地盤工学会基準(案)(JGS 2552-2015) 岩石の一軸引張り試験方法 Method for direct tension test on rocks Ver.20141212 1 適用範囲 この基準は,拘束圧を受けない状態で軸方向に引っ張られるときの岩石の強度・変形特性を求める 試験方法について規定する。岩石及び岩石質地盤材料に適用する。 注記 強度・変形特性とは,軸引張り過程の軸方向応力-軸ひずみ曲線,一軸引張り強さ,変 形係数をいう。 2 引用規格及び基準 次に掲げる基準は,この基準に引用されることによって,この基準の規定の一部を構成する。これ らの引用基準は,その最新版(追補を含む。)を適用する。 JGS 2110 パルス透過法による岩石の超音波速度測定法 JGS 2134 岩石の含水比試験方法 JGS 2132 岩石の密度試験方法 JGS 2521 岩石の一軸圧縮試験方法 JGS 2551 圧裂による岩石の引張り強さ試験方法 3 用語及び定義 この基準で用いる主な用語及び定義は,次による。 注記1 供試体の軸方向に引張り応力を作用させることを軸引張りと記す。引張り応力を正と する。 注記2 供試体の軸方向に作用する応力を軸方向応力と記し,軸方向応力が作用したときの軸 方向の変位及びひずみをそれぞれ軸変位,軸ひずみと記す。引張り応力が作用した時 の軸変位,軸ひずみを正とする。 注記3 供試体の円周方向の変位は周方向変位と記す。供試体の円周方向ないし半径方向のひ ずみは側方向ひずみと記す。 注記4 本基準では,軸方向応力-軸ひずみ曲線の勾配から求めた変形特性に関連する係数に ついては変形係数の名称で統一する。 注記5 「軸方向応力-軸ひずみ曲線」を,「軸応力-軸ひずみ曲線」または「応力-軸ひず み曲線」または「応力-ひずみ曲線」と略記することができる。 3.1 拘束圧を受けない状態 供試体の半径方向に応力を作用させない状態をいう。 3.2 岩石質地盤材料 岩石と同等の固結の程度を有する,改良された,あるいは人工的に造られた地盤材料をいう。 3.3 供試体 試験に使用する成形された岩石及び岩石質地盤材料をいう。 3.4 岩石の一軸引張り強さ 拘束圧を受けない状態で供試体の軸方向に作用する最大の引張り応力をいい,その時の軸ひずみを 破壊ひずみという。 1 4 試験器具 4.1 試験機の構成 試験機は引張り装置,荷重計,変位計またはひずみゲージから構成され,次に示す条件を満たすも のとする。 注記 試験機の構成図を図1に示す。図1(a)は自在継手を用いず,変位計を用いて計測する 装置の例であり,図1(b)は自在継手を用い,ひずみゲージを用いて計測する装置の例 である。荷重計,キャップ,供試体,ペデスタル,自在継手及び引張り装置のそれぞれ の中心軸が,同一直線上に設置可能であること。 荷重計 荷重計 自在継手 キャップ キャップ 供試体 供試体 変位計 ペデスタル ひずみ ゲージ ペデスタル 自在継手 引張り装置 引張り装置 (a)自在継手を用いず,変位計 を用いて計測する例 (b)自在継手を用い,ひずみゲージ を用いて計測する例 図1-試験機の例 a)供試体の最大軸引張り力に対し,十分な負荷能力を有すること。 b)軸ひずみまたは軸方向応力を連続して一定速度で与え得ること。 c)軸引張り力を供試体の最大軸引張り力まで,その±1%の許容差で測定できること。 d)軸変位あるいは軸ひずみを,対象とする岩石に応じて十分な精度で測定できること。 注記1 軸変位は,読取りの最小単位が1/1000mm程度まで測定できることとする。軸ひずみ は、読取りの最小単位が1×10-6程度まで測定できることとする。 注記2 周方向変位や側方向ひずみを測定する場合には,軸変位あるいは軸ひずみと同等の 精度で測定できることを原則とする。 注記3 周方向変位や側方向ひずみを測定する装置として,ひずみゲージ,非接触式・リン グ式などの変位計を用いる。 注記4 変形特性を求めることを主たる目的とする場合は,供試体の軸変位あるいは軸ひず みをひずみゲージや局所変位計などによる適切な方法を用いて供試体側面で測定す る。 注記5 自在継手には,球座,ユニバーサルジョイント,リングチェーン,ローラーチェー ン,ボールジョイント,ワイヤー等があり,曲げモーメントや偏心の影響を低減さ せ,引張り力のみを伝達させる効果がある。 注記6 キャップ,ペデスタルの直径は,供試体の直径と同じか,それより大きいことを原 2 則とする。