平成 27 年 4 月 14 日(Ver1.0) ネットワーク型RTK法による単点観測法マニュアル 平成27年4月 国土交通省 土地・建設産業局 地籍整備課 平成 27 年 4 月 14 日(Ver1.0) 目 次 [序]概 説 ···································································3 1.はじめに ················································ ·················3 2.単点観測法について ·····················································・・・3 3.ネットワーク型RTK法の設計・積算·········································6 4.地調査作業規程・運用基準・別表の解説······・・・・ ·············· ·············7 5.用語の説明·······························································14 6.事例集···································································21 7.参考資料·································································29 2 平成 27 年 4 月 14 日(Ver1.0) [序]概 説 1.はじめに 地籍測量において、筆界点の座標値の測定は、①地籍図根三角測量、②地籍図根多角測量、③細部図 根測量、④一筆地測量の作業順序に従って行われている。一方、平成 22 年には地籍測量の効率化を目的 として、地籍調査作業規程準則が改正され、ネットワーク型RTK法による単点観測法(以下「単点観 測法」という。)により、筆界点の座標値を直接求めることが可能になった。 しかしながら、現在のところ、従来の測量手法を採用している実施主体が多く、新たに導入された技 術が十分に利活用されていない状況である。これは、単点観測法の技術的な面や導入の効果等について 周知が進んでいないことが主な理由になっていると考えられる。 このマニュアルは、地籍調査作業規程準則及び運用基準における単点観測法による作業手法の詳細な手 順等を分かりやすく解説し、事例を示すことによって同手法のさらなる活用を推進するものである。 2.ネットワーク型RTK法による単点観測法 (1)特徴 ネットワーク型RTK法による単点観測法は、GNSS法の一つで、筆界点の上にアンテナを立て衛 星からの電波を10秒程度受信し、あわせて国土地理院の電子基準点の観測データを利用して、周囲の三 角点等を使用せず筆界点の座標を直接求めることができる測量方法である。地籍図根三角測量や地籍図 根多角測量に用いられるスタティック法は、観測距離に応じて、30分~120分以上の観測時間を必要とす るのに比べ、単点観測法は、非常に短時間で作業効率に優れている測量方法と言える。「単点観測法」 の詳細は6.用語の説明を参照。 三角点 電子基準点 既設基準点 10 秒間観測 地籍測量地域 筆界点 三角点 図-1 電子基準点 単点観測法による筆界点位置決定 3 平成 27 年 4 月 14 日(Ver1.0) (2)従来法(GNSS、TS法)と単点観測法との比較 図-2 従来と法単点観測法 (3) 単点観測法が効率的に実施できる地域 単点観測法で観測ができるかどうかは、筆界点において、衛星からの電波を受信上空視界がとれるか どうかにかかっている。 日本国土調査測量協会では平成 26 年 10 月、平成 24・25 年度に単点観測法を活用して一筆地測量を実 施した 4 社を対象に、以下のような項目についてアンケート調査を行った。 ① 地籍調査地区の状況(地形、土地利用状況、地籍調査精度区分、傾斜、視通障害、一筆地形状及び 一筆地平均面積、上空視界) ② 地籍図根点、細部図根点の設置状況 ③ その他調査実施上の留意点 ④ 準則及び関連する規程類の課題等 アンケート調査の結果から、地形区分では耕地・市街地甲・市街地乙において、土地利用区分では田・ 畑・宅地・山林・その他において、精度区分では甲3及び乙1においてそれぞれ活用されている結果が 得られた。また、精度区分甲1及び甲2のような大都市及び中都市の市街地区域は、中高層建築物等に より、上空視界が確保できないため、効率性の観点から従来方法(TS法)が主体となると想定される。 従って、単点観測法の活用は作業効率の面から甲3以下での実施が適切である。 4 平成 27 年 4 月 14 日(Ver1.0) アンケート調査結果から、効率的に実施できた地域の写真を示す。 農地(田・畑)での単点観測法 果樹園(ミカン畑)での単点観測法 住宅地周辺での単点観測法 海浜部での単点観測法 5 平成 27 年 4 月 14 日(Ver1.0) 3.ネットワーク型RTK法による単点観測法の設計のフロー No 調査対象地域の精度 Yes 区分が甲3以下か YES No 地籍調査実施地区の内、P5 に示 NO すが参考写真のような上空が開 けた農地(田・畑・果樹園)や 海浜部が全体の面積の5割※以 上あるか。 Yes ※当面 5 割 ネットワーク型RTK法による単点観測 YES 法以外の手法で仕様書作成し、発注準備 単点観測法の実施可能な面積の割合に応 じて、単点観測法と従来法を組み合わせた 仕様書を作成し、発注準備。 入札・契約 6 平成 27 年 4 月 14 日(Ver1.0) 4.地籍調査作業規程準則・運用基準の解説 単点観測法に関連する地籍調査作業規程準則・運用基準について、以下に解説する。 (作業の順序) 準則第四十二条 地上法による地籍測量は、次に掲げる作業の順序に従つて行うものとする。ただし、単 点観測法による地籍測量にあつては、第四号の作業のみを行うものとする。 地籍図根三角測量 二 地籍図根多角測量 三 細部図根測量 四 一筆地測量 2 一 前項第四号に掲げる作業(単点観測法による地籍測量を除く。 )において、令別表第四に定める誤差 の限度内の精度を保つことができる場合は、前項第一号から第三号までに掲げる作業の全部又は一部を 省略することができる。 3 第一項第一号及び第二号に掲げる作業を地籍図根測量と、同項第三号及び第四号に掲げる作業を地籍 細部測量と総称する。 4 地籍図根測量は、一筆地調査と併行して行うことができる。 解説 第 1 項は、地籍測量は、地籍図根三角測量→地籍図根多角測量→細部図根測量→一筆地測量の順序で作 業を行うこととしているが、単点観測法については、近傍の既設の基準点を使用しないで直接筆界点の 座標値を求める手法なので、一筆地測量作業のみを行うとしている。 (一筆地測量の基礎とする点) 準則第六十八条 一筆地測量は、単点観測法によるものを除き、地籍図根点等及び細部図根点(以下「細 部図根点等」という。 )を基礎として行うものとする。 解説 一筆地測量は、細部図根点等を基礎(与点)として行うこととしているが、単点観測法については、筆 界点の座標値を直接求める手法であり、与点として既設の細部図根点等を使用しない。 (一筆地測量の方法) 準則第七十条 一筆地測量は、放射法、多角測量法、交点計算法又は単点観測法によるものとする。 解説 一筆地測量の方法については、放射法、多角測量法、交点計算法又は単点観測法によるものと定めたも のである。 7 平成 27 年 4 月 14 日(Ver1.0) (一筆地測量の方法)───準則第70条 運用基準第37条 (第1項省略) 2 単点観測法による一筆地測量は、ネットワーク型RTKによる測量方法(以下「ネットワーク型RT K法」という。 )により行うものとする。ただし、当該地籍測量の精度区分が令別表第4に定める乙二又 は乙三の地域の一筆地測量については、DGPS測量機を用いる測量方法(以下「DGPS法」という。 ) により行うことができるものとする。 解説 第2項は、単点観測法による一筆地測量は、ネットワーク型RTKによる測量方法(以下「ネットワー ク型RTK法」という。 )により行うと定めている。 □3.