人を積極的に目標へ 向かわせるためには?

ポジティブな目標表象と
ネガティブな目標表象
~3次元からなる枠組みの提唱~
東京大学大学院教育学研究科
博士課程2年 村山 航
問題意識
博士論文は早めに書くよう
にしましょう!
早く書かいたら喜
んでくれるかな?
遅く書くと怒ら
れそう,,,
A君
←目標
Bさん
同じ意味内容の目標でも,様々な要因により
受け手の受け止め方(目標の表象)が違う
「目標の表象」(目標表象)
言い方の違い
状況要因
目標
目標の受け手
目標の
表象
行動制御
過程
行動
知識構造
パーソナリ
ティ
ポイント
・同じ意味内容の目標でも,受け手の目標表象は違う
・異なる目標表象は,異なった行動制御過程を生む
目標表象の違い
目標表象の違いには,どのようなものが考えられるか?
従来の研究
e.g.
制御理論
ポジティブ(P; 接近)-ネガティブ(N; 回
避)
という枠組みで捉えるものが多い.
(Carver & Scheier, 1998)
達成目標理論
(Elliot, 1999)
制御焦点理論
(Higgins, 1997)
☆問題点
領域間で,P-Nの定義が異なっている
本レビューの目的
1. 目標表象におけるP-N軸を定義
・基準の価のP-N
「3次元のP-N軸」の提唱
・成否の価のP-N
・結果の価のP-N
2.各領域における目標表象のP-Nをこの枠組みで把握
3.各次元の行動制御過程へ与える影響を同定
4.各次元の行動制御過程への影響メカニズムを検討
本レビューの流れ
1.目標表象の3次元とは?
2.3次元の枠組みによる従来の研究の捉え直し
3.各次元が行動制御過程に与える影響
4.各次元の行動制御過程への影響メカニズム
本レビューの流れ
1.目標表象の3次元とは?
基準の価
成否の価
結果の価
2.3次元の枠組みによる従来の研究の捉え直し
3.各次元が行動制御過程に与える影響
4.各次元の行動制御過程への影響メカニズム
基準の価とは
基準の価
目標の基準・最終状態(end-state)
が望ましいものかどうか
基準の価
ポジティブ
目標表象
基準が望ましい
目標
基準を達成すること
ネガティブ
基準が望ましくない 基準を回避すること
具体例
「学校に間に合うようにする」=基準の価Pの目標表象
「学校に遅刻しないようにする」=基準の価Nの目標表象
成否の価とは
成否の価
基準の価
ポジティブ
ネガティブ
具体例
目標を達成できるか(好ましい結
果を得られるか)どうかの予期
成否の価
ポジティブ
目標表象
望ましい基準の達成予期
ネガティブ
望ましい基準の未達成予期
ポジティブ
望ましくない基準の回避予期
ネガティブ
望ましくない基準の到達予期
「学校に遅刻しなさそうだ」=基準の価N・成否の価P
「学校に遅刻しそうだ」=基準の価N・成否の価N
結果の価とは
結果の価
基準の価 成否の価
P
P
N
N(省略)
具体例
目標達成行動の結果として,報酬と罰
どちらに着目するのか(目標の理由).
P
目標表象
望ましい基準を達成して報酬を得る
N
望ましい基準を達成して罰を回避
P
望ましい基準に至らず報酬を得られず
N
望ましい基準に至らず罰を受ける
結果の価
「学校に間に合って誉められそう」
=基準の価P・成否の価P・結果の価P
「学校に間に合って叱られずにすみそう」
=基準の価P・成否の価P・結果の価N
まとめ
同じ意味内容の
目標
「学校には間に合うように来る」
言い方・状況要因
パーソナリティ等
異なる
目標表象
「学校に遅刻して叱られそう」
3次元のP-N軸:
2×2×2=8通り
異なる
自己制御過程
(ネガティブ性
格)
本レビューの流れ
1.目標表象の3次元とは?
