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 The 22nd Princeton Japanese Pedagogy Forum Japanese Language Education for the Global Citizen 社会・コミュニティ参加をめざす日本語教育
May 9-­‐10, 2015 Princeton University SCHEDULE May 9 (Saturday) 9:00 -­‐ 9:30 a.m. Nobuaki Takahashi (Elizabethtown College) 訂正手法の明示的指導がペアワークに与える影響 (日本語) 本研究は訂正フィードバックを明示的に指導することがペアワークにおけるインターア
クションに与える影響についての検証である。
教師による様々な訂正フィードバック(引き出し、リキャスト等)の効果については、
様々な要因による差異はあるが、概して肯定的な結果が報告されている。これは、教師
だけでなく、学習者からも「教師による誤りの訂正」があらかじめ期待されていること
による要因も大きい(Lyster et al., 2013)。
しかし、近年ではコミュニカティブアプローチの台頭により、ペアワークにおける学
習者同士のインターアクションや、その中での訂正活動についても焦点が当てられてき
ている(Mackey et al., 2003)。しかし教師に比べ、学習者同士は訂正頻度自体が著し
く低いという結果や、訂正が与えられても、最終的に誤りの訂正に繋がるための気付き
を促進する効果が低いという結果が一般的である(Sato & Lyster, 2012; Takahashi,
2003)。
本研究は、そのような描写的研究を脱し、問題の解決策を模索する足がかりとして、
訂正手法を明示的に学習者に指導、練習を行うことにより、意味交渉としてのコミュニ
カティブタスクにおける訂正活動自体をタスクの一環として織り込むことの効果を検証
した。
双方が訂正手法を学んだペア、片方のみが訂正手法を学んだペア、インターアクショ
ンの機会のみを与えられたペアの、教室活動内のペアワークの録音データから、誤りが
起こった時の訂正率、訂正に対する発話の修正(アップテーク)率、アップテークの正
答率を見ることにより、明示的な訂正手法の指導がペアワークに与える影響を検証した。
さらに、学習者がどのような訂正手法を選択する傾向があり、そこには何らかの理由が
あるかも刺激再生法セッションを通して調査した。
9: 30-­‐ 10:00 a.m. Noriko Yabuki-­‐Soh (York University) 語りの文章における日本語学習者の視点の表現と指導法についての考察(日本語) 本研究は、ストーリーを語る作文中で使用された視点に関する表現を日本語学習者と母
語話者間で比較した上、視点の表現の効果的指導法について考察した。第二言語として
日本語を学ぶ中・上級の学習者が産出した作文には、授受表現や動詞の受身形などの
個々の文法は習得済みなのにもかかわらず、その使い方が不自然な文が見受けられるこ
とがある。これは、日本語で談話を構成する際の語り手の視点の置き方(池上 2006 他)
が学習者には把握されていないことが原因となっている。日本語学習者 20 名(母語は
英語)および日本語母語話者 20 名を対象に、複数の登場人物が関わる十コマ漫画の内
容を説明する作文に現れた視点の表現を比較分析したところ、日本語母語話者は主人公
かそれに最も近い登場人物に視点を置いて授受動詞や移動動詞、受身文などを使用して
ストーリーを展開しているのに対し、学習者は特定の登場人物に視点を定めず主に行為
主体者を文の主語として動詞を選んでいるため、全体的に文章が理解しにくいことが分
かった。教室等で文法項目が導入される際、授受表現は話し手と聞き手の立場、動詞の
受身形は直接受身と間接受身などの概念と共に説明されるのが一般的である。この研究
では比較分析の結果に基いて、文レベルでは行為の授受表現や受身形として用いられ易
い動詞を念頭に置くこと、談話レベルでは語り手の視点を固定してストーリーを展開す
ることを日本語の学習指導に取り入れる具体例を提案する。結論として、学習者が日本
語でストーリーを効果的に表現するためには、談話を構成する際個々の構文の文法だけ
ではなく視点の置き方に注意を払うことが重要で、指導にも盛り込む必要があると言え
る。
10: 00-­‐ 10:30 a.m. Noriaki Furuya (Waseda University) 日本語教師は教室外日本語学習環境整備にどのように携わったか:メディエーターとし
ての日本語教師―(日本語) 発表者が所属する教育機関では、近年、留学生等の日本語を母語としない学生が急増し
ている。従来、日本語を母語としない学生に対する支援は、主に日本語科目を提供する
という形態で行われてきた。しかし、日本で生活している学生たちは、教室でのみ日本
語を学習したり、使用したりしているわけではない。むしろ教室外で日本の学習/使用
に関する問題に遭遇している。また、様々な事情により、日本語科目を受講したくても
受講できない学生もいる。日本語を母語としない学生が日本語科目のみに依存すること
なく、大学生活の中で遭遇する日本語の学習/使用をめぐる諸問題に対応するためには、
個々の学生の自律的な日本語学習を支援する必要がある。
上述したような問題を解決するため、発表者は、同僚とともに教室外日本語学習環境
整備プロジェクト(以下、「プロジェクト」)に取り組んでいる。「プロジェクト」は、
日本語学習や学生生活において疑問・問題を抱えた学生が自分に最も相応しい日本語学
習リソースや留学生サポートにセルフ・アクセスできるような支援ネットワークを構築
する試みである。同時に、日本語教師が機関内の各部署をつなぐことをとおし、教育機
関全体を変革する試みでもある。
本発表では、まず、社会実践とも呼べる「プロジェクト」を構想するに至った経緯と
背景を説明する。次に「プロジェクト」の理論的な位置づけを行う。そして、「プロジ
ェクト」の詳細な展開を記述し、考察する。更に、記述と考察から得られた知見をもと
に、従来の「日本語を教える」人としての日本語教師に代わるメディエーター、すなわ
ち仲介者、媒介者としての日本語教師という新たな日本語教師像を提示する。
10:45 -­‐ 11:15 a.m. Noriko Hanabusa (University of Notre Dame) 多読授業は自律学習促進に有効か?:自己評価を中心に考える (日本語)
教室を離れてからの日本語学習の継続には、在学中の自律性の養成が必須である。筆者
所属の日本語プログラムでは、この一環として、2014 年秋学期、図書館での日本語多
読授業を開講した。筆者は教室外で、教材の購入、所蔵本リストの作成等を司書と協働
して行っている。
多読は、やさしくて分かるものを楽しみながら読み、大量のインプットから語彙や文
法を自然に身につけるという考え方である(NPO 法人日本語多読研究会 2012)。教員
が選んだ同一教材を全員で読み、細かな内容理解を目指す精読は、個々の学習者のニー
ズを満たしていない (Hardy 2013)。これに代わり、学習者一人一人が自分のペースで
読み物を読む多読は、近年外国語教育で注目されている。
当授業の中心は個人の多読活動であり、学習者は本を読むごとにジャーナルに記入す
る。トムソン(2008)は、学習者主導型評価が学習者オートノミーを育てていく力を持つ
と述べる。そこで、ジャーナルを振り返り材料とし、中間・学期末自己評価を取り入れ
た。評価では「読書の楽しさを知ってもっと本を読みたくなった」「授業外でも本を読
むつもりだ」等自律学習につながるコメントが目立った。また、学期末のポスター発表
では、自分で作成した本の読み聞かせやブックトークを通じて成果を共有した。授業で
は、教員は徹底して支援者に回り、学習者への指示を極力避け、彼らの意見を尊重する