ネットワーク型RTK法による単点観測法の設計のフローチャートを参考に田、畑、果樹園等上 空視界が良い農地等において、単点観測法を活用するよう努める。 準則第70条の五 (単点観測法による一筆地測量) 準則第七十条の五 観測に使用する測位衛星の数は五以上とし、受信高度角は十五度以上とする。 2 単点観測法により観測された筆界点の座標値は、周辺の細部図根点等との整合性の確保を図るよう努めなけ ればならない。 解説 第1項は、単点観測法におけるGNSS衛星の観測条件を定めたもので、観測に使用する衛星の数は、G PS衛星のみの場合は5衛星を、GPS衛星及びGNSS衛星の場合は、それぞれ2衛星以上を使用し 合計6衛星以上とし、地平線から15度以上の衛星を受信して行うこととしている。 第2項は、単点観測法により求めた筆界点座標値の精度確認の方法について定めたもので、近傍の細部図 根点等を基礎とした測量ではないため、既存の細部図根点等との成果の不整合が生ずる場合がある。 このため、作業地域の既設細部図根点等との整合を図るよう努めなければならないとしている。 (単点観測法による一筆地測量)───準則第70条の5 運用基準第41条 単点観測法における観測及び測定の方法は、別表第29に定めるところによるものと する。 2 単点観測法による一筆地測量における計算の単位及び計算値の制限は、別表第30に定めるところに よるものとする。 3 単点観測法により得られた筆界点と周辺の細部図根点等との整合性を確保するための細部図根点等 の数は3点以上を標準とし、努めて当該地区の周辺を囲むように選点するものとする。 4 ネットワーク型RTK法による整合性の確保は、ネットワーク型RTK法により得られた細部図根点 等の座標値と細部図根点等の成果値の比較により行うものとする。 5 前項により比較した座標値の較差が、別表第30に定める制限を超過した場合は、平面直角座標系上 において前項で比較した細部図根点等を与点として座標補正を行い水平位置の整合処理を行うものとす る。なお、座標補正の変換手法は、ヘルマート変換を標準とする。 6 前項の場合における座標補正の点検は、座標補正後の筆界点の座標値と与点とした細部図根点等の成 8 平成 27 年 4 月 14 日(Ver1.0) 果値による計算距離と、筆界点から与点とした細部図根点等までの距離を単点観測法以外の法により求 めた実測距離との比較により行うものする。 7 前項により比較した距離の較差が別表第30に定める制限を超過した場合は、水平位置の整合処理に 用いた与点を変更し再度第5項による比較を行うものとする。 8(省略)9(省略) 解説 第1項は、単点観測法における観測及び測定の方法を定めたもので、別表第29にネットワーク型RTK 法による場合の観測及び測定方法が示されている。 ネットワーク型RTK法による単点観測法の場合は、 □GPS衛星とGLONASS衛星とを用いた場合の数は6衛星以上と定められているが、現在は、少 ないときでも8~10衛星が観測できるので、いつでも観測は可能である。 □FIX解を得てから 10 エポック(データ取得間隔は 1 秒)以上を 1 セットとし、2 セットの観測を行 う。ただし、1 セット目の観測終了後に、再初期化して 2 セット目の観測を行う。 □1 エポックとは、各GNSS衛星から同時に受信する 1 回の信号をいう(TSの 1 読定に相当) 。 □受信状況に問題なければ 1 セットの観測は 10 秒で終了することになる。 □特に風の強い日は、正確な求心をするためポールスタンド等を使用することが望ましい。 □単点観測法により筆界点の座標を測定する前に、メ-カ-が提供している衛星飛来予測情報を取得し て、衛星数・DOP値(位置精度低下率)を確認しておく(図-3 衛星数とDOP値) 。 □測量機器メ-カ-によってDOP値の推奨値は、多少数値は異なるが3以下位を目安としている。 □セット間較差は、20mm以下、座標値は、2セットの平均値とする。 第2項は,単点観測法による一筆地測量における計算の単位及び計算値の制限を定めたもので、別表第 30にネットワーク型RTK法による場合の計算の単位及び計算値の制限が示されている。 