児童養護施設 地行園 家庭支援専門相談員 五十嵐 弘明 海外研修の成果等について 1.研修の内容をどのように活かしているか アメリカ、デンマークで学んだ権利擁護の概念を、児童に対する支援や保護者との面接時に 意識しながら関わっている。日本と欧米では施設の形態やハード面で違いがあり、日本の現状 である集団処遇の中で、権利擁護と集団処遇のバランスをいかにして取ってゆくか難しい面も あるが、デンマークで学んだ必要なところに必要なサービスを提供する事が平等である、とい う基本的視座は施設の小規模化が進んでくる事を考慮すると今後必要となってくる視座である と思われる。今回の研修内容を施設の中で報告会を行いアメリカ、デンマークの児童養護理念 を伝えた。また群馬県人権啓発講座のシンポジウムの中でシンポジストとして、アメリカ、デ ンマークの権利擁護の捉え方を県民に紹介した。群馬県児童養護施設基幹的職員研修において 講師として家庭支援を担当し、海外における児童、保護者に対する主体的な視点を紹介した。 2.今後、研修の内容をどのように活かしていくか 今後のソーシャルワークを行う上で、研修で学んだ保護者と共同作業としての養育という観 点を強化してゆきたい。そこには、保護者との信頼関係を構築するという作業が絶対的に不可 欠である。研修で学んだソーシャルワークの導入期からアフターケアまでの一連の流れの中で の援助論を活用し、関係機関や社会資源と連携しながら、一つの連続体としての支援を行って ゆきたい。 また、児童や保護者の自己決定に対し、援助者が否定するだけではなくその自己決定を尊重 しお互いの合意形成の下、そのプロセスを大切にしながら自己実現につなげてゆきたい。 3.今回の研修で得た成果について (日本の施設で導入・利用可能なもの) 今回の研修での大きな成果は、日本では触れる事のないソーシャルワークにおけるさまざま な視点であり、そして、その視点に至る欧米の社会福祉理念の理解であった。欧米とは社会情 勢や歴史において大きな違いがあり、その理念をそのまま日本で導入する事は難しいと思える。 しかし、児童の養育に対する理念は世界共通でなければならないと考える。ソーシャルワーク の技術論で言えば日本も欧米に比べ遅れているとは思えない。しかし、ソーシャルワークの理 論を欧米から導入し、日本の福祉に合致した形で運用していく中で、理念の部分までもが日本 式に変えられてしまった。変えてはならない部分までもが変わってしまったのである。その部 分に今回の研修で気付けた事は私にとって大きな成果である。 4.今後の研修生に対するアドバイス 各国の福祉システムを学ぶにはその基本的視座となっている理念を学ぶ事が重要である。そ のシステムが作られるためには、歴史や国民性がその背景として重要な役割をしている。 単にシステムだけを学んでも、その背景を理解していなければ日本に帰って運用する事は難し いと思われる。研修中は休日などを使い観光をしたり、現地の方々と交友を深め、その国の一 般的な価値観や生活習慣を知る事が、福祉理念を理解する上でとても重要な事になってくると 思われる。また、現地に在住している日本人の方を探して、その国の国民性などを日本語で聞 かせて頂く事も大変役に立つと思われる。 自分の学びたい事を明確化し、その点に絞って研修を行うことでより深くシステムを理解で きると思われる。 5. 参考文献・URL・器具等 『児童養護施設のソーシャルワークと家族支援 -ケース管理のシステム化とアセスメントの方法-』 北川清一著 明石書店 2010 年 『これからの子ども家庭ソーシャルワーカー スペシャリスト養成の実践』 日本社会事業大学児童ソーシャルワーク課程編 藤岡孝志監修 ミネルヴァ書房 2010 年 『ケースマネジメントの技術』 A.J.フランケル/S.R.ゲルマン著 野中猛 監訳 金剛出版 2006 年 さっぽろ青少年女性活動協会 東白石児童会館指導員 太田舞子 海外研修の成果等について 1.研修の内容をどのように活かしているか 見学した施設では、どのような大人になって欲しいかという希望がはっきりとしていた ① 子ども達が過ごす地域の特徴を考察しテーマを持った行事展開 例)子ども達の興味をさらに様々な分野へ広げ、将来のモデルを作ることを促す。 ※「お仕事入門」=働く人に会いに行くことを目的とした行事 日常活動でも、子ども達にどのような成長を望むのかを意識して関わっている。 ② 研修内容の発信 協会内の報告会で研修の内容を発表し、研修内容を共有する。 職員一人一人が活動に自信を持って深めて行くことを提案している。 