ように努めた。
本発表では、ジャーナルや自己評価、プロジェクト作品等を分析し、多読が自律性に
もたらす効果について考察する。また、自律学習を促す環境作りには、語学教員と関係
部署との連携が不可欠であることにも言及する。
11: 15-­‐ 11:45 a.m. Fumi Yamakawa (International Christian University) 留学中の大学寮というコミュニティへの参加 (日本語) 本発表の目的は、日本で日本語を学ぶ留学生が大学寮というコミュニティにどのように
参加し、どのようにそのコミュニティの一員になっていったのかという参加形態の変化
を明らかにすることである。
これまで、留学生に対する日本語教育研究では、日本語教師が教室でいかに効率よく日
本語を教えるかということが中心に議論されてきた(尾崎,2001;春原,1995)。そのため、
教室外における留学生のコミュニティ参加には、あまり関心が向けられず、特に大学寮
は最も研究の進んでいない分野の一つであると指摘されてきた(Ogden,Dewey &
Kumai,2011)。
そこで本研究では、まず、一次調査として、留学生 35 名に対し、彼らが留学中どのよ
うなコミュニティに参加しているのか質問紙調査および聞き取り調査を行った。その結
果、留学生は日本語クラスやクラブ活動、大学寮などの複数のコミュニティに属してい
るものの、その中でも特に大学寮を重要なコミュニティとして位置づけていることがわ
かった。そのため、二次調査では大学寮に焦点を当て、留学生 35 名中の 5 名とその友
人である日本人学生 10 名を対象に、参加過程についてさらなる聞き取り調査を行った。
その結果、留学生たちは来日当初は、常に寮生から教えられるという受動的な立場であ
ったが、寮生たちと時間や空間を共有し、生活を共にする過程の中で、徐々に主体的な
参加へと変わっていった。つまり、「周辺的参加」から「十全的参加」へと参加形態を
変容させていったので、あった。そして、最終的には、寮というコミュニティの一員と
して成長していったことが明らかになった。
11: 45-­‐ 12:15 p.m. Ayumi Nagatomi (Japan Center for Michigan Universities) 内省型コース:留学プログラムで育む自律学習(日本語) 日本語能力の移り変わりが 実感しやすい初級段階を経ると、それぞれの得意な部分と苦
手な部分が顕在化、また、固定化してくる。 苦手な部分にばかりとらわれれば、学習意
欲の低下を招く恐れもある一方、得意な部分のみに焦点をあてれば誤用の化石化が進む
可能性もある。そこで、留学すれば、環境も気分も変わり、学習意欲も日本語能力も上
がるのでは、という期待を抱く学習者も少なくないのではないだろうか。 しかし、留学プログラムにおいては、新しい環境で 様々な負荷がかかるのも事実である。
他人との交流の大半は英語だった、また、 インターネットで英語に接する時間が多かっ
た等、 せっかくの 機会を生かせず留学生活を終えてしまうこともあり得る。目的意識を
持ち、自らをふりかえり律し、積極的に学び続ける自律学習の姿勢が重要であるが、一
朝一夕に身に付くものではない。 そこで、 留学プログラムこそ、内省を深め自律学習者として成長していける期間ととら
え、以下に留意し「内省型」コースを設計した。 1) コース開始時の Can-­‐do 記述をもとに目的意識を育む 2) 各課の最初と最後に生教材を用い、進歩を実感する機会を設ける 3) 作文や試験の自己訂正を習慣づける 4) コース開始時と終了時に比較しやすい形で作文と発表の音声を残す 3)と 4)に関しては、日本語能力の向上の実感ならびに今後の課題の自覚にもつなが
った。1)、2)については効果を疑問視する声が目立ったものの、「学び」そのものにつ
いて学習者と教師との対話が促され (Kalayanee and Terry, 2008)、学習者の支援の一助と
なったと言えよう。 ........................................................................................................................................................................ Poster Session A (1:15 -­‐ 2:00 p.m.) ChihTzu Kao (Columbia University) 発話スタイルとしてのリズム研究:日本統治時代に日本語教育を受けた台湾人の OPI 分
析から 台湾は 1895 年から 50 年間日本統治時代を経験した。その時代に日本語教育を受けた台
湾人たちをここでは「日本語世代」と定義する。この研究は、2014 年に台湾の 9 名の
日本語世代の方々に行った OPI(Oral Proficiency Interview)の結果から彼らの日本語の
特徴を分析し、現在の第二言語習得としての日本語教育に生かそうとするものである。
9 名の被験者達の年齢は 78 歳から 90 歳で、統治時代に受けた日本語教育の年数、学習
/生活環境、戦後の日本語使用状況により日本語口頭能力には差が生じていた。
牧野(2013) は、名詞を中心とする文の要素の繰り返しが文体リズムのもととなってい
ると考察しているが、繰り返しに焦点を当て日本語世代の発話スタイルを分析すると、
6 つの繰り返しの種類が見つかった。(以下、確囲内は発話例)①単純反復(「しっぽのな
い、ひれのない、片目のない魚」)②強調反復(「やっぱし台湾語ね。台湾人だから。や
っぱし台湾語ね」)③待遇的反復(「台湾が住みにくいとか、住みやすいとか」) ④並列
反復(「毎日本を読んだり、家事したり」) ⑤同意義反復(「なかなか言いにくい、答え出
しにくいよ」) ⑥情報付加の反復(「葡萄酒のませなさい、赤玉の葡萄酒」) である。繰
り返しがリズムを生み出すとすると、日本語世代の発話には、OPI 判定レベルに関わら
ずリズム的要素が含まれていることが示唆され、彼等の発話スタイルをモデルとして
JSL 学習者たちに発話スタイル教育の提案ができるのではないかと考えた。
今年は戦後 70 年を迎えるが、この研究から日本語世代の日本語が単なる「歴史の産物」
という位置づけではなく、十分に現行の日本語教育の将来に提言を与えうる存在である
ということが分かった。
Shinji Kawamitsu (University of Massachusetts, Amherst) ジャンル理論を取り入れた読み書き指導を考える 近年、言語教育の領域ではリテラシーの社会性に焦点が当てられているにも関わらず、
他の外国語教育同様、未だ日本語教育における「書くこと」は、教科書内容理解、そし
て語葉・文法・漢字の習得を確認する場として根付いているようである。このように学
習者の内容理解・言語習得のみに焦点を当てる事で、読むこと・書くことに内在する社
会参加性(social practice)が軽視され、読み書き活動を通して紹介される文化や知識は
直線的に学習者に伝えられ「固定的で正しいもの」と認知されてしまう。
最近ではこれらの諸問題に対して、批判的言語文化教育(critical literacy)が導入されつ
つある。批判的言語文化教育では、教師や教科書から画一的に与えられる文化や知識に
懐疑的になり、学習者の経験や知識を利用し、普遍的で「正しい知識を脱構築・再構築
する試みが取られている。しかし、批判的言語文化教育では討論や語りを主なアプロー
チとする性質上、テクストの産出に関する研究は、現段階では主に言語運用能力の高い
学生が集まる日本語上級クラスでの研究に限られているようである。
本発表では初級後半/中級クラスへの批判言語文化教育導入を視野に入れ、テクストの
社会性を体系的・機能的に明示した読み書き指導「ジャンルアプローチ」を用いたクラ
