メンタルヘルス対策と 個人情報 ⑤ 管 理 務 労 根岸人事労務事務所 社会保険労務士 根岸 純子 JUNKO NEGISHI 第 4 回目では、会社からの医師への受診命令と 報の保護に関する法律等の定めにしたがい、運用 医師の診断書提出命令についてご紹介しました。 することが求められます。個人情報の取扱いに関 メンタルヘルス不調が疑われる従業員に対して、 しては次の法律等で定められています。 医師への受診を奨めても受診しようとしない時や ①個人情報の保護に関する法律 診断書の提出を求めても対応しない時には、雇用 ②雇用管理分野における個人情報保護に関する 主は合理的かつ相当な理由がある場合は、受診命 令や診断書提出命令を出すことができ、従業員は その指示にしたがう義務があること。さらに、就業 ガイドライン ③雇用管理に関する個人情報のうち健康情報を 取扱うに当たっての留意事項 規則に対応プロセスを規定し従業員に周知してお くことで、メンタルヘルス不調の従業員が発生した 時に、会社も本人もよりスムーズな対応が可能に なることについて述べました。 2. 法律等で定められた 個人情報の範囲 従業員がメンタルヘルス不調により医療機関を 『個人情報の保護に関する法律』において、メン 受診し、医師から取得した診断書等は健康情報に タルヘルス対策における個人情報となるのは、 「氏 なります。メンタルヘルス対策においては、健康情 名、生年月日その他の記述等により特定の個人を 報を含む労働者の個人情報の保護に配慮すること 識別することができるもの」 とされています。 が重要であることから、第 5 回目ではメンタルヘル 『雇用管理分野における個人情報保護に関する スに関する個人情報の取扱いについて検討したい ガイドライン』における雇用管理に関する個人情 と思います。 報(以下「雇用管理情報」 という。) とは、 「事業者が 労働者等の雇用管理のために収集、保管、利用等 1. メンタルヘルス対策における 個人情報の取扱い する個人情報をいい、その限りにおいて、病歴、収 入、家族関係等の機微に触れる情報(以下「機微 に触れる情報」 という。)を含む労働者個人に関す メンタルヘルス対策を進めるに当たっては、診 るすべての情報が該当する」 とされています。 断書等の健康情報を含む個人情報を本人から取 『雇用管理に関する個人情報のうち健康情報を 得する必要があり、また上司や同僚の協力を得る 取り扱うに当たっての留意事項』において「健康情 ためにはその情報を共有し活用することが必要に 報」 と定義されるもののうち、メンタルヘルス対策 なります。個人情報を取扱うに当たっては、個人情 に関わるものとしては次の情報が当てはまることに 福利厚生情報 2014-Ⅵ 9 なります。 を取扱う従業員とその権限を明確にし、権限を与 ● 産業医が労働者の健康管理等を通じて得た情報 えられた者のみが業務の遂行上必要な限りにおい ● 労働安全衛生法 6 9 条第 1 項の規定に基づく健 て取扱うこと、その従業員に対する必要かつ適切 康保持増進措置( T H P:トータル・ヘルスプロ な監督を行うこと等になります。メンタルヘルス対 モーション・プラン)を通じて事業者が取得した 策を進めるに当たっても診断書等を取扱う従業員 健康測定の結果、健康指導の内容等 とその権限を明確にすることが重要です。 事業者が医療機関から取得した診断書等の診療 ④第三者提供に関する義務 に関する情報 医療機関はあらかじめ本人の同意を得ないで、 労働者から欠勤の際に提出された疾病に関する 個人データを第三者に提供できません。よって、事 情報 業者が従業員から提出された診断書の内容以外 ● ● ● ※ 任意に労働者等 から提供された本人の疾病歴、 の情報を医療機関から直接収集しようとする場合、 健康診断結果、その他健康に関する情報 事業者はこれらの情報を取得する目的をあらかじ ※ 個人情報取扱事業者に使用されている労働者以外に、使用さ れる労働者になろうとする者、及びなろうとした者、並びに過 去において使用されていた者が含まれる。 