こちら - IRCA

~取締役会の関与を促すチケット~
本誌は、2015年2月発行Quality World 誌38-41ページの英文に基づいています。
翻訳文に疑義がある場合は、英語版原文に準拠してください。
~取締役会の
関与を促すチ
ケット~
“Annex SL は、あらゆるマネジメントシステムに適用され
る要求事項を現実的に可能な限り標準化することを目指し
ています”
CQIテクニカルサービス部門長リチャード・グリーン氏が、
「CQIコンファレンス」において、企業の経営幹部に対する
Annex SL (附属書SL) の影響について講演します。
A
nnex SL の導入によってマネジメントシステム監査に携わ
る人々にどのような影響が生じるかについては数多くの議
論が紙面を賑わせていますが、組織を率いる人々に対する
影響について論じた文献はそれほどありません。これは極
めて不自然なことです。Annex SLの発行によって、監査
員の次にその行動の修正を迫られる可能性があるのは、他でもない企業の
経営幹部であるからです。この理由についてきちんと理解するため、ここ
で一歩下がって、Annex SL とはそもそも何であるのか、何を実現しよう
としているのかについて考察してみましょう。
Annex SLは、「 ISO/IEC Directives Part 1 and Consolidated
Supplement(ISO/IEC専門業務用指針第1部 統合版ISO補足指針)」 とい
う表題の文書に含まれています。この文書は、あらゆる国際規格及び関連
文書の策定において踏襲すべき基本手順を定めたものです。つまり、規格
策定者が何をすべきか、何をしてはいけないかを規定したルールブックと
言えるものです。
Annex SL は、 この分厚い文書の一角を形成するものです (「SL」 と
いう表題がついているのは、「 SK 」の後で「SM」の前に記載されてい
るためです)。 Annex SLは、マネジメントシステム規格の新規策定又は
改訂に携わる人々が規格案をどのように作成すべきかを規定したもので、
Annex SL の「Appendix 2 」 では、あらゆるマネジメントシステム規格
が採択し準拠しなければならない上位構造、共通の中核となるテキスト並
びに共通用語及び中核となる定義を規定しています。この Appendix 2 こ
そが、取締役会の日常を興味深いものへと変えていくものであります。
38 | Quality World | February 2015
“システムをシンプルなも
のにすることによって、
その維持と監査に必要な
資源を軽減することがで
き、また、常に進化し続
ける企業のニーズを満た
すためにシステムを変更
することも容易になりま
す”
その影響について
Annex SLの発行を決めたISOの意図は、理にかなったものでし
た。マネジメントシステム規格の数は、この15年間に急増しまし
た。品質マネジメント、環境マネジメント、労働安全衛生マネジ
メント、リスクマネジメント、事業継続マネジメント、情報セキ
ュリティマネジメント、アセットマネジメント・・・その他にも
まだまだ数多くのマネジメントシステムに関わる規格が発行され
ています。
しかし、これらの規格を見ると、よい場合でも、類似してはい
るが同一ではない要求事項が規定されているのがせいぜいで、最悪
の場合、相反する要求事項が規定されていることさえあります。
マネジメントシステム規格の間でこのようなばらつきがあるがため
に、複数の規格で認証を取得している組織ではさまざまな問題が生
じており、このことが、複数のマネジメントシステムを統合して単
一のビジネスマネジメントシステムを構築することの障害になって
いるのが現状です。ISOでも、これは看過し難い状況であるとの認
識を持っていました。
Annex SL及びそれに関連する複数のAppendixでは、あらゆる
マネジメントシステムについて、それが何に関するマネジメントシ
ステムであったとしても、共通に適用される要求事項を現実的に可
能な限り標準化することを目指しています。この考えかたとは、つ
まり、品質マネジメントにおいてリーダーシップに関する要求事項
が満たされていれば、環境マネジメントにおいても、労働安全衛生
マネジメントにおいても、他のマネジメントにおいても、その要求
事項は満たされているとするというものです。
あらゆるマネジメントシステム規格の基礎としてAnnex SLの
Appendix 2が採択されることにより、複数のマネジメントシステ
ム規格を運用する組織は、そのシステム設計の大幅な効率化を図る
ことができるようになります。更に、システムがシンプルになれ
ば、その維持と監査に必要な資源を軽減でき、その管理も容易に
なり、また、常に進化し続ける企業のニーズを満たすためにシス
テムを変更することも容易になります。組織の経営幹部は、このチ
ャンスを生かしてマネジメントシステムの改善に役立てなければ
なりません。
より柔軟に
しかし、恩恵に浴するのは、何も複数のマネジメントシステム
規格を運用する組織に限ったことではありません。Annex SLに則
って今後策定される規格は、従来の規格ほど事細かな規範を記述
したものではなくなるため、所定のマニュアルや手順の作成が要
求されることもなく、組織は今まで以上に自由に自らのマネジメ
ントシステムを自らに適したかたちで設計することができるよう
になります。
今後は、組織本来のビジネスマネジメントシステムの日常的運
用を通じて規格の要求事項を満たすことができるようにますますな
っていきます。従来のように、単に規格の要求事項を満たすだけの
ために、自らのビジネスマネジメントとは別に、別途、専用のシス
テムを構築する必要を組織が感じることは無くなるのです。
外部監査は、組織の日常を乱すものであることに変わりはない
かもしれませんが、様々な規格の要求事項の共通化が進むことに