ス活動を紹介する。アメリカの私立大学の初級後半クラスで実施した書きもの指導の一
部を紹介しながら、学習者が社会性コンテクストに適したテクスト、もしくはそれらを
批判するテクストを産出する主体性を考察し、日本語教育での「ジャンルアプローチ」
の応用性、そして批判的言語文化教育への実行可能性を示唆する。
Naoko Kurokawa (Duke University) コミュニティー参加を取り入れた日本語教育:上級コースにおける実践 目標言語の社会やコミュニティーに参加することは外国語学習の大きなゴールの一つで
あり、授業を通して地域の母語話者と接することはコミュニティー参加への第一歩と言
えるかもしれない。特に上級レベルにおいては日本語能力を卒業後に実際の社会で役立
てることを視野に入れている学習者も多く、各自の興味や専門分野の知識を生かした形
で日本社会と接触する機会を持つことは有益であると思われる。本発表では日本語と学
習者の専門分野の統合を図り、地域の日系組織との関わりを取り入れた上級日本語コー
スの試みを報告する。このコースの期末プロジェクトにおいて学習者は各自の専門分野
に関するテーマで地域の日系企業等の組織を訪問し調査を行った。例えば医者を志し生
物学を専攻している学生は日系の製薬会社の研究者に新薬開発の舞台裏について話を聞
き、政治学が専門の学生は日本語補習校の社会科の教員に日本における民主主義の教育
について意見を聞く、といったように各自が組織の担当と直接連絡を取ってプロジェク
トが進められた。本発表ではプロジェクトを導入した背景や過程について紹介するとと
もに、その効果や課題点などを考察したい。 Hiroko Mishima, Mayu Miyamoto, & Shohko Yanagisawa (Purdue University) Design, development, and operation of a speaking-­‐focused online Japanese course パデュー大学では、第二言語として日本語のクラスがない高校や大学の学生、時間割の
関係上日本語を履修できない学生、日本語を習う機会がない一般人、日本語研修を必要
とする会社員などからのニーズに応えるべく、オンラインでの日本語コースを開発する
ことにした。 一般的にオンラインコースでは、1)非同期的な学習が中心であることが多く、2)
接触時間が限られており、3)適当な技術の欠如から、会話能力の向上は学習者の努力
に任されるケースが多い、そのような理由から、相互的な口頭及び会話練習には適さな
いだろうという認識が持たれている。 このような現状に鑑み、多様な会話場面及びタスクを与えることで、学習者から自然
な発話を引き出すことを目標としたオンラインコースの開発、運用を企画した。Speak Everywhere (SE)というオンラインプログラムを用い、反復練習、質疑応答練習、ロー
ルプレイ等のスピーキングを中心としたタスクを提供し、学習者が個別に口頭練習でき
る機会を設けた。また、このプログラムでは、学習者が自分の声を録音し、それを教師
が確認して、文書や音声でフィードバックを与えることも可能である。 また、初級のオンラインコースを受講した学生及び教師を対象に、学期末にアンケ
ートを行った。アンケート結果では、SE を使った相互的なオンラインコースに対して、
学習者から肯定的な意見が多く見られた。中には、オンラインコースの方が通常の教室
での授業よりも効果的に勉強ができたという回答もあった。さらに、コミュニケーショ
ン量においても、十分なコミュニケーションがあったと感じたという回答が大部分を占
めた。 本発表では、主に Speak Everywhere を用いたオンラインコースの開発、実践報告、学
習者からのアンケート結果について発表する。 Yasuo Shimizu (Doshisha University) 『オリンピック日本語会話』(テキスト)構想
2013 年 9 月 IOC 総会で、東京オリンピック 2020 開催が決まった。外国人が多く来日
することが予想される。そして、それまでに日本人の英会話教育の充実が叫ばれている
が、外国人に日本語教育、日本文化教育を充実させることも必要であろう。本発表にお
いては 1962 年旺文社から刊行された『オリンピック英会話』と観光日本語、日本文化
の教材を下に東京オリンピックに向けた日本語教材について考えてみたい。
東京オリンピック 2020 に訪れる外国人は短期間だけ日本を訪れる人が多いので、日
本語をじっくり勉強する人ではない。ゆえに、日本語教育は、観光日本語でありテキス
トは場面シラバスのテキストになるであろう。テキスト作成に当たって、参考にできる
が、1964 年のオリンピック開催の際に外国人と英語でコミュニケーションできるよう
に作ったテキスト『オリンピック英会話』である。このテキストと既存の観光日本語の
テキストを参考にした『オリンピック日本語会話』のテキスト作成が必要になってくる。
なお、この『オリンピック日本語会話』は、英語を対訳にしたものがベースになる。(中
国語対訳、ハングル語対訳もできれば作成がのぞまれる)ローマ字表記とひらがな、カ
タカナ、簡単な漢字表記が主流になる。
また、『オリンピック日本語会話』はインターネット版でできる可能性があるので、
ネット版の場合だと発音もできるものになる。
なお、今度の東京オリンピックは、『オリンピック英会話』での取り上げている時代、
社会的なものと当てはまらないところが多々ある。このことを考慮に入れて本発表で
『オリンピック日本語会話』に教授項目、内容等の構想について提示したい。
Nobuko Wang (Senshu University) 日本語の促音は一定か? 本発表では、日本語学習者の多くが不得手とする促音の生成についての観察、考察につ
いて報告する。構成は三つの部分を予定しており、まず、促音部分とどのような特徴を
持つのかということを、あらためて音響的観察と、音韻的位置づけで確認する。次に学
習者にとってなぜ促音部分が問題となるのかということを、生成と聴取の両面から論じ
る。さらに、どのような練習が効果的であったかということを述べながら、促音部分を
聴取するために必要だと思われる、促音のバリエーションのモデルを整理する「ウチ・
ソト」の概念に鑑みた観察を報告する。具体的には以下の通りである。
拍の長さには概念的長さと音響的長さがある。概念的長さは、学習者にとっては論理
的には理解できても、弁別的要素として習得するのは容易ではない。学習者の促音の生
成にも着目し、特定の語をその促音部分で中止させるという行動を科したところ、学習
者の多くが促音部分の発音を誤って学習していることが判った。促音は逆行同化により
直後の子音が大きく影響するが、学習者の促音の部分に対する理解はそうではなかった。
そこで、逆行同化の音声を意識的に促し練習させたところ、生成に一定の効果が見られ
た。さらに、生成が成功すると聴取の面にも進歩が見られた。また、聴取については、
通常、談話場面に現れる発音と、朗読・発表場面等に現れる発音等について観察、比較
することが多いが、それをさらに「ウチ・ソト」の意識に照らし合わせる整理を試みた。
学習者が日本語という環境と社会に関わりながら、音声を適切に用いて適合していくと
いうことを目的に置きながら研究してきた一つの経過報告でもある。
