アジア近隣賃上げ事情

FOCUS
アジア近隣賃上げ事情
フリーランス・ライター
横舘久宣
本年の春季労使交渉 ――、いわゆる“春闘”が
ジャカルタ特別州は 270 万ルピア(約2万 5000
ほぼ終息。賃上げ結果がアベノミクスに奏効する
円)で 10.06%アップ。最大上げ幅はバンカ・ベ
かどうか気になるところだが、アジア近隣国の賃
リトゥン州で 28.05%増の 210 万ルピア(約1万
上げ事情はどうなっているだろうか?
9400 円)。日系企業が多い西ジャワ州は州内県・
アジア・太平洋で事業展開する日系企業にとっ
て、賃金上昇は最も頭を痛める問題になっている。
市単位で決めているが、業種グループによっては
30%アップした。
在アジア・オセアニア日系企業を対象にしたジェ
労働組合の要求の根拠は、「とにかく食える賃
トロの 2014 年調査によれば、回答企業の7割超
金を」という窮乏感覚だ。KSPI のサイード・イ
が、経営上の問題点として「従業員の賃金上昇」
クバル会長によれば、最低賃金は生活に最低必要
を訴えている。2014 年の賃金上げ率は、インド
な経費の9割しか満たしていない。
「インドネシ
ネシア、パキスタン、ミャンマー、カンボジア、
アの GDP はマレーシアの3倍だが、賃金はマレー
インド、バングラデシュ、スリランカの7カ国で
シアの半分にすぎない」という。ジェトロのジャ
2ケタを記録した。
カルタ事務所によれば、人件費安で進出する時代
ではなくなってきている印象とのことだ。
2ケタアップ続くインドネシア賃上げ
ベトナムでも止まらない賃上げ攻勢
近年、大幅な賃上げが著しいインドネシア。昨
年 12 月 10 日、雨模様の空の下ジャカルタの大
ベトナムでは本年 1 月最低賃金(月額)が引き
統領官邸に向け5万人の群衆が賃上げを要求して
上げられた。地域Ⅰ(ハノイ、ホーチミン市内)
デモ行進をした。10 月に就任したばかりのジョ
が 270 万ドンから 310 万ドン(約1万 7200 円、
アッ
コ・ウィドド大統領が燃油価格の値上げを決めた
プ率 14.8%)
、地域Ⅱ(ハノイ、ホーチミン、ハイ
ことがきっかけ。KSPI( インドネシア労働組合
フォンの周辺および複数の省)が 240 万ドンから
総連合)
など3つの労働組合ナショナル・センター
275 万ドン(約1万 5300 円、
同 14.6%)
、
地域Ⅲ(地
が全国規模の抗議活動を展開、無数の労働組合旗
方都市および複数の省)が 210 万ドンから 240 万
が街頭を埋めた。その1週間前、最低賃金額の見
ドン(約1万 3300 円、同 14.3%)
、地域Ⅳ(他の
直しを求め、各地方政府に大規模の抗議行動をし
省)が 190 万ドンから 215 万ドン(約1万 2000 円、
たばかりだった。
同 13.2%)に、それぞれ引き上げられた。2014 年
インドネシアで賃上げといえば最低賃金のアッ
のアップ率 15 ~ 17%に比べるとやや落ち着いて
プを指す。2015 年の最賃は昨年 12 月まで州ごと
いるが、労働組合側は、現行の給与では基本的な
に決まり、平均上昇率は前年比 12.77%。14 年の
生活費の7割しか手当てできないとし、賃上げ圧
17.44%、13 年の 19.1%を下回ったが、大幅アッ
力を強める。
プの勢いは止まらない。全国の指標とされる首都
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2015 年 4月号
新たな最低賃金の実施間もない去る2月、ベト