論文 - 東京大学空間情報科学研究センター

 XML 形式で表現した地物情報を中核とした
統合型 GIS アーキテクチャの設計
平 良 洋 樹†
贄
良
則†
Design of An Architecture of
Integrated GIS Centering Feature Information
Using XML Format
Hiroki TAIRA and Yoshinori NIE
†
†
Abstract:
In Japan, Integrated GIS was proposed as a presence of GIS in local government and
discussion about Integrated GIS has continued since 1997. In an Integrated GIS,
shared geospatial data is maintained and is used for many public services.
In other hand, spatial data specifications using XML such like G-XML and
GI(Geospatial standard Information) were proposed. We focused that these specifications can deal with data as geospatial feature units.
We proposed geospatial feature database, which can insert, retrieve and edit data
as feature unit and how to adapt geospatial feature database into Integrated GIS.
Keywords: 統合型 GIS(Integrated GIS),地理情報標準,XML データベース (XML
Database),地物 (Feature)
1. は じ め に
地方公共団体における GIS の設計・運用にあ
たって,統合型 GIS というキーワードが注目され
ている.統合型 GIS は総務省自治行政局地域情
タを「共用空間データ」として一元的に整備・
管理し,各部署において活用する庁内横断的
なシステム(技術・組織・データの枠組)で
ある.
• 共有空間データ
報政策室(旧自治大臣官房情報政策室)が平成 9
「共用空間データ」とは,道路データや建物
年より検討を行ってきたものであり,平成 11 年
データといった,地方公共団体の庁内の複数部
度に公開された「統合型 GIS 共用空間データ調
署において多目的な利用を行うことが可能で,
達仕様書及び基本仕様書(案)」1) が具体的な成
かつ一定の品質が確保されている空間データ
果物となっている.本仕様書における統合型 GIS
であり,統合型 GIS の核になるデータである.
および共用空間データの定義を以下に示す.
• 統合型 GIS
すなわち,統合型 GIS は庁内での利用を想定し
たものとなっている.
「統合型 GIS」とは庁内 LAN 等のネットワー
一方,統合型 GIS を実現する技術標準として,
ク環境のもとで,庁内で共用できる空間デー
地理情報標準と G-XML の二つの規格が存在する.
地理情報標準(第 1 版)2) は,平成 8 年度から 10
† 平良〒 904–2234 沖縄県具志川市字州崎 5-1 トロピカルテクノセン
ター内
株式会社ジャスミンソフト
mailto:[email protected]
年度に建設省 (当時) と民間 53 社による,建設省
官民連帯共同研究「GIS の標準化に関する調査」
の結果としてまとめられた.これは,ISO/TC211
外へのさまざまなサービス提供を実現する方法に
における国際標準案を踏まえた我が国初の地理情
ついても述べていく.
報標準となっている.
最後に,地物単位でのデータ処理を念頭におい
地理情報標準に準拠した空間データは,その
たときの統合型 GIS は,どのようなサービスが
データ構造を応用スキーマで定義することが義
提供可能で,それを実現するアーキテクチャはど
務づけられており,その符号化には XML が推奨
のようなものかについての考察を行う.
されている.
G-XML は平成 11 年度から財団法人データベー
ス振興センターを中心に開始されたプロジェクト
2. 統合型 GIS 実現における検討課題
2.1 共有空間データのデータフォーマット
の成果物である.G-XML とは,特定の GIS ア
統合型 GIS における共有空間データは,将来に
プリケーションに依存しない地理空間データ交換
わたり利用されていく可能性が高い.そのため特
用 XML 符号化を規定した G-XML プロトコルの
定の GIS アプリケーションに依存しない,公開さ
仕様であり,平成 13 年に JIS 規格として制定さ
れたフォーマットを利用することが好ましい.統
れた.