供試体と接着する面については,平面の場合と凹状(供試体の端部をは め込む構造)になっている場合がある。 4.2 その他の器具 供試体の作製や設置などで使用する器具は,以下の要求にしたがったものを用いる。 a)供試体寸法測定器具 供試体の直径及び高さを0.05mm 以下まで読み取れるもの。 注記 供試体の直径の測定は,ノギスまたはマイクロメータを用いる。 b)はかり 0.01 g まではかることができるもの。 c)供試体作製器具 注記 供試体作製器具には,トリマー,直ナイフ,コアリング装置,マイターボックス,切 断機,研磨機などを用いる。 5 供試体の作製と測定 5.1 供試体の形状及び寸法 供試体の形状及び寸法は,次による。 a)供試体の形状は直円柱を基本とする。 注記 本基準は,直四角柱,中空円筒,ドックボーン型の供試体にも準用できる。 b)供試体の直径は,5.0 cm を標準とする。 注記1 本基準は,直径2~10 cm の直円柱供試体にも準用できる。 注記2 粗粒結晶を持つ岩石や礫岩を対象とする場合には,供試体の直径は,構成粒子の最 大寸法の5倍以上が望ましい。 c)供試体の高さは,直径の1~2倍を標準とする。 注記1 供試体の高さは,直径の0.5~2.5倍を許容範囲とする。 注記2 粗粒結晶を持つ岩石や礫岩を対象とする場合には,供試体の高さは,構成粒子の最 大寸法の5倍以上が望ましい。 供試体の作製 5.2 供試体の作製については,次による。 注記1 軟岩試料では採取後,直ちに成形し試験を行うことが望ましいが,試験実施までに期 間を要する場合には,試料を傷つけたり,含水比を変化させたりするなど原位置での 性状を著しく変化させることのないようにしなければならない。 注記2 供試体の作製には,サンプリングなどで明らかに乱されていると判断される部分を取 り除いたものを用いる。 注記3 供試体の作製は,試料の含水比を変化させないように手際良く行い,また,試料に乱 れを与えないように十分注意しなければならない。 注記4 供試体の作製時に試料の方向(上下,ブロック試料にあっては方位)が不明にならな いように注意する。 注記5 試料は,原則として供試体の高さより余裕をもった大きさのものを用意する。 注記6 両端面は供試体の軸に直交するものとし,そのずれは0.001 ラジアン以内あるいは50 mm で0.05 mm 以内とする。また,供試体の両端面は,滑らかで凹凸がなく,その 平滑さは0.3mm以内とする。 注記7 軟岩試料では,両端面は供試体の軸に直交するものとし,そのずれは0.004 ラジアン 以内あるいは50 mm で0.2 mm 以内とする。 注記8 供試体の側面は,滑らかで凹凸部分がなく供試体全長にわたってまっすぐなものとし, 3 その平滑さは0.3 mm 以内とする。ドッグボーン型のくびれ部分および中空円筒の 中心孔の側面についても同等の平滑さにする。 a)供試体側面を成形しない場合 試験に用いるボーリングコアが,所定の供試体直径である場合には,供試体の端面を切断機に より切断し,端面の平滑さの程度に応じて研磨機にかける。 注記 端面整形を行うとき,水の影響を受け易い試料の場合には,試料にビニールフィルム を巻き少量の水か油を用いて切断機により端面を切断する。 b)トリミング法による場合 注記 試験に用いる試料が,試験時の供試体直径より大きいボーリングコアあるいはブロッ クで,水の影響を受け易い場合に適用する。 1)供試体側面を,所定の直径の円柱になるようにトリマー,直ナイフなどを用いて成形する。 2)供試体の端面を,マイターボックス,直ナイフなどを用いて整形する。 c)コアリング法による場合 注記 コアリング法は,試料が供試体直径より大きいボーリングコアあるいはブロックで, 水の影響を受けにくい場合に適用する。 1)試料ブロックから供試体を所定の直径になるようにコアリングする。 2)供試体の端面を切断機により切断し,端面の平滑程度に応じて研磨機にかける。 5.3 供試体の測定 供試体の測定については,次による。 a)供試体の直径を,供試体の中央付近及び両端付近において,直交する2方向を0.05mm 以下まで はかり,これらの平均値を供試体の初期直径D 0 (cm)とする。 b)供試体の高さを,3箇所以上において0.05mm 以下まではかり,これらの平均値を供試体の初期 高さH 0 (cm)とする。 