熱アシスト磁気記録の媒体設計と 異方性定数比の検討

熱アシスト磁気記録の媒体設計と
異方性定数比の検討
平成 26 年度
三重大学 大学院工学研究科 物理工学専攻
赤尾 達也
三重大学大学院 工学研究科
目次
1. 序論
1.1 序…………………………………………………………………………………… … 1
1.2 磁気記録…………………………………………………………………………… ….1
1.3 グラニュラー媒体…………………………………………………………….……… 3
1.4 磁気記録のトリレンマ……………………………………………………….……… 4
1.5 熱アシスト磁気記録……………………………………………………….………… 4
1.6 シングル磁気記録……………………………………………………………………. 5
1.7 磁気異方性……………………………………………………………………………. 6
1.8 本研究の目的と概要…………………………………………………………………. 7
2. 情報安定性
2.1 序………………………………………………………………………………………. 8
2.2 計算方法………………………………………………………………………………. 8
2.2.1 対数正規乱数…………………………………………………………………….. 8
2.2.2 磁性微粒子のエラー確率……………………………………………………… 10
2.2.3 ビットエラーレート…………………………………………………………….11
2.3 計算結果……………………………………………………………………………...13
2.3.1 長期保存における統計的熱揺らぎ指標……………………………………… 13
2.3.2
inter-grain exchange coupling…………………………..………………...14
3 媒体設計………………………………………………………………………………….. 18
3.1 序…………………………………………………………………………………….. 18
3.2 計算方法…………………………………………………………………………….. 18
3.2.1 シミュレーションモデル……………………………………………………....18
3.2.2
媒体熱揺らぎ指標………………………………….……………………………21
3.2.3 統計的熱揺らぎ指標……………………………………………………………22
3.2.4 媒体温度勾配……………………………………………………………………26
3.2.5 熱伝導温度勾配…………………………………………………………………27
3.2.6 分子場近似………………………………………………………………………28
3.3
異方性定数比 Ku/Kbulk........................................................................................30
3.3.1
Ku/Kbulk 決定アルゴリズム…………..………………………………………….30
3.3.2 分子場近似パラメータの決定…………………………………………………31
3.3.3 媒体組成比の決定………………………………………………………………32
ⅰ
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3.3.4 媒体温度勾配の算出……………………………………………………………33
3.3.5 主磁極下におけるヘッド磁界…………………………………………………34
3.3.6 媒体成立条件……………………………………………………………………34
3.3.7
Ku/Kbulk 決定フローチャート………………………………………………….35
3.4 計算結果……………………………………………………………………………….37
3.4.1
標準パラメータ…………………………………………………………………37
3.4.2 磁気記録タイプ…………………………………………………………………37
3.4.3 1 ビットあたりの磁性微粒子数依存性……………………………………….40
3.4.4 磁性微粒子サイズの標準偏差依存性……………………………………… …41
3.4.5 磁性層膜厚依存性……………………………………………………………… 42
3.4.6 記録温度依存性………………………………………………………………….44
3.4.7 熱伝導率依存性………………………………………………………………… 45
3.4.8 光スポット径依存性…………………………………………………………… 47
3.4.9 ヒートスポット径依存性……………………………………………………….49
3.4.10 線速度依存性…………………………………………………………………..50
3.4.11 ヘッド磁界定数依存性………………………………………………………..51
3.4.12 inter-grain exchange coupling 依存性……………………………………. 53
3.5
パラメータに対する Ku/Kbulk 低減の検討…………………………………………54
3.5.1
パラメータの分類 …………………………………………………………..54
3.5.2
磁性層膜厚と記録温度………………………………………………………..55
3.5.3
inter-grain exchange coupling と記録温度………………………………..56
3.5.4
磁気記録タイプと記録温度…………………………………………………..56
3.5.5
磁気記録タイプ,磁性層膜厚と記録温度…………………………………..57
3.5.6
磁気記録タイプ,inter-grain exchange coupling と記録温度…………..58
3.5.7
効果的な Ku/Kbulk 低減の検討…………….…………………………….……..59
4. 総括…………………………………………………………………………………………60
謝辞…………………………………………………………………………………………….62
参考文献……………………………………………………………………………………….63
ⅱ
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1. 序論
1.1 序
SNS( Social Networking Service )や WEB メール, クラウドコンピューティングサービ
スの普及により,人々の扱うデータ量は年々増加し続けている.情報を記録するストレ
ージ装置としてハードディスクドライブ (Hard Disk Drive , HDD)があり,HDD は記録
容量あたりのコストが低く,データセンターのサーバー等の記録媒体として依然として
需要は高い.データ量増加に伴い,データセンターは年々増設されており,膨大な消費
電力が問題視されている.HDD の高記録密度化は,大容量化だけでなく消費電力の削
減に繋がるため,さらなる高密度化が期待されている.
HDD の記録密度は様々な技術革新により,飛躍的に向上させてきた.しかし,熱揺
らぎ問題(トリレンマ問題)により,その伸びは年々低下している
1)
.現状の記録方法で
2
は 1 Tbits/inch が限界と言われており,それを打破すべく熱アシスト磁気記録や瓦記録
等が提案され,日々研究が進められている.
1.2 磁気記録
磁気記録では,図 1-1 のように各ビットの磁化の向きを 2 進数の”0”と”1”に情報を変
換し記録している.
図 1-1 磁化方向と記録信号
記録層への情報書き込みには,図 1-2 のような単磁極型の磁気ヘッドを用いる.この
磁気ヘッドは主磁極,補助極,コイルで構成されており,補助極に比べ主磁極を何十倍
1
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も小さくすることで,補助極よりも高い磁束密度で主磁極から磁界を発生させる.また,
軟磁性裏打ち層 (Soft Under Layer, SUL) を記録層の下に設けることで,より強い磁界を
発生させることが可能になる.
図 1-2 単磁極ヘッド
次に、磁気ヘッドの記録磁界発生プロセスについて説明する.図 1-3 のように,まず,
(1)コイルに電流を流すことで磁界 H0 を発生させる.すると(2)ヘッドの軟磁性材料の磁
化 Ms1,M1 が整列する.(3)ヘッドの磁化が整列することにより,主磁極と補助極の表面
に磁極が現れる.(4)この磁極から磁界 H1,H2 が発生する.この磁界により,(5) SUL
の磁化 Ms2,M2 が整列する.この磁化が整列することで(6) SUL 表面にも磁極が現れる.
(7)この磁極が磁界 H3,H4 を発生させる.
ヘッドの軟磁性材料が発生させる磁界 H1 と,SUL が発生させる磁界 H3 をガウスの法
則に従って計算すると,
H1 = 2πM s1
(1-1)
H 3 = 2! M s2
(1-2)
つまり,単磁極ヘッドから発生される磁界 Hw は,
H w = H1 + H 3 = 2π (M s1 + M s 2 )
(1-3)
となり,ヘッドの軟磁性材料および SUL の磁化 Ms1,Ms2 によって決まるため、磁気ヘ
2
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ッドが発生させる磁界には上限がある.
図 1-3 記録磁界発生プロセス
1.3 グラニュラー媒体
HDD 記録媒体には,磁性微粒子が非磁性体に囲まれたグラニュラー媒体が使用され
ている.磁性微粒子間に非磁性体を設けることで再生雑音の低下や磁性微粒子間の交換
結合の弱化を可能にしている.そのため,連続媒体と異なり磁性微粒子間に磁壁を作ら
ない.磁壁幅に比べ短い非磁性幅で磁性微粒子間の交換結合を弱めることができるため,
記録密度の向上を図ることができる.また,磁性微粒子サイズは数 nm 程度と十分小さ
いため,各磁性微粒子は単磁区構造で安定となる.
グラニュラー媒体では複数の磁性微粒子で 1 ビットを構成し,記録を行っている.高
密度化には 1 ビット領域を小さくすることが考えられるが,それに伴いビット領域内に
おける磁化の向きが不鮮明になり,信号雑音比が悪くなってしまう.そのため磁性微粒
子サイズを小さくし,領域境界の凹凸を小さくする必要がある.
3
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図 1-4 グラニュラー媒体
1.4 磁気記録のトリレンマ
記録された情報の安定性を評価する指標として,(1-4)式で表される熱揺らぎ指標があ
る.これは,磁化の向きを保とうとする磁気的エネルギーと,磁化の向きを乱そうとす
る熱的エネルギーの比であり,この値が大きいほど情報は安定であると言える.
K uV
k BT
(1-4)
ここで Ku は磁性微粒子の磁気異方性エネルギー,V は磁性微粒子の体積,kB はボル
ツマン定数,T は絶対温度である.高密度化のために磁性微粒子サイズを小さくする,
つまり V を小さくすると,(1-4)式の値は小さくなる.この値が小さくなり過ぎると記録
された情報が熱擾乱により消失してしまう.そこで,熱的安定性を確保するために Ku
を大きくすることが考えられる.しかし,保磁力 Hc (∝Ku)も大きくなってしまう.情報
を記録するには保磁力よりも大きなヘッド磁界 Hw で記録する必要があるが,1.2 で述べ
たように Hw には上限があるため,Ku 増大にも上限がある.このように,磁性微粒子体
積,熱的安定性,保磁力の要素を同時に満たすことが困難であることを磁気記録のトリ
レンマといい,高密度化の障壁となっている.この問題を解決する手法として,熱アシ
スト磁気記録やシングル磁気記録が提案されている.
1.5 熱アシスト磁気記録
熱アシスト磁気記録( Heat Assisted Magnetic Recording, HAMR )とは,記録時に媒体を
局所的に加熱し,高温にすることで一時的に媒体の保磁力を低下させ記録する方式であ
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る.この方式により,室温においてヘッド磁界よりも大きな保磁力を持つ媒体でも記録
が可能となる.それゆえ,高い Ku を持つ材料を媒体に用いることができ,室温での熱
的安定性を維持しつつ磁性微粒子サイズを小さくすることができるため,さらなる高密
度化が期待できる.
しかし,HAMR では記録位置付近の磁性微粒子の温度 T も一時的に上昇してしまう.
そのため記録位置付近の情報が消失しないよう,高い温度勾配を持つ媒体が要求される.
なお,HAMR の記録方式には TG(Thermal Gradient),FG(Field Gradient),および
DG(Dual Gradient)があるが,本研究では TG を考える 2).
1.6 シングル磁気記録
シングル磁気記録(Shingled Write Magnetic Recording ,SMR)とは,図 1-5 のように,記
録トラックを瓦のように重ねて記録することで高トラック密度記録を可能にする記録
方式である 3).
図 1-5 シングル磁気記録
従来の HDD においては,隣接するトラックの信号に影響を与えないようにトラック
ピッチを設定し,記録を行う.これにより,磁気ヘッド幅はトラックピッチより狭い必
要があり,トラック密度が高くなると記録磁界強度は弱くなる.しかし, SMR ではト
ラックを重ねて記録することでトラックピッチに比べ広い磁気ヘッドを用いることが
でき,強いヘッド磁界を生み出すことができるため,高保磁力の媒体に高トラック密度
での記録を可能とする.ただし,SMR では 1 トラックのみの書き換えは不可能であり,
書き換え作業が複雑化し,記録速度,パフォーマンスの低下という欠点もある.
本研究では, HAMR と SMR を組み合わせた記録方式(Singled Write and Heat Assisted
Magnetic Recording, SHAMR)を想定する.
なお,SHAMR では記録密度の向上を図るのではなく,必要な異方性エネルギー定数
Ku の低減を目的とする. HAMR から SHAMR にすることで書き換え回数の減少によっ
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て必要な熱揺らぎ指標を減らすことができるため,必要な Ku を減らすことが可能であ
ると考える.
1.7 磁気異方性
異方性エネルギー定数 Ku の大きな媒体においても記録を可能とすることが HAMR の
利点であるが,媒体の Ku がなかなか増大しないことが問題視されている.
図 1-6 異方性エネルギー定数のキュリー温度依存性
図 1-6 は,高い Ku を持つ媒体材料として期待されている FePt の,バルク,薄膜にお
ける Ku のキュリー温度依存性の一例である.その異方性エネルギー定数は室温 300K に
おいてバルクでは 70 Merg/cm3,薄膜では 46 Merg/cm3 程度が報告されているが 4),グラ
ニュラー薄膜にすれば,非磁性体が介入するためさらに異方性は小さくなってしまうこ
とが想定される.それゆえ,できる限り小さな Ku の媒体を用いた設計が望まれる.本
研究では,Ku の低減の指標として異方性定数比 Ku/Kbulk を用いる.これはバルクの Ku
に対する薄膜の Ku の本質的な比であり,これが小さいほど媒体作製が容易になる.な
お,この図に関する詳細は 3.3.2 で述べる.
6
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1.8 本研究の目的と概要
HAMR 媒体の設計では多くのパラメータが複雑に関係しあっており,その媒体設計理
論は未だ確立されていない.また,異方性エネルギー定数 Ku の増大化が困難である状
況から,各パラメータに対する最低の異方性定数比 Ku/Kbulk をシミュレーションにより
検討する.
まず,磁気記録における情報安定性の本質的な指標はビットエラーレート(bER)であ
り,目標の bER を満たす統計的熱揺らぎ指標 TSF を各パラメータで算出する.そのパ
ラメータは,1 ビットあたりの磁性微粒子数 n, グレインサイズの標準偏差 σD, 保存期
間 τ である.この TSF は媒体設計を行う際に必要である.また,磁性微粒子間交換結合
em における必要な統計的熱揺らぎ指標を導く.その bER の計算結果と熱伝導シミュレ
ーションによって得られた温度勾配を用いて,記録パラメータ,媒体パラメータ,ビッ
トパラメータといった様々なパラメータに対し,最低の Ku/Kbulk を算出し検討を行う.
そして,各パラメータの Ku/Kbulk の低減に関する要因を検討し,複数のパラメータを
同時に変化させ,さらなる Ku/Kbulk の低減を試みる.
第 2 章では bER の計算方法の説明やその結果について検討する.
第 3 章では HAMR の媒体設計について,各パラメータにおける最低の Ku/Kbulk を算出
した後に,複数のパラメータを組み合わせた場合の Ku/Kbulk の低減について検討する.
第 4 章では全体のまとめを行う.
