実習テキスト 4.加工手順 旋盤実習「おねじ切り」 1.目 的 4-1 被削材の切り出し(図2) まる φ(直径)22mmのS40C(機械構造用炭素鋼鋼材)の丸棒 を保管庫から取り出し、高速カットグライダーで、一人あたり長さ 自らの手で工作機械(旋盤)を操作し、機械加工に関する基礎知識を習得するととも 95mmで切断する。 に、仕上られた製品の寸法を測定し、これの評価を行う。 図2 切り出し 4-2 被削材の研削 2.解 説 切り出した被削材の両端面に残るバリを研削機で研削する。 一般的に機械とは、その目的の応じた仕事を成すために必要な機能を有し、その機能 部とこれを支える構造体の各部品より構成されている。この部品は設計され作りだされ るわけだが、その製作過程の中から本実習では、次の加工法を行う。 4-3 刃物の設置 1週目に使用する刃物は次の3つ。 か たは けん (A)片刃バイト(右勝手) (B)剣バイト (C)センタードリル (理解済みの者は4-4へ) 上記の刃物をそれぞれの所定の箇所に設置する。特に(A)と(B)はセン ター(高さ)を丁寧に合わせる。 (C)のセンタードリルは、心押台(図3参照)を以下の手順で操作し、セン タードリルチャック(図4)を設置する。 <心押台> (ア)心押軸締付け固定レバー①を降ろし、ハンドル②を反時計に回す。 (イ)心押軸③が引き込まれ、回転センター④が外れる。 図1 旋削における加工法の種類 ※図は一例を示す。 図3 心押台 3.準 備 <センタードリルチャック> ひさくざい 製品見本(写真1)をよく観察し、被削材および工具類を取り出し、旋盤の所定の場 所に設置する。 (ウ)スリーブ先端の平坦部③側から心押台に差し込み、心押台のハンドルを 時計回りに回し、センタードリルチャックを固定する。 図4 センタードリルチャック 写真1 4-4 被削材の固定(チャッキング) 4-7 被削材の寸法測定 図5のように被削材の端面がチャックから約30mm出る 被削材をチャックから取り外し、全長をノギスで測定し、仕上げ長さの90 ようにして固定する。 mmまでの切削長さを確認する。 ※チャッキングは、チャックハンドルで3箇所すべてを正し (例)測定した全長が93.8mmの場合 い順序で締める。 93.8-90(仕上げ長さ)=3.8mm 図5 被削材の固定 従って、残りの端面削りは3.8mmとなる。 4-5 端面削り ★回転数・・・560rpm 4-8 被削材のトンボ ★切込み量・・0.1~0.2mm/1回 被削材の反対側の端面を削るため、被削材を反転させてチャッキングする。 片刃バイト(右勝手)を使用し、被削材の端面を手送りで これを「トンボ」という。 削り、バリを取りながら端面を平面にする。 端面削りが終わっても被削材は取り外さない。 4-9 被削材の反対側の端面削りとセンターもみ ★加工精度・・・縦送りハンドルのゼロ点合わせを使用すると、全長の仕上 被削材の中心部に突起部(へそ)が出来る場合は、片刃バイ げ長さが正確に仕上がる。 トのセンター(高さ)を再調整する。 図6 端面削り 4-7で算出した切削長さを、手順4-5、手順4-6の要領で加工する。 4-6 センターもみ 4-10 被削材の固定(チャッキングと心押台の回転センター固定) ★回転数・・・560rpm きりくず ★加工中・・・時々センタードリルを引出し、切屑の除去と冷却を行うこと。 刃物台を手前へ移動させ、心押台の固定レバー③を降ろしてチャック側へ移 図8のように被削材はチャックに約30mmかませるようにして固定し、反 対の端面は心押台の回転センターで押し付け、心押台締付けレバーを固定する。 動させる。 (注意)ドリル先端が被削材の端面にぶつからないようにする。 固定レバー③を降ろし、心押台を被削材側へ移動させた後はレバーを上げて固 心押台が適度な位置についたら被削材を回転させ、固定レバー③を上げた後、 定する。心押軸締付け固定レバー①を降ろし、ハンドル②を時計回りに回転さ 心押軸締付け固定レバー①を降ろし、ハンドル②を時計回しに回して被削材の せ回転センター④を被削材に押し当て、最後に心押軸締付け固定レバー①を上 端面に穴を空ける。 げる。 センター穴の深さは、センタードリル④のテーパー部の半分まで切り込む。 ※チャッキングは、チャックハンドルで3箇所すべてを正しい順序で締める。 