Guohe Zheng (Ball State University) Dual Enrollment and Its Impact on Japanese Education Dual enrollment in both high school and college has been proliferating since 1980s. Its results, however, remain controversial. Proponents claim that earning tuition-­‐free college credits in high school saves students time and money and gives them the confidence and momentum to continue on with higher education. Critics, on the other hand, insist that acceleration with younger students compromises rigor and, ultimately, doesn’t do them any good. Meanwhile, unaware of the controversy, students and parents consider dual enrollment a vital factor in course selection in high school. This preference of courses according to the availability of dual enrollment puts foreign language programs, particularly those of less-­‐commonly taught languages such as Japanese, in disadvantage, even in danger of elimination, due to the lack of college sponsors of dual enrollment in these languages. This paper discusses dual enrollment and its impact on Japanese education. The paper begins with a brief history of dual enrollment. Then, it examines dual enrollment from 3 perspectives. First, it looks at it from the state legislature’s perspective. This casts dual enrollment against the bigger picture of the so-­‐called “national completion agenda,” which pushes colleges to strive for higher 4-­‐year graduation rate by connecting this rate with state funding. After that, it analyzes the view of students and parents. To them, money-­‐saving is the primary concern. A calculation table of money saved will make their view perfectly understandable. This is followed by a look at the views of teachers, both high school and college. These teachers share the burden of daily operations of dual enrollment: the textbooks, the pace, supervising, and finally credit-­‐granting, each of which may involve other constraints and complications. Finally, it shares the actual experience of Japanese dual enrollment between my university and 4 high schools in my state. ........................................................................................................................................................................ 2:00 -­‐ 2:30 p.m. Yuka Akiyama (Georgetown University) Task-­‐based Investigation of Learner Perceptions: Affordances of Video-­‐based eTandem Learning (English) This study examines perceived affordances (van Lier, 2004) of eTandem learning, namely a type of telecollaboration where pairs of language learners reciprocally teach and learn each other’s language and culture for the development of foreign language skills and intercultural competence (ICC). The participants in this study were 12 students of English in Japan and 12 students of Japanese in the U.S. who engaged in seven Skype sessions over a semester. The perception data was collected by engaging each dyad in an opinion-­‐sharing task, in which they discussed what would make an ideal language exchange project reflecting on their experience. To investigate how perceived affordances were enacted, longitudinal interaction data in Japanese were analyzed. The analysis of the perception data revealed six features that created potential affordances for the development of language skills and ICC: interaction with same-­‐age peers, computer-­‐mediated interaction, reciprocity, one-­‐on-­‐one interaction, semi-­‐structured language learning, and outside classroom interaction. It was found that eTandem was perceived to afford the expansion of discourse options and increased awareness of sociolinguistic variations. The study also found a potential relationship between increased first language awareness, tutor identity, and increased investment. However, in