7
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2. 情報安定性
2.1 序
磁気記録媒体における情報安定性は,(1-4)式の熱揺らぎ指標によって議論されてきた.
一般的に,情報を 10 年間保持するための熱揺らぎ指標の値は約 60 以上必要とされる.
従来の磁気記録媒体において,1ビットを構成する磁性微粒子数は数十個と多い.しか
し、記録密度が飛躍的に向上することによって,1ビットを構成する磁性微粒子数やそ
の微粒子のばらつきを考慮する必要が出てきた.
そこで本研究では,1ビットあたりのエラー確率であるビットエラーレート(bit Error
Rate , bER )を情報安定性の本質的な指標として用いる.グラニュラー媒体の bER は統
計的熱揺らぎ指標とともに,1 ビットあたりの磁性微粒子数 n や磁性微粒子サイズの
標準偏差 σD の関数として統計的に計算される.また、保存期間 τ を変えることで任意
の期間におけるエラー確率を算出することも可能である.
本章では,まず,プログラムにおける磁性微粒子の発生方法,bER の計算方法を述べ
た後に,長期保存における 1 ビットあたりの磁性微粒子数 n と磁性微粒子サイズの標
準偏差 σD が統計的熱揺らぎ指標 TSF10 に与える影響を検討する。次に,保存期間 τ を
変えてその期間に必要な統計的熱揺らぎ指標 TSF を算出する.
また,グラニュラー媒体において,磁性微粒子間に微弱な交換結合が作用している場
合を考え,それが bER に与える影響も検討する.
2.2 計算方法
2.2.1 対数正規分布
グラニュラー媒体における磁性微粒子サイズは均一ではなく,ばらつきがある.そこ
で,本研究で想定する磁性微粒子のサイズは対数正規分布に従うものとした.対数正規
分布の確立変数は正の領域のみであり,物理的に適していることがいえる.また、実際
の磁性微粒子サイズも対数正規分布に従うことが知られている.
シミュレーションするにあたり,計算機で対数正規乱数を発生させる必要がある.そ
こで,本研究では以下のようなボックス=ミュラー法を用いて乱数を発生させる.
乱数 r1 および r2 が互いに独立で,ともに区間 (0,1) で一様分布に従うものとする.正
規分布の平均を µ、標準偏差を σ とすると、
8
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x = σ − 2 log r1 cos 2π r2 + µ
(2-1)
y = σ − 2 log r1 cos 2π r2 + µ
(2-2)
という正規乱数が得られる.なお x と y は互いに相関はない.
対数正規分布は,確率変数の対数をとったとき,その分布が正規分布に従う性質を持
つ.よって対数正規乱数は,
X = exp(x)
Y = exp( y )
(2-3)
(2-4)
となる.
なお,対数正規分布の平均を m , 標準偏差を v とすると,
m=e
µ+
σ2
2
(2-5)
2
(
2
)
v = e 2 µ +σ eσ − 1
(2-6)
であり,
⎛
m2
⎞
⎟
2
2 ⎟
v
+
m
⎝
⎠
µ = ln⎜⎜
(2-7)
⎛ v 2
⎞
σ = ln⎜⎜ 2 +1⎟⎟
⎝ m
⎠
(2-8)
となる.
図 2-1 は,ボックス=ミュラー法によって得られた乱数のヒストグラムである.図の
曲線は磁性微粒子サイズ a の対数正規分布の確立度密度関数であり,(2-9)式で表される.
f (a)=
" ( ln a ! µ )2 %
1
'
exp $$ !
2
'
2
!
2!" a
#
&
9
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(2-9)
図 2-1 磁性微粒子サイズ分布のヒストグラム
図からわかるようにボックス=ミュラー法によって対数正規乱数を発生できているこ
とがわかる.
2.2.2 磁性微粒子のエラー確率
1 ビットあたりのエラー確率である bER を計算するために, 磁性微粒子 1 個あたりの
エラー確率 P を求める必要がある.この確率 P は次のように与えられる 5).
P = 1 − exp(− f 0τ exp(− TSF ))
ここで,
(2-10)
f0は単位時間あたりに磁化の方向が反転しようとする試行回数であり本研究
では f0= 1011 s-1 とし, τ は保存期間, V は磁性微粒子の体積である.磁性微粒子サイズ
の平均を am ,その磁性微粒子の平均体積を Vm とすると, (2-10)式は次のようになる.
#
#
V &&
P = 1! exp %% ! f0! exp % !TSF " (((
Vm ''
$
$
⎛
⎛
a 2 ⎞ ⎞
= 1 − exp⎜ − f 0τ exp⎜⎜ − TSF × 2 ⎟⎟ ⎟
⎜
a m ⎠ ⎟⎠
⎝
⎝
(2-11)
ここで,TSF (Thermal stability factor)を統計的熱揺らぎ指標とし,TSF は基本的に媒体の
10
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異方性エネルギーKu,V や温度 T とは無関係な値である.(2-11)式を用いることにより
任意の微粒子サイズ a に対してのエラー確率を算出することが出来る.図 2-2 に微粒子
サイズ a に対するエラー確率 P を示す.各パラメータは図に明記したものを用いている.
微粒子サイズが小さくなるとエラー確率は 1 になり, 情報保存において不安定な微粒
子であることがいえる.
図 2-2 粒子サイズとエラー確率 P
2.2.3 ビットエラーレート
bER の計算方法について述べる.bER は1ビットを構成する磁性微粒子数 n も重要な
要素であり, ここでは図 2-3 のような1ビットあたりの磁性微粒子数 n が 4 個の場合
を考える.
図 2-3 n=4 におけるビットの概略図
11
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磁性微粒子 4 個がエラーを起こす確率をそれぞれ P1, P2, P3, P4 とする.4 個の微粒子の
うち 0 個の微粒子がエラーする確率は,
(1 − P1 )(1 − P2 )(1 − P3 )(1 − P4 )
(2-12)
となる.同様に 4 個のうち 1 個の微粒子がエラーする確率は,
P1 (1 − P2 )(1 − P3 )(1 − P4 )
P2 (1 − P1 )(1 − P3 )(1 − P4 )
P3 (1 − P1 )(1 − P2 )(1 − P4 )
P4 (1 − P1 )(1 − P2 )(1 − P3 )
(2-13)
(2-14)
(2-15)
(2-16)
4 個のうち 2 個の微粒子がエラーする確率は,
P1 P2 (1 − P3 )(1 − P4 )
P1 P3 (1 − P2 )(1 − P4 )
P1 P4 (1 − P2 )(1 − P3 )
P2 P3 (1 − P1 )(1 − P4 )
P2 P4 (1 − P1 )(1 − P3 )
P3 P4 (1 − P1 )(1 − P2 )
(2-17)
(2-18)
(2-19)
(2-20)
(2-21)
(2-22)
4 個のうち 3 個の微粒子がエラーする確率は,
P1 P2 P3 (1 − P4 )
P1 P2 P4 (1 − P3 )
P1 P3 P4 (1 − P2 )
P2 P3 P4 (1 − P1 )
(2-23)
(2-24)
(2-25)
(2-26)
4 個のうち 4 個がエラーする確率は,
P1 P2 P3 P4
(2-27)
(2-12)∼(2-27)は n = 4 で起こり得るすべての場合の確立であり,それぞれ排反であるた
め,その総和は 1 となる.
ここで,ビットに対するエラーの判定について述べる. 例として(2-18)と(2-19)の場
合を考える.(2-18)はエラー確率が P1, P3 の微粒子がエラーした場合であり,(2-19)は P1,
P4 の微粒子がエラーした場合である.微粒子サイズは P4 > P1> P3 であるとする.ビッ
トの情報を読み出す際に,それぞれの微粒子が持つ信号を統合してビット情報として読
み出す.その際,ビットに占めるエラーした微粒子の面積が大きいほど正しい情報を読
み出すことが出来ない.図(2-3)のような場合,(2-19)の時の方がエラーした微粒子の総
面積が大きく,正しい情報を読み出す可能性が低くなってしまうことが考えられる.こ
のように,ビットのエラーはエラーした微粒子の総面積に起因し,エラーの判定の基準
を面積に着目して決める必要があるため,次のようにした 6).
(エラーしていない微粒子の総面積)/ (平均サイズの微粒子の面積
n) < 0.35
この基準を満たしている場合をエラーとし, (2-12)∼(2-27)のすべての場合を判定して,
満たしている場合を足し合わせていき,その総和が bER として計算される.なお,判
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定の基準が 0.5 ではなく 0.35 の理由は信号処理技術によるエラーの訂正が行われている
ことを考慮している.
そして,正確な bER はある程度のビット数の bER を計算し,その平均をとることで
得られる.その計算ビット数を 105∼106 程度とすることで,本研究の目標の bER=10-3
という値を正確に計算することが出来る.
この bER は 1 ビットあたりの磁性微粒子数 n,磁性微粒子サイズの標準偏差 σD,
統計的熱揺らぎ指標 TSF,保存期間 τ の関数である.ゆえに,
bER = f (P(! , TSF), n, " D ) .
(2-28)
-3
bER = 10 とすることで,目標の bER を満たす必要な TSF が一義的に決まる.よって,
TSF = g (τ , n,σ D )
(2-29)
となり,TSF は τ,n,σD の関数となる.
2.3 計算結果
2.3.1 長期保存における統計的熱揺らぎ指標
図 2-4 は 10 年保存における bER = 10-3 となるときの必要な統計的熱揺らぎ指標 TSF10
と磁性微粒子サイズの標準偏差 σD の関係を,様々な 1 ビットあたりの磁性微粒子数 n
において示したものである.
図 2-4 からわかるように,σD が大きくなるとそれぞれの n に対する必要な TSF10 は増
加している.σD の増加はエラーを起こしやすい小さな微粒子の出現頻度を増やし,bER
を悪化させる.また,σD が大きくなるほど少ない n で必要な TSF10 は増加している.こ
れは,n が少ないと小さな磁性微粒子が bER に大きく影響を及ぼし, bER を悪化させ
るため,一定の bER を保つためにはより大きな TSF10 を必要とするからである. ゆえ
に,小さな TSF10 で一定の情報安定性を得るためには,ビットを構成する微粒子数を増
やし,ばらつきを減らすことが適しているが,記録密度の向上には n を減らすことが求
められているため,適切な n,σD を選択する必要がある.なおこの計算結果は 3 章の媒
体設計と緊密に関係する.
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図 2-4 各 n における TSF10 の σD 依存性
2.3.2 inter-grain exchange coupling
inter-grain exchange coupling とは,磁性微粒子間には微弱な交換結合が働いており,
その交換結合が熱揺らぎによる磁化反転を妨げる作用である.この作用が働いている場
合の bER に及ぼす影響を考える.図 2-5 に中心の微粒子に対する隣接微粒子が取り囲
んでいる概略図を示す.
図 2-5 磁性微粒子間の概略図
図における磁性微粒子は紙面方向に対して垂直に磁化されており,中心の微粒子と隣
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接微粒子との交換結合を考える.中心の微粒子と隣接微粒子の磁化が平行の場合は磁化
反転を妨ぎ,反平行の場合は磁化反転を促すように働く.ゆえに中心微粒子の交換結合
は周囲の 4 つの微粒子との結合関係によって決まる.そこで,同じ磁化方向の隣接微粒
子数から,逆の磁化方向の微粒子数を引いた値を z とする.同じ磁化方向で囲まれた場
合が最も安定となる配置である.
交換結合による実効的な磁界を Hex とすると,微粒子一辺にかかる Hex は,
J
Ms a
となり,中心微粒子にかかる Hex は,
H ex = z
J
M sa
(2-30)
となる.ここで,J は交換結合エネルギー,M s は磁化,a は微粒子サイズである.J は
成膜条件によりある程度制御可能であると考えられる.inter-grain exchange coupling
は熱揺らぎを妨げる効果であるため,この効果を考慮した熱揺らぎ指標は次のように示
される.
K uV ⎛ H ex
⎜1 +
k BT ⎜⎝
Hc
⎞
⎟⎟
⎠
2
(2-31)
よって,inter-grain exchange coupling は
⎛
zJ ⎞
⎜⎜1 +
⎟⎟
H
M
a
c
s ⎠
⎝
2
となる.これを考慮した磁性微粒子のエラー確立 P は,(2-11)より次のように示される.
2
2
⎛
⎛
⎞ ⎞
⎛
⎞
⎛
⎞
a
zJ
⎜
⎜
⎟⎟ ⎟ ⎟
P = 1 − exp − f 0τ exp − TSF × ⎜⎜ 2 ⎟⎟⎜⎜1 +
⎜
⎟
⎜
⎝ am ⎠⎝ H c M s a ⎠ ⎟⎠ ⎠
⎝
⎝
2
⎛
⎛
⎛ a
⎞ ⎞⎟ ⎞⎟
zJ
⎜
⎜
⎟⎟
= 1 − exp − f 0τ exp − TSF × ⎜⎜
+
⎜
⎜
⎟ ⎟
a
H
M
a
c
s m ⎠
⎝ m
⎝
⎠ ⎠
⎝
⎛
⎛
⎛ a
= 1 − exp⎜ − f 0τ exp⎜ − TSF × ⎜⎜
+
⎜
⎜
a
m
⎝
⎝
⎝
(
⎞
em − 1 ⎟⎟
⎠
)
2
⎞ ⎞
⎟ ⎟
⎟ ⎟
⎠ ⎠
(2-32)
ここで,em は平均微粒子サイズに対する inter-grain exchange coupling であり,
15
三重大学大学院 工学研究科
⎛
⎞
zJ
⎟⎟
em = ⎜⎜1 +
H
M
a
c
s m ⎠
⎝
2
(2-33)
となる.
図 2-6 に em = 1.0 と em = 1.2 における(2-33)のエラー確率 P の磁性微粒子サイズ依存性
を示す.P は e m − 1だけ左にシフトしている.inter-grain exchange coupling が働く
ことによりエラーを起こしやすい小さな微粒子のエラー確率を下げるため,小さな微粒
子ほど効果が大きいといえる.図 2-7 に n = 4,τ = 3.2×108 s のとき,bER =10-3 となる,
微粒子サイズの標準偏差 σD に対する必要な統計的熱揺らぎ指標 TSF10 を示す.em = 1.0
から em = 1.2 に上げると小さな微粒子のエラー確率が下がるため,ビット内の情報は安
定になり,必要な TSF10 は大きく下がる.また σD が大きくなるほど小さな微粒子が多く
出現するため inter-grain exchange coupling の効果はより有効に働く.そして,em = 1.0
のときに必要な TSF10 を単純に 1.2 で割った値よりも,em = 1.2 のときに必要な TSF10
の方が小さい.
