バイタル(生体)情報を用いる人の快適性とスマート空調

バイタル(生体)情報を用いる人の快適性とスマート空調
Key Words: skin temperature control, thermal environment human physiology model, local-heating,
vital data, smart air control
1.
. 緒言
低 炭 素 社 会 の 実 現 に 向 け ,ハ イ ブ リ ッ ド 車 ,
電 気 自 動 車 ( 以 下 EV) , 燃 料 電 池 車 な ど エ
ネルギー効率が高い自動車が注目されてい
る . こ れ ら の う ち , EV は 高 い エ ネ ル ギ ー 性
の 他 ,そ の 静 音 性 ,エ ネ ル ギ ー 源 が 多 様 で あ
るなどの特徴からその普及が望まれている.
こ の EV 普 及 の 課 題 と し て 航 続 距 離 ・ 車 両
価 格・充 電 ス ポ ッ ト 等 の 問 題 が 挙 げ ら れ る が ,
このうち航続距離の拡大は最も重要な課題
で あ る .特 に 冬 季 で は 、暖 房 の た め の 電 力 消
費が実走行時の航続距離の大きな低下を招
く .そ の た め EV な ど エ ネ ル ギ ー 効 率 に 優 れ
た 車 両 で は ,温 調 利 用 時 の 航 続 距 離 向 上 の た
め に ,効 率 的 な 温 調 技 術・方 法 が 必 要 と さ れ
ている.
本 研 究 で は EV の 冬 季 温 調 シ ス テ ム 使 用 時
の 消 費 電 力 を 低 減 し ,航 続 距 離 の 向 上 を 目 的
に ,局 所 加 熱 に よ る 車 両 空 間 内 の 設 計 に 関 し
て 検 討 し た .車 両 内 環 境 の 定 量 的 な 評 価 手 法
と し て は サ ー マ ル マ ネ キ ン を 用 い た 評 価 [1],
皮 膚 温 や SET*( 新 標 準 有 効 温 度 ) を 用 い た
評 価 が 試 み ら れ て い る [2]. 本 研 究 で は , 17
部 位 分 割 69 ノ ー ド の 人 体 温 熱 シ ミ ュ レ ー シ
ョンモデルを用いて皮膚温による評価を行
うことで快適空間設計に関して検討した.
人体の熱収支の観点から局所加熱により
人体に必要熱量を直接的に供給することで
少ない消費電力で快適な条件が設計可能と
考 え ら れ る .こ れ に 対 し て ,車 両 空 間 内 を 想
定した局所加熱シミュレーションによる平
均 皮 膚 温 度 の 変 化 を 評 価 し ,そ の 効 果 を 予 測
した.
さ ら に , EV の 冬 季 温 調 シ ス テ ム 使 用 時 の 電
力消費の低減と快適性の確保を目的に,パーソ
ナル温調の有効性を検討した.人体の定常時の
熱収支の観点から,局所加熱を利用して人体に
必要な熱量を直接的に供給することにより,少
ない消費電力で快適な条件が設計可能と考えら
れる.人体の構造では温度感覚に部位差がある
ことから温熱的な快適感にも部位差があると考
え,快適感が強く得られる部位を優先的に加熱
することで少ない消費電力で温調が可能なシス
テムの設計ができると予想した.
快適性の評価方法として生体反応を計測する
方法が多く用いられるが,本研究では脳波を用
いて快適感に対する局所加熱部位の影響を検討
した.
2.
. 人体の温熱生理モデルの作成
本 研 究 で 用 い た モ デ ル の 概 要 を Fig.1 に 示
す.本モデルは人体を頭,首,背中,骨盤,