図8 回転センターの押し付け 図7 センターもみ 4-11 剣バイトの横送りゼロ点合わせ(図9参照) (2週目はじめ) 刃物を剣バイトに設定し、刃先を被削材の表面に軽く押し付け、その位置で 横送りハンドルのマイクロメーターカラーをゼロに合わせる。 4-15 刃物の設置 2週目に使用する刃物は次の3つ。 か たは (D)溝切りバイト (E)ローレット (A)片刃バイト(右勝手) 4-16 被削材の固定(チャッキングと心押台の回転センター固定) 手順4-10の要領で被削材を固定する。 4-17 溝切りバイトの位置合わせ ★回転数・・・270rpm 図9 剣バイトの横送りゼロ点合わせ 被削材の端から50mm+α(0.5mm) は の位置へ溝切りバイトを移動させる。この位置 4-12 荒削り(または黒皮剥ぎ) ★回転数・・・560rpm で溝切りバイトを被削材へ0.02mm程切込 ★切込み量・・0.2mm/1回 み、出来た溝と端面の長さをノギスで測定し位 ★直 径・・・φ22mm→φ21mm 置を確認する。 図12 溝の位置合わせ 荒削り後の直径の仕上がりは21mmであ るが、多少の差は気にしない。 図10 荒削り 4-18 溝切りバイトの位置合わせの修正 αの値が明確に分かったら、その分の縦送りを戻し、被削材の端面から50 mmの位置に溝切りバイトを位置合わせする。 4-13 被削材のトンボ 被削材の反対側の端面を削るため、被削材を反転させてチャッキングする。 被削材はチャックに約15mmかませるようにして固定する。 4-19 溝加工(1回目) ★回転数・・・270rpm ★直 径・・・φ21mm→φ16mm 4-14 反対側の荒削り(または黒皮剥ぎ) あらかじめ溝切りバイトの刃幅をノギスで測 手順4-11、4-12の要領で被削材の 定しておく。1回目の溝加工では、刃幅分の溝 反対側の荒削りを行う。 が出来る。また、直径も刃物の横送りのマイク ロメーターをゼロ点合わせし、溝の直径をφ 図11 荒削り 1週目はここまで。次の手順で片付けを行う。 ①刃物類、ノギス等、工具類を全て元の場所に戻し、整理整頓する。 16mmに仕上る。 4-20 溝幅の測定 1回目の溝加工で出来た溝の幅をノギスで測定し、仕上げの溝幅10mmま ②手ホウキで切屑を払い、床に落ちた切屑はホウキで取り清掃を行う。 での残りの加工幅を算出する。 ③雑巾で旋盤を磨きながら油を差し、旋盤を正しい位置に配置していく。 (例)測定した溝の幅が5.9mmの場合 ④最後に担当教員のチェックをもらい、合格後は手洗いへ行く。 図13 溝加工 10(仕上げ幅)-5.9=4.1mm 従って、残りの溝加工の溝幅は4.1mmとなる。 4-21 溝加工(2回目または3回目) 4-26 ローレットの取付け ★回転数・・・270rpm ローレットの手首部にあるボルトの中心部がセンターの位置にくるようにし、 ★直 径・・・φ21mm→φ16mm 向きは2つのコマ(刃車)からの突起部を心押台側に向け、コマの表面が被削材 ★溝の幅・・・10mm の表面に刃物台に取付ける。 手順4-20で算出した残りの溝加工の溝幅 分だけ縦送りハンドルで移動させ、溝加工を行う。 図14 溝加工 4-22 被削材のトンボ 被削材の反対側の端面を削るため、被削材を反転させてチャッキングする。 被削材はチャックに約15mmかませるようにして固定する。 図16 ローレット 4-23 被削材の固定(チャッキングと心押台の回転センター固定) 手順4-16の要領で被削材を固定する。 4-27 ローレット掛けの自動送りの設定 ★回転数・・・156rpm 4-24 片刃バイト(右勝手)の横送りゼロ点合わせ 刃物を片刃バイトに設定し、刃先を被削材の表面に軽く押し付け、その位置 で横送りハンドルのマイクロメーターカラーをゼロに合わせる。 ★自動送り・・0.4~0.5mm/rev 自動送りの設定は、図17のとおり。 ①送り速度変換ノブ・・・Aの3に設定 ②送り正逆ノブ 4-25 軸部の仕上げ ・・・右へ回す(正にセットする) ③送り、インチ・メートルネジ切換ノブ・・・左へ倒す ★回転数・・・1030rpm ④クランプレバー ・・・垂直方向 ★切込量・・・0.2~0.1mm/1回 ★直 径・・・φ21mm→φ20mm 図15のように軸の端面から溝部まで手送りで慎重に仕上ていく。 