無形資産の評価を学ぶ(5)

VAL-008
2012 年7月
Summary
~

(重点解説シリーズ) AICPA の Practice Aid を基に、無形資産の評価を学ぶ(5) ~
AICPA(米国公認会計士協会)の Practice Aids(実務指針)の中に、代表的な評価方法である「超過収益法
(Multi-period Excess Earnings Method)
」の説明があり、その日本語訳(試訳)をシリーズで呈示して
います。

当文献は2001 年に発行されたもので、既に改正された会計基準の内容などが含まれておりますが、そのま
ま訳しておりますことにご留意ください。

■
文中に「巻末添付資料 5-XX を参照」などとある場合、別途用意された資料を随時参照ください。
引き続き、超過収益法についての解説(セクション 5.3)を見ていきます。
【Step6:(評価対象の)仕掛中の研究開発活動とは無関係の影響を PFI から除外し、最終的な PFI とする】
■
取得した研究開発関連資産とは無関係の活動に帰属するキャッシュ・フローが、研究開発関連資産に帰属するキャッシ
ュ・フローから独立していないため、調整後 PFI から取り除くことができない場合は、貢献資産チャージを用いてそれら
の貢献分(税引後のキャッシュ・フロー)を取り除くことになります。
■
保守、コンサルティング、修繕、その他補助的な収入・支出(other ancillary revenues and costs)もまた、この段
階で PFI から除くことになります。補助的な収入・支出は、取得した研究開発関連資産から直接(directly)生じるキャ
ッシュ・フローを反映しているわけではないため、当研究開発関連資産の価値分析から除く必要があるというのが、タス
クフォースの見解です。それらは間接的な利益(an indirect benefit)なのです。
■
補助的な収入・支出を価値分析に含めるべきとの考え方もあるかもしれません。しかし、市場参加者が評価に用いる前提
条件を考慮に入れ、適切な費用・貢献資産チャージを課すことができれば、研究開発関連資産の価値に対する補助的な収
益の貢献度合いが高くなることはほとんどないものと思われます。
(ここまで 5.3.36)
■
仕掛中の研究開発が、無関係の活動と組み合わさっている例:

企業 A は、企業結合取引で企業 X を取得

取得日時点で、企業 X はソフトウェア製品の開発中であった

企業 A は、企業 X が開発中のソフトウェア製品(仕掛中の研究開発)と、外部から調達するコンピューター・ハ
ードウェア製品(研究開発とは無関係のもの)とを組み合わせたソリューション・サービスを販売していく予定で
ある

このソリューション・サービスは、単一価格で販売される予定で、企業 A は、開発中のソフトウェア製品にかかる
PFI から、ハードウェア製品の再販にかかる収入・支出を、信頼をもって取り除く(reliably remove)ことはでき
ないと結論付けた
⇒
ハードウェア再販事業用の資産(ネット運転資本、有形固定資産、無形資産など)の価値を見積もり、貢献資産チ
ャージを計算します。ソリューション・サービスの販売にかかる税引後のキャッシュ・フローに対し、ハードウェア
再販事業用資産の利用の対価として、貢献資産チャージをキャッシュ・フローから控除します。残りの税引後キャッ
シュ・フローが、開発中のソフトウェア製品に帰属するものとなります。
(ここまで 5.3.37)
■
この時点で、調整後 PFI に含まれる残りのキャッシュ・フローは、取得した研究開発関連資産(仕掛中の研究開発プロジ
ェクトを含む)の公正価値を見積もるのに必要な将来キャッシュ・フローを反映したものとなります。
(最終的な PFI の完
成)
(ここまで 5.3.38)
■
取得した研究開発関連資産にかかる PFI:

最終的な PFI では、
(評価対象である)関連資産の耐用年数の期間にわたってのみ、将来の収入・支出に関する予
測がなされます。例えば、取得した研究開発関連資産を活用し、市場で一定のポジションを得ることができたとし
ます。この場合、市場で一定のポジションを占めていることに由来して、新たな別の価値を生み出すことができる
かもしれません。しかし、元々の研究開発関連資産の公正価値には、このような価値を含めてはいけません。

ベスト・プラクティスと思われる事例を見ると、
(製薬業界などの)特定の業界を除き、ある技術がより長く存続す
ることを客観的に証明するものが無い限り、その技術の耐用年数はおおむね 5~7 年を超えない程度に想定されて
いるようです。耐用年数がそれよりも短い例は多く、ソフトウェア・ハードウェア関連技術の耐用年数の設定にあ
たっては、これらの事情を考慮する必要があります。

しかしながら製薬業界においては、研究開発に成功し特許権を得て新薬の発売に至った場合、新薬の調合技術の耐
用年数は、一般的に特許権の存続期間か、市場で排他的なポジションを維持できる期間のどちらか長いほうという
ことになります。