肩 ,腕,手 ,大 腿 部 ,下 腿 部 ,足 に 分 割 し た .
肩,腕,手,大腿部,下腿部,足は左右 2 つ
ずつ考慮した.さらにそれぞれの部位を皮膚
層,コア層の 2 層に分け,各部位に動脈プー
ル,静脈プールを配置した.各動脈プールに
は中央血液プールから血液が振り分けられ,
さらに静脈プールを経由して中央血液プール
に戻るものとした.
本 研 究 で は 上 記 の よ う な 17 部 位 分 割 69 ノ
ードモデルを用いた.体温は血流,熱産生,
発汗,外部環境との伝導,対流,放射による
伝熱によって調節されている.産熱量は基礎
代謝,外部仕事による熱産生およびふるえ熱
産生を考慮した.伝導に関しては皮膚層とコ
ア層間および皮膚層と接触物体による伝熱を
考慮した.また,皮膚層と外部環境間の対流
伝熱,放射伝熱を考慮した.
血液プールの熱平衡式は,血流量の調節の
際 に ,冬 季 で の 予 測 が 可 能 と さ れ る Fiala ら の
式 を 用 い た . 他 の 調 節 機 構 に 関 し て は Fiala
らと比べて計算負荷の少ない田辺らの式を用
い た [3][4].以 上 の 考 慮 す る 点 を も と に 本 モ デ
ルで使用する数式を次に示す.
各部位構成要素の考え方
外部環境
clothing 対流
輻射
蒸発
Skin層
動脈pool
伝導
Core層
中央血液
pool
血流による熱輸送の考え方
は動脈
は静脈
背中
・・・ 大腿部
胸
頭
下腿部
中央血液
pool
足先
血流を各部位に中央血液poolから割り振る
Fig.1 使 用 す る 温 熱 生 理 モ デ ル の 概 要
コア層の熱平衡式
dT
Ccr cr = M cr + ρcVcr (Tar − Tcr ) − K (Tcr − Tsk )
dt
+ KV (Tar − Tcr ) + KV (Tve − Tcr ) − QRES
皮膚層の熱平衡式
dT
Csk sk = M sk + ρcVsk (Tar − Tsk ) + K (Tcr − Tsk )
dt
− Qt − E sk − Qmt
動脈血液プールの熱平衡式
nodes
Tar =
Tcb
hx +
∑ ρcV
r
+
r
nodes
∑ ρcV
r
hx +
nodes
∑ T ρcV
r
r
r
nodes
∑ ρcV (h
r
r
r
x
+
nodes
∑ ρcV )
r
r
静脈プールの熱平衡式
nodes
Tve =
∑ T ρcV
r
r
r
nodes
∑ ρcV
2. 測 定 開 始 か ら 15 分 後 , 環 境 温 を 0.267 ℃
/min で 上 昇 さ せ る .
3. 5 分 ご と の 皮 膚 温 度 を 測 定 ,平 均 皮 膚 温 度
を 以 下 の 式 よ り 算 出 し ,同 条 件 の 計 算 値 と
比較する.
平均皮膚温度算出式
Tsk .mean = 0.12Thead + 0.18Tchest + 0.16Tpelvis + 0.08Tarm
+ 0.04Thand + 0.18Tthigh + 0.11Tleg + 0.08T foot
Fig.2 に 平 均 皮 膚 温 度 の 実 測 値 と 計 算 値 を
示す.実測値と計算値ともに環境温を変化さ
せ 始 め た 15 分 以 降 緩 や か な 上 昇 が 見 ら れ た .
また,計算値と実験値の差はどの時間で比較
し て も 0.5℃ 以 内 に 収 ま っ た .
以上のことから,本モデルのシミュレーシ
ョンと実測値の平均皮膚温の変化傾向,およ
び値が概ね一致すると考えられる.
r
r
 nodes