2.3次元の枠組みによる従来の研究の捉え直し
3.各次元が行動制御過程に与える影響
4.各次元の行動制御過程への影響メカニズム
制御理論
制御理論(control theory) Carver & Scheier(1982, 1990, 1998, 2001)
サイバネティクス
(Wiener, 1948; cf. Miller,
Glanater, & Pribram,
1960)
目標基準
比較器
現在の状態
不一致
逓減
Feedback Loop
2種類の自己制御過程
環境の変化
行動
・Negative Feedback Loop
=目標基準とのズレの減少が目的
基準の価P
・Positive Feedback Loop
=目標基準とのズレの増大が目的
基準の価N
達成目標理論
(改訂版)達成目標理論(Achievement Goal Theory)
(Elliot, 1997, 1999; Elliot & Harackiewicz, 1996; Harackiewicz, Barron, Elliot, 1998)
達成行動場面での
目標の影響を検討
目標を2次元の
枠組みで分類
評価基準
絶対/個人内的 相対的
遂行接近
目標
基
P 準
の
習得回避
目標
遂行回避
目標
N
∥
Valence
習得接近
目標
基
準
の
価
基準の価による
把握が可能
目標フレーミング効果研究
フレーミング効果(Kahneman & Tversky, 1984; Tversky & Kahneman, 1979,
1981)
客観的状況が同じでも,メッセージの心的構成(フレーミング)
の違いが意思決定に影響を与えること(竹村, 1994)
目標フレーミング
問題点:P-Nの定義があいまい
(Wilson et al., 1980; Rothman & Salovey, 1997)
・ある目標達成行動を促
進するためのフレーミング.
・PフレーミングとNフレーミ
ングの効果を比較
成否の価・結果の価の
枠組みで定義可能
具体例
もしこの薬を
飲めば,
健康になります
病気にならずにすみます
飲まなければ, 健康をなくします
病気になります
P
N
N
N
具体例
もしこの薬を
飲めば,
健康になります
病気にならずにすみます
飲まなければ, 健康をなくします
病気になります
成否の価
結果の価
病気(N)
健康
飲む (P)
A
B
(P)
成否
の価 飲ま
C
D
ず(N)
結果の価
目標フレーミング効果研究
におけるP-Nは成否の価・
結果の価のmixture
P
N
N
制御焦点理論
制御焦点理論(regulatory focus; Higgins, 1997, 1998, 2001)
2種類の焦点の位置の違いが,異なる種類の自己制御を生む
「理想」の
活性化
gain-nongain
状況
「義務」の
活性化
loss-nonloss
状況
Promotion Focus
=
Brendl, Higgins, & Lemm(1995), Higgins,
Roney, Crowe, & Hymes(1994)など
Prevention Focus
=
Pな結果
への着目
結果の価
Nな結果
への着目
本レビューの流れ
1.目標表象の3次元とは?
2.3次元の枠組みによる従来の研究の捉え直し
3.各次元が行動制御過程に与える影響
4.各次元の行動制御過程への影響メカニズム
行動制御過程への影響
目標表象に
関する領域
達成目標理論
制御理論
成否の価
フレーミング効果
制御焦点理論
結果の価
基準の価
⇒では,各P-N軸はどのような影響力を持っているのか?
行動制御過程への影響
結論:実証研究は,各軸の違いを意識してい
ないため,交絡が多く,影響を弁別不可能
【具体例】 Crowe & Higgins(1997), Roney et al.(1995)
結果の価
P群
22/25以上解けたら,面白いゲームができますが,そ
うでないならつまらないゲームをやることになります
基準のPN=基準の価
結果の価
N群
結果のPN=結果の価
4/25以上ミスしたら,つまらないゲームをやることにな
りますが,そうでなければ面白いゲームができます
結果の価の効果が抽出できず
本レビューの流れ
1.目標表象の3次元とは?