図 2-6 微粒子サイズに対する各 em におけるエラー確率 P
16
三重大学大学院 工学研究科
図 2-7 σD に対する各 em における必要な TSF10
なお,媒体設計においても inter-grain exchange coupling を考慮した場合を考え,
この計算結果も使用する.
17
三重大学大学院 工学研究科
3. 媒体設計
3.1 序
HAMR 媒体の設計では,飽和磁化 Ms ,磁気異方性 Ku ,キュリー温度 Tc などの磁気
特性における様々なパラメータが複雑に関係しあっている.LLG 方程式を用いた従来
のマイクロマグネティックシミュレーションでは,計算量が膨大で多くの時間を要し,
これらのパラメータ間の関係性が分りにくい.
そこで本研究では,媒体の情報安定性に注目して,長期保存および書き込み時におけ
る統計的な熱揺らぎ指標と,書き込み時における記録位置に必要な媒体の熱揺らぎ指標
の関係性により,解析的に計算する.それらを基にして,媒体の磁気特性を決定し,媒
体設計を行う.この計算では,計算量を減少させパラメータ間の相互関係が理解しやす
い.
本章では,熱アシスト磁気記録(HAMR)における,シミュレーションモデルを提示し,
その際の磁気特性の計算方法や計算条件について述べた後に,媒体が HAMR として必
要な特性を満たすための条件を述べる.そして,記録時における様々なパラメータに対
して,本研究の目的である必要な異方性定数比 Ku/Kbulk を算出する.
計算結果では,必要な Ku を減らす際に,記録方式や媒体の膜構成,ビット内の磁性
微粒子といった様々なパラメータが媒体設計にどのように関係するかを検討する.
そして,11 のパラメータについて, Ku/Kbulk の低減にどのように影響しているかを分
類し,複数のパラメータを組み合わせることで,さらなる Ku/Kbulk の低減について検討
する.
3.2 計算方法
3.2.1 シミュレーションモデル
HAMR および SHAMR によって 4 Tbpsi の面記録密度で,グラニュラー媒体に記録す
ることを想定する.図 3-1 に書き込み位置付近の概略図を示す.ビット面積は,S = dB
dT = 140 nm2 とする.ここで dB はビットピッチ,dT はトラックピッチである.S を基
に面記録密度を算出すると 4.6 Tbpsi になるが,0.6 Tbpsi は誤り訂正符号として使用す
ることを想定するため,実際に記録を行う面記録密度は 4.0Tbpsi となる.図の赤および
青の領域は磁化が上向きか下向きに記録されている領域であり,グレーの領域は磁化の
向きが不鮮明な遷移領域を表している.この図は,i 番目のトラックを複数回書き換え
た後の状態を示している.複数回書き換えることによって,熱の影響がクロストラック
18
三重大学大学院 工学研究科
方向へと拡散されるため,遷移領域が隣接トラックの方向へと拡大している.
図 3-1 記録位置付近の記録概略図
HAMR において記録完了となるのは,記録されたビットの磁化の向きが冷却過程に
おいて初めて安定となる時であり,その時の温度を記録温度 Tw とする.レーザー光に
は近接場光を用いる.Tw で示す円は,近接場光によって加熱された Tw の等温線であり,
クロストラック方向における等温線の距離がヒートスポット径 dw である.Δx は Tw の位
置から直前に記録されたビットの中心までの距離であり,Δx = dB である.Δy は Tw から
隣接トラックのビット内にある最近接グレインの中心までの距離であり,Δy = dT – dw +
am/2 である.ここで am は磁性微粒子サイズの平均である.ビット面積 S は一定である
ため am は,ビット内における磁性微粒子数 n によって決まる.想定しているグラニュ
ラー媒体の磁性微粒子の形状は am
am
h の正四角柱と仮定し,グラニュラー媒体の非
磁性体の幅を Δ とすると,
am =
S
−Δ
n
(3-1)
となり,n が多くなるほど微粒子サイズの平均は小さくなる.なお,本研究では Δ は 1.0 nm とする.
HAMR では,レーザー光により記録位置を一時的に加熱して記録を行うが,その際
19
三重大学大学院 工学研究科
に,記録位置周辺の熱的安定性を考慮しなければならない.つまり書き込みの際に,記
録位置周辺は急速に冷却される必要がある.そのときに,記録位置の隣接トラックにお
ける情報を保持できる最高の温度を Tadj ,記録位置の 1 ビット前の位置における情報を
保持できる最高の温度を Trec とする.
図 3-2 は記録ヘッドの主磁極付近の概略図である.主磁極の大きさは 600 nm (ダウン
トラック方向)
300 nm(クロストラック方向)と仮定した.書き込みは,主磁極のトレー
リング側で行っている.Tw, Trec, Tadj の位置でのヘッド磁界を Hw として,周りの磁化
Ms(300K)からの浮遊磁界を考慮して,
H w = H w0 ×
M s (300 K )
1000emu/cm 3
(3-2)
とする.ここで Hw0 はヘッド磁界定数である.
書き換えの際,主磁極下において情報を保持できる最高の温度を Tadj’とする.HDD
は動作時に室温より高温になることを考慮して,周囲温度を Ta とする.つまり Tadj’=Ta
であり,Ta の温度まで主磁極下では情報が安定となる.HAMR では高い磁気異方性を
持つ材料を用いるため,加熱位置付近以外の磁化反転は起こりにくいが,主磁極下では
書き換えの度に主磁極からヘッド磁界が印加されるため,複数回にわたって磁界を印加
され続けると,主磁極下の磁性微粒子の磁化が反転してしまうことが考えられる.その
ため,主磁極下において情報を保持できる最高の磁界を Hadj とする.Hw は Hadj の漏れ
磁界のため,Hadj > Hw となる.
図 3-2 ヘッド主磁極の概略図
20
三重大学大学院 工学研究科
3.2.2 媒体熱揺らぎ指標
磁気記録媒体における情報安定性は一般的に熱揺らぎ指標 Kβ で議論される.それは
温度 T と磁界 H の関数であり,一般的に,
K (T )V
K β ± (T , H ) = u
k BT
となる.ここで,V = a
a
⎛
H ⎞
⎜⎜1 ±
⎟⎟
⎝ H c (T ) ⎠
2
(3-3)
h であり,h は磁性層の膜厚である.復号の
は,外部磁
界 H と磁性微粒子の磁化の向きによって決まり,それぞれの向きが平行なら+,反平
行なら‐となる.
HAMR では一時的に加熱を行うため,記録位置周辺においても,ある一定の熱揺ら
ぎ指標を満たす必要がある.まず,HAMR の長期安定性について考える.HDD が動作
時に高温になることを考慮して,周囲温度 Ta , 無磁界の場合の媒体熱揺らぎ指標を,
K β ± (Ta , H = 0) ≡ K β 0 (Ta ) とすると,
K β 0 (Ta ) =
K u (Ta )Vm
k BTa
(3-4)
となる.Vm は平均磁性微粒子体積であり,am
am
h である.
記録位置における媒体熱揺らぎ指標を考える.記録位置では,ヘッド磁界 Hw が印加
され,記録完了となる温度は Tw である.Hw によって磁性微粒子の磁化の向きを決定す
るため,必然的に Hw と Ms の向きは平行となる.よって記録位置の媒体熱揺らぎ指標
K βw (Tw , H w ) は,
K (T )V
K βw (Tw , H w ) = u w m
k BTw
⎛
H w ⎞
⎜⎜1 +
⎟⎟
⎝ H c (Tw ) ⎠
2
(3-5)
となる.
記録位置周辺の媒体熱揺らぎ指標を考える.ダウントラック方向に関して,記録時に
おいて 1 ビット前の情報も安定に保持されなければならない.1 ビット前の位置の微粒
子において,磁化 Ms が安定となる情報を保持できる最高の温度を Trec とした.つまり,
冷却過程において,1 ビット前の微粒子は温度 Trec の時初めて Ms の向きが安定となる.
このとき,微粒子には磁界 Hw が印加されている.よって記録位置の 1 ビット前の媒体
熱揺らぎ指標 K βrec (Trec , H w ) は,
21
三重大学大学院 工学研究科
K (T )V
K βrec (Trec , H w ) = u rec m
k BTrec
⎛
H w ⎞
⎜⎜1 −
⎟⎟
⎝ H c (Trec ) ⎠
2
(3-6)
となる.この位置では,Ms と Hw の向きは反平行の場合もあり,反平行の場合は M s の
向きが平行の時に比べ不安定となる.よって,反平行の場合を想定することで,平行の
場合でも Ms は必ず安定となるため,復号は‐とする.同様にクロストラック方向につ
いて考える.記録時における記録ビットの隣接トラックの磁性微粒子の磁化 M s が安定
となる最高の温度を Tadj とした.このとき,微粒子には磁界 Hw が印加されている.よ
って記録位置の 1 トラック隣の媒体熱揺らぎ指標 K βadj (Tadj , H w ) は,
⎞
K u (Tadj )Vm ⎛
⎜1 − H w ⎟
K βadj (Tadj , H w ) =
k BTadj ⎜⎝ H c (Tadj ) ⎟⎠
2
(3-7)
となる.ダウントラック方向と同様で,M s と Hw の向きは反平行として考える.
最後に主磁極下における媒体熱揺らぎ指標を考える.記録時における主磁極下の磁性
微粒子において,磁化 M s が安定となる最高の温度を Tadj’ (=Ta)とした.主磁極下では記
録時に,この温度においてヘッド磁界 Hadj にさらされることになる.この条件下におい
て,主磁極下の情報が保持されなければならないので,主磁極下の媒体熱揺らぎ指標
K βadj ' (Ta , H adj ) は,
K (T )V
K βadj ' (Ta , H adj ) = u a m
k BTa
H adj ⎞
⎛
⎜⎜1 −
⎟⎟
H
(
T
)
c
a
⎝
⎠
2
(3-8)
となる.記録位置周辺と同様に M s と Hw の向きは反平行として考える.
3.2.3 統計的熱揺らぎ指標
磁気記録における情報保持の本質的な指標にビットエラーレート(bER)がある.2 章
では bER の計算方法について述べ,一定の bER を満たす情報保存における必要な熱揺
らぎ指標を,様々な 1 ビットあたりのグレイン数 n やグレインサイズの標準偏差 σD に
対して算出した.ここで得られた熱揺らぎ指標は,媒体の磁気特性には関与せず,n や
σD に依存するため,統計的に計算された値となる.この統計的に計算された熱揺らぎ指
標を TSF (Thermal stability factor)とした.磁気記録において,情報を保持するためには
TSF は必ず満たされる必要があるため,HAMR 媒体においても TSF を考慮する必要が
ある.
bER は n, σD, TSF, 保存期間 τ の関数である. 2 章同様,bER は 10-3 を目標とするこ
22
三重大学大学院 工学研究科
とで,そのビットは保存期間の間,情報は安定すると見なせる.
bER = !!"# ( !, !! , TSF, !)=10-3
(3-9)
とすると,TSF は
TSF = ! !, !! , !
(3-10)
となり,満たすべき TSF は n, σD, τ の関数となる.HAMR や SHAMR では記録された情
報が,記録位置やその周辺において,一時的に熱の影響を受け,ヘッド磁界にさらされ
る.そのため,微粒子がヘッド磁界にさらされている間においても情報は保持されなけ
ればならない.そこで実際の記録を想定したときの,記録位置周辺での各保存期間にお
ける TSF を考える.
まず,媒体の長期保存について考える.長期保存とは記録されたビットが 10 年間情
報を安定に保持することを意味する.その際の,統計的熱揺らぎ指標を TSF10 とし,保
存期間 τ10= 3.2
108 s となる.
TSF!" = ! !, !! , !!" .
(3-11)
長期保存における媒体の熱揺らぎ指標が TSF10 を満たせば,10 年間情報を安全に保持す
ることができる.
記録時における記録位置のビットの情報安定性を考える.HDD 動作時の媒体の移動
速度は線速度 v とし,Δx の距離を通過する間ビットの情報が安定となったとき,記録
完了となる.つまり記録ビットにおける保存期間 τw は Δ x/v である.よって,記録位置
における記録時の統計的熱揺らぎ指標 TSFw は,
TSF! = !( !, !! , !! )
(3-12)
で決まる.記録完了したビット内の微粒子の熱揺らぎ指標が TSFw を満たす場合,安定
した記録が行われたといえる.
記録時における,書き込み位置のダウントラック方向に 1 ビットずれた位置での情報
安定性を考える.書き込み後の冷却過程において,このビットは,Tw の位置から Δx の
距離を通過する間,記録磁界にさらされ,その間情報が保持されなければならない.よ
って記録位置の 1 ビット前における情報を保持する必要がある期間 τrec は Δx/v である.
記録位置の 1 ビット前の位置での統計的熱揺らぎ指標 TSFrec は,
TSF!"# = !( !, !! , !!"# )
(3-13)
で決まる.
記録時における,記録位置の隣接トラックの情報安定性を考える.隣接トラックでは,
記録トラックを複数回書き換えた際にも,情報が保持される必要がある.つまり,Δx
の距離を複数回ヘッドが通過することを考慮して,記録時において,隣接トラックのビ
ットが情報を保持する必要がある期間 τadj は Δx/v
(書き換え回数)となる.記録位置の
隣接トラックにおける統計的熱揺らぎ指標 TSFadj は,
TSF!"# = !( !, !! , !!"# )
(3-14)
で決まる.書き換え回数について,HAMR では任意のトラックを書き換えることがで
23
三重大学大学院 工学研究科
きるため,複数回の書き換えを考慮し,その最大を 104 回と仮定する.SHAMR では
1 トラックを任意で書き換えることが出来ない.そのため書き換え回数は書き換えエラ
ーを考慮し,10 回と仮定する.