c)供試体の質量m 0 (g)を,0.01 g 以下まではかる。 注記 目的に応じて,初期状態の供試体の湿潤密度ρ t0(g/c m3)及び乾燥密度ρ d0(g/c m3), 間隙比e 0 ,有効間隙率n e0(%),飽和度S r0(%),超音波速度Vp,Vs(m/s)を求め る。ρ t0(g/c m3),ρ d0(g/c m3),e 0 ,n e0(%),S r0(%)は次式により算定し,Vp, Vs(m/s)はJGS 2110 パルス透過法による岩石の超音波速度測定法により求める。 m m Vρ ρ t0 = 0 , ρ d 0 = s , e0 = 0 s − 1 , V0 V0 ms ne0 = ρ m − ms m0 w − ms × s × 100 × 100 S r 0 = 0 V0 ρ s − ms ρ w m0 w − mw , ここに, V 0 :供試体の初期体積(c m3) π 2 V0 = D0 H 0 4 ρ s :構成粒子の密度(g/c m3) ρ w :水の密度(g/c m3) m s :供試体の炉乾燥質量(g) m 0w : 供試体を72 時間以上水浸させた後の質量(g) m w : 供試体を72 時間以上水浸させた後の水中における見かけの質量(g) d)必要に応じて,供試体成形の際に削り取った岩片の中から代表的な試料を分取し,含水比を測 定して供試体の初期含水比w 0 (%)とする。 注記 試験後の供試体を用いて含水比を求める場合には,削り取った岩片の含水比の測定を 省いてもよい。 4 e)供試体の初期状態を観察し,記録する。 注記 成形した供試体について岩質及び層理,葉理,亀裂などの性状,風化や変質の程度な どの観察を行い,軸方向に対する層理,葉理,亀裂の角度を測定する。 6 試験方法 一軸引張り試験は,以下の手順で行う。 a)供試体の中心軸が引張り装置の載荷軸,荷重計,キャップ,ペデスタル,自在継手の中心軸に 一致するように,供試体を接着剤でキャップおよびペデスタルに接着し,引張り力を作用させるこ とができるように試験機に装着する。なお,キャップ,ペデスタルと引張り装置を分離できる構造 と分離できない構造の試験機がある。前者の場合,キャップ,ペデスタルと供試体を接着した後に, それらを引張り装置に固定する。後者の場合,試験機の所定の位置に供試体を直接接着する。 注記1 接着には,接着剤の内部および接着剤と供試体,キャップ,ペデスタルの境界面で の破壊を生じないような十分な強さを持つ接着剤を使用する。 注記2 接着剤の厚みを1.5mm以内とする。 注記3 接着剤が供試体側面にはみ出さないことを原則とするが,十分な接着力が得られな い場合には,端面から5mm程度以下であれば許容することとする。 注記4 荷重計,変位計またはひずみゲージを設置し,調整を行う。 注記5 軸合わせに特別な方法や道具を用いることができる。 b)軸ひずみ速度を一定にして連続的に軸引張り力を載荷する。軸ひずみ速度は,毎分0.01~0.1% を標準とする。ただし,軸ひずみ速度を一定に保つことが困難な場合には,この軸ひずみ速度に相 当する応力速度で供試体を軸方向に引っ張る。 注記1 一定の軸ひずみ速度あるいは軸方向応力速度で軸引張り速度の制御が行えない場合 には,1~15分程度で試験が終了する軸引張り速度を目安値とする。 注記2 軸引張り力は,衝撃を与えないように,滑らかに増加するように加える。 c)軸引張り力を載荷中は,軸引張り力P(kN)と軸変位量⊿H(cm)または軸ひずみε a,t (%)を はかる。 注記1 軸引張り力と軸変位量または軸ひずみ量を連続記録しない場合は,これらの測定間 隔は,軸方向応力-軸ひずみ曲線を滑らかに描くことのできる程度とする。 注記2 軸ひずみ量は供試体側面に貼付したひずみゲージにより計測する。 注記3 必要に応じて,周方向変位⊿l(cm)または側方向ひずみ⊿ε r,t をはかる。 d)引張り力を載荷中に軸引張り力が最大値を示した後,荷重が低下し一定となり,供試体が破断 したことを確認した後,引張り力の載荷を終了する。 e)引張り力の載荷終了後,試験機から供試体を取り外す前に供試体の破壊状況などを観察し,記 録する。 注記 引張り力の載荷終了後の供試体の破壊状況は,勾配が最も急に見える方向から観察を 行い,おおよその角度が読み取れる程度に記録する。また供試体の不均質状態や異物 の混入状況などを観察し,記録する。 f)試験機から供試体を取り外した後に,破断面が見える方向から観察を行い,記録する。