合型 GIS の仕様書では,その具体的な例として
統合型 GIS の実現にあたっては,地理情報標準
や G-XML といった標準技術を用いることが求め
られているが,その本質は,特定ベンダー製品に
地理情報標準と G-XML3) を推奨している.ここ
では両規格の特徴を簡単に述べる.
• 地理情報標準
依存しない標準仕様を採用することで,空間デー
取り扱う対象となる地物の定義方法を標準化
タの共有性・再利用性を高めることにあると考え
したものである.地物定義のための応用スキー
られる.
マには UML を利用し,実際の空間データは
しかし 2002 年 10 月時点において,これら標準
XML で符号化して保存,流通させる.その
技術を用いて作成した XML 形式のデータを管理
ため,応用スキーマを XML スキーマ言語で
するためには,通常の XML 文書とみなして扱う
表現することも求められる.
か,特定ベンダー向けデータフォーマットに変換
地理情報標準形式の空間データは目的に応じ
した上で,各 GIS サーバ製品へ格納する手法を用
て最適な地物を任意に定義できるという長所
いることとなる.前者ではせっかくの空間データ
があるが,反面,実際の GIS アプリケーショ
が通常の XML ファイルと同等に扱われるため,
ン側にデータを渡す際には,それぞれの GIS
空間検索等は実現できない.また後者では,サー
エンジンが利用可能な形式に変換する必要が
バに格納する段階で変換作業が発生するため,完
ある.通常,このような変換ソフトは個別に
全な情報の保存を行うための配慮を心掛ける必要
作成しなければならない.
がある.
• G-XML
これらの状況を踏まえ,本研究では特に地理情
G-XML は,そのデータモデルが仕様で定義さ
報標準をターゲットとし,XML 形式で符号化さ
れているため,利用者がスキーマを新たに定
れた地理情報データをそのままの状態で管理する
義する必要はない.その点では,数あるデー
ことが可能な地物データベースの構築を行う.地
タフォーマットの一つであるが,仕様が公開
理情報標準は独自のスキーマ定義を行うことを前
されており,かつ XML 形式で流通されると
提としているため,地物データベースには利用者
いう点が魅力となっている.
が任意に設計したスキーマを扱えるような工夫が
データフォーマットが仕様で決定しているた
求められる.
め,G-XML の空間データを入出力する GIS
さらに本研究では提案する地物データベースを
用いて,統合型 GIS の利用想定範囲を超えた庁
アプリケーションの実装が可能で,実際に製
品も存在する.
G-XML は現在公開されている G-XML2.0 版
と,OGC が開発している GML との統合を
• 制限
– 申請型
図った現在作業中の G-XML/GML 国際統合
検索は自由だが,利用時には申請が必要
版の 2 バージョンが併存するため,運用に際
である.
– アクセスコントロール型
しては留意する必要がある.
2.2 セキュリティ
部署毎あるいは個人単位で,利用できる
統合型 GIS における,空間データとユーザの役
割を図 1 に示す.通常,各部署では個別の GIS が
データを予め限定する.
– 変換型
稼動しており,共有空間データは各部署の GIS で
ベクトルをラスタ化したり,あるいは間
共有して利用される.各部署は各々の GIS で利用
引き処理により故意に精度を落とした状
しているデータのすべてあるいは一部を共有空間
態で公開する.
データとして提供することが求められる.この場
合,その空間データに対する法的な規制や,部署
のポリシー等を照合し,公開レベルを判断するこ
これらの方策は,組み合わせて使用することも
あり得る.
このように共用に際して何らかの制約を設ける
とになる.さらに細かいセキュリティ制御として,
場合,単にファイルサーバを共用空間データサー
地物単位でのアクセスコントロール(部署毎ある
バとして運用するのでは要件を満たせないことが
いは個々の利用者毎)を検討する必要もある.
わかる.そこで,共用空間データサーバはクリア
さらに,共有空間データを市民や一般企業にま
リングハウスと連携させることが望ましい.すな
で公開するサービスを提供する場合,不正アクセ
わち,クリアリングハウス側で利用者の認証処理
ス防止やコピー対策などにも配慮する必要がある.
