金型を用いた降温多軸鍛造 AZ61Mg 合金の 組織と機械

日本金属学会誌 第 79 巻 第 6 号(2015)295302
金型を用いた降温多軸鍛造 AZ61Mg 合金の
組織と機械的性質
三 浦 博 己1
松 本 洸 太2,
小 林 正 和1
1豊橋技術科学大学機械工学系
2電気通信大学知能機械工学専攻
J. Japan Inst. Met. Mater. Vol. 79, No. 6 (2015), pp. 295
302
 2015 The Japan Institute of Metals and Materials
Microstructure and Mechanical Properties of AZ61Mg Alloy Fabricated by
Directional Forging Using Die under Decreasing Temperature Conditions
Multi
Hiromi Miura1, Kota Matsumoto2,and Masakazu Kobayashi1
1Department
of Mechanical Engineering, Toyohashi University of Technology, Toyohashi 4418580
2Department
of Mechanical Engineering and Intelligent Systems, The University of ElectroCommunications (UEC Tokyo),
Chofu 1828585
A hot extruded AZ61Mg alloy was multidirectionally forged (MDFed) under decreasing temperature conditions using a die.
MDFing was successfully carried out, and the coarse initial grains with an average grain size of 21.6 mm were gradually fragmented to 0.3 mm in average at cumulative strain of ∑De=7.2. It showed quite high hardness of 958 MPa and tensile strength of 465
MPa with ductility of 15. The tensile behavior of the ultrafine grained AZ61 Mg alloy exhibited large temperature and strain
rate dependency irrespective of temperature. Superplasticity of 680 elongation to fracture could be achieved at 423 K and at
strain rate of 1.0×10-4 s-1. Such mechanical properties depending on temperature and strain rate were reasonably understood
by considering the effect of grain boundary sliding. The tensile strength of the MDFed AZ61Mg alloy was further raised to 490
MPa by additional cold rolling. [doi:10.2320/jinstmet.J2014055]
(Received November 7, 2014; Accepted February 25, 2015; Published June 1, 2015)
Keywords: multidirectional forging, magnesium alloy, ultrafine grain, mechanical property, dynamic recrystallization
集合組織の影響によるバレリングや座屈が起こりやすく,パ
1.
背 景 ・ 目 的
スごとの試料成型が必要であった.そのためプロセスが煩雑
となり,また大型 MDF 材の作製や MDF 法の工業化は困難
マグネシウム(以下 Mg)合金の機械的性質は,結晶粒径に
と考えられた.
大きく依存することが広く知られている.特に,巨大ひずみ
本研究では,Mg 合金の降温 MDF 法による超微細粒材の
加工による結晶粒の超微細化によって,室温強度と延性の向
実用化と工業化を目標として,試料のバレリングや座屈を防
上が両立できる15) .例えば,鍛造パスごとに温度を下げる
ぐため金型を用いた降温 MDF(型鍛造)を行う.そして,得
降 温 多 軸 鍛 造 ( Multi Directional Forging  MDF ) を
られた組織と機械的性質を詳細に調査し,自由鍛造による降
AZ61Mg 合金に適用した場合では,引張強度 450 MPa と約
温 MDF によって得られた結果1,5) と比較検討することを目
40の伸びが達成された1).優れた加工性により冷間圧延が
的とする.
可能で,15冷間圧延後には引張強度 560 MPa と伸び 25
が達成された.すなわち降温 MDF 中に必然的に伴う回復・
2.
実
験
方
法
軟化を,追加の冷間加工によるひずみ硬化さらには集合組織
強化によって補うことができた.また,超微細粒 AZ61Mg
市販 AZ61Mg 合金の熱間押出角材から,長手軸方向が熱
合金は温間域で超塑性を発現し,約 700の大きな伸びを示
間押出方向と平行となるように 15 mm×22.2 mm×33.3 mm
した.すなわち,Mg 合金の結晶粒超微細化は,組成を変え
(軸比 1.001.492.22)の矩形状試料を切り出した.これに
ずに強度・延性等のバランスに優れた機械的性質をもたらす
733 K 3.6 ks の焼鈍処理を施し,平均結晶粒径 21.6 mm の
ことが可能である.