その際, 供試体ではなく接着剤の内部または接着剤と供試体,キャップ,ペデスタルの境界部で破断してい る場合には,その旨を報告する。 注記 上記のような破断が生じている場合には,試験結果を岩石の引張り強さとみなすこと はできない。 7 試験結果の整理 7.1 試験前の供試体の状態 試験前の供試体断面積A 0 (c m2)を次式で算定する。 A 0 =(πD 0 2)/4 5 7.2 軸引張り過程 軸引張り過程の計算及び整理方法は,次による。 a)変位計を用いた場合には,供試体の軸ひずみε a,t (%)を次式で算定する。軸ひずみε a,t を直接 測定した場合には,その値を%に換算する。 ε a,t =(⊿H/H 0 )× 100 ここに, ⊿H:供試体の軸変位量(cm) 注記 周方向変位を測定した場合には,供試体の側方向ひずみε r,t (%)及びポアソン比ν t を次式で算定する。また,側方向ひずみε r,t(%)を直接測定した場合は,同式を用い てポアソン比ν t を算定する。 ε r,t =(⊿l/πD 0 )×100 ν t =-(⊿ε r,t /⊿ε a,t ) ここに, ⊿l:供試体の周方向変位量(cm) b)軸ひずみε a,t (%)のときの軸方向応力σ a,t (MN/ m2)を次式で算定する。 σ a,t = (P/A 0 )×10 ここに, P:軸ひずみε a,t (%)のときに供試体に加えられた軸引張り力(kN) c)軸方向応力σ a,t(MN/ m2)を縦軸に,軸ひずみε a,t(%)を横軸にとって,軸方向応力-軸ひずみ 曲線を図示する。 d)軸方向応力の最大値を軸方向応力-軸ひずみ曲線から求め一軸引張り強さq(MN/ m2)とする。 t 2 e)変形係数E t (MN/ m )を次式で算定する。 E t =⊿σ a,t /⊿ε a,t ここに,⊿ε a,t : 軸ひずみの増分 ⊿σ a,t :軸ひずみの増分に対応する軸方向応力の増分 注記 一軸引張り強さの50%における軸方向応力-軸ひずみ曲線の割線勾配あるいは接線 勾配を変形係数とすることを標準とする。割線勾配で求めた変形係数をE ts,50 ,接線勾 配で求めた変形係数をE tt,50 と表記する。 8 報告 試験結果について次の事項を報告する。 8.1 試料に関する事項 試料に関する事項については,次による。 a)採取地点:地点名,採取深度 b)岩石の種類 注記 例えば,砂岩,花崗岩,凝灰岩等を記す。 c)採取方法 8.2 供試体に関する事項 供試体に関する事項については,次による。 a)供試体作製方法 b)試験前の供試体の形状,寸法及び湿潤密度 注記1 必要に応じて,供試体の炉乾燥質量,初期状態の供試体の乾燥密度,間隙比,有効 間隙率,飽和度を報告する。 注記2 測定した場合には,供試体の超音波速度を報告する。 c)測定した場合は,初期含水比 d)試験前の供試体の観察結果 注記 供試体の軸に対する層理,葉理,亀裂などの傾斜角,岩質などの地質性状について報 告する。 8.3 試験方法に関する事項 6 a)自在継手の有無,有の場合はその構造 b)供試体の接着方法および接着剤 c)軸合わせに特別な方法や道具を用いた場合,その方法 8.4 試験結果に関する事項 試験結果に関する事項については,次による。 a)軸引張り時の軸ひずみ速度または軸方向応力速度 b)軸方向応力-軸ひずみ曲線 注記1 側方向ひずみを測定あるいは算定した場合は,必要に応じて,軸方向応力-側方ひ ずみ曲線を報告する。 注記2 必要に応じて,変形係数を算定した区間を表示する。 c)一軸引張り強さ及び破壊ひずみ d)変形係数 注記 割線勾配で求めた変形係数をE ts,50 ,あるいは,接線勾配で求めた変形係数をE tt,50 を 報告する。側方向ひずみを測定あるいは算定した場合は,必要に応じて,ポアソン比 を報告する。 e)供試体の破壊状況 注記1 試験前の供試体,引張り力の載荷終了後の供試体,破断面の写真及びスケッチ図を 報告するとともに,供試体の異方性などの特記事項を報告する。 注記2 境界部で破壊している場合にはその旨を報告する。 f)本基準と部分的に異なる方法を用いた場合は,その内容を報告する。 8.5 その他特記すべき事項 上述以外で特記すべき事項を報告する。 7
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