や検索処理を行い,データの提供は共用空間デー
タサーバが行うようにする.
2.4 共用空間データサーバの要件
✦ ✌
✰✲✱✴✳
これまで述べてきた検討課題をもとに,統合型
✟✆✓✕✔✞✖
GIS ✎✂✏✆✑✍✒
☛ ☞✆✌
✠
✄✆☎✍✝✂✟✆✡
✂✁
✄✆☎✞✝✠✟✆✡
✩✂✪✬✫✭✪ ☎✍✮✂✯
✄✕☎✞✝✂✟✕✡✂✗
✸✆✹✠✺ ✯ ✻
✦✂✧✠★
められている要件を以下にまとめていく.
• 地理情報標準や G-XML に対応している
✂✁ ✄✆☎✞✝✠✟✆✡
❄✞❅ ✁
☛✂☞✕✌ ✄✕☎✞✝✂✟✕✡✂✗
✠✘ ✄✆☎✍✝✂✟✕✡✂✙
✚✆✛✂✜✕✢✤✣✕✥
☛✂☞ ✧✂★
GIS を実現するための共用空間データサーバに求
✄ ☎✞✝✂✟✕✡✂✗
✠✘ ✕
✶ ✷✍✣✆✥
✵ ☛✂✆
✼ ✟✾✽✍✿✞❀✂❁
✓✂✿✍❂✆❃
図 1 統合型 GIS と共有空間データ
共用空間データサーバは地理情報標準形式や
G-XML 形式で整備された空間データ (XML
形式) そのものを管理できることが望ましい.
• セキュリティの配慮が充実している
2.3 クリアリングハウスとの連携
統合型 GIS では共用空間データの整備と利用
共用空間データサーバは利用権限をもつ利用
者のみにデータを提供する機能を必要とする.
が大きなテーマであるが,実際の共用に際しては,
そこで認証や電子申請,データのダウンロー
セキュリティ上の課題を解決する必要がある.ま
ドといった,空間データサーバへのフロント
ず,共用のための方策として代表的な考え方を以
エンドとしての,クリアリングハウスとの連
下に整理する.
携が要求される.
• 公開
– 完全公開
誰でも入手,再利用が可能である.
– 限定付き公開
再利用には承諾許可を必要とする.
• 任意の空間データを入手できる
利用者は最終的に,共用空間データサーバか
ら必要となる空間データを入手することが目
的である.そのため,共用空間データサーバ
はデータの提供機能を有する必要がある.こ
こで,利用者にとってのデータ入手方法につ
るいはイベント発生時に,外部機関へデー
いて以下のような整理を行った.
タを転送するプッシュ方式の二通りの運用
– ダウンロード利用型
が考えられる.オンライン利用型は,プル
共用空間データサーバから必要十分な空間
方式サービス提供型の一種と考えることも
データのセットをダウンロードし,利用者
できる.
の有する GIS ソフトウェア上で利用する
• データ流通後のフォロー
ものである.電子申請機能や,データ毎
共用空間データの流通が開始されると,地物
にそれぞれ設定したアクセスコントロー
データサーバから入手された空間データが別
ル機能を用いてデータのダウンロードが
の機関へ再流通される可能性が生じる.この
行えることが望ましい.また,任意の範
とき,利用者側が再流通されたデータを利用
囲の空間データを切り出す機能や,切り
したことによって不利益が発生することを避
出した結果セットを XML 形式ではなく,
けるための手法を検討する必要がある.同様
利用者のニーズに応じたデータ形式へ変換
に,著作権保護の観点等から,オリジナルの
するサービスも必要となると考えられる.
空間データをそのまま再流通されることが困
なお,これらの機能の実現には計算機資源
難な場合も想定される.