組織を初期材とした.結晶粒径は,直線横断法を用いて測定
しかし,これまでの降温 MDF は基本的に自由鍛造法で研
した.試料を加熱ヒーターにより温度制御された MDF 用金
究が行われており1,4,5),特に初期の鍛造プロセス工程で初期
型に入れ( Fig. 1 ( a )),アムスラー型万能試験機を用いて初
期ひずみ速度 3.0×10-3 s-1,パス間ひずみ De=0.8 として,
電気通信大学大学院(Graduate Student of UEC Tokyo)
MDF 温度を 603 ~ 393 K まで鍛造パスごとに逐次降温しな
296
日 本 金 属 学 会 誌(2015)
Fig. 1
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巻
(a) Schematic illustration of a die for MDFing and (b) samples before (left) and after (right) MDFing.
行った.各鍛造パスごとの温度は,各パスごとに最も均一で
がら行った.
試料の高さ H0 ,横 1 ,縦 b ,圧縮後の高さ H とすると,
微細な組織が得られる温度を探索し,最終的に 603→ 573→
真ひずみ 0.8 までの鍛造(圧縮)後,H と H0 の関係は次式に
513→ 473 → 453 → 433 → 413 → 393 → 393 K とした. 9 パス目
表すことができる.
と 8 パス目は同じ温度だが,これは 393 K 未満では 0.8 以
H0
log =0.8
H
(1)
H0=e 0.8・H=2.22 H
(2)
圧縮後の寸法比も一定に保たれるため,次式が成立する.
下のひずみで試料が破壊してしまうためである.同じ温度で
の鍛造によって,より均一な微細粒組織が得られる結果とな
った.
Fig. 2 に MDF 材の微視組織観察例として,累積ひずみ
1b=b2.22
(3)
∑De = 0 (初期材), 2.4, 4.8, 7.2 の写真を示す.累積ひずみ
b= 2.22=1.49
(4)
の増加と MDF 温度の低下に伴い,結晶粒組織が均一に微細
そのため MDF 試験では,各辺の寸法比が 1.001.492.22
化していることが確認される.平均結晶粒径は,21.6 mm か
の試験片を用いることにより,毎回の鍛造パス間ひずみ De
ら最終的に約 0.3 mm ( 9 パス(∑De = 7.2 ))まで減少した.降
を 0.8 とした場合,試料の寸法比が常に一定となり,理論的
温 MDF 中の結晶粒微細化には,動的再結晶機構の他,変形
には無限回の鍛造が可能となる.
組織であるキンク帯や変形双晶の形成が深く関与してい
各パス鍛造後,スペーサーと可動ベースを取り除くことに
より,試料を治具下部から取り出した.型鍛造によりほぼ鍛
る1,6) .結晶粒サイズが大きい場合には,変形双晶による母
結晶の分断の効果が特に大きい6,7).
1(b)),以前1,4)のよ
累積ひずみ∑De=0, 3.2, 4.8, 7.2 までの降温 MDF 材を,
うなパスごとの面取り成型は不要となった. Fig. 1 ( b )中の
より高倍率で TEM 観察した結果を Fig. 3 に示す.初期材
試料表面の色の違いは,潤滑剤の黒鉛の塗布による.鍛造後
(∑De=0)および∑De=3.2MDF 材中には,微細な析出物が
造前と同様の形状の試料が得られ(Fig.
の試料取り出しには,毎回約 5 s 必要とした.