今後はさらに広く今回の研修内容を知らせて行く予定である。 2.今後、研修の内容をどのように活かしていくか 子ども達が将来どのような大人になって欲しいかを考える視点の提案 空間や人的配置などについて、改善の働きかけをしていきたい。 海外の多様な活動を紹介 提供するプログラムや環境について、 子ども達の実態に沿った柔軟な物を提案していきたい。 3.今回の研修で得た成果について (日本の施設で導入・利用可能なもの) ① 子ども達により良い将来モデルを与えるための人的資源活用。 ② 子ども達のやりたいことを実現させるとともに、責任についても学ぶ機会とする、広い意 味での子ども達の主体性を尊重したプログラム。 ③ 子どもを対象とした他団体と協力することで、負担を軽減することができる運営方法。 ④ 世帯格差による機会不平等を改善するための補習や文化芸術活動。 ⑤ 企業からの積極的な協力。 4.今後の研修生に対するアドバイス ① 研修先の確保について 同じテーマで研究している方と連絡を取ることが思いがけない突破口になった。 ・事前調査で読んだ本の筆者に連絡を取り、研修先の紹介を頂いた。 ・東京の放課後 NPO と研修日程を一部重ねることができ、多大な協力をいただいた。 近隣の姉妹都市がテーマにあった活動をしているか調べることも役に立った。 ・札幌国際プラザの協力で、姉妹都市であるミュンヘン市教育局の支援を得ることができた。 ② 語学について 思いつく限りの手段を使って準備する必要がある。 ・英文を聞いて同じスピードで声に出して読む勉強法が効果的だった。 ・現地にいる日本語を学んでいる人や日本人協会の協力を得る。 ・研修が始まってからは、翻訳アプリの活用も有効だった。 ③ 健康・安全について 長い期間、海外に滞在するため、知らず疲れがたまっていることがある。 ・長距離移動の日は、できるだけ余裕を持った予定を立てる。 機内での疲れに気づかないまま、新しい街を歩くので、思わぬ失敗をすることがあった。 自分で決めたルールをしっかり守ることで、自分の身を守る。 ・治安の良くない地域には立ち入らない、夜○時までに宿泊先に戻るなど。 ・服装や化粧等も、その地域で目立つ物は避けた方が無難だと感じた。 ④ その他 ・相談事など、研修生同士の繋がりに本当に助けられた。 ・サッカーやオペラ等の大きなイベントがあると宿泊先の確保が難しくなるため注意が必要。 ・研修期間にゴールデンウィークが含まれるため、緊急の連絡が取れなくなることもあった。 5.参考文献・URL・器具等 (日本の施設で導入・利用可能なもの) 『子ども達の放課後を救え!』 川上敬二郎 著 文藝春秋 2011 年 『子どもの放課後を考える―諸外国との比較でみる学童保育問題』 池本美香 著 勁草書房 2009 年 西宮すなご医療福祉センター 指導員 桂川 琢哉 海外研修の成果等について 1.研修の内容をどのように活かしているか 自施設で行われた、ターミナルケアについてのケース会議に参加し、イギリスでのホスピス での取り組みや考え方などの実際を報告した。職員の理解を深め、利用者への対応はもちろん、 家族へのケアも必要との認識をもってもらった。延命医療については、家族の意向に沿った範 囲で最善の医療を行う。 「死について家族にどう伝え、分かち合うか」 「死を家族にどのように 理解してもらうか」といった課題には、残された時間を考慮し、家族との対話のなかで本人に とって最も望ましい時間を過ごせるように配慮されることが大切という共通認識をもつに至 った。 また、利用者の活動においては、障害の種類や程度が異なっていても楽しめる内容のものを 工夫して行っていった。施設でありがちな状況として、一人の職員で多くの利用者と関わる場 合には、視覚・聴覚・触覚など複合的に楽しめる要素をもたせることで、これらのうち何かし らの感覚で刺激を感じる活動を提案した。これは、各国の学校や施設、病院で見たスヌーズレ ンの活動をもとにしたものである。1 対多数でも個別性を考えた取り組みである。 2.今後、研修の内容をどのように活かしていくか まず、いろいろな場面で職員の意識を変えることから始めたいと思う。制度やサービスは時 代とともに変化する。もちろんそういったハード面も重要だが、結局はそれらを駆使する人と いうソフトが柔軟に対応できる能力や、仕事に対する思い・情熱がないと効果が発揮されない。 また、業務の連携という点でも改善していくよう提案したい。各専門職がお互いの経験や知 識を持ち合い、チームアプローチの視点に立った組織的な療育展開も必要だと感じたからであ る。