を大量に使うことが予想されるため,バッ
再流通される空間データがオリジナル(ある
チ処理的なユーザーインタフェースによっ
時点で地物データサーバに登録されたデータ
て提供されることとなる. であること)を保証するためには,電子署名が
– オンライン利用型
有効である.現在,W3C によって XML デー
共用空間データサーバから必要かつ十分
タに対する電子署名方式 4) が検討されており,
な空間データのセットをリアルタイムで
本技術を用いることで流通経路途中でのデー
入手し,即時に利用者の画面に表示させ
タ改ざんを検出することが可能となる.
るものである.利用者側で稼働するソフ
オリジナルの空間データをそのまま流通され
トウェアはさまざまであるが,特に近年
ることが運用上,好ましくない場合は,デー
は Web ブラウザを利用者インタフェース
タの品質を意図的に低下させる方式も有効と
とした空間データビューアへのニーズが高
なる.具体的にはデータの間引きや,ベクト
まっている.実際に利用者側へ配信する空
ルデータをラスタデータに変換したのちに利
間データはベクトルあるいはラスタの両方
用者へ提供する等の手法が考えられる.ただ
が想定される.前者は配信データ量の制御
しこの方式は,利用者にとってはデータの再
が難しく,一定のレスポンスを維持するこ
利用性という観点からは問題が残る.
とが課題となるものの,配信後のデータの
• 個人情報の保護
使い勝手は良い.後者はデータ量を一定以
地方公共団体では個人情報が外部に漏洩しな
下に抑えることを可能とするが,データの
いよう,特に注意を払っている.部署内で使
再利用性は低い.
用している空間データを共有空間データとす
– サービス提供型
るとき,さらに共有空間データを庁外へ公開
XML 形式で格納された空間データを,条
するとき,空間データに個人情報が含まれな
件に応じて別のサービス提供機関へ転送
いよう注意しなければならない.
する.通信プロトコルとしては SOAP を
ベースとした Web サービス規約に基づく
ことがのぞましい.外部からの要求を受け
てデータを転送するプル方式と,定期的あ
3. 地物単位のデータ流通
3.1 地物単位流通でできること
地理情報標準や G-XML は地物単位のデータ記
述を実現しているため,本研究ではこれらを共有
空間データのフォーマットとして採用し,その地
物情報を空間データの流通単位とする.
このように空間データを地物単位で扱った場合
のメリットは以下の通りである.
• データの更新
属性情報が付属している
– 短所:表示する場合には別フォーマットに
変換する.
3.2 地物データの外部利用に関する検討
統合型 GIS では,地物データの運用者ならびに
利用者は,地方公共団体内に限定されている.し
レイヤ単位,ファイル単位で空間データを管
かし,地物データの再利用を進めていくと庁外で
理する場合,ファイル中のある一つの情報(例
の活用が次のテーマとなると想定される.すなわ
えばある店舗の名称)の変更でも,当該ファイ
ち,一般市民,研究機関,民間企業へ地物データ
ル全体の更新となる.地物単位でデータ更新
を提供することが,地方公共団体の新たなサービ
が可能となれば,管理運用負荷が低減される.
スとして位置付けられるものである.
• データの取得
ある条件に合致する地物集合を動的に生成し,
提供することが可能となる.これによって利
地物データを利用した応用サービスの例を以下
に列挙する.
• 市民向け地図提供サービス
用者は必要なデータだけを入手することがで
観光案内,道案内,街づくり等の用途に対応す
きるようになる.
るマップを地物情報から動的に作成する.す
本研究で構築する地物データベースは,上記
でに同様のサービスは全国で稼働しているが,
のメリットを活かせるような仕組みを実現する.
統合型 GIS の枠組みの中で地物データベース
具体的には,空間データの更新が発生した場合,
を運用する場合,常に最新の地物情報を組み
XML 形式で保存された該当地物情報のみを更新
込んだ地図提供サービスを行えるようになる.
