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共創
Vol.18
IGPI レポート 2015 春号
本年 6 月より、上場企業に対してコーポレートガバナンスコードが適用される予定です。
日本企業の長期的な成長や生産性を高め企業価値の向上を促すための取り組みが、
G(グローバル)
とL
(ローカル)各経済圏で着実に進んでいます。
今号ではそうした日本経済を取り巻く環境の旬な動向を、IGPI ならではの視点でご紹介します。
合わせて、今年 IGPI がテーマに掲げる AI(人工知能)の最新レポートもお届けいたします。
Contents
03 コーポレートガバナンス改革の
仕上げは誰の役割か
澤 陽男 経営共創基盤(IGPI) ディレクター
06 日本におけるプロスポーツのマネジメント
〜 “L型企業 ” としてのクラブ経営〜
古澤 剛 経営共創基盤(IGPI) ディレクター
松崎 浩 経営共創基盤(IGPI) マネジャー
09 海外現地レポート
人工知能研究の最前線
川上 和也 カーネギーメロン大学コンピューター科学科 自然言語技術研究所
発行:株式会社 経営共創基盤(IGPI)
Industrial Growth Platform, Inc. http://www.igpi.co.jp Layout Design : 安久津みどり
表紙絵は歌川国貞の『卯の花月』をリメイクしたものです。
卯の花月は旧暦の四月で、初鰹の季節です。
『絵で見る 江戸の女子図鑑』
(廣済堂出版)より
イラストレーター・江戸研究家 善養寺ススム
コーポレートガバナンス改革の
仕上げは誰の役割か
澤 陽男 経営共創基盤(IGPI) ディレクター
安倍政権が重点的に取り組んできたコーポレートガバナンス大改革の集大成として、
コーポレートガバナンス・コード(以下、本コード)が策定されました。本コードと上手
に付き合うためには、どのように本コードを理解するべきかを考えたいと思います。
コーポレートガバナンス・
コードの目的
たす非常に重要なものです。いかなる組織に
本コードは、本年 6 月より上場企業に適用
が互いに監視する三権分立が定められるなど、
される予定ですが、ある報道によると、本コ
他律的ガバナンスによって権力の濫用を抑止
ードの大きなポイントは、「独立社外取締役の
する仕組みが存在します。
2 名以上の選任と、株式持ち合いの解消促進
しかし、上記のような報道の結果、多くの
や株主との対話」となっています。果たして
方は、今回のコードが「他律」を強化するも
本当にそうなのでしょうか。
のと受け止めているように感じています。
独立社外取締役の選任は、取締役会という
会社内の機関からガバナンスを効かせるもの
であり、「内部ガバナンス」を強化するもので
も他律的ガバナンスは必要であり、国家レベ
ルでも日本国憲法によって立法・行政・司法
「他律」よりも大事な「自律」
す。他方で、株式の持ち合いの解消や株主と
しかし、最も重要なコーポレートガバナン
の対話は、会社の外にいる株主による「外部
スは、自らを規律する「自律」ではないでし
ガバナンス」を強化するものです。これらは、
ょうか。自律の精神がなければ、どんなに優
いずれも経営者が他者から規律を受けるとい
秀な独立社外取締役が発言しても、どんなに
う意味で「他律」的なガバナンスといえます。
株主と対話しても、空回りしてしまうだけで、
他律的なガバナンスは、裸の王様に対して
全くの無駄となってしまいます。
交代を突き付ける最後の砦としての機能を果
マネジメントの父と称されるドラッカーも、
I G P I R E P O RT
03
「自己管理による目標管理こそ、マネジメント
経営者自らがガバナンスを語る
の哲学たるべきものである」と喝破していま
す。なぜならば、自己管理は最善を尽くす願
この自律的ガバナンスを強化するためには、
望を起させるという意味で、強い動機づけを
経営者自らに本コードの内容を理解してもら
与えるからです。マネジメントとガバナンス
わなければなりません。
の違いこそあれ、ガバナンスは経営者に対す
私は弁護士というバックグラウンドもあっ
るマネジメントとも言い換えることもできま
て本コードの対応についてアドバイスを求め
すので、マネジメントの要諦が自己目標管理