最後に,記録時における主磁極下での情報安定性を考える.主磁極下では広い範囲に
磁界が印加されており,一つのビットに注目すると,600 nm の間ヘッド磁界にさらさ
れ,それが複数のトラックに同時に印加されている.また,隣接トラックの時と同様に
複数回の書き換えに対しても情報が保持される必要がある.よって,主磁極下における
情報保持に必要な期間 τadj’は 600 nm/v
(書き換え回数)
(トラック数)となる.よって主
磁極下における統計的熱揺らぎ指標 TSFadj’は,
TSF!"# ′ = !( !, !! , !!"# ′)
(3-15)
で決まる.主磁極下におけるトラック数について,トラックピッチ dT によって決まり,
トラック数=300 nm/dT‐1 となる.また,SHAMR ではトラックを重ねて書き込むため,
重ねる領域のヘッド磁界による影響を考えない.よって HAMR に比べトラック数は半
分になると仮定する.
各パラメータにおける bER の計算から得られた統計的熱揺らぎ指標の結果を表 3-1
に示す.後に述べるが,本研究では媒体設計するにあたりビットのアスペクト比を変え
ているため,Δx は常に変動するが,シミュレーション結果の Δx は約 6.5 nm となって
おり,bER 計算ではこの値を用いることにした.また,平均微粒子サイズに対する
inter-grain exchange coupling em を考慮した場合の計算結果も記載している.
表 3-1 各パラメータにおける統計的熱揺らぎ指標
n
4
5
6
4
4
4
4
4
4
4
10% 10% 10% 15% 20%
10%
10%
10% 10% 10%
σ D
MR type HAMR HAMR HAMR HAMR HAMR SHAMR HAMR HAMR HAMR HAMR
Δx
6.5 nm 6.5 nm 6.5 nm 6.5 nm 6.5 nm 6.5 nm 7.5 nm 6.5 nm 6.5 nm 6.5 nm
v
10 m/s 10 m/s 10 m/s 10 m/s 10 m/s 10 m/s 10 m/s 20 m/s 10 m/s 10 m/s
em
1.0
1.0
1.0
1.0
1.0
1.0
1.0
1.0
1.1
1.2
TSF10
TSFw
TSFrec
TSFadj
TSFadj’
62.29
7.68
7.68
19.58
29.11
59.66
7.24
7.24
18.73
27.85
58.86
6.96
6.96
18.40
27.45
73.91
8.88
8.88
23.13
34.48
92.97
10.86
10.86
28.91
43.33
62.29
7.68
7.68
10.55
18.90
62.29
7.86
7.86
19.77
29.28
62.29
6.84
6.84
18.65
28.17
55.75
6.92
6.92
17.56
26.07
50.45
6.29
6.29
15.88
23.59
ここで,統計的熱揺らぎ指標の導入の経緯を述べる.従来は,ビットあたりの磁性微
粒子数が数十個と多く,媒体に必要な熱揺らぎ指標は約 60 以上あれば情報を長期的に
保存できるといわれていた. HAMR 媒体設計では記録時における短期的な熱揺らぎ指
24
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標も必要となる.以前はその短期的な熱揺らぎ指標を,保存期間の比例式を用いて近似
的に算出してきた.そこで,以前まで用いてきた記録時の記録位置における媒体熱揺ら
ぎ指標 Kβw’を次式で示す.
⎛
⎛
a 2 ⎞⎟ ⎞⎟
⎜
⎜
P
=
1
−
exp
−
f
τ
exp
−
TSF
×
τ ∝ exp(TSF10 ) , 10
10
2
⎜
⎜ 0 10
a m ⎟⎠ ⎟⎠
⎝
⎝
(3-16)
2
⎛
⎛
⎞ ⎞
a
⎜
τ w ∝ exp( K βw ' ) , Pw = 1 − exp⎜ − f 0τ w exp⎜⎜ − K βw '× 2 ⎟⎟ ⎟⎟
a m ⎠ ⎠
⎝
⎝
(3-17)
τ w exp( K βw ' )
=
τ 10 exp(TSF10 )
(3-18)
⎛ τ ⎞
K βw ' = TSF10 − ln⎜⎜ 10 ⎟⎟ = TSF10 − 40.6
⎝ τ w ⎠
(3-19)
ここで,τ10 および τw はそれぞれ(3-11)と(3-12)における期間と同じ値である.TSF10 およ
び Kβw’がともに bER=10-3 であるとすると,P10=Pw とすることで(3-18)が導出され,TSF10
を決めると(3-19)によって Kβw’が求まり,HAMR の媒体設計を行うことができる.記録
位置周辺における媒体熱揺らぎ指標も同様に算出してきた.しかし,磁性微粒子には,
ばらつきがあり厳密には P10=Pw とすることはできず,媒体設計にばらつきによる誤差
が生じることになる.そこで,短期に必要な媒体熱揺らぎ指標を上記で述べた統計的熱
揺らぎ指標と一致させることでこの誤差をなくすようにした.図 3-3 に以前算出した
Kβw’と記録位置における統計的熱揺らぎ指標 TSFw の微粒子サイズの標準偏差 σD 依存性
を示す.σD = 0%においては P10=Pw とすることが出来るので Kβw’=TSFw となる.しかし,
σD が増えるほどその誤差は大きくなっている.ばらつきが大きくなるほどエラー確率の
高い磁性微粒子は出現しやすい.TSFw における保存期間 τw は 0.65 ns と非常に短い期間
である.ばらつきがあってもその短期間であれば小さな微粒子であってもエラーするこ
とがないことが大いに考えられるが,以前の Kβw’は σD の増加で TSF10 と同様に上昇し
ている.これは保存期間の観点から起こりえないことであるため,σD が大きいほど誤差
が生じていることが考えられる.
以前の媒体設計方法と今回の方法の結果の違いを表 3-2 に示す.また,その際の媒体
の異方性磁界 Hk(=Hc)の温度依存性を図 3-4 に示す.以前のものと比べて,記録位置周
辺に必要な媒体熱揺らぎ指標は大きく下がっているため,媒体としては小さな熱揺らぎ
指標で安定することが出来る.このことから媒体に必要な磁気異方性 Ku を小さくする
ことができ,キュリー温度 Tc は低くなっている.そして図 3-4 での記録温度 Tw は 500K
であるが,依然と比べると小さい Hk で記録されている.このことからも,必要な Ku を
小さくすることができることがわかる.
25
三重大学大学院 工学研究科
また,記録位置周辺で情報を保持できる最高の温度も低くなるため,必要な媒体温
度勾配も小さくなり,媒体成立条件である(3-40)の条件に余裕が生まれる.その分
Ku/Kbulk を下げることができる.また,(3-39)の条件に関して,媒体に必要な Ku が小さく
て済むことから,KuVm/kBTa は律速に近い値まで小さくなっており,HAMR としては他
の磁気記録と比べて不利にはならないことがいえる.この結果は,以前の方法と比べて
σD を考慮しており,より厳密な結果であるといえる.
図 3-3 Kβw’と TSFw の σD 依存性による違い
図 3-4 媒体設計方法による Hk の違い
表 3-2 媒体設計方法の違いによる結果
Media design method
befor
a m (nm)
T c (K)
M s (300K) (emu/cm3)
after
4.92
531
654
4.92
508
616
K u (300K) (10 erg/cm )
H c (300K) = H k (300K) (kOe)
K uV m/kT (300K)
25
76
116
17
54
78
TSF10 = f (n , σ D)
(1) K uV m/kT (T a) >TSF10
∂T /∂x (y ) (K/nm)
(2),(3) ΔT /Δx (y ) (K/nm)
<∂T /∂x (y )
H w (kOe)
(4) H adj (kOe) > H w
K u/K bulk
62
96
6.9
62
64
6.9
6.9
6.9
10.5
27.0
0.86
9.9
16.7
0.66
d B (nm)
d T (nm)
d T/d B
7.4
18.9
2.55
6.57
21.3
3.25
6
3
3.2.4 媒体温度勾配
HAMR ではレーザー光によって局所的に加熱するため,記録位置周辺の磁性微粒子
26
三重大学大学院 工学研究科
の磁化が熱擾乱によって反転することを防ぐ必要がある.つまり,熱せられた磁性微粒
子は急速に冷却される必要がある.そこで HAMR 媒体が要求する温度勾配を考える.
ダウントラック方向における媒体が要求する温度勾配を考える.図 3-1 のシミュレー
ションモデルより,書き込み後の冷却過程において,Tw の位置から 1 ビット前の微粒
子は,温度 Trec で情報を保持できるものとした.つまり,Δx の距離で Tw から Trec まで
温度が低下すれば,情報を安全に保持することができる.よってダウントラック方向に
おける媒体が要求する最低の温度勾配 ΔT/Δx は,
ΔT Tw − Trec
=
Δx
Δx
(3-20)
となる.
クロストラック方向における媒体が要求する温度勾配を考える.図 3-1 のシミュレー
ションモデルより,書き込み後の冷却過程において,Tw の位置から隣接トラックの最
近接グレインは,温度 Tadj で情報を保持できるものとした.つまり,Δy の距離で Tw か
ら Tadj まで温度が低下すれば,情報を安全に保持することができる.よって,クロスト
ラック方向における媒体が要求する最低の温度勾配 ΔT/Δy は,
ΔT Tw − Tadj
=
Δy
Δy
(3-21)
となる.
3.2.5 熱伝導温度勾配 7)
必要な磁気異方性を求めるためには書き込み時の媒体の温度勾配が必要である.本研
究では,熱伝導シミュレーションによって計算された温度勾配を熱伝導温度勾配
∂T/∂x(y)として用いる.図 3-5 は,それぞれの記録温度 Tw における,ダウントラック方
向の熱伝導温度勾配∂T/∂x とクロストラック方向の熱伝導温度勾配∂T/∂y の磁性層膜厚 h
依存性である.膜厚を増加させると,∂T/∂x と∂T/∂y ともに小さくなっている.これは,
膜厚増加によって断熱的に働くためである.また各膜厚により∂T/∂x≒∂T/∂y となってい
る.
熱伝導温度勾配は Tw と Ta の関数である.
∂T
(Tw2 ) =
∂x
∂T
(Tw2 ) =
∂y
T − Ta
∂T
(Tw1 ) w2
∂x
Tw1 − Ta
T − Ta
∂T
(Tw1 ) w2
∂y
Tw1 − Ta
(3-22)
(3-23)
となる.ここで,∂T/ ∂x(Tw1) ((∂T/ ∂y(Tw1))と ∂T/ ∂x(Tw2) ((∂T/ ∂y(Tw2))は,それぞれ,例え
ば Tw1=500 K で Tw2 = 550 K または 600 K の時の熱伝導温度勾配である.つまり,Tw の
温度上昇の分,熱伝導温度勾配は大きくなる.しかし,Tw が上がると,表面最高温度
27
三重大学大学院 工学研究科
も上昇してしまい,表面潤滑剤の劣化につながってしまうため Tw の上昇は一概に良い
とは言えない.また,熱伝導温度勾配は膜構成や光スポット径などによっても変化して
くるのでその点について考慮した媒体設計も行う.
図 3-5 熱伝導温度勾配の膜厚と記録温度依存性
3.2.6 分子場近似 8)
HAMR 媒体としてフェロ磁性体のグラニュラー媒体を想定する.フェロ磁性体中の
原子磁気モーメント間には交換相互作用が働いているため,原子磁気モーメントはある
一定の方向に平行に整列している.このように,お互いが影響し合う原子一つ一つの磁
気特性を調べることは非常に困難である.そこで,本研究では,磁性体中の 1 個の原子
に着目し,その原子が周りの原子群から受ける交換相互作用を平均的な磁界と近似する,
分子場近似を用いる.
磁性微粒子の材料であるフェロ磁性体として,(TMxA1-x)Bz という組成の合金を想定
する.TM は Fe などの遷移金属( Transition Metals, TM), A は Pt などの非磁性金属である
とする.TM-A には非常に大きな結晶磁気異方性を持つ FePt を想定する.B は Cu など
の非磁性金属であり,TM-A の磁気特性を単純希釈するものと仮定する.TM, A, B の組
成はそれぞれ x(1-z), (1-x)(1-z), z で,単位は at.%である.
ある温度 T における TM のスピン角運動量 S の熱平均を〈 S 〉とすると,
28
三重大学大学院 工学研究科
⎛ gµ SH ⎞
⎟⎟
S = SBS ⎜⎜ B
⎝ k BT ⎠
H=
(3-24)
2 JZ ( g − 1) 2 S
(3-25)
gµ B
Z = 4(1 − z)
(3-26)
と近似できる.ここで Bs(α)は Brillouin 関数であり,
Bs (α ) =
2S + 1
⎛ 2S + 1 ⎞ 1
⎛ 1 ⎞
coth ⎜
α ⎟ −
coth ⎜ α ⎟
2S
⎝ 2S
⎠ 2S
⎝ 2S ⎠
(3-27)
である.ここで,g は TM 原子の g 係数,µB は Bohr 磁子,H は分子場,J は TM 原子の
交換積分,Z は TM 原子の最近接位置にある TM 原子数であり,合金は fct FePt 系とし
て仮定すると,Z は(3-26)式のようになる.なお,Fe の g 係数は g = 2 で計算した.
温度 T における磁化 Ms(T)は,
M s (T ) = Nµ B x(1 − z) g S
(3-28)
で求めることが出来る.ここで N は単位体積当たりの原子数で
N=
x (1 − z)VTM
1
+ (1 − x )(1 − z)VA + zVB
(3-29)
となり,VTM,VA,VB はそれぞれ TM,A,B 原子 1 個あたりの体積である.原子 1 個あたり
の体積はそれぞれの元素の原子量と密度から計算した.それぞれの原子 1 個あたりの体
積を表 3-3 に示す.
表 3-3 原子一個あたりの体積
Fe
Pt
Cu
Volume of atom [10-23cm3]
1.17
1.51
1.18
式の α について,α<<1 のとき,Bs(α)≈ (S+1)α/ 3S と近似してキュリー温度 Tc を求める
と,
2 JZ ( g − 1) 2 S ( S + 1)
Tc =
3k B
(3-30)
となる.
異方性エネルギーKu は飽和磁化 Ms の 2 乗に比例すると仮定した.単位体積あたりの
TM 原子数は Nx(1-z)個なので,温度 T における異方性エネルギーKu(T)は,
29
三重大学大学院 工学研究科
K u (T ) = Nx(1 − z)ZD S
2
(3-31)
となる.ここで,D は TM-TM の pair ordering による異方性係数である.