よって、第三者審査のアプローチに変化が生じる可能性が出てき
ます。
2月は労働安全衛生の監査、6月は品質監査、そして9月は環境
監査を受けるという状況に代わって、これらの監査をすべて纏めて
一回で済ませることも可能になってくるかもしれません。既に、こ
のようなアプローチについて積極的に検討を始めている認証機関も
数多くあり、全体としての現地監査工数の削減に繋がるものと思わ
れます。とは言え、一方で、認証機関が審査を計画するために要す
る時間が長くなることもまた避けられない事実です。
February 2015 | Quality World | 39
責務の変化
ここまでは、Annex SLの導入によって組織の経営幹部にどのよ
うな影響が生じるかについて、主として組織の面から検討してきま
したが、Annex SLは、個人のレベルにおいても組織の経営幹部に影
響を与えます。
Annex SLのAppendix 2には幾つかの定義が規定されています
が、その中でも特に興味を引くのが3.05項「トップマネジメント」
です。この用語は、「最高位で組織を指揮し、管理する個人又は人
々の集まり」と定義されています。冒頭に記載されている「最高位
で」という文言が極めて重要です。
既存のマネジメントシステム規格では、その大半において、管
理責任者という役割、即ち、マネジメントシステムの要として行
動する人を任命することが要求されています。通常、この管理責任
者は、品質マネージャー、環境マネージャー等に相当します。しか
し、Annex SLに則って今後策定されるマネジメントシステム規格に
は、この管理責任者という役割に関する規定がありません。既存の
管理責任者をそのまま残すという選択を組織がすることはできます
が、特にそうしなければならないわけではないのです。
Annex SLでは、いくつかの業務について、トップマネジメント
(即ち、CEO及び取締役会)が遂行しなければならないと規定してい
ます。これらの業務は、今までは管理責任者に任されていたかもし
れないものですが、今後は人任せにすることはできません。選択の
余地はないのです。ここには、組織のマネジメントシステムの統括
責任とリーダーシップは最高位で担うことを徹底するというAnnex
SL策定者の思いが反映されています。もう既に、トップマネジメン
トがこの任務を完全に担っているという組織もあります。
しかし、IRCAが英国内外で実施してきたDIS ISO 9001:2015ワ
ークショップにおける議論に拠れば、まだそこまで至っていない組
織が大半のようです。このような組織のトップマネジメントに対し
ては、マネジメントシステムに関与しなければ認証書を失うリスク
が生じるというメッセージを発信しなければなりません。更に、ト
ップマネジメント自らが実施しなければならない業務があるという
ことは、即ち、トップマネジメントも定常的に監査の対象となるこ
とを意味します。このことは、CEO、取締役、そして、マネジメン
トシステム監査員にとって、新たな課題を投げかけるものです。最
高位の人々を監査することに馴染んでいない監査員がたくさんいる
はずです。
40 | Quality World | February 2015
“Annex SLに準拠した
規格の導入は、両刃の
剣ともなり得ます”
今こそ新たな可能性を探る時
Annex SLに準拠した規格の導入は、両刃の剣ともなり得ます。ト
ップマネジメントには、複数のマネジメントシステムの合理化を図
り、コスト削減に繋げるチャンスを提供する一方で、同時に、自ら
の行動を変革して、今まで以上に自らの時間と労力をマネジメント
システムに割くことが要求されるからです。
皆様ご自身がトップマネジメントであるならば、今回お話した様
々な変化がご自身と組織にもたらす意味合いについて理解して頂く
必要があります。何れにせよ、Annex SLがもたらす変化は、皆様
の部下だけではなく、皆様自身に直接影響を与えるものであるので
す。
「CQIリーダーシップコンファレンス2015」では、私が担当する
トップマネジメントを対象としたワークショップが開催されます。
このワークショップでは、今までお話した様々な変化から事業にお
ける最大限のメリットを得るにはどうすればいいのかを明確にして
いきます。更に、トップマネジメントが担う新たな責務について、
また組織の認証の維持に影響を与え得る潜在的な問題点について、
ご説明します。
今後、日本でも同セミナーを開催する際にはご案内します。
!
換ができるチャンスです。
Richard Green来日決定
ーンに直接会って、意見交
グリ
ド・
ャー
リチ
門長
の上ご参加ください。
CQI/IRCAテクニカル部
すので皆様もお誘い合わせ
しま
講演
トで
ベン
種イ
ISO9001:2015
5月の下記日程で、各
ISO9001:2015
IRCAフォーラム2015
アップデートトレーニング
ング
アップデートトレーニ
)
(土
23日
5月
2015年5月26日(火)
2015年
2015年5月24日(日)
麹町厚生会館
横浜パシフィコ
横浜パシフィコ
10:00~17:30
アネックスホール
ンジ
ラウ
ハーバー
10:00~17:00
10:00~17:30
CPDの実績としても活用
各種イベントの
詳細及びお申込
み方法は、
ウェブサイトよ
りご確認くださ
い。
IRCAフォーラ
ム2015:
http://www.ir
ca.org /ja/trai
ning /IRCAFor
ISO9001:201
um2015/
5アップデート
ト
レーニング
http://www.ir
:
ca.org /ja/trai
ning /worksho
p/qms_upda
できるイベントです
te /
各日、座席数に
お申込みはお早 限りがあります。
目に!
February 2015 | Quality World | 41