する.また,データの取得に際しては,利用者の
例えば,道路工事情報(予定も含む)や,店
検索条件に合致した地物から,新たな XML 文書
鋪の新規立地ならびに廃業,災害情報などを
を生成して返すものとする.
すべて地物として管理し,日々更新すること
構築する地物データベースの原則的な流通単位
は XML 形式のテキストデータとするが,別途,
特定の GIS アプリケーション用ファイルへの変
で,利用者の利便性を著しく高めることが可
能となる.
• 企業向け地物データ提供(販売)サービス
換機能や,ラスタ画像変換機能なども追加できる
地方公共団体が収集した地物データの販売の
ようにする.各データ流通フォーマットの特徴を
是非については議論の余地があるものの,常
以下にまとめる.
に最新情報を入手できるサービスは,企業や
• GIS アプリケーション用ファイル
– 長所:対応 GIS アプリケーションであれば
変換なして利用できる.
– 短所:特定の GIS アプリケーションに依存
にしている.
• ラスタ画像ファイル
– 長所:Web ブラウザなど一般的なアプリ
ケーションで表示できる.
– 短所:ラスタ画像になる前の情報は失われ
る.
• XML 形式の地物
– 長所:1 つの地物が所有する幾何形状情報,
研究機関にとってはメリットが大きい.加え
て地物単位での流通は,小額での課金を可能
とするため,これまで空間データの購入を控
えていた中小企業に対して GIS を普及させる
契機になる可能性がある.
4. 地物データベースの仕様
4.1 要
件
本研究で対象とする地物は,地理情報標準形式
データとする.これは利用者が任意にスキーマを
決定できるため,必然的に,動的なスキーマ変更
に対応できるような地物データベースの設計が必
要となる.
地物データベースに求められる機能要件は以下
のとおりである.
• 地物の検索
マッピングする必要がある.このマッピング方法 5)
には次のようなものがある.
• 構造マッピング
XML の文章構造をテーブルに表現する.具
地物の検索として与えられる条件として空間
体的には XML ファイルの要素名や,属性名
範囲,時間範囲,文字情報 (キーワード) の 3
をテーブルの列として利用する.文章構造に
種類を仮定する.
依存しているため,文章構造が異なる XML
• 地物出力
検索結果として出力された地物情報は次の方
式に変換され,流通されることになる.
– XML 形式
ファイルを格納する毎に,テーブルの新規定
義,あるいは再定義が必要になる.
• モデルマッピング
XML ドキュメントモデルをテーブルに表現す
検索した結果を XML 形式にして出力,流
る.XML ドキュメントそのものを格納するよ
通する.この方法はリアルタイム性が要
うにテーブルが定義されるため,文書構造の
求される.
異なる XML ファイルでも,テーブルを新規
– ラスタ画像
定義,再定義する必要なく,格納することが
利用者は空間範囲を指定して,その中に
含まれる区画のラスタ画像を取得する.
– 特定 GIS データ方式
可能となる.
本研究で対象とする地物データは,スキーマを
自由に拡張できる地理情報標準形式を想定したた
地物を特定の GIS データ方式に変換して
め,構造マッピングでは運用面で問題がある.
(ス
提供する.
キーマ変更の度に,テーブル定義も変更する必要
• 地物の更新
4.2 プロトタイプでのアプローチ
本研究では,地物データベースのプロトタイプ
がある)そこで,本研究ではモデルマッピングを
採択している.
4.4 効率的な格納に関する提案
として,PostgreSQL を機能拡張した XMLPGSQ-
XML 形式の地物データを,そのまま Post-
L1.6 を採用した.これは RDB のテーブル上に
greSQL + XMLPGSQL に格納するだけの方式
XML データを格納するためのテーブル定義と,
では,以下のような問題が発生する.
6)
そのテーブルへのアクセスを行う関数の定義を含
• 地物単位の空間検索が困難
んでいる.