め従業員に明らかにして承諾を得るとともに、必要 に応じこれらの情報は労働者本人から提出を受け ることが望ましいとされています。また、職場復帰 の際に主治医から情報提供を受ける場合も予め本 3. 雇用管理情報の取扱いに 関する義務 ①利用目的に関する義務 10 人の承諾が必要になります。 (資料 2) 4. 個人情報管理の運用 雇用管理情報を取扱うに当たっては、利用目的 メンタルヘルス対策において個人情報を取扱う を可能な限り具体的に特定し、その達成に必要な 主なケースは、①ストレスチェック結果、②従業員 範囲を超えて取扱うことは出来ません。したがっ が休業する場合の診断書等、 ③復職する場合の診 て、診断書等の健康情報を取扱う際は利用目的を 断書等を取扱う場合、④メンタルヘルス不調が疑 きちんと特定しておく必要があります。 われる場合で家族へ連絡を行う場合、等が挙げら ②取得に関する義務 れます。 雇用管理情報は、偽りその他不正の手段により ①ストレスチェック結果 取得することは禁止されています。雇用管理情報 ストレスチェックは、平成 2 7 年12月から実施が を取得した場合は、あらかじめその利用目的を公 義務化されます。ストレスチェックや面接指導の結 表している場合を除き、速やかに、その利用目的 果については、従業員のプライバシーに配慮した を本人に通知しまたは公表しなければなりません。 取扱いが必要であるため、結果の保存方法や活用 また、契約書等の書面等により、本人から直接雇用 方法、従業員の不利益な取扱いに関する事項につ 管理情報を取得する場合は、あらかじめ本人に対 いて、検討会にて慎重に討議されています。また、 しその利用目的を明示しなければならないことに 既にストレスチェックを実施している事業場におい なっています。 ても、従業員のプライバシーに配慮し、個人情報保 ③個人データの管理に関する義務 護法等の規定に沿った取扱いが必要となります。 個人情報を電子計算機を用いて検索することが ②従業員がメンタルヘルス不調のために できるように体系的に構成したものを、個人データ 休業する場合の診断書等 と呼びますが、個人データの漏えい、滅失またはき 従業員がメンタルヘルス不調で休業する場合 損の防止その他の安全管理のために必要かつ適 は、通常、就業規則に診断書の提出義務を規定し 切な措置(以下「安全管理措置」 という。 )を講じな ますが、診断書やその他の健康情報の利用目的と ければなりません。安全管理措置とは、個人データ 目的外利用をしない旨を明記し、提出の際は従業 福利厚生情報 2014-Ⅵ ⑤ 管 理 労 務 員本人から提出を受けるようにします。また、上記 奨めても、本人がなかなか受診しない場合があり でも述べましたが、情報を取扱う従業員の権限を ます。従業員の個人情報取得時に、利用目的の1 明確にし、保管場所などの安全管理体制について つとして疾病が疑われる場合やけが等の場合には も定めておく必要があります。上司が部下から受け 家族へ連絡する旨を記載しておけば、会社が従業 取った診断書を机の引き出しに放置したままに 員の家族に連絡し、家族から受診を奨めることが なっていたという話も良く耳にしますので、診断書 可能になります。なお、人の生命、身体または財産 の取扱いも含め、文書で定め周知しておきましょう。 の保護のために利用目的の範囲を超えて個人情報 ③メンタルヘルス不調により休業し、 を取扱う必要がある場合、本人の同意を得ること 復職する場合の診断書等 が困難な時は、例外的に利用目的の達成に必要な 従業員が休業し復職する場合においても、診断 範囲を超えて、個人情報を取扱うことができるとさ 書の提出が必要になります。