第3項は、周辺の細部図根点等との整合性を確保するための選定条件を定めたもので、整合性を確保す るために取り付ける細部図根点等の数は3点以上を標準とし、調査地区の一方に偏らないように努めて 当該地区の周辺を囲むように選点することとしている。なお、細部図根点や地籍図根点がない場合は、 基本三角点又は四等三角点若しくは測量法第41条第1項の規定に基づく国土地理院の長の審査を受 けた公共基準点を選点する。 第4項から第7項までは、ネットワーク型RTK法による場合の整合性を確保するための作業方法を定 めたものである。 第4項は、ネットワーク型RTK法による整合性の確保の方法を定めたもので、ネットワーク型RTK 法により得られた細部図根点等の座標値と細部図根点等の成果値の比較によって行うこととしている。 第5項は、前項で比較した座標値の較差の制限値を定めたもので、ネットワーク型RTK法により得ら れた細部図根点等の座標値と細部図根点等の成果値との較差は、別表第30 3)以下としている。この 9 平成 27 年 4 月 14 日(Ver1.0) 制限を超過した場合は、比較のため使用した細部図根点等を与点として平面直角座標系上において座 標補正を行い、座標の較差を筆界点に補正することとしている(水平位置の整合処理)。座標補正の変 換手法は、ヘルマート変換(相似変換)を標準としている。 【参考】ヘルマート変換とは、座標変換の一つで相似補正とも呼ばれる。相似補正とは、変換前と変換 後では図形の形が変わらないことを意味し、スケール(縮尺)さえ同じであれば、変換前と変換後の 面積が変わることはない(地籍調査作業規程準則逐条解説引用)。 第6項は、座標補正した座標値の点検方法を定めたもので、実際には座標補正後の筆界点の座標値と与 点とした細部図根点等との成果値による計算距離と筆界点から与点とした細部図根点等までの距離を 単点観測法以外の法(多角測量法又は放射法)により測定して求めた実測距離との較差を求めることに より行う。較差は、別表第30 4)以下としている。 第7項は、前項により比較した距離の較差が制限を超過した場合の扱いについて定めたもので、較差が 別表第30 4)に定める制限を超過した場合は、水平位置の整合処理に用いた与点を他の点に変更して、 再度第5項による比較を行って整合性の確認を行うこととしている。 (筆界点の位置の点検)───準則第72条 運用基準第42条 筆界点の位置の点検は、単位区域の総筆界点(多角測量法による一筆地測量に より求めた筆界点を除く。 )から概ね2パーセントを抽出して行うものとする。この点検において は、その位置の較差が別表第26、別表第28又は別表第30に示す制限値以内にある場合には、 最初に求めた位置を採用するものとする。 解説 ネットワーク型RTK法による単点観測法については、別表30 5)運用基準第 42 条に規定する筆 界点座標値の精度点検の制限を用いるものとする。 10 平成 27 年 4 月 14 日(Ver1.0) 図-3 衛星数とDOP値 11 平成 27 年 4 月 14 日(Ver1.0) 別表第29 単点観測法による一筆地測量における観測及び測定の方法〔第41条〕 (1)ネットワーク型RTK法 1)観測のための設定項目、単位及び位 設定項目 単 経度・緯度 位 位 1 度分秒 備 考 自動入力装置のある機種は、自動入力で行う。 楕円体高 m 0.001 (同上) アンテナ高 m 0.001 2)観測回数、データ取得間隔 観測回数 データ取得間隔 FIX解を得てから10エポック以上を1セッ 1秒 トとし、2セットの観測を行う 備考 1 セット目の観測が終了後に、再初期化して 2 セット目の観測を行う。 3)観測の諸条件 使 用 衛 星 項 GPS衛星のみ 目 GPS衛星及び GLONASS衛星 15゜以上を標準とする 最低高度角 5 衛星以上 衛星の数 6 衛星以上 備考 1.アンテナの整置は、三脚又はアンテナポールを用いること。 2.GLONASS衛星を用いて観測する場合は、GPS衛星及びGLONASS衛星を、 それぞれ 2 衛星以上用いること。 