contrast to participants’ numerous comments on the benefits of eTandem for language learning, not many participants mentioned the potential growth of ICC, indicating that ICC was not perceived to be at the heart of their interaction. The analysis of the actual interaction data revealed that not all the participants managed to utilize potential affordances, nor did they successfully engage in deep intercultural negotiation. In particular, the use of formal vs. casual registers posted a serious challenge to some Japanese learners who had not been trained to go beyond the classroom discourse. Several new research directions as well as challenges that telecollaboration coordinators might face in raising global citizens will be discussed. 2:30 -­‐ 3:00 p.m. Naoko Nemoto (Mount Holyoke College) Wordpress で結ぶ二校間の『相談箱』:日本語での社会参加に向けて (日本語) 本発表は、大学二校の日本語二年生を結んで、行った「相談箱」を紹介し、その成果に
ついて考察する。「相談箱」は、Wordpress を使用してウェブ上で行われ、二校の日本
語二年生一学期目の履修者がニックネームで参加した。日本語二年生のアクティピティ
に「相談投書・回答」を選んだ理由は、例年このクラスは、翌年に日本留学を希望する
学習者が多く、日本語で相談したり自分の相談への回答を理解したりできるようになる
ことが重要だからである。授業では「~たら・~なら」などの条件文を履修することに
なっており、相談とその回答を書くのに適していることもあった。しかしそれ以上に、
学習者たちに他の人の悩みや問題を理解してそれに対してアドバイスをしたり、自分の
問題へのアドバイスを読んでそれに応答したりという、本当に意味のあるコミュニケー
ションを行うことによって、日本語での社会参加に自信をもってほしいというのが一番
の目的であった。本発表では、まず Wordpress を使うことによってクラス外の人たちと
の交流が簡単にできることとその意義について検討する。次に今回の指導方法と学習者
の投稿の成果を考察する。具体的には、13 週間の学期を三つのステージに分け、徐々
に投稿への必須項目を増やすことによって、より詳しい内容が書けるように指導を行っ
た。最後に、学期末に行ったアンケート調査の結果から、ほとんどの学習者が、自分の
相談に対して受け取った回答が本当によいアドバイスであった、または、他の学習者の
ために役に立つことができたと感じていることがわかり、このアクティビティが語学学
習以外の目的も充分に果たすことができたことを紹介する。 3:15-­‐ 3:45 p.m. Shiyo Kaku (University of Pennsylvania) 社会・コミュニティ参加をめざした「読み書き」の活動: 「日本語1年生における多読
授業とリレー物語プロジェクト」(日本語)
近年、日本語教育において「多読」と呼ばれる日本語で書かれた生のテキストを数多く
楽しみながら読むことを目的とした授業活動が広がりを見せ始めている。「多読授業」
が広まり始めた背景には様々な理由が考えられるが、その理由の一つに、教科書の読み
物では味わえない、気楽に活字に触れ、目標言語で純粋に読む楽しさが体験できるとい
う利点が挙げられる。確かに市販の初級日本語教科書の読み物を見てみると、その課で
学習した文法、語葉、漢字を使い、内容の大意をきちんと掴めていることに重点を置い
た読み解かれるべき課題として書かれた読み物が未だ圧倒的に多いことに気づかされる
(高橋、20 1 3) 。こうして述べると、「教科書の読み物=言語重視」、「多読の読み物=
内容重視」として、二項対立的に位置づけられてしまっている印象を与えるが、社会、
コミュニティ参加を目指した日本語教育では、このように言語と内容を分けて考える見
方を再考することが一つのキーポイントとして挙げられている(佐藤、熊谷、2011) 。 本発表では、教科書主体の読み物と多読授業での生のテキスト、それぞれの持つ性質、
利点を活かした「日本語 1 年生リレー物語プロジェクト」と題された初級レベルにおけ
る社会、コミュニティ参加をめざした読み書きの活動についての実践報告を行う。プロ
ジェクトの手順、図書館との連携、実際の作品紹介、プロジェクト後のアンケート結果
を振り返るとともに、学習者が実際に用いられている言語に触れ、クラスメートと自分
の思いや考えを共有し、多様性を確認しながら、実際に目標言語を使って創造的に自分
の属するコミュニティに関わり、貢献する意義について言及したい。 3:45 -­‐ 4:15 p.m. Keiko Ono & Tomoko Shibata (Princeton University) 日本語コミュニティースクールと大学の日本語クラスとの連携 (日本語)
本発表では、発表者の地元にある日本語学校とその近在の大学の日本語クラスとの連携
の試みについて報告する。
この日本語学校は週末だけの補習校であるが、創立当初は大学側も補習校の運営に一
部関わるなど、大学と密接な関係を持っていた。しかし、補習校の校舎移転や規模拡大
などの変化にともない、大学との交流が非常に限られたものになってきており、連携を
深める道を模索していた。一方、大学では、日本語学習活動の一部として、様々なコミ
ュニティへの参加を通して学習者自身の成長を促そうという試みがなされており、日本
語学校との交流の可能性を模索していた。
このような連携活動には様々な困難が予想された。まず、日本語学校側が大学生を受
け入れることができるかが問題だった。日本語学校に開設されている部のうち、カリキ
ュラムに余裕のある JASL コースが候補となり、大学生たちに JASL の授業で担任を補
佐する役割をお願いすることによって、日本語学校も大学生もお互いに実りのある交流
が可能なのではないかと考え、受け入れを決定した。
大学の日本語コースの5名の学生が日本語学校とのプロジェクトに参加した。授業補
助として大学生が子供の学習を手伝うだけでなく、授業の一部を大学生が教えることに
した。準備は補習校の教師の指示で行い、大学の日本語講師が学生にアドバイスをして
進めた。日曜日という日程も問題になったが、一学期中に3回のみ授業参加をすること
にし、大学から提供された送迎バスも使い、参加者の負担を軽減した。
本発表で、この交流を日本語学校側、大学生側両方の視点から考察し、どのような影
響を与えたのか、また今後に向けての改正点などについて説明したい。
........................................................................................................................................................................ 4:30-­‐6:00 p.m. Keynote Speaker Chihiro Kinoshita Thomson (University of New South Wales) 人と人をつなぐ日本語教育 (日本語) 外国語教育の根本的な目的は「人と人とをつなぐ」ことだと思います。新しいことばを