医師・看護師・指導員・保育士・介護士・リハビリスタッフなどが、お互いの専門性を尊 重し合う対等な立場での実践を望む。 そして、利用者一人ひとりの個別性に応じた療育方針を決定し、実践する。その実践結果を 一定の期間ごとに再評価し、新たな目標設定とそれを具体化する療育方針の決定を繰り返す。 そのための建設的なケースカンファレンスや療育会議の適正運営を推奨したい。 3.今回の研修で得た成果について (日本の施設で導入・利用可能なもの) ① 通園や訪問事業といった地域支援部門への提案。各利用者の状態やニーズに合わせたサービ スやプログラムの展開など。 ② 自己表現可能な利用者の個別コミュニケーションボードの活用。 ③ 自閉症をもった利用者への構造化を取り入れたアプローチ。 ④ 入所利用者の豊かな毎日の実現を可能にすべく、より個別性を重視したきめ細やかなプログ ラムや活動の見直しを図る。 ⑤ 重症児の「遊び」の環境整備。 ⑥ コンプリメントも含めた、より高度な終末期対応。 4.今後の研修生に対するアドバイス ① 研修計画 おそらく一番大変なのは、与えられた期間どれだけ充実したスケジュールを組めるかとい うことだと思います。これまでこの研修に参加した人の多くが、まずこれに苦しんだことは 間違いありません。余程強いつながりでもない限り、研修や実習はおろか見学することさえ 困難でしょう。自分一人で何とかしようと考えると行き詰まってしまいます。上司・同僚は もちろん、施設や出身学校の関係者、これまでの研修生など、考えられる全てのコネクショ ンを最大限活用して、自分のテーマに沿った研修計画をたてましょう。現地で研修先を紹介 されることもあります。それを期待するわけにはいきませんが、ハードスケジュールは避け て少し余裕をもった計画をたてる方がいいと思います。研修ルートに無理はないか、宿泊先 との位置関係はどうかといった調整も不可欠です。それと同時に、語学に不安な方は日常的 に訓練した方がいいです。出発前に、少なくとも簡単な内容は理解できるようにしないと、 研修先からは何のためにここに来たのだと言われても仕方ありません。もっと語学力があれ ばより密度の濃い意見交換ができたのに…と私も後悔しています。語学に自信がなければ、 人間関係が築きやすく、ゆっくりいろいろな話ができるよう、研修先を絞って長期間滞在す るのも一つの手です。また研修先では、自分の知りたいことを先に英訳して準備することを 勧めます。必要な情報を掴んでから、次のステップへと進むことが理想です。 ② 研修中 表に英語、裏に日本語で書かれた名刺を用意すると便利でした。私は 100 枚ほど使いまし た。他にもポケットに入るくらいのメモ帳を多めに持っている方がいいでしょう。荷物は個 数と重量制限で苦労します。いるかもしれない程度のものなら極力持っていかないようにし ましょう。個人的には、小さくたためて収納できたダウンジャケット、小分けの洗濯洗剤、 石鹸、ハンガーなどは役に立ちました。通信関係はパソコンだけでも何とかなりますが、マ イファイなどがあると心強いでしょう。スカイプやメーリングリストなどを有効活用しまし ょう。またこまめに記録をまとめておくと後でとても助かります。 苦労も多いですが、必ず自分の力になります。頑張ってください! 5.参考文献・URL・器具等 (日本の施設で導入・利用可能なもの) 『世界の社会福祉年鑑 2010』 萩原康生他 著 旬報社(2010 年) 『よくわかる社会福祉の歴史』 清水教惠・朴光駿 著 ミネルヴァ書房(2011 年) 特別養護老人ホーム ビラ・オレンジ 生活相談員 平松 美鈴 海外研修の成果等について 1.研修の内容をどのように活かしているか スペインでの研修において学んだケアマネジメントの実践の中で、ソーシャルワーカーが面接 の際に行っていたコミュニケーション及び援助技術を、日頃の入所者及びその家族との面接で使 うようにしている。特に私の働く職場では、辛さや悲しみなどの否定的な感情をもつ入所者が多 い傾向にあり、彼らが自身の力で自己を変容させられるようエンパワメントを促す手法や、彼ら 自身が悲しみを受容することができるよう、悲しい理由を言語化して表現させる技法については、 意図的に使用していく必要がありそれを実践しているところである。彼らのもつ問題点の中にネ ガティブな側面とポジティブな側面の双方を抽出し、問題解決方法の導き出しに繋げる手法も、 意図的に使用するようにしている。 以上について、法人内の相談職が合同開催する職種別勉強会にて、他の相談援助職に周知した。 2.