高密度に分布していた.これら析出物は, EDS 分析の結果
本研究では降温 MDF を最大で累積ひずみ∑De = 7.2 ま
と AZ61Mg 合金中の析出物の分析報告とを照らし合わせ8),
で,すなわち 9 パス( De=0.8×9)まで行った.MDF 材に対
Mg17Al12 あるいは AlMn と判断された.∑De= 3.2MDF 材
して冷間圧延を施し,ひずみ硬化によるさらなる高強度化も
中の析出物の数的密度が初期材より高いことから,降温
試みた.MDF 材の最終鍛造軸に平行な内部断面に対して,
MDF 中の動的時効によって生成したと考えられる.実際,
光学顕微鏡( Optical Microscopy / OM )と透過型電子顕微鏡
3 パス目の MDF 温度 513 K は,b 相が析出する温度域と重
( Transmission Electron Microscopy / TEM )による微視組織
なる.一方,∑De = 4.8, 7.2 の高累積ひずみ域では,析出物
観察を行った.また,Vickers 硬さ試験,室温・温間(300~
がほとんど確認できず,逆に MDF 中に再固溶したと判断さ
423 K )での引張試験も行い,組織微細化に伴う機械的性質
れた.また,∑De= 7.2 では転位密度の上昇が観察され,こ
の変化を詳細に調査した.引張試験はゲージサイズ 5 mm×
れは MDF 温度低下に伴う回復の遅れの結果と考えられる.
2.5 mm×0.7 mm の肩付き試験片を用い,引張軸方向は最終
鍛造方向に対して垂直とした.特に記載がない実験結果は,
すべて金型を用いた降温 MDF による.比較のための自由鍛
造は,すべて同じ条件とした.
3.2
3.2.1
MDF 材の機械的性質
粒径と硬さ変化
累積ひずみ増加に伴う平均結晶粒径と硬さ変化をまとめて
Fig. 4 に示す.累積ひずみ増加とともに粒径は減少し,硬さ
実験結果と考察
3.
3.1
降温 MDF 中の微視組織変化
は増加した.硬さは,初期材(∑De=0)の 593 MPa から,最
終的に∑De = 7.2 ( 9 パス)の 958 MPa まで上昇した.しか
し,高累積ひずみ域では結晶粒径の減少と硬さ上昇は徐々に
鍛造パスごとの最適温度を調査・決定後,最終的に初期鍛
緩やかになった.この結果は,ひずみ誘起による結晶粒微細
造温度 603 K から最終鍛造温度 393 K までの降温 MDF を
化の下限界と,温間域(~393 K)における超微細粒組織中で
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号
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金型を用いた降温多軸鍛造 AZ61Mg 合金の組織と機械的性質
Fig. 2 Microstructural change with increasing cumulative strain of MDFing. Average grain size is also shown. F.A. is the final forging axis. Completely homogeneous microstructure was developed at each forging pass. Grain size decreased with increasing cumulative strain. Observation was carried out by optical microscopy for (a) and (b), and by transmission electron microscopy for (c) and
(d).
Fig. 3 The imposed images of the AZ61Mg alloys MDFed to various cumulative strains. Substructure as well as precipitation was
also changed with increasing cumulative strain.
の顕著な回復軟化の発現を示唆しており興味深い.
HV=Hi+kd-1/2
(5)
平均結晶粒径 d-1/2 と硬さの関係を Fig. 5 に示した.比較
ここで,Hi と k は実験定数である.しかし Fig. 2, 3 からも
のため,金型を用いない(自由鍛造)MDF 材の硬さ変化も併
明らかなように,硬さ変化には,結晶粒径の変化の他,析出
せて示す1).ともに硬さは結晶粒径の減少に伴いほぼ直線的
物や転位密度の変化も影響しており,降温 MDF 材の硬さと
に増加し,両者の間に HallPetch 則の成立が示唆される.