知ることで、今までつながることのできなかった人と人がつながる、その支援をするの
が私たちの仕事です。海外で日本語教育を行う私たちは、学習者を日本とつなげる、あ
るいは、日本人とつなげる方向に向きがちなように思えます。学習者が日本に留学する
よう支援をする、ネット上で日本人とつながるプロジェクトをする、などです。しかし、
日本語は日本にいる日本語話者や日本人とつながるためだけのことばではありません。
海外の学習者には、日本語を使って学習者同士がつながることが大切です。それは、学
習者自身が日本語使用者であることの再認識であり、そして、学習者が日本語を使用し
て参加できる実践の場を増やしていくことで、日本語の実践コミュニティを育てていく
ことでもあるからです。
本発表では、社会文化アプローチの主要概念をいくつか紹介し、それに基づいて、シ
ドニーの大学で行われている「人と人とをつなぐ」実践を紹介します。そこにはコース
デザインを越えた学習環境のデザインが見えてきます。「人と人とをつなぐ」実践を行
うためには私たち自身が自らのおかれた環境、社会とつながり,そこに積極的に参加す
ることが求められています。学習者は、私たちの初期デザインしたコミュニティに参加
することで、その場を実践コミュニティに変容させていくのです。そして、そこには「参
加」という形の「学び」があります。
May 10 (Sunday) ........................................................................................................................................................................ Poster Session B (8:45 -­‐ 9:30 a.m.) Ryoko Hayashi (Kobe University), Chiyo Kunimura (Ecole Universitaire de Management of the University of Rennes 1), and Jumpei Kaneda (National Museum of Ethnology) 「遠隔授業による異文化コミュニケーション能力の変化:CARAP を尺度とした評価の
試み」
本発表では、インターネットを通じた遠隔授業に参加することにより、参加学生らの
異文化コミュニケーション能力がどのように変化したのか、遠隔コミュニケーションに
必要な能力とは何かについて、分析を試みた結果について報告する。題材となったのは、
フランス在住の日本語学習者(10 名)と日本の大学生(15 名)の間で行われた遠隔授
業である。参加者は、2 名~3 名のグループをつくり、日仏文化比較に関する動画作品
を作成するという課題を与えられ、日本語を主な媒介言語としてSNSや skype 等を通
じて意見交換、動画素材の共有などを行なって、作品を共同制作した。 異文化間コミュニケーション能力の変化については、欧州評議会による Pluralistic approaches for languages and cultures のリソースとして公刊されている CARAP
(Compétences et ressources)の記述文を利用して調査を行なった。CARAP は、様々な
言語・文化学習レベルを対象とした、知識(K)、技能(S)、態度(A)の 3 群の総計
およそ 500 個という膨大な項目から成るため、教育の現場で用いることが容易ではなか
った。そこで、日本語版を試作し、遠隔授業の日本人学生参加者 13 名に、遠隔授業に
おける共同作業の経験を通して、①異文化コミュニケーションの指標として重要と思う
項目を選んでもらい、また②それぞれの項目に自分があてはまるかについて評価すると
いう作業を行なった。①の作業で、上位に挙げられた項目からは、音声言語に対する意
識、言語運用での自信、他者に頼るコミュニケーションストラテジー、学習経験に対す
る反省が重要視されていることが分かった。①②の回答から上位に上がった項目を抽出
することで、CARAP が異文化コミュニケーション能力を測る尺度として使用できる可
能性が示された。 Midori Inagaki (Waseda University) 社会参加を目指す在留邦人の母親たちの複言語育児:在アイルランドの在留邦人たちの
ライフストーリーから
グローバルな人口移動が進む昨今,海外に居住する在留邦人は増加し,なかでも女性の海
外進出はめざましい。母親を日本人として海外で出生する子どもの数も増加し、これら
の子ども達への日本語教育は従来「継承日本語教育」と呼ばれ,その在り方が世界各地
で議論されている。本発表では海外の「継承日本語教育」の主たる担い手である日本人
の母親達を,自らの意思で移動を繰り返す主体的な移動者,「移動する女性」
(賽漢 2014)
とみる視点に則り,彼女たちが自らの人生における異文化・異言語との出会いの経験と
記憶をどのように意味づけ,複数言語環境で成長する子どもの育児に反映させていくか
を明らかにする。研究の視座として、国外に定住する日本人女性を社会的行為者
(social actor)と捉え,彼女らが自らの言語習得と異文化体験の軌跡を振り返りつつ,
現地における様々なコミュニティに子どもとともに社会参加していく子育ての過程を,
日本語を含む複数言語での育児、複数言語での教育戦略という意味で「複言語育児」と
いう概念によって捉える。
具体的な事例として,筆者が長年日本語教育に携わったアイルランド共和国在住の国際
結婚をした日本人女性のライフストーリーインタビューを取り上げる。調査協力者は
30 代~40 代で,いずれも 1990 年代~2000 年代にアイルランドに移住した。生き方も渡
航理由も様々であるが,成人後に自分の意思でアイルランドへ移住した点が共通してい
る。本発表は,それら母親達の日本語を含む「複言語育児」の在り様を,欧州の複言語・
複文化主義の言語教育政策が展開するアイルランドの様々なコミュニティへの社会参加
の過程として記述する。
Yuko Kojima (University of Wisconsin, Milwaukee) 個人差に対応する自律型学習コースの導入とその変化:日本語能力試験対策のオンライ
ンコースを通して
90 年代半ばに起きたパラダイムシフトにより、構成主義的教育観が導入され、協働学
習、自律学習といったキーワードをもとに、学習者を主体とした教育実践が多く行われ
るようになった(池田・舘岡 2007、齋藤・松下 2004)。また、同じ学習者グループ内
における学習者の個人差が注目されようになり(林 2006)、教師の役割が知識を伝達す
る者から、学習者の主体性・自律性を生かしつつ、学習法を見出す手助けをする者へと
変化した(佐々木 2007)。
発表者はオンラインの日本語能力試験対策コースを担当しているが、学習歴も受験レベ
ルも異なる学習者が集まっている。以前は文法説明の資料や練習問題を与える形を取っ
ていたが、レベルの選択はできたものの、どのような段階にいる学習者も同じ練習問題
をしなければならず、個人差に対応することができなかった。
そこで、2014 年度では始めに学習者が自己分析を行い、それぞれが教材選択、学習計
画を行い、試行錯誤を繰り返しながら自律学習を実行していく形へと変更した。そうす
ることで、まだ言語知識を積み上げていく段階の学習者や読解や聴解といった応用練習
を必要とする学習者など、個々のニーズに対応したコースが実現できた。また、教師は
学習日誌を通して、学習のプロセスを見ることができ、より的確な支援を行うことがで
きた。
前年と比較すると、70%弱に留まった受験率が 100%に上がり、当初受験に消極的であ