今後、研修の内容をどのように活かしていくか デンマークにおいては、腰痛や介護負担増によるストレスから介護者・介護スタッフを守る環 境づくりが徹底されていた。福祉制度が異なる中で、そのままを日本に持ち込み実践することは 困難であるが、私自身の立場で実践できることから始めていきたいと考えている。 まず、行うべきことは、介護者側の意識の徹底である。無理な体勢で介助をしていないか、使 用すべき福祉用具を適切に使用できているか、この二点について現在行われている介護を見直し、 間違った介助方法、意識の洗い出しをしていきたいと考えている。そして理学療法士、作業療法 士等の他職種と連携し、正しい介助方法を全員が実施できる施設を目指したい。その上で自施設 に不足していると考えられる福祉用具の導入を検討していく。また、労働安全衛生法の正しい理 解と周知により、介護現場から安全で働きやすい労働環境づくりを提起していく。 次に、各国において浸透していた「自己決定」を尊重する介護者、スタッフの姿勢を、自施設 においても浸透させたい。現在の特養における介護においては、入所者の「自己決定」を阻害す る何らかの要因があることを前提としその除去に努めたい。 3.今回の研修で得た成果について (日本の施設で導入・利用可能なもの) ① 入所者等に対し、相談援助職が行う援助技術のうち、自身の力で自己を変容させられるよ うエンパワメントを促す手法や、彼ら自身が悲しみを受容することができるよう、悲しい理 由を言語化して表現させる技法などの、ケースワーク技術。 ② 福祉用具の活用(移乗用リフト、電動ベッド、スライディングシーツ、自助具等)と労働環境自己管理 のためのチェックリスト(下記参考文献に記載)の使用による介護者、スタッフにとっての 介護による負担が減少する環境づくり。 ③ 日常業務の見直し(書類の簡素化、 業務の効率化、 3M(ムリ・ムラ・ムダ)の洗出し)による介護者、 スタッフにとっての間接的介護(記録等)による負担が減少する環境作り。 ④ 高齢者の「自己決定」の原則を徹底するために、介護者、スタッフの意識の統一化を図る こと。 (高齢者の意向に対し、「できない」ことを前提とせず、 「できる」ことを前提とする 意識をもつ) ⑤ 認知症またはそれに準ずる症状の原因、対処方法を見直すこと。また、精神科医と内科医、 その他の職種が連携し、認知症状の原因を探ること。 4.今後の研修生に対するアドバイス ① 語学について この研修において最も重要なものの一つだと思う。私は英会話スクールに 4 ヶ月間通っ たが、思うようには上達しなかった。語学が上達すればするほど、研修の内容もより実の あるものになったのではないかと後悔している。準備は早ければ早いほど良いと思う。専 門用語などは、事前に調べ、用語集のようなものを作っておくと便利だった。 ② 研修先の確保について HP等で調べ、希望する研修先にアプローチしても、まず返事は来ないと考えた方が無 難。持っているコネクションを最大限利用しても、学びたかったテーマでの研修先の確保 を断念せざるを得なかった。私は、財団からご紹介いただいたコーディネーターの紹介を 受けたが、コーディネーターに全面的に任せる姿勢では、話が進まないことが多い。研修 先に関する要望をしっかりと伝え、紹介を受けた施設に、自ら直接、積極的に連絡を取る ことが大切。海外研修のOBの中にも、研修先のコネクションを持っている方が多いと思 うので、連絡をとりアドバイスをもらうのが良いと思う。私自身、OBとして、今後の研 修生に対しできる限り協力をしていきたいと考えている。 ③ ④ 体調管理について 何よりも健康が大切。出国前には体調を整え、心配がないようにしておくこと。 財団で入ってもらう海外旅行保険は、死亡のみを対象とするものであるため、自分でも 入っておくべきだと思う。常備薬は必ず持参すること。 安全について 研修生ではないが、周囲の日本人の中にはスリなどの盗難に巻き込まれる人が非常に多 かった。気を緩めることなく、常に「気を付けている」という態度を取り、危険な場所に は近寄らないことが大切。 ⑤ 研修生同士の支え合い 40回生は、メーリングリストで互いの近況を報告し合った。研修生同士の関係性が深 まることにより、非常に大きな精神的支えになった。 5.参考文献・URL・器具等 (日本の施設で導入・利用可能なもの) 『つらい介護からやさしい介護へ―介護の仕事を長く続けていくために』 小島ブンゴード孝子 著 ㈱ワールドプランニング 2006 年(労働環境自己管理のためのチェックリスト)
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