休業する場合と同様 れています。 に、就業規則にその旨を定めますが、復職する場 合は、人事労務担当者・上司・産業医・産業保健 5. まとめ スタッフ等が診断書や主治医の意見書等の情報を 共有し、復職の可否を判断することになります。復 メンタルヘルスに関わる個人情報は機微に触れ 職の場合は個人情報の取扱いについて明記した る情報であり、従業員のプライバシーに配慮した取 文書への署名を義務化することで本人同意の確認 扱いが必要です。個人情報の取扱い、管理、運用 を残します。 (資料 1、2) 等において社内ルールを定め、社内に周知し、従 ④メンタルヘルス不調が疑われる場合の 業員に安心感を与えることは、メンタルヘルス対策 家族への連絡 を効果的に推進するための条件となります。 従業員のメンタルヘルス不調が疑われ、受診を 資料 1 資料 2 年 月 日 株式会社 御中 職場復帰支援に関する情報提供依頼書 休職・復職に際しての個人情報に関する同意書 病院 クリニック 先生 御机下 私は休職・復職に関する会社の規範に従い,私の 「個人情報」 を収集・開示することに 同意いたします。なお, この同意は,私の主治医やその他の医療機関が会社や会社の産 〒 業保健スタッフ等に私の健康情報を提供することについての同意も含むものです。 ○○株式会社 ○○○事業場 「個人情報」 とは,人事情報や健康情報であり, それらの情報に含まれる記述等により 産業医 印 電話 ○−○−○ 個人を識別できるものを指し,氏名,生年月日,年齢,電話番号, メールアドレス,住所,家 族構成,休職の事由,障がいの程度, 医療情報,生活状況等を意味します。 下記1の弊社従業員の職場復帰支援に際し、下記2の情報提供依頼事項について任 年 月 日 署名 印 意書式の文書により情報提供及びご意見をいただければと存じます。 なお、いただいた情報は、本人の職場復帰を支援する目的のみに使用され、 プライバ シーには十分配慮しながら産業医が責任を持って管理いたします。 ■「個人情報」 の取扱いに関する補足説明 今後とも弊社の健康管理活動へのご協力をよろしくお願い申し上げます。 ・「個人情報」 は、人事部が把握している人事情報に限らず,産業保健スタッフ等の面談 により収集した健康情報も含まれる。 ・「個人情報」 は,個人情報保護法をふまえ,産業保健スタッフ,管理監督者や人事部が 責任を持って厳重な管理を行う。 ・「個人情報」 は,当該労働者の休職中の管理と復職支援の目的にのみ使用し,法令で 記 1 従業員 氏 名 ○ ○ ○ ○(男・女) 生年月日 年 月 日 例外が認められている場合を除いて, それ以外の目的では使用しない。 ・ ただし会社からの連絡が極めて困難な場合, 自傷他害等の恐れがあり緊急を要する場 2 情報提供依頼事項 合,裁判所の命令がある場合その他法令が例外を認めている場合には,家族, その他 (1)発症から初診までの経過 第三者に開示する場合がある。 (2)治療経過 ・ 産業保健スタッフ以外の者が健康情報を取り扱う場合には, その利用目的の達成に必 要な範囲に限定されるよう,必要に応じて適切に加工したうえで提供する等の措置を 講じる 備考: (特記事項・緊急連絡先等) (3)現在の状態(業務に影響を与える症状及び薬の副作用の可能性なども含めて) (4)就業上の配慮に関するご意見(疾患の再燃・再発防止のために必要な注意事項な ど) (5) (6) (7) (本人記入) 私は本情報提供依頼書に関する説明を受け、情報提供文書の作成並びに 出典: 『人事・労務担当者のためのリワーク活用マニュアル』 大西守・黒木宣夫・五十嵐良雄 編著 社団法人 雇用問題研究会 発行 産業医への提出について同意します。 年 月 日 氏名 印 福利厚生情報 2014-Ⅵ 11
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