られることがあります。また、一部の会社では、
であれば、ガバナンスの要諦は「自律」とい
既に法務部において本コードの対応の検討を
えます。
開始し、現状の調査を開始しています。しかし、
したがって、コーポレートガバナンス大改
残念ながら、本コードは、弁護士の仕事でも
革の仕上げは、企業の自律的なガバナンスを
なければ、法務部の仕事でもないと考えてい
実現することにあり、当然のことながら、そ
ます。
れぞれの企業の経営者が主役です。画竜点睛
本コードに定められた形式的な要件を満た
を欠くも入れるもトップマネジメント次第と
すか否かという枝葉末節を検討する前に、取
いえるでしょう。
締役会や経営会議において、本コードの各原
そもそも本コードにおいても、「会社が、各
則の趣旨・精神をよく理解していただく必要
原則の趣旨・精神を踏まえ、自らのガバナン
があります。
ス上の課題の有無を検討し、自律的に対応す
ることを求める」と明記されています。ここ
相当数の反対票
が一番のポイントです。本コードが法的拘束
力を有するものではないことは、自律なしに
例えば、本コードの補充原則 1-1 ①では、
「株
真のガバナンスが実現しないことを意味して
主総会において・・相当数の反対票が投じら
います。
れた・・ときは、反対の理由・・の分析を行い、
株主との対話・・について検討を行うべきで
ある。」とされております。
04
IG PI RE PORT
形式的なことから議論を開始すると、「相
ある場合には、自律的に改善していくことも
当数」の反対とは、何%かという点が気にな
視野に入れるべきです。
ってしまい、社内規程において、何%の反対
一方で、反対する株主がハゲタカファンド
があったら分析の対象にするかを定めるとい
か中長期的な企業の成長を求める株主かを判
う問題に終着します。すると、過去の株主総
断する必要もあります。また、ハゲタカファ
会や他社の株主総会で反対票が投じられてい
ンドであったとしても議案によっては会社の
るのが何%くらいか調べてみようなどという
中長期的な成長を意図して反対しているかも
不毛なデータの収集を行うことになってしま
しれません。したがって、結局は株主との対
います。
話を重ねることが重要です。
これに対して、実質的なことから議論を開
始すると、なぜ株主の権利が重要なのかとい
本コードの意義
うところから考えます。更には、本当に株主
の権利は重要なのかというところから考えま
紙面の都合上、ここまでしか記載すること
す。例えば、従業員など他のステークホルダ
ができませんが、本コードは非常に奥深く、
ーの利益を害してまで株主の短期的な自己の
本来は更に深い検討をするべきです。そして、
利益のみを追求するような、いわゆるハゲタ
一つ一つの原則について、取締役会や経営会
カファンドの権利は重要なのでしょうか。逆
議において、このような検討を行うことによ
に、中長期的な企業の成長を求める株主の利
って自律的に対応することが重要です。
益は他のステークホルダーの利益とも一致し
私は、本コードは、「自律」を補完するも
ますので、その株主の権利は非常に重要です。
のであり、各社のガバナンス上の課題を気づ
このように考えると、何%の反対が相当数
かせてくれる指針としては非常に良く出来て
なのかを議論するよりも、誰がどのような理
いると思います。
由で反対したのかが重要という結論に達しま
最後にもう一つドラッカーを引用します。
す。例えば、見かけ上は多くの株主が賛成し
「トップマネジメントが意味ある取締役会を
ている議案であったとしても、会社の中長期
育てないならば、社会から不適切な取締役会
的な成長を真剣に考えている株主が反対票を
を押しつけられる。」
投じている場合には、取締役会や経営会議に
トップマネジメントが社会に支持されるコ
おいて議論するとともに、株主との対話を実
ーポレートガバナンスを確立しなければ、不
施するべきです。そして、株主総会において
適切な取締役会を押しつける法的拘束力のあ
否決されなかったとしても、株主の反対理由
る規範(法律)が定められるかもしれません。
が中長期的な企業価値の向上に資するもので
澤 陽男 経営共創基盤(IGPI)ディレクター
西村あさひ法律事務所にて、事業再生を専門とし、多岐にわたる業種について、法的・私的整理手続を支援する他、
