108 に従い行った。製作した試験
体を使用した圧縮強度試験である。なお、端面はアンボンド
キャッピングによった。
竹筋梁曲げ試験の状況
シリーズⅢ
本シリーズの目的は、本プロジェクトのバイオトイレに用
いる床の製造、型枠の脱型時期、強度および変位を実大試験
により確認することである。なお、本シリーズは、本プロジ
ェクトの関係者を集め公開実験として行った。
今回は下記に示す5種類の実大床(巾 500×長さ 1500mm)
を製作し試験を行った。
①竹筋+コンクリート厚さ 90mm
②竹筋+コンクリート厚さ 70mm
③無筋+コンクリート厚さ 90mm
2.3
シリーズⅡ
④鉄筋+コンクリート厚さ 70mm
本シリーズの目的は、本プロジェクトで用いる竹筋の定着
方法を竹筋梁の曲げ試験により決定することである。
竹筋の配筋タイプは図 3 に示すような形状と継手箇所数に
より5種類とした。また今回の実験で用いたコンクリートは
シリーズⅠの実験をもとに決めた。調合表を表 2 に示す。
⑤竹筋改良型+コンクリート厚さ 90mm
a
b
c
500×1200の型枠に実験その2と同じ要領で
配筋し、実大のコンクリート床板を製作する。
図3
表2
W/C
W
竹筋タイプ
コンクリート打込み24時間以降に
型枠から脱型する。
調合表(シリーズⅡ)
C
S
G
Ad
スラ
圧縮強度
C×%
ンプ
[N/mm 2 ]
タイプ
厚さ
3
70
90
110
55%
200
364
617
993
0.5%
11.0
22.4
3A
70
90
110
55%
200
364
617
993
0.5%
10.5
18.3
2
2A
1
90
55%
200
364
617
993
0.5%
13.0
18.4
図5
今回実験で使用した試験体の作製方法を図 4 に示す。
型枠内に 20mm練り上がったコンクリートを詰め、突棒と
木槌にて振動をあたえ締固めた。次に配筋済みの竹筋を入れ、
所定の厚さになるようにコンクリートを打込み、先行コンク
リートと同様に締固めた。
試験体製作過程(シリーズⅢ)
実大床板の試験体の製作方法を図 5 に示す。aはシリーズ
Ⅱの竹筋のタイプ 3、bは竹筋の加工手間を少なくした改良
型、cは異形鉄筋(SD295)D10 である。
型枠内へのコンクリートの打込み方法、手順はシリーズⅡ
と同じ要領で行った。シリーズⅢで用いたコンクリートの調
合を表 3 に示す。ここで、③・④のコンクリートは載荷試験
までの日数が短いことから、試験時強度と合わせるため水セ
メント比を 3%小さくした。
表3
タイプ
W/C
W
調合表(シリーズⅢ)
C
S
G
Ad
スランプ
①
配筋済み竹筋
厚さ:110mm
③
後行コンクリート
打込み
200
364
570
1042
0.25%
12.5
26.1
10.0
26.7
52%
180
346
774
993
1.0%
9.0
23.4
55%
175
318
764
1042
1.0%
9.0
23.7
④
厚さ:90mm
厚さ:70mm
試験体型枠:15×15×53cm
先行20mmコンクリート打込み
図4
55%
②
圧縮強度
[N/mm 2 ]
C×%
試験体作製過程(シリーズⅡ)
⑤
順次セメント袋を載せていく
5.0 4.0 曲げ応力(N/mm 2)
実大床板の載荷試験方法を図 6 に示す。支点間距離は
1200mm とし、1 袋約 25kg のセメント袋を 30 秒に 1 袋のペ
ースで載荷した。載荷直後に変位の計測を行う。なお、試験
体②、③、④、⑤はノギスによる変位計測、試験体①のみダ
イヤルゲージによる変位計測とした。
3.0 2.0 1.0 セメント袋:25kg
0.0 セメント袋:25kg
厚さ(mm)
竹筋コンクリート板
70
90
タイプ
2.5
90
110
3A
90
90
90
2
2A
1
竹筋タイプ‐厚さ
図8
竹筋タイプ・厚さ別 曲げ応力
載荷試験方法(シリーズⅢ)
3.3
シリーズⅣ
本シリーズの目的は、バイオトイレの建設がスムーズに行
えるための体験プログラムをつくることであり、その課題と
して、竹筋コンクリート造による塀の建設とした。
塀の建設地は活動地域内で、子供の遊び場を区画し大人お
よび動物の進入を防ぐものである。
シリーズⅢ
実大床試験の結果を図 9 に、セメント袋を 8 袋、学生 1 名
(約 50kg)の計 250kg を載荷した状況を写真 4、さらに教員
1 名、学生 3 名が乗り破壊した状況を写真 5 に示す。
グラフから、ノギスによる変位計測とした試験体には全体
的に変位のばらつきが見受けられたが、荷重 250kg で破壊す
る試験体はなかった。また、竹筋+コンクリート厚さ 70mm
の試験体では、約 515kg で破壊した。
実験の結果および考察
3.1
シリーズⅠ