 ∑ ρcVi .r

nodes
r

× ∑ ρcVi .r Ti .r 
∑i 
nodes

r
 hi . x + ∑ ρcVi .r


r

Tcb =
2
  nodes


  ∑ ρcVi .r  
elem.


∑i   r nodes  
 hi . x + ∑ ρcVi .r 


r


elem .
接触物体の熱平衡式
C mt
dTmt
= Q mt − H (Tmt − Ta )
dt
Qmt = K M (Tsk − Tmt )
3.
. 非定常での計算値と実験値の比較
本モデルで得られた非定常シミュレーショ
ン結果を,1名の被験者から得られた実測値
と比較した.
その際,ある一定の環境から環境温度を変
化させた際の皮膚温度の平均値で比較した.
計算と実験の条件を以下に示す.
実験および計算条件:
1. 環 境 温 15℃ ,風 速 0.1m/s,相 対 湿 度 50%,
着 衣 に よ る 熱 抵 抗 0.7clo で 長 時 間 放 置 し
た状態の平均皮膚温を初期の平均皮膚温
度とする.
4. 定 常 で の 計 算 値 と 実 験 値 の 比 較
次に温熱的に寒い条件で,実験値と計算値
のからだの各部位での定常時皮膚温を比較す
ることで本モデルの,各部位での皮膚温予測
の精度検証を行う.以下に実験および計算条
件を示す.
実験条件および計算条件:
1. 環 境 温 度 15℃ ,風 速 0.1m/s,相 対 湿 度 50%,
着 衣 に よ る 熱 抵 抗 0.7clo と す る .
2. 1 の 条 件 下 で 座 位 の 状 態 で 皮 膚 温 を 測 定
する.
3. 約 10 分 間 , 殆 ど 温 度 変 化 が 見 ら れ な く な
っ た 状 態 を 今 回 の 定 常 と し ,こ の と き の 測
定値と同条件での計算値を比較する.
32
℃]
mean skin temperature [[℃
中央血液溜まりの熱平衡式
実測値
計算値
31
30
29
28
0
5
10
15
20
25
30
35
40
45
time [min]
Fig.2 平 均 皮 膚 温 度 の 実 測 値 と 計 算 値
転 を 想 定 し 運 動 強 度 1.5met の 条 件 に 移 す .
3. 2 の 条 件 下 で 各 部 位 の 局 所 加 熱 を 行 い ,平
均皮膚温度の変化を算出する.
head
40
35
30
25
20
15
foot
chest
pelvis
leg
arm
thigh
hand
計算値
実験値
Fig.3 各 部 位 で の 皮 膚 温 度 の 比 較
Fig.3 に 測 定 し た 部 位 で の 実 験 値 と 計 算 値
を示す.全体的に良好な一致が確認された.
しかし手,下腿部においては計算値と実験値
に大きな差が見られた.シミュレーションで
は手および下腿部全体の平均としての温度を
計算することに対して,実験では手の甲の皮
膚温度といった一部のみ測定した.手の血管
の分布は手の甲より手のひらのほうが遥かに
多い.そのため手の甲より手のひらのほうが
体温としては大きな値をとると考えられる.
下腿部に関しても同様の理由から計算値と実
測値で大きな差が生じたと考えられる.しか
し , 他 の 各 部 位 お よ び 平 均 皮 膚 温 ( Fig.3 の
mean)で は ,計 算 値 と 実 験 値 で の 大 き な 差 は
見られず,本モデルは,定常値における各部
位での皮膚温予測に関して実験値と概ね一致
した.
5. 車 両 空 間 を 想 定 し た 温 度 調 節 方 法 の 検 討
冬場の車内空間を想定した条件で運転手に
関しての温調方法を検討した.人体の直接的
な加熱方法として、輻射熱と伝導伝熱による
局所的な加熱を検討した.また,各条件での
平均皮膚温を評価指標として用いた.
シミュレーションではある快適な環境下か
ら車内へ移る状況を想定した.以下に計算条
件を示す.
加熱部位として手先,足先,下腿部,大腿
部,骨盤,背中,肩を検討した.車内空間を
想定して足,下腿部は輻射による加熱とし,
大腿部,骨盤,背中,肩はシートからの伝導
伝熱による加熱を想定した.それぞれの加熱
温 度 は 45℃ で 一 定 と し た .伝 導 伝 熱 に よ る 加
熱は接触している部位のみ加熱されるため,
大 腿 部 ,骨 盤 ,背 中 の 接 触 面 積 を 50% ,肩 を
20%と し た .