一般企業法務、M&A 等に従事。IGPI 参画後は、通信業を中心に新規事業開発のハンズオン支援等やファイナンシャ
ルアドバイザリー業務等に携わる他、経済同友会に出向、コーポレートガバナンスや成長戦略等に関する政策提
言やその実現に向けた活動に従事。 特定適格消費者団体の認定・監督に関する指針等検討会 委員。
青山学院大学法学部卒 弁護士
I G P I RE P O RT
05
日本におけるプロスポーツのマネジメント
∼“L型企業”としてのクラブ経営 ∼
古澤 剛 経営共創基盤(IGPI) ディレクター 松崎 浩 経営共創基盤(IGPI) マネジャー
1.はじめに
につながっています。アメリカの四大スポー
2013 年 9 月、ブエノスアイレスで開かれ
姿を実現した訳ではありません。
クの開催権を東京が勝ち取りました。しかし
スポーツの時代が続いてきました。本来的な
催することとなった我が国において、プロス
いとも言えます。従って、日本のプロスポー
留まっています。(図表1)
けた土台作りであり、つきつめれば、各クラ
よってもたらされていますが、これは歴史的
るのではないでしょうか?
す。イングランドのプレミアリーグで言えば、
い状態にあると言わざるを得ません。本稿で
サッカーが文化として定着していた土壌に、
決策について論じたいと思います。
ツも同様に長い歴史を誇り、一朝一夕に今の
た IOC 総会において 2020 年夏季オリンピッ
翻って我が国では、長らくスポーツ=企業
ながら、世界最大級のスポーツイベントを開
意味でのプロスポーツとしての歴史はまだ浅
ポーツの市場規模は欧米と比較して小規模に
ツが現段階で目指すべきは、長期的成長に向
その差の大部分はテレビ放映権料の差に
ブやチームの自立的・安定的経営の実現にあ
な帰結であることにも着目する必要がありま
残念ながら、現状はその目指す姿から程遠
百年以上にわたるプロリーグの歴史があり、
は、Jリーグを切り口として、その要因と解
テレビマネーが流れ込んだことが現在の興隆
図表1:主要プロスポーツの収入規模比較
(億円)
10,000
北米
9,000
欧州
日本
8,000
7,000
6,000
5,000
4,000
3,000
2,000
1,000
0
06
IGP I REP ORT
NFL
米
フットボール
MLB
米
野球
NBA
米
バスケ
NHL
米
ホッケー
プロ
Jリーグ
プレミア リーガ・ ブンデス セリエA
リーグ
エスパ
リーガ (イタリア) 野球 (J1・J2)
(英) ニョーラ (ドイツ)
(スペイン)
年度:NFL 、MLB 、NHL 、
Jリーグは 2013年。
NBA は 2011-2012、
欧州サッカーは 2012 - 2013。
プロ野球は 2010
為替:1ドル 100円、1ユーロ 120円で
一律換算。
出所:Forbes、Deloitte、Jリーグ
2.Jリーグに見る
プロクラブ経営の課題
また、別のクラブにおいては、観客動員数や
Jリーグが開幕してから 20 年余り。サッ
いくPDCAの仕組みが確立されていました。
まだ多くのクラブは厳しい経営状況にあり、
いたのは、経営トップ自らが、スポンサー営
少なくありません。
値にも細かく目を配るといった率先垂範型の
域市場においてサービスを提供するローカル
見方を変えれば、多くのクラブにおいて、“ L
業績等をタイムリーに把握し、計画との差異
やその原因を分析した上で、改善につなげて
カー文化の浸透は飛躍的に進んだものの、い
更に複数の優れたクラブにおいて共通して
親会社からの “ 資金補填 ” に依存するクラブも
業や自治体との関係構築に飛び回り、経営数
一段視点を高めると、大半のJクラブは “ 地
リーダーシップを発揮していることでした。
経済圏の企業 ” すなわち “ L型企業(注1)” と見
型企業 ” としてあるべき経営体制が整ってい
用いて、主要クラブを業績や観客動員数等に
要因になっていると考えられます。
企業経営という観点から両者を比較しました。
3.解決に向けた方向性
なすことができます。私たちは統計的手法も
おいて ” 優れたクラブ “ とそれ以外に区分し、
(図表2)
図表1:主要プロスポーツの収入規模比較
その結果、“ 優れたクラブ ” においては1.