3.準天頂衛星は、GPS衛星として取り扱うことができる。 4)筆界点の整合性確保のために使用する細部図根点等までの距離 精度区分 筆界点から細部図根点等までの距離 甲一及び甲二 500m以内 甲三及び乙一 1,000m以内 乙二及び乙三 1,500m以内 備考 地形の形状によりやむを得ない場合にはこの限りでない。 12 平成 27 年 4 月 14 日(Ver1.0) 別表第30 単点観測法による一筆地測量の計算の単位及び計算値の制限〔第41条及び42条〕 (1)ネットワーク型RTK法 1)基線解析の計算結果の表示単位 区分項目 単位 位 基線ベクトル成分 m 0.001 2)計算値の制限 計算の単位 計 座標値 算 値 の 制 限 X座標、Y座標のセット間較差(ΔN、ΔEの比較でも可) ㎜位 20 ㎜以下 備考 1.座標値は、2 セットの観測から求めた平均値とする。 2.ΔNは、水平面の南北方向の較差、ΔEは、水平面の東西方向の較差である 3)細部図根点等における座標の較差の許容範囲 精度区分 甲一 甲二 甲三 乙一 乙二 乙三 許容範囲 2㎝ 7㎝ 15 ㎝ 25 ㎝ 50 ㎝ 100 ㎝ 4)座標補正の点検における計算距離と実測距離の較差の許容範囲 点検距離 許容範囲 500m 以内 50 ㎜ 500m 以上 点検距離の 1/10,000 5)運用基準第 42 条に規定する筆界点座標値の精度点検の制限 制限項目 計算値の制限 精度区分 甲 一 2 cm 甲 二 7 cm 甲 三 15 cm 乙 一 25 cm 乙 二 50 cm 乙 三 100 cm 13 平成 27 年 4 月 14 日(Ver1.0) 6.用語の説明 ネットワーク型RTK法における測量機器の構成 ネットワーク型RTK法における測量機器の標準的な構成は、図1-10に示すように①GNSS受信機、 ②アンテナ(受信機と一体型のものが多い)、③アンテナポール(支持杖を用い、付属の気泡管によりポー ルを鉛直にする。)、④配信事業者との通信装置(携帯電話等)、⑤コントローラで構成される。 ⑤のコントローラの標準的な役割は、おおむね、以下の4つがある。 i.GNSS測量機の設定、確認 ・測量方法の設定(ネットワーク型RTK法に設定) ・観測条件の設定(最少衛星数、最低高度角、観測エポック数) ・GNSS測量機の確認(バッテリ残量、メモリ残量) ii.通信装置の設定 ・通信条件の設定(通信方式、通信速度、データ形式) ・基準局や配信会社等との通信の開始、終了 iii.観測の実行 ・測量観測の開始、終了 ・観測状況の表示(観測衛星数、DOP、FIX解orFLOAT解、標準偏差、スカイプロット) ・目標への誘導(杭打ち) iv.観測結果の確認、記録 ・記録の開始、終了 ・記録された結果の表示(テキスト、図) ・記録されたデータの出力(ファイル、通信) 図6-1 ネットワーク型RTK法における測量機器の構成 14 平成 27 年 4 月 14 日(Ver1.0) ネットワーク型RTK法 利用者から遠く離れた電子基準点 3 点以上の観測データ等を用いて、利用者のごく近傍に基準点があ るのと同じようにリアルタイムに測位ができるようにする技術をいう。はじめは仮想基準点方式と呼ん でいたが、必ずしも適切な名称でなかったので、ネットワーク型RTK方式と名称が変更された。この 方式は 1900 年代末にドイツで独立な二つの方式が発案され、 その一つが仮想基準点方式 (VRS:virtual reference station)、もう一つが面補正パラメータ方式(FKP:Flächen Korrektur Parameter)と呼 ばれた。なお、実在しない観測点データを作るのがVRSで、実データに補正を加えるのがFKP方式 である。 単点観測法 単点観測法(ネットワーク型RTK法による)は、3点以上の電子基準点を用いて、2周波受信機1台で 測量地域の基準点を使用せずに筆界点等の位置を直接求めることができる測量方法である。また、VR S方式では仮想点からの放射となり、FKP 方式では電子基準点からの放射となる。 