各部位の局所加熱による平均皮膚温度のシ
ミ ュ レ ー シ ョ ン 結 果 を Fig.4 に 示 す . 図 中 の
sheet heating は 実 用 さ れ て い る シ ー ト ヒ ー テ
ィングを想定し,大腿部,骨盤,背中,肩の
加熱とした.
初 期 で は 環 境 温 が 20℃ か ら 5℃ に 低 下 す る
ことにより,各条件で温度低下が見られる.
加熱部位により効果は異なるが,加熱部位を
増やすにつれて加熱効果は大きくなる傾向が
ある.またシートヒーティングに比べてから
だの末端を加熱することで平均皮膚温度は大
きく上昇した.足先,下腿部,手先のみの加
熱 で 皮 膚 温 の 上 昇 効 果 は 最 大 と な り , 約 4℃
程度平均皮膚温度が上昇すると予測された.
Fig.5 に 足 先 ,下 腿 部 ,手 先 を 加 熱 し た 条 件
での定常時の各部位の皮膚温を示す.計算値
より,冬季条件ではからだの末端は皮膚温が
中 心 部 に 比 べ て 小 さ く な っ て い る .そ の た め ,
末端部を加熱することで入熱分が大きくなり,
皮膚温が大きく上昇したと考えられる.
33
mean skin temperature [℃
℃]
mean
32
31
no heating
30
sheet heating
29
foot
28
foot,leg
27
foot,leg,hand
26
計算条件:
1. 環 境 温 20℃ ,風 速 0.1m/s,相 対 湿 度 50%,
着 衣 に よ る 熱 抵 抗 1.3clo,運 動 強 度 1.0met
で定常の状態を初期条件とする.
2. 初 期 条 件 か ら 環 境 温 5℃ ,風 速 0.1m/s,相
対 湿 度 50%,着 衣 に よ る 熱 抵 抗 1.3clo,運
25
0
50
100
150
200
250
300
time [min]
Fig.4 局 所 加 熱 に よ る 平 均 皮 膚 温 度 の 変 化
head
mean
45
(a)
neck
35
foot
waves
chest
25
leg
original
brain
Digital
back
15
(b) α wave
thigh
pelvis
hand
Zero-crossio
ng method
shoulder
arm
(c) frequency
fluctuation
no heating
foot,leg,hand
Fig.5 局 所 加 熱 に よ る 各 部 位 の 温 度 変 化
また,足先,下腿部,手先の加熱では最終
的 に 31℃ 程 度 ま で 温 度 上 昇 が 予 測 さ れ た .こ
れは初期条件である快適条件での定常時の平
均皮膚温度と同程度である.このことから足
先,下腿部の輻射による加熱,手先の伝導伝
熱による局所的な加熱のみで有効な温調効果
が得られると予測される.
6. 快 適 感 の 評 価 方 法
6.1. 快 適 感 と 脳 波
快適に関係する感情は前頭葉で処理され,脳
の活動量を調べることで快適感を評価すること
が で き る 5) . 成 人 で は 安 静 閉 眼 時 や リ ラ ッ ク ス
時 に は 8~13 Hz の 基 礎 律 動 波 ( α 波 ) が 脳 波 の
中で最も優勢に観測されることが知られている.
α 波 は 10 Hz 近 傍 の 波 が 最 も 多 く 出 現 す る が ,
時間経過とともに周波数が常に変動している.
この α 波の周波数ゆらぎを高速フーリエ変換
( FFT) 法 に よ っ て ス ペ ク ト ル 解 析 し て そ の 特
性をみると,気分の良い安静時やリラックス時
に は 1/f ゆ ら ぎ に 近 い 周 波 数 特 性 が み ら れ る こ
と が 経 験 的 に 知 ら れ て い る 6) . 本 研 究 で は α 波
の周波数ゆらぎを用いて寒冷環境下での局所加
熱時の快適感を評価した.
6.2. 周 波 数 ゆ ら ぎ 特 性 の 算 出 方 法
周 波 数 ゆ ら ぎ 特 性 は 吉 田 7) の 方 法 を 参 考 に し
て 以 下 の 手 順 で 算 出 し た( Fig.6).計 測 さ れ た
原 脳 波 (a)を デ ジ タ ル フ ィ ル タ に か け , α 波 を 抽
出 す る (b).抽 出 さ れ た 波 形 に 対 し て ゼ ロ ク ロ ス
法を用いて一つ一つの波の周期の時間変化を算