(億円)
徹底したローカルマーケティング、2.確立
10,000
北米
欧州
9,000
されたPDCAの仕組み、3.率先垂範型のリー
8,000
ダーシップ、といった “ L型企業 ” を経営する
7,000
6,000
上で普遍的に求められる要素が備わっている
傾向が見出されました。
5,000
4,000
例えば、優れたクラブと定義した首都圏某
3,000
2,000
クラブは、ターゲット地域を明確にした上で、
ないことが、経営上の問題をもたらす大きな
他のプロスポーツにおいても、多くのクラ
ブやチームが “ L型 ” の特徴を持つと思われる
日本
ことから、Jリーグと同様の問題を抱えてい
る可能性が高いと思われます。
その解決に向けて取り組むべきことは何で
しょうか? 私たちは1.自助努力、2.規律、
年度:NFL 、MLB 、NHL 、
3.支援の組み合わせが必要になると考えて
Jリーグは 2013年。
います。
NBA は 2011-2012、
欧州サッカーは 2012 - 2013。
プロ野球は 2010
選手も巻き込み、草の根的な告知や地域貢献
1.
自助努力-大前提は各クラブの自助努力で
0
為替:1ドル 100円、1ユーロ 120円で
NFL
MLB
プロ
Jリーグ
プレミア リーガ・ ブンデス セリエA
NBA
NHL
活動に取り組むなど、ローカルマーケティン
す。“
勝てば全て解決する
”“ リーグ機構や
リーグ
米
米
エスパ
米
リーガ (イタリア) 野球 (J1・J2) 一律換算。
米
出所:Forbes、Deloitte、Jリーグ
フットボール 野球
バスケ ホッケー (英) ニョーラ (ドイツ)
1,000
グ活動の徹底に定評があります。 (スペイン)
自治体の施策次第 ” といった意識から脱却
図表 2:Jリーグ主要クラブの分析
財務、観客動員等のデータに基づき統計手法も用いて区分
優れたクラブ
特徴 • 財務状況が良い
• 固定客の規模が大きい
• 動員が勝ち負けに影響されにくい
A(南関東)
C(首都圏)
B(首都圏)
それ以外のクラブ
特徴 • 財務状況が相対的に劣る
• 固定客層が少ない
• 動員が勝ち負けに影響されやすい
D(北関東)
E(関西)
F(甲信越)
G(中部)
インタビュー、公表情報等に基づき経営面の差異を比較
I G P I RE P O RT
07
し、一企業としての経営体制強化に焦点を
ブに派遣するといった支援も考えられます。
ラブの経営面における現状課題を把握す
4.結び
観的かつ効率的に課題を認識するために、
日本のプロスポーツ市場は、その背後に
も検討されるべきでしょう。
えれば、長期的なポテンシャルの大きさに
当てて取り組む必要があります。まずはク
ることが非常に重要となりますが、より客
経営に知見を持つ第三者を活用すること
2.規律-自助努力を促すためには、外部か
ら一定の規律を課すことが不可欠です。近
年、リーグ主導による規律強化の動きも見
ある経済規模やスポーツ愛好者の多さを考
疑いの余地はありません。また、地域活性
化という観点からも、プロスポーツの社会
的価値は今後より高まっていくと考えられ
られますが(注2)、多くのクラブにとり、
ます。
割を果たしているスポンサー(親会社)に
活性化に向けた取組みや、政府や自治体か
ここにおいては、スポンサー・親会社が
まずは各クラブが “ L型企業 ” としての経営
モニタリングするための仕組みを構築す
が、今求められているのではないでしょう
の実現に対してコミットを持つことが重
私たちも企業経営に関する知見を活かし
最も効果的なのは、実質的な金融機関の役
