h [f](y) - 筑波大学数学系

第 2 回 数理物質科学コロキュウム「ハイゼンベルクの不等式とその周辺」講義要録
4 月 16 日(木)6 限 千原浩之(筑波大学数理物質系数学域)
本講義では, 実数直線 R 上の複素数値関数の持つ情報を分解し詳しく眺める方法を紹介する. 数学の
学術用語を用いると, 本講義では, 超局所解析・準古典解析の最近の単純明快な手法を実数直線上で大ま
かに紹介する, ということになる. 以下では i は虚数単位を表すものとする.
h-フーリエ変換 h > 0 を小さいパラメータとする. 実数直線 R 上の適当な関数 f (y) の h-フーリエ変換
とよばれる R 上の関数 Fh [f ] と逆 h-フーリエ変換 Fh∗ [f ] を
∫ ∞
∫ ∞
1
1
e−iyη/h f (y)dy, Fh∗ [f ](y) := √
eiyη/h f (η)dξ,
Fh [f ](η) := √
2πh −∞
2πh −∞
と定義する. ここに y, η ∈ R である. Fh∗ [f ](y) = Fh [f ](−y) に注意する.
定理 1. Dy = −id/dy と書くことにする. 適当な関数 f , g に対して次が成立する.
(i) Fh [e−y
2 /2h
](η) = e−η
2 /2h
,
(ii) Fh [hDy f ](η) = ηFh [f ](η),
Fh∗ [e−η
2 /2h
](y) = e−y
2 /2h
.
Fh [−yf ](η) = hDη Fh [f ](η),
(iii) Fh∗ ◦ Fh [f ] = Fh ◦ Fh∗ [f ] = f .
(iv) (プランシュレルの等式とパーセバルの等式)
∫ ∞
∫ ∞
Fh [f ](η)Fh [g](η)dη,
f (y)g(y)dy =
−∞
−∞
∫
∞
−∞
∫
|f (y)| dy =
2
∞
−∞
|Fh [f ](η)|2 dη.
R2
相空間上の点 (y, η) ∈
は「時刻と周波数」とか「位置と運動量」などの実学上の意味に解釈すること
ができる. |η| → ∞ のとき Fh [f ](η) の減衰が速いほど f (y) はより滑らかな関数であり, その逆も真であ
ることに注意する. 以下では Fh [f ] を fˆ と略記する.
∫∞
2
2
ˆ
ˆ 2
ハイゼンベルクの不等式
−∞ |f (y)| dy = 1 とすると, f も同様であるから, |f (y)| と |f (η)| はそれぞ
れ実数直線 R 上の確率密度関数になる. 量子力学の言葉を拝借すると, (y, η) は位置と運動量, f (y) は波
動関数とすると, |f (y)|2 と |fˆ(η)|2 はそれぞれ位置と運動量の確率分布を表し,
∫ ∞
∫ ∞
∫ ∞
x :=
y|f (y)|2 dy, ξ :=
η|fˆ(η)|2 dη =
hDy f (y) · f (y)dy,
−∞
−∞
はそれぞれ位置と運動量の期待値であり,
∫ ∞
∫
2
|(y − x)f (y)| dy,
−∞
∞
−∞
−∞
∫
|(hDy − ξ)f (y)| dy =
2
∞
−∞
|(η − ξ)fˆ(η)|2 dη,
はそれぞれ位置と運動量の分散を表す.
定理 2.
∫∞
2
−∞ |f (y)| dy
= 1 をみたす適当な関数 f は
∫
∞
−∞
∫
|(y − x)f (y)| dy ·
2
∞
h2
|(η − ξ)fˆ(η)|2 dη ≧
4
−∞
をみたす. 特に (x, ξ) ∈ R2 におけるコヒーレント状態とよばれる関数
ϕx,ξ (y) = (πh)−1/4 ei(y−x)ξ/h−(y−x)
2 /2h
は位置と運動量の期待値が (x, ξ) であり, 不等式の等号を成立させる:
∫ ∞
∫ ∞
h
|(y − x)ϕx,ξ (y)|2 dy =
|(η − ξ)ϕˆx,ξ (η)|2 dη =
2
−∞
−∞
1
(1)
√
√
FBI 変換
2 により, |ϕx,ξ (y)|2 は区間 [x − h, x + h] に集中した分布関数であり, |ϕˆx,ξ (η)|2 は区
√ 定理√
間 [ξ − h, ξ + h] に集中した分布であることがわかる. 関数 f (y) を ϕx,ξ (y) によってを再配列した
∫ ∞
∫ ∞
1
1
Th f (x, ξ) := √
f (y)ϕx,ξ (y)dy = √
fˆ(η)ϕˆx,ξ (η)dη, (x, ξ) ∈ R2
2πh −∞
2πh −∞
を f の FBI 変換という. Th f (x, ξ) の h → 0 のときの挙動は, 関数 f が点 x のまわりで運動量(周波数)
ξ 付近の成分をどのくらい持っているのかを表している. この種の変換は現在では超局所解析の基本的か
つ有力な手法になっている.
エルミート関数系
n = 0, 1, 2, . . . に対して n-次のエルミート関数 φn (y) を
φn (y) :=
によって定義する.
∫∞
−∞ φm (y)φn (y)dy
(−1)n
dn
2
2
√
ey /2h n e−y /h
1/4
n
dy
(πh)
(2h) n!
= δmn , および, 適当な関数 f (y) に対して
∞ (∫
∑
f (y) =
∞
−∞
n=0
)
f (t)φn (t)dt · φn (y)
が成り立つことが知られている.
バーグマン変換
エルミート関数系の母関数
Φh (z, y) :=
e−z
2 /4h+zy/h−y 2 /2h
による関数 f (y) の再配列
√
∫
Bh f (z) :=
2πh
∞
1 ∑ z n φn (y)
√
=√
2πh n=0 (2h)n n!
∞
−∞
f (y)Φh (z, y)dy,
z∈C
は f のバーグマン変換とよばれる複素平面上の正則関数になる. Th f (x, ξ) = e−|x−iξ| /4h Bh f (x − iξ) で
あるから FBI 変換と本質的には同じものであるが, 正則性によりバーグマンの方が有用なこともある.
2
b(z) は与えられた関数とし,
1
a(x, ξ) :=
πh
∫∫
e−(x−y)
2 /h−(ξ−η)2 /h
R2
とする. a(x, ξ) のワイル量子化を
OpW
h (a)f (x)
1
:=
2πh
(
∫∫
e
i(x−y)ξ/h
R2
a
b(y − iη)dydη
)
x+y
, ξ f (y)dydξ
2
と定義する. このとき, 適当な関数 f (y) と g(y) に対して
∫∫
∫
−|x−iξ|2 /2h
b(x − iξ) · Bh f (x − iξ) · Bh g(x − iξ)e
dxdξ =
R2
∞
−∞
OpW
h (a)f (x) · g(x)dx
が成立する. バーグマン変換により(擬)微分作用素が関数の掛け算になるのでかなり簡単になる.
課題 自力でできる範囲を解答せよ. 評価基準は専攻ごとに異なり数学専攻には厳しい. コピーした/さ
せた疑いのある答案は零点とする.
1
Hn (x) = ex
2 /2
dn −x2
e , n = 0, 1, 2, . . . とする.
dxn
(i) H5 (x) を求めよ. 但し, 途中の計算もすべて書くこと.
(ii) −Hn′′ (x) + x2 Hn (x) = (2n + 1)Hn (x), n = 0, 1, 2, . . . が成り立つことを示せ.
2
(1) を確かめよ.
2