出 し , そ の 逆 数 を 取 っ て 周 波 数 に 変 換 す る (c).
Fig.6
The calculation process of the frequency
fluctuation from the original brain waves
こ の α 波 の 周 波 数 ゆ ら ぎ に 対 し て FFT 法 を 用
いることで周波数のゆらぎスペクトルを算出す
る.ゆらぎ周波数を横軸に,パワースペクトル
を縦軸に両対数のグラフを作成し,低周波領域
の 傾 き の 大 き さ を 比 較 す る . 本 研 究 で は 2 Hz
以下の周波数を対象とし,傾きの絶対値をゆら
ぎ係数として評価の指標とした.係数が 1 に近
い ほ ど 周 波 数 ゆ ら ぎ は 1/f ゆ ら ぎ を 示 し , 快 適
であると言える.不快な条件ではゆらぎ係数は
小さくなりゼロに近づくことが知られている.
7. 温 熱 的 快 適 感 と α 波 の 周 波 数 ゆ ら ぎ 特 性
7.1. 環 境 温 度 の 変 化 と 快 適 感
温熱的な快適感と α 波の周波数ゆらぎ特性の
相 関 を 検 討 す る た め , 異 な る 環 境 温 度 ( 12℃ ・
26℃ ・ 34℃ )で の α 波 の 周 波 数 ゆ ら ぎ 特 性 を 評
価した.
脳 波 測 定 に は NeuroSky 社 製 の mind wave
mobile を 用 い て 感 情 処 理 で 最 も 重 要 な 部 位 と さ
れる前頭葉付近を測定した.脳波はサンプル周
期 を 1 ms, サ ン プ ル 時 間 を 5 min と し , 約 33 s
ごとの 9 区間に分割したデータに対して α 波周
波数のゆらぎスペクトルを算出した.ゆらぎス
ペクトルの安定化のために 9 区間分のデータを
加算平均し,そのスペクトルの傾きをゆらぎ係
数として算出した.
実 験 に よ る ゆ ら ぎ 係 数 の 算 出 結 果 を Fig.7 に
示 す . い ず れ の 条 件 で も 湿 度 は 60%で あ っ た .
0.40
0.40
0.35
0.30
0.38
loins
B
0.34
0.34
0.3 0.3
0.27
0.25
Fluctuation factors [-]
Fluctuation factors [-]
A
0.35
foot
0.30
steady state
hand
neck
0.20
Fig.7
Intermediate
conditions
(26℃)
0.25
Hot
conditions
(34℃)
The fluctuation factors for
environmental temperature
various
寒冷条件と暑熱条件では不快指数ではそれぞ
れ「寒い」「暑くてたまらない」という条件で
測定を行ったが,両被験者においてゆらぎ係数
はある程度の大きさを持つことを確認した.ま
たどちらの被験者でも中立な温度条件で最もゆ
らぎ係数が大きくなった.ゆらぎ係数の大きさ
を比較することで温熱的な快適感の評価が可能
であると言える.
7.2. 寒 冷 条 件 下 で の 局 所 加 熱 と 快 適 感
快適感に対する局所加熱部位の影響を評価す
る た め ,被 験 者 2 名 を 対 象 に ,寒 冷 条 件 下 (12℃ )
で異なる 4 部位(腰,足下,手先,首)を加熱
したときの脳波を測定した.局所加熱にはヒー
タ ー を 用 い て 約 45℃ に な る よ う に 調 節 し て 各
部位を接触加熱した.なお,本実験は本会が定
める「人を対象とする研究倫理ガイドライン」
に沿って実施された.
脳 波 は サ ン プ ル 周 期 を 1 ms,サ ン プ ル 時 間 を
10 min と し , 約 33 s ご と の 18 区 間 に 分 割 し た
データに対して α 波周波数のゆらぎスペクトル
を算出した.ある時間の前後 9 区間分のゆらぎ
スペクトルを加算平均して安定化させたものを
その時間のゆらぎ係数として算出した.
Fig.8 に 被 験 者 A の 結 果 を , Fig.9 に 被 験 者 B
の結果を示す.点線は同じ寒冷環境下で局所加
熱を行わなかったときの定常時のゆらぎ係数で
あ る . ま た , Table 1 に 全 18 区 間 の ゆ ら ぎ ス ペ
クトルを加算平均した時のゆらぎ係数を示す.
2
3
4
5
6
7
8
Elapsed time [min]