空中写真測量における図化作業において、図化機のメスマークにより座標値を測定する「単点」とい うものに似ている。このことから、ネットワーク型RTK法による地形・応用測量の観測を、「単点観 測法」という(ネットワーク型RTK-GPSを利用する公共測量作業マニュアル(案)平成17年6月国 土交通省国土地理院 P.48 〔第35解説〕)。 図6-2 ネットワーク型RTK法による単点観測法 15 平成 27 年 4 月 14 日(Ver1.0) 電子基準点とは 電子基準点は、全国約 1,300 ヶ所に設置されたGNSS連続観測点です。外観は高さ5mのステンレス 製ピラーで、上部にGNSS衛星からの電波を受信するアンテナ、内部には受信機と通信用機器等が格 納されている。 基礎部には、電子基準点付属標と呼ばれる金属標が埋設してあり、トータルステーショ ン等を用いる測量にも利用できるようになっている。 電子基準点のピラーの形状は、下の写真のように、設置年度の違いにより3種類の形状に大きく分けら れる(国土地理院ホームページ引用)。 設置場所の環境等により、形状の異なるものもある。 021100 富士山 021098 南鳥島 16 051140 沖ノ鳥島 平成 27 年 4 月 14 日(Ver1.0) 電子基準点内部の機器構成 (国土地理院ホームページ引用) 電子基準点配点図 (国土地理院ホームページ引用) 17 平成 27 年 4 月 14 日(Ver1.0) VRS方式 ドイツ、ミュンヘン市郊外のテラサット社で開発された。 VRS 方式とは、GNSS 測量機の機能によって、VRS 方式とサーバ型VRS 方式に区分され る。言い換えれば、RTK法における基線解析をGNSS 測量機側か配信事業者側(解析処理サービス 事業者のサーバを含む)のどちらで行っているかの違いである。 GNSS測量機で解析計算を行うVRS 方式(図6-3)は、移動局からその概略位置情報を通信装 置により配信事業者に送信し、配信事業者で移動局周辺3点以上の基準局(電子基準点)での観測値を 利用して、概略位置に仮想点を作り、この位置における補正値や観測されるであろう位相データ等(以 下「補正データ」という。)を計算する。移動局側は、通信装置により配信事業者からこの補正データ 等を受け仮想点との基線解析を行って、移動局の情報と補正データ等を解析処理し位置を求める方式で ある。一方、サーバ型VRS 方式のGNSS測量機を用いる方式(図6-4)は、VRS 配信事業者 で得られた補正データと、移動局から送られてくる観測データにより、解析処理事業者内のサーバでR TK解析処理を行って、移動局の位置を求め、移動局に結果を返信する方式である。下記にVRS方式 及びサーバ型VRS 方式の概念図を示す(国土地理院ホームページ引用)。 図6-3VRS方式の概念図 18 平成 27 年 4 月 14 日(Ver1.0) 図6-4VRS方式の概念図(サーバ型) FKP方式 ドイツのジオプラスプラス(Geo++)社で開発された。 FKP方式とは、最寄りの基準局と移動局とで干渉測位を行いこれに面補正パラメータを加え移動局の 位置を決定する方式をいう。 配信事業者は、常に、多数基準局(電子基準点)の観測量から、電離層等の状態空間モデルを生成し、 このモデルから各種誤差量(電離層・対流圏の遅延、衛星の軌道誤差等)を推定し、各基準局に対応し た周辺の誤差量として算出している。この誤差量から線形FKP 平面(線形面補正パラメータ平面)を 計算する。移動局では、通信装置により配信事業者から近傍の基準局に対応したこの各線形FKP 平面を 取得し、近傍の基準局の線形FKP平面を選択する。選択した線形FKP平面の傾きと移動局の単独測 位結果とで線形補間処理を行い、移動局における補正量を計算し、移動局の位置を決める。なお、位置 決定は移動局側で行っている。下記にFKP方式の概念図を示す。 ※ FKP方式の、線形FKP 平面(線形面補正パラメータ平面)とは、位置を決める際に使用する、 各基準局の誤差量のことをいう。なお、各基準局の誤差量を一般的に称する場合を面補正パラメータと 呼んでいる。