2.3次元の枠組みによる従来の研究の捉え直し
3.各次元が行動制御過程に与える影響
4.各次元の行動制御過程への影響メカニズム
効果の生起メカニズム(1)
基準の価=P
基準の価=N
行動制御
過程
効果の生起メカニズム(1)
基準の価=P
基準の価=N
?
行動制御
過程
効果の生起メカニズム(1)
基準の価=P
BAS
基準の価=N
BIS
行動制御
過程
BAS(Behavioral Activation System)・BIS(Behavioral Inhibition System)
(Cloninger, 1987; Fowles, 1987, 1994; Gray, 1987, 1990; Matthews & Gilliland, 1999,
2001)生理心理学・動物実験に基づく,2種類の動機づけシステム
ある行動を
とれば,報酬/
罰からの解放
弁別
刺激
効果の生起メカニズム(1)
基準価=ポジティブ
基準価=ネガティブ
BAS
行動制御
・ドーパミン(DA):赤
過程
BIS
・セロトニン(5-HT):青
・ノルアドレナリン(NA):黄緑
BAS(Behavioral Activation System)・BIS(Behavioral Inhibition System)
(Cloninger, 1987; Fowles, 1987, 1994; Gray, 1987, 1990; Matthews & Gilliland, 1999,
2001)生理心理学・動物実験に基づく,2種類の動機づけシステム
ある行動を
とれば,報酬/
罰からの解放
弁別
刺激
BAS
VTA⇒側坐核への
DA経路の活性化
行動促進
BIS
ある行動をとれ
ば罰/報酬なし
縫線核・青班核⇒
SHSへの5-HT/NA
経路の活性化
行動抑制
効果の生起メカニズム(1)
なぜBAS・BISが基準の価の媒介メカニズムなのか?
基準の価P
BAS
行動制御
VTA⇒側坐核への
DA経路の活性化
行動促進
基準の価N
BIS
行動制御
ある行動をとれ
ば罰/報酬なし
縫線核・青班核⇒
SHSへの5-HT/NA
経路の活性化
行動抑制
ある行動を
とれば,報酬/
罰からの解放
弁別
刺激
BAS・BISは,理論から演繹的に考えると,基準の価
の効果の媒介過程だと捉えることが可能
効果の生起メカニズム(2)
結果の価=P
結果の価=N
行動制御
過程
効果の生起メカニズム(2)
結果の価=P
結果の価=N
?
行動制御
過程
効果の生起メカニズム(2)
結果の価=P
特定の感情軸
結果の価=N
特定の感情軸
行動制御
過程
成否の価
2つの特定の感情軸とは何
か?
感情の2次元モデル(Russell & Barrett,
感情の構造論争
(Green et al. 1993; Russell & Carroll,1999)
1999ab; Watson & Tellegen, 1999)
Activation
+
不安
喜び
Valence
+
-
憂鬱
-
幸せ
安心
喜び-憂鬱・安心-不安が
感情の基本的な2軸
(Watson et al. 1999)
⇒この2軸は結果の価
に対応づけられる
効果の生起メカニズム(2)
Higgins et al.
(1997) の実験
結果の価のP-Nが
感情の2軸に対応
感情の媒介モデル
結果の価=P
喜び-憂鬱軸
結果の価=N
安心-不安軸
特定の
感情
行動制御
過程
成否の価
☆新たな予測を提出可能
Nフレーミングが行動を
促進する場合がある
※動機づけ機能:憂鬱<不安
成否の価N・結果の価Nの場
合のみ(e.g. Meherowitz & Chaiken, 1987)
まとめと結論
目標表象に
関する領域
成否の価
達成目標理論
制御理論
BAS・BIS媒介
基準の価
フレーミング効果
相互に
交絡
制御焦点理論
結果の価
感情の媒介
・各P-N次元が持つ影響力は分離できず
・今後,枠組みの妥当性を直接検証する必要性
The End of Presentation
Thank you!
Murayama Kou
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