その発展に向けては、リーグ機構による
よるガバナンスと思われます。
らの支援等も必要となるでしょう。しかし、
クラブ経営の “ 結果 ” と “ プロセス ” 双方を
強化に向け、関係者が一体で取り組むこと
ること、また、クラブと目標を共有し、そ
か?
要なポイントとなります。
て、その一助になれれば幸いです。
3.支援-個々のクラブでは実現が難しいこと
に対する組織横断的な支援も望まれます。
例えば、リーグ機構によるクラブ経営面に
おけるベストプラクティス共有や、待遇面等
の問題から経営スキルを持った外部人材
の登用が難しい現状を鑑みて、リーグ機構
やスポンサーが適切な人材と契約し、クラ
(注1)“ L型企業 ” および対となる概念である “ G型企
業 ” の詳細については、「なぜローカル経済から
日本は甦るのか」(冨山和彦著、PHP出版)を
参照のこと
(注2)Jリーグは、2013年から財務要件を含む一定の
基準を満たすクラブにリーグ参加の資格を与え
る「Jリーグクラブライセンス制度」を導入した
古澤 剛 経営共創基盤(IGPI) ディレクター
三和総合研究所(現三菱UFJリサーチ&コンサルティング)経営戦略本部、米系戦略コ
ンサルティングファームのモニターグループを経て IGPI に参画。IGPI 参画後は、主に事業
戦略策定、事業計画策定、経営管理体制強化、組織変革等に従事。経験業界は自動車、電機、
医薬品等の製造業を中心に、流通・エンタテイメントまで多岐にわたる。
早稲田大学政治経済学部卒、慶應義塾大学経営管理研究科修士(MBA)
松崎 浩 経営共創基盤(IGPI) マネジャー
監査法人トーマツにて法定監査、株式公開支援業務及び財務デューデリジェンス等の M&A
関連業務に従事。その後、デロイトトーマツ FAS 株式会社にて、フィナンシャルアドバイ
ザリー業務に従事。IGPI 参画後は、大手通信事業会社に駐在し投資部門の立上げならびに
新規事業開発のハンズオン支援、サービス業の中期経営計画策定・経営管理体制強化等に
携わる。金沢大学経済学部卒、公認会計士
08
IG PI RE PORT
Carnegie Mellon
University
海 外 現 地 レ ポ ート
Pittsburgh
人工知能研究の最前線
川上 和也 カーネギーメロン大学コンピューター科学科 自然言語技術研究所
“人工知能”、”ビッグデータ”といった言葉がいろいろなところで聞かれ、グーグル、アマゾンをは
じめとする大企業が巨額を投じて研究開発を行っています。特に最新のアルゴリズム、ディープラー
ニングは、画像認識で人間を超える性能を発揮するなどして注目を集めています。これらは本格的
な研究がはじまってまだ数年、日本には専門の研究者もいないほど新しい技術ですが、自動運転に
おける画像認識技術やアップル社の
Siri などの音声認識技術として、ビジネスに応用されるなど急
Photo
AI
速な発展を遂げており、大学、企業が熾烈な開発競争を繰り広げています。
DOG
私も東京大学在籍時より、ディープラーニング研究に取り組んでおりましたが、専門家の少ない日
本にいながら、アメリカ・イギリスで進む最新研究に追いつくのは難しいと感じ、アメリカ、カー
ネギーメロン大学に留学し、研究を進めています。
本レポートでは、最新の人工知能技術とアメリカ最先端の研究現場で繰り広げられる熾烈な競争の
様子をご紹介したいと思います。
Voice
Text
AI
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■■■■■■■■
■■■■■■■■
適用することが可能です。これによって人間の