• マッピング対象ノードの増大による性能の劣化
別のアプローチとして,XML データをそのま
そこで,本研究では格納対象地物データに事前
まの形で管理するネイティブ XML データベース
処理を施すことでこれらの問題を解決する方法を
の利用も考えられる.これは表形式への変換処理
提案する.
が不要であるため,より高速に動作すると考えら
れているが一般への普及はこれからである.
• MBR タグの付加と点情報タグの一括処理
空間検索を行う為に地物の幾何形状情報に対
本研究では,プロトタイプをリレーショナルデー
する MBR を抽出し,それを MBR タグとい
タベース上に構築することとした.特に Post-
う形で XML 文章に追加する.また MBR の
greSQL はオープンソースであり,また空間検索
抽出で参照したすべての点情報を content タ
インデックスを実装していることから,プロトタ
グの値として変換し,XML 文章を変更する.
イプの実装には最適であると判断した.
これを図 2 に示す.
4.3 マッピング方法
• 地物情報をテキストとして別に保存
XML ファイルを RDB に格納する場合,XML
XML データベース内の情報から地物を復元
ファイルのデータ構造を RDB のテーブル構造に
するには,地物タグ以下の要素を 1 つずつ取
✂✁✂✄✂☎
✆✂✝ <
id="CTV000201">
<Name>
</Name>
<surface id="SS000001">
<CRS idref="CC00015"/>
<patch>
<controlPoint>23521.49 24852.78</controlPoint>
<controlPoint>23513.02 24802.97</controlPoint>
<controlPoint>23510.86 24793.58</controlPoint>
<controlPoint>23502.54 24763.21</controlPoint>
✂✁✂✄✂☎
が流通する.これにより Web サービスのチェー
ンとして地物データベースを加えることが可能に
なる.UDDI への登録も可能になる.
4.9 データ変換機能との連携
検索結果は地理情報標準の XML 形式であるた
め,データを外部に提供する際には,データ変換
✆✂✝ id="CTV000201">
<
<Name>
</Name>
<surface id="SS000001">
<mbr maxx="82472.63" maxy="96807.55"
minx="13821.47" miny="7831.8"/>
<content>
&lt;CRS idref="CC00015"/&gt;
&lt;patch&gt;
&lt;controlPoint&gt;23521.49 24852.78&lt;/controlPoint&gt;
&lt;controlPoint&gt;23513.02 24802.97&lt;/controlPoint&gt;
&lt;controlPoint&gt;23510.86 24793.58&lt;/controlPoint&gt;
&lt;controlPoint&gt;23502.54 24763.21&lt;/controlPoint&gt;
図 2 XML ドキュメントの構造を変更する
機能を用いて変換を行い,提供する.
5. プロトタイプシステムの構築と評価
地物データベースのプロトタイプシステムの構
築を行い,検索機能についてその性能を評価した.
プロトタイプシステムでは地物をデータベース
に格納したあと MBR タグの情報を利用して空
り出す必要があり,テーブルに格納された要
間インデックスを作成した.空間インデックスは
素数の増大により,その速度は低下するもの
PostgreSQL 側の機能として実装されているもの
と考えられる.そこで地物タグ以下の情報を
を利用する.
テキストとして保存しておく.
• 要素別指定検索
地物には幾何形状情報以外の属性情報も保持
している.これらの情報に対する条件を加え
た検索を可能にする.
4.5 地物単位更新の留意点
地物データベースでは,データベースの機能で
あるロックも地物単位で行う必要がある.
地物データベースでは地物のロック管理を行う,
ロックマネージャを用意する.
利用するデータファイルは地理情報標準形式で
表現された沖縄本島の市町村界と字丁目界である.
表 1 にその詳細を示す.
検索は沖縄本島の南部から順に1市町村ずつ含
んでいくように空間範囲を指定する.計測対象は,
地物を検索する時間及び,XML 形式の地物情報
が出力されるまでの時間である.結果を図 3 及び
図 4 に示す.