また,温度 T における保磁力 Hc(T)は,異方性磁界 Hk(T)と仮定し
H c (T ) = H k (T ) =
2K u (T )
M s (T )
(3-32)
とする.
3.3 異方性定数比 Ku/Kbulk
3.3.1
Ku/Kbulk 決定アルゴリズム
まず,本研究の目的である媒体に必要な磁気異方性 Ku を計算するためのアルゴリズ
ムを略式的に示す.詳しい計算方法や条件は後述に記載する.
(1) 始めに,媒体の磁気特性を計算する必要があるため分子場近似によって,分子
場近似パラメータを決定する.これは 3.3.2 で詳しく述べる.
(2) HAMR の媒体設計では,キュリー温度 Tc と磁気異方性 Ku の両方を指定する必要
がある.これらは記録位置の熱揺らぎ指標(Kβw,TSFw)により決定されるもので,FePtCu
の組成比を決めることにより,それぞれを満たすことができる.これは 3.3.3 で詳しく
述べる.
(3) (2)で媒体の組成比が決定されることにより,媒体の磁気特性が決まる.すると
記録位置の 1 ビット前の熱揺らぎ指標(Kβrec= TSFrec)を満たす情報保持最高温度 Trec, 記
録位置の 1 トラック隣の熱揺らぎ指標(Kβadj=TSFadj)を満たす情報保持最高温度 Tadj が決
定される.Trec,Tadj が求まることにより,熱伝導温度勾配はダウントラック,クロスト
ラックの各方向でほぼ等しいことから,ビットアスペクト比を最適化することで媒体温
度勾配 ΔT/Δx,ΔT/Δy が計算できる.これは 3.3.4 で詳しく述べる.
(4) (2)で媒体の磁気特性が決定されることにより,主磁極下の熱揺らぎ指標(Kβadj’,
TSFadj’)から主磁極下における情報を保持できる最大の磁界 Hadj が決定する.3.3.5 で詳
しく述べる.
(5) HAMR として成立するための条件を満たしているかを判断する.条件は 4 つあ
り,詳しくは 3.3.6 で述べる.
(6) (5)の条件を満たしている場合,Ku/Kbulk を小さくし再度(2)の組成決定を行い,
いずれかの条件が律速となるまで続ける.
(7) いずれかの条件が律速となった時,最低の Ku/Kbulk が決まる.
30
三重大学大学院 工学研究科
3.3.2 分子場近似パラメータの決定
媒体の磁気特性を計算するための分子場近似パラメータを算出する.そして本研究で
用いる分子場近似シミュレーションが実際の媒体の磁気特性を再現できるか確認する.
3.2.6 で述べたように,材料には(FexPt1-x)1-zCuZ を想定し,FePt は非常に大きな磁気異方
性を持つ L10 構造とする.x は x=0.5 とする.分子場近似パラメータは,3.2.5 で示した
スピン角運動量 S と交換積分 J, 異方性係数 D である.これらの算出方法についてま
ず述べる.z = 0 のとき,バルク FePt の特性になるように分子場近似パラメータを決定
する.飽和磁化 Ms とキュリー温度 Tc は S と J の関数となっているため, Tc = 770K に
おいて Ms (300K)=1000emu/cm3 となるように,S と J を算出する.次に,S と J と D の
関数である Ku を,Tc =770K において Ku(300K)=70Merg/cm3 となるように D を決定する.
表 3-4 はこの計算によって求められた S, J, D の数値である.
表 3-4 分子場近似パラメータ
S[-]
1.5
-14
J[erg]
1.06×10
D[erg]
2.25×10
-16
これら値を基に,FePtCu における Cu の組成 z を増加させた結果を図 3-6,3-7 に示す.
図 3-6 は温度 T=300K における Ms の Tc 依存性,図 3-7 は温度 T=300K における Ku の Tc
依存性を示している.この図における赤でプロットされている点は,FeNiPt の薄膜の実
験データであり 4),青のラインは本研究で用いた分子場近似シミュレーションの計算結
果である.実験データと計算データの傾きはほぼ等しいことから,本研究の計算方法は
実際の材料をうまく再現できているといえる.実験では FeNiPt を用いており,Ni を添
加していくわけだが,強磁性である Ni を添加することは磁気特性を計算する上で複雑
となるため,本研究では非磁性の Cu を用いることにより比較的簡単に計算することが
できる.よって本研究では FePtCu を用いて媒体設計を行っていく.
ここで図 3-7 について,実験データで示される値は,連続膜の値であり,グラニュラ
ー膜にするとさらに Ku は低くなることが考えられる.HAMR として高記録密度を実現
するためにはより大きな Ku が必要となるが,薄膜の Ku をバルクの Ku まで増大させる
ことは非常に困難である.z を変化させて,Ku を大きくすることは組成比を変えるだけ
なので容易であるが,HAMR では Ku とともに Tc も指定する必要があるため,実験デー
タの Ku のラインをバルクの値まで近づける必要がある.そのためには,膜の材料や構
成などを考慮して,本質的な Ku を増大させる必要があるが,膜の作製難易度は上昇し,
現状困難な状況である.そのため,本研究では媒体作製に必要な Ku の低減を試みるべ
31
三重大学大学院 工学研究科
く,その低減の指標に,バルク Ku に対する膜の Ku の本質的な比である,Ku/Kbulk という
パラメータを導入する.Ku/Kbulk が小さければ膜作製難易度は容易であり,Ku/Kbulk が小
さな媒体設計が必要となる.
図 3-6 飽和磁化のキュリー温度依存性
図 3-7 磁気異方性のキュリー温度依存性
3.3.3 媒体組成比の決定
HAMR 媒体設計において,キュリー温度 Tc を決める必要がある.Tc を決めることは,
媒体の Cu 組成比を決めることと同義であり,組成比決定条件をここで述べる.
本研究では,記録された情報が冷却過程において温度 Tw のとき記録完了となる.そ
32
三重大学大学院 工学研究科
のため Tw における媒体熱揺らぎ指標 Kβw が記録位置における統計的熱揺らぎ指標 TSFw
を満たすとき,必ず熱的に安定した記録を行うことが可能となる.よってこの条件を満
たすような Cu 組成比 z を指定する必要がある.(3-5)と(3-12)から,
K βw
K (T )V
= u w m
k BTw
2
⎛
H w ⎞
⎜⎜1 +
⎟⎟ = TSFw
⎝ H c (Tw ) ⎠
(3-33)
となるように,z を決定する.z が決定されると媒体の Tc も同時に決定され,磁化 Ms
や磁気異方性 Ku といった媒体の磁気特性を算出することが出来る.
3.3.4 媒体温度勾配の算出
HAMR では記録時において記録位置周辺の情報が保持される必要がある.そこで,
記録時における 1 ビット前の位置や 1 トラック隣の情報安定性を考える際に,分子場近
似シミュレーションで得られる媒体熱揺らぎ指標が,3.2.3 で述べた各位置での統計的
熱揺らぎ指標を満たす必要がある.よって記録位置から 1 ビット前の情報安定性を考え
ると,(3-6)と(3-13)を用いて,
K βrec
K (T )V
= u rec m
k BTrec
2
⎛
H w ⎞
⎜⎜1 −
⎟⎟ = TSFrec
⎝ H c (Trec ) ⎠
(3-34)
となるとき,記録時における 1 ビット前の情報は冷却過程位において安定したといえる.
TSFrec は bER の計算によって算出することができ,この等式を満たすように記録位置の
1 ビット前の情報保持最高温度 Trec を決定する.同様に,記録位置の 1 トラック隣の情
報安定性を考えると,(3-7)と(3-14)を用いて,
2
K βadj
⎞
K u (Tadj )Vm ⎛
⎜1 − H w ⎟ = TSFadj
=
k BTadj ⎜⎝ H c (Tadj ) ⎟⎠
(3-35)
となるとき,記録時における 1 トラック隣の情報は冷却過程において安定したといえる.
TSFadj も bER の計算によって得られるので,この等式を満たすように記録位置の 1 トラ
ックの情報保持最高温度 Tadj が決定する.
ここで,3.2.5 で述べた,熱伝導シミュレーションによって得られた熱伝導温度勾配
をみると,ダウントラック方向とクロストラック方向における温度勾配は,
∂T ∂x ≈ ∂T ∂y であることから,3.2.4 で述べた媒体温度勾配も ΔT Δx = ΔT Δy となる
ようにビットアスペクト比を調整する.よって,Δx と Δy は次のように求められる.
Tw − Trec Tw − Tadj
=
Δx
Δy
33
三重大学大学院 工学研究科
Tw − Trec Δx
dB
=
=
≡ C (C は定数である)
Tw − Tadj Δy d T -d w + a m / 2
dB =
− C (d w − a m 2) + C 2 (d w − a m 2) 2 + 4CS
2
, dT =
S
dB
(3-36)
Δx = d B , Δy = d T − d w + am / 2であり,媒体温度勾配は ΔT Δx = ΔT Δy となる.なお
媒体温度勾配は,記録位置周辺の情報を安定して保持するために必要な温度勾配である
ため,これは熱伝導温度勾配よりも小さい必要がある.
3.3.5 主磁極下におけるヘッド磁界
記録時には主磁極下にも強いヘッド磁界が印加されているため,媒体が主磁極下にお
いても情報を保持できるように媒体設計を行う必要がある.主磁極下における情報を保
持できる最大の磁界を Hadj とした.これを求めるために,主磁極下の情報安定性に着目
する.つまり,記録時の主磁極下における媒体熱揺らぎ指標(3-8)が統計熱揺らぎ指標
(3-15)を満たすことができれば,主磁極下の情報は安定して保つことができるといえる.
K (T )V
K βadj ' = u a m
k BTa
2
H adj ⎞
⎛
⎜⎜1 −
⎟⎟ = TSFadj '
⎝ H c (Ta ) ⎠
(3-37)
(3-37)を満たすときの Hadj が情報を保持できる最大の磁界である.TSFadj’は bER の計算
によって得られるため,Hadj は
K β 0 (Ta ) =
K u (Ta )Vm
k BTa
⎛
TSFadj ' ⎞
⎟
H adj = H c (Ta )⎜1 −
⎜
⎟
K
(
T
)
β0
a ⎠
⎝
(3-38)
を満たすヘッド磁界となる.主磁極下の磁界が Hadj を超えてしまうと主磁極下の情報保
持を保証することが出来ない.
3.3.6 媒体成立条件
これまで,記録時の情報安定性に注目して媒体設計に必要な要素を求めた.そして本
研究では,HAMR 媒体として安定した記録を行うために必要な条件を 4 つ設定する.
まず,情報の長期安定性について,bER から統計的に計算された統計的熱揺らぎ指標
TSF10 よりも(3-4)の媒体熱揺らぎ指標が大きい必要がある.
34
三重大学大学院 工学研究科
(1) K β 0 (Ta ) =
K u (Ta )Vm
≥ TSF10
k BTa
(3-39)
この条件を満たすことで,媒体の長期保存は保障されることになる.また,HAMR 以
外の磁気記録であるマイクロ波アシスト磁気記録(Micro Assisted Magnetic Recording :
MAMR)やシングル磁気記録(Singled magnetic Recording : SMR)でもこの条件は満たされ
る必要がある.
次に,温度勾配についての条件を示す.3.2.4 で得られる媒体温度勾配は, 3.2.5 で得ら
れた熱伝導温度勾配よりも低くなくてはならない.つまり,
(2)
ΔT ∂T
ΔT ∂T
,(3)
≤
≤
Δx ∂x
Δy ∂y
である必要がある.ただし,3.3.4 で述べたように,温度勾配は各方向ともに等しくし
たことから,
(2),(3)
ΔT ΔT ∂T ∂T
=
≤
=
Δx Δy ∂x ∂y
(3-40)
とまとめることができる.この条件が満たされることで,記録時における記録位置周辺
の情報保存を保証することができる.
最後に,主磁極下におけるヘッド磁界条件を示す.3.3.5 で述べたように,記録位置
におけるヘッド磁界 Hw は主磁極からでる磁界 Hadj の漏れ磁界で印加しているため,幾
何学的理由により,
(4) H adj ≥ H w
(3-41)
である必要がある.
以上の 4 つの条件を同時に満たすことができれば,HAMR 媒体として必要な特性を
備えているといえる.
3.3.7
Ku/Kbulk 決定フローチャート
ここで,本研究の目的である最低の異方性定数比 Ku/Kbulk を決めるフローチャートを
図 3-8 に示す.Ku/Kbulk を減らしていくことで各条件のマージンは小さくなり,いずれか
の条件が律速となるときにプログラムは終了し最低の Ku/Kbulk が決定する.ここで律速
とは,いずれかの条件が等式となる場合のことである.
35
三重大学大学院 工学研究科
図 3-8 Ku/Kbulk 決定の計算フローチャート
36
三重大学大学院 工学研究科
3.4 計算結果
3.4.1
標準パラメータ
HAMR 媒体設計では多くのパラメータが存在し,異方性定数比 Ku/Kbulk の各パラメー
タ依存性を検討することが本研究の目的である.ここではパラメータを変えていく際に
各パラメータの標準値となるものを表 3-5 にまとめる.
表 3-5 パラメータ標準値
Areal density (Tbpsi)
Magnetic Recording type
grain number per bit n (grain/bit)
Standard deviation of grain size σD(%)
Magnetic layer thickness h (nm)
Writing temperature T w (K)
Thermal conductivity K (W/(cmK)
Light-spot diameter d L(nm)
Heat-spot diameter d w(nm)
Linear velocity v (m/s)
Writing field H w0 (kOe)
inter-grain exchange coupling e m
4
HAMR
4
10
8
500
0.5
9
10
10
16
1.0
3.4.2 磁気記録タイプ
ここでは,HAMR にシングル磁気記録を組み合わせた SHAMR についての計算結果
について述べる.本研究では SHAMR にすることで記録密度を向上させるのではなく,
異方性定数比 Ku/Kbulk の低減に活用することを目的とする.図 3-9(a),(b)に SHAMR の記
録概略図を示す.(a)はヒートスポットサイズ dw = 10 nm のときであり,(b)は dw = 20 nm
の場合である.SHAMR では記録トラックを前のトラックに重ねていくことができるが,
その重ねる領域をどの程度にするか決める必要がある.そこで HAMR との比較を行う
ために,情報が記録されている磁化領域を HAMR と同等になるまで重ねると仮定した.