Fig.8
Time variation of the fluctuation factors for
human subject A.
0.40
loins
Fluctuation factors [-]
Cold
conditions
(12℃)
neck
0.35
hand
foot
steady state
0.30
0.25
2
3
4
5
6
7
8
Elapsed time [min]
Fig.9
Time variation of the fluctuation factors for
human subject B.
Right after starting heating in the simulated
environmental chamber.
Table 1
Averaged fluctuation coefficient
Human
loins
subjects
A
B
0.37
0.34
foot
hand
neck
0.33
0.33
0.32
0.32
0.27
0.33
どの部位においても加熱を行わなかった定常
状態と比較してゆらぎ係数の上昇がみられ,快
適感を得ることが確認された.
どちらの被験者でも特に腰で大きな快適感を
示した.体幹部や核心温の冷えによる内臓機能
の低下を防ぐ為に腰への加熱は快適感に強い影
響があると考えた.しかし,腰では快適感の応
答が早いが,時間が経過するにつれて快適感が
減少する傾向が見られた.腰は今回加熱した部
位の中で定常時での皮膚表面温度が最も高いと
考えられ,ヒーターとの温度差が少なく,すぐ
に慣れが生じたからと考えられる.
それとは逆に,足下や手先では始めは顕著な
快適感を得ることができないが,時間が経過す
るにつれて快適感が増加する傾向が見られた.
寒冷条件下では末梢部の表面皮膚温は低く,局
所加熱による温度上昇幅が大きいので,得られ
る快適感は大きいと考えられる.しかし,末梢
部が低温時では毛細血管が滞っているため血流
による熱の移動が少なく,加熱部位周辺への伝
熱に時間を必要とするので快適感の獲得に時間
が必要と考えられる.以上のことから足下や手
先などの末梢部の加熱は長期的な快適感を得る
のに適すると予想する.
首は快適感が大きく変動しており,局所加熱
が効果的であるとは一概に言えない.首は体温
調節で重要な頭部に近く,体幹部や脳内の核心
温などにも大きく影響されるのではないかと考
える.
本実験より腰または足下や手先の加熱を行うこ
とで強い快適感を獲得し,人体に対して効率の
よい加熱効果が得られると予想できる.
Nomenclature
C
=
specific heat capacity
[kJ・kg - 1 ・℃ -1 ]
ρ
=
density
[kg・m - 3 ]
E
=
evaporative heat loss
[W・℃ - 1 ]
H
=
effective thermal conductance
between contact object and
[W・℃ -1 ]
external temperature
K
=
effective thermal conductance
between core and skin
KM
=
effective thermal conductance
between skin and object
KV
=
core
M
=
amount of heat produced
Q mt
=
heat transfer to object from
skin
=
[W・℃ -1 ]
effective thermal conductance
between artery(vein) and
Q r es
[W・℃ -1 ]
heat loss by respiration
[W・℃ -1 ]
[W]
[W]
[W]
t
=
time
T
=
temperature
[℃]
V
=
blood flow
[L・h - 1 ]
ρc
=
ratio of density and volume in
blood
[h]
[kJ・L - 1 ・℃ - 1 ]
Subscript
a
=
air
ar
=
artery
cr
=
core
mt
=
contact object
sk
=
skin
ve
=
vein
cb
=
central blood pool
Refferences
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