結晶粒径の関係は複雑で,その解釈には十分な注意を必要と
298
日 本 金 属 学 会 誌(2015)
第
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巻
ることが分かる.特に降伏応力の増加が著しく,これは,ひ
ずみ増加とともに結晶粒が微細化され,転位密度も増大した
ため(Fig. 3)と考えられる.さらに,ひずみ増加と共に変形
抵抗のひずみ速度依存性がより明瞭となった.特に,高累積
ひずみ領域で,ひずみ速度減少による降伏応力の相対的な低
下が著しい.これは,室温粒界すべりによると考えられ,後
で詳細に検討する.一方で,同一累積ひずみ材で比較する
と,最大引張応力には,大きな差は見られなかった.これ
は,降伏応力が高い試料ほど伸びが小さく,加工硬化領域が
狭いため,引張強度に差が出にくくなったためと考えること
ができる.得られた最大降伏応力と最大引張応力は,累積ひ
ずみ∑De = 7.2 材,ひずみ速度 1 × 10-1 s-1 での, 390 MPa
Fig. 4 Changes in the hardness and the average grain size during MDFing of AZ61Mg alloy with increasing cumulative
strain.
と 465 MPa であった.低累積ひずみ域では,伸びはひずみ
速度に依存せずほぼ一定であるが,高累積ひずみ域ではその
依存性が明瞭となった(Fig. 6).
Miura ら1) は,自由鍛造法により AZ61Mg 合金を累積ひ
ずみ∑De=4.0 まで降温 MDF を行い,平均結晶粒径 0.8 mm
と,ひずみ速度 8.3×10-2 s-1 での引張試験により降伏応力
約 300 MPa,最大引張応力約 420 MPa,塑性伸び 25を達
成した.本研究の金型を用いた降温 MDF では同じ累積ひず
みでのデータはないが,例えば,累積ひずみ∑De = 4.8 で
は,平均結晶粒径 0.5 mm と,ひずみ速度 1.0 × 10-1 s-1 で
の引張試験により降伏応力約 330 MPa ,最大引張応力約
410 MPa ,塑性伸び 10を得ている.塑性伸びは減少して
いるものの,自由鍛造法に近い組織と機械的性質が達成され
た.
MDF 材の降伏応力のひずみ速度依存性を粒径に対してま
とめた.その結果を Fig. 8 に示す.すべてのひずみ速度
で,結晶粒径の低下に伴い,降伏応力はほぼ単調に上昇する
Fig. 5 Comparison of the hardness change as a function of
grain size d-1/2 during MDFing of AZ61 Mg alloy either with or
without using die. The data obtained without die is after Miura
et al.1)
傾向を示した.しかし,低ひずみ速度ほど降伏応力は低くな
った.結晶粒径 9 mm では 50 MPa 程度だった差が,0.3 mm
では 150 MPa に増加した.この結果は,結晶粒径が小さく
なるほど,降伏応力のひずみ速度依存性が大きくなることを
する.
示している.マグネシウムは室温でも粒界すべりが容易に発
ところで Fig. 5 の直線の傾き k は,型鍛造と自由鍛造で
現することが報告されている1,9).特に,結晶粒径が 1 mm 以
は異なり,型鍛造の方が少し小さい.すなわち,結晶粒径変
下で粒界すべりは顕著に発生し,延性の回復をもたらす9).
化が室温硬さに及ぼす影響は自由鍛造よりも型鍛造の方が小
Fig. 6, 7, 8 の粒径やひずみ速度に依存した機械的性質の変
さい結果となった.上述のとおり,降温 MDF による Mg 合
化は,結晶粒径の減少に伴う粒界すべりの大規模発現が大き
金の硬さ上昇の因子として,結晶粒微細化,転位密度の上
く影響している結果と理解できる.
昇,動的時効が挙げられる.金型を用いた場合,鍛造試料の
Fig. 5 から,結晶粒径が小さいほど硬さが上昇することが
バルジングの抑制によりせん断変形等が起こりにくく,ま
確認された.しかし,Fig. 7, 8 では∑De=0(焼鈍材)と∑De
た,金型に押し付けられることにより全体的に塑性流動が起
=0.8 の比較で,結晶粒径が減少しているにもかかわらず,
こりにくく焼鈍し状態となる.その結果,下部組織の発達と
降伏応力が低下している.これは底面集合組織が発達した熱
結晶粒微細化が自由鍛造に比べて遅れると推察される.ま
間押出し材では底面すべりが起こりにくい,いわゆる集合組
た,型鍛造では試料取り出しに時間がかかり,その間の回復
織強化よって降伏応力が上昇したためである1).