SHAMR におけるその実効的な磁化領域を dET とし,図(a),(b)ともに dET = 10 nm である.
37
三重大学大学院 工学研究科
図 3-9(a) dw=10nm における SHAMR の記録図
図 3-9(b) dw=20nm における SHAMR の記録図
HAMR から SHAMR にしたときの計算結果を表 3-6 に示す.SHAMR にすると,記録
トラックを複数回書き換えることがなくなるため,隣接トラックのヘッド磁界にさらさ
れる期間は大きく減少し,隣接トラックにおけるビットの情報は安定する.表 3-1 から
わかるように隣接トラックおよび主磁極下の統計的熱揺らぎ指標が大きく下がってい
る.このことにより,隣接トラックにおける情報保持最高温度 Tadj が高くなるため,媒
体温度勾配 ΔT/Δx(y)が HAMR と比べて減少する.また,SHAMR にすることでトラッ
クピッチが短くなることからビットアスペクト比である dT/dB は小さくなっている.ア
38
三重大学大学院 工学研究科
スペクト比が大きいと,ビット内の磁性微粒子の収まりが悪くなり,ビットの境界が不
鮮明になってしまうため読み取りづらくなってしまう.よって SHAMR によるアスペク
ト比の改善は再生エラーを減らすことに繋がる.
表 3-6 SHAMR 計算結果
SHAMR SHAMR
dw=10nm dw=20nm
4.92
4.92
4.92
508
508
508
616
616
616
MR type
HAMR
a m (nm)
T c (K)
M s (300K) (emu/cm3)
6
3
K u (300K) (10 erg/cm )
H c (300K) = H k (300K) (kOe)
K uV m/k BT (300K)
17
54
78
16
53
76
16
53
76
TSF10 = f (n , σ D)
(1) K uV m/k BT a ≥TSF10
∂T /∂x (y ) (K/nm)
(2),(3) ΔT /Δx (y ) (K/nm)
≤∂T /∂x (y )
H w (kOe)
(4) H adj (kOe) ≥H w
K u/K bulk
d B (nm)
d T (nm)
d T/d B
62
64
6.9
62
62
6.9
62
62
6.6
6.9
5.9
5.9
9.9
16.7
0.66
6.57
21.3
3.25
9.9
22.6
0.64
7.91
17.7
2.24
9.9
22.6
0.64
7.91
17.7
2.24
10
10
10
d ET(nm)
図 3-10 にそれぞれの熱伝導温度勾配∂T/∂x(y)に対する Ku/Kbulk を示す.∂T/∂x(y)を大き
くすることで Ku/Kbulk を減らすことができるが,ある∂T/∂x(y)でそれ以上 Ku/Kbulk を減ら
すことができていない.これは(1)の長期保存における条件が律速となっていることを
示している.そして,(1)が律速となっている∂T/∂x(y)より小さい∂T/∂x(y)においては(2),(3)
の温度勾配に関する条件が律速となる.プロットされた位置は,各パラメータで算出し
た最低の Ku/Kbulk を示す.SHAMR にすることで,ΔT/Δx(y)を小さくし(2),(3)の条件を緩
和することができるが,(1)の条件は変わらないため Ku/Kbulk はほとんど下げることがで
きない.また,dw が増加することで∂T/∂x(y)は下がってしまうが,律速条件には関与し
ていないため dw による Ku/Kbulk の違いはみられなかった.
図 3-11 に磁性層膜厚 h の中心における dw の違いによるクロストラック方向の温度プ
ロファイルを示す.dw による Ku/Kbulk の違いはみられなかったが,dw を大きくすること
で最高温度は高くなり,潤滑剤の劣化などにつながってしまう.また,dw を大きくする
と図 3-9(b)のように記録されている磁化領域の曲率半径が大きくなり読み取りづらくな
ってしまう欠点もある.
39
三重大学大学院 工学研究科
図 3-10
MRtype の Ku/Kbulk-∂T/∂x(y)
図 3-11 dw=10,20nm の温度プロファイル
3.4.3 1 ビットあたりの磁性微粒子数依存性
1 ビットあたりの磁性微粒子数 n 依存性の計算結果を表 3-7 に示す.また,図 3-12 に
各 n における∂T/∂x(y)に対する Ku/Kbulk を示す.
表 3-7
1 ビットあたりの磁性微粒子数 n 依存性
n (grain/bit)
a m (nm)
T c (K)
M s (300K) (emu/cm3)
4
4.92
508
616
5
4.29
510
620
6
3.83
512
624
K u (300K) (10 erg/cm )
H c (300K) = H k (300K) (kOe)
K uV m/k BT (300K)
17
54
78
21
66
73
25
81
72
TSF10 = f (n , σ D,τ )
(1) K uV m/k BT a ≥TSF10
∂T /∂x (y ) (K/nm)
(2),(3) ΔT /Δx (y ) (K/nm)
≤∂T /∂x (y )
H w (kOe)
(4) H adj (kOe) ≥H w
K u/K bulk
d B (nm)
d T (nm)
d T/d B
62
64
6.9
60
60
6.9
59
59
6.9
6.9
9.9
16.7
0.66
6.57
21.3
3.25
6.1
9.9
19.9
0.80
6.27
22.3
3.56
5.2
10.0
24.5
0.97
5.97
23.5
3.93
6
3
40
三重大学大学院 工学研究科
図 3-12 各 n の Ku/Kbulk-∂T/∂x(y)
n を減らすと 2 章で述べたように,TSF10 は大きくなってしまうが,(3-1)から磁性微粒
子の平均サイズが大きくなるため,平均磁性微粒子体積 Vm が大きくなる.Vm が大きく
なる分,KuVm/kBTa を大きくすることができるため,(1)の条件を緩和することができる.
n 依存性において(1)の条件が律速となっているため,この条件を緩和する n の減少は
Ku/Kbulk を大きく下げる.なお,n が減少すると情報を読み出す際の SN 比が悪化してし
まい,正確な情報を読み出すことができなくなる.そのため,現状のグラニュラー媒体
では 1 ビットあたり 4 個程度が限界といわれており,本研究では最低の n は 4 とした.
それゆえ,n の減少による Ku/Kbulk の低減はこれ以上見込めない.
3.4.4 磁性微粒子サイズの標準偏差依存性
磁性微粒子サイズの標準偏差 σD 依存性の計算結果を表 3-8 に示す.また,図 3-13 に
各 σD における∂T/∂x(y)に対する Ku/Kbulk を示す.
σD を減らすと第 2 章で述べたように,エラー確率の高い小さな磁性微粒子の出現を抑
えることができるためビットの情報安定性は高まり統計的熱揺らぎ指標 TSF10 は減少す
る. n 依存性とは違い σD による平均の微粒子サイズの大きさは変わらないため,TSF10
が下がった分,σD を減らすことで(1)の条件は緩和され Ku/Kbulk を減らすことができる.
ただし,磁性微粒子のばらつきを制御することは難しく,本研究では σD=10%を最低の
値としているため,σD の減少による Ku/Kbulk の低減はこれ以上望めない.
41
三重大学大学院 工学研究科
表 3-8 磁性微粒子サイズの標準偏差 σD 依存性
σ D (%)
a m (nm)
T c (K)
M s (300K) (emu/cm3)
10
4.92
508
616
15
4.92
510
619
20
4.92
512
622
K u (300K) (10 erg/cm )
H c (300K) = H k (300K) (kOe)
K uV m/k BT (300K)
17
54
78
19
63
90
24
78
114
TSF10 = f (n , σ D)
(1) K uV m/k BT a ≥TSF10
∂T /∂x (y ) (K/nm)
(2),(3) ΔT /Δx (y ) (K/nm)
≤∂T /∂x (y )
H w (kOe)
(4) H adj (kOe) ≥ H w
K u/K bulk
d B (nm)
d T (nm)
d T/d B
62
64
6.9
74
74
6.9
93
93
6.9
6.9
9.9
16.7
0.66
6.57
21.3
3.25
6.2
9.9
18.8
0.76
6.37
22.0
3.45
5.2
10.0
23.6
0.94
6.09
23.0
3.77
6
3
図 3-13 各 σD の Ku/Kbulk-∂T/∂x(y)
3.4.5 磁性層膜厚依存性
磁性層膜厚 h 依存性の計算結果を表 3-9 に示す.また,図 3-14 に各 h における∂T/∂x(y)
に対する Ku/Kbulk を示す.
磁性層膜厚 h を 6 nm から 8 nm に厚くすることは Ku/Kbulk を大きく下げることができ
るが,8 nm から 10 nm に厚くしても Ku/Kbulk を下げることはできなかった.h = 6 nm に
おいて,(1)の条件が律速となっている.h が薄いと磁子微粒子体積 Vm は小さく熱的安
定性を確保するために磁気異方性 Ku を大きくする必要があるため,Ku/Kbulk をあまり下
げることができない.そこで 6 nm から 8 nm にすることで Vm が約 1.3 倍に増加し(1)の
条件を緩和することができる.その分 Ku/Kbulk を下げることが可能となっている. し
42
三重大学大学院 工学研究科
かし,8 nm から 10 nm に厚くしても Ku/Kbulk はほとんど下げることができない.これは
(2),(3)の条件である温度勾配が律速となっているためである.膜厚を厚くすると Vm が
増大するため,熱的安定性が増し記録位置周辺において高い温度でも情報を保持するこ
とができる.よって ΔT/Δx(y)は膜厚増加によって減少する.しかし,膜厚を増加させる
と断熱的に働くため∂T/∂x(y)も減少してしまう.したがって膜厚を必要以上に厚くして
も Ku/Kbulk を下げることにはならない.
表 3-9 磁性層膜厚 h 依存性
h (nm) (RL)
6
8
10
4.92
511
622
4.92
508
616
4.92
505
611
K u (300K) (10 erg/cm )
H c (300K) = H k (300K) (kOe)
K uV m/k BT (300K)
22
70
76
17
54
78
16
53
95
TSF10 = f (n , σ D)
(1) K uV m/k BT a ≥TSF10
∂T /∂x (y ) (K/nm)
(2),(3) ΔT /Δx (y ) (K/nm)
≤∂T /∂x (y )(K/nm)
H w (kOe)
(4) H adj (kOe) ≥ H w
K u/K bulk
62
62
7.7
62
64
6.9
62
77
6.2
5.8
9.9
21.0
0.84
6.9
9.9
16.7
0.66
6.2
9.8
19.4
0.65
d B (nm)
d T (nm)
d T/d B
6.29
22.3
3.54
6.57
21.3
3.25
6.66
21.0
3.16
a m (nm)
T c (K)
M s (300K) (emu/cm3)
6
3
図 3-14 各 h の Ku/Kbulk-∂T/∂x(y)
43
三重大学大学院 工学研究科
3.4.6 記録温度 Tw 依存性
記録温度 Tw 依存性を表 3-10 に示す.Tw を高くすると大きく Ku/Kbulk を減らすことが
できることがわかる.これは,図 3-15∼17 によって説明できる.
表 3-10 記録温度 Tw 依存性
T w (K)
500
550
600
a m (nm)
T c (K)
M s (300K) (emu/cm3)
4.92
508
616
4.92
557
696
4.92
606
771
K u (300K) (10 erg/cm )
H c (300K) = H k (300K) (kOe)
K uV m/k BT (300K)
17
54
78
19
54
88
21
55
99
TSF10 = f (n , σ D)
(1) K uV m/k BT a ≥TSF10
∂T /∂x (y ) (K/nm)
(2),(3) ΔT /Δx (y ) (K/nm)
≤∂T /∂x (y )
H w (kOe)
(4) H adj (kOe) ≥ H w
K u/K bulk
62
64
6.9
62
74
9.0
62
84
11.0
6.9
9.9
16.7
0.66
9.0
11.1
19.5
0.58
11.0
12.3
22.0
0.52
d B (nm)
d T (nm)
d T/d B
6.57
21.3
3.25
6.71
20.9
3.11
6.81
20.6
3.02
6
3
図 3-15 Tc に対する 300K における Ku
図 3-16 Tw に対する(1)律速の Ku/Kbulk
図 3-15 はキュリー温度 Tc に対する様々な Ku/Kbulk の温度 300K における Ku を示して
いる.そしてこの図における赤のラインは(1)の条件が律速となるときの Tc に対する Ku
を示している.つまり Tc が大きい媒体ならば Ku/Kbulk が小さくても(1)の条件を満たすこ
とができる.図 3-16 は(1)の条件が律速となるときの Ku/Kbulk の Tw 依存性を示している.
44
三重大学大学院 工学研究科
Tw の上昇は Tc の高い媒体でも記録することを可能にする.図 3-15 より Tc が高ければ
Ku/Kbulk は低くても良いため,Ku/Kbulk は Tw に依存することがいえる.図 3-17 に各 Tw に
おける∂T/∂x(y) に対する Ku/Kbulk を示す.Tw 依存性において律速となるのは温度勾配に
関する (2),(3)の条件である.Tw の上昇は ΔT/Δx(y)が大きくなってしまうが,3.2.5 で述
べたように∂T/∂x(y)は(Tw2-Ta)/(Tw1-Ta)に比例するため,Tw が高いほど大きくなる.その
ため,Tw 上昇による ΔT/Δx(y)の増大よりも∂T/∂x(y)の増大が大きいため,Tw の上昇は
(2),(3)の条件を緩和する.そして同時に(1)の条件も緩和することができるため,Ku/Kbulk
を下げる際に有効に働く.
図 3-17 各 Tw の Ku/Kbulk-∂T/∂x(y)
しかし,Tw の上昇は膜表面の温度上昇も伴うため潤滑剤の劣化を引き起こしてしま
う.また,レーザーパワーの増大によってレーザー機構そのものが熱に耐えきれなくな
ることも考えられるため,Tw を高くし過ぎることは望ましくない.