った学習者も能力試験に挑むことができた。また、一学期の学習を振り返る期末レポー
トにおいて、前年では日本語学習に対する記述に留まったが、今年度では学習全般につ
いての記述も見られるなど、より広い視野での内省をしていることがわかった。
Yasuko Matsumoto (Harvard University) NHK『プロフェッショナル 仕事の流儀』を使った上級コースミニプロジェクトの実践
報告
当校上級コース(4年生)では二年前からミニプロジェクトと称し、秋学期の半ばに『プ
ロフェッショナル・仕事の流儀』というテレビ番組を使ったプロジェクトを行なってい
る。 このプロジェクトを始めたきっかけは、上級レベルで必要とされている経験や伝達を
まとめる能力を身につけるのに役立つと考えたからであるが、通常の授業で扱っている
読みものと違い、学生たちがより積極的に学習に取り組めるよう、題材選びに選択の幅
を与えられると思ったからでもある。さらに、日本語という枠に取らわれず、学生たち
に卒業後の進路について考える機会を作ることが出来るのではないかと考えた。 プロジェクトでは、まず学生たちに好きなプロフェショナルを選ばせ、一時間程の動
画(聴解)か、それを約10ページ程にまとめてある記事(読解)かの選択を与えると
いう形式をとった。学生はまず内容をまとめ、自分の意見を加えた作文を提出。その作
文をもとにした口頭発表をし、その後に質疑応答を行なった。 この発表では上級コースのカリキュラムの中に、どのようにこのプロジェクトを 取り入れたか、そして、プロジェクトの詳細を紹介し、最後に口頭発表後に行なったア
ンケート調査を通して、プロジェクトの効果を検証し、今後の課題を考察する。 Itsuko Nishikawa (University of Washington) 初級日本語コースにおける作文指導--文章の結束力に着目して
初級日本語コースにおける作文課題は、既習の単語や文法を組み合わせてある程度の長
さの文章を書くことが目的である場合が多い。そのため、既習の文法事項や接続詞を提
示し、それらをできるだけ多く使うことを奨励するという指導方法が一般的であるよう
だ。だがその結果、学生は文法事項を数多く使うことに気を取られ、単なる文の羅列の
ようなものになったり、事実関係が把握しにくい飛躍した文章になったりしてしまうこ
とがよくある。
このような作文に対しては、きめこまやかなフィードバックを個々に与えれば問題は解
決する。しかしながら、大人数のレクチャーと少人数のドリルセクションに分けてコー
スが運営される、大きな大学の初級レベルのクラスでは教師一人当たりの学生数が多く、
それが難しい。また、フィードバックは TA を含むドリルセクションの担当者にまかさ
れるため、フィードバックの質も担当者に左右されてしまう。そこで考えなければなら
ないのは、教師のフィードバックに頼らずに、効率的にできる作文指導である。
筆者は、教師の負担を減らしつつ、まとまった文章を書かせるために、文章の結束力に
着目した指導を試みた。結束力を高めるために必要なのは接続詞だけではない。文章の
結束は、助詞や指示語、名詞などの語葉にもよる。また、結束力の高い作文は、一つの
作文として一貫性があるものになった。この発表では、どのようにフィードバックをか
ける時間を減らし、且つ、質の高い作文を書かせるための指導について述べたい。
Sumiko Nishizawa (Kwantlen Polytechnic University) & Miki Niiyama (Kurume University) スカイプを利用した日加異文化交流
大学教育でのグローバル人材育成が重要課題となって来ているが、グローバル人材に必
要な言語力とはなんだろうか。言語の知識や習得はもちろんのこと その言語の背景に
なる文化を理解し その言語を通して社会の中でどのように異文化の人々とつながって
いけるのかが重要であろう。「社会参加をめざす日本語教育」を目標として、こうした
学習活動を外国で言語を学ぶ学生にも経験させることができないか、ターゲット言語を
使って自分の考えていることを伝え合い人間関係を構築していく機会を与えられないか、
実際に教室以外で 学習している言語を使う機会が稀な学生に Skype を使ってそれを経
験させる機会を与えたいと考えた。グローバル人材となるための学習過程として、1)自
己の文化を振り返り考えること、2) 他者の文化について知りたいこと、疑問に思って
いることを考え相手に伝えること、3) お互いの考えていることを話し合いによって共
有し振り返り理解することができるようになること、の 3 つのポイントを基に授業を考
えた。 この研究は、過去2年間にわたりカナダの大学で中級日本語を学ぶ学生と、日
本の大学で英語を専門に学ぶ学生とのスカイプを利用した日本語と英語での交流の実践
例に基づくものである。スカイプは、言語学習にも広く利用されその有効性は誰でも周
知しているが、どのように利用すればそれが最大限活用できるのか、スカイプでコミュ
ニケーションの力をどのように伸ばしていけるのかなど、これからの課題は多い。また、
この機会にリサーチの方法論、デザイン、分析の仕方など 皆様のフィードバックを頂
き研究を深めていきたいと考えている。
Reiko Sono (University of Massachusetts, Amherst) A Case Study of Team-­‐Based Learning in a Content-­‐Based Japanese Course 近年、大学において注目を集めている指導方法の一つに、Team-Based Learning があ
る。TBL は学生中心の授業形態で、学生は数人ずつのチームに分けられ、学期中同じ
チームの中で課題をこなしていく。基本的知識の学習は各自が事前に行うこととし、ク
ラスでは学習してきた内容の確認テストを、まずは個人で、次にチームごとで行う。そ
の後、応用課題をチームで解決していく。この授業形態は学生の参加を強く促すため学
習効果は概ね高い。
TBL は主に自然科学の分野で広まりつつあるが、導入の仕方次第では言語の授業でも
活用し得る。ここでは日本語中上級学習者を対象としたコンテントベース(CBI)のコー
スで TBL を用いたケースを紹介する。CBI の授業を TBL で行うことの利点には次の二
つがある。まず、内容の理解が促進される。TBL では各メンバーにチームへの貢献が
求められるため、事前の学習、教室内での作業共に学生の参加度が高く、結果として学
習内容の理解が講義形式の授業に比べ深まる傾向にある。言語の学習という面では、効
果的な会話練習の機会が多くなるという利点がある。アメリカでは必然的に日本語を話
す場が限られるが、授業の大半をチーム作業にあてることで会話練習の時間を大幅にふ
やすことができる。のみならず、学生はずっと同じチームに属すため、発言に対する不
安が抑えられて会話練習の効果が高まることが期待される。難点は、インプットやフィ
ードバックが主に学生から与えられることであるが、前者については事前学習のための
オンライン教材に聴覚教材を必ず含めることで対処する。学生同士のフィードバックの
効果については検討を要する。
........................................................................................................................................................................ 9:30 -­‐ 10:00 a.m. Yoko Sakurai (Japan Foundation New York) 初級から中級に向かうレベルの会話練習の実践と一考察 (日本語) 日本語学習者の会話能力を評価する際、正確さや流暢さは勿論、近年では結束性や構成
能力、話題の展開等も重要な要素として認識されている。また、北村・河合(2013) は