■■■■■■■■
■■■■■■■■
最新技術、ディープラーニング
ディープラーニングは、これまでの人工知能
理解が及ばない、膨大で複雑なビッグデータか
ら知識を学習できるようになり、応用範囲が一
とは全く違う特徴をもった最新技術です。これ
気に拡大しました。目標達成のために何を学習
3000pt
る、真の人工知能の実現にむけた大きな一歩と
Game
AI
Clear
までの人工知能ではコンピュータが学習する
すればよいのかを自律的に選択しながら学習す20
間が設計し、コンピュータに与える必要があり
いえます。
びに専門家がデータを理解し、適切な特徴量を
ディープラーニングは、人間には見つけられ
Plant
方、ディープラーニングは特徴量そのものを
るため、認識性能も大幅に向上します。画像認
際、データから何を学習するか(特徴量)を人
ました。そのため、新しいデータに適用するた
コンピュータに入力する必要がありました。一
自動的に学習することができるため、データを
理解する人間を介することなく多くのデータに
5
15
30
20 =3000pt
ないデータの細かい特徴を学習することができ
AI
識、音声認識といった既存分野での性能向上は
もちろん、これまでの人工知能にはできなかっ
Grow
I G P I RE P O RT
09
Photo
AI
DOG
Voice
AI
Text
■■■■■■■■
■■■■■■■■
■■■■■■■■
■■■■■■■■
■■■■■■■■
Game
た新しい応用も次々に発表されています。中で
も最も驚いたのは、画像を入力するとその説明
文を出力する技術です。これは、画像の認識や、
人工知能まわりの競争環境
近年の人工知能技術は、非常に複雑で緻密な
設計が必要となるため、アルゴリズムを開発で
説明することができる高度な認識能力を持って
AI
Plant
限られています。例えばディープラーニングの
る人間の脳のような高次機能を人工知能で実現
術開発 = 人材獲得といってもいいような状況
専門人材は世界でも100人といわれており、技
するのは難しいと考えられてきましたが、すで
です。
グーグルは人工知能技術を開発する 80 人の
他にも、グーグルからゲームの画面の画像と
研究者からなる Deep Mind 社を 400 億円以上
ゲームをプレイできる学習アルゴリズムが発表
タ、アウディなど、最新の人工知能技術を開発
材料(画像)とゴール(スコア)だけを与えれ
います。大学から引き抜かれるトップ教授の年
で、例えば農作業ロボットに適用し、作物の画
籍ニュースのように話題にあがり、研究者の野
させれば、野菜ごとの最適な栽培手順を自動的
研究者50人がタクシー配車アプリを運営する
す。グーグルが買収を進めるロボット技術とも
起業したりといったニュースがひっきりなしに
研究から目が離せません。
なかで新たなものが開発されていく、という生
スコアだけを与えることで人間よりもうまく
で買収しました。他にもフェイスブック、トヨ
され、注目を集めています。この技術は判断
している企業はすべて外部の研究者を獲得して
ば途中の手順は自動的に学習できるというもの
俸は数億円といわれ、さながら大リーガーの移
像(判断材料)と栽培成功例(ゴール)を学習
心に火をつけています。私の留学先の大学でも、
に学習できるといったようなことが期待できま
Uber 社に引き抜かれていったり、有名教授が
接続されていくと予想できます。今後も最新の
流れてきます。優秀な人材を集め、その競争の
IGPI RE PORT
15
20
きる技術とノウハウをもった人材はごく一部に
います。データを抽象的に捉え、理解、説明す