による軟化を伴う.これらの影響が型鍛造材の硬さを相対的
∑De=4.8MDF 材と∑De=7.2MDF 材を,温度 373 K と
に低下させ,k 値が低くなったと考えられる.
423 K での引張試験によって得られた応力ひずみ曲線を
MDF 材の室温・温間引張試験
Fig. 9 に示す.温間域での引張試験では,変形抵抗と伸びの
3.2.2
室温引張試験によって得られた真応力公称ひずみ曲線の
ひずみ速度依存性がさらに顕著となった.降伏応力,最大引
例を Fig. 6 に,得られた降伏,最大引張応力と累積ひずみ
張応力は,ひずみ速度の減少とともに急減した.逆に,温度
の関係をまとめて Fig. 7 に示す. Fig. 6, 7 から,累積ひず
上昇,ひずみ速度の低下によって伸びは大幅に増加した.こ
みの増加に伴い,降伏応力(0.2耐力)と最大応力が上昇す
のような伸びの大きな粒径,温度,ひずみ速度依存性は,粒
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金型を用いた降温多軸鍛造 AZ61Mg 合金の組織と機械的性質
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Fig. 6 Flow curves obtained by tensile tests at 300 K at various strain rates of the samples MDFed to (a)∑De=0 (asannealed),
(b)∑De=2.4, (c)∑De=4.8 and (d)∑De=7.2.
Fig. 7 Summarized results of the yield stress (sy) and the
peak stress (sp) as a function of cumulative strain obtained by
tensile tests at various strain rates at room temperature. Here,
yield stress is the 0.2 proof stress.
Fig. 8 Summarized results of the yield stress as a function of
grain size at room temperature.
伸びの大きなひずみ速度・温度依存性が発現することが知ら
界すべりによって変形が支配された,いわゆる超塑性に特有
れている1,4,11) . 423 K での超塑性の発現は,結晶粒超微細
の現象である1,4,10).累積ひずみ∑De=4.8 以上では 400以
化によって粒界体積率が増加し,粒界すべりがより低温から
上の伸びを示した.この大きな伸びが発現した温度は,一般
活発に起こったためと推察される.低温域からの大規模な粒
的に超塑性が発現する温度域と比較してやや低いことから,
界すべりの発現は,室温から温間域まで比較的大きな破断ひ
いわゆる低温超塑性の発現が示唆されるが1,4,11) ,本研究で
ずみもたらしたが,同時に降伏応力の大きなひずみ速度依存
超塑性が発現した温度は 423 K と極めて低い.これら Mg
性ももたらしたと判断される1).
合金での超塑性は主として粒界すべりによってもたらされ,
Fig. 10 に , MDF 材 の 破 断 伸 び , 降 伏 応 力 の 例 と し て
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Fig. 9 Typical flow curves obtained by tensile tests (a) and (b) at 373 K, (c) and (d) at 423 K, at various strain rates of the MDFed
samples. The samples were previously MDFed to cumulative strains of (a) and (c)∑De=4.8, and (b) and (d)∑De=7.2.
∑De = 4.8 MDF 材と∑De = 7.2 MDF 材の結果を示した.
圧延を施した.降温 MDF 材は塑性加工性が高いため( Fig.
高温,低ひずみ速度ほど破断伸びが増加し,逆に降伏応力が
6, 9 ), 15 冷間圧延で割れは発生しなかった. 15圧延を
減少していることが明らかである.この傾向は,結晶粒のよ
施した∑De = 7.2 MDF 材の引張試験の結果を Fig. 12 に示
り細かい∑De = 7.2 MDF 材でより顕著である. 423 K で
す.伸びは約 4減少したものの,降伏応力,最大引張応力
681の伸びが∑De=7.2MDF 材で確認できた.