いわゆる「上手な会話」であると認められ得る条件について、複数の日本語教師の意見
をまとめ、その中で、会話を持続させるストラテジーの駆使や、相手の意向の確認・相
手の会話参加への働きかけ等の配慮、会話の進行や発展に貢献できる能力などを挙げて、
これらを指導する有用性を提唱している。こうした示唆に基づき、本研究では CEFR A2
レベル(ACTFL Proficiency Guideline の中級・下にほぼ相当)の成人学習者を対象に、1 学
期間、通常授業の 15 分程度の時間を使って様々な側面を念頭においた包括的な会話指
導・練習を行った。具体的な内容には、単文から複文への発展方法、適切なあいづちや
コメントの入れ方、会話の効果的な発展のさせ方等が含まれる。そしてこれらの要素を
統合して運用する能力を高める目的で、2 週に 1 度の頻度で少人数グループでのトピッ
ク会話を行い実践練習の場とした。コース中及びコース後の評価の一つには CEFR/JF ス
タンダードの Can-­‐do Statements による自己評価を用いた。これにより、学習者が会話
力の向上を実感したり、自己の課題を意識化することが可能になったと考えられる。さ
らに、会話力の要素の中で学習者が特に重要視する項目も見えてくる結果となった。本
発表では、学習者のコース前後の言語使用と自己評価を分析・考察し、クラス肉で短時
間かつ継続的に行える会話練習の可能性と今後の課題について述べたい。 10:00 -­‐ 10:30 a.m. Shinji Shimoura (Purdue University) 日本語オンラインコースにおける口頭能力の育成と学習者によるコース評価(日本語) 近年、外国語プログラムにおいてもオンライン教育への移行が進んでいる。とくに初中
級の外国語コースでは、履修者を増やすため、そして学習者に多様な選択肢を与えるた
めに多くのオンラインコースが開講されている。初中級の外国語コースにおいて重要と
される口頭能力の扱いについて、学習者による自習が中心の従来型オンラインコースに
おいては、口頭練習も自習に頼るところが大きく、教室で行われているインタラクティ
ブな練習をオンラインでも可能にし、いかに学習者のコミュニケーション能力を高める
のかという課題があった。この課題を解決するために Speak Everywhere を活用し、学
習者が基礎的な口頭練習からインタラクティブな会話練習まで行える自習プログラムを
考案した。この自習プログラムと学生二人、教師一人のオンラインリアルタイムセッシ
ョンを通して、オンラインコースにおいても効果的に口頭能力を養成できるようコース
をデザインした。本研究では、オンラインコースと対面式コースの受講者の口頭能力試
験を客観的指標を用いて比較する実験を行った。これまでにも、数多くの先行研究がオ
ンラインコースと対面式授業の比較を行っているが、口頭能力の比較を行っているもの
は少ない。また、今回対象としたオンラインコース受講者にアンケートを行い、学習者
のオンラインコースにおける言語学習についての考えや実際にコースを取った感想を尋
ねた。本発表では、口頭能力を高めるための学習の成果とオンラインコースに対する学
習者の評価と反応を報告する。そして、その結果から見えてくる課題について言及し、
オンラインコースの効果を考察したい。 10: 30-­‐ 11:00 a.m. Hisashi Noda (National Institute for Japanese Language and Linguistics, Japan), Ayako Sakaue (Osaka University), & Eiji Nakayama (Osaka Sangyo University) 中級学習者が雑談に参加するときの聴解の問題点 (日本語) 【発表の目的】 日本語学習者が雑談に参加するときには,日本語を話す能力以上に相手の日本語を聞い
て理解する能力が必要になる。この発表では,学習者が母語話者と日本語で雑談をする
ときに,相手の発話のどんな部分をどのように不適切に理解するかを,次のような調査
によって明らかにする。 【調査方法】 調査は,日本語学習者に日本語母語話者と自由に雑談をしてもらった後,学習者にその
映像を見せて,学習者が相手の発話をどう理解したかを自分の母語で話してもらう方法
で行った。調査に協力してもらったのは,中級日本語学習者 20 名である。 【結果と考察】 調査の結果,中級学習者は雑談の聴解について,たとえば次のような問題点があること
が明らかになった。 (1) 使われている語句が難しくない発話でも,省略が多いといった話しことば特有
の表現は聞きとれず,相手の発話をまったく違う意味に理解していることがある。 (2) 学習者は自分の既有知識やそのときの談話展開に合わせて相手の発話内容を推
測するが,その推測が不適切で,相手の発話をまったく違う意味に理解していることが
ある。 (3) 表面的には会話がうまく進んでいるように見えても,実際には学習者が相手の
発話をまったく違う意味に理解していることがある。 (1)の例を挙げると,「ルーブルは本当に広くて,いつ出口なんだろう。どこが出口か,
わからない」という相手の発話に対して,学習者は「いつ」を「五つ」だと思い,「五
つも出口があるのに,わからない」という意味だと理解した。 今後,調査で明らかになった「雑談に参加するときの聴解の問題点」をもとに,雑談が
うまくできるようになるための教育を考えていく必要がある。 ........................................................................................................................................................................ 11: 15-­‐ 12:45 a.m. Keynote Speaker Seiichi Makino (Princeton University) 日本文学は日本語・日本文化習得にどのように役に立つか (日本語) 日本語・日本文化学習にどうして文学を使うのか。文学を読むことが日本語・日本文化
学習にどのように役に立つのか。文学を読む能力をどうやって測るのか。こうした問題
を多角的に参加者といっしょに考えたいと思う。 文学と言っても幅広い領域であるが、私が今まで日本語教育で使ってきたものは主と
して、俳句、短歌、詩のような韻文、小説(短編)、アニメ絵本などである。では、ど
うして文学なのか。文学には無論思想性があるが、なんといっても文学は読んでその創
造性と想像性を楽しめる。最近は外国語教育の中で「批判的思考」に主力が置かれて、
すばらしい教育法が出ているが、私は「批判的思考」と相補的な関係にある「創造的・
想像的思考」を育てることも外国語教育では必須だと考える。さらに、文学は言語文化
(=言語)だけではなく非言語文化(=文化)の学習にも豊かな材料を提供してくれる。
実際に文学を読むにも、速読、精読、多読などさまざまな方法があるが、言語の部分を
どう教えるのか。精読で行う文体教育はどうすべきなのか。読むことだけでなく学習者
にも文学を創らせるべきか。日本語教育ではどのレベルで文学を教え始めるべきか。文
学を読む能力基準をどうたてるべきか。(→アメリカ外国語協会 (American Council on the Teaching of Foreign Languages ) の読みのプロフィシェンシーの基準))日本語作家
を生むような指導はできないのか。さらに、日本の文学の翻訳をさせるべきか。させる
なら、どのような方法がよいのか。等々の問題について話し合いたい。最後に村上春樹
の短編『螢』([注意] この作品を参加者は学会の日までに読んでおいていただきたい。)
を実例に使って、参加者のみなさんに活発に参加していただき、具体的に日本語と日本
文化を教える方法を模索したい。