0.8
圧縮強度試験の結果を図 7 に示す。本図より混和剤不使用
の方が圧縮強度が高くなっている。しかし、混和剤を使用し
たものでも材令 28 日では一般住宅の設計基準強度程度の値
が発現しており、本プロジェクトに用いるコンクリートとし
ては十分な強度であった。
今回の実験によって今後の実験で使用するコンクリートの
調合条件は、水セメント比が 55%、かさ容積が 63%、単位
水量が 200 ㎏/㎥、混和剤使用量がC×0.5%とし、目標スラ
ンプ値は 12 ㎝、目標空気量は 8%とすることに決定した。
竹筋ア90mm
竹筋ア70mm
0.6
竹筋(改良型)ア90mm
0.4
変位[mm]
3
70
3
400mm
1200mm
図6
110
0.2
0
0
25
50
75
100
125
150
175
200
250
175
200
250
50 材令7日
圧縮強度[N/mm2 ]
40 ‐0.2
荷重[kg]
材令28日
30 (a)竹筋配筋床
20 0.8
10 無筋ア90mm
0.6
0 鉄筋ア70mm
1
2
3
4
5
6
調合ナンバー
3.2
調合ナンバー別 圧縮強度
シリーズⅡ
竹筋梁の曲げ試験の結果を図 8 に示す。本図より試験体の
圧縮強度に比例して曲げ応力度も大きくなっていることが分
かる。これは、コンクリートのひび割れ強度が曲げ耐力にお
よぼす影響が大きく、竹筋による補強効果が少ないことを意
味している。また、本試験中においてタイプ1・2・2A で
は竹が滑っているような音がし、タイプ3・3A では竹の繊
維が切れるような音がしていた。
本実験により、タイプ3の定着方法がコンクリートとのア
ンカー効果が大きいと判断し、本方法を標準とすることを決
定した。
変位[mm]
0.4
図7
0.2
0
0
25
50
75
100
125
150
‐0.2
荷重[kg]
(b)鉄筋配筋・無筋床
図9
荷重・変位
500
1350
竹筋
(d)B部:板材
写真 4
荷重約 250 ㎏
写真 5
荷重約 515 ㎏(破壊)
竹の加工手間を大幅に低減した、改良型竹筋を用いた試験
体は同じ厚さの標準竹筋に比べ、100kg までの変位は大きい
が、以降の変位は大きく増えていない。しかし、250kg の状
況で急に変位が大きくなった。これは、学生が上に乗る時に
試験体がぶれたためと思われる。
本実験より、荷重 200kg 程度であれば改良型竹筋の配筋方
法でも良いことが分かった。しかし、丸竹のままだとコンク
リート内で浮かんでしまうため、空気を逃がすために半割と
して用いるか、固定することが必要であった。
3.4
シリーズⅣ
図 10 に竹筋コンクリート造の塀の図面を示す。支柱は 200
×200mm とし、板材を入れる溝を設けている。板材は、巾
500×長さ 1350×厚さ 40mm とし、2 枚用いると 1000mm 程
度の塀となるようにした。支柱は傾きを防止するためにコン
クリートによって根元を固めることとした。
1500
1500
(e)支柱・板材接続部
図 10
4
(f)イメージ図
塀図面
まとめ
竹筋コンクリートの研究 1) 、 2) は、1940 年頃、鉄の代用品と
しての研究が 10 年間行われたのみであったために、コンクリ
ート中に入れた竹の状態については全く分かっていない。そ
こで、シリーズⅢで制作した 2 枚の試験体を長期暴露保存す
ることとした。保存の状況を写真 6 に示し、今後 5 年後また
は 10 年後の確認を予定している。
1500
1500
A部
(a)平面図
200
80
60
写真 6
7.5
60
7.5
40
55
72.5
200
1500
72.5
竹筋
(b)A部:支柱詳細
1500
1000
B部
500
GL
長期暴露保存の状況
本研究のまとめを以下に述べる。
1)本プロジェクトの竹筋コンクリート造のバイオトイレおよ
び塀の建設が、現地住民でも容易に行えることを確認した。
2)シリーズⅠの結果から、活動地域のインドにおいても十分
な強度とワーカビリティーのコンクリートを製造できるこ
とが確認した。
3)シリーズⅡおよびシリーズⅢの結果から、竹筋コンクリー
ト造の床はバイオトイレに用いる床として十分な強度を確
認した。
4)竹筋コンクリート造の塀は、現地住民にも容易に建設でき
るような計画図が完成した。
5)建設技術およびコンクリート製造技術を修得するプログラ
ムとしても、塀の建設計画は満足したものとなった。
地中
1500
1500
1500
今後、玉井研究室では、3 月に塀建設の技術指導、4 月か
らは床の軽量化、8 月にバイオトイレの技術指導を行う予
定である。
(c)立面図
参考文献
1)河村
2)細田
協:竹筋コンクリート、山海堂出版部、1941.12
貫一:竹筋コンクリート工、修教社書院、1942.2