はそれぞれ約 50 MPa 上昇し,最大引張応力は 485 MPa を
超微細粒マグネシウム合金の超塑性に関する研究報告が多
達 成 し た . さ ら に , 15  圧 延 に よ り , 室 温 硬 さ は , 957
数なされており,超塑性の発現中,ひずみ速度感受性指数
MPa から, 1.01 GPa まで上昇した.降温 MDF 材の強度上
m 値は 0.3 程度以上となる12,13).本研究結果で特徴的なのは,
昇に対する冷間圧延の効果が確認された.
m 値のひずみ速度依存性と変化が極めて大きいことである
(Fig. 10(c), (d)).平均粒径 0.3 mm 超微細粒材の場合(Fig.
ま
4.
と
め
2(d)),423 K で m=0.74, 373 K で m=0.32 となり(Fig. 10
( d )),低温超塑性の発現が確認された.この結果は,極め


AZ61Mg 合金に金型を用いた降温多軸鍛造(MDF)を
て活発な粒界すべりの発現によってもたらされたと考えられ
施すことで,初期結晶粒径 19.1 mm から 9 パス目の累積ひ
る.
ずみ∑De=7.2 で 0.3 mm まで結晶粒の微細化に成功した.9
引張試験温度 423 K での破断試料の例を Fig. 11 に示す.
ひずみ速度の高低にかかわらず,巨大ひずみ加工材に現れや
すい局部収縮は観察されず,比較的均一伸びが達成されてい
示した.また,室温引張強度は最大で 465 MPa を示した.


金型を用いた MDF で達成された機械的性質は,用い
ない場合とほぼ同等かやや低い傾向を示した.やや低い機械
ることが分かる.
3.2.3
パス加工後,機械的性質は,最大で 958 MPa の室温硬さを
的性質は,金型による塑性流動の拘束と焼鈍軟化の影響によ
MDF 材の冷間圧延による強化
降温 MDF は高温での鍛造であり,転位密度の減少による
回復・軟化を必然的に伴う.このため,冷間圧延による転位
ると推察された.


温度 423 K ,ひずみ速度 1.0 × 10-4 s-1 で∑De = 7.2 
密度の上昇と集合組織強化によって,引張強度を上げること
MDF ( 9 パス)材を引張試験した結果,最大で 680 を超え
が容易である1) .そこで,∑De = 7.2 MDF
る破断伸びが得られた.これは,結晶粒が微細化されたこと
材に 15 の冷間
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6
号
金型を用いた降温多軸鍛造 AZ61Mg 合金の組織と機械的性質
Fig. 10 Summarized results of the elongation to fracture and the yield stress as a function of strain rate of the multidirectionally
forged samples to ∑De=4.8 and ∑De=7.2. m values estimated are indicated.
Fig. 11 Fractured samples after tensile tests at 423 K and at various strain rates. The samples were MDFed in advance to∑De=7.2
to have average grain size of 0.3 mm before tensile tests.
301
302
日 本 金 属 学 会 誌(2015)
第
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本研究は,文部科学省科学研究費新学術領域研究「バルク
ナ ノ マ テ リ ア ル 」 課 題 番 号 22102004 , 同 課 題 番 号
24360303 ,(公財)軽金属奨学会の研究費支援によって行わ
れました.ここに記し,感謝申し上げます.
文
Fig. 12 True stress vs. nominal strain curves of the∑De=7.2
MDFed and the additionally 15 cold rolled∑De=7.2MDFed
samples.
により粒界すべりが変形に及ぼす影響が大きくなったためと
考えられる.高パス MDF 材における,破断伸び,変形応力
などの機械特性は変形温度とひずみ速度に強く依存する.


MDF 後に,さらに冷間圧延を行うことで,加工硬化
と集合組織強化により,さらに高い強度を得ることができた.
献
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