最後の仕上げ切削の前に被削材の直径を実測し、最後の削り代を確認する。 図15 軸部の仕上げ 図17 ローレット掛けの自動送りの設定 4-28 ローレット掛けの自動送り設定の確認 刃物台を被削材やチャックから十分に離して、主軸を回転させる。図17の⑥ 送り指導レバーを引き上げるとエプロンが左へ移動することを確認する。 工具送りハンドルを時計方向に回し、刃物台が案内面よりはみ出すまで回す。 4-29 ローレット掛け (3週目はじめ) 4-30 刃物の設置 2週目に使用する刃物は次の3つ。 けん (B)剣バイト (F)ねじ切りバイト 4-31 被削材の固定(チャッキングと心押台の回転センター固定) ★回転数・・・156rpm 手順4-10の要領で被削材を固定する。 被削材のローレット部にたっぷりと切削油を塗る。 ローレットのコマ幅の3/4が材料の端に当たる位置に移動させる。主軸を回 4-32 ローレット部の面取り(図19) 転させ、左手で横送りハンドルを時計方向に回し、ローレットを被削材に強く ★回転数・・・560rpm 押し当てる。左手はそのまま横送りハンドルから力を抜かず、右手で⑥送り始 ★面取り・・・C2 動レバーを引き上げ、ローレット掛けを行う。 刃物を剣バイトに設定し、剣バイト側部で ローレット掛けが終了したら、すぐに右手で⑥送り始動レバーを降ろし、自動 ローレット部の角(2箇所)を面取りする。 送りを止める。さもないとローレットがチャックにぶつかってします。 図19 ローレット部の面取り 4-33 被削材のトンボ 被削材の反対側の端面を削るため、被削材を反転させてチャッキングする。 被削材はチャックに約15mmかませるようにして固定する。 仕上たローレット部は口金で覆ってチャッキングし、ローレットが傷つかない ようにする。 4-34 被削材の固定(チャッキングと心押台の回転センター固定) 手順4-16の要領で被削材を固定する。後のねじ切り作業のために、回転 図18 ローレット掛け 2週目はここまで。次の手順で片付けを行う。 ①刃物類、ノギス等、工具類を全て元の場所に戻し、整理整頓する。 ②手ホウキで切屑を払い、床に落ちた切屑はホウキで取り清掃を行う。 ③雑巾で旋盤を磨きながら油を差し、旋盤を正しい位置に配置していく。 ④最後に担当教員のチェックをもらい、合格後は手洗いへ行く。 センターの固定はしっかりしておくこと。 4-35 剣バイトの横送りゼロ点合わせ 刃物を剣バイトに設定し、刃先を被削材の表面に軽く押し付け、その位置で 横送りハンドルのマイクロメーターカラーをゼロに合わせる。 4-36 ねじ切り部の前仕上げ ★回転数・・・1030rpm ★切込量・・・0.2~0.1mm/1回 ★直 径・・・φ21mm→φ20mm 図20のように軸の端面から溝部まで手送りで慎重に仕上ていく。 最後の仕上げ切削の前に被削材の直径を実測し、最後の削り代を確認する。 図21 ねじ切りの自動送りの設定 図20 ねじ切り部の前仕上げ 4-39 ねじ切りの自動送り設定の確認 4-37 ローレット部の面取り 刃物台を被削材やチャックから十分に離して、主軸を回転させる。図21の⑧ ★回転数・・・560rpm ネジ追いダイヤルが反時計回りに回っている。EGが右脇にある凹みの印付近に ★面取り・・・C2 来たところで、⑦ハーフナットレバーを降ろすとエプロンが左へ移動することを 手順4-32の要領で、ねじ切り部の端面側と溝側の2箇所に面取りを行う。 確認する。 自動送りが確認できたらすぐにブレーキペダルを踏んで非常停止で主軸の回転を 4-38 ねじ切りの自動送りの設定 止める。以後、⑧ネジ追いダイヤルのEF設定を固定した状態で作業を行うため、 ★回転数・・・83rpm ⑦ハーフナットレバーは下げたままにし、エプロンの縦送りは主軸の正逆転で行 ★ねじ呼び・・M20 い、停止は非常停止で行う。 ★ピッチ・・・2.5mm 工具送りハンドルを時計方向に回し、刃物台が案内面よりはみ出すまで回す。 自動送りの設定は、図21のとおり。 ①送り速度変換ノブ・・・Aの3に設定 ②送り正逆ノブ 4-40 ねじ切りバイトの取付け ・・・右へ回す(正にセットする) ③送り、インチ・メートルネジ切換ノブ・・・左から2つ目の「メートルネ ジ」に設定 ねじ切りバイトが被削材のねじ切り部に直角に向 くよう取り付ける。