課題1:蛙のゴム靴(著者:宮沢賢治)

課題1:蛙のゴム靴(著者:宮沢賢治)
まつ
き
なら
き
はやし
した
ふか
せき
なが
松の木や 楢の木の 林 の下を、深い堰が
いっぱい
じっぽん
一杯にしげり、そのつゆくさの
十本ばかり
でが
が
お
きし
いばら
流れて居りました。岸には
あつま
くさ
茨や
つゆ草や
した
た
がえる
集 った下の
あたりに、カン 蛙 のうち
ありました。
はやし
なか
なら
き
した
がえる
それから、 林 の中の楢の木の下に
はやし
ブン 蛙 のうちが
むこ
ありました。
がえる
林 の向うの すすきのかげには、ベン 蛙 のうちが
さんびき
とし
おな
三疋は 年も同じなら
ありました。
おお
だい
大きさも
大てい同じ、どれも
おな
ま
おと
な ま い き
負けず劣らず
生意気で、いたず
らものでした。
なつ
く
かた
がえる
がえる
がえる
さんびき
がえる
いえ
まえ
ひろば
ある夏の暮れ方、カン 蛙 ブン 蛙 ベン 蛙 の三疋は、カン 蛙 の家の前の
すわ
くもみ
お
座って、雲見ということを
いったい
かえる
やって居りました。一体
なつ
ぎょくずい
大すきです。じっさい
またたんぱくせき
あのまっしろな
きざ
のような、又蛋白石を
み
ぶどう
刻んで
かえる
おきもの
それが
かえる
たまご
に
春の 蛙 の 卵 に
ところ
似ています。それで
かえる
あたま
たれ
め
りっぱ
なが
あ
眺めても
かたち
立派に
厭きないので
に
蛙の頭の形に
肖ていますし、それか
にほんじん
はな み
つきみ
日本人ならば、ちょうど
花見とか
月見とか
い
言
くもみ
う 処 を、 蛙 どもは
「どうも
みね
なが
かえる
いうものは、どこか
み
たま
雲の峯は、誰の目にも
見事なのです。眺めても
くも
す。そのわけは、雲のみねと
はる
くも
みごと
殊に
みね
プクプクした、玉髄 のような、玉あられ
こさえた葡萄の置物のような
こと
見えますが、蛙 どもには
ら
くも
蛙 どもは、みんな、夏の雲の峯を 見
だい
ることが
つめくさの広場に
雲見を
やります。
じつ
りっぱ
実に
立派だね。だんだん
こんじき
えいえん
せいめい
けい
ペネタ 形 になるね。」
おも
「うん。うすい金色だね。永遠の生命を思わせるね。」
じつ
ぼく
りそう
「実に僕たちの理想だね。」
くも
けい
雲のみねは だんだん
たい
大へん
あたりは
こうしょう
まい
けい
かえる
なって参りました。ペネタ形というのは、蛙 どもでは
ひら
高尚 なものに
よほど
ペネタ形に
くも
みね
なっています。平たいことなのです。雲の峰は
うすくらくなりました。
くず
だんだん
崩れて
ごろ
ほう
ぐつ
「この頃、ヘロンの方では
うことです。
「うん。よくみんな
かえるご
ゴム靴が
はやるね。」ヘロンというのは
にんげん
蛙語です。人間とい
はいてるようだね。」
ぼく
「僕たちも ほしいもんだな。」
まった
「 全 くほしいよ。あいつを
はいてなら
くり
なん
栗のいがでも
何でも
こわくないぜ。」
「ほしいもんだなあ。」
て
い
くふう
「手に入れる工夫は
ないだろうか。」
ぼく
おお
「ないわけでもないだろう。ただ僕たちのは
こしら
から
なお
ヘロンのとは
かたち
大きさも
だいぶ
型も
大分
ちがう
だめ
拵 え直さないと
駄目だな。」
「うん。それはそうさ。」
くも
さて
まった
雲のみねは
全く
がえる
あいいろ
くずれ、あたりは
い
がえる
ン 蛙 とは、「さよならね。」と云ってカン 蛙 と
じぶん
かえ
藍色に
がえる
なりました。そこで
はやし
した
せき
わかれ、 林 の下の堰を
ベン 蛙 と
ブ
いさ
およ
勇ましく
泳いで
い
自分のうちに 帰って行きました。
出典:青空文庫