3.4.7 熱伝導率依存性
熱伝導シミュレーションにおける,膜構成を図 3-18 に示す.また,各 K に対する温
度プロファイルを図 3-19 に示す.中間層 1 は MgO ベースであり,記録層におけるグラ
ニュラー薄膜の粒形制御のために作用する.ここで,K=0.5W/cmK と 0.04W/cmK はそ
れぞれバルクと膜の測定値である.ただし,膜の熱伝導率は必ずしもこの値ではなく成
膜方法によって変わる.中間層の K は大きいほど熱を膜垂直方向へと迅速に伝えるこ
とができるため,記録層の熱伝導勾配∂T/∂x(y)も大きくなる.図 3-19 からも K が大きい
ほど熱しやすく冷めやすいことがわかる.
45
三重大学大学院 工学研究科
図 3-18 膜構成
図 3-19 クロストラック方向における温度プロファイル
図 3-18 における中間層 1 の熱伝導率 K 依存性を表 3-11 に示す.また,図 3-20 に各
K における∂T/∂x(y) に対する Ku/Kbulk を示す.K が大きいと∂T/∂x(y)が大きく上昇し,
(2),(3)の条件を緩和することができるので,Ku/Kbulk を大きく下げることができる.しか
し,標準パラメータである K=0.5W/cmK はバルクの値であり,熱伝導率を中間層から向
上させることは難しいため,これ以上 K による Ku/Kbulk の低減は望めない.
46
三重大学大学院 工学研究科
表 3-11 中間層 1 の熱伝導率 K 依存性
K(IL1) (W/cmK)
0.5
0.04
4.92
508
616
4.92
507
615
K u (300K) (10 erg/cm )
H c (300K) = H k (300K) (kOe)
K uV m/k BT (300K)
17
54
78
20
66
94
TSF10 = f (n , σ D)
(1) K uV m/k BT a ≥TSF10
∂T /∂x (y ) (K/nm)
(2),(3) ΔT /Δx (y ) (K/nm)
≤∂T /∂x (y )
H w (kOe)
(4) H adj (kOe) ≥ H w
K u/K bulk
62
64
6.9
62
77
5.3
6.9
9.9
16.7
0.66
5.3
9.8
24.0
0.80
d B (nm)
d T (nm)
d T/d B
6.57
21.3
3.25
6.45
21.7
3.37
a m (nm)
T c (K)
M s (300K) (emu/cm3)
6
3
図 3-20 各 K の Ku/Kbulk-∂T/∂x(y)
3.4.8 光スポット径依存性
熱伝導シミュレーションにおける光スポット径 dL のビームプロファイルを図 3-21,
温度プロファイルを図 3-22 に示す.dL を仮に 7.5 nm まで絞ることができれば,熱の広
がりを抑えることができるため,∂T/∂x(y)を若干大きくすることができる.
熱伝導シミュレーションにおける光スポット径 dL 依存性を表 3-12 に示す.また,図
3-23 に各 dL における∂T/∂x(y) に対する Ku/Kbulk を示す.
dL を小さくすることは(2),(3)の条件を若干緩和するが,Ku/Kbulk を大きく下げるほど
の効果はなかった.また,dL を絞ることはナノメートルオーダーの微細な技術が要求さ
47
三重大学大学院 工学研究科
れるため難しい.
図 3-21
図 3-22
dL=9.0nm と 7.5nm におけるビームプロファイル
dL=9.0nm と 7.5nm における温度プロファイル
図 3-23 各 dL の Ku/Kbulk-∂T/∂x(y)
48
三重大学大学院 工学研究科
表 3-12 光スポット径 dL 依存性
d L(nm)
9
7.5
4.92
508
616
4.92
508
616
K u (300K) (10 erg/cm )
H c (300K) = H k (300K) (kOe)
K uV m/k BT (300K)
17
54
78
16
53
76
TSF10 = f (n , σ D)
(1) K uV m/k BT a ≥TSF10
∂T /∂x (y ) (K/nm)
(2),(3) ΔT /Δx (y ) (K/nm)
≤∂T /∂x (y )
H w (kOe)
(4) H adj (kOe) ≥ H w
K u/K bulk
62
64
6.9
62
62
7.4
6.9
9.9
16.7
0.66
7.1
9.9
15.9
0.64
d B (nm)
d T (nm)
d T/d B
6.57
21.3
3.25
6.58
21.3
3.23
a m (nm)
T c (K)
M s (300K) (emu/cm3)
6
3
3.4.9 ヒートスポット径依存性
図 3-1 におけるヒートスポット径 dw の温度プロファイルを図 3-24 に示す.dw を大き
くするとビームパワーの上昇により膜表面の最高温度が上昇してしまう.ただ,dw が変
化しても∂T/∂x(y)はほとんど変わらなかった.
dw 依存性を表 3-13 に示す.図 3-25 に各 dw における∂T/∂x(y) に対する Ku/Kbulk を示す.
図 3-24
各 dw における温度プロファイル
49
三重大学大学院 工学研究科
表 3-13 ヒートスポット径 dw 依存性
d w (nm)
8
10
12
4.92
508
616
4.92
508
616
4.92
508
616
K u (300K) (10 erg/cm )
H c (300K) = H k (300K) (kOe)
K uV m/k BT (300K)
16
53
76
17
54
78
17
56
81
TSF10 = f (n , σ D)
(1) K uV m/k BT a≥TSF10
∂T /∂x (y ) (K/nm)
(2),(3) ΔT /Δx (y ) (K/nm)
≤∂T /∂x (y )
H w (kOe)
(4) H adj (kOe) ≥ H w
K u/K bulk
62
62
6.8
62
64
6.9
62
66
6.9
6.7
9.9
15.9
0.64
6.9
9.9
16.7
0.66
6.9
9.9
18.0
0.68
d B (nm)
d T (nm)
d T/d B
6.97
20.1
2.88
6.57
21.3
3.25
6.18
22.6
3.66
a m (nm)
T c (K)
M s (300K) (emu/cm3)
6
図 3-25
3
各 dw の Ku/Kbulk-∂T/∂x(y)
dw を小さくすると,Δy = dT – dw + am/2 であるから Δy の値が大きくなる.その結果,
媒体温度勾配 ΔT/Δy を小さくすることができる.しかし,Ku/Kbulk を減らすには dw をさ
らに小さくしなければならず,現実的ではないためあまり効果的ではない.
3.4.10 線速度依存性
HDD における線速度 v 依存性を表 3-14 に示す.また,図 3-26 に各 v における∂T/∂x(y)
に対する Ku/Kbulk を示す.
3.2.3 における記録位置周辺の統計的熱揺らぎ指標 TSF は v が増加することで,各位
50
三重大学大学院 工学研究科
置における想定する保存期間 τ は減少し,安定的に働くためそれぞれの TSF は減少する.
このことにより,各位置で満たすべき媒体熱揺らぎ指標 Kβ も減少するため,HAMR 媒
体としては安定となる.これは,必要となる媒体温度勾配 ΔT/Δx(y)を減らすことにつな
がり(2),(3)の条件の緩和になるが,Ku/Kbulk の低減にはほとんど効果がなかった.
表 3-14 線速度 v 依存性
ν (m/s)
10
20
4.92
508
616
4.92
506
613
K u (300K) (10 erg/cm )
H c (300K) = H k (300K) (kOe)
K uV m/kT (300K)
17
54
78
16
53
76
TSF10 = f (n , σ D)
(1) K uV m/k BT a ≥TSF10
∂T /∂x (y ) (K/nm)
(2),(3) ΔT /Δx (y ) (K/nm)
≤∂T /∂x (y )
H w (kOe)
(4) H adj (kOe) ≥ H w
K u/K bulk
62
64
6.9
62
62
6.9
6.9
9.9
16.7
0.66
6.7
9.8
16.6
0.65
d B (nm)
d T (nm)
d T/d B
6.57
21.3
3.25
6.48
21.6
3.33
a m (nm)
T c (K)
M s (300K) (emu/cm3)
6
図 3-26
3
各 v の Ku/Kbulk-∂T/∂x(y)
3.4.11 ヘッド磁界定数依存性
(3-2)におけるヘッド磁界定数 Hw0 依存性を表 3-15 に示す.また,図 3-27 に各 Hw0 に
51
三重大学大学院 工学研究科
おける∂T/∂x(y) に対する Ku/Kbulk を示す.
Hw0 を減らすと,(3-2)より記録に必要なヘッド磁界 Hw が減少する.これは,(3-6),(3-7)
における Hw/Hc を小さくし,その結果 Kβrec,Kβadj の値は増加する.ただし Kβrec,Kβadj は
それぞれ TSFrec,TSFadj と等しいため Trec,Tadj はともに下がる.よって媒体温度勾配
ΔT/Δx(y)を減らすことができ,(2),(3)の条件を緩和できる.しかし,(1)の条件が律速と
なってしまっているため,あまり Ku/Kbulk を下げることができない.
表 3-15 ヘッド磁界定数 Hw0 依存性
H w0(kOe)
12
14
16
4.92
511
622
4.92
509
619
4.92
508
616
K u (300K) (10 erg/cm )
H c (300K) = H k (300K) (kOe)
K uV m/k BT (300K)
16
52
76
16
53
76
17
54
78
TSF10 = f (n , σ D)
(1) K uV m/k B T a ≥TSF10
∂T /∂x (y ) (K/nm)
(2),(3) ΔT /Δx (y ) (K/nm)
≤∂T /∂x (y )
H w (kOe)
(4) H adj (kOe) ≥H w
K u/K bulk
62
62
6.9
62
62
6.9
62
64
6.9
5.8
7.5
15.8
0.63
6.5
8.7
15.8
0.64
6.9
9.9
16.7
0.66
d B (nm)
d T (nm)
d T/d B
6.29
22.3
3.54
6.45
21.7
3.36
6.57
21.3
3.25
a m (nm)
T c (K)
M s (300K) (emu/cm3)
6
図 3-27
3
各 Hw0 の Ku/Kbulk-∂T/∂x(y)
52
三重大学大学院 工学研究科
3.4.12 inter-grain exchange coupling 依存性
2.3.3 で述べた磁性微粒子間に微弱な交換結合が作用している場合を考える.その際,
媒体設計における inter-grain exchange coupling em 依存性を表 3-16 に示す.また,図 3-28
に各 em における∂T/∂x(y) に対する Ku/Kbulk を示す.
ここで,J は交換結合エネルギーである.図 2-5 において,ビット内の磁性微粒子は
同方向に磁化されている場合が多いことを考え,z は 4 と仮定する.bER の観点から em
を考慮すると ,長期保存における統計的熱揺らぎ指標 TSF10 を大きく減少させ(1)の条
件を緩和する.また,記録位置周辺の統計的熱揺らぎ指標も小さくなる.そのことによ
り記録位置周辺の媒体熱揺らぎ指標も小さくなるため,記録位置の 1 ビット前の情報保
持最高温度 Trec,1 トラック隣の情報保持最高温度 Tadj が高くなり,媒体温度勾配は小さ
くなる.そのため(2),(3)の条件も少し緩和する.Ku/Kbulk を下げる際に(1)の条件を大きく
緩和できているが,(2),(3)の条件が律速となってしまっているため,この条件の改善で
さらに Ku/Kbulk を下げることが考えられる.
表 3-16 inter-grain exchange coupling em 依存性
em
1.0
a m (nm)
T c (K)
M s (300K) (emu/cm3)
1.1
1.2
4.92
508
616
4.92
506
614
4.92
505
612
K u (300K) (10 erg/cm )
H c (300K) = H k (300K) (kOe)
K uV m/k BT (300K)
17
54
78
16
52
74
15
50
71
TSF10 = f (n , σ D)
(1) K uV m/k BT a≥TSF10
∂T /∂x (y ) (K/nm)
(2),(3) ΔT /Δx (y ) (K/nm)
≤∂T /∂x (y )
H w (kOe)
(4) H adj (kOe) ≥ H w
62
64
6.9
56
61
6.9
50
58
6.9
6.9
9.9
16.7
6.9
9.8
16.9
6.9
9.8
17.0
K u/K bulk
d B (nm)
d T (nm)
d T/d B
0.66
6.57
21.3
3.25
0.63
6.64
21.1
3.18
0.61
6.71
20.9
3.11
0.00
0.76
1.43
0.00
0.19
0.36
6
2
zJ (erg/cm )
2
J (erg/cm ) [z =4]
3
53
三重大学大学院 工学研究科
図 3-28
各 em の Ku/Kbulk-∂T/∂x(y)
3.5 パラメータに対する Ku/Kbulk 低減の検討
3.5.1 パラメータの分類
これまで最低の Ku/Kbulk を算出するにあたり,律速となる媒体成立条件は長期保存に
おける条件(1)である (3-39),または温度勾配における条件(2),(3)である(3-40)であった.
これらの条件を緩和することが Ku/Kbulk の低減につながる.そこで,これらの条件を緩
和する要因を考える.
まず条件(1)を緩和するには,(3-39)の左辺である長期保存の媒体熱揺らぎ指標を大き
くする,または右辺の統計的熱揺らぎ指標 TSF10 を小さくすることが考えられる.媒体
熱揺らぎ指標を大きくするには,Ku(Ta)の増大,あるいは磁性微粒子体積 Vm の増大が考
えられる.Ku(Ta)を増大させるには,記録温度 Tw を高くすることである.また,Vm を
増大させるには,磁性層膜厚 h を厚くすること,1ビットあたりの磁性微粒子数 n を減
らすことであった.TSF10 を小さくするには,磁性微粒子の標準偏差 σD を小さくするこ
と,inter-grain exchange coupling em を増大することであった.これらが条件(1)を緩和す
る要因であり Ku/Kbulk の低減につながる.ここで,n と σD は標準パラメータである n = 4,
σD=10%が最良の値でありこれ以上改善することはできないため,さらなる Ku/Kbulk の低
減は見込めない.h と em の増大は,ともに条件(1)を緩和することができるが条件(2),(3)
を緩和することができず,これが律速となってしまっているため Ku/Kbulk をあまり減ら
すことはできなかった.