(例えば、成長率や収益性といった)キャッシュ・フローのパターンは、市場参加者が期待するものに従うことに
なります。
(ここまで 5.3.39)
■
最終的な PFI は、取得した研究開発関連資産の様々な構成要素(various subcomponents)に割り当てられます。こ
れらの構成要素には、特許権、ソフトウェア関連の著作権、基礎技術(base (or core) technology)
、既存製品の応用
技術(developed product technology)
、仕掛中の研究開発プロジェクト、図面・製図(technical drawings)
、マニ
ュアル、ノウハウなどが含まれます。それぞれの構成要素は、
(SFAS No.141 第 39 項で定める、のれんとは別に認識
するための基準を満たす限り、)個別に識別され、評価されることになります。
(ここまで 5.3.40)
■
現行製品の属性・特徴(機能と呼ばれるもの)は、一世代前の製品機能(基礎技術と呼ばれるもの)と、現行製品のリリ
ースによって新たに追加された機能(既存製品の応用技術)が、研究開発を経て結びついたものと言えます。製品の次世
代バージョンが発売されるとそれらが売上に貢献することになりますが、これらも同様に、将来行われる研究開発(将来
の研究開発、または将来技術と呼ばれるもの)を踏まえて実現するものといえます。将来の売上予測は、各製品の販売見
込みに基づいて立てられます。技術開発プロジェクトと新製品の発売の間に、直接の相関関係が存在することもあります。
■
取得した研究開発関連資産の構成要素が多くの製品に利用されている場合、もしくは、将来的に何世代にもわたって利用
されると見込まれる場合、評価人は、それぞれの製品から生じる売上を各構成要素に配分する必要があります。
■
各構成要素へキャッシュ・フローを配分するにあたり、既存製品の応用技術、現在の研究開発プロジェクト、将来技術、
基礎技術といった技術が、一連の製品に対してどの程度貢献しているか、その貢献度合いを考慮することになります(こ
のキャッシュ・フローの配分プロセスのことを、
「技術の移動」
(technology migration)と呼びます)
。技術の構成要素
の貢献度合いは、具体的な事実と状況に基づいて判断されます。その際、次の要因を考慮することになります。(ここま
で 5.3.41)
■

構成要素開発にかかった費用の実績

構成要素の開発を始めた日、開発が完了した日

構成要素の経済耐用年数

構成要素によって解消された技術的問題の難易度

構成要素が独自の技術を反映したものであるか、または市場に存在する他の技術の代替品として機能するか

構成要素が特許で保護されているかどうか、またはその可能性があるか

他社が構成要素にかかる特許技術を用いずに製品化することが、困難かどうか

構成要素の技術により、製品の値段を高く設定する(to charge premium prices)ことができるか
下の図は、最終的な PFI で想定されている将来の売上に関し、技術の構成要素それぞれがどのように貢献するのかを示し
たものです。1 年目(取得直後の年度)では、売上のほとんどが既存の製品技術(つまり、取得日時点で存在する製品)
から生じ、残りは基礎技術から若干得られる程度です。一方 5 年目では、売上のほとんどは取得日以降に行われる予定
の研究開発から生じるものと想定されています。
(ここまで 5.3.42)
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©ZECOO PARTNERS INC. 2012
■
全体価値の各構成要素への配分(すなわち、技術の移動(technology migration)
)は、次のどちらかの方法でなされ、
PFI に反映されることになります。

PFI に調整を加え、
(評価対象である)仕掛中の研究開発プロジェクトに関する収入・支出を残し、その他一切のも
のを取り除く(売上分割(revenue splitting)と呼ばれる手法)

既存の製品技術、基礎技術、将来技術に関する貢献資産チャージを賦課する(基礎技術分は将来にわたって減少し、
将来技術分は将来にわたって増加する)
(ここまで 5.3.43)
■
売上分割法(revenue-splitting method)は、評価対象企業が多くの独立した事業を営んでいる場合、多くの製品・サ
ービスを展開している場合に適した手法です。これを技術に関連付けて言い換えれば、基礎技術、既存の製品技術、開発
中の技術、将来技術など、多くの構成要素が存在する場合に適した手法だと言えます。
■
取得資産(または構成要素の組み合わせ)が、他の資産との組み合わせでしか経済的便益を生み出さない場合、当該資産
の価値だけを把握するのに最も良い方法は、この売上分割法であるというのがタスクフォースの見解です。また、売上を
この方法で技術ごとに分割するほうが、基礎技術・既存技術の利用に応じて貢献資産チャージ(経済レント)を賦課する
よりも、望ましいものと思われます。
(ここまで 5.3.44)
■
技術の移動(technology migration)の例:

企業 A は、企業結合取引で企業 X を取得した

企業 X は、毎年ソフトウェア製品の新バージョンをリリースしている

取得日現在、企業 X はソフトウェア製品の第 2 世代バージョンを開発中である

過去、新バージョンがリリースされるごとに製品機能が倍になっており、企業 A はこの傾向が今後も続くものと見
込んでいる

PFI で見込まれている各技術の貢献度合いは、次のとおり
PFI 計画年度
既存製品の応用技術(第 1 世代)
開発中の技術(第 2 世代)
将来技術
1 年目
2 年目
3 年目
4 年目
5 年目
100%
50%
25%
12.5%
6%
0%
50%
25%
12.5%
6%
0%
0%
50%
75%
88%
100%
100%
100%
100%
100%
(ここまで 5.3.45)
■
取得日時点で企業 A は、第 2 世代の技術は「仕掛中の研究開発プロジェクト」としての要件を備えているとの結論に至
りました。年間の予想売上高のうち、仕掛中の研究開発プロジェクト(すなわち、第 2 世代)に帰属する割合は、2 年
目(第 2 世代の製品が発売される年)で 50%にすぎず、さらに 3 年目で 25%、以下逓減していきます。上の例では、
売上分割のプロセスに基礎技術への配分が含まれていないため、研究開発プロジェクトに帰属するキャッシュ・フローに
は、基礎技術の利用に応じた貢献資産チャージを賦課することになります。
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■
構成要素である各技術の貢献度合いを評価するにあたって、追加・修正された開発コード行数(the number of lines of
code)はどの程度か、各構成要素によってどのような機能が追加・修正されたかなど、多くの要因を考慮する必要があ
ります。
■
評価人は、研究開発、マーケティング、営業、経理財務、オペレーション部門といった様々な部署からのヒアリングを通
じて、配分の根拠となる情報を集めます。また、業界データ、評価人の過去の経験を用いて、ヒアリングで得た情報の妥
当性を検証することになります。
(ここまで 5.3.46)
■
「ベース・テクノロジー(base technology)
」と「コア・テクノロジー(core technology)
」という表現は、同じ意
味を持つ言葉として使われています。それらの一般的な定義を見ると、基盤となる技術が存在し、それらが継続的に利用
され、もしくは多くの製品・多くの世代(つまり、製品群)にわたって再利用されることで、価値が生じていることが読
み取れます。この基礎技術(base (or core) technology)は、例えば、技術ポートフォリオ群、一連の治療薬候補、
卓越した生産能力といったもので表現されることがあります。
■
基礎技術が存在するかどうかは、具体的な事実と状況に基づいて判断されます。企業が、自分達の製品開発に必要な基礎
技術を、外部からライセンス契約で取得する(イン・ライセンス:in-license)場合もあります。また、新しい製品は常
に新しい技術プラットホームから作られるため、基礎技術と呼ばれるものが存在しない場合もあります。(ここまで
5.3.47)
■
技術の移動(technology migration)の考え方はまた、ある世代から次の世代へと技術が受け継がれ、再利用されるこ
とを示唆しています。そのような状況について、今日の既存製品の応用技術(つまり、現行製品に組み込まれた技術)は、
(将来製品に再利用されることになるため、
)明日の基礎技術であると捉える人もいます。
■
このとき特に、ある現行製品の再利用可能な技術を受け継ぐ次世代製品が 1 つしかない、つまり 1 対 1 の対応関係にあ
る場合、既存製品の応用技術と基礎技術との間における明確な線引きが難しい場合があります。
(ここまで 5.3.48)
■
売上または利益を分割する評価モデルにおいても、基礎技術に関し、単独の区分を設けて評価を行うことが必要な場合が
あります。当技術の継続的な開発・改良によってだけでなく、多くの製品・製品群にも利用されることで、経済的な価値
がもたらされているからです。技術の移動が 1 つの現行製品から 1 つの次世代製品へしかなされないような、1 対 1 の
対応関係は、そこにはありません。
■
売上分割法の代替案として、基礎技術にかかるロイヤリティーを計算する(simulated royalty)方法もあり、こちらは
利益を分割する(profit-split)ことになります。将来の売上に対してロイヤリティーを課すことで、基礎技術が継続的
に再利用されているという状況を、評価モデルに織り込むことになります。
■
売上または利益を分割する評価モデルでは、完成技術、基礎技術、既存製品の応用技術それぞれに対し、適切な設定がな
されているかどうか、十分注意する必要があります。分割によって、基礎技術、既存製品の応用技術が別々に区分されて
いる場合は、それ以上の分解は不要です。しかし、売上または利益の分割が既存製品の応用技術の移動しか考慮していな
い場合には、
(基礎技術が存在する限り、
)基礎技術に関する単独の区分を設ける必要があります。
(ここまで 5.3.49)
■
会計基準(GAAP)の観点からみれば、基礎技術と既存製品の応用技術の耐用年数に差がある場合、技術について 2 つ
の分類区分(1:基礎・応用技術、2:開発中の技術)を用いるか、3 つ(1:基礎技術、2:応用技術、3:開発中の技
術)を用いるかの違いは大きなものとなります。
(SFAS No.141 第 39 項で定める、のれんとは別に認識するための基
準を満たす場合、両者ともに資産計上し、その後耐用年数にわたっての償却処理が必要となるからです)
■
しかしながら、耐用年数が同じであれば、売上または利益を分割する評価モデルにおいても、既存製品の応用技術と基礎
技術を 1 つの区分にまとめることが可能かと思われます。
(ここまで 5.3.50)
■
このセクションの残りの部分では、仕掛中の研究開発プロジェクトの評価に超過収益法を適用することについて、焦点を
あてます。
(ここまで 5.3.51)
■
仕掛中の研究開発プロジェクトに帰属する売上高:

この段階では、評価人は、
(評価対象である)仕掛中の研究開発プロジェクトに帰属する予測売上高が、適切な基準
に従って分離されていることを確認しています。
(ここまで 5.3.52)
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■
仕掛中の研究開発プロジェクトに帰属する費用:

売上原価、販売費、販促費、一般管理費、
(完成した技術に対する継続的なバグの修正、技術メンテナンスといった、
)
研究開発にかかるメンテナンス費用、技術の完成に必要なコスト、市場への製品投入にかかるコスト、貢献資産チ
ャージ、所得税といった費用が該当します。

借入費用などの研究開発とは無関係なものは、税引後キャッシュ・フローを求める際控除してはいけません。

仕掛中の研究開発プロジェクトに帰属する費用は全て、企業結合取引の当事者固有の事情ではなく、市場参加者が
負担するものと期待される水準を反映していなければなりません。

仕掛中の研究開発に帰属する、技術サポート関連の費用:
-
多くの業界では、製品販売の一環として、あるいは製品の保守料金と引き換えに、技術サポートのサービスが
提供される場合があります。仮に、仕掛中の研究開発プロジェクトにかかる将来キャッシュ・フローの中に、そ
うした技術サポートの売上が含まれていない場合には、技術サポートに関する費用を当キャッシュ・フローの中
に含めてはいけません。
-
しかしながら、そうした費用が製品販売にかかる費用とセットになっているために除外できない場合には、PFI
に適当な水準の費用を別途加算する必要があります。
(補助的な売上など、研究開発と無関係の活動を PFI か
ら除外することについては、5.3.35 を参照)

仕掛中の研究開発に帰属する研究開発費:
-
研究開発関連資産として分類されるプロジェクトでは、一般的に、研究開発費としてかなりの初期費用(a
significant up-front expense)が発生します。また、開発期間を通して研究開発スタッフの人件費が固定的
に生じ、開発完了後も保守、バグ修正、製品の許認可にかかる審査などの費用を負担することになります。
-
プロジェクト完了までに必要なコスト・完了後に発生する費用の水準の妥当性を検証するにあたって、被取得
企業作成の製品ロードマップ、研究開発予算に関する資料が、主要な根拠資料としての役割を果たします。
-
検証にあたっては、クロスチェック(cross-check)と呼ばれる方法が役に立ちます。これは、プロジェクト
完了までに必要なコスト、完了後に発生する費用を年度ごとに全て足し上げ、研究開発予算の合計もしくは研
究開発費の合計とを、売上高比率のベースで比較するもので、被取得企業、取得企業、そして入手可能であれ
ば市場参加者の過年度推移を用いて検証を行います。

仕掛中の研究開発に帰属する税金費用:
-
PFI で用いる税金費用についての前提条件を検証するにあたって、評価対象企業の過去の財務データ、業界デ
ータ、法定実効税率(statutory rates)などが客観的な根拠資料となり得ます。
-
PFI での実効税率を選択する際は、税務上の繰越欠損金、加算税や延滞税などの附帯税(penalty)
、その他の
追加的な支払(special payments)といった、被取得企業・取得企業に特有の事情を考慮しないように注意
が必要です。
-
市場参加者にかかる実効税率を示す業界データを慎重に検討し、評価対象企業のデータ、法定実効税率とを比
較考慮する必要があります。
(取得資産の公正価値計算に対する所得税の影響については、5.3.97 を参照)
(ここまで 5.3.53)
(次回に続く)
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当文献は、弊社が AICPA から許可を得て翻訳しております。
ZECOO PARTNERS News Letter(VAL-007)
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担当 稲留
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