これらの結果から,検索時間は地物数に関わら
ずほぼ一定であるが,データベースから地物情報
さらにユーザの,地物に対するアクセス権を管
を取得する時間は地物数にほぼ比例している.こ
理する権限管理マネージャとの統合を検討する.
れは先に述べたように 1 つの地物情報をテキスト
4.6 地物一括更新の留意点
としてまとめるといった工夫をすることで改善さ
地物の一括更新を SQL 文によるバッチ処理で
れるものと考えられる.
行うことは,可能だが SQL 文の処理には時間を
要する,SQL 文が膨大になると,非常に処理が遅
くなる.
PostgreSQL ではテーブルのイメージファイル
を作成し,登録することでこの問題を回避できる.
表 1 地理情報標準形式データにおける幾何形状情報 (空間データは沖縄本
島の各地物)
地物名
家屋
街区界
字丁目界
市町村界
点情報の数 (1)
面情報の数 (2)
(1)/(2)
3056327
457517
6
295886
11073
26
198272
1058
187
105499
34
3102
4.7 WebGIS との連携
WebGIS のベースマップとして地物データベー
スからラスタ画像を取得して利用する.
4.8 Web サービスとの連携
6. ま と め
本研究では統合型 GIS における共用空間データ
地物データベースと Web サービスの連携によ
の管理運用として同仕様で示されている技術標準
り,他の Web サービス間で XML 形式のデータ
の一つである地理情報標準を用いた地物単位の管
しました.
12000
search
search + retreive
time (millisecond)
10000
参
8000
6000
4000
2000
0
0
5
図3
10
15
20
size of features
25
30
35
地物データの出力 (sityoson gi.xml)
180000
search
search + retreive
160000
time (millisecond)
140000
120000
100000
80000
60000
40000
20000
0
0 100 200 300 400 500 600 700 800 900 10001100
size of features
図 4 地物データの出力 (azatyomokukai gi.xml)
理を想定し,それに関わる課題や応用事例につい
て体系的に整理を行った.
扱う空間データの粒度を,従来のファイル単位
から地物単位とすることにより,庁内はもちろん
のこと庁外に対しても品質の高いサービスを提供
できる可能性を示した.また,クリアリングハウ
スと地物データベースの連携によって,これらの
サービスを実現する方式についても示した.
さらに,本研究では試験的にリレーショナルデー
タベースを用いた地物データベースを構築し,そ
の性能評価を行った.データの検索速度について
は概ね実用的な数値が得られたが,データの取得
は扱う地物データの量に比例して時間がかかるこ
とを示した.
今後は,本稿で示した要件を満足する地物デー
タベースの実装を進めていくものである.
謝
辞
本研究は国土交通省による平成 14 年度 GIS 整
備・普及支援モデル事業における実証実験データ
ベース利活用実験で提供された空間データを使用
考
文
献
1) 総務省自治行政局地域情報政策室 (2001) 統合
型 GIS 共用空間データベース及び広域活用に
関する調査研究.< http://www.lasdec.nipponnet.ne.jp/
rdd/gis/to12.htm >.
2) 国土交通省国土地理院 (2002) 地理情報標準
関連.< http://www.gsi.go.jp/REPOR
T/GIS-ISO/stdindex.html >.
3) (財) データベース振興センター (2002)GXML.< http://gisclh.dpc.or.jp/gxml/co
ntents/index.htm >.
4) World Wide Web Consortium(2002)XML
Signature Working Group.< http://www
.w3c.org/Signature/ >.
5) Yoshikawa, M.・Amagasa, T.・Shimura,
T.・Uemura, S.(2001), XRel: A Path-Based
Approach to Storage and Retrieval of XML
Documents Using Relational Databases.
ACM Transactions on Internet Technology,
1(1),110-141.
6) 小松誠・今井陽平・岡本佳子・北薗誠・大江優
(2002) 特集 XMLPGSQL で広がる XML-DB
システム. 「Software Design」,18-64