条件(2),(3)を緩和するには,(3-40)の左辺である媒体温度勾配 ΔT/Δx(y)を小さくする,
または右辺の熱伝導温度勾配∂T/∂x(y)を大きくすることが考えられる.ΔT/Δx(y)を小さく
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するには,磁気記録タイプを SHAMR にすること,h を厚くすることであった.ここで
h を厚くすることは ΔT/Δx(y)を小さくすることはできるが,∂T/∂x(y)も小さくなってしま
い,結果として条件(2),(3)の緩和にはつながらない.また,SHAMR にすることは条件
(2),(3)を緩和できるが,条件(1)を緩和することはできず,これが律速となってしまって
いるため Ku/Kbulk をあまり減らすことはできなかった.∂T/∂x(y)を大きくするには,中間
層の熱伝導率 K を大きくすること,Tw を高くすることであった.Tw を高くすることは
ΔT/Δx(y)を若干大きくしてしまうがそれ以上に∂T/∂x(y)を大きくできるため条件(2),(3)の
緩和につながる.K に関しては標準パラメータである K=0.5W/cmK がバルクの値であり
これ以上改善することが困難なため,さらなる Ku/Kbulk の低減は見込めない.
その他のこれまで計算したパラメータは条件(1),条件(2),(3)をほとんど緩和すること
ができず,Ku/Kbulk の低減は望めなかった.
よってすべてのパラメータを Ku/Kbulk の低減に関して分類すると,(ⅰ)効果はあるが標
準パラメータが最適の値でありこれ以上の低減は望めない,(ⅱ)効果はあるが別の要因
で効果が発揮できていないため,パラメータ単体では低減は望めない,(ⅲ)パラメータ
を変化させてもほとんど低減は望めないものに分類することができる.ここで(ⅱ)に関
するパラメータは,条件(1)を緩和できるが条件(2),(3)が律速となってしまっている h と
em であり,条件(2),(3)を緩和できるが条件(1)が律速となってしまっている SHAMR であ
る.なので,これらパラメータの利点を有効活用するために,それぞれの欠点を補える
ようにパラメータを同時に変化させることで,さらなる Ku/Kbulk の低減が期待できる.
そこで,単体でも効果があった Tw も考えて,複数のパラメータを組み合わせることで,
より効果的な Ku/Kbulk の低減の検討を行う.
3.5.2 磁性層膜厚と記録温度
磁性層膜厚 h と記録温度 Tw の組み合わせにおける,∂T/∂x(y)に対する Ku/Kbulk を図 3-29
に示す.
図 3-29 h と Tw の組み合わせ関係
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Tw =600K のとき,h=8nm での最低の Ku/Kbulk=0.52 であり,h=10nm での最低の
Ku/Kbulk=0.52 であった.Tw= 500K, 600K ともに律速となっているのは条件(2),(3)である.
h を厚くすることは条件(1)を緩和するため,双方の利点はかみ合わず,Tw が高いときに
膜厚を厚くしてもほとんど Ku/Kbulk を下げることはできない.
3.5.3 inter-grain exchange coupling と記録温度
inter-grain exchange coupling
em と記録温度 Tw の組み合わせにおける,∂T/∂x(y)に対す
る Ku/Kbulk を図 3-30 に示す.
図 3-30 em と Tw の組み合わせ関係
Tw =600K のとき,em=1.0 での最低の Ku/Kbulk=0.52 であり,em=1.2 での最低の Ku/Kbulk=
0.48 であった.Tw= 500K,600K ともに律速となっているのは条件(2),(3)である.em を増
大すると必要な TSF10 を減らすことから,条件(1)を大きく緩和することができるが,律
速となっているのは条件(2),(3)であるため,Tw が高いときでも em の効果を有効に活用で
きているとはいえない.
3.5.4 磁気記録タイプと記録温度
磁気記録タイプ SHAMR と記録温度 Tw の組み合わせにおける,∂T/∂x(y)に対する
Ku/Kbulk を図 3-31 に示す.
Tw =600K のとき,HAMR での最低の Ku/Kbulk=0.52 であり,SHAMR での最低の Ku/Kbulk=
0.47 であった.Tw =500K のとき,SHAMR にしても条件(2),(3)を緩和できるが,条件(1)
が律速なためほとんど Ku/Kbulk を減らすことはできなかった.そこで Tw =600K に高くす
ると,Tw の効果で大きく条件(1)が緩和され,SHAMR の効果をより有効に引き出すこと
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ができ,Tw が高い場合でも Ku/Kbulk を減らすことができる.よってこの組み合わせは,
双方の利点を最大限活用することができているといえる.
図 3-31 SHAMR と Tw の組み合わせ関係
3.5.5 磁気記録タイプ,磁性層膜厚と記録温度
記録温度 Tw= 500K,600K のときの,磁気記録タイプ SHAMR と磁性層膜厚 h の組み合
わせにおける,∂T/∂x(y)に対する Ku/Kbulk を図 3-32 に示す.
図 3-32 SHAMR と h と Tw の組み合わせ関係
Tw=500K のとき,HAMR から SHAMR にすること,または h を厚くすることは Ku/Kbulk
の低減にはつながらなかった. SHAMR では律速が条件(1)であるため,h を厚くする
ことで条件(1)を緩和すると,大きく Ku/Kbulk を減らすことができ,Ku/Kbulk=0.57 である.
h 依存性では条件(2),(3)が律速となっているため SHAMR の効果がより有効に働き,こ
れらの組み合わせは相性が良いといえる.
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しかし Tw=600K のときは,Tw の上昇が条件(1)を大きく緩和するため,SHAMR のと
き h を厚くしてもほとんど効果がなく,Ku/Kbulk=0.46 であった.これは,SHAMR のみ
のときとほとんど変わらない.そのため SHAMR と h の組み合わせは,Tw が低いとき
のみ効果がある.
3.5.6 磁気記録タイプ,inter-grain exchange coupling と記録温度
記録温度 Tw= 500K,600K のときの,磁気記録タイプ SHAMR と inter-grain exchange
coupling
em の組み合わせにおける,∂T/∂x(y)に対する Ku/Kbulk を図 3-33 に示す.
図 3-33 SHAMR と em と Tw の組み合わせ関係
Tw=500K のとき,HAMR から SHAMR にすること,または em を増大させることは
Ku/Kbulk の低減にはつながらなかった. SHAMR では律速が条件(1)であるため,em を増
大させることで条件(1)を緩和すると,大きく Ku/Kbulk を減らすことができ,Ku/Kbulk=0.54
である.em 依存性では条件(2),(3)が律速となっているため SHAMR の効果がより有効に
働き,これらの組み合わせは相性が良いといえる.
Tw=600K のときは,Tw の上昇が条件(1)を大きく緩和するため,SHAMR のとき em を
増大してもほとんど効果がなく,Ku/Kbulk=0.44 であった.h のときよりも少し Ku/Kbulk を
下げることができているのは,em の増大が条件(2),(3)を若干緩和することができるため
である.しかし,これは em の利点である条件(1)の緩和を活用できているわけではない.
そのため SHAMR と em の組み合わせは,Tw が低いときより効果的に働く.
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3.5.7 効果的な Ku/Kbulk 低減の検討
これまで,単体では効果が発揮できず Ku/Kbulk をあまり下げることができなかったパ
ラメータを,複数組み合わせることで有効にそれぞれのパラメータの利点を活用できる
よう検討した.その結果を図 3-34 にまとめる.
Tw が低いとき,それぞれ単体ではほとんど Ku/Kbulk を下げることができなかったが,
条件(1)を緩和する h と em それぞれと条件(2),(3)を緩和する SHAMR の組み合わせは,双
方の利点が上手く合致し Ku/Kbulk を大きく下げることができた.
Tw が高いとき,Tw 単体でも Ku/Kbulk を大きく下げることができ,そこに SHAMR を組
み合わせることが,最も効果的に働く.
図 3-34 パラメータを組み合わせた最低の Ku/Kbulk
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4. 総括
人々が扱う情報量は年々飛躍的に増加しており,情報ストレージ装置として HDD の
依存度は高く,高密度化が求められている.現状,熱揺らぎ問題により高密度化に歯止
めがかかっているが,その現状を打破すべく熱アシスト磁気記録(HAMR)やシングル磁
気記録(SMR)などの次世代を担う記録方法が日々研究されている.
HAMR は高い磁気異方性 Ku を持つ材料を用いることができる利点があるが,Ku の増
大化も頭打ちにあるため,できる限り小さな Ku の媒体を用いた設計が望まれている.
まず,媒体設計するにあたり,ある期間情報を保持するために必要な熱揺らぎ指標を
算出する必要がある.その熱揺らぎ指標を統計的熱揺らぎ指標(TSF)とした.情報安定
性の本質的な指標であるビットエラーレート(bER)の目標値を 10-3 とすることで,TSF
は 1 ビットあたりの磁性微粒子数 n,磁性微粒子サイズの標準偏差 σD,保存期間 τ の関
数となる.これから,TSF の各パラメータ依存性を検討した.n の減少は必要な TSF を
上昇させ,σD が大きくなるほどその傾向は大きくなる.Inter-grain exchange coupling em
が作用している場合の必要な TSF も算出した.これは,熱揺らぎによる磁化反転を妨
げる作用であり,小さな磁性微粒子ほど効果が大きい.単純に em が作用していない場
合の TSF を em の値で割った値よりも em が働いている場合の TSF の方が小さくなる.こ
れら,bER の計算結果を用いて,HAMR の媒体設計を検討した.
本研究では,できる限り小さい磁気異方性 Ku の媒体で高記録密度を達成することを
目的とし,その低減の指標として異方性定数比 Ku/Kbulk とした.この値が小さいほど媒
体作製難易度は容易である.この Ku/Kbulk を求めるために,記録位置周辺で必要な統計
的熱揺らぎ指標 TSF を bER の計算から算出し,媒体の熱揺らぎ指標 Kβ が TSF を満たす
ように媒体の磁気特性を決定した.以前は記録位置周辺の媒体熱揺らぎ指標を保存期間
の比例式によって導いたが,これを bER の計算によって算出することで,より厳密な
媒体設計を行えるようになったことがわかった.そして,その媒体が HAMR として必
要な特性を備えているかどうかを(1)情報の長期安定性,(2),(3)記録位置周辺の情報安定
性,(4)主磁極下の情報安定性により判断し,いずれかの条件が律速となるとき最低の
Ku/Kbulk が決定される.(2)の条件に関して,記録媒体の構成を考慮した熱伝導シミュレ
ーションによって得られた熱伝導温度勾配∂T/∂x(y)を用いている.この条件のもと,様々
なパラメータに関して検討した.
11 のパラメータを単体で変化させ Ku/Kbulk の低減に効果的であったのは,記録温度 Tw
の上昇のみであった.そして Ku/Kbulk の低減の要因を検討した結果,パラメータを三つ
に分類した.(ⅰ)低減に効果的であるが,現状最適でありこれ以上 Ku/Kbulk を下げること
ができないパラメータ.これは,n,σD,中間層の熱伝導率 K であった.(ⅱ) 低減に効
果的であるが,他の要因によってその効果が発揮できていないパラメータ.これは,
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三重大学大学院 工学研究科
SHAMR,磁性層膜厚 h,em であった.(ⅲ) 低減に効果的でないパラメータ.これは,
ヒートスポット径 dw,光スポット径 dL,線速度 v,ヘッド磁界定数 Hw0 であった.
そして Ku/Kbulk の低減に単体では効果がなかった,(ⅱ)に関するパラメータを組み合わ
せることでパラメータの利点を有効に活用し,Tw が低いときと高いときで,さらなる
Ku/Kbulk の低減を試みた.Tw が低いとき,h と SHAMR の組み合わせ,あるいは em と
SHAMR の組み合わせが有効であり,標準パラメータにおける最低の Ku/Kbulk から大き
く下げることができた.Tw が高いとき,Tw 単体でも Ku/Kbulk の低減に効果的であり,さ
らに SHAMR を組み合わせることが最も有効である.
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三重大学大学院 工学研究科
謝辞
本研究の遂行ならびに本論文の作成にあたり,終始懇切丁寧な御指導,御鞭撻を賜
った,三重大学工学部教授 工学博士 小林 正 先生に心から感謝致します.
本研究の遂行にあたり,数々の御指導と御教授を頂いた,三重大学工学部准教授 工学博士 藤原 裕司 先生に深く感謝致します.
日々の研究などで様々な面で御協力頂いた,三重大学技術専門職員 前田 浩二 氏
に深く感謝いたします.
そして,松原 美佳 氏,湯浅 優 氏をはじめ,共に研究に励んだナノエレクトロ
ニクス研究室の諸氏に深く感謝致します.
本研究の一部は情報ストレージ研究推進機構(SRC)の助成のもとに遂行されました.
ここに謝意を表します.
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三重大学大学院 工学研究科
参考文献
1) 根津 禎,”HDD は 1T ビット/(インチ)2 に瓦記録と熱アシスト磁気記録の導入も間
近,” NIKKEI ELECTRONICS,pp.6-7,2012.
2) 澤田 章弘,”熱アシスト磁気記録における熱的安定性を考慮した媒体特性の検討”,
修士論文,三重大学,2011.
3) SHINGI HASHIMOTO,” HGST が世界初の 10TB HDD を出荷開始。ヘリウム充填と瓦
記録で 3.5 インチを実現”, http://japanese.engadget.com/2014/09/10/hgst-10tb-hdd-3-5/,
(参照 2015-01-11).
4) J.-U. Thiele, K. R. Coffey, M. F. Toney, J. A. Hedstrom, and A. J. Kellock,”Temperature
dependent magnetic properties of highly chemically ordered Fe55-xNixPt45L10 films ”,J. Appl.
Phys., vol. 91, no. 10, May 2002.
5) Y. Isowaki, T. Kobayashi, and Y. Fujiwara, ” Anisotropy Constant Required for High Areal
Density Recording”, J. Magn. Soc. Jpn., 38, 1 (2014).
6) 布目 大策,”熱アシスト磁気記録における媒体の磁気異方性”, 修士論文,三重大学,
2014.
7) T. Kobayashi, Y. Isowaki, and Y.Fujiwara,” Anisotropy Constant Required for Thermally
Assisted Magnetic Recording”,J. Magn. Soc. Jpn.,39,8-14(2015)
8) 小林 正,”希土類-鉄族非結晶質合金薄膜およびその複合膜の磁性と磁気光学効果に
関する研究”,博士論文,名古屋大学,pp.57-63,1985.
9) 林 秀晃,”RE-TM 膜における磁壁移動速度と交換結合に関するシミュレーション”,
修士論文, 三重大学, pp6-9,2006
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三重大学大学院 工学研究科