にそのベースは出来つつあるといえます。
C
20
3000pt
説明文に使う言語の文法などを全てデータから
自動的に学習し、画像の抽象的な内容を言葉で
10
AI
G
■■■■■■■■
■■■■■■■■
■■■■■■■■
Game
AI
Clear
20
3000pt
5
15
30
20 =3000pt
Plant
AI
Grow
態系ができています。
るセンサーではなく学習するセンサーであり、
いように自動的にチューニングされるといった
人工知能ビジネスの新展開
最後に、日本ではまだ知られていない新興ベ
犬を飼っている家では、犬でセンサーが鳴らな
ことが想定されます。
ンチャー企業の動向をお伝えします。人工知能
他にも画像認識技術をロボット、ドローンに
ドローンといったハードウェアの技術革新に人
ようとするNeurala 社や、医療機器に人工知能
す。
目を集めています。インターネット技術として
センサーに直接組み込み、スマートフォンや小
に近い現場に人工知能が進出する日もそう遠く
す。実現すれば、スマートフォンを使って高性
であることを切に願い、研究を続けていこうと
関連のベンチャーにおける最近の流行は IoT や
組み込み、農場の自動監視や資源探索に適用し
工知能のソフトウェアを組み込むというもので
を搭載し、技術を開発している Enlitic 社が注
例えば Teradeep社はディープラーニングを
だけではなく、家電や農場や病院といった生活
型のセンサーの上で動作させようとしていま
はないように思います。その人工知能が日本製
能の監視カメラや防犯センサーを作るようなこ
思います。
とができるようになります。また、これは単な
川上 和也 カーネギーメロン大学コンピューター科学科 自然言語技術研究所
東京大学工学部卒、機械学習、自然言語処理、情報抽出が専門。
東京大学 松尾研究室在学中よりウェブからの情報抽出、情報推薦の技術を応用した E コマー
ス、E ラーニングサービスにおけるユーザ行動分析と情報推薦システムの設計を行う。
2014 年 3 月IGPI 入社、2014 年 7月よりカーネギーメロン大学 コンピュータ科学科 自然
言語技術研究所留学中
I G P I R E P O RT
11
Information
『IGP I 流ビジネスプランニングの
『世界で活躍する人は、
リアル・ノウハウ』 どんな戦略思考をしているのか?』
(P H P 研究所)
IGPI 流リアル・ノウハウシリーズ
第 3 弾。現実経営の最前線にたつ
IGPI の実体験に基づくノウハウ、
実行を前提としたリアルなビジネ
スプランニングのエッセンスをご
紹介しています。
第 1 章 「事業計画を作ってほしい」と言われたら
第 2 章 事業計画策定の重要な要素
―そのとき、コンサルタントは何を進言したか
第 3 章 事業計画の意外な効用
―対外コミュニケーションと健康診断機能―
第 4 章 勝ち抜きシナリオを探る
―事業戦略立案のノウハウ
4 月21日発刊
『上昇気流に乗るのは誰だ!』
(KADOKAWA / 中経出版)
塩野 誠
冨山 和彦・経営共創基盤
Books
新刊 書籍のご案内
(IGPI パートナー/取締役マネージングディレクター)
「プロフェッショナル」
「グローバルエリート」の必要
性が叫ばれる中、ビジネスの世界でトップクラスの
戦略家として最低限知っておくべき知識と姿勢を筆
者自らの経験からお伝えしています。
第 1 部 心構え編
1 日本の存在する位置を
正確に把握する
2 ビジネスの基本を徹底する
3 自らを学習マシーンだと
イメージする
4 アイディアに
最大の価値を置く
5 リーダーシップを理解する