(国土地理院ホームページ引用) 19 平成 27 年 4 月 14 日(Ver1.0) 図6-5FKP方式の概念図 仮想点 VRS測位において、移動局の近傍に計算で設ける仮想的な基準点、周辺の電子基準点で得られたGN SS等の観測データから、仮想点で観測されると推定されるデータを補間計算し、仮想点と移動局との リアルタイム測位を行い移動局の座標値が求められる。 20 平成 27 年 4 月 14 日(Ver1.0) 7.事例集 (1)事例1 農地と宅地部の混合方式 ・作業地域:富山県富山市 ・作業概要 :一筆地測量 1)単点観測法による全体計画(赤枠全地区) 当地区の全体計画は、A地区(23 年度~25 年度)、B地区(25 年度~27 年度)、C地区(27 年度 ~29 年度)及びD地区(29 年度~31 年度)の 4 地区に分かれ、全て単点観測法に基づき、業務が計画 されているところです。 2)年度別業務内容(実績) (1)調査地区(A地区) ①平成 23 年度業務 宅地部(青枠)0.01 ㎢ C工程、Ⅾ工程(GNSS法とTS法) 宅地部+農地部(青+緑枠)(0.32 ㎢)E1 工程 ②平成 24 年度業務 宅地部+農地部(青+緑枠)(0.32 ㎢)E2 工程 宅地部(青枠) (0.01 ㎢)TSによる F1、FⅡ-1 工程 農地部(緑枠) (0.31 ㎢)単点観測法によるFⅡ-1 工程 3)精度区分:乙1 調査区域図(A地区) 風の強い日に正確な求心をするためポールスタンド使用しての観測 21 平成 27 年 4 月 14 日(Ver1.0) (2)例2 果樹園における単点観測法 ・作業地域:和歌山県有田市 ・作業概要 果樹園の一筆地測量 精度区分:甲3 検証地区 検証地(ミカン畑)の遠景 22 平成 27 年 4 月 14 日(Ver1.0) ミカン畑内の観測風景 南側に障害物がある筆界点の観測 ミカン畑谷沿いの単点観測法(三脚より効率的) 23 平成 27 年 4 月 14 日(Ver1.0) (3)事例3 海浜部での単点観測法 ・作業地域:鳥取県 ・作業概要 防風林から汀線までの白地の測量 精度区分:甲3 地籍調査実施地区図 海浜部での単点観測法 24 平成 27 年 4 月 14 日(Ver1.0) (4)事例4 単点観測法による地籍調査(北海道) ・作業地域:北海道旭川市 ・作業概要 境界標の座標測定測量 精度区分:甲3 25 平成 27 年 4 月 14 日(Ver1.0) 26 平成 27 年 4 月 14 日(Ver1.0) ○ネットワーク型RTK法による単点観測法(境界標の座標測定) 周辺での単点観測法 住宅地周辺での単点観測法 住宅地近辺での単点観測法 重機・樹木周辺での単点観測法 重機・樹木近辺での単点観測法 鉄塔近辺での単点観測法 27 平成 27 年 4 月 14 日(Ver1.0) 鉄塔・樹木周辺での単点観測法 28 平成 27 年 4 月 14 日(Ver1.0) 8.参考資料 (1)実地検証結果から得られた単点観測法の精度 単点観測法で決めた筆界点座標から算出した辺長とTS法で測定した辺長との比較では、下表の通り である。また、運用基準42条(筆界点の位置の点検)の制限は、甲一は 2cm、甲二は 7cm、甲三は 15cm、 乙一は 25cm である。下表から辺長較差 20mm 未満は約 90%であり精度の面で問題は無い。 表-1 セット間較差(30 秒~60 秒の観測時間間隔) 辺長較差(m) 辺数 割合(%) 0.000~0.009 23 56 0.010~0.019 13 32 0.020~0.029 3 7 0.030~0.039 2 5 0.040 以上 0 0 平均二乗誤差(参考)=0.013m (2) 単点観測法の優位性(費用面) 地籍調査実施地区において、単点観測法が 100%可能実施地区について、積算の事例を下記に示す(全 国国土調査協会発行の積算基準書の歩掛り使用) 。 