直角になっているかはネジゲー ジを用いる。 ④クランプレバー ・・・垂直方向 ⑤前後・長手送り切換ノブ・・・手前に最大まで引き出した後、半分まで押し 戻したところで止める。 図22 ねじ切りバイトの取付け 4-41 ねじ切りバイトの横送りゼロ点合わせ 4-43 ねじのはめ合いの確認 刃先を被削材の表面に軽く押し付け、その位置で横送りハンドルのマイクロ メーターカラーをゼロに合わせる。 刃物の横送りハンドルを回し、被削材から安全なところまで移動した後、心 押台を被削材から離す。被削材はチャックから外さず、そのままでナットのは め合いのテストをする。ナットは市販のM20ナットを使用する。 ナットをねじにはめ合わせる時は、切屑が付着している場合があるので無理 4-42 ねじ切り 矢理ねじ込まず切屑を落としながら慎重に行う。 ★回転数・・・83rpm また、ねじの直径が指定の20mmより-0.3超場合は、ナットは入って ★切込量・・・下表参照(切込回数は計28回) 操作するハンドルは刃物の横送りのみ。縦送りは主軸の正逆転のみ。主軸の も“ガタつき”が大きく成功とは認められない。 停止はブレーキペダルを踏む非常停止のみで行う。 切込回数 切込量(mm) 切込量の累計 切込回数 切込量(mm) 切込量の累計 ◆はめ合いに成功した場合 ナットをねじから外し、完成したねじには出席番号を刻印して所定の缶に 1 0 0 15 0.05 1.55 2 0.2 0.2 16 0.05 1.6 3 0.2 0.4 17 0.02 1.62 4 0.2 0.6 18 0.02 1.64 ②手ホウキで切屑を払い、床に落ちた切屑はホウキで取り清掃を行う。 5 0.2 0.8 19 0.02 1.66 ③雑巾で旋盤を磨きながら油を差し、旋盤を正しい位置に配置していく。 6 0.1 0.9 20 0.02 1.68 ④最後に担当教員のチェックをもらい、合格後は手洗いへ行く。 7 0.1 1.0 21 0.02 1.7 8 0.1 1.1 22 0.02 1.72 9 0.1 1.2 23 0.02 1.74 10 0.1 1.3 24 0.02 1.76 11 0・05 1.35 25 0.02 1.78 12 0.05 1.4 26 0.02 1.8 13 0.05 1.45 27 0.02 1.8 14 0.05 1.5 28 0.02 1.8 提出する。ナットを元の箱の中へ戻す。続いて工具類を片付け、旋盤とその 周囲を清掃し、実習の片付けをする。 ①刃物類、ノギス等、工具類を全て元の場所に戻し、整理整頓する。 ◆はめ合いに失敗した場合 担当教員に確認をしてもらい、失敗の有無を確かめる。 修復可能な場合は、担当教員の指導の下で作業を行うが、修復不可能な場 合は、作業手順4-1からやり直しとなる。 4-44 各部の測定と評価 別紙の「ネジの測定表」に示された各部の寸法を各自で測定および評価し、 得点を付ける。この測定表はレポートに添付して担当教員に提出をする。 ※26~28回は、仕上げとし てねじの表面をなぞる。 4-45 レポートの完成と提出 レポートは以下の3部構成で制作する。用紙サイズはB5版で統一。 ①表紙 ②ネジの測定表 ③感想(15行以上) ※提出は作品のねじが完成した翌日。(休・祝日の場合は、休日の翌日) 図23 ねじ切り 5.ねじの各部の寸法 ネジの測定表 番号 氏名 完成したねじの各部の寸法を測定し、評価表の空欄を埋め点数を出しなさい。 図24 ねじの製作図 6.ノギスの目盛りの読み方(図25参考) ①副尺目盛の“0”が示す本尺目盛の値(a)を読む。 図中からは27.○○mmまで判断できる。 ②本尺の最小寸法値を読むためには、副尺目盛と本尺目盛がピタッと一致して いる値(b)を読む。図中からは“5”である。 副尺の1目盛は「0.05mm」であるから、(b)の“5”は0.5を示 す。 ③つまり、 (a)の27.○○mm+(b)の0.5mm=27.50mmがノ ギスが示す値となる。 図25 ノギスの目盛りの読み方 測定・評価表 ※面取り部は正確に測定できないため、自己評価で良い。
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