(PHP 研究所)
竹中 平蔵(慶應義塾大学教授)
冨山 和彦( IGP I 代表取締役 CEO)
第 3 部 資本・業務提携シュミレーション編
1 海外企業と資本・業務提携できる
レベルをめざす
『人工知能は人間を超えるか ディープラーニングの先にあるもの』
松尾 豊
(KADOKAWA)
(東京大学大学院工学系研究科 准教授
ダイナミックな変化を続ける世界の中で、
日本経済と日本の企業が今、どのように変
わりつつあるのか。アベノミクスの現状評
価から今後の課題、地方再生の現状と見通
し、企業再生のあるべき姿、新しいビジネ
スチャンスの可能性など、マクロとミクロ
の視点から両者が幅広く対談しています。
第 1 章 アベノミクスをどう見るか、世界経済をどう読むか
第 2 章 グローバル競争を勝ち抜く企業の条件
第 3 章 ローカル経済はこうして立て直せ
2 月20 日発刊
第 4 章 強い農業と観光業をいかにつくりだすか
第 5 章 労働・雇用の「岩盤規制」を打ち砕け!
第 6 章 これから日本は、いかなる人材を育成すべきか
3月19 日発刊
第 2 部 実践編
1 企業や業界を大きな視点から捉える
2 戦略提言をわかりやすくプレゼンする
3 戦略家のメディアリテラシー
4 企業価値を評価する
5 コーポレートファイナンスを理解する
/IGPI 顧問)
テクノロジーの進化は、人類の希望か、あ
るいは大いなる危機なのか?
日本トップクラスの研究者である東京大学
松尾准教授が「人工知能」の未来を解説し
ています。
3月10 日発刊
序 章 広がる人工知能
第1章 人工知能とは何か
第2章 「推論」と「探索」の時代
第3章 「知識」を入れると賢くなる
第4章 「機械学習」の静かな広がり
第5章 静寂を破る
「ディープラーニング」
第 6 章 人工知能は人間を
超えるか
終 章 変わりゆく世界
坂田 幸樹
安岡 祥二
外資系コンサルティング会社、外資系消費財
メーカーを経て、リヴァンプに入社。ディレ
クターとしてアパレル企業、ファーストフー
ドチェーン、システム会社などへのハンズオ
ン支援(事業計画立案・実行、M&A、資金調達など)に従事。
リヴァンプ支援先のシステム会社においては代表取締役に就任
し、経営改革を推進。IGPI 参画後は、IGPI シンガポールの取
締役 COOとして、物流企業、大手テレコム企業子会社、大手
広告企業などの幅広い業界においてグローバル戦略立案・実行
支援、クロスボーダー M&A の支援に従事。
早稲田大学政治経済学部卒
大学卒業後、ライブドアに入社し、M&A を中心と
する経営企画関連業務に従事。2006 年の所謂「ラ
イブドア事件」後は、子会社・事業の第三者への譲渡・
清算、証券訴訟対応、株主還元施策の検討 ・立案等
に携わる。その後、シティグループ証券投資銀行本部にて、TMT セ
クターを中心に M&A 案件や資金調達案件に係る案件遂行・提案業務
等に従事。IGPI 参画後は、大手通信企業や大手メディア企業の M&A
及び戦略投資、大手インフラ企業の事業計画策定、大手機械メーカー
の事業承継等におけるアドバイザリー・コンサルティング業務や、
IGPI による自己資本投資案件等に従事。東京大学教養学部総合社会
科学科(国際関係論コース)卒業
発行:株式会社 経営共創基盤(IGPI) お問合せ:広報/池田・英(はなぶさ)
〒100 - 6617 東京都千代田区丸の内一丁目 9 番 2 号 グラントウキョウサウスタワー 17 階
TEL:03-4562-1111 E-mail:[email protected] New Directors
新ディレクター紹介