工程 従来法 (GPS+TS) 単点観測法 103,000 打合せ 作業条件 面積:0.5 ㎢ 地籍図根三角測量(C工程) 342,000 ― 調査前:1430 筆 地籍図根多角測量(D工程) 743,000 ― 調査後:1400 筆 地籍細部測量(F1 工程) 一筆地測量(FⅡ-1 工程) 縮尺:1/500 8,118,000 一筆地調査(E 工程) 585,000 ― 2,432,000 2,568,000 精度区分:乙1 傾斜区分:平坦地 原図作成等(FⅡ-2 工程) 279,000 視通障害区分:農Ⅰ 地積測定(G工程) 44,000 筆の形状:不整形 1,319,000 地籍図・地籍簿の作成(H1+H2 工程) 156,000 地籍図複図(H工程)2 部 14,121,000 12,587,000 8,119,000 7,351,000 (諸経費率) (57.5%) (58.4%) 積算額 22,240,000 19,938,000 直接費合計 諸経費額 29 TS 法より 2,302,000 円安価 平成 27 年 4 月 14 日(Ver1.0) (3)単点観測作業の手順 メーカが提供している衛星飛来予測情報を取得 ⇒衛星数・DOP値を確認 携帯電話等で配信事業者へアクセス(事前登録 してログイン名・パスワードを確保しておく) ① 最初に初期化 ③ 1 セット目 既知の細部図根点等+ 筆界点を含む一連の観測 観測及び測定方法は別表 29 による ② 再初期化して、2 セット目。観測精度を確認(セ ット間較差) ④ 単点観測法で得られた細部図根点等の座標値 ネットワーク型RTK法による単点 と既存成果値とを比較し、整合性を判断。 観測法の整合性の確保 ⑤ ①~④を繰り返す 30 平成 27 年 4 月 14 日(Ver1.0) (4)準則運用基準41条 単点観測法の流れ No 3項:当該地区の周辺を囲む ような位置に細部図根点等が 3,4 項:①隣接地区を含め、基準点、地籍図根点等 3点以上存在するか。 が無い場合は、甲3地区ではスタティック法(電子 Yes 基準点のみ与点等)により地籍図根三角点を、乙 1 Yes ~乙 3 地区では筆界基準杭をそれぞれ3点設置し整 4 項:単点観測法の精度を確認するため、2 セット 合確保に使用する。 の観測中に既存或の細部図根点等の座標値を求 ②単点観測法ができない筆界点については、ネット め、細部図根点等の成果値との比較を行い整合 ワーク型RTK法により細部図根点を設置しTS法 性の確保を行う。 により筆界点の座標値をもとめる。なお、与点には 必要に応じて①で設置した、地籍図根三角点・筆界 基準杭を使用する。 No 5 項:座標値の比較が別表 30 3)に定める範囲内か Yes 5 項:ヘルマート変換等で座標補正を行うためは、観測中 に 2 点以上の細部図根点等の座標値を取得する必要 がある。 Yes 6 項:ヘルマート変換等で座標補正を実施。 6 項:座標補正の点検は、座標補正後の筆界点の座 標値と与点(細部図根点等)の成果値による計算距 離と単点観測法以外の方法で求めた実測距離との 比較による。 7 項:与点(細部図 根点等)を変更し、 再度測定。 7 項:距離の較差が別表 30 4) に定める範囲内か No 筆界点座標値の決定 Yes 31 平成 27 年 4 月 14 日(Ver1.0) (5)参考文献 ① 地籍の匠論文平成 26 年 5 月 8 日 「単点観測法による一筆地測量の実施体験」 株式会社 上 智 飯澤 光央 ② 平成 19 年 6 月号 機関紙月間測量 特別企画 電子基準点リアルタイム測位の動向 ~ネットワーク型RTK-GPS測位有効利用についての提案~ 電子基準点を利用したリアルタイム測位推進協議会 利用促進WG (6)電子基準点リアルタイムデータ位置情報サービス事業者リスト 株式会社ジェノバ 〒101-0046 東京都干代田区神田多町2-2-22 千代田ビル3階 03-5209-6885 日本GPSデータサービス株式会社 〒140-0013 東京都品川区南大井6-26-3 大森ベルポートD館14階 03-6404-0145 日本テラサット株式会社 〒540-0025 大阪府大阪市中央区徳井町 2-2-9 米澤ビル徳井町 801 06-7507-1260 32
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